冬莉、凪、沙和、真桜の四人が加入して五日が経った頃、この城に3000の賊が接近しているとの情報が入った。
「義勇兵を併せても1500弱、兵力差は二対一か」
やや慌て気味な季衣、凪、沙和、真桜や深刻そうな顔をする桂花、一刀、冬莉を横目に夏焔は平然と呟いた、そんなものかと言わんばかりに。
「どう出る?華琳」
「護りね、その上で徐々に相手を削りつつ指揮官を釣り出し討つ」
「じゃあそれだな」
華琳と夏焔のやり取りを他のメンツは呆然と見ている、こちらは新兵、義勇兵を含む1500であり昨日の戦闘により壊れた城壁の修理も完了していない、対する相手はこちらの倍数であり信仰の下に士気旺盛、こちらの不利は明らかなのに。
「んじゃ配置決めるぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そこでようやく、桂花が口を挟む。
「どうして、そんなに落ち着いていられるんですか?不利な状況は目に見えているはずです!」
桂花の切実な訴えに、頭をボリボリとかく夏焔。
「じゃあ逆に一つ聞くが桂花、お前はここで死にたいのか?」
そう問いかけた夏焔の眼は酷く冷たいもので・・・・
「死にたいならば喚いていろ、だが生きたいならば戦え。少なくとも俺や華琳は座して死を待つつもりは無い、あと半日ぐらいで煉次も到着するだろうしな」
ハッ、として顔を上げる桂花。
「同じ死ぬなら限界まで抗え、『死』に対して、凄絶にな」
―二刻後―南門
東門を一刀と桂花が兵400、西門を華琳と季衣、冬莉が兵500、北門を凪、真桜、沙和が兵400、そして南門を夏焔が兵300で護る事になった。
「他の状況はどうだ」
眼前では1000程の賊を200程が門という狭地を上手く活かして少しづつ賊の数を削っている。
「北門が少し不利です」
「牛金、100連れて北の援護に向かえ」
「御意」
「王忠!西門の状況を見て余裕がありそうだったら100、東門に送るように言え!」
「承知」
兵力で負ける現状、夏焔が行っているのは四門の危機の均等化だ。報告では煉次が後半日程度で到着スるはず、ならばそこまで耐え切れば状況を見た煉次が上手く四方を背後から急襲するはずだ。
「南門に援護は割り当てられないか」
大刀を右手に持ちゆっくりと歩を進める。
「お前ら下がれ!!四半刻の間俺が一人で抑える、その間に休息を取れ!」
『応!』
優秀で、自分には過ぎた部下たちだと思う。ここに残る200は最古参の曹洪兵、旗揚げ当初から付き従って来た彼らは自分の命令に異論を挟まず全力でそれを遂行する、自分が死ねと言えば迷い無く死んでみせるだろう、そんな奴らだからこそ―――。
「さぁ・・・・この首!欲しければかかってこい!!!」
その期待には答えねばならないわけで。
―中牟北部―
中牟城へと駐屯、その命令がくだされて直ぐに建築資材を荷駄に組み込み進発したのが五日前。
「急げ急げ急げぇ!!!」
中牟城襲撃の報を受けたのがつい先刻、煉次は荷駄管理の200を切り離し残る800を全速力で行軍させていた。
「ま、満寵様!!これ以上の速度は無理です!脱落者も出始めていますし・・・・」
強行軍を諌めようと先日、満寵の副官に昇格したばかりの郭淮が帽子が飛ばないように抑えながら追い縋る。
「・・・・覚えときな郭淮」
普段から女性に声をかけてばかりで、滅多に聞くことのない煉次の真剣な声に郭淮が口を噤む。
「俺が一番怖ぇのは・・・・『出来たはずなのにやらねぇ』事だ」
既に煉次の視界には中牟の城を囲む賊の姿が映り始めている。
「ここで仲間や後輩や、大恩あるあの人見殺しにしちまったら『満寵』って将は、『煉次』って一人の人間は死んだも同然なんだよ!!」
腰に下げた長刀を引き抜き、眼前へと掲げる。
「眼前で窮地にある友を、仲間を、隣人を、家族を助けるぞ!!!突撃ぃいいいいい!!!」
『うぉおおおおおおおお!!!!!』
自ら先陣を切り突撃していく満寵の姿、を見て郭淮は戸惑う。何時もの飄々とした満寵と今の苛烈で厳格な満寵、どちらが本当の満寵なのだろうかと。
「・・・・今は・・・・!」
だが直ぐにそれを拭い払う、満寵の言う通り目の前の敵を討ち味方を救う事が優先だ。
―中牟城―
結果として救援は間に合った、負傷者は多いものの死者は無く、賊のほとんどを討ち取る事に成功した・・・・のだが。
「頼んますから大将、あんま無茶しねーで下さいよ」
「本当です!夏焔様にこれ以上何かあったら私・・・・」
「師匠、本当にご無事で何より・・・・」
最終的に、兵を全員他の援護にまわして一人で南門を護っていた夏焔。怪我も傷は浅いものばかりで大事には至らなかったのだが周囲の人々にかなり心配され、心配させた罰として呼び方の大多数を元に戻されていた。
「ま、心配って心配はしてなかったけどさ」
「一刀」
「そうですよねぇ、殺しても死ななそうですし夏焔兄は」
「冬莉」
「こんなところで死ぬようなら四天王筆頭になど指名はしないわ」
「華琳」
「ってわけで!」
『ん?』
ちょっとしんみりした空気になりつつあったその場、だったのだがその空気をぶった斬るように煉次が声を上げる。
「物資に酒も持ってきたんでぇー・・・・酒盛りだぁ!!」
『うぉおおおおおお!!!』
―夜―
何故か本城から春蘭、秋蘭までが参加した大宴会。城の護りは?と春蘭に聞いたら「隗と円楽、景に全て押し付けてきた」との事、秋蘭に更に聞けば「ちゃんと他の文武官に指示は出してきたから大丈夫だろう」との事だ。春蘭の言葉は信用ならないが秋蘭の言葉は信用出来る。
「そーいやすっかり忘れてた、大将!これ鍛冶屋のおっちゃんに頼まれてたモンっす!」
煉次が不意に思い出し、刃の部分を布で来るんだ長柄の武器を夏焔へと投げる。
「・・・・やっとか」
それをぞうさもなくキャッチする夏焔。
「新しい武器です?どないなんか興味あるなぁ」
「パッと見て大刀では無いようですが」
真桜と凪が興味深そうに、覗き込んでくる。
「ああ・・・・大刀じゃ無くて・・・・」
シュルシュルと布を剥がしていくと新品らしい輝きを放つ刃と刃の付け根に巻かれた群青の布が姿を現す。
「『矛』だ」
今までの大刀は「斬る」事を重視した武器だが今度の矛は「斬る」「突く」「払う」を自由に行える万能型の武器、徒歩と騎馬を兼用する夏焔が両面で自由に戦えるようにと選んだのだ。
「鍛冶屋のおっちゃんからの伝言で銘は『彗龍』だそうで」
「成程・・・・そういやぁおっちゃん引退するってのは」
「はい、それが最後の作。店ぇたたんで幽州の息子のとこ行って馬飼い手伝うとかで」
華琳の鎌や春蘭の七星餓狼、秋蘭の弓、煉次の長刀、円楽の狼牙棒を作ったのもその鍛冶屋だ。
「ふふふふふ・・・・ハハハハハハハ!!!」
突如、笑い出した春蘭に、大半が首を傾げ一部が嫌な予感を抱く。
「折角新調した武器だ!その試し斬りに私が!付き合ってやろう!!!」
「・・・・本音は?」
「お前をぶった斬りたいだけだ夏焔!!」
面白いほどすっぱりとした理由だ。
「まぁ良い」
彗龍を肩に担いで歩き出す。
「場所開けろ!!」
そんな夏焔の掛け声に兵士たちがほぼ一斉に動く、筆頭武官の夏侯惇と鬼教官曹洪の一騎打ち、曹操軍の武官二枚看板の戦いを、兵士たちも見てみたいのだ。
「ふふふふふふっ覚悟は良いか!!」
「それはこっちのセリフだ、筆頭武官の看板下ろす覚悟はできてるんだろうな」
二人の浮かべる笑いに、周囲の殆どが凍りつく。本来笑うという表情は攻撃衝動に基づいていると言う。
「華琳はどっちが勝つと思う?」
「そうね・・・・夏焔に1000銭」
「大きく出たわねぇ、じゃあ春蘭に500銭」
二人の賭けに全員が驚きを見せる、てっきり華琳が春蘭に、冬莉が夏焔に賭けると思っていたからだ。
「ね、ねぇ煉次。貴方は・・・・」
「無論大将だな、100銭で」
「しゅ、秋蘭様は・・・・」
「夏焔だな、300銭」
結果的に華琳、秋蘭、煉次、一刀、桂花、凪が夏焔に合計1800銭を、季衣、冬莉、沙和、真桜が合計1500銭を春蘭に賭ける事になった・・・・のだが。
「っぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
猛将夏侯惇の攻め、魏武の大剣の名は伊達ではなく並の将程度ならば一合で討てるであろう豪撃が既に何十発も叩き込まれている。
「初動悪し、切り返し悪し、足運び悪し」
それに相対する鬼教官曹洪の護り、最小限の動作で春蘭の刃を受け流し、回避し、防ぎつつ事もあろうに悪い部分を指摘している。
「春蘭、お前は確かに強いが・・・・細かい動作にムダが多すぎる」
「くっ!!」
「無駄な動作が多いから一撃が雑になり当たらなくなる、今は未だ良い・・・・お前は自分より強い敵とあたってはいないからな」
「ァアアアアアアアアアアッ!!!」
神速の斬撃、ほぼ同時に両側から襲いかかるその攻撃を屈んで回避し・・・・
「だが今のままでは何れ壁に突き当たるぞ、夏侯惇」
夏焔の
「それまで、ね」
パン、と華琳が手を叩き一騎打ちの終わりを告げる。
「今の一騎打ち、それを見た感想を述べなさい・・・・そうね、一刀と凪、それと桂花」
夏焔が今現在育てている知将、猛将、軍師の三名に感想を求める華琳。
「実は夏焔、まだ本気じゃ無い?」
コレは一刀。
「そうですね、かなり冷静、どころか・・・・まるで稽古でもつけるかのようでした」
一刀の感想を受け凪が続ける。
「そうね、しかも本来夏焔様は春蘭よりも更に数段上、違いますか?」
それを桂花がまとめあげる。
「正解、そう・・・・本来ならば夏焔の方が武の力量は総合的に上」
「ならなんで筆頭武官が春蘭なんだ?」
一刀の疑問、に答えたのは夏焔だ。
「俺の武が頭打ちだからだよ」
背後から桂花と凪の頭を撫でながらそう言う。
「それって・・・・」
「俺の武の力量は数年前から推移していない、現状春蘭にも少しづつ迫られている状況だ」
夏焔だって男である、武の才能を持って生まれた以上猛将として名を成したいと躍起になったものである。だが才能の頭打ちがそれを許さなかった、故に方向転換をせざるを得なかった、元々曹操軍には万能型がいなかった事もあったからこそ今の『曹洪』は完成したとも言えるのだ。
「それに比べ春蘭はまだまだ登り始めたところだ、俺よりも若い。基礎能力もずっと上だ」
天性の才能、とでも言うべきか。基礎能力だけは決して夏焔が上回る事は無かった、あくまで力量一つで春蘭を制しているのだ。
「荒削りだが磨けば何者にも負けぬはずだ・・・・そしてそれはお前らも一緒だ」
その視線は、一刀、桂花、凪だけでは無く秋蘭、冬莉、季衣、真桜、沙和、煉次らにも向けられている。
「俺はお前らを全力で鍛え上げる、だから付いて来て見せろ」
『はい!!』
元気よく返事をする一同、に背を向け歩き出す煉次。
「煉次」
「分かってますって、ただ・・・・俺は適度に頼みますわ。何かと忙しいですしね」
ヒラヒラと、背を向けたまま手を振る煉次。
「あの方は・・・・」
「全く、やる気の無い・・・・」
少し、不機嫌そうに言う凪と桂花。
「言ってやるな二人共、あれは・・・・」
「自分でもやることがあるから、という事かしらね」
微笑みながら言う華琳。
『?』
それに全員が首を傾げた。
―――
「満寵様」
歩く煉次に郭淮が追い縋る。
「郭淮」
「?はい」
「お前に俺の真名、煉次の名を預ける」
「!?」
「そしてお前に俺の全てを教え込む、無論俺も鍛え学びながらだから全力で追い縋れ」
その眼は何時ものでも、先の戦場で見たものでも無い、強い覚悟をおびた眼だ。
「・・・・私の真名は、
バサリとかぶっていた帽子を外し胸元へと持ってくる。
「以後、改めて宜しくお願い致します」
帽子が外れた事によってまとまっていた透き通るような青髪がフワリと風になびく。
「・・・・・・」
ポカン、とした表情で水華を見る煉次。
「?何か・・・・」
「お前・・・・女だったのぉぉおおおおおおおおお!!?」
今日一番の雄叫びが、中牟城内に響き渡ったのだった。