さしす世代四人目、「せ」
「はいはい、そこまでー。五条、また校舎半壊してるじゃん」
家入硝子が煙草をくわえたまま呆れた声で言うと、五条悟はケラケラ笑いながら肩をすくめた。
「だってさ、あいつが『触らせろ』って迫ってくるからさぁ。仕方なくちょっと本気出しちゃった」
「ちょっとでそれかよ……」
その視線の先には、瓦礫の山の上で体育座りしている男子生徒がいた。
五条や夏油らの学ランスタイルとは違う、オーソドックスなもの。
髪はツンツンで、前髪が目にかかっている。
右手だけ、黒い革手袋をしている。
彼の名前は
そして彼の右手に触れたものは——
どんな術式も、領域展開も、呪霊の攻撃も、呪具の効果も、
「ただの物理法則」に還してしまう。
同級生女子のように誰かを救えるわけでもない。
同級生男子二人のように一人で国家と戦えるわけでもない。
五条の無下限ですら、悠真の右手が触れた瞬間「無意味な空間の歪み」に成り下がった。
ただ、『普通にする』だけだ。
「……悟。君、マジでやばい奴に喧嘩売ってるぞ」
夏油傑が珍しく真剣な声で呟く。
「えー? 俺の方が強いじゃん?」
「今のは『勝ち負け』の話じゃなくて、『相性』の話だ」
誠司はゆっくり立ち上がり、埃を払う。
「五条。次はお前が術式使って喧嘩売ってきたら、俺も本気で触りに行くからな」
「へー、楽しみ〜♪」
「いやいやいやいや! やめろお前ら!!」
硝子が慌てて二人の間に割り込む。
「いい加減にしろって。もうこれで今月三回目の校舎修復予算申請だぞ」
誠司は少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「……悪い。俺の術式、どうしても『触れる』まで効果が出ないからさ。避けられるとどうしようもないんだよ」
五条がニヤリと笑う。
「だから俺が避けないって言ってるじゃん? ほら、もう一回やろ? 今度は目隠ししたままでいいよ」
「やめろって!!」
---
四人で屋上の柵にもたれながら、缶コーヒーを飲んでいた。
夏油が静かに切り出す。
「なあ誠司。君の術式ってさ……もし自分が呪霊だったら、どうなると思う?」
誠司は少し考えてから、苦笑いした。
「多分、俺自身が『ただの人間』になる。呪力も術式も全部消えて、普通に祓われる」
「……それ、怖くない?」
「怖いよ。めっちゃ怖い」
誠司は右手をじっと見つめる。
「だから俺、五条みたいに最強になれないし、夏油みたいに信念持って戦えないし、硝子ちゃんみたいに誰かを助け続けることもできない。
俺にできるのは、ただ『終わらせる』ことだけなんだ」
静寂が落ちる。
すると五条が、いつもの調子で明るく言った。
「じゃあさ、俺らが無茶して死にそうになったら——
お前が最後に俺らの術式殺して、普通に死なせてくれよ」
「……は?」
「だってさ、俺らみたいな化け物が呪霊に取り憑かれて暴走したら、最悪じゃん?
その時お前がいてくれたら、『ただの人間』に戻して殺せるだろ?」
夏油と硝子が同時に五条を睨む。
「バカかお前は」
「最低の頼み方だな」
「えーいいじゃん! 友情だろ?」
誠司はしばらく黙っていたが、やがて小さく笑った。
「……わかった。約束する」
「まぁ、俺と傑がいれば、んなことにならねえけどさ!俺たち、最強だから」
「いまの絶対ガチだったろ!?」
四人の笑い声が、夕焼けの屋上に響いた。
その時まだ誰も知らなかった。
数年後、
最強の呪術師と最悪の呪詛師の間に立ち、
右手を掲げたまま涙を流しながら叫ぶ男の姿を——
「——馬鹿野郎!」
「ああいう、約束を本当にすんなッ!」
不動誠司
等級:一級術師
詳細
最強コンビとバカをやりつつ、勝とうとひたすらに努力し、時折、からかってくる同級生の紅一点にドキドキして過ごす「善人」。
教師に怒鳴られ、先輩に可愛がられつつ、後輩に呆れられながらも、優しく、明るくあろうとする。
術式:「
あらゆる術式、領域展開、呪具効果を「ただの物理法則」に還す。
不可視の力は目に見える力に。
超常を日常に引き摺り込む力。
秘匿規定に触れる術式であり、不動誠司を特級に押し上げる声も。