外史と大師   作:k-son

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現在連載させていただいている二次小説が既にあるのですが、見識が偏り始めた為、少しでも改善できるように全く別の原作で行います。
故に更新の速度は遅くなります。

9/2変更


裸足の来訪者

雨雲が通り過ぎ、眩しい日差しと青空が視界を多いつくす。

 

「虹だ...綺麗だなぁ。」

 

漂う木造船の上で赤いマントを纏った1人の男が空を見上げていた。

 

「旦那ぁ、そろそろ着きますぜ?って結局、雨の中でずっと空見てたんですかい?」

 

船の所有者である中年くらいの男が声を掛けた。

 

「おっちゃんは見慣れてるかも知れないけどね。どうしても見たかったんだよ。後、旦那は止めてくれよ。明らかにおっちゃんが年上なんだから。」

 

「そうか、それはすまんな。つい客商売の癖でな。まあ、確かに陸から見える景色とは違うからな。」

 

「さすがっ。やっぱり海の男って奴だねぇ。んんー。」

 

マントの男は着ていた衣類を一旦脱ぎ、軽く絞っていた。

 

「海の男か...。悪くねぇ言葉だな。おらぁなんか気に入ったぜ。おぉいけね。忘れるところだった。もう間もなく到着するぜ。」

 

「そうか。長かった船旅も終わりか...。」

 

「そう、寂しそうな顔すんねい!また海が恋しくなったらいつでも来い!優先で運んでやるからよ!」

 

がははは、と豪快に笑う中年の男。

そんなやり取りを行っている内に陸地に到着。

 

「最後にアンタの名前を聞いてもいいかい?俺は朴功っていうんだ。」

 

「名前...そうそう、達磨。菩提達磨って名乗ってる。呼び方は任せるよ。」

 

「達磨か、覚えたぜ。また来いよ!」

 

「ありがとう!朴さんもなんかあったら相談くらいには乗るから!」

 

朴功が見送る中、達磨はどんどん進む。見える大きさが豆粒くらいになるまで見送った。

太陽もまた、達磨の新たな旅立ちを祝うようだった。

 

 

 

揚州東南の沿岸部に位置する森林で、1人の女性が窮地に追いやられていた。

 

「へへっ!頭ぁ、こいつかなりの上玉ですぜ?」

 

「おお、ついてるぜ!今夜の酒は一段と美味そうだ。」

 

悪人顔の多い盗賊が逃げ場の無いように囲っている。

 

「(あやや~。家を上手く抜け出したのはいいのですが。まさかこんなことになるとは。)うう...ついてません。でもぅ、なんとかしなければ。」

 

少女は冷静に状況を分析するが、まずは自分の行いを反省するのだった。

しかし、このまま賊に連れて行かれる訳にはいかない。

護身用に持っていた九節根・紫燕を取り出す。九節根は九つの節に分ける事ができ、形状を変える事で隠し持つ事ができるのだ。

 

「なんだぁ?隠し武器たぁ良い度胸じゃねえか。この人数相手にやるってのか?」

 

戦力彼我は1:20以上。

少女にそれなりの武をもっていると自負しているが、まだ未熟なのも否めない。

体力が無くなってしまえばそれまでだ。

 

「(くぅぅ。何か切欠があれば良いのですが...。)」

 

不利なあまり、ありもしない希望的観測が頭をよぎる。

賊達はそんなことを気にせず、じりじりと距離をつめてくる。

 

--ぁぁぁぁぁぁあぁ。

 

そんな時、どこからかガサガサという物音と人の叫び声が聞こえた。

 

ぁぁぁあああああ

 

しかもだんだん近づいてきている。

 

「!?なんだ!どっから聞こえて!」

 

「(一体...。)」

 

賊達も四方八方を見回し、警戒に当る。

少女は逃げる隙を窺いながら、声がする方に目を向ける。

 

「あああああ!!なにやってんだ!お前らも逃げろ!」

 

草むらから男が飛び出し、こちらに走ってきている。

 

「頭、どうします?」

 

「訳が分からん。...殺せ。」

 

賊は肩透かしをくらい、ため息をついた。

しかし、少女は気付いた。男の後方に蜂の大群が迫っていることに。

 

「ああ~!!蜂ですぅ!!」

 

「か、か、頭!!この辺の蜂って!!」

 

「毒持ってんぞ!!何やってる!逃げるぞ!!!」

 

「ああ~ん!!置いて行かないでくださいよぅ!!」

 

賊と少女は懸命に蜂から遠ざかろうとするが、男がその後を追いかけてくる。ものすごい速度で。

 

「てっめえ!なんでこっちくんだよ!!」

 

「こっちも必死なんだよ。理由なんかあるかっ!」

 

男のマントには、何故か蜂の巣が引っかかっており、蜂はただ巣を追っているだけなのだ。

 

「それだ!その巣をどうにかしろっ!!」

 

「そんな余裕なんかないって!!」

 

数分逃げ続けていたが、徐々に体力が尽き始める。

 

「ハァハァ...!!あぅ!」

 

少女の走りも弱弱しくなり、木の根に足を取られる。

 

「くそっ!こんなときに!お嬢ちゃん、失礼するよ!!文句は後な!」

 

男が地に伏せた少女を抱きかかえ、走り続ける。

 

「つか!なんだこの棒は!邪魔だから捨てるぞ!?」

 

偶に少女の棍が男の足に当り、動きを阻害していた。

 

「ええぇ!それは九節棍っていって、私の大事な武器なんですよぉ!」

 

「九節棍!?そりゃあ、珍しいモン使ってんな!」

 

少女から見ると、どうにも余裕そうに見えてしまう。

 

 

「この先は崖になってます!!」

 

「その下は!?川か!?」

 

「えぇえ!跳ぶんですかぁ!?」

 

「...泳げないのか?」

 

「問題はそこじゃありませんよぅ。」

 

話がかみ合わない2人。

そこへ、問題の崖が見えた。

 

「この距離ならいける!お嬢ちゃん。その棒貸してくれ!」

 

「何を為さるのですか?」

 

「跳ぶんだよ!」

 

「だからそれは困りますぅ!!」

 

「違うって!いいから貸して!」

 

男は少女を左手で抱え込み、右手で棍を握る。

そして、一切の躊躇なく崖から跳んだ。

 

「いやあぁあぁぁぁぁ!!」

 

「伸びろーーー!!!」

 

少女は悲鳴をあげながら目を瞑る中、男は九節棍を九つに分け、向かいの崖にある木の枝目がけて伸ばす。

 

「いーーーやっほぅーー!!」

 

「へ?...きゃあぁあぁぁぁぁ!!」

 

予想した落下とは違う感覚に、少女はつい目を開けてしまい遥か下の光景を見てしまった。

男は伸ばした九節棍を枝に繋ぎ、崖を渡ろうとしたのだ。

予想外且つ、初めての展開に少女は頭を真っ白にしてしまった。

 

ベキッ

 

「...お?ごめん、無理だったみたい。」

 

バキンッ

 

しかし、人間2人の体重を枝が支えきれず、折れてしまった。

 

「結局ですかぁぁぁぁ!!もういやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

真っ逆さまに落ちていく2人。

 

「責任はとるから、両手でしっかり掴まってろ!!」

 

「もう掴まってますっっ!!」

 

少女に己の衣類を掴ませ、両手を自由にする。

軽く九節棍を振り、感覚を確かめる。そして目を瞑り集中を高める。

 

「いっくぞぉ!」

 

男は地面から飛び出している岩から岩へと跳び回った。時に岩場に生えている草花を利用しながら。少女へ一切の怪我がないように。

最後の、鋭くとがった岩が2人に迫る。

 

「これは~無理!だらぁ!!」

 

岩壁を蹴り、落下点を無理やり変え、河へと飛び込む。

 

ドッッボン

 

なんとか落下死は防げたものの、河の流れは厳しく、窮地はまだ脱せいないようだ。

しかも掴まっていた少女は衝撃で意識を失ったらしく、水流に流されていた。

 

 

 

「きゅう~~....ん?ここはぁ?」

 

「起きましたか?」

 

少女は男に背負われている途中に気付いた。

 

「そうですかぁ。私、生きてるんですね。」

 

「とりあえずね。気分はどうだい?」

 

「もう~!どの口が言うんですか!?」

 

「はっはっは。ごめんごめん。河に落ちても助かったんだから、水に流してよ。水だけに。」

 

「つまんないですよーっだ!」

 

飄々とした態度を全く改めない男に少女は不貞腐れてしまう。

 

「で?どっちに行けばいい?責任持って送るよ。」

 

「別にいいです...ツッ!!」

 

なし崩しに信用できない男の提案を断ろうと、男の背から降りようとするが足の痛みに襲われる。

 

「無理は良くないね。まあ、嫌ならしょうがないよね。ここらで降ろそうか?」

 

嫌な笑みを浮かべる横顔が見え、腹が立ちつつも

 

「...絶対分かってて言ってますよね?仕方がありません。...お手数お掛けします。」

 

「いえいえ、こちらこそ。」

 

改めて依頼し、一旦丸く治めた。

 

「そういえば、紫燕は?」

 

「ああ、あの棍なら腹に巻きつけてるよ。便利だねぇ、どこで売ってるの?」

 

「あれは特注なので。そもそもあまり使い手がいないので、基本的に店に並ぶ事はありませんよ。」

 

「そう言われると、ますます欲しくなってきたなぁ。町についたら探すか...。」

 

あんなことがあったというのに、この男は既に他の事に考えがいっているようだ。

町の方向を男に伝えると、二つ返事で了承された。

 

「一応、命の恩人....になるのでしょうかねぇ?」

 

「いや、どうだろう?しっかし、よく生きてたもんだよ。まあ死ぬつもりもなかったけど。」

 

「さすがにもう駄目かと思いましたよぉ。落ち着いて思い出すと...初めての経験で...興奮が...。」

 

「???どうした?熱でも出たのかい?」

 

「ああ~いけません~!!」

 

何故か1人で悶え始めた少女。男が理解できるはずもない。

なんとか昂ぶりを押さえるが、過呼吸になっていた。

 

「...大丈夫か?」

 

「...何とか。ハァハァ...。」

 

「何かよく分からないけど、苦労してるんだね。」

 

「(うぅぅ、誰のせいだと。まあ、言えませんが。)...ところであなたは何者なんですかぁ?あの状況下での落ち着きぶり、そしてその身のこなし、一般の方とは思えないのですが...。」

 

気を取り直し、この男の正体に迫る。

 

「確かに普通っていうのは無理があるよね。うーん、とりあえず今のところは旅人ってところか...。」

 

「それもどうかと...。」

 

「そうかなぁ。間違いじゃないんだけど。」

 

正体ははっきりせず謎のまま、それが少女の興味を引く。

 

「では、お名前は?」

 

「菩提達磨。」

 

「あまり聞きなれない名前ですねぇ。」

 

「余所者だからねぇ。」

 

「漢の民じゃないんですかぁ?」

 

少女は頭を傾ける。

 

「そうそう、ここより南の国が生まれだよ。」

 

「南蛮よりですかぁ?」

 

聞けば聞くほど、分からない事だらけ。このままだと永遠に質問をしていまいそうである。

 

「で、嬢ちゃんの気は済んだかい?」

 

「お嬢ちゃんは止めて下さいませんか?私は陸遜、字は伯言と申しますぅ。」

 

「これはこれは、ご丁寧に。呼ぶときは字で合ってるんだっけ?...それはそうと、あんなところで何やってたの?恋の諍いか?」

 

「違いますよぉ。...ちょっと用事があってたまたま、たまたまあの方達に出くわしたんです!」

 

嘘ではないが、本当のところは休暇で書物を読もうと1人森に着ていたことは言えない陸遜だった。

さすがに、書物を読んだ己を律することができないなんて見知らぬ人物に知られるわけにはいかない。

 

「素朴な疑問なんだから、そんな強調しなくても...。」

 

「そ、そうですよね~。あははは...。」

 

強引に誤魔化し、乾いた笑いが森中に木霊する。

結局、菩提達磨の正体の核心に迫れず、町に着いてしまった。

 

「おぉ、なかなかに栄えてる。というか町に入るのは久しぶりだ。」

 

達磨が感傷に浸っていた。

 

「ここから北東に向かっていただければ。」

 

「了解了解。」

 

陸遜を背負い直し、町の奥へと進んでいく。

 

「ここです。」

 

目の前にあるのは大きな城門。

達磨は再度、おおぉと唸る。

 

「もしかしなくても、お偉いさん?」

 

「はいぃ~。そうですよ♪」

 

2人が慣れたようなやり取りをしていると

 

「穏!!」

 

1人の女性が飛び出してきた。

 

「あぁ~冥淋様!」

 

「一体どこで何をしていた!?何時になっても戻ってこぬと皆心配しておったぞ!!」

 

「申し訳ございません~。いろいろとありましてぇ。」

 

「...む!この者は?」

 

冥淋と呼ばれた女性は達磨に目をつけた。

 

「この方は私の命の恩人...なんでしょうか?」

 

「だから、俺にも分かんないっつてんでしょ。」

 

「一体何を言ってるのだ...。」

 

陸遜は掻い摘んで説明をした。

 

「...そうか。大体は理解した。だが、もう少し詳しく聞いておきたい。そちらの方、客人として迎えたい。できればしばし待っていただきたいのだが?」

 

「別にどっちに話が転がってもいいけど、面倒なことは御免だよ?」

 

「...ともかく、ゆるりとしていかれよ。誰かある!!」

 

達磨は応接室でしばらく待機する事になった。

 

「暇、だねぇ。こういう豪華な部屋は落ち着かないというか...。」

 

そんな愚痴を零していると、扉が開き1人の女性が入ってきた。

 

「あなたが穏の言ってた...へぇ、そっか!」

 

色黒の肌をし、露出の高い服装をしていた。そういえば先程の女性も露出度は高かった。

 

「そっか!って何?女性が男をジロジロ見るのはどうかと思うよ。勘違いされてもしょうがないし。」

 

「いやねー。そんな訳ないじゃない!」

 

「いやいや、こんな美人に見つめられたら勘違いしてもおかしくないって。」

 

「美人なんて本当のこと言われても困るわー。」

 

「...世辞だよ?美人は本当だけども。」

 

「ブーブー!分かってるわよ!」

 

「...随分楽しそうだな。私も混ぜて欲しいくらいだ。」

 

入城を促した女性が先に部屋に入っていた女性を睨みながらはいってきた。

目を瞑りながら何かを我慢していた。

 

「なによぉ。そんな怖い顔することないじゃない。」

 

「いつもいつも貴様に勝手なことはするなと言っているだろう。」

 

「別にいいじゃない。穏を助けた人物が汚い人間に見える?」

 

「そういう問題ではない!大体、人間の本性など直ぐに分かる訳ないだろうが!聡い人間なら尚更だ!!」

 

達磨の目の前で説教が始まった。

微妙に達磨にまで飛び火しているが。

 

「本人の目の前で言うことじゃないでしょうが...。」

 

「そうよそうよ!冥淋のバーカ!」

 

「雪蓮!貴様!!」

 

「あのう、冥淋様。そろそろ。」

 

そこに陸遜が、本題へと促す。

 

「やあ伯言ちゃん。もう歩けるの?」

 

陸遜は歩いているが、どこか弱弱しくひょこひょこと右足を引き摺っていた。

 

「どうも~。まあ、なんとかですがぁ。」

 

「...仕方ない。雪蓮、後で覚えておけ。」

 

「こわぁ~。」

 

雪蓮と呼ばれた女性が冷や汗をかく。

 

「まずは名乗らせてもらおう。我が名は、周瑜。字は公瑾だ。穏が世話になったな、礼を言う。」

 

「私は孫策、字は伯符よ。」

 

「じゃあこっちも改めて、菩提達磨と名乗ってる。」

 

互いに名乗りが終えたところで、席に着いていく。

 

「話は既に聞いたが、直接本人から聞いた方が良いと思ったのでな。いくつか問いたい。」

 

「どうぞ。聞くこと事態はいくらでも。でも、これって客人対応なの?」

 

周瑜の目の色が変わる。

 

「我らも事情があってあまりそんな余裕などないのだ。それが、どこかの間者かもしれぬ者が相手ではな。」

 

「...お茶くらいでないの?」

 

「ふ。確かにこの者は只者ではないな。...いいだろう、菓子もだしてやる。少し待て。」

 

「案外話がわかるじゃん。」

 

「話を続けよう。漢の者では無いと言ったな。それを証明することはできるか?」

 

「そうだね...。これなんかどう?」

 

達磨は鮮やかに赤く染まった種子を取り出した

 

「なんだそれは?」

 

「何って種子だ。甘いぞ食ってみるか?幼少の頃はよく食べてたものだ。すくなくともこの辺りじゃ、見かけなかったぞ?まあ、これは旅の途中で手に入れたやつだから微妙に味が違うんだけど。」

 

目の前で、口に含み安全性を見せる。

 

「へぇ~、じゃあ私も!」

 

「お前は駄目だ。私がやろう。」

 

「ええぇっ!いいじゃない!」

 

「駄目だ。お前は迂闊過ぎるぞ。貴様に何かあれば、我等はお仕舞いだ。」

 

「もう!冥凛は心配性なんだから!」

 

「だから、俺の目の前で言うなっつーの。」

 

興味津々な孫策をとめ、恐る恐るその種子を食べた。

 

「.....確かに甘い。この風味といい、この種子といい、見たことが無い。」

 

「疑い晴れた?あ!勝手に食うな!」

 

「別にいいじゃない♪......ふーん。悪くないわね。」

 

孫策の好奇心はとどまることなく、その種子を口に運んだ。

この種子は現代でいうところのコーヒー豆に当るのだが、この世界ではまだひろまっておらず、そのまま食べるものだった。

そして遠くない将来、ある男のせいでこのコーヒー豆は爆発的な人気を誇り、達磨を悩ませる原因になる。

とはいえ、現状では唯の珍しいだけの種子である。

 

「ふむ...少し弱いな。他に何かあるか?」

 

「後はこのマントかな。これは生国の地方でしか見なかった製法で作られているはずだよ。」

 

「へぇー丹念に編んであるわね。確かに初めて見るわ。嘘ってことはなさそうね。...ん?」

 

孫策が手に取り、確認していく。すると達磨の素足が目に入った。

 

「では、次だ。あの森で何をしていた?」

 

「今晩の飯をね。何つっても自給自足の生活なんで。そしたら、蜂の巣に出くわして気付いたら、伯言ちゃんのとこにいた訳。」

 

達磨が話し終わったところで、従者が現れ、茶を運んできた。

 

「ところで、何で裸足なの?」

 

「もしかして、河に流されちゃったんですかぁ?」

 

孫策の言葉で、陸遜は崖から落ちた事を思い出した。

 

「ああこれか?10日前くらいに履き潰したんで捨てたんよ。」

 

「そうなんですか~...って裸足で岩を跳び回ったんですかぁ!!?」

 

驚愕の事実に陸遜は目を見開く。

 

「茶が美味い、でも少し熱すぎやしないか。俺猫舌なんだけども。」

 

「...ねえ、ウチにこない?」

 

「は?何が?」

 

「雪蓮!!」

 

孫策は勧誘を始めてしまい、周瑜が阻止しようとした。

 

「大丈夫よ。私の感がそう言ってるもの。」

 

「また感か...。今の時期、些細な問題が我らには致命的なのだぞ?」

 

「だからよ。去年、母様が死んでから私達には余裕が無い。なんとか袁術から土地を奪い返さなければならない。そんな時に現れたこの男、何か運命めいてると思わない?」

 

「しかしな...。」

 

「穏はどう思う?」

 

「うぅーん、そうですねぇ。一応、助けていただきましたし、少なくても悪い人ではなさそうです。そして、まだ分かりませんが何かしらの武を習得しているとおもいますので、呉に有益かと。」

 

「ねっ、穏もそう思うでしょ?」

 

「確かに、嘘は言ってないのは認めよう。全てを話しているとは思えないがな。後はその武とやらを直接確認できれば...。」

 

「んもう!理屈っぽいわね。」

 

「当たり前だ。軍師なのだからな。」

 

「という事で決まりね♪」

 

孫策が達磨を見ると、耳を両手で塞ぎ、目を瞑っていた。

 

「ちょっと!今の話、ちゃんと聞いてたの!?」

 

「いやぁ、何も聞いてないけど。何か言ったかい?」

 

にこやかになかった事にしようとしていた。

 

「なるほど。頭の回転も悪くないようだな。」

 

「そうですねぇ。直ぐにそこまで考え付くとは、やはり只者ではありませんねぇ。」

 

「えっ?どうゆうこと?」

 

周瑜と陸遜は即座に気付いたが、孫策だけ取り残されていた。

 

「貴様が先程に口を滑らせたことを忘れたか?我らの秘中の策に繋がる言葉を漏らしていたぞ。」

 

「あっ!なるほどね。そういう事。」

 

「そうです!菩提さんは、それを聞かなかったことにしました。それは単純ですが、自分の逃げ道を作り巻き込まれない為なんです。それを瞬時に悟り、直ぐに対策を講じました。うーん、中々底をみせてくれませんねぇ。」

 

「そういう訳でこの話は答えられないね。」

 

「だーめ。俄然興味を持っちゃった。私に仕えてよ。」

 

孫策は達磨の顔に急接近する。

 

「俺はそういう事は御免なんだよ。官職に就くつもりも無い。」

 

「しょうがないわね。少し強引な手段でいくわ。」

 

孫策の目が狩人の目になった。

 

「ふーん....それじゃあ。」

 

達磨は鼻をほじりながらも態度を変えない。

 

「こっちもそうするか!」

 

「うわっ!汚っ!」

 

鼻くそを指で弾き、孫策目がけて飛ばす。

孫策は咄嗟にかわし、達磨から目を外す。

 

「御免よ!!」

 

窓から飛び出し、脱出を図る。

 

「憲兵!!その男を捕まえろ!!しかし甘く見るな!全力でいけ!!」

 

周瑜の声で城の兵たちが押し寄せる。

 

「「「うおおおおお!!」」」

 

「気合入ってるねぇ。でも...」

 

達磨は7人程の兵士の攻撃を緩やかにかわし始めた。

1つまた1つとかわしながらも歩を進めていく。兵士にはその歩みを防げない。

 

「残念!全員10点。折角の陣形が全く意味を成してないよーっと。」

 

すると、達磨が向かう方向に銀色の女性が現れた。

 

「策殿!なんの騒ぎじゃ!?」

 

「祭!そいつを捕まえて!!」

 

「事情は分からんが、承知!!」

 

「これまた美人か...。」

 

「なんとも嬉しいことを言ってくれるな。しかし、捕らえさせてもらう!悪く思うな!!」

 

帯剣していた剣を抜き、切りかかる。それを紙一重でかわす。

 

「なんで抜くんだよ!?捕まえるんでしょ!?」

 

「ええい!喧しい!避けたではないか!ひと目で只者ではないというわしの感が当っておったわ!」

 

「駄目だこの人。という訳で方向転換!」

 

達磨は向きを変えて、城壁に向かい走り出す。

 

「待て!そっちは行き止まりだぞ!何を考えておる!」

 

祭と呼ばれた女性も後に続く。

 

「よーっと!」

 

達磨は壁を一気に登り始める。ものすごい速度で。

 

「貴様は猿か?っく、逃げられてしまう。弓を持て!外に兵を集めよ!」

 

「申し訳ないが、面倒は勘弁ね。」

 

「追え!!逃がすな!!」

 

部屋から見ていた周瑜が指示を出した。そのまま外へ向かい、陣頭指揮をとるつもりだ。

 

「待って冥淋。私も行くわ。穏は無理だから待機してなさい。」

 

「はい。お任せしますぅ。」

 

「いくぞ雪蓮!」

 

2人は部屋から飛び出し、陸遜は見送っていた。

 

「あやや~。まさかここまで大事に発展するとは...。」

 

「...そんなこともあるよ。あまり気にしなくてもいいんじゃない?」

 

「しかしですね~。」

 

「まあ、お茶でも飲みねえ。」

 

「お気遣い感謝...って何をなさっているんですか?」

 

振り向いた先に茶を飲み、寛いでいた達磨がいた。

 

「聞き忘れてたことを思い出してね。あの武器が手に入る鍛冶屋はどこなんだい?」

 

「あれ本気だんですかぁ?教えても良いのですが...立場上そう言う訳にいかないのですぅ。」

 

「だがよ、俺は悪い事何にもしてないぜ?」

 

「困りました~。」

 

「....ま、いいさ。自分で探す。」

 

達磨は再び窓から外へと向かった。

その後、達磨を捕らえる事はできなかった。

分かった事は西に向かったという事。それ以外の足取りは一切掴めなかった。

 

「報告が遅れてしまい、申し訳ございませんでしたぁ。」

 

「良い。気にするな。どちらにしろ捕らえる事はできなかっただろうからな。」

 

「ぶー、骨折り損よね。結局、正体不明は変わらないし。」

 

「武人としては、手合わせをしてみたかったが。」

 

翌日。捕縛も失敗に終わり、ほぼ1日中捜索を続けていた為、一息ついていた。

そこに兵士がただならぬ形相で4人の下へたどり着く。

 

「で、伝令!!西の村に賊が!!」

 

「なんだと!?数は?」

 

「少なくとも50以上!!」

 

「袁術は何をしておる!」

 

周瑜は状況を確認し、その横で祭と呼ばれた女性・黄蓋が憤りを見せる。

 

「袁術に期待する方がどうかしてるわ。直ぐに出るわ準備して!」

 

孫策の一声で呉軍が動き出す。

 

「こんな時ですら、お役に立てなくて申し訳ございません~。」

 

流石にこうも失態が続いてしまうと俯いてしまう陸遜であった。

 

「気にするな。その代わり、城の守りは任せたぞ。軽く捻って直ぐ帰るからな。はっはっは!」

 

黄蓋が豪快な笑いで、その雰囲気を吹き飛ばす。

 

「はいぃ!そちらはお任せ下さいねぇ!」

 

「うむ。では行ってくる。」

 

「冥淋様もお気をつけて~。」

 

陸遜はまたも残されて、ふと考える。

 

「西ですかぁ。もしかしたら、あの方もいらしてるかもしれないですねぇ~。」

 

 

 

呉軍が西の村に着いた時、村の様子に変化は無かった。

 

「どうゆうこと?賊が来たんじゃないの?」

 

「...村の者に聞いてみよう。半数はここで待機、もう半分は周囲の警戒だ。」

 

孫策、周瑜、黄蓋の3人は馬から下り、村の中へと進む。

村にはやはり異常がなく、むしろそれ自体が異常に見えてしまう。

 

「雪蓮!」

 

「冥淋!どうだった?」

 

「確認したところ、賊は確かに着たらしい。」

 

「って言っても、賊らしき者など1人も見かけぬぞ?」

 

「ああ...。私も正直信じられんのだが。たった一人の男がまとめて叩き伏せたらしい。1人も殺さずにな。」

 

「それホントなの?で、その賊達はどこ?」

 

「男か...。」

 

黄蓋は何かに引っかかったようで考え込む。

 

「だから今からそこに向かおうと思っている。なんでも----。」

 

直ぐに待機させていた兵士を連れて村人から聞いた場所に駆けつけた。

 

---なんでも賊を一人ひとり相手に説教をしているらしい。

 

急行した場所にいたのは、赤いマントを纏った男と正座させられている賊達だった。

しかも賊には痣が目立つ。

 

「なにこれ...。」

 

「おい貴様なにをやっている!」

 

「おお、やっぱあんたらか。」

 

よう、と軽い挨拶で達磨が出迎えた。

黄蓋が達磨に掴みかかる。

 

「説明は、するんだろうな!」

 

「説明もなにも、今お話が終わったところだし。」

 

「話、だと?」

 

ちらりと賊を見ると、既に心が折られており、泣いている者のちらほら。

 

「全員を説教したっていうのは本当ね。敵意が全く感じられないわ。」

 

孫策は賊の顔を見て判断する。

 

「何故ひとりたりとも殺さなかったのだ?こやつらがまた同じ事をしないとも限らないだろう。」

 

「まあ、中にはまたしでかす輩もいるかもね。そこまで信用していない。でも、殺すばかりじゃ芸がない。」

 

「甘いわね。半端な行為はむしろ害悪よ。」

 

周瑜の質問に答えた達磨に孫策は冷たく言い捨てる。

 

「どっちみち、こっからは君らに任せるよ。こいつ等は自分のしたことを少しでも理解しなければいけなかったのさ。」

 

「分からんな。それに何の意味がある?」

 

黄蓋も話に入り、問い詰める。

 

「悪い事したら罰を受ける。当たり前だけど、罪を罪として理解しなければ、こいつ等は何も変わらない。」

 

「変わる意味などないだろう。」

 

「もしかしたら、運よく領主に助けられる奴もいるかもしれないしね。その後に世代と一緒にそういった善悪も一緒に巡るんだよ。」

 

「詭弁だな。」

 

「世の中、俺みたいな人間がいたっていいだろう?これが俺の生き方なんだよ。気に入らないなら昨日の続きでもするかい?どうする公瑾ちゃん?」

 

「このまま捕らえてもよいのだぞ?」

 

「冥淋やめましょ?形としては呉の民を救ってもらっちゃったんだから。」

 

「しかも穏の件もあるからのぅ。」

 

高圧的に迫った周瑜を孫策が留め、黄蓋も賛成の意を示す。

 

「そうだな。...改めて礼を言う。ありがとう。」

 

「いいってことよ。ん?お前、不健康そうだな?ちゃんと生理きてんのか?」

 

「ば、馬鹿者!!!この痴れ者が!!!」

 

達磨にセクハラをされて顔を赤める周瑜。

 

「小僧。貴様はこれからどうするのだ?」

 

「しばらくこの漢って国を巡ってみるつもりだ。三学ってやつさ。」

 

「なんじゃ、それは?」

 

「これ以上はまだ言えないよ。それより、小僧ってそんなに若くないぜ俺。」

 

「ほう、いくつじゃ?」

 

「そうだな。伯符ちゃんよりは上だと思うぜ?」

 

「儂からみれば充分小僧じゃ!で、何時出立するのだ?」

 

「この後直ぐにでも。」

 

「そうか。1度真剣に手合わせをしようと思っていたのだが、残念じゃ。」

 

「そうゆうのは勘弁。あんたの一撃は食らいたくないしね。」

 

「はっはっはっは!まあ、今日のところは見逃してやろう。一応、名乗っておく。儂は黄蓋、字は公覆。また機会があればな。」

 

「単純な友愛なら歓迎なんだけどね。」

 

達磨と黄蓋は握手を交わす。

 

「やっぱ、ウチに来ない?優遇するわよ?」

 

「駄目駄目。昨日も言ったでしょ?官職はやんないの!」

 

「じゃあ私兵って手もあるわよ?」

 

「そうきたか...。」

 

「雪蓮、諦めろ。この男は目立つ。袁術にばれれば直ぐに問題に発展する。今の我らではどうにもできん。それにこの男を従えることは不可能だ。現状でな。」

 

「やっぱりそうかなぁ。菩提がいれば策の達成が早まると思うんだけど...。」

 

「過大評価過大評価。」

 

「ぶぅ。おしいなぁ。...じゃあしょうがない!」

 

「ありがとさん。」

 

「でも、諦めないわ。待ってるからね。私達の状況が落ち着いたらいつでも来て。」

 

「まあ、祝いの酒でももっていくよ。」

 

酒という言葉に孫策、黄蓋が食いついた。

 

「菩提って結構、イケる口?」

 

「まあな。それなりには。」

 

「ほう、それは楽しみじゃ。半端な酒なぞ持ってきよったら、承知せんからな。」

 

「...狸の皮算用という言葉を知らんのか貴様ら!」

 

「そんないちいち怒るなって、やっぱ生理か?」

 

「そうなの?」

 

「そうなのか?」

 

「しつこいぞ!!」

 

こうして菩提達磨は旅立っていった。

表舞台に上がらない男の話は民の間でのみ語られた物語。

この男こそが100年以上の後に、宋王朝の歴史に現れた人物。

仏教28第祖にして中国禅の開祖、達磨大師こと菩提達磨の若き時代の姿であった。




史実では5世紀の人物ですが、その時点で、150年は活きていると言われています。この時代は現在と比べると短命とされている中、これほどの長命は驚愕に値します。
そこから、もしかしたら三国時代にもいたかもしれないというIFを考えました。
彼にはいろいろな逸話があるので、巧く原作キャラクターとのからみを作れればと思っています。
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