神様頼りはまだ先とおく   作:moti-

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終わり
『ん』から始まる次世代ジュニア


 それはまるで告げる信託のようなほど清涼で聞いている側の耳が蕩けるほど官能的でつまりは艶やか、淫らの類いの声であったがそこに下品はなく、聖女のような無垢を感じさせる真剣であり真摯な声でありそれが紡ぎ出す言葉はしかし戯言だった。

 

「あなたは人間じゃない存在がこわくないのかな?」

 

 実に無意味な言葉であると知って尚彼女はそう問い掛けた。その問いの答えを確実に知っていてしかし彼女は不安を口から溢すようにだが堂々と提案するように問いを放つ。

 

 俺は何も言わない。その裏で、無表情の裏で組み立ててきた『俺』がはっきりと崩れて内側にあった遠い昔に死んだ自分がその瞬間に顔を出したことに気付いていた。

 

 そう、ラグと言う人間に押し付けられた役割は殺すことしかない。原始的な殺戮衝動。それが向けられるのは恋慕の相手。いや、はじめから勘違いしていただけなのだ。ラグと言う人間にとっての恋愛感情とは殺意に直結している最悪方程式だった。それに今まで気付けていないだけであり、違う、気付いていて目を背けたのだろう。

 

 だから、これは俺のお得意な戯言だ。

 

 そう、ラグと言う人間と一人の少女が出逢った話。その結末を、戯言混じりで語ってやろう。

 

 俺は嘘つきだから、悲劇だって虚飾かもしれないぜ? なんて偽りだけどな。

 

「わかんねぇよ」

 

 俺は答えた。

 

 

 ◇

 

 

 階段を上り終えた先に泣き出しそうな彼女はいた。

 

「よお」

 

「ええ、全く……遠い場所」

 

 頭を掻く。彼女が拒絶しているのが解る。そう、しかしそれは彼女を諦める理由にはならない。故に彼女へ向けて走った。

 

 ひたむきに。

 

 ひたすらに。

 

 ひたひたと。

 

「……っ、こないでっ……!」

 

「……五歳の時に少女は言いました。『あなたを愛しています』。少年はそれにこう返しました。『いきなりなんだよ、唐突だ』。けれど少年はその後こう付け加えもしました。『俺も愛してるぜこのやろー』。そう、少年少女はこの時から、互いに惹かれ合っていたのですーーー」

 

「ーーーまたお得意の戯言かしら!? そんな譫言聞きたくない!!」

 

 口を止めず、告げる。

 

「そうだ、結局俺にとってお前が怪物だろうとどうだっていいんだ。ただそこにいてくれれば俺はそれでいいんだ。そういうものなんだろうと思う」

 

 天から降るのは雷だ。避け、走り、そしてしかし彼女との距離は離れていく。それは当然のように彼女も俺から遠ざかっているためであり、だから俺は走る。

 

 届け、と言う祈りはなく。

 

 待て、と言う叫びはなく。

 

 そう、結局のところひとつに終着する。一つの言葉を最後に殺し文句で叫べるように心の内側に、それだけは貯めておいて。

 

 だんだんと苛烈になってくる抵抗。雷が面積を増す。それは避けることすら厳しいものーーーだから避けない。避ければロス。彼女への道一直線。見えない糸に引っ張られるように足は恐れを知らず、止まりを知らない。

 

「きっとどうでもいいことだらけが祟ってこんなことになったんだと思う。偶然に偶然が積み重なって結末が狭まってしまったんだと思う」

 

 走れ。走る。走り。走れる。走ろう。走らず。何処で走れと言うのだ?

 

 雷が体を上から刺す。痛みは感じない。彼女までの距離は遠すぎる。これじゃあ言葉も届かない。

 

 だと言うのに、向こうからの声はこちらに届いて。酷いなぁ、反則だろ、だなんて思いつつ、体を打ち付ける雷を無視する。

 

「……………………」

 

 その最中で意識が一瞬歪んだ。何をしている。まだ行けるだろ。動け。走れ。視界はしかし薄れていく一方だ。なので自分の人差し指を右手で握り、そのまま折った。ぱきん。まだ足りない。折る程度ならすぐに治る。じゃあ挽こう。ぐじゅ。握り潰す。ああ駄目だ。また治る。いや、もう視界は冴えていた。じゃあいいか。指から手を離す。

 

 ーーー。

 

 自分の吐息の音だけが必死に響く。永遠に終わらないペースの鬼ごっこは彼女に引き離されるだけで終わる。それは不味い。言いたいことがたくさんあるんだ。言うべきことが一つあるんだ。だからここでは止まれない。

 

「ーーー!!」

 

 足にかかる負担を度外視して、一歩ごと足を壊しながら走れば速度は飛躍的に上昇した。それを見たミルが泣き出しそうになるのを見つつ、そのまま速度を更に上げる。

 

 あなたのために。

 

 自分のためだ。

 

 そのためならーーー自分のことなんてどうにでもなれ。

「だ、ぁ。ぁ、ぁああああああああっ!!」

 

 声が届く位置までたどり着いて、知らない場所まで走ってきて、そこで漸くミルは走るのを止める。

 

「よぉ、どうした? 観念したか?」

 

「ここはどこでしょうね。終点?」

 

「さあ。退廃した古代文明のなれのはてだろ」

 

「そう。じゃあここはシュレイド城跡地ね」

 

 それはいいや、と彼女は呟く。

 

「龍と人が決着をつけるには最適な場所と言えるわね」

 

「そうだな、最適な場所だ」

 

 互いに構えることはなく。

 

「ーーーけど悪いな、一瞬で終わらせてもらうぜ」

 

 

 ◇

 

 

 そもそもラグと言う名前に込められた意味を考えるとこの状況は俺が確実に勝つことは避けられない。

 

 【ラスボス喰らい】。

 

 略してラグ。シリーズの最終戦と確約された状況でラグと言う男は問答無用で相手を喰らって殺す。

 

 だからこそに確実な悲劇。

 

 そのはずだったのだが、しかし俺からしたら少しばかり『ん?』となる部分があるのも事実であり、じゃあつまり俺は別に彼女を殺す必要はなくなったんじゃないか? と言う発想があった。

 

 ーーーこの喰らいって『性的に』って可能性もワンチャンあるんじゃね?

 

 脳内細胞が問答無用で殺意に直結してるのでこれを殺害的な方向だと考えていたが案外性的方面でも活躍するんじゃね?

 

 そう思って俺は先ほど試してみた。

 

 結果はアタリ。

 

 と言うことなので最悪な語り手はラスボスを口説き落とそうと頭を働かせ始める。

 

 控えめに言っていろいろ馬鹿だしアホだし間抜け過ぎる話しだが、そう、俺はそう言うかたちで見ることで、つまり抜け穴を突く形でそれの意味を変換させた。

 

 よし、じゃあレッツナンパ。或いはただのプロポーズ。

 

 

 雷を避けずに俺は彼女に接近することで俺は彼女のもとまで一瞬でたどり着き、

 

 その勢いのまま抱き締めた。

 

「ーーー!? ……な、なな、何、何を、え、ちょ、どう、どういう!? 何で!? 何で抱き締められてるの!? 待ってねぇ待ってほんと、」

 

「よーし第一成功。心配すんな主人公ってのはセクハラかましてなんぼだろーが。抱き付く程度で狼狽えるなほら」

 

「この話始まりからずっとシリアスみたいな感じで進めてきたじゃないなんでここで今までのそれをぶち殺すのよ!? 馬鹿なの!? アホなの!? 馬鹿なの!?」

 

 はいそうです俺が馬鹿です。

 

 足も相手の体に絡めることで確実に逃げられないように抱き締める。ぎゅーっと。ちょっとばかし幼い少女を抱き締める2mほどの男と言うヤバい光景だが安心しろ同い年だ。

 

「ほら、何でお前が俺から離れようとしたのか教えろ。回答によっては離してやらんこともない」

 

「え、今それ聞いちゃうの? ほんとギャグにしかならなさそうな現状でそれ聞いちゃうの?」

 

 しかしはぁ、と息を吐いて彼女は言葉を繋ぎはじめた。

 

「……わたしが人間じゃなくなったから、あなたとは一緒に居られない、いちゃいけないんだと思ったから」

 

「はい駄目ー。このままな、お前ずっとこのままな」

 

「え!? なんで!? 何が駄目だったの!?」

 

 何でってお前な、と言い、彼女に告げる言葉を考え始める。

 

 そう、それは切実な問題なのだ。自我を保てなくなるとかそんなどうでもいいことじゃなくて、一緒にいたいな、と漠然とでも思う心でもなく、

 

 そう、ミルが人間じゃなくて祖龍だったとしても、

 

「お前がいないと俺は飯を食えねぇだろーが。ほら、だから俺とずっと一緒にいろ」

 

「…………あ」

 

 生活能力絶無。

 

 戦闘全振りした結果ラグと言う男から犠牲となって消えたもの。それが生活能力だ。

 

「だからお前がいないと俺は生きられないぞ。死ぬぞ。死んじゃうぞ」

 

「……そう言えばそうだったわね」

 

 それだけ言って、息遣い以外の音が消えた。

 

 静寂。

 

 それを裂くように、少女は言った。

 

「あなたは人間じゃない存在がこわくないのかな?」

 

 俺は答える。

 

「お前なら大丈夫」

 

 だから、と言って、

 

「ずっと一緒にいてくれ」

 

 ーーーその告白に彼女は返した。

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ぱたん、と読んでいたそれを畳んで赤くなっているだろう顔を誰かに見られてはいないかなんて思って辺りを軽く眼を動かして見る。いやー、恋愛本と言うのはいままで見たことなかったからな。初めて読めば相当自分もわくわくしていたことに気付く。うわー、うわー、恥ずかしい。顔を手で扇いだりして頭を冷やそうとする。うん、やばい。これは読んでて恥ずかしくなるな。

 

「ふふ、あなたでもそんな反応をするのね。久しぶりに年相応の顔が見れた気がするわ」

 

 やめてくれよ店主、そんな、恥ずかしい。と言うか見られてたのか、恥ずかしい。ああ恥ずかしい、恥ずかしい。

 

 ーーー本屋。自分が幼少の頃に世話になった場所である。日々を生きるにも厳しかった自分を匿ったり構ったりしてくれた優しい店主が営んでいる店で、夫が書いた本を売ったりしているのだとか。基本的に戯言で構成される文章は人々に人気であり、そのため多忙で最近は彼の顔を見てない。彼、小説やらを書く人のわりに身長は2mを当たり前のように越えてるのでちょっとした威圧感があるんだよな。

 

「あの人が書いたはじめての恋愛本は気に入ったようでよかったわ」

 

 うん? うん。面白かった。でも彼、基本的に知らないことは書けないって言ってなかったか? この恋愛話は何か参考にして書いてたりするのか?

 

「それはあの人が初めて書いた文章よ。戯言も少ない、と言うかほとんどが真面目に書かれた作品。プロローグ部分しか戯言はない話」

 

 ……………………。

 

「いやぁ、あの人まさか作家になるなんて思わなかったわね。強いんだからハンターになればよかったのにって……」

 

「ーーーどうした? 誰か来てるのか?」

 

 あ、おとーさん。久しぶり。最近売れてるらしいね。ところでちょっと聞いていい?

 

「おお、久しぶり。相変わらず括弧付けないんだな、で? 何を聞きたいんだ?」

 

 そっと自身の持つ本を指す。

 

 

 これ、実話?

 

 

 




これでしゅーりょー。後書きをこの次の話に置いて完結です。
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