【アクアリウムで会いましょう】
雨が騒音と共に降っていた。少し先を行く貴方が「今日も雨だ」と笑っていた。
「なぁ、明日の執行部も忙しそうだよな」
「だね......まぁ、楽しいからいいんだけど」
貴方との会話はきっと、誰にも聞かれはしない。雨音がかき消してくれるから。それが何故か、堪らなく嫌になる。
「あーあ、明日はアレやって、コレやって。でも今度の休みは水族館に行けるからな〜」
「......ねぇ、湊」
貴方は私の声に反応してすぐに振り返った。優しく微笑んでくれる貴方の顔はあの頃から変わることは無かった。だから、だからこそ、涙が溢れてしまうんだ。
悟られてはいけない。そう思って傘と雨で誤魔化してしまうんだ。
「別れよう」
どうか、最後は笑顔で。
理解できない。貴方はそんな顔をしたまま固まってしまった。
「......さよなら」
水溜まりを踏みながら駆け出した。遠くで貴方が何かを叫んでいた。けど、ね。その言葉さえもかき消されてしまったんだ。
だから私は、君の最期の言葉を知りやしない。
家から帰ってしばらく経つ。何処かで貴方は私の手を取ってでも別れるのを拒否してくれると信じていた。自分勝手なのはとうの昔から知っている。だって、自ら別れようって言って止めて欲しかったなんて、これ以上傲慢なことがあるわけないでしょ?
自己嫌悪に浸っていると、電話が部屋に鳴り響いていた。貴方からだと、少し迷いながらも受話器をとってしまう。もしかしたら雨音で消されてしまったから急いで電話をかけてくれたのではないかと、甘い期待をそこに隠して。
まさかそこから、信じたくもないものが流れ出して来るかも知らずに。
電話から聞こえた声は、愛しいはずだった貴方のものではなく、貴方の母親からでした。
「......瑠璃、ちゃん……湊が、交通事故で......」
「......嘘でしょ......なんの冗談、ですか?」
嫌だ。信じたくない。貴方が私と別れた後にそんな目に遭うなんて、考えたくも、信じたくもなかった。
私はその場に崩れ落ちた。涙が虚しく頬を伝ったが、ソレを拭いはしなかった。いや、拭いはできなかった。体に力が少しも入らなくなってしまった。
急いで駆けつけた病室には、貴方は沢山の管に繋がれながら寝ていた。ピッピッピッ。無感情に鳴り響く電子音だけが貴方の生きていることを表していた。貴方は私を恨んでいますか?
「あたりが、やけに静かですね」
私と彼が別れたその日から、貴方は今日まで目を覚ましはしない。
「あたりがやけに静かですね」……貴方の声が聞きたいです