魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第五話 再会、新たなる出会い

―陳留南部―

陳留を出立した遠征軍、出陣の時にやや揉めたものの(主に春蘭と隗が)それ以降は賊との遭遇も無く後少しで許昌との境というところまで進んできていた。

 

「賊、ここら辺にはいないのかな」

「そうね、領内にはいないのかしら」

 

轡を並べる一刀と桂花が周囲を見ながら呟く、この二人当初は仲が悪そうに見えたが何かお互いに共感出来るところがあったらしく今では共に鍛錬と勉学をこなし一刀が鍛錬を、桂花が勉学をそれぞれ教え合いながら良き好敵手として研鑽しあっている。

 

「油断はするな」

 

基本、賊に兵法などは関係無い、となると常に無軌道で常道は無し、気を抜けない状況ではあるのだ。

 

「まぁ良いじゃない」

 

後方から名馬絶影に跨り華琳が追い縋ってくる。

 

「どうした、わざわざ中軍を離れて」

「今斥候が戻ってきたわ、この先の中牟城で義勇兵らしき一団が囲まれているらしいわ」

「・・・・助けるんだな」

「ええ、貴方の500で東と北をお願い。南は攻められていないらしいから西を私と季衣でなんとかするわ」

 

ふぅ、とため息をつけば息を大きく吸い込んで。

 

「全軍聞け!!!」

 

夏焔の掛け声に1200の兵全員がピシッと居住まいを正す。

 

「この先の小城にて義勇兵の一団が賊に囲まれている!我々はその援護、及び救援に向かう・・・・出征後最初の戦だ、初めての者もいるだろう・・・・だが怯えるな!!諸君がこれまで積んだ鍛錬を思い出せ!!臆せば死すぞ!!!勝って隣人を護り故郷の家族の下へと帰るのだ・・・・全軍・・・・進め!!!」

『応!!!』

 

殆どが歩兵で構成される一軍ではあるがその速度が自然と上がり始める。

 

「良し、一刀!俺に付いてこい、桂花は華琳の補佐に付きつつ間断なく情報を流してくれ!」

「わ、分った!!」

「御意!!」

 

華琳の下へと馬を走らせる桂花を見送れば一刀へと振り向く。

 

「行くぞ、一刀・・・・死ぬなよ?」

「俺の師匠は死ぬような鍛え方したのか?」

「・・・・してないな、なら行くぞ!!」

「応!」

 

曹洪隊は騎馬のみの500、駆け出せば矢の如く城を攻める賊の背後を突き始める。

 

「一刀!200をお前に任せる、上手く動かして東門から城内へ入れ!!」

「っ!!」

 

これは一刀への試練、以前一刀には文官としての道を示した事があった。その適正があったと思ったしその方が良いと感じたからだ、しかし武官の道を選んだ・・・・ならばその道を支えてやろうと様々な鍛錬を施し試練を与えてきた、これはその総仕上げだ、この程度の相手で手間取るようならば武官として生きていくのはハッキリいって無理だ。

 

「分った・・・・」

「良し、なら牛金と200連れてけ!」

「ああ!!」

 

牛金と共に東門へと向かう一刀の背を見送る。

 

「ここが正念場だ、一刀・・・・」

 

一刀ならば成す、そう信じ夏焔は正面、北門へと眼を向ける。賊の数は200程度、指揮官はここにはいないようだ・・・・対する義勇兵は一人の少女を基軸にかろうじて護りを保っている様子。

 

「良し、合図で突っ込む・・・・王忠」

「はっ!」

「突撃後の合図で賊を引っ掻き回せ、無理に討つなよ?追い散らすだけで良い」

「御意」

 

王忠は部隊長として優秀だと思っている、こちらの指示に異論を挟まず任務を確実に実行する。

 

「ならば・・・・行くぞ!!!」

 

右手に構える大刀を一度振り上げてから思いっきり下ろし、自身もその勢いで突撃して行く。

 

―半刻後―

曹洪兵に背後から突撃された賊は既に統制を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っている、他の東門と西門も同じようなのだが不思議だったのは南門が一切攻撃を受けていなかったというところだろうか。

 

「あの」

 

東門が無事制圧された、という報告を聞き安堵した頃に北門の義勇兵の指揮を取っていた銀髪おさげの少女が駆け寄ってきた。

 

「どちらの軍勢かは存じ上げませんがご助力、感謝致します」

 

深々とお辞儀をしながら謝礼を述べて来る、真面目な娘だという印象だ。

 

「構わない、俺は陳留太守曹操の配下曹洪だ」

「え?あの曹洪将軍ですか・・・・?」

「どの、かは知らんが曹洪だ」

 

なんでだろう、目の前の少女は眼を輝かせている。

 

「お噂は聞いております!厳格で冷静な知将でありながら兵たちの先陣を切る猛将でもある知勇兼備の良将だと!!」

「むず痒いな、そこまで手放しで褒められると・・・・そこまででも無いとは思うが・・・・」

「いえ!今の戦いを見て噂は真実だったのだと確信いたしました!」

 

何だろう、このノリは・・・・嫌いじゃないが。

 

「そ、曹洪将軍!お願いがあります!」

「?何だ?」

「そ、その・・・・私を!弟子にして頂けないでしょうか!!」

 

―一刻後―中牟城太守府

どうやら中牟の太守は黄巾が攻め入ってくるなり私財を持ち出し正規兵を護衛に連れ逃亡したらしく、元々この地で旗揚げするつもりだった義勇兵たちが残った民たちの力を借りて防衛を行っていたらしい。

義勇兵の数は400弱で指揮官は四名。

 

「此度の救援、誠に感謝致します!」

 

一人は夏焔に何故か心酔している銀髪おさげの少女、楽進。

 

「いやー、ホンマ危なかったで。おおきに」

 

一人は攻撃の無かった南門を固めつつ他の門を援護していた少女、李典。

 

「本当にありがとうなの」

 

一人は西門で四苦八苦しつつ民との連携を上手く取っていた少女、于禁。

 

「あっれぇ?華琳と夏焔兄じゃん」

 

一人は東門に現れた一刀の隊と初見とは思えぬ連携を取って見せた少女・・・・と言うか出奔していて行方不明になっていた曹洪の従妹曹仁―冬莉(とうり)だった。

 

「何故こんなところにいる冬莉!!」

「もー、良いじゃないのぉお互い無事に会えたって事でぇ」

「私も、詳しい話を聞きたいわね冬莉」

 

当初はのらりくらりと夏焔の説教を躱していた曹仁―冬莉も華琳が加わるとそうもいかないらしく、大人しく説教を受け、再び曹操軍に戻る事を約束した。

 

「あ、そーだ・・・・この娘らも一緒に連れてってダメかな?」

「その三人娘を?」

 

冬莉の背後に控えていた楽進、李典、于禁を順に見ていく。

 

「うん、この娘ら鍛えたら強いと思うんだー結構あたしも助けられてるしぃ」

「ふむ」

 

冬莉の人を見る眼は一族の中でも華琳と並ぶ程だ、それに先の戦いで楽進の力量はわずかながら垣間見ている。連れて行くにも十分な戦力となると思う。

 

「華琳はどう思う」

「私は構わないわ、むしろ歓迎するべきね」

 

その一言で全てが決した。

 

―夜―

伝令を飛ばし中牟には煉次と兵1000が駐屯する事が決まった、ので取り敢えずは煉次が到着するまでは滞在することになる。

 

「改めて、宜しくお願い致します師匠!!」

 

楽進―凪はビッと敬礼をしながら目の前に起立している。

 

「ああ、が・・・・師匠というのはどうにかならないか?」

 

凪を弟子にすることには異論は無い、一刀も一端の武官としてやっていけると判断したから手空きだ。

しかしその呼ばれ方はむずがゆい。

 

「では何とお呼びすれば・・・・」

「俺の真名、預けたろ?そっちで呼んでくれれば良い」

「そんな!私如きが師匠の真名をお呼びするなど・・・・」

 

今日だけで分った事だが凪は真面目だ、だが・・・・それがちょっとした壁に感じてしまう事もあるかも知れない、だからこの壁だけはとっぱらいたいのだ。

 

「凪」

「?はい」

「確かに俺とお前は師弟だ、だがそれ以上にこれからは背を預け共に戦う戦友だ」

「戦・・・・友」

「その背を預ける戦友に真名を呼んで欲しい、それは不自然な事か?」

「い、いえいえいえ!そのような事は!決して!」

 

首が取れるんじゃないかというような勢いで首を横に振る凪。

 

「では真名で」

「え、えと・・・・夏焔・・・・・・・・・・・・さん」

「ま、及第点か。改めて宜しくな凪」

「はい!」

 

がしっと握手を交わすとそこに桂花が歩み寄ってきた。

 

「夏焔、ご無事で何より・・・・」

 

多少、ぎこちなくではあるが桂花は『夏焔』と呼んでくれるようになった。多少ではあるが進歩した事は嬉しく思う。

 

「凪、改めて紹介しておく・・・・曹洪隊の軍師、桂花と・・・・」

 

ぐるりと首を横へと向ける、向こうでは一刀が李典―真桜と于禁―沙和、季衣にちょっかいをかけられまくっている。

 

「あれが部隊長の一刀だ」

「確か東門、冬莉の援護をしていた・・・・あの方はお強いのでしょうか?」

「武の力量はお前よか格段下だ、が・・・・指揮に関しては二段程上だ、互いに学び合い競い合い高め合え」

「・・・・はい!」

「ほら、交流を深めてこい」

 

そういって桂花と凪の背中をトン、と押し出すと二人並んで歩いていく。

 

「・・・・存外、あの二人は相性が良いかも知れないな」

「そうよねぇ」

「その見立ては間違ってはいないわね」

 

いつの間にやら両脇に並んでいた冬莉と華琳が同意を示す。

 

「あれらがこれからの曹操軍の中核を担うべき若手たちだ」

「あら、その言いようだと楽隠居でもするかのようね」

「あらまぁ、夏焔兄は隠居ですかぁ?」

 

からかうように笑う二人。

 

「バカを言え」

 

それを一蹴するように笑う夏焔。

 

「俺は死ぬまで現役だ、この先五年後も、十年後も、50を越えても、100の爺になろうが・・・・命ある限り現役で居続けるぞ俺は」

「らしい台詞ね、それでこそ四天王筆頭」

「なんだそれ?」

「さっき決めたのよ、貴方を筆頭に春蘭、秋蘭、冬莉の四人で四天王」

 

春蘭が攻め、夏焔が万能、秋蘭が遊撃、冬莉が護りとそれぞれ特色を持った四将をこれからの主軸にする、という事らしく。

 

「今のところはまだ一武将として動いてもらうけれどもいずれは各方面の長として動いて貰うわ」

「ふむ・・・・となると」

 

視線をゆっくりと、目の前にいる冬莉に向けてから陳留城の方角へと向ける。

 

「二人、色々と仕込まなければならないか」

「そこは頼むわ、手厳しくね」

「えぇー」

 

不満げな表情の冬莉の頭をくしゃくしゃと撫で始める。

 

「適度に鍛えてやる、覚悟する事だ」

「うへぇー」

「ふふふ、二人共しっかり頼むわ」

 

皆が皆、笑い合っている・・・・こんな時間が続けば良いのに・・・・そう思った日の事。




四天王の真名が春夏秋冬なのは春蘭と秋蘭の真名から連想して決めました。
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