『王女の軍師』【完結】   作:OKAMEPON

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出来れば、後書きの後書きまでお目を通して頂ければ幸いです。



【後書き】

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

【初めに】

 

 この物語を最後までお目を通して頂き、誠に有難うございます。

 二人の『結末』は如何でしたでしょうか? 

 この物語をお読み頂いた方の心に、『何か』を残せれば、と願います。

 

 最後に、物語を完結させた証として。

 この場を借りて、物語全体への雑感や、キャラクターの設定、各話について少しお話ししたいと思います。

 この後書きはEND①~⑤を全て読んだ事を前提として書かせて頂いておりますので、ネタバレが多く含まれている事には御留意下さいませ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

【物語全体への雑感】

 

 Twitterの相互さんとのやり取りから始まった即興小説が元となったこの物語ですが、様々な方々にお読み頂き、再録するに当たって全体的に加筆修正している為、大筋は全く変わっていませんが細かい所では当初公開したものとはかなり変わっているかと。原文版を既にお読み頂いた方にも楽しんで頂ければ幸いです。

 

 ギムレーとルキナのCP小説ではありますが、この物語の『ロビン』はギムレーそのものとは少しだけ異なります。

 ある意味、ギムレーの別人格ですね。

 それでギムルキと言っても良いのかな? とは少し思いましたが、それ以外に二人の関係性に関して当て嵌まるものは無いので、この物語はギムルキです。

 

 この物語にテーマがあるとすれば、それは『愛』です。

『愛』は時に全てを壊してしまう程の【呪い】になってしまいますが、それによって救われるものもあるのでしょう。

 バッドENDでルキナの全てを奪ってしまったのもギムレーの『愛』故ですし、メリバENDでルキナが何もかもを捨ててロビンを選んだのも『愛』の為。

 ビターENDでロビンがでルキナの記憶を奪ったり……或いは自分を殺させる為に行動したのも、それもやはり全て『愛』故です。

 ある一方向から見れば『愛』は何かを破滅させたり滅ぼしたりしていますが、また別の方向から見れば何かを救ったりしています。

 何が正解なのか間違っているのか、それはどの立場に居るのかでやはり異なるモノなのでしょう。

 なので、便宜上バッドだのメリバだのビターだのと分けていますが、私にとってはどれも等しく、二人が自身で選んだ結果至った結末であります。

 また、ロビンはルキナを真実『愛』していますが、その『愛』がルキナ達人間に理解出来るものであるのかと言えば話は別ですね。

 ある意味純粋過ぎる程の『愛』は、やはりロビンが人ではないからこそです。

 ギムレーを滅ぼす事が出来るのは、『愛』と言う【呪い】だけだと思います。

 二人の『愛』の結末を、見届けて頂ければ幸いです。

 

 何時かまた、覚醒を題材にした物語を書くかもしれません。

 その時もまた、お目に掛かる事が出来れば幸いです。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

【キャラクター設定など】

 

 

『ロビン』

 

 ギムレーがルキナと接する内に生まれた人格の仮面──心理学的用語で言う所の『ペルソナ』です。

 ギムレーの中に欠片として残っていたルフレの記憶や想いの影響を多く受けています。

 心の底からルキナを誰よりも愛し、ルキナを傷付けようとするものから彼女を守りたいと思っています。

 それだけは、BADルートでもビタールートでも変わりません。

 

 BADルートではギムレーとしての自身と本質が全く変わらない為に、ルキナが傍に居たいと願ったのだからと、その心を無視してでも眷族にしてしまいます。

 ビタールートでは、BADルートよりも強くルフレの影響を受けた結果、ギムレーとしての本質から乖離してしまいました。

 演じている役と自身の境界が曖昧になるのがBADルートのロビン(=ギムレー)なのだとすれば。

 役そのものが自我の様なモノを得て動き出したのがビタールートの『ロビン』(≠ギムレー)です。

 

 BADルートのロビンはギムレーとしての本質から乖離していないので、消滅する可能性はありません。

 どちらの結末でも心の底からルキナをずっと愛し続けますし、ルキナとの間にマーク達が産まれると思います。

 

 しかしビタールートの『ロビン』は、何れ程本質から乖離しようとも『ロビン』がギムレーである事は変わらず、寧ろ乖離してしまったが故に本来のギムレーとしての自分に侵食されて『ロビン』は消滅の危機に陥ります。

 乖離してしまったビターの『ロビン』は、本来の自分(BADルートのロビン)に近付けばルキナの意志を踏み躙って眷族にしてしまいますし、今の自分を貫こうとすればギムレーに侵食されて『ロビン』そのものが消えてルキナを殺そうとしてしまいます。

 そして、ルキナから離れると、ルキナの為の人格の仮面であるが故に自分を保てなくなります。

 割りと八方塞がりな状態でした。

 

『ロビン』は、ルキナを一番大切にしていますし、その意志や心を尊重します。

 ルキナの為なら何でもしようとしますし、自分の全てを文字通り捧げます。

 だけれども、誰よりも自分勝手です。

 それが結果として最善だと判断したら、ルキナの意見も聞かずにそれを選んでしまいます。

 自分や、自分に向けられた想いを顧みる事がありません。

 だからこそ、ルキナを傷付け無い様にとルキナの記憶を奪う事や、そして自身を殺させる為だけにルキナと共に「宝玉」を集める様な事が出来ます。

 誰よりもルキナには優しいけれど、誰よりもルキナに残酷なのです。

 

 

 ロビンの名前は、海外版のマイユニットのデフォルトネームの『Robin』より取りました。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『ルフレ』

 

 幼いルキナを、もう一人の父親の様な気持ちで優しく大切に見守っていました。

 結婚相手は居ません。

 ギムレー復活の際にその人格と記憶は粉々に砕かれてしまった為に、ルフレも既に死んでいます。

 それでもルフレの想いや記憶はギムレーの中に欠片として残り、ギムレーがその記憶を参考にしてロビンを演じている内に『ロビン』の人格が生まれました。

 なので、ある意味『ロビン』はルフレの子供の様なモノなのかもしれません。

 

 この物語では、ルフレの容姿をしっかりと覚えているのはミネルヴァだけです。

 絵姿なども残っておらず、ルフレの名前と功績だけが人々の記憶に残っている状態です。

 

 ギムレーが消滅したEND④とEND⑤では、ギムレーから解き放たれた後、クロムと共に彼岸からルキナを見守っています。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

『クロム』

 

 ファウダーに操られたルフレに殺された後、魂だけはファルシオンに宿ってルキナを見守っていました。

 END⑤で『竜の祭壇』でギムレーに呑み込まれかけた『ロビン』を助ける為に一瞬だけファルシオンが応えたのは、クロムのお陰です。

 ギムレーを討ち消滅させたEND④とEND⑤では、ギムレーから解き放たれたルフレと共に、彼岸からルキナを見守っています。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

【各話への解説など】

 

 

【第一話『王女と軍師』】

 

 全てはここから始まった、そんな第一話でした。

 

 個人的に、『最後の希望』なんてモノは、人一人が背負いきれる様なモノでもないと思います……。

 何よりも強い使命感を抱いているのがルキナの魅力の一つではあると思うのですが、時折痛々しく感じてしまいます。

 そんな、無理が限界に達しかけていた時に、『ロビン』に出逢ってしまったのが、全ての始まりですね。

 

 この時点では、『ロビン』は100%ギムレーの演技です。

 それに気付けない位に、ルキナが追い詰められていたと言う事でもあり。

 それを気付かせない位に、ギムレーの演技は完璧でありました。

 演技が完璧であるが故に、次第にギムレーの内に『ロビン』と言う人格が芽生えていく事になります。

 

 また、時間経過としては、仲間たちが旅立ってから三ヶ月位の時です。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第二話『記憶の彼方の遠い貴方に』】

 

 まだ演技の部分も少なくはありませんが、この時点で既に『ロビン』の人格がかなり育っています。

 まだギムレー自身は自覚はしていませんが……。

 

 ルキナがどんどん『ロビン』に絆されて依存していく話です。

 無意識の内に、かつて大好きだった『ルフレおじさま』を『ロビン』と重ねています。(『ロビン』自体がルフレを参考にして演じているものなのでそれも致し方無しです)

 

 時間経過としては、二人が出会ってから三ヶ月(仲間達が旅立って半年)位です。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第三話・A『星灯無き夜に誓う』】

【第三話・B『夜闇に二人、誓う』】

 

 この時点で、『ロビン』の人格が完全に出ています。

 最早演技の部分は0です。

 しかし、まだ『ロビン』自身はギムレーとしての本質と『ルフレ』から影響を受けた部分が混在している状態です。

 ルキナが『ロビン』に“何”を求めるのか……。

 それがBADとビターとの分岐点となっています。

 

『ロビン』がギムレーとしての本質から乖離していないここで『ずっと傍に居て欲しい』とルキナが言ってしまうと、誓い通りに『何があっても絶対に離さない』結末へ……BADエンドへと分岐してしまいます。

 それが第三話・Aの方です。

 なお、BADエンドだとルキナの中から完全に『ルフレ』の存在が消えてしまいます。

 ちなみに、この直後に恋人になりました。

 

『ロビン』の中にある『ルフレ』の欠片を揺さぶると、『ロビン』がギムレーとしての本質から乖離するビタールートへと突入します。

 それが『第三話・B』の方です。

 自分だけの軍師で居て欲しい、と言うのはAの方と変わりませんが、Bのルキナはそれと同時に半身として自分も『ロビン』を支えたいと思っています。

 

 時間経過としては、出会ってから九ヶ月(仲間達が旅立って一年)位です。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第四話・A『世界と貴方を秤に掛けて』】

 

 二つのBADエンドへの分岐点です。

 因みに、もし『ロビン』が何もしなくても、仲間達が「黒炎」を入手するのはほぼ不可能でした。

 

 ロビンとしては、ルキナを眷族にするのは既に確定事項だったのですが、いきなり無理矢理に眷族にするつもりも無かったので、一年近くも「恋人」生活を続けていました。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第四話・B『貴女の想い、僕の望み』】

 

 ギムレーと乖離した『ロビン』が苦悩する話、でもありますが。

 ルキナが『ルフレ』の事をちゃんと思い出すのがメインです。

 時間経過としては、二人が出会ってから一年と三ヶ月強(仲間達が旅立って一年半強)です。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第五話・A『永久に叶わぬ恋夢』】

 

 初めての『ロビン』視点です。

 

『ロビン』がルキナから記憶を奪ったのは勿論ルキナを苦しめない様にと想っての事でしたが、だからこそ『ロビン』は間違えています。

 結局、END④では最後の最後の最悪な状況で記憶は戻ってしまいますし、END③でもルキナは絶対に消えない「虚」を抱えてしまいます。

 記憶を奪うと言う行為の間違いに『ロビン』が気付くのは、END⑤でルキナの想いを聞いてからです。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【第五話・B『在るがままに愛しき人へ』】

 

『ロビン』が、記憶を奪ってルキナの元を去るのでは無く、自分が自分で居られる内に「覚醒の儀」を済ませて殺して貰う事を選択した場合の展開です。

 ギムレーである『ロビン』が同行している段階で、「宝玉」集めはスーパーイージーモードです。

 ギムレーが仕掛けた罠を、『ロビン』が解除してしまうので、ルキナにはほぼ危険はありません。

 

 移動手段に飛竜を選択したのは、DLCの『絶望の未来』でマークがドラゴンマスターになっていた事も反映しています。

 FE覚醒に出てくる飛竜は、元を辿れば獣と化して知性を喪った竜族の成れの果ての様なモノなので、ギムレーと通じるモノもあるのかな……と少し思います。

「緋炎」が隠されていた場所は、FE紋章の謎などにあった『氷竜神殿』を少し意識しています。

 

 セレナが何と無く察したのは『女の勘』です。後は、恋とかへの察しの良さ。

 ミネルヴァに関して言えば、ルフレそのままの容姿だけど、ルフレじゃないし人間でも無い『ロビン』にどう反応するべきか戸惑ってます。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【END①『終焉の果て』】

 

 BADエンドの内の、悪い方です。

『希望』や『使命』を捨てられないルキナの為にも、ルキナがそれらを背負わねばならない原因となっているナーガを消滅させます。

 なお、ロビンは完全に善意でやってます。

 ナーガの抹消と、ナーガの後を継げる神竜族(チキとか)を一人残らず魂も残さずに抹殺するのに、形振り構わないギムレーの全力でも二週間掛かりました。

 二週間以上ルキナと離れていても『ロビン』が消えなかったのは、ギムレーと乖離していないからと言うのも有りますが、ルキナの為だからと言う想いでずっと居たのも大きいです。

 

 ルキナ以外は本気でどうでも良いと思っているロビンが、仲間達も眷族にしても良いよと言ってあげるのは、心の底からルキナを愛しているからです。

 仲間達を眷族にしたのかどうかは不明、と言う事にしておきますが。

 ロビン的に仲間は心の底からどうでも良い存在なので、眷族化した段階で完全に洗脳されています。

 尚、ルキナは、眷族にされても洗脳はされてません。

 ロビンには、誰よりも愛しているからこそ、ルキナの心を無理矢理縛るつもりは全く無い為です。

 

 ルキナが最終的にロビンをどう想っているのかは分かりませんが。

 元々誰よりも愛している相手ですし、千年単位でずっと愛され続けていたら、少なくとも絆されているとは思います。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【END②『あなたが居れば』】

 

 解説不要なメリーバッドエンド。

 とにかく二人はずっと幸せです。

 可愛い子供たちにも恵まれますし。

 確実にロビンは親馬鹿になります。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【END③『旅路の果てに時よ廻れ』】

 

 この物語に於いて「黒炎」は、ロビンが取りに来るか、ロビンがギムレーの仕掛けた罠を解除しない限りは、誰にも入手出来ません。

 END③の『ロビン』は、ギムレーを半年間強抑え込む事に精一杯で、そこまで手が回りませんでした。

 だから、「黒炎」だけが未回収になってます。

 

 最早完全に消滅したも同然であった『ロビン』がギムレーを僅かでも押し留める事が出来たのは。

 ルキナが、諦めずにギムレーに立ち向かおうとしたからです。

 誰よりも守りたかったルキナのその姿を見たからこそ、『ロビン』は僅かに表に出る事が出来ました。

 諦めたままですと、ルキナはあの場でギムレーに食い殺されています。

 また、この時に『ロビン』は今度こそ完全消滅してしまったので、二度目はありません。

 

 跳んだ先の過去で、ルキナはルフレと結ばれるかもしれませんが、ルキナの胸には「虚」が死ぬまで残ったままです。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【END④『掛け違えた道の先で、君と』】

 

 ルキナの元を去った後で『ロビン』が、仲間達の「宝玉」探索を陰ながら全力でサポートしていた場合の結末です。

 ルキナの元を去って四ヶ月弱で、全ての「宝玉」の回収が終わってます。

 仲間達が合流する辺りまでは何とかギリギリ表に出続けられていましたが、それ以降はもう『ロビン』は表には出られず仕舞いでした。

 

 しかし、『虹の降る山』でルキナの姿を見付けた辺りから少しずつ『ロビン』の意識が再び表層に出ていました。

 ルキナと話し始めた辺りで50%位。

 ルキナの答えに微笑んだ辺りで75%。

 戦い始めた辺りで85%。

 そして、態と止めを刺された辺りでは、100%『ロビン』です。

 

 ルキナが後腐れなく邪竜を討てる様に態と見え見えの攻撃をしたりと、『ロビン』は茶番を演じていましたが。

 それで戦いが長引いてしまったが為に、封じた筈のルキナ記憶が戻ってしまう結果になりました。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【END⑤『たった一つの、冴えたやり方』】

 

 紫炎は、生け贄とかの恨みとか、そう言うモノが集まって出来てるものです。

 呪術師などの耐性が高い相手以外がこの炎を見ていると、魅入られてしまい、その紫炎に取り込まれてしまいます。

 勿論ギムレーである『ロビン』には効きませんが。

 

「黒炎」は、ギムレー以外が取ろうとすれば、強制でSAN値0にされた挙げ句の果てに洗脳されてその場のギムレーに敵対する者を全員殺した後に生け贄として紫炎に呑み込まれる、そんな呪術が掛かっていました。

 サーリャとヘンリーが居れば、もしかしたら解除出来たかもしれませんが、子世代では先ず無理です。

『ロビン』には罠自体は効きませんでしたが、強烈なギムレーの力によって一気に自我の侵食が進んでしまいました。

 

 どの結末よりも、ルキナにとっては残酷な結末になってしまった話ですね……。

 この結末はビターENDですが、個人的にはGoodENDでもある気がします。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

【断話『葬送の花』】

 

 再録に伴って書き下ろした、ビターENDに分岐した時間の何処かでの出来事です。

 作中に登場した『不屈の花』は、『メイドインアビス』と言う作品に登場するそれを元にしております。勿論、『メイドインアビス』を知らなくても全く問題なく楽しめますが、もし知っていましたら「あっ……」と思って頂けるかな? と。

 楽しんで読んで頂ければ幸いです。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

【最後に】

 

『ロビン』がギムレーであるからこそ。

『ロビン』とルキナが、二人一緒に幸せになれる可能性は殆どありません。

 それでも。

 犠牲ENDで、竜の心に打ち克って、ルフレが戻って来れた様に。

 ルキナと『ロビン』の心が確かに結ばれているのなら。

 小さな小さな奇跡が起こり得るのかもしれないと、そう思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆




【願い叶わねども、想い満ちれば】

◆◆◆◆◆






 それが、決して叶わない夢である事は、ルキナは誰よりも分かっている。
 死者は蘇らず、この世から消えた存在に現世の者が逢う術など存在しない。

 それでも、愛しいあの人への想いは。
 何れ程の時が過ぎ去ろうとも、決して薄れゆく事も無く。
 夜空を古の時代から変わらずに彩る星明かりの様に、何時もルキナの胸の中に在った。

 ふとした瞬間に、彼との思い出が色鮮やかに甦り。
 もう逢えぬと、それが叶わぬと理解しながらも。
……また逢いたいと、そう心から想う。

 夕暮れの紅に、彼の面影を探して。
 月を仰ぎ見ては、彼を想って。
 星の輝きの中に、彼と過ごした日々を映して。
 眠れぬ夜は、忘れる事など出来ぬ彼の姿を想い描いて。
 夢の中で、彼の腕に抱かれて眠る。
それはいっそ【呪い】ですらあるのかもしれないけれど。
ルキナにとっては何よりも愛しい【呪い】であった。

 何時かまた逢いたいと、消え行くその間際に彼もまたそう願っていた事だけを微かな望みとして。
 叶わぬ望みであっても、もう逢えぬ定めなのだとしても。
 この想いが満ちゆけば、何時か。
 この祈りを失くさずに懐き続けていれば、何処かで。
 時の環の彼方で、この命が廻りゆく何処かで。
また……再び『彼』に逢えるのではないか、と。
 夢の様なその願いを、信じ続けて。



 ルキナは、『彼』だけがいない優しくて残酷な救われた世界の中で、『彼』が守った命を懐いて、生きていた。






◇◇◇◇◇






 その日の夕暮れ時は、とても美しく悲しいものであった。
 まるで、あの別れの日をそのまま焼き写したかの様に。
 沈み行く夕日によって世界は紅に染まり、穏やかなその色はまるで彼の眼差しの様で……。
 
 視察の為に訪れたその地で、ルキナは独り夕暮れを歩く。

 世界の輪郭が曖昧になりそうな黄昏時に、ルキナは何時もの様に、天を仰いで愛しい人の名を呼んだ。
 その声に応える者は、何処にも居ない。

 それを何時もの様に寂しいと……そう想いながらも、『彼』を探す事を諦められず、独り夕焼けの中を彷徨う。
 そして、ふと──

 今歩いているその場所が、かつて彼と初めて出会ったあの廃村の跡地なのだと、何処か見覚えのある木々や地形によって気が付く。

 それは、ほんの偶然で。
 意識してそこを彷徨っていた訳ではない。
 だけど、何故か。
 行かなくてはならない気がして。
 ルキナは、己の心が導くままに駆け出した。
 そして、あの日の出逢いが鮮明に脳裏に描かれる。


 あの日、ルキナは『希望』や『期待』と言う名の底無し沼に今にも溺れそうになっていた。
 そしてそんな、何もかもに溺れかけていたルキナの手を取ったのが、『彼』だった。

 優しい眼差し、優しい声……。
 その時の『彼』にルキナが見出だしていたそれらは、『彼』の演技だったのかもしれないけれど。
 『彼』と過ごした時間は、交わした言葉は、与えられた温もりは、そこにルキナが感じた全ては。
 どれも、本物であった。

 愛していた。
 そして、今も愛し続けている。
 どれ程時が過ぎても。
 傍に居て欲しいたった一人は、『彼』だけであった。


 そして、あの日、『彼』と出会ったその場所に。
 今は林となっているその場所に。

 泣きたくなる程に見覚えがある黒いコートが、そしてそれを纏った何者かが。
 茂みの中に埋もれる様にして倒れていた。


 夕暮れが世界を紅く染める中。
 ルキナは、ゆっくりと慎重に、だけど逸る気持ちを抑えきれずに。
 そこへと歩み寄る。


 そして、倒れている何者かの顔を見て。
 ルキナは──
 顔を覆って、泣き崩れた。


 あの日夕焼け空に消えた愛しい人が、其処に居た。
 もう逢えぬ筈の人が、静かに息をして、眠っていた。

 愛しい想いが込み上げてきて。
 嗚咽が、ルキナの口から溢れる。
 愛しいその名前を、繰り返し呼んだ。

 すると、その声に反応してか。
 眠っていた『彼』は薄目を開けて、周りを見回していた。
 その瞳は、何処かぼんやりとはしているけれども。
 探し求め続けていた、優しく穏やかな、愛しい紅色で。

 今にも泣き崩れてしまいそうな自分を何とか抑えながら、ルキナは彼に手を差し出した。


「立てますか?」


 どこかぼんやりとした眼差しまま、『彼』は目の前に差し出されたルキナのその手を、そっと握り締める。
 思い出の中の温かさそのままの温もりが、其処にはあった。

 彼の身体を起こし、そして耐えきれなくなったルキナはそのまま彼を強く抱き締める。
 もう、二度と離したくなくて。
 もう、何処にも消えて欲しくなくて。


 漸く、逢えたのだ。
 漸く、この手の中に戻ってきたのだ。
 叶わない筈の願いが……『奇跡』が叶ったのだ。
 今度こそ、もう……ルキナは絶対に彼を喪わない。


「ロビンさん、ロビンさん、ロビンさん……」


 ルキナが縋る様に繰り返しその名前を呼んでいると、『彼』は何故か少し戸惑っていた。
 そして──



「あの、……。
 僕の名前は、『ロビン』、と言うのですか……?」



 困惑した様に、そして何処かおずおずと、『彼』はそうルキナに訊ねる。


「えっ……?」

「どうやら、僕は……何も思い出せないのです。
 ここが何処なのかも、僕が誰なのかも……。
 貴女は、僕の事を知っているのですか……?」


 『彼』は、記憶の一切を喪っている様であった。
 ルキナと過ごした日々も、抱え続けていた苦悩も。
 『彼』には、何も無い。
 まっさらな『彼』は、それでも何一つとして変わらない、あの穏やかな瞳でルキナを見ていた。

 彼から記憶が喪われたのは何故なのだろうか。

 消滅の定めを覆し、ルキナの元へと戻ってきた代償なのだろうか。
 それとも、『ギムレー』からの侵食が進み過ぎてたが故なのだろうか。

 それは、分からないけれど。
 それでも。

 共に過ごした記憶が無いのだとしても。
 彼は、ルキナの愛しい『半身』であった。
 だからこそ、ルキナは。
 もう二度とこの手を離さない。

 記憶を喪ったと言うのなら、また初めから積み重ねれば良いだけなのだ。
 彼を喪ったあの日を想えば、そんなモノはルキナにとっては如何程でも無い。

 だから──。


「……初めまして、私は、ルキナです。
 そして貴方は、『ロビン』。
 私の、誰よりも大切な人です」


 そう答えると。
 彼は僅かに目を瞬かせた。
 そして、そっと優しく微笑む。


「ルキナ、さん……。
 ……どうして、でしょうか。
 何も、思い出せないのに。
 貴女の事が、とても大切だった様な気がするんです。
 きっと、記憶を喪う前の僕にとって……。
 貴女はとてもとても、大切な人だったんですね……」


 そう言って、彼はルキナの手を優しく握り返した。
 その右手の甲には、もう。
 あの烙印の様な痣は、何処にも無い。

 フワリと、優しく吹き渡る風がルキナの頬を撫でて行く。
 何故か其処にルキナは、とてもとても懐かしい誰かの微笑みを感じた。
 想いが満ちゆき、叶わない筈の祈りは、確かに届いた。
 最早『彼』は邪竜の定めからは解き放たれ、『彼』として生きる事を、世界から赦された。
 それは、世界を救った者への、そして『彼』への。
 世界からの一つの餞であるのかもしれない。
 
 あの日止まってしまった二人の時間は、今再びこの時より動き出した。
 その未来には、幸も不幸も等しく存在するだろう。
 未来がどうなるのかは、誰にも分らない。
 二人の結末も、幸せなものになるとは限らないのだろう。
 
 だが、例えそうであっても。
 諦めさえしなければ。
再び巡り逢えた二人が、繋いだその手をもう二度と離さずに居られる事だけは、ただ一つ確かな事である。

 ずっと傍に居たいと言う、細やかで愛しい願いが、今漸く叶ったのであった……。






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