魏伝 ~曹洪の章~   作:碓氷

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第八話 夏焔の語る武の極み、一刀の全身全霊の叫び

さて、大宴会の翌日。いよいよもって激戦区頴川へと進軍を始めた四軍・・・・なのだが。

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃーーー!!!」

「お前も春蘭と同じだ、力はある、速さもある、だ・・・・が・・・・武器の取り回しが悪い!!」

 

今は鈴々に夏焔が稽古を付けているところである。既に隅っこでは甘寧―思春、季衣、春蘭、真桜、沙和、魯粛―咲季(さき)、紀霊―(がい)、周倉―(ばく)らが精根尽き果てて倒れている。

これもまた雪蓮の提案からだった、折角の同盟を活かさぬ手は無い、折角鬼教官がいるのだから武官連中は鍛えてもらえば良いと。

結果がこれである、既に残る武官は今戦う鈴々と愛紗、秋蘭、煉次、凪が残るだけとなっている。後は軍師や君主勢だけだ。

 

「ここまで・・・・だ!!」

「うにゃあ!!?」

 

焦りからの極端な大振りをしゃがんで回避し、そのまま距離を詰めて鈴々の両肩を掴んでからの・・・・そのまま引きずり倒した。

 

「次!」

『・・・・』

 

ここまで来ると残るメンツにちょっとした意地が生まれる、そう・・・・何がなんでも夏焔に土をつけたい、と。

 

「ならばここは!!」

「私たちで行くわね♪」

 

青龍偃月刀を構える愛紗と南海覇王を構えた雪蓮が同時に歩み出る。

 

「二人がかりか・・・・良いだろう」

 

そして華琳や桃香、蓮華、美羽たち君主勢や桂花、水華、朱里、雛里、周瑜―冥琳、陸遜―穏、七乃ら軍師勢たちの興味が集まる・・・・そう『各勢力の名の売れた武官たちを赤子のように扱った鬼教官は美髪公と小覇王二人を相手にどう立ち回るのか』と。

 

「・・・・どうした、来ないのか?」

 

様子見をしていた愛紗と雪蓮に、問いかけた夏焔。

 

「そちらが動きを望むならば・・・・」

「上等!!」

 

同時に武器を振り上げた二人。

 

「・・・・『振り上げた』な?」

 

夏焔の問いかけの狙いは二つ、一つは攻めを誘発する事。雪蓮は元々自らの武に自信を持つし愛紗もその武に矜持を持っている様子、ならば軽い挑発でも手合せ故に動くだろうと読んでいた。

そしてもう一つは読み、連携を意識して上下左右組み合わせての攻撃だったならば対処は難しくなった、しかし二人とも連携を意識せずに振り上げて来た、それこそが夏焔のねらいどころであり・・・・

 

「ふっ!!」

「あ!」

「え?」

 

夏焔の選んだ行動は『突き』、しかもそれは春蘭、思春、劾たち眼の良さに定評のある武将たちが対処しきれなかった神速の突きだ、常人のそれを遥かに超えた速度で放たれた二連の突きは青龍偃月刀の刀身と南海覇王の持ち手を全速力で弾く。

 

「先ず一つ」

 

青龍偃月刀は愛紗の手からは離れなかったものの大きく弾かれており、南海覇王は雪蓮の手を離れ遥か後方に弾き飛ばされている。

 

「・・・・そして、二つだ」

 

武器を手放すという選択肢を選べなかった愛紗の喉元に、彗龍の穂先が突きつけられる。

 

『・・・・』

 

やられた二人も、見ていた者たちも呆然とするしか無かった。愛紗も雪蓮も間違い無く大陸で五指に入る武を持つ者、その二人の行動をたった一言で誘発し、縛り、そして僅か三度の攻撃で全てを決してしまった。

 

―夜―

頴川まで後少しと迫った野営地で、夏焔は各勢力の武官たちに囲まれていた。昼の手合せを見て武官たちは尊敬と畏敬の念を、そして逆に曹操軍以外の軍師たちは恐怖を感じていた。

 

「夏焔殿は・・・・その、何と言いましょうか・・・・どこまで武を、極められたのでしょうか?」

 

愛紗のそんな質問だった、となりにいるのは春蘭、恐らくは夏焔の武が頭打ち、という話を聞いての質問だろう。

 

「どこまで、と言われたら難しい話だな・・・・明確な目標を持って鍛えたわけでは無い、ただただ上を目指し続けて鍛えていた」

 

静かに、周囲を見回す。今夏焔の周囲には左から順に思春、蓮華、咲季、劾、鈴々、獏、愛紗、雪蓮、春蘭、凪、真桜、沙和、桂花、秋蘭、桃香、華琳、一刀、冬莉、朱里、雛里、冥琳、穏が弧を描くように座っており、煉次と水華は夏焔の両隣だ。

 

「はっきりとした兆候があったわけじゃ無い、それでもある日突然自分の天井が見えてしまった」

 

勝てていた相手に勝てなくなったとかそういうわけじゃない、それでもこれ以上上には行けない。そうハッキリと感じたのだ。

 

「・・・・それでも鍛錬は止めなかった、武の力そのものが頭打ちならばそれ以外で・・・・気や技で凌いでやる。そう考え己を磨いて今の俺がある・・・・俺だって多分そこまで極めたわけじゃ無い・・・・それがハッキリ分かるのは・・・・自分より確実に強い相手とぶつかりあった時だけだろうな」

 

少なくとも、雪蓮も愛紗も春蘭も鈴々も、この場にいる誰一人として『今は』自分を超える者はいない・・・・何れは超えて行くのだろうがそれもまだ未来の話だ、遠くない、ではあるが。

 

「敢えて言うならな、武の極みなんてものは『一人一人の物差し』で決まる。同じ力量でも或はこれで極めたと満足し、或は未だ到らぬと己を鍛え続ける・・・・武の極みを目指すと言うのはそういう事なのだ」

 

自分との戦いなのだ、はっきりとした目標が見えていないだけにそれはとても不毛で終わりの見えない孤独な戦い。

 

「武将として名を成すならばそれはそれで良かろう、だが武人として名を成すならば、その事を肝に銘じる事だ」

 

そこまで言えば、全てを語り終えたと言わんばかりに立ち上がりその場をあとにする。

 

「・・・・優しいですなぁ、貴殿は」

「何れ敵となる人たちにまで助言とはー」

「後々の利害は考えていないのですか?」

 

皆から見えないところまで来た頃に夏焔に話しかける者がいた。

 

「・・・・誰だ」

「失礼、趙雲と申します」

「程立と申しますー」

「郭嘉です」

 

見慣れない顔だ、連れて来た兵や将官、文官軍師候補ならばほぼ全員分顔を覚えている。だが話しかけてきた三人の身なりは一般兵士のそれではなく趙雲と名乗った少女はどちらかと言えば武官のもの、程立、郭嘉と名乗った少女は文官の身なりだ。

 

「見慣れない顔だが・・・・他の、三軍の?」

「いえ、実は・・・・こちらを」

 

趙雲が差し出した一本の竹簡、ゆっくりと開けばその筆跡に見覚えがある。

 

「成程、隗・・・・荀攸からの紹介で仕官か」

 

筆跡も間違い無く隗の者だ。

 

「取り敢えず今日は夜も遅い、曹操や他の者には明日引き合わせよう・・・・取り敢えずは・・・・王忠、すまないが彼女らに幕舎を一つ宛てがってやってくれ。正式に処遇が決まるまでは俺の客人として扱うように」

「御意」

 

幕舎を用意しに駆け出していく王忠。

 

「・・・・宜しいのですかな?」

「何がだ?」

「その・・・・」

「そこまでしてもらうと流石に申し訳無い、と言いたいわけなんですがー」

 

趙雲が切り出し、郭嘉が言いよどみ、程立がしめた。

 

「構う事は無い、君らがこのまま仕官するにしろそうでないにしろ蔑ろに扱う理由は無い」

 

郭嘉と程立に関しては何とも言えないが趙雲に関しては武の才能がある、ハッキリとどの程度かは分からないが・・・・故に無碍に扱っては損しか無い、丁寧に扱う分には損は少なく精神的な恩を売れる分得もあるのだ。

 

―翌日―

趙雲、郭嘉、程立の三人を伴い夏焔は華琳の待つ幕舎へと赴いていた。

 

「・・・・成程、それで趙雲、郭嘉、程立・・・・貴方たちはどうするのかしら?」

 

隗からの紹介状には『仕官先を探している様子でしたので当人たちとの話し合いの上で、登用の程宜しくお願いします    追伸:桂花にお兄ちゃんが寂しがっているとお伝えください』と記してあった。まぁ後半の文面は無視するとしてだ、あくまで当人らの意思を尊重するように、と明記されている。

隗は基本無駄なこと(桂花関連除く)を書面には記さない、わざわざそれを書いてよこしたという事は無理矢理仕官させたりすれば他に流れる可能性のある人材、という事なのだろう。

 

「私に関しては・・・・そうですなぁ」

 

ちらりと夏焔へと視線を向けた趙雲は・・・・

 

「そちらの曹洪将軍に興味がわきましたので仕官させて頂ければ、無論・・・・曹操殿の事も見極めさせていただくつもりではありますが」

「率直な物言いは嫌いでは無いわ、ならばようこそ趙雲。私たちは貴女を歓迎するわ」

 

趙雲は仕官を決めたようだ、自分へ対する興味、というのが若干腑に落ちないがさほど気にする事でも無いだろう。

 

「私はお世話になりますよー?」

 

と、程立が当然と言わんばかりに言う。

 

「一つだけ、お聞かせ願えますか?曹操様」

 

真っ直ぐに、華琳の眼を見つめて問いかける郭嘉。

 

「答えられる質問ならば」

「曹操様は何のために戦うのでしょうか」

 

郭嘉の問いかける眼には強い光が宿る。

 

「国のために」

「それは漢の事でしょうか?」

「貴女は民を顧みぬものを国と呼ぶのかしら?」

 

華琳も、そして夏焔も共通の考えであるのが『国は民の信ありてこそ、民は国との和ありてこそ』と言う考えだ。上に立つ者と下を支える者が手を取り合わねば真の平和は訪れない。

 

「確かに、曹操様の仰る通りです」

 

片膝をつき頭を垂れる郭嘉。

 

「以後、曹操様のために全身全霊を尽くします」

 

―その頃―

幕舎の外で盗み聞きしていた一刀。

 

「何で曹操軍に趙雲が入るのぉおおおおおおおお!!!?」

 

唯一、三国の歴史を知る青年は、それこそ全身全霊で叫んだのだった。

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