外史と大師   作:k-son

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文字文字

荊州北部。

町中で達磨と月英が薬屋にいた。

 

「ふーむ...。この位ですね。」

 

「そんじゃよろしく。」

 

達磨は旅の途中の山道で知識にあった薬草を集めて、薬屋で売っていた。

町の外は物騒で、武術の心得が無い者はそうそう外に出て行かない。

基本的には行商からでしか仕入れが出来ない。

達磨はそれを狙って、そんな貴重な薬草が生えていそうなところを巡っていた。

 

「....。」

 

「何々?腹が減ったか?」

 

「....(こくこく)」

 

月英がお腹を押さえていたのを見た達磨は直ぐに察した。

直球で聞いてくる達磨に対して、月英は少しの間を空けて小さく頷いた。

 

「少しばかり遠慮しすぎ。これからずっとこんな感じなら疲れるし。」

 

「.....。」

 

「いちいち落ち込むな!言っとくけど、そろそろ慣れてきたからもう大体解るからな?隠しても見つけてやる。」

 

「....(にこ)」

 

俯いた月英の顔を無理やり上げさせて、探るように目を見た達磨。

月英は話すことが出来ない中で、己の意志を理解してくれる達磨に笑顔で返した。

 

「適当に店を選べ、俺は山菜くらいしか食べんけど気にするな。」

 

「...(こく)」

 

月英が旅に同行し始めて数日、やりとりにも慣れてきた。

しかし、達磨は始めから月英の意図が解っていたように思える。

月英はよく解らないので、単純に『すごいなー』と考えていた。

その後、達磨が照れていたが。

 

「いらっしゃいませ!」

 

「ラーメンか...。」

 

「....。(きょろきょろ)」

 

「何だ?食べた事ないのか?まあ、俺もなんだけど。」

 

二人はラーメン屋に入った。

月英は始めてのラーメン屋でテンションが上がってしまい、挙動不審になっていた。

 

「落ち着け....落ち着け!」

 

達磨は力づくで月英の顔を止め、目の前にお品書きを置く。

 

「何にしましょ?」

 

「えーと、これか?これと、醤油ラーメンを肉抜きで。代わりに野菜入れといて。」

 

「え?あの、もう一度よろしいですか?」

 

店主は始めての注文に戸惑い、聞き返す。

 

「だから、この...豚骨ラーメンと。」

 

「はい。豚骨ですね。」

 

「醤油ラーメンの肉を抜いて、代わりに野菜を入れといて。」

 

「...はぁ。よろしいのですよね?」

 

「よろしく~。」

 

「....(こくこく)」

 

腑に落ちない顔で店主が厨房に帰ってしまった。

 

「ところで、この国の文字、漢文だっけ?それはどこまで読めるの?自分の字は書けたじゃん。」

 

「.........(ふる)」

 

「そのくらいってことね。俺もさ、流石にそろそろ読めないと不便でしょうがないのよ。経典が読めないってだけで、呆れられるし。」

 

実は荊州に着てから一度だけ、太学に行ったのだが、字が読めずに言葉通り無意味な時間を過ごしてしまった。

それを反省して、二人で勉強しようと言うのだ。

 

「へい、お待ち!!」

 

話していると品が運ばれてきた。

月英が注文した豚骨ラーメンと、達磨が頼んだ醤油ラーメンだったはずのもの。

肉抜きで同じ料金を取るのを後ろめたく思ったのか、店主がラーメンの上に大量のモヤシを乗せていたのだ。

これが至上初のモヤシラーメンなのかもしれない。

そのインパクトに周りの客もざわつく。

 

「なんだあれ?」

「美味いのか?」

 

月英も興味深く見ていた。

 

「じゃあ、食べよう。」

 

「...(ぺこ)」

 

いただきますと、頭を下げて食事を始めた。

方や赤い外套を着た浮浪者のような風貌で、方や白い肌と赤い髪の少女。

嫌に目立二人であった。

 

「美味かったか?」

 

「(こく)」

 

笑顔で答える月英。

 

「すいませーん!いくら?」

 

「まいどあり!」

 

「あのさ?字の勉強ってどうすれば良い?」

 

「字ですか?すいません、私も文字を書けないんですよ。」

 

「そうか。じゃあしょうがない。」

 

「あ、でも。あっちの町に水鏡って人が私塾ってのを開いて勉強させてるらしいよ。」

 

「行ってみるか...。ありがとう、あのラーメン美味かったよ。また来る。」

 

達磨と月英はこの町で墨と酒を購入し、その私塾を目指した。

 

 

 

その夜。

あまり持ち合わせも無く、達磨が宿に泊まるつまりもない為、二人は野宿をしていた。

辺りは真っ暗で、静寂に包まれていた。

 

 

【助けて....助けて!!朔!!】

 

 

「!!!.......。」

 

月英は夢を見ていた。

その夢の中では、母・婉貞が燃え盛る火の中で助けを求めていた。

そして月英は何も出来ず、ただ見ていただけ。

こんな夢を見る事は初めてではなく、三日に一度の間隔で起きていた。

そして、起きたとたんに恐怖に押しつぶされそうになる。

 

「なんだぁ...悪い夢でも見たか?怖かったな、こっち来るか?」

 

寝言の様に達磨が声を掛けた。

その声に反応した月英は、素早く達磨の下に行き、懐に入り込む。

 

「.....。」

 

「泣くなっつの..。寝付くまで見ててやるから。」

 

達磨は、子守唄がわりにお経を唱える。

不思議と月英が落ち着くので、少し前から泣きそうになったら達磨のところへ行きくのが定番になってきている。

 

「...すー....すー。」

 

「...嫁さんいないんだけど、もう子持ちか....。アホらし、寝よ。」

 

しばらくし、眠った月英の目尻の涙を拭った後、達磨も眠りについた。

 

 

翌日、朝早くに達磨は起きる為、月英も同行している。

近くにあった川で、体を洗っていた。

しかし、あくまでも女子の月英は流石に堂々と裸になる訳にもいかず、いそいそと岩の陰に隠れて行った。

 

「(達磨様はやっぱり朝が早いなぁ。流石に眠いよ...)」

 

つい最近だが、菩提様から達磨様へと変化していた。

話せないので解りにくすぎるが。

月英は目を擦る。

 

全く知られていないが、達磨はこうしてほぼ毎日、体を洗っていたりする。

そのくせ、髪や髭に手入れをしないので、どうしても汚らしく見えてしまう。

月英も旅に同行してからは、毎日冷たい流水で体を洗っていた。

始めはあまりの冷たさに、体が硬直して大変だったが、人間なれればどうということもない。

四日で慣れてしまい、むしろ目覚めが良く、清々しい朝を迎えていた。

 

その後、軽い運動を行う。

達磨曰く、修行に耐えられる肉体と精神を養う為のものだという。

当初は、達磨が行っているのを真似していた。

達磨は月英を止めようとするが、頑固として辞めなかった。

最終的には、下手に覚えられるよりも正しい方法を教えたほうが良いという事で落ち着いた。

達磨はもの凄いため息をしていたが。

 

しかし、幼さが消えていない月英には全ては無理だと判断し、達磨は簡単なヨガを教えていた。

1時間に及ぶ説得で、月英をしぶしぶ納得させた。

ともかく、今はヨガである。

座禅を組み、目を瞑っている。

 

「......(無ってなんだろ?)」

 

所謂瞑想なのだが、月英には今一わからない。

達磨から簡単な概要を教わり、達磨の横でちょこんと座っていた。

 

「月英、考えるな。いきなりは難しいから、なにも考えずにいるだけでいい。」

 

「....(何も考えない、何も考えない....)」

 

「....そうじゃないんだけど...。」

 

正直、直ぐに出来たら出来たで、達磨は泣いてしまうだろう。

達磨も苦労して、ヨガを修めたのだから。

 

それが終わると月英は柔軟運動を行う。

本格的にヨガを始める為の下準備だという。

その少し離れた場所で、達磨は武術の修練を行っていた。

棒を振り回し、かと思えば棒が形を自在に変形している。

九節棍というらしいが、月英にとっては初めて見るものなので、興味が尽きない。

一度、何故武術を訓練をしているのかと聞いたことがある。

 

【俺はこの国の法の外にいるから、自分の道を守る為に戦う必要があるんだ。】

 

と、答えられたが、月英にはピンとこない。

ここまでが早朝に行う事である。

これでやっと朝ごはんになるのだが、達磨が肉を食べない為、食事の内容が実に寂しくなる。

しかし、月英も元々良い生活を送ってきた訳ではないので、直ぐに順応した。

もっとも、達磨もそれを気にして、町に着けば好きなように食べさせている。

 

後は基本的に移動時間に当てられる。

何も無く、ひたすら歩いているだけ。

 

「はぁ...はぁ....はぁ。」

 

「....月英、今日はこんなもんだろ。来い。」

 

体の未発達な月英が疲れ、足取りが重くなると達磨が背負い、歩き続ける。

 

「.....」

 

月英としては申し訳なさで一杯だった。

 

偶に、絵を描く時がある。

雨が降った後に虹が出たりすると、木の皮を剥がしてその裏に描くのだ。

特に決まりもなく、ただ思うように描くだけ。

 

「お?上手いじゃないか。そっちの才能あるかもね。」

 

月英が上手く描けると、達磨は思いっきり褒めていた。

それが堪らなく嬉しい月英は、機会がある度に一生懸命に描いていた。

 

 

そんなこんなで、特に急ぐでもなく目的の場所までたどり着いた。

町に入ってすぐのところに大きな本屋があったので、入ってみた。

適当に手に取り、眺めてみる。

 

「....さっぱり解らん。月英はどうだ?」

 

「......(ふるふる)」

 

「そうか。店主、この町に水鏡というかたの私塾があると聞いてきたのだが。」

 

書かれた内容が理解できず、とりあえずその私塾について聞いてみることに。

 

「それだったら、町の東に行ったら解るよ。」

 

「ありがとう。」

 

「あの...おじさん。前に言ってたのを...買いに来たんですけど。」

 

そこに、一人の少女が現れた。

月英と同じくらいの年齢の様に見える。そして、何故かは知らないがどう見ても怪しい変装で顔を隠してきょろきょろと挙動不審だった。

 

「お、おお...。ちゃんととってあるよ、諸葛亮ちゃん。」

 

「はわわ!違います!私は、その人とは別人です!!」

 

ついわざとなのかな、と思ってしまうのは仕方が無いだろう。

 

「あ、ああ...。そうなのか?すまないね、間違えたようで。はいよ、希望の品だよ。」

 

「は、はい!これお金!それじゃ!!」

 

その少女は外へと消えていった。

 

「....(くいくい)」

 

「月英、世の中にはいろんな人がいるんだ。それに、ああいう人ほど、話してみるといい人だったりするんだよ。」

 

「...(こくこく)」

 

月英が何か言いたげに服を引っ張っていたので、達磨が経験談を語った。

 

「店主、売れてる書物を買わせてくれ。」

 

「今ですと...これですな。」

 

「うん、読めない。じゃあこれ、代金ね。」

 

「読めないのに...。奇特な方ですなぁ。」

 

達磨はパラパラと内容を確認し、理解できない上で購入した。

店を出て、言われたとおり東へ向かう。

 

「すいません。どなたかいませんか?」

 

恐らくこれであろう屋敷を訪ね、面会を求めた。

 

「はい...!?ど、どなたですか?」

 

出てきたのは、先程の少女同様に幼い少女であった。

達磨を見た瞬間、オロオロし始めた。

 

「ま、まさか...このまま私は誘拐されて売られちゃうの?....ひっく...。」

 

「いや、あのさ...。」

 

「うわぁーん!朱里ちゃん助けてー!!」

 

まさかの号泣。

達磨は本当に何もしていない。

 

「見ただけで泣かれた...。ねぇ月英。俺ってそんなに怖いか...。」

 

「......」

 

「あっ...そうなんだ...。」

 

月英は反応に困っており、その態度が達磨に冷たい現実を突きつけた。

 

「雛里ちゃん!どうしたの!?」

 

「ひっく...怖かったよ~。」

 

そこに別の少女が現れたのだが、どこかで見たような気がした。

朱里と呼ばれた少女が慰める。

 

「あの...何か御用ですか?」

 

「ああ、ここって水鏡って方が行ってる私塾で間違いないかな?」

 

「はい...そうですが...。」

 

その少女は、達磨と一定の距離を空けて警戒心を強めている。

達磨としてもそう簡単に信用してもらえるとも思っていない。

 

「水鏡さんにお願いがあってきたんだけど...会えないかな?」

 

「...少々お待ち下さい。行こう、雛里ちゃん。」

 

「.....うん。」

 

二人の少女は手を繋いで去っていった。

その後、水鏡らしき人物が現れた。

 

「始めまして私は司馬徽、字は徳操です。皆からは水鏡と呼ばれています。」

 

「こちらこそ。私は菩提達磨。見聞を広げる為この大陸を旅しているものです。」

 

「そうですか。それで、お願いとは一体...?」

 

「勉学を学びたいのです。」

 

達磨は、こういう場ではしっかりと受け答えが出来たりする。

 

「..どこかの仕官の願いではないのですね?」

 

「生憎、私は余所者でしてそのような役人との繋がりがないのです。」

 

「....わかりました、詳しくお話を聞きましょう。良ければお上がり下さい。」

 

「ありがとうございます。ああ、遅れましたがこの者は共に旅をしております、月英といいます。事情がありまして言葉を話せませんのでご容赦下さい。」

 

「....(ぺこり)」

 

「そうですか、利発そうな子ですね。」

 

水鏡の許しを得て、達磨と月英は屋敷に入った。

私塾の生徒らしき少女達に好奇な目を向けられたのはご愛嬌。

何故なら、月英もキョロキョロと忙しなかったからである。

 

「では、改めて。ここは水鏡女学院という名で、生徒に兵法や内政に関わるようなことを教えています。」

 

「女学院ですか...。」

 

「そうです。原則として、女の子のみを対象にしています。よって、菩提殿の入学を認める訳にはいかないのです。」

 

「ひとついいですか?」

 

「?どうぞ。」

 

「この話し方をそろそろ辞めたいのですが。如何か?」

 

「...ふふ。結構です、好きなようにお話下さい。」

 

「ありがとう。それじゃあ、この子を一時的に教えてやってくれないか?」

 

「その子をですか?」

 

達磨は横に座っていた月英を持ち上げ、水鏡の前に置いた。

 

「(???)」

 

「今は俺と旅をしているが、今後は解らない。その時に字が読めればそれなりに職に困らないと思ったのさ。それにもしかしたら、凄い成長をするかもしれない。それが見てみたくてね。」

 

達磨は月英の母・婉貞から託された事を忘れてはおらず、月英の輝かしい未来に手助けしようとしていた。

月英は話の展開についていけておらず、水鏡と達磨の顔をキョロキョロと見返していた。

 

「確かに。他とは違うものを持っているようですね。」

 

「分かるかい?流石だね。それに、俺は文字さえ読めるようになればいいから、後で月英に教えてもらうさ。ああ、そうそう金は払うよ。」

 

「ひとつ問います。...其れを以って何を為す。」

 

「全てを知り、我が道の下、為すべき事を為すのみ。」

 

達磨の返答を聞き、水鏡は目を瞑って考え、再び目を開けた。

 

「分かりました。丁度、男手が欲しかったところです。貴方方を受け入れましょう。」

 

「ありがとう。感謝は行動と態度で表そう。」

 

「いいえ。これもまた何かの縁なのでしょう。朱里、雛里、そこで覗いているのは分かっています。月英ちゃんを案内してあげなさい。」

 

その部屋の隙間からあの二人の少女が覗いていた。

 

「あわわ..。ばれちゃったよ朱里ちゃん。」

 

「だから言ったじゃない!絶対ばれるって!」

 

「でも、朱里ちゃんも興味津々だったよ...。」

 

何かを揉めている光景が、どこと無く微笑ましい。

 

「月英、行ってきな。お嬢さん方、この子は話せないからその辺を頼むよ。」

 

「...(こく)」

 

「菩提さんとはもう少しお話をしますので、二人ともお願いね。」

 

「「はい。」」

 

「....。」

 

月英は不安気に達磨を見ていた。

 

「大丈夫、糞みたいな人間はそうそういないから。」

 

その心情をすぐに察して、言葉を掛ける達磨。

言い方に品がないので、水鏡の顔が僅かに引きつる。

 

「私、諸葛亮、字は孔明。よろしくね!」

 

「...私は鳳統、字は士元...。」

 

「雛里ちゃんは少し、人見知り屋さんなの。」

 

「..ごめんね...。」

 

「...(こくこく)」

 

「ありがとう..。」

 

「月英ちゃんだっけ?服が大分傷んでるね。私達のお古がで良かったらあるから、あげるよ。」

 

「....。」

 

またしても不安気に達磨を見つめた。

 

「いいから、貰っとけ。ごめんなぁ、俺はそう言うのに疎くてね。お願いできるかな?」

 

「はい!任せてください。行こうよ?」

 

「うん..行こう?」

 

月英は二人に手を引かれていった。

 

「ごめんなさいね。こういったことは珍しくて、生徒達も居ても立ってもいられないようです。」

 

「こっちから押しかけたからね。問題は無い。それに同じくらいの人と触れ合うのも良い。むしろ感謝したいくらい。それで、何か聞きたいことがあるんでしょ?」

 

「..あの子も確かに不思議な雰囲気を持っていますが、貴方ほどではありません。良ければ貴方の事をお聞かせ頂けませんか?」

 

二人きりになり、水鏡は今まで以上に凛とした態度で達磨を見つめる。

 

「いいよ。そんな堅くならなくても、普通に聞きなよ。信用して教えてくれる以上、こちらも相応の態度で応えるよ。俺は仏教の求道者なんだ。修行の一環で旅をしている。」

 

「仏教ですか、漢ではあまり広まっていない宗教ですね。たしか漢より西方で伝わっているかと...。」

 

「この地には、儒教と道教、あと五斗米道くらいで、仏教については極僅か。俺はこの国の在り方を知りたい。その為には文字が読めなきゃ困難でね。」

 

「仏教はどういう教えなのですか?」

 

「そうだな...。簡単に言うと、『人の世は、苦しみが満ちています。それには原因があるので、それを正しく取り除いて苦しみから脱却しましょう』って感じ。」

 

大分掻い摘んだ説明を水鏡は聞かされた。

 

「儒教とは大分違うのですね。」

 

「聞くところによると、儒教は学問に近いらしいからね。文化が違えば思想も違うってね。」

 

「ではもうひとつ。」

 

「好きだねぇ。」

 

「私も好奇心が強い方なので...。月英ちゃんは言葉を発せないにも関わらず、どうしてそこまで理解が出来るのですか?見たところ、親子という訳でも無いのでしょう?」

 

水鏡はずっと思っていた。

月英はそこまで身振りで伝えようともしていないのに、達磨は簡単に察した。

長年の付き合いというのならまだ分かるが。

 

「仏教の教えで修行者が必ず修めるべき事があるんだよ。その内の一つが慧学、全ての事象を正しく見極める。」

 

「慧学...。」

 

「別に人に限った事じゃない。言ってしまえば天の意すらも見極められるようにならなくてはいけないんだ。それに、他の事よりもこれが得意でね。素直な子供の心象を理解するくらいはできるんだよ。」

 

それを簡単に行ってしまう達磨を水鏡は真剣に見ていた。

これを出来る人はこの大陸でいるだろうか。

天を見極める等と、漢王朝が聞けば唯ではすまないだろう。

 

「そんな風に怖がらなくても良いよ。どうしてもだったら、俺だけその辺で過ごしてるから。」

 

「!!?」

 

「その代わり、戒律を守らなくてよく怒られたんだよね。...それはいいとして、俺からはこんなとこ。」

 

達磨に嘘は通用しない。

たったこれだけで、人は恐怖する。

故に達磨は人との轍を断っている。影響力のある人間からうける影響は、必ずしも良いとは言い切れないのだから。

 

「貴方は、人ですか?」

 

「人だからこそ、反省し改め、学んで向上していくんだと思うんだよ。人間、本当に出来ない事は思ったよりも少ないからね。」

 

「正直、貴方を恐ろしいと考えています。しかし、あなたの言動には義があり、信における方だと思います。」

 

「義とか大それたことじゃないんだけどね。」

 

「そしてその半面、貴方が何を為すのかが見たい。だから、ここで好きなように学んでいって下さい。」

 

水鏡は心を決めた。

この男の行く果てに何が起きるのか、それが知りたいと。

もしかしたら、とんでもない騒動に発展するかもしれないが、好奇心には勝てなかった。

 

「その分、手伝える事があったら言ってくれ。それと、住居は月英のみでいい。俺には必要ないし、女性と一緒に寝泊りする訳にもいかない。」

 

「....分かりました。こちらとしては、一緒に居てくだされば生徒達も良い刺激になると思うのですが。貴方がそう言うのなら。」

 

話も大体終わった時、部屋の外から人の声が聞こえた。

 

「大丈夫だよ!すごく似合ってるよ。」

 

「そうだよ。きっと褒めてくれるよ。」

 

月英の着替えが終わったのか、三人は戻ってきていた。

 

「ほら!」

 

諸葛亮に押され、月英が入ってきた。

着替えた月英は、二人に似た様な黄色の意匠で、髪をとかれており、今までの印象と違っていた。

白い肌に黄色の服でなんとも眩しいくらいの輝きを持っていた。

 

「.....(もじもじ)」

 

月英もこのような服に袖を通すのは初めてで、恥ずかしそうにしていた。

 

「おお、これは驚いた。可愛らしいね。」

 

「ね!言った通りでしょ?」

 

「....(こくこく)」

 

「えへへ、よかったね。」

 

三人は両手を挙げて喜んでいる。

 

「なんと仲睦まじいことか...。これを見られただけでも良かった。エンティにも見せてやりたいね。」

 

こうして、短い間だが、水鏡女学園での生活が始まった。




月英の服は朱里の服をまんまダークイエローに変えただけとイメージしてください。
帽子とかはありません。
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