それはある意味神々しいとすら言える光景だっただろう。
そこに立ったことに気付いた俺は顔を上げーーーそこにいるべき主がこちらを見て笑っていることを知る。殴ってやろうか、と思いつつ、毎晩夢の中でこのように交流をしているのだが、彼女はそれほど暇なのだろうか。前に聞いた話では異世界に遊びにいったりするくらいだったらしいので、まぁ、うん。理解もできるが。
しかし一応神様役みたいなことをしているやつがそれは不味いだろう、と言う気持ちもある。果たしてそれは大丈夫なのか? 大丈夫なんだろうなぁ。キチガイさんとかいるくらいだし。まぁとりあえず腕を組みながら言った。ーーー言ったのだ。
「まずお前ーーーその服なんぞ?」
黒を基調とする奇怪な服。スカートはふんわりと、大きくそこだけで面積をとっており、頭には飾りを付け、髪は幼げに横で二つに吊り上げている。
そう、所謂ゴスロリという種類に該当する服だった。
「かわいいでしょ?」
「中身何歳だよ。餓鬼じゃねーんだからさぁ……せっかく幕間だからと言ってこうしてテンションでやらかす必要はないだろ……?」
「えー」
中身を考えなければ、容姿で見れば非常に整っている。所謂幼女だ。故に見た目で言えば幼さが助長され酷く微笑ましく見える。
だが数百歳だ。
「悲しいことだ……」
「ふふふ、わたしにも怒りのつぼってのはあるのよ? ーーーええ、喧嘩なら買って破いて飲み込んでわたしが喧嘩になってやるわ。わたしがルールよ」
「なんて酷い戯言なんだ……」
そういえば【始終】の二人は既に村を経っている。あの二人、ワンチャン俺が龍になれば加護って形でなんかあげれたんじゃね? だなんて思い始めたのできっとキチガイさんの精神汚染は大きい、
なんせキチガイさんは元人間から龍への出世をしたキチガイである。いっそチート通り越した神様に恵まれたような(実際そうである)補正がかかっているので問答無用で相対して相手は死ぬ。
なんなら剣振るえば次元が吹っ飛ぶ。
明らかに俺よりやべーやつだよな、そんなキチガイさんはいつのまにか俺の後ろにいて肩を叩いてきた。
「俺はキチガイじゃない……!!」
「あんたは村に嫁が待ってるでしょうが、だから出荷よー」
「最近は容赦なく親友も夜這いキメてくるんだよ……!」
このハーレム野郎が。
けどハーレムって単純に死亡フラグなので俺はそれを築きたいとは思わない。死ぬのは平気だ。戦で死ぬのは本望なのだが、けど痴情の縺れで死ぬってほんと、
「ダサいよなぁ……ミルに見せられないくらい」
「このヘタレ童貞……! 想い伝えてない癖に何を言ってやがる……!!」
「お前まだいたのかよ」
その言葉にキチガイさんはおいお前まだいたってお前よ、といい、
「じゃあ帰るわ」
「この作品には二度と出張してくんな」
雑に振った手で次元を引き裂いて虚空へ帰っていったキチガイさんに軽く手を振って見送りを完全に終え、
吐息。
「あー、キチガイさんマジハーレム野郎死に晒せ」
「キチガイさんと地味に意気投合してたと言うか交流あったのに今驚いてるわ」
「ん、……いや、なんか向こうからやってきてな」
第一声は「こんにちは次世代キチガイJr」だったことを思い返し、そうして再度吐息。
キチガイさん系列で俺の主人公体質が出来たとはいえあれを敬う気になれるのは相当な聖人でないといけない気がする。そう思うほどキチガイさんはノンストップでキチガイだった。
人のふり見て我がふり直せと言うが俺はそこまでキチガイじゃないので直すべき事項はなし。うん、完璧。
戯言はいいとして、
「で、何のようだ」
「結婚しよ? ……じゃない。間違えただけよ。だからそんな『ババア無理すんな』みたいな目でみないで?」
こほん、と咳は一つ、一呼吸入れたら、
「うん、まずね、ーーーあの村、明日にでも滅びるわよ」
手を一つ叩いて、そうして近寄ってきて、耳に指を突っ込まれる。身長差が凄いのによくやるな、と思うと同時に、そこで漸く意識を復旧できた。
「……わっつ?」
「りありー。ほんと。大真面目。明日にでも村は滅びるし、君も死んでみんな死んでいなくなるわ」
離れた【怪物】がテーブルと椅子を設置し、どこからか茶を取り出した。
「君はまだ自分が何者か解ってないとか、君の起源は何かわかってるのに迷ってるんじゃないかしら? 様子を見れば当たっていると思うけれど?」
頷きで肯定を表現する。そしてよく知っているな、でも何でもなく思った。
ーーーここからは自己定義問答だ。
「ええ。ええ。そういうことよーーーそれじゃあちょっと、一緒に寝言譫言戯言交わしましょ?」
◇
「ええ。私も変則的な形態だって解っているわよ。けれど、この問答は重要だから。幾ら変則的で変態的でも括弧つけて格好つけていきましょう?」
「俺、こないだ括弧つけないって言ったんだけどな」
「それはもう期限切れ。括弧をつけて語りなさい。じゃ、あなたは誰か好きな人、いるかしら?」
「ミルだよ。当たり前のように彼女は俺の世界で視界で理解で奇怪だ。だから俺には彼女以外を考えられない」
「奇怪、って……それはどういう意味なのかしら?」
「ああ、奇怪……奇怪なんだよ。妙なところで奇妙なんだ。微妙なところで微妙だった」
「わからないわよそれじゃ……じゃあ、それを省いて大事な人は?」
「母親だな。けど、何故かわからないけど、死ぬ間際になっても仮面の下は何も感じなかったから……実際はどうなのか、わからない」
「酷い人ね。嫌いじゃないわ」
「そっか。俺は俺が嫌いだ」
「ええ。知ってるわよ。じゃあ銃裏憂羅は?」
「ああ……サトリさんについてはそんなに嫌いでもないと思う。ーーーいやちょっと待てそもそも優劣を付けること自体が間違ってるような気がするぞこれ」
「……と言うと?」
「俺は確かに破綻者ではあるけどそんなに機械みたいにさっと見切りつけてパッと諦めてさっさと捨てるような人間じゃねーよ。そんな感情なく動くんならただのロボットだろ。俺は普通に我が儘な人間だ」
「……人間……? ええ……」
「いやそこで引くなよ。全然話進んでないし」
「いえ、つい最近やらかしてたことを振り替えってもらって本当に人間って言っていいのか……って話で」
「いいんだ! いいんだよ! 別に人間でいいんだよ!!」
「……ま、冗談はさておきまして、」
◇
「あなたはじゃあ、この問答の中で何で戦うのかを考えた?」
「考えた」
ーーーそして理解した。
俺と言う生き物は極論を言えば究極的に一人の少女を優先している。
けれどその裏では確かに誰かを思いやれる、と言うか誰かの優劣をつけない感性があって、だから俺はきっと、
……そう。きっと、彼女無しでは生きられない。
「どこまでも少女を基準……少女を起点として生まれた怪物。それがあなた」
「だからこそ彼女を手放さないために利己的で、そんな人間」
「そう、結局は一人のために戦うことしかできなかった」
「だから最後、彼女が消えるとしたらーーー」
「無理矢理にでも連れ去って連れ添う、でしょう?」
よくわかってるじゃん。
そう、結局は彼女のために戦った。けれどそれは彼女と別離しないための戦。もう理解している。この先待ち受けていることは確実に、そういう話だ。
別離したくない俺は、それはきっと骨まで出来た自分本位。
だから。
夕闇に。
消える彼女を。
浚ってく。
「……じゃあ、精々頑張りなさい? 無双モード入った【英雄】さん」
「【怪物】氏宛へ『頼まれた』。駄々っ子に我が儘突き通して別離を絶対に許さねぇ。非善人さんは頑張ってくるよ」
それじゃあ。
おはよう。
こんにちは。
さようなら。
目を開けば騒乱だ。
◇
緩やかな朝日だ。
実に清々しい気分で朝を迎えたーーー普段起きられなかった人間とは思えない。
真上から照らす太陽の光が優しく俺を包み込み、溶けるように、消えるように霞んでいくように。
黒に呑まれた。
「あは、ふふっ、くふっ、ははっ」
笑い声。
泣いているような。
「おはよう、おはよう、おはやい、おはやく、はやく、はやく」
それは良く知っている少女の声だ。そう、よく知っている。だって自分が心から自分より優先したい少女の声だ。
言う。
「泣くなら俺の胸で泣いてくれりゃぁいいのになぁ……ーーーなぁ、ミル」
「ふふっ。無理ね。わたしはもうあなたと一緒にいていいものじゃないもの。……本当に心から好きだった人以外、みんなみーんな殺しちゃったわたしは私じゃいられない。私じゃいられないからわたしはあなたから逃げるの」
「全部戯言だな。俺がお前を逃がすわけないだろ? 人間じゃなくても俺はお前を基準にできた存在だからな」
息を吐く。そして起き上がり、振り向き、髪の毛から土が落ちた。
どうやら既に家はないらしい。いや、いっそ村自体もうないのか。それだとすれば【始終】の若い芽を潰さずに済んだことを喜ぶべきだ。
気配でサトリさんと村長が生きていることを把握する。同時にそれしか気配がないと言うことは他は死んだと言うことーーー村人全員と大量の【細胞】の生命反応はない。
二人が生きているのは大切な存在だったからだろう。まぁ、それはどうだっていいのだ。告げるべきは一言。
「おはよう、ミル」
「ええ。おはよう。こんにちは。おやすみ。私はあなたを愛していました」
「過去形かよ」
ーーーつまり振られたってことか。
そっかー。
気分が落ち込んでいることを理解しつつそれを表面に出さず一歩だけ進む、
顔面へ向かって巨大剣が飛んできた。
それを雑に側面を叩くことで弾き、それを放った犯人に目を向ける。
鎧を着込んだ男か女かもわからない人間ーーーいや、人間ではない。これは怪物だ。
「龍、ね」
「ええ。みーんなあっさりと集ってくれたわ。わたしはそういうものですもの」
「知ってるよ。お前の先代が夢に出てきてるからな。めんどくせーほどそれは知ってる」
「じゃあせーの、でわたしの名前を言ってみる?」
「おー、いいな、それ。せーの、だ。せーのな? どっちが宣言する? ……俺でいいか。それじゃ、せーの、」
「ミラルーツ」と彼女は言った。
「ミル」、と俺は言った。
そう、結局何が起きようが覚醒しようが俺からしたら全て変わらずミルなのだ。故にその種族、呪い名を知ってはいても口にしない。
お前はお前だ。だから黙ってそこにいろ。
「……馬鹿ね。ええ、ほんとに馬鹿な人」
そうだけ言ってミルは上へと向かっていく。
まるで重力などないように。
空へ浮いていく。
「……そっから見る景色は、案外虚しいぞ」
跳躍で届きそうだが邪魔が十ほど存在する。所謂門番のように。それら全てが古龍であることは、肌の刺激で察していた。
鎧が言葉を発する。
『我らは龍。人理の外を行く者』
「そうかよ。それで? 口上か? ならそいつは悪いがオールカットだ。駄々っ子叩いて抱き締める必要あるからな」
『ーーーそうか。余程自分に自信があると見える』
「お前らもな。口で語るな剣で語れ。今この瞬間では力こそがルールだ」
後ろの巨大剣の柄は巨大故に手元にある。それを逆手で手にし、軽く力を込め、
地面ごと持ち上げる。
『我は十階層で待ち受けるーーーそれまでに死ぬなよ小僧』
同時に地面が弾け、そこから階段が現れた。上に続いているそれは所々に円の足場がある。そこで戦闘、と言う流れか。
それはどうでもいいか。
吐息。
「お前こそ死んでくれるなよ? 老害。俺がほしいのは彼女を連れ去るハッピーエンドだ。そっから村を再築してくルートで行きたいからな……」
なんて戯言を言いつつ、十人の龍が瞬間でそれぞれの配置に就く。
よくこんなゲームみたいな仕組みにしてくれた、と呟きつつ、村長とサトリさんがいる方角を見る。
そうしてそれだけして、階段の一歩目を踏み出す。
開戦。
戦争ーーーそう、これは戦争だ。
いろいろ急展開。許してねー。
だいたいあと三話くらいだと思います。毎度毎度サブタイに頭捻ってますが意味はあまりありません。