レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。   作:とらこさん

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ATTENTION
原作リネージュです。魔法名、アイテム名、地名、など使用しますが、ストーリーやキャラクターなどはほとんどオリジナルとなります。
というか、作者はリネージュのストーリー背景などほぼ知らないままゲームプレイしていましたので知識はありません。

それでもいいと仰る方はそのまま読み進め下さい。

あとがきには、小説内に出てくるMMO用語や、魔法やアイテムのちょっとした説明をさせていただきますので、必要な方は読んで下さいませ。


一話 それは全てのカタルシス

 カチカチ、カチカチ…。

 

 モニターの光が薄暗い部屋の中を仄かに照らす。

 そのモニターの置かれた机の前には目元に隈を拵えた虚ろな表情の男が椅子に腰掛け、ゲーミングマウスをカチカチと操作していた。

 

 モニターの画面に映るのは今や古臭いとも思える2Dクォータービューのファンタジー世界のオンラインゲーム…リネージュ。1998年にスタートしたこのオンラインゲームは所謂マゾゲーと称される程のレベリングのキツさにデスペナルティの重さも相まって、無料化以前はキャラクターの命の重みがそんじょそこらのヌルゲーとは一線を画していた。

 そんなゲームに魅了され、オンラインサービス開始から取り憑かれたかのようにレベル上げだけに心血を注ぎ続けた男がいた。その男の名は神埼透。彼は当時中学生の時から毎日寝る間も惜しみ経験値だけを稼ぎ続け、社会人となった後も休むこと無く経験値のために金と時間を費やした。

 リアルでもネット内でもコミュ障の彼は、リネージュの世界の中でもトレード取引以外で人と関わることも無く、またそんな彼を理解する人も、親しく関わろうとする人もいなかった。

 

 故に、彼は孤独。

 

 様々な人々が交錯する世界で、沢山の思い出を作る世界で、ただ一人モンスターの屍に囲まれ経験値の数字が刻まれることに虚ろに嗤う。

 

 その始まりも既に遠く、忘れ去られ埃を被った記憶。終わりさえも無く、自身の人生を喰らい潰されていくことを分かっていてもその道を歩くことを止めることが出来なかった。

 

 楽しさは既に無く、苦痛さえも感じ、常に睡眠不足で身体の中はボロボロ。それでも、いや、だからこそ、彼はもう止まることは出来なかった。現実の青春を、掴めたかもしれない普通の幸せを、目を逸らしかなぐり捨てたのだから…。

 

 彼には、もうこれしか無く、完全に依存し、そして自ら望んで狂ったのだ。

 

 誰にも理解されることはないだろう、馬鹿だと呆れられるだろう、気持ち悪いと忌避されるだろう、それすら彼は受け入れ今日もその狂った日々を続けるのだ。

 

 

 その世界が終わってくれるその日まで…。

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 俺はモニターの中のランカー変身をした女ウィザードを操作しながら、気持ち悪い程集めたモンスターがファイアストームに焼き尽くされる様をあくびを噛み殺し見つめた。レベル99の経験値ゲージが99,9999%を表示する。前人未到の領域に到達し、近年稀に見る興奮を覚えていた。

 

 「さて、この先はあるのか…カンストなのか…いいね、この感じ、本当に久し振りじゃないか」

 

 リスポーンしたモンスターを軽く画面をぐるりと回って集め、その中心にメテオストライクを何度か撃ち込んだ。俺の操作するキャラクターが青い光に包まれ…まるで、ブツン、とテレビやモニターの電源をOFFにしたかのように、俺の意識は唐突に失われた。

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 何故か、頬がざりざりとして痛い。一体、何が?俺は何を…と考えた所で、勢い良くうつ伏せの身体を跳ね上げるように飛び起きる。そこは、自室ではなく、木々が生い茂った森というより林…だろうか、視線をぐるりと辺りを一周するように動かし、頭を抱えてしゃがみ込む。

 

 くそっくそがッ!!寝落ち!?やべぇ、最近ずっと寝てなかったから急に落ちたか俺っ!くそ!狩場だぞ!?完全に死んだな畜生…。最近死んでなかったから復旧にいくら持ってかれるか…いや、まだだ!!起きろ、起きろ俺!!まだ間に合うかもしれないッ!ウェーイクアップだああ!!

 

 そんな俺を嘲笑うかのように、空を飛ぶトンビか何かが平和そうな鳴き声を響かせていた。

 思い切り頬をつねってみても、それほど痛くはない、何というか()()()()()()。感覚、感触は普通だが、これが明晰夢とかいうやつだろうか?初めての経験だった。

 寝落ち死は仕方ないと諦め、少し落ち着いて来た俺は見慣れないものが自分に付いているのをここで初めて気が付いた。

 それは…男には普通ついているようなものではなくて、むしろ、それを見ることで幸せすら感じる2つの膨らみ…そう、おっぱいだ。しかも結構でかかった。

 俺は兎にも角にも揉んだ。そりゃあもう、揉みに揉んだ。そして、その柔らかなマシュマロのようで肉厚な感触に俺は俺に感謝をして涙した…。グッジョブだ俺、最高の夢だぜ…。

 

 おっぱいを揉んで賢人のように落ち着き、冷静さを取り戻した俺は取り敢えず、自分の格好や持ち物を確認していた。ちなみに、アレはやっぱり付いていなかった。いや、付いてたらそれはそれで嫌だろう?…逆に?とかねーから。

 この夢の俺は、絹のような手触りの腰下まで伸びている紫がかった黒髪に、スタイルはモデルのように引き締まって胸もでかい女性の姿をしているようだ。顔は確認できそうな場所はないが、恐らく…いや絶対に美人に違いない。それ以外認めない…いや童顔もありか?いいな…それも。って、そんなことはいいんだ、問題はこの女って言っても俺だが、その格好がどうにも見覚えがあった。

 

 この服装…リネージュの女ウィザードの服じゃね?である。ダークバイオレットのピッタリとしたチューブトップに、足元まである布をパレオのようにベルトで固定したもの…風でも吹けばパンツは丸見えだろうし、完全に腰までスリットが入ったかのように生足が眩しすぎる。…要するにすっげー落ち着かねぇ服…なんだこの不安感、服着てるのに逆に恥ずかしいぞ。それから、さわり心地の良い少し光沢のある布地のロングドレスグローブはとってもコスプレ感を増長してくれる。

 

 ご丁寧に再現度は極めて秀逸で細部に至ってそっくりだ。そこまでじっくりと女ウィザードのキャラクターを記憶に収めた覚えはこれっぽっちもなかったはずだが、さすが俺と言うべき所なのか…。

 とにかくこの夢がリネージュの中、そして俺のキャラクターならばと目を閉じイメージする。頭の中にゲームの中でのUIが表示される。都合のいいことこの上ない夢だな、と思いつつインベントリーを開いてみる。装備品、消耗品や補助アイテムの類いがずらりと並ぶ中、俺はそれが俺のキャラクターの物と一致することを確認できた。

 

 なるほど、じゃあ今の俺は、ウィザード『トール』ってことになるのか。ちなみにトールとは俺の名前を付けたわけじゃなく、北欧神話のアレだ…神様的なやつだ…仕方ないだろ、当時俺は中学生だったわけで、病の真っ最中というね。

 男ウィザードではないのは単純に服装がダサかったからである。白っぽいダボダボのローブに水晶玉を動かす姿に当時の俺は他の職種を取ろうかと思ったが、あの頃の俺は黒や魔法というものに並々ならぬ憧れを抱いていた。その結果が女ウィザード『トール』の誕生と相成ったわけである。

 

 そういう夢ならば、やはり絶対にやっておきたいこともある。分かるね?ええ、そうですとも。ズバリ、魔法を使うってことだ。こんな明晰夢なんていう体験滅多に出来るわけもなく、都合のいいことに、わりと今のところ思い通りの展開なのだ。寝落ちでENDなんてもの喰らったからには精々存分に堪能させてもらわなければ割に合わない。

 

 俺は脳内UIの魔法を開き、ダブルクリックをイメージして魔法使用を試みる。攻撃魔法はいくらなんでもまだ早い、取り敢えずエンチャント系で攻めてみようとグレーターヘイストを選択してみた。

 だが、何も起こらなかった。である…。いやいやいや、ソレはないだろう?おいおい、マジかここまでお膳立てしておいて、あ、魔法はないでしょwとか草生やされた日には流石にキレるわ。音声認識とかなのか?唱えるシステムですかー?まぁ、それも良し!だ。

 

 「ん、ん…ッ。あーあー、うお!マジか…声が色っぽい…ん、んん!ち…ちん…って俺は何をやってんだー!!変態かッ!!」

 

 思わず予想外の自分から発せられた甘いお姉さんボイスに、卑猥な言葉を無意識に口にしようとしてセルフツッコミをかましてしまったじゃないか。誰にも見咎められていないかを確かめるように辺りを挙動不審に確かめながら、自分を落ち着かせる。そう、俺がやりたいのは卑猥単語を発声することではないのだよ…。

 

 「…グレーターヘイスト」

 

 凛とした声音が耳朶を擽り、俺の視界に身体から発せられる青い靄のようなオーラにテンションは天井知らずに上がりまくった。一瞬後に身体中から溢れ漲る力、まるで羽根のように身体が軽い。この感覚は例えようもない、何せ、初めて感じたのだから。…これが、魔法。再現した俺の脳よ、想像力よ、本当にありがとうございました!!GJです!!

 

 さぁ行こうか、フルエンチャントだ。

 

 「アドバンスドスピリット、フィジカルエンチャントSTR、フィジカルエンチャントDEX、シールド、ディグリースウェイト、ブレスドアーマー」

 

 ふはは、何という全能感!身体中から力が漲るぞぉ!サイッコーにハイってやつだー。脳内UIイベントリー選択、俺はいつもの範囲用武器+6デーモンスタッフをイメージする。それこそ魔法のように何もない空間から禍々しい死神の鎌を彷彿させる杖が出現した。

 

 「…あれ?な、何で?」

 

 ああ、焦ったように口をついて出た声も何て可愛いんだ…お姉さんボイスのギャップが…イイッ。いや、違う違う。そうじゃない、俺は確かに現れたデーモンスタッフを手に取ったはずなのだが、今手に持った杖は、上部に紫水晶が付いたデフォルト杖とも言えるものだった。脳内UIのインベントリー内の装備品表記的には装備中のEマーク、デーモンスタッフにしっかりとそれが付いている。

 そういえば、今まで疑問にすら浮かばなかったが防具類もしっかりと装備しているはずなのに、自分の姿は装備類の影響を全く受けていない姿だった。どうなっているんだこれは…。

 

 試しに、杖を手放して地面に置いてみると、先程の鎌状のスタッフが現れた。…床置きするとアイテム形状が出現するってゲーム内と同じってことか…。防具類も装備を外すとステータス上のACが変化するし、インベントリーから直接取り出すとやはり、何もない空間からその防具が出現し、地面にばさりと広がった。+7リンドビオルストームローブ、見た目は修道服のようでかなりマシな部類。つーか、ローブ系は殆どがダサいからな…。ふふ、こんな代物床置きなんて滅多に見られないな…マジで。俺はボッチが故にコネもなく、竜系上位装備に関して言えば、確実に自分で作ることも不可能だったこともあり、これを手に入れる時はトレードで相当足元見られた。価格は…まぁいいかそんなことは。とにかく俺の資産で言えばほぼこれだけで4割ほど占めている感じか。

 突然始めた誰に対しての自慢しているのだ、と言いたくなることを考えてた自分に恥ずかしくなり、そそくさとローブをインベントリーに収めて再び装備しておいた。

 

 ごめんな、ボッチだから…誰にも自慢なんて出来ないんだよ…。泣いてなんか無いぞ。

 さりとて、そうなると、装備アイテム類はこのウィザードのデフォルトの服装にアタッチメント的に性能を付与するということだろう。うーん、じゃあこの服って脱げなくね?一瞬の疑問にそっとチューブトップの胸元に指を差し込み引っ張る。

 

 「…あ、………………………ハッ」

 

 ごめん、脱げるわ。そして、ありがとう。本当に、ありがとう…。

 この夢だけは、目が醒めても…忘れない。…絶対にだ。

 

 さて、ちょっとした疑問解消にとても有意義な時間が得られたこともあり、俺はスッキリとした頭でやりたいことをやり尽くす方向へと思考をシフトさせた。

 モンスターを適当に探して集めるか。くっくっく、焼き尽くしてくれようか、バラバラに吹き飛ばしてくれようか…実に楽しみではないか。俺は悪人のような思考と共に口角を上げる。

 

 「さぁて、狩りの時間だ…ホーリーウォーク」

 

 その魔法を唱えると自分の周りに清らかな真白な風が舞い起こる。試しに地面を蹴って走り出すと自分じゃ絶対に不可能な速度で辺りの景色が流れ出す。そう、今の俺は速さが足りているッ!!

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 木々が疎らに生えた林の中を俺は短距離陸上選手も斯くやといった速度で駆け抜けていく。しかも一切の息切れも、苦しさも感じない。永遠に走り続けられるんじゃないかとさえ思える程だ。素晴らしいな魔法!最高ですね魔法!俺の心は最早有頂天だった。

 

 しばらく堪能していると、ホーリーウォークの効果が切れ、速度が目に見えて落ちる。ふむ、効果時間は恐らくゲーム内と同等ではないな?いつもより長く感じたということは…あぁ、恐らくだがリネージュ内の一日は現実時間の6分の一で経過する、その中に俺が入ったと考えれば、リアル時間との差異が発生しなくなったということだろうか?魔法効果時間は軒並み6倍になったと考えれば辻褄が合うな。先程から、細かいことを気にすると思うが、俺の性格上これは本当に仕方ない。

 出たとこ勝負やら、事前情報なしの行動が苦手なのだ。小心者で臆病すぎると自分でも自己分析出来てしまうくらいに。まぁ、こんな性格だから友達も出来にくかったし…ごめん一人もいなかったわ。ははは…笑えよ。

 

 「お?ようやくいたな…オーク程度かぁ…物足りなさも感じるけどしょうがないな」

 

 のそのそと歩く、剣をもったオークファイターを中心に弓を構えたオークアーチャー、石斧のようなものを振り回すオークが視界に入る。3匹から5匹程度の集団がちらほらと見当たるのが幸いだ。

 なんせ俺の狩りは範囲こそ至高という考え方で行ってきたからな。一匹二匹じゃ物足りない。

 

 「そいじゃ、おちょくってやるかぁ。ホーリーウォーク」

 

 地面をザザッと削り滑る音を立て、俺はオークの集団の視界にその身を晒す。俺に気付いたオーク達は奇妙な鳴き声を出し、こちらを睨めつけ何やら警戒しているようだった。

 

 んー?まさか、ノンアクだから襲ってこないとかも一緒かい?確か、こいつらの行動は仲間意識だっけな?じゃあ、一発ぶち込めば一斉にかかって来るかな?

 

 「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ」

 「お?何わろとんねん?しっかしまぁ、超不細工だねお前ら…身体緑だし…病気?」

 

 こちらを窺っていたオーク集団が女一人だけと理解したのか不細工な顔を歪めて歯をむき出し笑い出す。言葉を理解するかは知らんが、ソレに対して俺はおちょくるように挑発してみる。案の定コミュニケーションは取れないようで可笑しそうに首を傾げながら、ジリジリと俺に近付いてくる。ほほう、俺にくっころしたいのかな?

 

 馬鹿が、お前らが獲物なんだよ。全員跡形もなく消し炭にしてやる…ふふ、ふはははは。

 

 「さーさー、追いかけっこしよーぜ。グリーンピッグ」

 「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!」

 

 背を向けて走り出した俺を追い立てるオーク集団に触発されたのか、散在していた集団もこちらに向かって地を蹴った。理想的な状況である。

 

 「ふーん、ここらはゲームとは違うのか。まぁ、人を襲わないモンスターってのも微妙だもんなーそこんとこリアルにしたのね、俺…いいんじゃない?楽だわ俺的にな」

 

 余裕綽々と、独り言を呟きながら鼻歌交じりで距離を一定に保ちながら、集団を一塊にするようにジグザグと進行方向を変えながら走る。ちらりと後ろに視線を遣ると、バカ正直に俺を目掛けてまっしぐらな集団は今や一塊になり30程の集団に膨れ上がっていた。

 

 「くく、さぁ…そろそろいいか―――」

 

 俺がそう口を開いた瞬間、集団の先頭を走っていたオークファイターの頭に矢が突き刺さり、慣性のままに地面を擦りながら倒れ伏す。それを目にして俺は一瞬の思考停止。後、シーフかおいこらぁぶっ飛ばす…と頭に血が上りそうになるが、よく考えると俺の夢にシーフもくそもねぇじゃんと思い直した。

 

 「ッ!!と、止まらないでぇ~ッ!!は、走ってくださぁい!!!」

 「え?」

 

 集団に向き直っている俺の後方から、焦りを感じた物凄い可愛らしい萌ボイスが響く。

 えー!?待って待って、俺以外の登場人物出るの!?いや出てもいいんだけど!まだ俺の心の準備が全然なんですけど!?ばっか!俺のばっか!!早いよ!しかも女の子じゃんこの声!!超かわいい声じゃん!ばかばかばか!!ボッチの俺がまともに会話出来るわけねーだろ!どうすんだよ!?

 

 「とにかく、こっちに!走って~~ッ」

 「…ぁぁ」

 

 声ちっさ!!!!俺、声ちっさ!!!!!そして、テンパって自分が何をしていたかすら頭の隅に追いやり、声の指示通りに振り返りながら走り出す俺。きっと、この人は俺を助けるためにやってるんだ。何ていい人なんだー!!と女の子からの善意を受けたことがない俺はそれこそ主人に従う犬のように走る。寧ろ、女の子に逆らえそうになかったです…。あぁ、弱い俺を許してくれ。

 

 「うぅっ、数が多いよぅ…ッ。あ、当たって!!えい!!やぁ!!」

 

 「…エルフか」

 

 俺の横を追走しながら、振り向きざまに矢を放つ女性を横目に呟く。

 走る度に靡き揺れる金色の煌めく髪はまるで美の女神のようだ。上気した頬に少し潤んだ淡い紫色の瞳、集中に依って真一文字に結んだ桜色の唇…全てが調和され、可愛らしさと美しさを両立させている。ぴょこりと伸びた長い耳は違和感よりも可愛さをより一層惹き立てる。素晴らしいなエルフ、可愛いよエルフ。見ているだけで癒されマックスだわ。

 

 「くっ…はぁはぁ、だ、大丈夫、ですか!?はぁ、うぅ…私、頑張りますから!あ、安心してくださいね!!はぁはぁ…」

 

 はい可愛い。何だこの可愛い生き物は、あぁなんだエルフか。あーこの何とも言えない必死に頑張ってる感にエールを送りたい。いや送らせてくれ、お願いします。ともあれ、このエルフ、何でか知らんがヘイストもGPも使ってないっぽいな。当然ワッフルも食ってなさそうだし…。何でだ?マゾプレイなんだろうか?止めろよ興奮しちゃうだろ…。まぁ、エンチャくらいはしておくか、文句言われることはないよな?え?ないよね?ね?言われたら立ち直れそうにないぞ。

 

 「…ヘイスト、ブレスウェポン」

 「え!?あれ…。か、身体が軽い…ウィザードさんなんですね!す、すごい!これならッ」

 

 良かった。どうやら文句は無いようだ。俺のエンチャントを受けて、先程とは別人と思える程に素早くオーク達を射抜き始める。その速度も命中精度も、威力さえも別物になっていた。こんなに違うものなの?と俺自身驚いたくらいだ。バンバン射抜き始めるエルフは依然走りながらもこちらを伺うように視線を向け…眩しすぎる笑顔で感謝を届けてくる。

 

 「あの、ありがとう!助かります!!」

 

 眩しッ!!その笑顔、100点をあげよう。しかも、こんな可愛い女子にお礼言われちゃったよ!すごい嬉しそうにしてるよ!!はわわ、こ、心がぴょんぴょんするんじゃ~だわ!!だがしかし、俺はこの感謝に返せる言葉がない。コミュ障舐めんな、オラァ…。

 

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 「これで…最後ッです!!」

 

 「ぐぎゃぁぁ!」

 

 彼女の放つ矢が最後のオークの脳天を貫き断末魔が響く。あるぇ?結局俺、攻撃魔法試せず仕舞いになったんだが…どうしてこうなった…。いや、こう言われるがままに引き狩りに付き合っちゃっただけなんだけどさ、ここで空気読まずに範囲ドッカーン『お前の出る幕じゃねぇよ』とか絶対言えないからね?そんなキャラじゃねぇし俺…。

 

 「ふぅ、えへへ。助けに入ったのに逆に助けられちゃいましたね?すごい魔法でした!私、初めての体験しちゃいましたよ~。えっと、聞き辛いんですけど~…もしかして、私って余計なお世話しちゃった感じです?」

 

 エルフが俺に対する賛美の後、眉根を下げて困ったような表情で疑問を口にした。

 うぁ、どうしよう…。何て答えればいいんだ?別に、とか言いそうになったわ!いやーそれはないだろう?誰か、イケメン返しを教えて下さい。俺にはハードル高すぎるよ!!後、すっごい可愛らしく『初めての体験しちゃいました』って台詞、脳内リフレインされまくってます…。あー、俺が何も言わないからちょっと悲しげな表情に…くっ、なるようになれ、だ。

 

 「…き、君の助けようとする気持ちが…嬉しかった」

 

 うわぁ!?何言ってんだ俺ぇー!!どもっちゃったし!キモいとか思われるかもしれねー!!あーあーもう嫌だ―目覚めてぇー、恥ずか死するー…。

 

 「ぁ…えへへ、良かった…。そう言って貰えて、その、わ、私も嬉しいです!」

 

 おや?天使かな?

 

 俺のよく分からないフォローに頬を赤らめ、満面の笑みを浮かべて応えるエルフ。本当にご馳走様です。その笑顔でご飯がいっぱい食べれます。

 

 「私、エルリーンっていいます。見た通りエルフで、最近森を出て来ました」

 

 エルリーンと名乗った彼女は、リネージュのエルフの服装そのままの姿。袖なしサリーブラウスにまるで布を巻いただけかと思われる程のミニスカート、膝から下を覆うレッグウォーマーに似た衣服の下は革製の紐を編んだサンダル、お洒落な折袖のついたアームサポーター、それらは揃えたようにピンク色の模様が描かれている。衣服に覆われていない素肌はまるで陶器のように白く、シミひとつ見当たらない。

 

 「えっと、その…ウィザードさんのお名前を伺っても…?」

 

 じっとエルリーンを眺めて癒やされていた俺に、困ったような表情で二の句を告げる。自己紹介をしてくれたのに、即座に名乗れない俺の空気の読めなさよ…ごめんね、エルリーン…。

 

 「トール…と呼んでくれ」

 「はい!トールさんですね?その、トールさんは、これから何処へ向かわれるのですか?」

 

 え?何処へと言われてもな…。俺に目的なんてない、魔法使って堪能したら適当に目が覚めるまでボーっとしてればいいやと思ってるレベルなんだが…。

 

 「何処という目的は…ない」

 「えっと…修練の旅ということです?」

 「…どう、だろうな。…俺には、何も、無い」

 

 説明しようもない俺の状況に口籠る俺に、深刻な表情を浮かべてこちらを悲しげに窺うエルリーン。あ、これ何かすごい辛い過去があるみたいな感じになってないか?ごめん、そんなこと全くないんだけど…気を使わせてる感じが犇々と伝わってくる。

 

 「…何も無いなんて、言っちゃだめですよ…。出会ったばかりの私が何をと思われちゃうかも知れませんけど、トールさんを大切に想い、トールさんが大切に想う…そんな出会いだって、絶対に…訪れます!だ、だから、その…うぅ、ごめんなさい…偉そうなこと、言ってますよね?」

 「…いや」

 

 わー、何ていい子なの。というか勘違いさせて申し訳ない。別に何か壮絶な過去があるわけじゃないんです。ただの口下手だっただけなんだよー…ごめんよエルリーン。

 しんみりとした空気に耐えられず勘違いを正そうと、俺は何とか口を開こうとしたが、がさりと草を分け入る音に遮られ視線をそちらに向けた。

 

 「ほぉ、こいつぁ上玉が二人もいるじゃねぇか…くく、いいねぇ俺様達もツキが回ってきたってことか?おい、野郎ども逃がすんじゃあねぇぞ?」

 

 鬱蒼とした丈長の草を分け現れた筋骨隆々としたおっさんに続き、続々と悪人顔の連中が顔を出す。見た感じ、どこかで見たような風貌に俺は記憶と照らし合わせてみる。

 あぁ~…なんだっけこいつら、バンディット?だっけ人型モンスターなんだよな?というか、普通に悪人なだけじゃね?とは思うけどな。

 

 「へへ、ボス~俺ぁ、黒髪の女がいいっす!」

 「おい、俺もだ!!テメーはあっちのエルフにしとけや!!」

 「はぁ?俺が黒髪のねぇちゃんを天国に連れてってやんだよ、オメーらは勝手に一人でやってろ」

 

 「うるせぇぞ、テメェら…黒髪のほうは俺の女にする。エルフのほうは好きにしろ」

 

 そんなぁ~。と情けない声を上げる子分達を諌めるおっさんが舐めるように俺を見て髭に覆われた口元に、ニィッと歯をむき出し嗤う。俺はその様子に、少しだけほっとしていた。何故ならば、ここまで俺の天使であるエルリーンを差し置いての人気は、トールの美貌を約束されたようなものだったからだ。

 というか、俺の夢?さ、くっころ展開多すぎね?しかも、何で自分がされる側なんだよ!?どんな性癖こじらせたらこんな夢見るの!絶対嫌だよ、こんなおっさんどもにくっころされんの…。

 

 「トールさんッ、逃げて下さい!わ、私…絶対に、トールさんを逃しますから!」

 

 俺を背に隠すようにエルリーンがバンディット達の前に出て弓を構えた。

 いや、流石に二度も守られてちゃあかんでしょ…俺。後、いいタイミングに来てくれたもんだよ数を揃えてさぁ?くく、ツキが回ってきた?馬鹿だなぁ、完全にお前らはツキに見放されてるぜ。

 

 「エルリーン。さっきの借りを返させてくれ…」

 「と、トールさん…?」

 

 「ひゅーっ、友情ってやつか?心配しなくてもいいんだぜぇ?仲良く可愛がってやるからよぉ。てめぇらが壊れるまではちゃあんと遊んでやるよ。くはははははは」

 

 何を勘違いしたのか、エルリーンをそっと押し留めて奴らの前に進む俺に三下っぽく下衆な台詞を撒き散らし笑うバンディットボス。その姿に俺は口角をグッと上げて不敵にほくそ笑む。

 

 「そうか、じゃあ…簡単に壊れないでくれよ?」

 「あ?」

 

 みんなー集まれぇ~!やっと試せるね、攻撃魔法!さぁ、取り敢えずバンディットボスとバンディットが少し離れて10匹程度か、そうだなぁ…じゃあ範囲内で収まりそうなバンディットからだな。さて、何がいいかな?遠距離範囲だとLS辺り試してみるかな?流石にメテオはもったいない?いやもったいないとかはねーけど。

 

 無造作に近付く俺に、警戒することなく奴らは包囲を狭めるように距離を詰める。本当にお馬鹿さん達。それは、完全に悪手だ。

 

 「どうやら俺は大人気らしいじゃないか。だったら遠慮することはない、全員相手してやる」

 

 俺の言葉に下衆にお似合いのエロザルみたいな顔を浮かべて大笑いするバンディットに向けて、杖を傾ける。残念、君達の冒険はここで終わってしまった…だ。

 

 「ライトニングストーム」

 

 信じられない爆音、轟音を轟かせ雷光の嵐が巻き起こり、俺は聴覚が馬鹿になりそうで顔を顰める。初めて見る攻撃魔法は―――――規格外の天災レベルの威力だった。

 

 放たれた雷撃の嵐は定められた範囲を荒れ狂い、その悉くを消し炭にしていった。木々を草花を、肉も骨も関係なく、その嵐の前では全てが平等に。

 

 「あ、は…?な、何が起こりやが…あ?お、おいテメェら何処行きやがった!?返事をしろ!」

 

 「見えないのか?お前の子分達はほら、今まさに風に乗ってお空へ向かってるじゃないか」

 

 俺が指し示す宙空に、細かな灰が風に舞って何処ぞへと運ばれている光景があった。

 その光景に目を見開き驚愕の表情を浮かべたバンディットボスの頬を冷たい汗が流れ落ちる。そして、やっと気付く…この絶望的状況に、自分が相手取った者が一体どんな化物かに。

 

 バンディットボスは目の前の獲物だったはずのソレに、まるで神に対する畏怖のような感情を抱く、だが、それは何の意味も持たず、面前の彼女を止める手段さえ思いつかない。地に額を擦り付け泣いて謝っても無為。そう思わせる程に、彼女には何の表情も無く自分のことを命ある一個の人間として見ているのかすら疑問を抱く。

 現に、トールはバンディットやバンディットボスに一切の人に対する感情を持ち合わせておらず、ただ、ただ、モンスター(けいけんち)として見るばかりだった。

 

 「ぐ、た、頼む…っ!い、命だけはッ…見逃してくれ、いやください!!お願いします!!なんでもする!か、金も、宝石も全部渡す!…だから!頼む、頼みます!殺さないでください!!!」

 

 THE土下座をするバンディットボスに俺は吹き出しそうになる。いやだってこんな悪人のテンプレっぽい台詞吐かれると、本当に言うんだ!?って思うよね?まぁでもモンスターだし見逃したとこで何の利点も俺にはないし、そうだなぁ…単体用の魔法も試したいからそれで。…あーでも、倒す前に何か言ったほうがいいかな?エルリーンも見てるんだし…こう、何ていうんだろ、こちらの正義?を提示しておかないとただの殺人狂に見えね?…うーん、と、取り敢えず何か言ってみるか?

 

 「そう言って助けを乞う人間を…何人殺してきた?」

 「―――――――ッ!!!」

 

 俺の言葉に弾かれたように顔を上げ、涙と鼻水をダラダラと垂らしたみっともない顔で慈悲を乞う。

 

 「善悪を問答するつもりはない。ただ…そう、お前がやって来たモノが、お前の番になっただけだ…受け入れろ。悔い改めろなんて事は言わない…これがお前の贖罪だ。贖え、己が罪を」

 

 うわ!やべぇ、ついつい興が乗って中二全開で喋っちゃった!?は、恥ず!!あー!?エルリーンも聞いちゃってるじゃん!イーヤ―、何で調子乗っちゃったの俺ぇー!?お、落ち着け…ま、まだ焦るような時間じゃない…とか思ってる場合じゃないが、取り敢えずさっさとコレを処分しとこう…。試させてもらうぞい、常用単体系攻撃魔法を、な。

 

 「ゆ、ゆるし―――――」

 

 「―――サンバースト」

 

 キィンと耳鳴りが走り、向けた杖の先に土下座をしたまま呆けた顔を晒したバンディットボスに眩い光が収束する。重力圧縮による熱量の上昇により爆縮し痕跡さえかき消す、限界まで圧縮された光は反発、衝撃波を伴う爆発音と共に小さなクレーターを作り…そこに居た何かを消し去った。

 

 「…」

 

 うぉー!サンバかっけぇ!?なんだこれぇー!!そして強ッ!!強すぎね?一発で消滅したんだが!?しかし、やばい威力だなこれ…殺さない程度の手加減とか不可能じゃね?攻撃魔法って…。うわぁ、何ていうか興奮ですごい身体の震えが止まらんぜ…っ。

 

 「…トールさん…もう、大丈夫です…もう、終わりましたよ」

 

 震える俺の手に柔らかで温かな真白な手が添えられる。急な、スキンシップに思考が止まり惹きつけられるように振り返る。そこには、物悲しさを訴えるようでいて、過ちに許しを与えるような慈愛に満ちた表情の天使のような少女がいた―――。

 

 「…あ、え?」

 「もう、大丈夫、大丈夫ですから…」

 

 エルリーンは震える声で呟き、俺を優しく包むように抱きしめた。

 え!?ちょ、何があったし!?あ、柔らかい…そして、超いい匂い…あーもう死んでもいい。っていやいや、何!?何この展開!?ど、どどうすればいいんや…俺もぎゅっとしていいんかな!?

 

 「トールさんに何があったかは聞いたりしません…。でも、私に出来ることなら…なんだって。だってトールさんは私の命の恩人なんですから…ね?」

 

 ん?今なんでもって言ったよね?じゃなくて!!あれ?どゆこと?………あ、もしかして、あれかバンディット達が出て来る前に話してた事で深読みしたエルリーンは、先程の中二病的台詞もあって俺の過去を壮絶なものと誤認してしまったらしい。早いとこ誤解を解かないとだめだよな。

 

 「私、決めました…。トールさんに付いていきます!ご迷惑になるのは承知してます…でも、でもそれを伏してお願いします!!私を一緒に連れて行ってくれませんか!?どうか、お願いします!」

 

 「……はい?」

 

 初めてエルリーンのような美少女に抱きしめられ、混乱極まる状況に苛まれながら俺は上擦った声を上げるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 




用語やらアイテムやら魔法やら説明するとこ

ファイアストームー火属性広範囲魔法。自分を中心に炎の嵐を出現させて敵をBBQにしちゃう魔法。

メテオストライクー火属性長距離、広範囲攻撃魔法。「パワーをメテオに」→「いいですとも」

ランカー変身ーレベルランキング上位に与えられる変身。リネでは変身をして行動速度を上昇させるのですが、今回のお話では変身システムは使用しない方向です。

リスポーンー倒した敵が再び出現することだよ。リネではリポップとか言う人もいましたね。

UIーユーザーインターフェース。ゲーム上でクリックしたりして操作できる便利なやつ。ゲームに依っては不便なやつもある…。

インベントリーー所持アイテム欄だよ。

エンチャントー補助系魔法。ステータス強化や武器強化など多種多様!

グレーターヘイストー行動速度をあげるよ、自分だけね!そのかわりヘイストよりも長い時間持続するよ。

アドバンスドスピリットーHPとMP上限があがるやつだよ。

フィジカルエンチャントSTRー力こそパワー。

フィジカルエンチャントDEXー機敏さってなんだろうね?弓使いや遠距離攻撃回避するなら使おう!

シールドーACをあげるよ。ちょっとだけね。

ディクリースウェイトー君の荷物を軽くしたい。

ブレスドアーマーー装備してる鎧を強化するよ。鎧だけね!

+6デーモンスタッフー魔力が沢山あがるよ!でも、お高いんでしょう?

+7リンドビオルストームローブー小国の国家予算くらい。特殊な能力を備えてるローブだよ!

ACーアーマークラス。数値が低ければ低いほど固く、強い。そして避ける!

ホーリーウォークーそして何よりも、速さが足りない貴方へ。

ノンアクーノンアクティブモンスター。何もしなければ襲ってこないよ。

シーフー人が叩いてる敵を横殴りすると殺されたりします。

ヘイストー誰にでも使用できる行動速度アーップ。

GPーグリーンポーション。行動速度が上がる緑のお薬。メロン味かな?

ブレスウェポンー武器の命中と威力を上げるよ!掛からない?それは素手じゃない…英雄武器さ!!

ライトニングストームー通称LS。風属性広範囲魔法。ビリビリするんじゃー。

サンバーストー通称サンバ。火属性単体高火力魔法。ボスに連打するならこれ。
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