中牟の城を出て四日が経つ、領内の事は残ったメンツでも十分との判断が下されると春蘭、秋蘭も遠征に随行が決まり。そして・・・・
「どうしてこうなったし」
「ま、まぁ煉次様気を取り直してください」
中牟の城には景が派遣され煉次と水華も遠征軍に随行させられる事になった、因みに同時刻、陳留の太守府で隗が全力で頭を抱えながら「むーりぃいいいいいいいいいい!!!」と叫んだらしい。
「夏焔、入ってきた情報を」
「ああ・・・・現在地は此処、許昌の東だ」
広げられた地図の一点を指差す。
「現在官軍と黄巾の激戦地は三つ」
ススッと指を動かす。
「先ず南部は汝南、朱儁率いる8万が馬元義率いる7万とガッチリ組合って両者動けずにいる。また此処には孫策、劉瑤、王朗、劉表ら南部諸侯が参戦している」
大陸南部、荊州、揚州の諸侯が主に参加するこの戦場は動きを見せずにいる、孫策が何かやっているらしいがそれらしい成果は未だ見られない。
「続いて北部は渤海、皇甫嵩率いる6万が張燕率いる8万と激戦を繰り広げている。此処には公孫賛、孔融、劉虞、鮑信ら北部寄りの諸侯と劉備と言う者が率いる義勇軍が参戦している」
幽州の公孫賛、劉虞に青州の孔融、鮑信らに加え公孫賛の学友だったという劉備が率いる義勇軍。本来決してまとまりがあるわけでは無いがそこは皇甫嵩が上手くまとめているらしい。
「最後に中央は頴川、盧植率いる5万が天公将軍張角率いる10万と接戦を繰り広げている。此処には袁紹、董卓、袁術、劉岱、孔伷、丁原らが参戦している」
盧植は軍学者であり他の方面の二将より優秀だ、董卓配下は優秀な騎兵が多く、袁紹、袁術は単純に兵数があり、他三諸侯に関しては実力は並だが粘り強い戦い方をする。
「どこに出る?」
「そうね、秋蘭、桂花、煉次・・・・意見を」
華琳の指名を受ければ先ずは秋蘭が前へと出る。
「名を売る、という意味でならば南部でしょうか。局面を動かし、尚且つ戦功を挙げ易い状況下ではあります、未だ他が動いていないのですから」
秋蘭が意見を述べると続けて桂花が口を開く。
「同じく名を売るならば激戦故に泥沼化しつつある北部かと、何より北には決定的な武名を持つ将は少なく我が軍の割り込む余地も十分あると思われます」
桂花の口上が終わると、ようやく煉次が口を開く。
「名を売るために動く必要は無し、最低限の手段と目的を達成さえすれば良い」
そう言って指差したのは中央、頴川だ。
「元々俺らの目的は黄巾の乱の鎮静のはずだ、ならば首魁張角を討つように動くべきだ。それにこちらが成すべきを成したならば名は着いてくる、違うか?」
名を売る事を前提に動けばそれは周辺の、私利私欲で動いている連中と同じになってしまう。今後の事を考えるならばそれらと陳留軍は違う、と明確に周囲に喧伝しなければならないのだ。それを考えるならば余計な功績には目もくれず、ただただ乱の中核である賊の首魁の首一つを狙う、それが上策だと煉次は考えたのだ。
「む・・・・」
「あ・・・・」
秋蘭も桂花も、そこでようやくその考えに至る。
「欲を前面に押し出せば要らぬ落とし穴に陥る」
今の今まで口を挟まなかった夏焔がここで口を挟んでくる。
「誰かを護りたい、とか誰かの役に立ちたい、とかそんな欲なら良い。だが名誉欲、自己顕示欲に囚われれば要らぬ迷いを生み、要らぬ後手を踏み、最後には要らぬ最期を遂げる事となる」
夏焔は今の立場になるまでに、様々な場所を巡り、様々な人物の下、様々な戦場で戦ってきた。強き者も弱き者も見てきた、そして得てして力有る者は要らぬ欲でその身を滅ぼすものだ。
「心せよ、華琳のためを思うのは結構。だが全体を見回せ、今必要なものが何であるかを見失うな」
―許昌北部―
方針決定から一週間、付近の賊を片付けつつ今や最激戦区へと変動した頴川へと曹操軍は向かっていた。
と言うのも北部の張燕と南部の馬元義がそれぞれに討たれ、主将を失った黄巾賊が頴川の本隊へと一斉に合流し天公将軍張角の本隊は既に20万規模に膨れ上がっている。
対する官軍も朱儁、皇甫嵩の両将は残存する黄巾崩れの掃討のために動く事が出来ず、一部の諸侯と軍勢だけを派遣するに留まっている。更に中央主将であった盧植が洛陽にいる宦官の最高権力者集団である十常侍の不況を買い更迭、現在は董卓が指揮を取っている状況であった。
「三軍で最小数の軍勢で黄巾本隊を抑えていた盧植を更迭とは・・・・」
「仕方無いでしょう?十常侍は自分の身が可愛いバカの集まりだし何進は所詮肉屋なのだから」
「歯に衣着せない物言いだな、正しくその通りなのだろうが・・・・」
と、かなり堂々と中央批判をする華琳と夏焔、のやり取りをハラハラしつつ聞いている周囲。
「斥候より、この先で官軍と黄巾が戦闘中!」
笑いながら話をしていた二人の表情が一変する。
「旗は」
「劉、孫・・・・それと袁・・・・旗色からすると袁術かと」
「劉と孫は劉備と孫策ね、何故袁術がいるのかはわからないけれども・・・・」
「恐らく袁術軍が襲われていたのだろう、劉備軍は知らんが孫策軍は隣領である事と恩を売るために加勢したのだろう・・・・戦力比は」
「劉、孫、袁が一万弱、黄巾が三万」
兵力差は三倍・・・・なのだが。
「袁術や劉備はともかく孫策がいて手間取るとも思えん」
「あら、面識あるの?」
夏焔が不思議そうに言うのを聞いて華琳が問いかけた。
「ああ、放浪時代に・・・・仕えないか、とも言われたがな・・・・」
「断ってくれたのね」
「当たり前だ、既にその時点でお前に従う事を決めていたのだからな」
「ありがとう、まぁという事は貴方が認めるのだから実力はあるはずだから・・・・他二軍が足枷なのかしら?」
「恐らくはな・・・・華琳」
加勢させてくれ、そう夏焔が言おうとした瞬間に・・・・
「加勢するわよ!春蘭、夏焔が先陣を切りなさい!!」
少しだけ、驚いたような顔をしてからフッ、と笑う夏焔。
「ああ、お前はそういう奴だよ」
普段は利を好むこの少女、だが時に利が絡まぬ時にまで首を突っ込む事もある。条理も不条理も併せてしまうのが華琳という少女なのだろう。
「着いてこい凪!!袁術の救援に回る!!」
「来い秋蘭!!ともかく黄巾を討って回るぞ!!」
恐らく袁術兵は袁術の行方が乱戦でわからぬ故に統制が取れないのだろう、ならば見つけてしまえば良い。なによりとある事情から袁術の顔は知っている。劉備、孫策への加勢は春蘭を中心とするだろうから自分と凪が中心になって袁術を見つけ、袁術軍を立て直せば良い。
その思惑で夏焔、一刀、凪、桂花、煉次、水華は兵300で、華琳、春蘭、秋蘭、季衣、冬莉、真桜、沙和は乱戦地区へと突撃していった。
――――――
「袁術様!!早くお逃げ―――っああああああ!!!」
「ひっ!?」
「袁術様!こちらへ!!」
本隊と離れた袁術は、残る僅かな護衛に護られながら戦闘区域を抜け出そうとしていた。しかし如何せん身なりも立派で容姿も良い袁術を賊が見逃すわけも無く、一人また一人と護衛は討たれていく。
「けけけ、コイツを捕まえてったら褒美がたっぷりでそうだなぁ」
「ってか可愛いじゃねぇか、上に差し出す前に俺らで楽しんでも・・・・なぁ?」
「だよなぁ・・・・くくくくくっ」
既に護衛は無く、周囲は賊だけ。捕まったら何をされるかわからない、だが抗う術も無い、袁術はただただ恐怖するばかりだった・・・・
「ほら来いよ!!」
「い、嫌じゃっ・・・・誰か・・・・誰か・・・・!!」
「誰も来ねぇよ!!」
「・・・・・・・・・・せ」
僅かに聞こえた声に、袁術に手をかけた賊が首を傾げた瞬間だった、手首から先が宙に舞う、今までそこにあったはずの手が。
「その手を離せ・・・・下衆が・・・・」
既に一刀と煉次、水華が袁術を庇い下がらせ、桂花が部隊を指揮し、凪が片っ端から賊を蹴散らし始めている。
「なっ!!?何だコイツラ!!!」
「構う事ぁねぇ!!こっちのが数が上なんだ!!あの嬢ちゃん奪い返せ!!!」
「他にも上玉がいるみたいだしな、そっちのも捕まえなぁ!!!」
先ずは目の前の男を殺そう、そんな軽い意気込みで飛びかかった賊たち。
『コロスゾ』
どこまでもどす黒い殺気をまとい、奈落の底より響くような低い声、どこまでも粘り付き付きまとう殺気に賊たちは片っ端から気絶し、味方の兵ですらその身より放たれる鬼気に或は竦み、或は膝を付いていた。
「落ち着け大将!!」
「師匠、己を見失わないでください!」
「夏焔!!」
「夏焔様!!」
そんな中動けたのは煉次、凪、一刀、桂花の四人だった。腰に凪が抱きついて両腕を煉次と一刀で抑え、真正面に桂花が立ち塞がる。
「・・・・っ・・・・俺は・・・・・そう、か・・・・スマン。手間をかけたな」
ようやく正気に戻った夏焔、周囲を見回せば既に他も決着が着いた様子だった。
―許昌北部―野営地
曹操軍首脳陣に加え劉備、孫策両軍の主要人物と袁術とその側近張勲がその場に集まっていた。
「本当に感謝するわぁ、あそこまで戦場がグチャグチャだと暴れようが無いもの」
ケラケラと笑いながら礼を言うのは孫策、褐色の肌と桃色の長髪が特徴的な女性。
「ありがとうございました!」
素直に礼を言うのは劉備、朱色の髪、少しばかりふんわりした雰囲気を持つ少女だ。
「本当に助かったのじゃ、幾ら礼を言っても足りぬ」
少しばかり変わった口調で礼を述べるのは先に夏焔が救出した袁術だ。
「無事で何より、と言うところね」
微笑みながら、華琳がそれらの礼に答える。
「うむ、劉備に孫策にも助けられたのじゃ・・・・その、曹洪にも・・・・」
ちょっとだけもじもじしながら言う袁術、を見て煉次が夏焔の肩を掴んだ。
「どうした煉次」
「『どうした煉次』じゃねぇですって!!何でアンタばっかり!!」
その涙には気のせいだろうか、先の夏焔以上の鬼気が漂っている気がする。
「・・・・煉次様」
「何だ水華!!」
「その・・・・恐らくがっつき過ぎているのが原因かと・・・・」
「ぐふぅっ!!?」
そのやり取りを全員が見て笑う中、孫策が口を開く。
「
『?』
「袁術ちゃんの陣の方からものすっごい真っ黒な気を感じたのよねー」
『!!!』
「・・・・あの気は・・・・貴方?曹洪」
孫策は、いわゆる戦いの天才だ。個人の武も、軍を率いるも、そしてそれは戦う事全てに及ぶ才能であり気の感じから相手を特定するぐらいは簡単にやってみせるわけだ。
「そうだ、と言ったら?」
「・・・・確認したかっただけよ、変わってないみたいで何よりだわ」
「人とはそうそう変わるものでは無い、例え外見が変わろうとも根幹は変わらぬものだ」
笑い合う二人、一瞬の緊迫した空気が薄れ周囲の空気も弛緩する、と孫策が一つの提案をする。
「そうだ、折角これだけ集まっているんだし飲まない?」
―野営地―夜
確かに、中牟の城では冬莉との再会と三人娘の参入を祝う意味で宴会はやった。
「もー!しけた顔してたらお酒は美味しくないわよー!?」
だがコレは想定外だった、既に四軍のほぼ半数以上を巻き込んだ大宴会。水華や袁術軍の紀霊、孫策軍の魯粛、劉備軍の周倉などは既に危険を察知し周囲警戒を自ら買って出た。残ったのは逃げ遅れた者と危険を知り尚酒の誘惑に勝てなかった者たちだ。
「孫策、程々にしておけと・・・・」
「んー♪聞こえなーい♪」
「くっ・・・・雪蓮!」
「分かってるわよぉ~♪」
なんて笑いながら孫策―雪蓮は去っていく。先ほど無理矢理真名を預けられたのだ。
「申し訳ないわね夏焔、姉様が・・・・」
「気にする事は無い蓮華、あれの奔放さは以前から知っている」
雪蓮の妹である孫権―蓮華が心から申し訳なさそうに頭を下げる、見た目はかなり似ているのに性格が姉とは真逆な娘だ。姉がアレなだけにこれからも苦労しそうだ。
「にゃへへへへ♪夏焔さんは飲んでますかぁ?」
「ああ、飲んでいるよ桃香」
劉備―桃香は何故か飲んで上機嫌になっている。
「おぉ夏焔、こんなところにいたのかえ?」
「ああ、美羽か」
袁術―美羽が膝にピョン、と飛び乗ってくる。
・・・・そう、酒の勢いもあったのだろうが四軍の主要人物たち全員がそれぞれ真名を交換するという訳のわからない事態に陥っている。いや、正直な話原因は分かっている・・・・・・・・『
黄巾賊の討伐を成すまでの間の同盟、それを受けた雪蓮が「信頼の証に」と華琳と夏焔に真名を預けたのが切欠だったのだと思う、そこから美羽が加わり何故か元気っ娘な張飛―鈴々が乱入し季衣が対抗意識を燃やし―――気がついたらこんな事になっていた。
「ちょっ!!?誰か助けて!?」
遠くを見れば一刀が数人に絡まれている。
「北郷殿ぉ、私はですねぇ」
酔って愚痴っている綺麗な黒の長髪を靡かせた少女が関羽―愛紗。
「分かってるんですか本郷さん、大体皆さんですねぇ」
同じく愚痴っている青い短髪に白が基調の制服に身を包む張勲―七乃。
「かずとぉー」
酔って一刀の背中で寝ている冬莉。
「くひゅー・・・・すぴー・・・・」
「すぅ・・・・すぅ・・・・」
同じく酔って寝ているのに計ったかのように一刀の両膝を占領している孫姉妹の末妹孫尚香―小蓮と我らが主君華琳。
「ふがー・・・・ふごぉ・・・・」
「んゅー」
「ふにゃー」
「う・・・・・ん」
爆睡しているせいで自分が常日頃望んでいる状況に置かれている事を知らない煉次と煉次の両腕や両膝、腹や胸を枕にして寝る諸葛亮―朱里、鳳統―雛里、陸遜―穏、真桜たち。
「・・・・」
だがこんな状況が楽しく思えてしまう、いい思い出だと思う。そんな今を大切にしたいのだ。
今回の美羽は良い子です、おバカではありません。