俺の名前は……もうどうでもいい。
前世ではただのワンピースオタクだった。
死んで目覚めたら、海軍本部近海の小さな漁村の浜辺に転がっていた。
体は10歳くらいのガキ。
そして、手のひらに浮かぶ悪魔の実の模様。
ムシムシの実、モデル“肉食蟋蟀”。
カマキリやバッタじゃなく、肉食性の蟋蟀。
聞いたこともないモデルだが、食った瞬間からわかる。
こいつは「捕食」と「生存」に特化してる。
それから7年。
俺は16歳になった。
グランドラインの端っこ、東の海のとある島で、
ポートガス・D・エースと出会った。
「おい、兄ちゃん! 腹減ったろ? 俺の肉、食うか?」
エースは笑いながら、でかい魚の串焼きを差し出してきた。
まだ海賊旗を掲げて間もない頃の、19歳のエース。
白ひげ海賊団2番隊隊長になる前の、自由気ままな放浪期。
俺は黙って魚を受け取った。
「……お前、死ぬ気か?」
「は? 何だよ急に」
「いや、別に。……ただ、俺はお前が死ぬの、見たくないだけだ」
エースは一瞬キョトンとして、それから豪快に笑った。
「ははっ! 変な奴だな! じゃあ俺の仲間になれよ!」
それが始まりだった。
俺の能力は、最初はしょぼかった。
蟋蟀の姿に変身して、跳躍力と鋭い顎で魚を狩るくらい。
でも、肉食蟋蟀の本質は「捕食」だ。
敵の血を啜れば啜るほど、俺の体は強化される。
筋肉、骨格、感覚、再生力。
すべてが「次の獲物」を仕留めるために最適化されていく。
だから俺は、エースの右腕になった。
マリンフォードへ向かう前の、あの数年間。
俺たちは何度も死にかけた。
- 海軍中将と遭遇した時、俺はエースの背中を庇って全身を斬り刻まれた。
でも蟋蟀の再生力で3日で復活。
その間に啜った中将の血で、俺の跳躍速度は音速を超えた。
- 白ひげの船に潜入したスパイを、俺が夜中に始末した。
血を一滴残らず吸い尽くして、証拠を消した。
エースは「気持ち悪いことすんなよ」と笑ったけど、
俺は知ってる。あの時、白ひげが死ななかったのは俺のせいだ。
- 頂上戦争の数ヶ月前、
エースが単独で海軍の輸送船を襲った時、
大将黄猿が現れた。
光の速さでエースの心臓を狙った一撃を、
俺は全身で受けた。
「…っぐあぁぁっ!!」
体が蒸発するような痛み。
でも、俺は死ななかった。
俺の奥の手。
黄猿の光を一瞬だけ「喰らって」、
俺の体は光の粒子を纏った黒い蟋蟀の姿になった。
そのままエースを抱えて跳んだ。
光速の追撃を、俺の跳躍で振り切った。
エースは息を切らしながら、初めて本気で怒鳴った。
「お前……バカか!? 死ぬ気かよ!!」
「死なねぇよ。
俺は、お前が死ぬまで死なねぇ」
その言葉に、エースは目を潤ませて、
それでも笑った。
「……お前、ほんと変な奴だな」
頂上戦争当日。
俺はエースのすぐ横にいた。
赤犬のマグマがエースの胸を貫こうとした瞬間、
俺は全力で飛び込んだ。
「——させねぇ!!」
蟋蟀の顎で赤犬の腕を噛みちぎった。
血を啜った瞬間、俺の体は限界を超えた。
炎とマグマと血が混じり合って、
俺は「肉食蟋蟀」の完全体——
黒炎の蟋蟀 になった。
エースのメラメラの実の炎を、俺が一時的に「喰らって」増幅。
赤犬のマグマを押し返し、白ひげの残した一撃と合わせて、
海軍本部を半壊させた。
そして、エースは生き残った。
戦争の後、エースは俺の肩に手を置いた。
「なぁ……お前、名前なんだったっけ?」
「……忘れた。
でも、お前が生きてるなら、それでいい」
エースは照れくさそうに笑って、
そう言った。
「じゃあさ、これから、お前は「リオック」だ」
俺は頷いた。
「……ああ。
お前が死ぬまで、ずっとだ」
その日から、
ポートガス・D・エースの右腕には、
黒い蟋蟀の刺青が刻まれた。
そして、俺たちはまだ、海を駆け続けている。