『王女の軍師』【完結】   作:OKAMEPON

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第五話・B『在るがままに愛しき人へ』(下)

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『緋炎』に引き続き『蒼炎』も無事に奪還したルキナとロビンは、今度はペレジアへと向かっている。

 荒れ狂う吹雪を抜けた其処に広がっていたのは、見渡す限りの荒野であった。

 ペレジアは、ギムレーが復活して真っ先に人々が屍兵に駆逐されてしまったと言われている。

 

 ルキナがかつての敵国を実際にこの目で見るのはこれが初めてであったが……。

 人影どころか屍兵と思わしき影すら殆ど見当たらない荒野と砂漠だけが広がっている光景を見ると、『ギムレー』がもたらす滅びの果ての世界を見ている様な気すらした。

 

 もし、『ギムレー』の手に落ちてしまえば。

 イーリスも、何時かはこうなってしまうのだろうか……。

 

 かつての光景からすれば荒れ果てていると言えるイーリスではあるが、それでもまだ人々が生きていける土地ではある。

 こんな、死すらも消え去った『虚無』だけがそこに顕現しているかの様な大地とはまだ程遠い。

 ぺレジアの大地の様に変わり果ててしまったイーリスを想像して、ルキナは身震いする。

 そんなルキナを安心させる為にか。

 飛竜を操りながらも、ロビンはルキナを優しく包む様に抱き締めて。

 そして、大丈夫だと。

 そうルキナを安心させる様に、囁いてくれた。

 

 

「大丈夫です、ルキナさん。

『覚醒の儀』を遂げれば、貴女を苦しめているこの絶望の『全て』が、終わるんです」

 

 

『覚醒の儀』を終えても、『ギムレー』を討たねば、この世界を覆う絶望を祓う事は出来ない。

 でも、ロビンが居てくれるのなら。

 そして、ロビンがそう言ってくれるのなら。

 

『ギムレー』にだって負けないのだ、と。

 絶望を全て祓えるのだと。

 ルキナはそう、思う事が出来る。

 

 ロビンの言葉は、何時も不思議とルキナの心の奥深くにまで沁み渡っていく。

 どんなに不安で押し潰されてしまいそうな時も。

 ロビンの「大丈夫です」と言う言葉一つで、抱き締めてくれるその温かさで、繋いだその手の優しさと頼もしさで。

 不安も恐れも、何もかもが溶ける様に消えてしまうのだ。

 だからこそ、ルキナは……。

『宝玉』探索を始めてからずっと、何かに苦しんでいるロビンを、助けたかった。

 ロビンが抱える不安や苦しみを、今度はルキナが……。

 だけれども、ロビンは決してそれは口には出さない。

 ルキナもロビンを守りたいのに、……守られてばかりだ。

 それが、心苦しい。

 

 だから、ルキナは。

 背中越しに、ロビンに訊ねた。

 

 

「ロビンさんは、私にして欲しい事とか叶えて欲しい事って、ありますか?」

 

 

 そう訊ねられたロビンは、暫し黙った後に、「一つだけ」と静かに答える。

 個人的な要望を言った事が殆ど無いロビンが、『宝玉』探索以外で、やっとそう言った『お願い』を他でもない自分にして貰える事が嬉しくて。

 

 

「何でも言って下さい! 

 私が出来る事ならば、何でもしますから」

 

 

 やっとロビンの力になれるのだ、と。

 ルキナは胸を弾ませながらロビンに訊ねる。

 そんなルキナを見たロビンが、背後で優しく微笑んだ様な気がして。

 そして。

 

 

「ええ、では。

『覚醒の儀』を終えた時に、改めてお願いしますね」

 

 

 と、そう柔らかな声でルキナに頼むのであった。

 

『覚醒の儀』を成功させなければならない理由がまた一つ増えたが、ルキナにはもう不安は無い。

 何故なら、ルキナにはロビンが居てくれるのだ。

『緋炎』・『蒼炎』と、この短期間で二つもの『宝玉』を奪還出来たのだ。

 

 だから、世界が滅びるよりも先に『炎の紋章』を完成させて『覚醒の儀』を行う事も。

 そして、ロビンの『お願い』を叶える事も。

 きっと、いや、必ず。

 成し遂げる事が、出来る筈なのだから。

 

 二人だけの旅路の中で。

 ルキナは、きっと訪れる筈であろう『近い未来』を想って。

 そして、それを現実にする為にも。

 より一層、気力をその身に漲らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 眼下に見えるその人影に、先に気が付いたのはロビンであった。

 

 

「おや、あれは……」

 

 

 と、そう小さく呟いたロビンの声に、ルキナもまた眼下に目を凝らす。

 そして、その人影の正体に直ぐ様気が付いた。

 

 

「あれは……! 

 ロビンさん、彼処に降りて下さい!」

 

 

 そうロビンに言うや否や、飛竜は眼下の人影に向かって降下して行く。

 眼下の人影も、接近する飛竜の存在に気が付いたのだろう。

 応戦しようと、手に武器を構えたのが見えた。

 そんな人影に、ルキナは呼び掛ける。

 

 

「待って! 私です! ルキナです!」

 

 

 その言葉を聞いた途端に、人影は──仲間達は。

 戸惑った様に武器を下ろした。

 

 

「えっ、ルキナ……? 何でこんな所に……」

 

 

 飛竜から降り立ったルキナに、困惑する様にそう声を掛けて来たのはシンシアだった。

 

 

「私も、『宝玉』を集める為の旅をしているんです」

 

 

 そう答えるや否や、仲間達全員から驚愕の声が溢れ落ちて。

「イーリスはどうしたの」やら、「ルキナが居ないとダメなんだから、こんな危険な場所に居ちゃダメじゃない」やら。

 そう口々に詰め寄られ、ルキナが事情を説明する暇が無い。

 

 ルキナに詰め寄る仲間達を制したのは、傍で見守っていたロビンであった。

 仲間達は見知らぬロビンに、警戒する様な眼差しを送る。

 

 そんな突き刺さる様な視線は意に介さずに。

 ロビンは手短に、『宝玉』の正確な所在を掴んだ事やルキナと二人で『宝玉』奪還に向かった経緯を説明した。

 やはり、自分達が何れ程探しても未だ掴めていなかった『宝玉』の所在を、既に全て掴んでいたと言うのはかなり衝撃的であった様で。

 仲間達は皆言葉を無くしてしまう。

 

 

「ところで、ルキナさんの仲間は全員で11人居ると聞いていたのですが……」

 

 

 この場にいるのはその半数だけである。

 ルキナも気にはなっていたのだが、詰め寄られていた為にそれを訊いている余裕が無かったので、ロビンが訊いてくれて正直助かった。

 

 シンシア、デジェル、ンン、ノワール、セレナの五人はロビンの言葉に顔を見合わせる。

 そして、チラリとルキナを見やった。

 見知らぬロビンを信頼して良いのか、まだ判断しかねているのであろう。

 幾らルキナがその傍にいるのだとしても、だ。

 

 その態度が仕方の無いモノであるのは分かっているけれど、でも。

 ルキナは、大切なロビンが、こうやって大事な仲間達からの疑いの視線に晒されるのが辛かった。

 だから、ルキナは何とか仲間達にも信じて貰おうと、必死にロビンについて説明しようとする。

 

 

「ロビンさんは、私の『軍師』で……そして何よりも信頼出来る人なんです。だから──」

 

 

 信じて、欲しいのだと。

 そうルキナが続けようとすると。

 

 セレナが、大きな溜め息を一つ吐いた。

 そして、降参とでも言いたそうに手を上げる。

 

 

「あー、もう。

 ハイハイ、分かったわよ。

 ルキナにそんな顔をされちゃ、信用出来ないとか無理とか何とか言えないじゃない」

 

 

 そして、セレナはグイグイと有無を言わさずに迫る様な勢いでロビンに近付き、その胸に右手の人差し指を突き刺す様な勢いで押し当てた。

 

 

「良い? あたしはあんたを信用した訳じゃ無いわ。

 あんたを信じているルキナを信頼しているだけよ! 

 ルキナにあんな顔させる位に想われているんだから、その信頼を裏切るのだけは絶対に許さないんだからね!!」

 

 

 そう釘を刺す様にセレナがロビンに言い放つと。

 セレナの剣幕に驚いたのか幾度か瞬きしていたロビンは、その言葉に穏やかに紅い眼を細めて頷いた。

 

 

「ええ、勿論です。

『僕』は、絶対にルキナさんを裏切らない。

 ルキナさんを、『僕』の全てを賭けてでも守り通します」

 

 

 その答えに、セレナは憮然と噛み付く様に返す。

 

 

「そんなのは当たり前よ。

 あたしが言いたいのは、ルキナを置いていったりしても絶対に許さないって事よ。

 例えそれがルキナの為であろうと、あんたがした事でルキナの気持ちを傷付けたりした時も。

 あたしはあんたを絶対に許さないし、地の果てまでだって追い詰めてやるんだから。

 分かった!?」

 

 

 そう気焔を吐く様な勢いで言い捨てて。

 セレナはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

 そんなセレナの言葉に、ロビンは……。

 何処か寂しそうに、「そうですね……」と頷いた。

 

 説明する気が無さそうなセレナに代わって、ここまでの事情を説明したのは幼い外見に反して仲間の中でも一・二を争うしっかり者であるンンだった。

 

 

 曰く、『宝玉』の所在の手掛かりとなる情報すらそれらしきモノが殆ど掴めないままであった仲間達は、このまま11人全員で纏まって捜索していても埒が明かないと判断して、危険も伴うものの男女で二手に別れたらしい。

 そして、ンン達はペレジアの何処かにある事だけは掴んである『白炎』を捜索しているのだとか。

 

 ルキナとロビンはこれから『炎の台座』を奪還しに行く所であったので、丁度良いかとばかりにルキナは『白炎』の在処をンン達に伝える。

 その情報の信憑性を疑っていたンン達であったが、既に『緋炎』と『蒼炎』の奪還に成功している事とその証拠となる二つの『宝玉』を提示すると、流石に信じてくれた様だ。

 

 

「皆さんは『白炎』の奪還に成功したら、直ぐにイーリスへと向かって下さい。

 そのまま『虹の降る山』を目指して貰った方が良いかもしれません。

『僕』とルキナさんは、残りの『宝玉』を奪還し次第直ぐに『虹の降る山』に向かいます」

 

 

 二人だけの飛竜での空路と、女性五人での陸路。

 比べるまでも無く、ルキナとロビンの方が先に目的地に到着するだろう。

 

 流石に残り三つを集めるのには時間が掛かるだろうが、ンン達が他の『宝玉』も集める場合よりは、早くに事が済むであろう事は間違いがない。

 途中で運良くウード達を見付けられたら、もっと早くに集め終わるかもしれない位である。

 だからこそ、ンン達には『白炎』を奪還したら直ぐにそれを持って、確実に『虹の降る山』まで届けて欲しいのだ、と。

 

 そうロビンが説明すると。

 やや完全には納得は出来なかった様だが、それでも皆が頷いたのだった。

 

 

『炎の台座』へと向かうルキナとロビンが、再び出立したその後で。

 遠ざかって行く飛竜の影を見送りながら、セレナはポツリと呟く。

 

 

「あんた、ルキナにあんなに愛されているんだからね……。

 その想いを裏切ったら、絶対に承知しないんだから……」

 

 

 その言葉が、遠く離れてしまったルキナとロビンに届く事は、無かった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 仲間達と別れて程無くして、ルキナ達は押し寄せる砂に埋もれる様に佇む神殿から『炎の台座』を取り返した。

 かつて、先々代の聖王であったエメリナが暗殺された際に奪われてしまっていたイーリスの国宝は、今漸くイーリスの民の元へと還ってきたのだ。

 

『白炎』の奪還をセレナ達に託した今は、残すは『碧炎』と『黒炎』のみ。

 後少し、後少しで。

 やっとルキナは、自分に託された『希望』を世界の未来へと繋ぐ事が出来るのだ。

 

『緋炎』と『蒼炎』を納めた『炎の台座』……いや不完全ながらも紛れもない『炎の紋章』を抱き抱えて。

 ルキナは、ここまで辿り着いた事に、そしてそこまで自分を導いてくれたロビンに、止め処無い感謝を抱いていた。

 

 ロビンが居なくては、ここまで来れなかった。

 ロビンが、ここまで自分を連れてきてくれた。

 その事を何度も何度も噛み締めて、ルキナはその度にとても言葉では伝えきれない想いを、ロビンに感じる。

 

 ルキナはロビンを支えられているだろうか? 

 ロビンの『半身』であれているのだろうか。

 

 ルキナは、何が在ってもロビンの手を離さないと誓った。

 ロビンは、何を賭けてでもルキナを守ると誓ってくれた。

 ロビンは、その誓いを守ってくれているけれど。

 ルキナは、自分の誓いを守れているのだろうか。

 

 確かにルキナはロビンの傍にいる。

 そしてロビンと繋いだその手を、絶対に離さないだろう。

 だけれども……。

 

 ロビンを苛む『何か』が、日増しに強くなっているのを、ルキナも感じていた。

 

 夜眠るルキナの横で、ロビンは時折『何か』に必死に耐える様な小さな苦悶の声を溢す事がある。

 ロビンが胸を押さえて『何か』に必死に抗おうとしている事もある。

 

 一体『何』がロビンを苦しめているのか、苛んでいるのか。

 ルキナには、分からない。

 何度訊ねても、ロビンは決して話してはくれなかった。

 そして、決まってこう言うのだ。

 

 

「『僕』は、大丈夫です。

 ルキナさんが傍に居てくれるなら、『僕』は絶対に貴女を守ってみせます。

『覚醒の儀』が成功すれば、『全て』終わるんです」……と。

 

 

『覚醒の儀』を成し遂げれば、ロビンを苦しめている『何か』から、ロビンを解放出来るのだろうか? 

 ならば、ロビンを苦しめているモノとは……。

 

 ……ルキナは、ロビンを苦しめているその『何か』に対して、ある種の確信を持っていた。

 ルキナは、この『宝玉』奪還の旅を始めてから一度だけ。

 ロビンが何時如何なる時も決して外さない右手の手袋の下を、見てしまった事があった。

 

 ……あれは、『炎の台座』を奪還した時の事だ。

 追っ手の屍兵が放った矢からロビンがルキナを庇った時。

 放たれた矢が、矢を避けようとしていたロビンの右手の手袋を切り裂いた。

 その下に隠されていたモノをルキナが目にしたのはほんの一瞬だけであったが。

 

 そこにあったモノ。

 三対の目を模したかの様な……まるで何かの烙印の様な痣。

 それは、ルキナの目にハッキリと焼き付いていた。

 最早信徒の誰もが邪竜へとその命を生け贄として捧げてしまった為に、既に壊滅してしまったとされるかつてのギムレー教団。

 その、象徴とされていた紋章に酷似したそれは。

 そしてそれがロビンの右手の甲に刻まれている意味は……。

 

 …………。

 だけれども、ルキナはその推測をロビンに話す事が、出来なかった。

 その右手に刻まれた痣を、見てしまった事も含めて……。

 

 ロビンを信頼していない訳では、勿論無い。

 もし、ロビンの本来の立場が、役割が、ルキナの推測通りであったとしても。

 ロビンが今も尚、彼方側の存在であるのだとしたら。

 

 こうやってルキナに『宝玉』を集めさせる筈が無いからだ。

 寧ろ、それを全力で妨害しなければならない筈なのだから。

 ルキナ達に『覚醒の儀』を行わせようとしているのは、何よりもの背信行為に当たる筈なのだから。

 

 そんな危険を犯してでも、そして自らを擲ってでも。

 ルキナを守ろうと全力を尽くしてくれているロビンの誠意と真意を、ルキナは疑えない。

 

 ……なのに、そこまでロビンを信じていて尚それを言い出せないのは。

 偏にルキナが恐れているからだ。

 

 もしロビンがルキナに頑なに隠し続けてきたモノを、ルキナが無理に暴いてしまったら。

 ルキナは、ロビンを喪ってしまうのではないか、と。

 ……ロビンが裏切るとは欠片も思ってはいない。

 だが……。

 ロビンが、ルキナの元を去ってしまう可能性を、否定は仕切れなかった。

 

 だからこそ、ルキナは。

 ロビンを苦しめているモノが、『ギムレー』なのであろうと。

 そして、ロビンが元々は『ギムレー』の手の者であったのだろうと。

 そう半ば確信しながらも、口を閉ざしているしかなかった。

 

 そして、だからこそ、と。

『ギムレー』を討ちさえすれば、ロビンは『ギムレー』から解放される筈なのだからと。

 そうすれば、もう何の憂いも無く、ルキナとロビンは共に在れる筈なのだと。

 

 そう、固く信じるしかなくて。

 

 

「……必ず、『覚醒の儀』を成功させましょう。

 そして、『ギムレー』を討つんです。

 そうすれば、きっと、全て……」

 

 

 この絶望も、ロビンを苦しめる『全て』も、きっと終わる筈なのだから、と。

 そして、ロビンの『お願い』を、やっと叶えてあげられる筈なのだから、と。

 

 ルキナがそう自分に言い聞かせる様に呟く度に。

 ロビンは、「必ず、成功させましょう」と頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 恐らく最も奪還が困難であろう『黒炎』よりも先に『碧炎』を奪還しようと、二人がかつてのペレジアの港町があった場所へと向かっていた時の事だ。

 

 眼下に見える沿岸部にある街は、もう既に生きている者など存在しない廃墟と化していて。

 長い事人が住んでいなかった事を示す様に、遠目から見ても荒れ果てていた。

 長らく襲う人間など最早一人として残っていないからか、屍兵の姿すらも見えない。

 かつてはヴァルム大陸との交易などで潤っていたのであろう名残も所々に残されている為、それが一層この光景の悲惨さを際立ててしまっていた。

 

 そしてそんな廃墟となった街中に、ルキナはよく見知った人影を見付ける。

 それは、ルキナの仲間であるウードであった。

 

 以前と同じ様にそこに降りて貰う様にロビンに頼み、ルキナはウードに声を掛ける。

 

 

「なっ……! 何でルキナがここに!?」

 

 

 驚きのあまりにか、何時もの口調を忘れてウードが叫ぶ。

 そしてその声を聞き付けたのか、他の仲間達もその場に集まってきた。

 

 そしてルキナがここに居る事に驚くと共にロビンへの不信感を隠さない仲間達に対して、以前セレナ達にしたように、ロビンが手短にこれまでの経緯を話し始める。

 ロビンへの警戒は解いて貰えなかったが、ルキナが仲間達にこれまでの経緯を聞き出した所によると。

 

 どうやらウード達は『碧炎』が正確な所在は不明ながらも海の向こうにある事を掴んだらしく、外海に出る為に船を探しにこの廃墟となった港町を訪れたらしい。

 

 ウード達が『碧炎』を探していたのなら丁度良い、と。

 ルキナとロビンはウード達に『碧炎』の在処を伝え、船を探す手伝いをすると申し出た。

 ウード達もロビンの言葉には疑心を抱いていたものの。

 セレナ達と同じく、既に集めた『宝玉』と『炎の台座』を見せれば、渋々信じてくれた……のだが。

 

 ただ一人、ジェロームだけは訝る様にロビンを見ていた。

 いや、ジェロームが気にしているのは、正確にはロビンを見て何事か反応しているミネルヴァの様子であるが。

 チラチラと幾度もロビンを見ては、どう反応するべきか迷う様な仕草を見せるミネルヴァを、ロビンもまたジッと見詰める。

 ミネルヴァは警戒している訳でも無く、かといって懐いている訳でも無い。

 その態度を人のモノに当て嵌めるのなら、正しく『困惑』と表現するしかなかった。

 

 

「…………ミネルヴァが警戒はしていない、と言う事は貴様が私達やルキナを害そうとはしていないのは確かなのだろう。

 だが、貴様を信頼する事も出来ない」

 

 

 そのジェロームの言葉に、ロビンは「分かっています」と頷く。

 

 

「それで構いません。

 貴方からすれば、急に現れた『僕』に信頼を置けないのは当然の事ですから。

 しかし、それでも。

『僕』が『覚醒の儀』を成功させようとしているのは、紛れもなく本当です。

 信じてくれ、とは言えませんが……」

 

 

 そう答えたロビンに、ジェロームは一つ溜め息を吐いた。

 そして、困惑するミネルヴァに寄り添う様に、その頭を撫でる。

 

 

「『碧炎』の手掛かりが無かったのは事実だからな。

 貴様を信頼した訳では無いが、その情報に従ってみるとはしよう。

 ……罠ではない事を、祈りながらな」

 

 

 そう言ってその場を立ち去るジェロームとミネルヴァを、ロビンは黙って見送った。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 程無くして、船は見付かった。

 ルキナとロビンが偶々立ち寄った造船所の倉庫の片隅に、隠される様にして安置されていた船を発見したからだ。

 放置されてもう十年近く経ってはいるものの、船としての機能に問題は無さそうで。

 六人と一頭の飛竜を乗せる位ならば十分どころかお釣りが来る程の大きさだ。

『ギムレー』復活後に沿岸部では数多の船が徹底的に破壊されてきた中で、これ程の船が破壊される事無く無事に残されていたのは、本当に幸運であるとしか言い様が無い。

 見付けた時には、ルキナのみならずロビンまでもがかなり驚いていた程だ。

 

 

 その船を仲間達総出で倉庫から引っ張り出して海に浮かべ、錨を下ろした時には。

 船を見付けたのが昼過ぎ辺りであったのに、もう日が暮れてしまっていた。

 ここで一泊する事に決めたルキナとロビンは、引き続き船に食料や水などの物資を搬入する作業を手伝う。

 それが終わる頃には、当初のウード達のロビンへの不信感もかなり薄れていて。

 ジェロームはまだかなり距離を置いてはいたが、ロランなどはロビンから船の操り方を熱心に教わっていた。

 そしてロラン達がロビンから操舵について太鼓判を捺される頃には、すっかりウード達はロビンを受け入れる様になっていたのだ。

 

 本来は、操舵技術があるロビンの方こそ『碧炎』の捜索に行くべきであろうし、その方が確実だ。

 

 だが、ロビンは。

『黒炎』の奪還だけは、決してウード達には譲ろうとはしなかった。

 幸い『碧炎』はペレジアから海に出て二・三日もあれば辿り着ける島にあるのだから、と。

 ウード達を『碧炎』の奪還へ送り出そうとする。

 

 ルキナは、その理由をロビンに訊ねた。

 どうしても『黒炎』はロビンの手で取り戻さねばならないのだとして、『碧炎』を奪還してから『黒炎』を奪還しに行っては駄目なのか、と。

 

 すると、ロビンは重々しく頷く。

 そして、「もう時間が無いんです」とだけ呟いた。

 

 

「『黒炎』だけは、『僕』が奪還しなくてはなりません。

 ですが、恐らくはもう……。

『碧炎』を奪還してから向かう程の時間は、無い……。

 そうすれば、『虹の降る山』に辿り着けるまでの時間は、残っていないでしょう。

 だからこそ、『碧炎』はウードさん達に任せてでも、『黒炎』の方へと行かなければ、ならないんです……」

 

 

 ロビンを苛む『何か』──『ギムレー』が、刻一刻と強くなってきているのかもしれない。

 

『時間』がもう無いのだ、と。

 ロビンは時折そう辛そうに呟く。

 一体その『時間』とは何なのか、そしてその『時間』が終わった時にロビンがどうなってしまうのか…………。

 ルキナには、何も分からない。

 訊きたいのに、訊けない。

 訊いてしまえば、全てが終わってしまう様な、そんな気がするのだ。

 

 そして、そんなロビンが。

 今も尚『ギムレー』に苛まれているのであろうロビンが。

『ギムレー』の力が最も強い地である『竜の祭壇』に向かえばどうなってしまうのか……。

 とても、嫌な予感がする。

 もしかしたら、ロビンがそこで、『残された僅かな時間』を使いきってしまうのではないのかと、そう感じてしまって。

 それなのに何も出来ない自分の無力が、ルキナは辛く苦しかった。

 

 ルキナが一人で『黒炎』を奪還出来るのならば、そうしたいのだけれども。

 ……『緋炎』を奪還した時も、『蒼炎』を奪還した時も、『炎の台座』を奪還した時も。

 ルキナは、ロビンに守られてばかりだった。

 ロビンが居なくては、そもそもの『緋炎』の場所にすら辿り着けず、奪還などとてもではないが叶わなかっただろう。

 

 そんなルキナに、何が出来るのだろう。

 

 ロビンを守りたいのに。

 ここに居る『彼』を、ルキナだけの『軍師』を、ルキナの『半身』を、守りたいのに。

 

 ルキナに出来るのは、どんな時でも何があっても、その手を絶対に離さない事位しかないのだ…………。

 たったそれだけで、何れ程ロビンの力になれていると言うのだろうか……。

 

 そんな想いを抱えつつも。

 ルキナはウード達の出航を見送ってから、『竜の祭壇』へと。

 最後の『宝玉』である『黒炎』が隠されている地へと、向かうのであった…………。

 

 

 

 

 

 

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