―平原南部・・・から西の小山―
夏焔が配置した伏兵の更に外側、戦場を一望出来る小高い山に袁紹軍の沮授は部下数名を連れて陣取っていた。本来潘鳳と共に進軍すべきであった沮授がここにいるには理由がある。
「良かったんでしょうか・・・・」
となりにいるのは袁紹軍の二枚看板である武将、顔良。
「構わない、自分一人で十分と豪語したのは潘鳳殿だ・・・・それに事を構えるにしても実力を知らねばなるまい」
独力で立てず手を結ぶような柔な連中の相手など自分がいれば十分、頭でっかちと小娘は引っ込んでいろ。潘鳳にそう言われた沮授と顔良は敢えてその言葉に従い戦場を離れ、こうやって見学することにしたのだ。
「明らかに本陣が少ないですよね、伏兵ですか?」
「恐らくな、しかもこれは・・・・」
「あっ・・・・沮授様!アレ!!」
僅か三千ながら沮授が連れて戻った三万を除く五万を地形を上手く活かし罠を張り押し返す夏焔の隊。隊列をボロボロに崩されて成す術なく退がり始めた潘鳳の軍に二千弱の部隊が左右から襲いかかる。
「うわ・・・・更に崩されていきますね・・・・」
最初の二部隊は雪蓮と霞だ、血気盛んな二将を初撃とする。
「あれだけでは、あるまいよ」
「え?」
更に眼下で二部隊が突撃する。忠実に仕事をこなす紫炎と李通。
「うわ・・・・伏兵四枚」
「で、済めば御の字だな」
更に四枚、星、思春、王双、韓徳が果敢に襲いかかる。
「ちょっ・・・・」
「で、私ならばもう二枚だが・・・・やはりか」
止めと言わんばかりに隼と梓が蓋をして完全に包囲されていく。
「・・・・これは・・・・」
「約二万、と言うところか・・・・少数の本隊を囮に相手を釣り出し残る全兵で伏兵、包囲殲滅と・・・・この策を思いつく方も思いつくほうだが実行する方も実行する方だ」
「それは馬鹿にしてるんですか?」
「いや、褒めている・・・・」
そして沮授の胸には一つの思いが到来している。今現在、袁紹軍に軍師はいるが策が取り入れられることは少ない。袁紹が恥知らずに王道とやらを基準とし正々堂々とか言いながら真っ向からの攻め以外を下策と断じてしまうからだ。
軍師の存在は希薄なものになってしまっている、対して目の前の晋軍はどうだろう?奇抜な策を是とすれば直ぐに実行し、それが可能なだけの人材がいる。
臣下としては袁紹に従う他無い、だが軍師としての自分はどうなんだろう?
「・・・・俺は・・・・」
戦ってみたい、己が知の全てを尽くして、精兵を操り、将に指示を飛ばし、あのような強敵と・・・・
「顔良」
「はい?」
「すまないが・・・・少し、手伝ってくれ」
そう言いながら沮授が身を翻した頃、潘鳳は討ち取られていた・・・・
―同刻・戦場―
霞が袁紹軍の将、潘鳳を討ち取ったと言う報せを受けた時・・・・夏焔は西の方にそびえ立つ小山へと視線を向けていた。
「・・・・曹洪様、あちらに・・・・何か?」
傍らに控えていた呂虔が首を傾げ問いかけてきた。
「いや、なんでも無い」
嘘だ、感じ取ったのは視線だ。熱い、こちらを射抜いてくるような視線、ただ不思議と敵意と言う敵意では無い・・・・むしろ、敬意、そしてその後に熱意。
「・・・・王双と韓徳、李通に一万五千を預けこの周囲に駐屯。哨戒と警戒をさせる」
「はっ!!」
「良し、帰還する!!」
「ちょっと!!」
「待って貰おうか!!」
帰還の命令を下した直後に夏焔のところまで駆け込んできて待ったをかけたのは雪蓮と霞だ。
「どうした」
「いやー、ほら・・・・こっから戻ったら多分直ぐにまたバラバラでしょ?それぞれの任地とかあるだろうし夏焔も対袁紹戦線に行かなきゃだし」
「まぁそうなるな」
「せやったらこの面子揃っとるうちにちょーっと飲まへんかなーって」
「・・・・隼、どうだろうか?」
軍師の隼へと問いかけてみる。
「宜しいかと、兵士の士気高揚にも繋がります」
「梓」
「は、はいっ!私も隼様と同意見です、戦後の慢心は時に致命傷を招きますが今はとにもかくにも敵性勢力に囲まれてる現状ですっ!長きを戦うためにも一時の生き抜きも肝要と思われます!」
隼の回答は矢張りと言うべきか簡潔に、結論だけを述べた。そして新人である梓は理論立てて来た、しかし正論である。
「よし、ならば直ぐに夜営と宴会の準備を!!明日朝一で帰還する事を考え飲みすぎないように通達しろ!!」
『御意!!』
―夜―
皆が酒に浸り、兵士たちのほとんどが眠りについた頃、一人酔いつぶれないまま手酌で飲んでいた夏焔。
「・・・・石岐か」
「はっ」
何時ものように、音もなく現れた黒子のような石岐。
「各方面の状況を」
「はい」
先ず伝えられたのは冬莉ら公孫賛への援軍が無事に到着した事、続いて隗らが無事に西涼軍の協力を取り付け共に漢中、益州軍の牽制に移った事。そして荊州の騒乱、煉次が劉表の娘劉埼に請われ援軍を請け負った事とそれに一刀、真桜、遊里からなる援軍が合流し共に行軍中であると。
「成程、ならば冥琳は動かんな」
煉次が一刀らの援軍と合流し十分な兵力を確保したならば冥琳ら荊州方面の本隊が無理に動く必要は無い、側面を脅かすと同時に揚州方面の部隊の側面援護を同時にこなすぐらいは簡単にしてみせるだろう。
「揚州方面軍の様子は?」
「はっ・・・・なにやら動いているのは分かるのですが・・・・ハッキリとした情報は掴めず」
揚州方面軍の軍師は桂花だったはずだ、しかしそこまでの情報統制を敷けるのは想定外、ならば相応に策も用意しているはずだ。
「分った・・・・石岐、荊州に飛んでくれ」
「・・・・あちらが動く、と?」
「今情報の力が欲しいのは別動軍と化した煉次だ、力を貸してやってくれ」
「御意」
音もなく、影に溶け込むように消えた石岐。
「・・・・俺も、だな」
まだ足らない、次は袁紹を叩かねばならない。そのための策、そのことを頭に思い浮かべながら・・・・ゆっくりと盃へと酒を注いでいく・・・・
いやいや更新が遅くなってしまいました(^_^;)
新しくもう一本作品書いてみよーかなー?なんて事を考えてしまっているうちに気がつけば二週間が経過・・・・やっべ(ーー;)と思って途中まで書き進めていたのを急ぎで完成させ投稿した次第です。
さてさて、次回は煉次と袁紹軍の沮授にスポット当ててみたいと思いますヨ。