魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第二話 一刀初陣、猫耳軍師登場

―陳留城―練兵場

夏焔が一刀を鍛え始めて一週間ほどが経った、当初は若干の不安もあったものの予想以上に一刀の飲み込みが良く、基礎がそれなりに作られていたためか既に一般兵のそれを越え相応の実力を身に付けつつある。

 

「良いか、戦場にあって戦う時は常に全方位に気を配れ・・・・春蘭のように野生の勘で探りながら戦ってもいいんだがあれは特殊だ」

「うん、見てて分かるよ」

「だから今は仲間の兵士たちとの連携を大切にしろ、特にお前は兵士たちに馴染むのが早かったからその分連携は取り易いだろう」

 

不思議な事だと思う、異国から来たはずの一刀、兵士たちに馴染むだろうかと心配したのだがそれは杞憂だった。

華琳のそれとは真逆とも言える魅力を備えていた一刀はあっという間に兵士たちと仲良くなり、更に街の人々からも親しまれているようだ。

今は警備隊の隊長をやらせているのだがそれ故か中々に成果を上げている、更にあちらの国で得た知識だろうか時折こちらの予想の上を行く意見を出して見せ皆を驚かせる事もある。

 

「ああ、こちらにいたんですね二人共」

 

聞こえてきたのは景の声、それに反応して二人が振り向く。

 

「華琳姉様がお呼びですよ」

 

何かあるな、と思いつつ一刀を従え華琳の下へと向かう事にした。

 

―陳留城―太守府

 

「で?」

「小規模だけれども賊が出たらしいわ、そこで私と春蘭、秋蘭、貴方と一刀で討伐に出るわ」

 

恐らく一刀を連れて行くのは戦場の空気を見せるのとこれまでの鍛錬の成果を見るためだろう。

 

「留守居は」

「煉次と円楽、隗に隼と景がいるならば十分でしょう?」

「まぁ・・・・そうか」

「兵糧の手配をお願いするわ、と言っても既に担当官に準備はさせてあるから確認だけして頂戴」

「量は」

「往復で五日分よ」

「分った、一刀は練兵場に戻って俺の兵士に出陣の旨を話しておけ」

 

「分った」と返事をして駆けて行く一刀。

 

「で?どうかしら?」

「十分行けるだろう、俺らも、一刀も」

「そう」

 

聞きたいことはそれだけだ、とハッキリ感じ取れたので兵糧庫へと向かって歩き出す。

 

―陳留城―兵糧庫

華琳に頼まれた兵糧の確認、に来たのだが・・・・手元の書類と分量が明らかに五日分では無い、三日分しか無い。

 

「お前、名前は」

「荀彧、と申します曹洪将軍」

「言いたいことと聞きたい事は分かるか?」

「何故五日分用意していないのか、理由があるなら述べよ・・・・でしょうか」

 

不敵にも笑みを浮かべて語る目の前の猫耳をもしたかぶりもの(?をした)少女―荀彧、にわずかながら興味が沸いた。

 

「その通りだ」

「では単純に申し上げれば・・・・今の曹操軍であるならばこの量で十分と感じたからです」

 

確かに、本来陳留の精鋭部隊ならば日帰りで討伐出来る賊だし新兵でも十分三日で討伐出来る・・・・あくまで余裕を見ての五日という提示だった訳だが、一介の兵糧庫管理の文官にそこまで読める訳が無い。

 

「提示された分量を用意しなかった、この状況で討伐に赴いて量が足りなかった場合処分を受ける・・・・その覚悟はあるんだな?」

「はい」

 

力強い眼だ、そして一つ思い出した。隗の妹が数日前に仕官したというが・・・・同じ荀姓であるからして彼女なのだろう、並の人物ならば兄の名や家の名を使って安全を確保しつつ意見を述べるのだろうが目の前の少女は兄の名も荀家の名も使わずに己の意見を述べて見せた。

 

「・・・・今回の遠征、お前も来い」

「無論」

 

迷い無く随行する事に応諾してみせた、これも評価すべき事だ。

 

―陳留城―東門

先刻までのやり取りを華琳に説明する夏焔。

 

「というわけだ、俺の独断も過分に含まれるから何かあれば俺も責任をとるつもりだ」

「貴方がそこまで言うのならばその子の言うとおりにしてみましょう」

「了解、というわけだ荀彧・・・・まぁ取り敢えずは俺の部隊についておけ」

「はい」

 

ペコリ、と一礼する荀彧。

 

「っつーわけだ、今回うちは援護に回るぜ」

「まぁ妥当なところね」

「ふん!私がいるのだから安心して遊軍を勤めるがいい!!」

 

腰に手を当ててふんぞり返る春蘭。

 

「秋蘭、ちゃんと手綱握っておけよ」

「当然だ、それが私の仕事だからな」

 

仕方あるまい、と微笑みながら言う秋蘭。

 

―出発翌日―陳留南部の山岳地帯―

今現在、曹操軍の戦闘を切るのは二人の将だ。一人は春蘭、そしてもう一人その傍らに付きそう少女、名を許褚―季衣(きい)と言う。半日程前に出会ったばかりの少女だ。

最初は敵意を持って襲いかかってきた、どうやら前領主の悪政のツケがここに出たらしく季衣はまた領主の軍が税を強制徴収しようとしてきたものだと勘違いしていたようなのだ。

春蘭と打ち合っている最中、現れた華琳がその戦いに待ったをかけ土下座までして謝った事で誤解は解け更に非礼の侘びとして道案内を買って出てくれたのだ。

 

「荀彧、お前の意見を聞きたい」

 

馬上で体を揺らしつつ、振り向くことは無く夏焔は荀彧に声をかける。

 

「何を」

「賊との遭遇予測」

「・・・・あと半刻程で遭遇する予測です、討伐に二刻、帰還に一日半という予測でした」

「なら・・・・」

 

鞍にかけていた大刀へと手を伸ばす。

 

「実戦を経験して予測をもっと繊細にしろ」

『へ?』

 

首をかしげたのは荀彧だけではない、一刀もだ。

 

「緊急防御体勢!!!右から敵襲だぁ!!!」

 

夏焔の叫び声に付き従っていた曹洪兵が一斉に右へと向き直って槍を構える、と森の中から賊の一軍が現れる。

 

「そんな!?」

「当たり前だ、賊だってバカじゃねぇ・・・・テメェらの根城が襲われそうなら先手をとるぐらいはするだろうよ・・・・規模は500か、ってことはここに集中させて本隊襲撃、かな・・・・呂虔!本隊へ『応戦体勢を取れ』と伝令しろ!!」

「御意!」

「王忠!五十人で荀彧と一刀を護れ!」

「承知!」

 

流動的に動き始める曹洪兵三百名、そのうち50名に囲まれて後退する荀彧と一刀。

 

「無理に組合わず槍で距離を保ちつつ確実に仕留めろ!!力量はこちらが上だが慢心せず二対一の状況を作り出しながら押し返せ!!」

 

指示を出しながらゆっくりと馬を進める、と500の兵の先頭には将らしき男が一人。

 

「あれが将、か・・・・」

 

その姿をはっきりと認識すれば馬を一気に飛ばす。

 

「賊の将よ!!語るな!ただ・・・・」

 

相手もこちらに気づいた、が・・・・その時には既にすれ違っている。

 

「その首だけを置いて行け」

 

ぐらりと体が揺らぎ、倒れ付す賊の将。

 

『うわぁああああああ!!!孫仲様が討たれたぁああああ!!!』

『駄目だ!!逃げろぉおおおお!!!』

 

散り散りに逃げていく賊たち。

 

「追うな、無理におえば手痛い反撃を受けるぞ」

 

一瞬、追撃に出ようとしていた兵士たちを窘め通常陣形へと移行させる。

 

「一つ、良いですか?」

 

せわしなく兵士たちが陣形を戻しているさなかに近づいてきた荀彧。

 

「どうして、襲撃に気づけたのですか?」

「・・・・鳥だよ」

「鳥?どういう事だ?」

 

一刀も話に加わってくる。

 

「人の気配、殊更殺気に森の動物たちは敏感だ・・・・襲撃の少し前に鳥がそれなりの数、一気に飛び立つのが見えたからな・・・・それであたりをつけた」

「それはまた・・・・」

「・・・・」

「一刀、荀彧、覚えておけ・・・・戦とは眼で見て耳で聞き肌で感じるものだ、机上の兵法なんか無意味ーなんてどこぞのデコっぱちみたいな事は言わないが実戦と机上、両方を併せてこそ将足り得ると心得ろ」

 

荀彧と一刀は理解する、まさしく目の前の人物は『将軍』なんだろうと。

 

『将軍カッコイーっすね!』

『よっ色男!!』

『すけこましぃ!!』

「今すけこましっつったの誰だぁ!!!」

 

大刀を振り上げて兵士たちを追い掛け回す夏焔。

 

『ぎゃー!!将軍が切れたぁ!!』

『おっとなげねぇえええ!!』

 

そんな光景を唖然として見る一刀。

 

「な、なぁ・・・・荀い・・・・」

「・・・・素敵」

「へ!?」

 

思わず荀彧の顔を見た一刀、荀彧の表情は明らかに恋する乙女の顔になっている。

 

「・・・・そうか、これがフラグか」

 

後に、自分が歩く旗製造機などと呼ばれる事を全く知らない一刀は一人、そう呟いたのだ。

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