レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。   作:とらこさん

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ATTENTION
原作リネージュです。魔法名、アイテム名、地名、など使用しますが、ストーリーやキャラクターなどはほとんどオリジナルとなります。
というか、作者はリネージュのストーリー背景などほぼ知らないままゲームプレイしていましたので知識はありません。

それでもいいと仰る方はそのまま読み進め下さい。

今回あとがきの用語説明は次回以降に回します。お話の流れを考慮してのことです。ご了承下さい。


二話 ままならないアクティビティ

 

「…えへへ」

「…どうした?」

 

 エルリーンの楽しそうな笑顔に俺が問いかけると、軽く頭を振り、何でもないですよ~と言いつつピタリと俺の傍に寄り添い歩く。控えめに言って、女神じゃね?天使超えちゃってね?ランクアップ早いね、君。

 

 バンディット撃破から小一時間。俺達は行動を共にすることになった。

 そうなると思ってたって?うん、あんな抱きしめられながら懇願されたら断れるわけないよね。断れる奴いたら俺、今ならそいつにパワーをメテオにしていいですとも出来そうだもん。

 まぁ俺の夢なんだから別に気にすることは無いと思うんだが、俺に付いてきてエルリーンの森を出た目的を果たせないとかだと心苦しいなぁと思い、拙くはあったが、それを何とか伝えた結果、エルリーンの目的はエルフの森を出て見聞を広めることだった。その為、俺と行動を共にすることによってそれが阻害されることはないのだそうだ。

 

 「思ったより結構、遠いんだな…」

 「え?そ、そうですか?まぁ、距離はある方ですね…トールさん疲れちゃいました?」

 「いや疲れてはいない。そうだな、知識で知っているのと、体験するとでは差異がある」

 

 今現在はエルリーンの持っていた地図を見せてもらい、現在地を確認することが出来た。場所はエルフの森の南東、ドラゴンバレーにほど近いところ辺りで、彼女の当初の目的地だったケントへと向かっている最中だった。

 ゲームじゃランテレでピュンピュン飛べるし、寧ろ歩きだろうとすぐに着くイメージがあったが、流石にこの再現された世界は相当広いようで、彼女がエルフの森を出てここまで歩きで2日掛かってるそうだ。2日て…広すぎワロタ。まぁ、2日寝ずの強行軍したわけじゃないんだろうし、ゆっくり歩いては来たのだろうが…それにしても世界って広いね!と思わせてくれる距離だろう。

 

 「…と、ところで…ケントには何を?」

 「えっとですね、ケントの冒険者ギルドに登録しておこうかと!何をするにも先立つものは必要ですしね~」

 

 長時間の沈黙には耐えられそうもないので俺は必死に話題探しを頑張っています。エルリーンは無言でも気にした様子はなく、ふとした拍子に話を振ってきてくれるのだが、こちらの受け答えが上手くないのもあって俺は大いに気まずさを感じざるを得ない。

 

 しかし何かおかしなことを聞いたな…冒険者ギルドってなんぞ?リネにそんなのあったっけ?いやあったのかもしれんけど…あれ?あった?いや、知らんなぁ…。それってなんじゃろ、じゃろに聞いてみようというフレーズが浮かぶ。まぁ、普通に聞いてみるか我が女神に!

 

 「冒険者ギルド、とはなんだ?」

 「え?…えっと、あれ…?私てっきりトールさんは冒険者さんなのかなって思ってたんですけど、違ったんですか?」

 「…俺は、ただのウィザードだ。ずっと、一人だった」

 「あ…う…ん、んん!!これからは!違いますよね!?…私がいます。そうですよね?」

 「あ、ああ…そうだな」

 

 だめ、この子ヤバイ…マジ天使、いや女神やん。というかちょいちょい気遣わせて何かごめん。本当のこと言ってるだけなのに…何か、物凄い俺の闇が深くなっていくな…。何でだろう?ああ、考えると鬱になりそうだからやめておこ。

 

 「えっと、冒険者ギルドはですね、ギルド協会が発足した冒険者との相互支援を目的とした機関ですよ。ん~、簡単に説明するとですね~…人や街の問題とかをギルドに依頼という形で集めて、冒険者さん達にクエストという形で提示して金銭を対価に依頼を請け負ってもらおうという感じです!」

 「おー、簡潔で分かり易い」

 「ホントですか!?えへへ、良かったぁ~」

 

 にゃるほどな。何だろリネにもクエストはあったが、こんなシステムではなかったはずだ…。となると、何かしら他のものが混ざってる?と考えるべきかな。というか、だ…依頼をこなして報酬をもらうってことはだ。普通にそれが必要であるから出来たシステムだよな…?そう、何か違和感が結構前からあったんだ。リネでは当たり前の、いやゲームとかじゃ結構一般的なはずのものがなかったことに。

 

 ――――そう、アイテムドロップ。金のドロップ。それらが無かったじゃないか!

 

 「変なことを聞いても…いいか?」

 「え?何ですか?何でも言ってみてください」

 「…モンスターを倒した後、アイテムをドロップしたり…お金をドロップしたりしないか?」

 「…………えーと?どろ…っぷ?」

 

 聞き慣れない単語だったのか、エルリーンは小首をかしげて聞き返す。その姿、想像してみ…これマジヤバイ可愛さだから、ホント、写メ撮ってロック保存安定やで。

 

 「いや、すまない…アイテムを落としたりしないか?」

 「あ~、そういう意味なんですね!んー…そういうのは聞いたことないですねぇ。えっと、モンスターが人の食料やアイテムを盗んでいて倒した時に落とした、という意味ならあり得ないとは言いませんけど…それも特殊な事じゃないでしょうか」

 「そうか、ありがとう。…えっと、その…だな、エルリーンは説明が上手い、な。わ、分かり易くて…とても助かる」

 「あ、え、えへへ…トールさんに褒められちゃいました…」

 

 頬を赤らめ、両手の指先を合わせながら俯き加減に呟くエルリーンにほっこりしつつ、俺は与えられた情報を整理していた。アイテムドロップが無い設定だと、おかしなことにならないか…?レベル4以上の魔法書、エルフの精霊魔法の水晶。他職のスキルや魔法なんかもそうだ。それらが手に入るのはモンスターを倒した時のみで、一応店売りしてある部分はあるにせよ、大部分がアイテムドロップに依存してたはずだよな…。

 

 そう言えば、エルリーンが『初めての体験しちゃいました』と言ってたのもそれが本当にそのままの意味であったなら?この夢リネの世界(仮)では中級以降のレベルの魔法が『無い』または、そうとう希少という線が出てくる。変に注目を集めていらんことに巻き込まれないためには、人前での魔法に少し気を配ることも必要かも知れないな…。

 

 エルリーンに関して言うなら、つい先日エルフの森を出たばかりでゲームで言えば『初心者さん』ということになる。だから、俺の使った魔法を初めて見たがそれがどれくらいすごいものなのかを理解していないということもあり得るからな。殊更に釘を刺すこともないかな…。

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 道は続かないよいつまでも。といったところでこの周辺は街道も整備されておらず、急に途切れては森をぶち抜かなきゃいけなかったり、だだっ広い草原をハイジよろしくにエルリーンとキャッキャウフフと走ったり、超デカイ蜘蛛に出会い、恐怖のあまり固まってしまったりと色々と数時間に詰め込みすぎた。

 正確な時間経過は分からないが、恐らくは4、5時間辺りは経ったと思われる。体感の時間経過なんてそこまで当てにはならないが、まぁ予測はしないよりしたほうがましなのであーる。

 

 そして、この4,5時間は俺にとっては色々と今の自分に関する情報を得るのにかなり有意義だったと言えるだろう。まず、体力面だが、リアルの俺とは比べるのも烏滸がましいだろうが4、5時間平坦ではない道のりを歩き、時に走ったりと殆ど休憩も無く突き進んだにも関わらず…全く疲労感を感じることが無かった。夢だから~とも考えられるんだが、この世界の再現度的にはステータス項目の数値が関わっていそうだ。

 つまりはCONー constitutionだっけ?体力の事だ。この数値が高ければレベルアップ時におけるHPの上昇率が増加し、また、多くの重量に耐えうるボーナスも得られる。まぁ純然たる体力を示す数値と考えればいいだろう。

 リネではキャラクター作成時、振り分けられるステータスポイントを職業によって数値変動はするが全員が貰える。それはベースステータスに上乗せする形で上昇させるのだが、そのベースステータスの体力値を冒険者の基礎値とみなし職種全てを含めて数値化すると10~16といった辺りが一般的な体力といった所だ。

 さて、ではそれを考慮しつつ、ゲーム内での一応一人前とされるべきウィザードとトールを比べてみよう。

 Lv55 ウィザードさん CON16 HP630。

 Lv99 トールさん   CON25 HP1740。

 うん、圧倒的差ですね。同じ職種とは思えないですな。トールは他にもステータス上昇装備もあるのでこの数値以上に強化されている。つまり今の俺、体力お化けである。やったぁー!

 

 そして、今の数値も関係するのだが、俺がこの夢リネ世界(仮)にINした時に『痛みが曖昧』だと表現したのだが、覚えているだろうか?まぁ、偶然ではあったが、早い段階でそれがどういうことか推察出来たと思う。

 少し前に大昔の初心者キラーこと、ジャイアントスパイダーぱいせんに遭遇してしまったのだが、何を隠そう俺は超蜘蛛が苦手だ。虫全般得意ではないが、まぁその中でもダントツで無理なレベル。

 

 皆は小学校の遠足とかで山に入ったりしたかい?よくある、班を決めて班ごとに行動するってやつさ。俺はさほど仲良くも無い班に教師強権で無理矢理ねじ込まれていた。ああ、そうだよ!その頃からボッチだったよ…いいだろ、それは。さて、山といえばそりゃあ生き物が沢山いるだろう?虫だっていっぱいいるさ、そして不運にも俺は馬鹿でかい女郎蜘蛛とエンカウントしてしまったのさ。

 奴は子供の俺に上空よりスルスルと忍び寄り、首筋にかさりと着地した。直ぐ様に振り払えば良かった、だが、身体はまるで石化でもしたかのようにピクリとも動かせなかった。絶望的な恐怖感、嫌悪感が俺の神経を這い回り、涙と鼻水を垂れ流しながら俺は必死に班行動のクラスメイトに助けを求めたんだ。…そこに返ってきたのは、助けようとする意思の欠片も無い、嘲笑と指を指し腹を抱えて人の不幸を笑うニンゲンの姿だったのさ。めでたく俺は気を失い途中退場。ガキの心にトラウマを植え付けるには十分過ぎる光景と感触、おまけに人間不信もセットでいただきましたとさ。

 

 おおっと、何か話が大幅に逸れたな。まぁそういうトラウマもあって蜘蛛が苦手な俺が人の二回り程度あるジャイアントスパイダーに恐慌し、足を縺れさせ地面と熱いベーゼを交わしたわけだ。

 所謂鼻血が出るほど強烈な激突で、俺は―――()()()()、というものを喰らった。そして、そのダメージは脳天を突き抜けるように俺の神経を伝い、脳に痛みを伝達したのだ。曖昧などではない、本当に夢なのかと疑問を投げかける()()()()()を――――。

 

 つまり、こういうことだ。俺はHPの割合的にある程度のダメージを喰らうときっちり痛みが発生してしまうというね。…こうやって夢の世界の設定さえも考察してしまうのはどんだけゲーム脳だと呆れてしまう。

 

 ん?ジャイアントスパイダーはどうしたかって?……決まってるだろ?エルリーンが仕留めましたよ?(にっこり)…やめて!?言いたいことは分かるさ!俺の脳内では『おお、トールよ。女を盾にするとは情けない』と王様風のおっさんに罵倒され続けてたわ!!

 

 「トールさんトールさん!そろそろ日が落ちますよ?ここらで野営の準備整えませんか?」

 「……え?あ、そ、そうか。そうだな」

 

 情報の整理に夢中になり、外界への注意力が散漫だった俺に甘やかな声音が響き、意識が浮かび上がるように現状へと回帰。視界の焦点もきっちりと合わせた。エルリーンの言う通り日が傾き、1時間もしないうちに日没を迎えそうだった。

 

 「ケントはまだ距離があるか…」

 「んー…そうですね~。無理して進めば翌朝には着くとは思いますけど…どうします?」

 「いや、無理をする必要は、ないだろう。俺は…何をすればいい?」

 「それじゃ、火を起こす枯れ枝や薪になりそうな木片を集めてくれますか?」

 

 にこりとしたエルリーンに頷き応じ、俺は木々が密集した場所に当たりをつけ足を向けた。

 俺は枝や木片を両手いっぱいに持つことは無く、インベントリーにぽいぽいと突っ込みながらどれくらい集めれば事足りるか聞いておくべきだったと思い至っていた。

 

 うーん、キャンプとかしたことないしなぁ…誘われたことないもん…。いいか、適当に大量に集めておけば大丈夫だろう。別にインベントリーの重量制限も全然余裕あるしー。そう思い直し俺はさらに集めようと草木の茂る辺りを目指すと、がさりと草を揺らす音に先程のジャイアントスパイダーのことを思い出し、ぎくりと身体を固くしてしまう。

 

 「きゅ」

 

 「…」

 

 草むらから飛び出したのは灰色のウサギだった。ふぅ、脅かすなよーちょっと冷や汗かいちゃったよ。しっかし、野生のウサギなんて初めて見るなぁ…。あはは、鼻ヒクヒクしてら。

 

 「おー、しっかし結構可愛…――――――」

 

 ヒュンという風切り音が俺の言葉を遮り、目の前に居たウサギに矢が突き刺さり断末魔さえ上げること無く絶命した。

 

 「あ、トールさーん!お肉!ゲットですよ~」

 

 「…Oh」

 

 そうだなぁ…こんな世界だもの、毎日がサバイバルさー。俺は瞳のハイライトを無くしたような心境でエルリーンに振り返ると、とってもいい笑顔な少女が手を振りながら駆けてくるのが見えた。

 そうそう、ウサギしゃん可哀想~~とか言ってるような甘い世界じゃねーからリネは。これぞ現実よ。何処ぞの包帯男だって言ってたし、所詮この世は焼肉定食だって。俺もそう思うよCCO。お肉食べろ!!

 

 「えっと、ど、どうかしました?トールさん…?」

 「いや、エルリーン…狩り上手いな…」

 「え、そ、そうですか?ふふ、私、弓はとっても得意なんですよ?食材調達はおまかせあれ~♪あ、ちゃ~んと料理も出来ますから!そっちも楽しみにしてくださいね?ふふふ」

 

 …ああ、可愛いなぁエルリーンは。俺は何故か遠くを見つめながら先程の光景を無かったことにすると心に決めた。俺は何も見なかった。いいね?

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 俺が枝や木片を大量に集め終え、野営場所に戻ると、機嫌よく鼻歌交じりで下拵えをしているエルリーンの姿があった。あぁ、良かった。何かしらを解体する現場じゃなくて…。

 彼女は戻って来た俺に視線を向けると、眉根を下げて少しだけ困った表情を浮かべて口を開く。

 

 「えっと…薪になりそうなもの見つかりませんでした?私、もうすぐ下拵え終わるので、一緒に探しましょっか♪」

 「いや、ちゃんと手に入れた。心配はいらない」

 

 俺の言葉に不思議そうに目を丸くして、首を傾げるが、次の瞬間ポカーンとした表情に変わることになる。

 軽く目を閉じ脳内UIをイメージ、インベントリーから先程採取した枝や木片を取り敢えず適量取り出し地面へと放り投げる。すると、まるで何もない空間からバラバラと降るように出現する木材。

 

 「このくらいでいいか?」

 「……え…えぇぇぇ~~~~~!?」

 

 静かな湖畔の近い林の中、可愛らしい声が響き渡った。

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 「任せてくれ」

 「はーい、それじゃあお願いしますね!」

 「ああ」

 

 日も落ち始め、辺りを薄闇が包み出す。調理も始めるらしくそろそろ火を起こすことになった。そこでその役目を俺が買って出ることにしたわけだ。はは、簡単だよ火を起こすなぞ…俺は全ての魔法をコンプしているからな。楽勝すぎて目を瞑ってようがこなせるレベルだ。

 

 さてと、ファイアーボールはダメだな、範囲魔法だからターゲットがどうなるのかちょっと分かんないし…じゃあ普通にファイアーアローしかないか…エルリーンも火起こしで使用することがある魔法だって言ってたし。よしよし、えーっとそうそうデーモンスタッフは外しといてと…何か装備するか?いや、別にいいか素手で。威力は最低限にしないとな!

 枝と木片を組んだ焚き木に指を指し示すように向け、俺は魔法を唱える。

 

 「ファイアーアロー」

 

 俺の指先から指向性を持った豪炎の矢が放たれる。その炎は灼熱、俺の意思を受けターゲットに猛烈な速度で向かい射る。鉄さえも融かしうる熱量を伴いその豪炎の矢は焚き木へと突き刺さり、そう、一瞬でそれを消し炭へと変えたのだった。

 

 立ち上る煙は確かに火を起こした結果ではあるものの、そこに残ったものは完全に炭化した炭だけである。確かに、この世界では火を起こすのにファイアーアローを使用することがあるとエルリーンは言っていたが、そこにはある誤算があった。それはトールというキャラクターの悪魔的なほどに人知を超えた知恵と魔力数値による魔法威力判定だった。

 

 「……あー、えーっと…ちょ~っと火力が強すぎましたね…あはは…」

 「…す、すまん」

 

 まじかぁ…あーまじかぁ…。そりゃあそうだよなぁ、だってトールって鉄で出来たアイアンゴーレムをファイアーアロー数発で沈めてたもんなぁ…。焚き木程度消し炭になるわ!!はぁ、自信満々で引き受けた手前…何とも情けないなぁ。

 

 「よし!まだ日は落ちきっていないし、二人で探せば直ぐに薪になりそうものを集められますよ~。気にしないで、ちゃちゃっと集めましょ~♪」

 「あ、それは大丈夫だ」

 「はえ?」

 

 俺はまだまだ残っている枝と木片をインベントリーから取り出し地面へ、再び大量の木片がそこに現れるのを見て、エルリーンはもう何が起こってもトールさんなら不思議じゃないです…と呟いていた。

 

 

 

 

 食欲をそそる香草類とお肉(ウサギ)の煮込まれたシチューのような料理が焚き火の上の小さな簡易鍋で湯気を立てる。漫画やアニメのような食べられないようなものが出来上がることなく、エルリーン自身も言っていた通りちゃんとした料理が出来上がっていた。

 とてもウサギ(お肉)が…違う。お肉(ウサギ)が煮込まれているとは思えないね。美味しそう。

 

 「そろそろ、いいかなぁ~?ん、いいみたい。トールさん出来ましたよ~一緒に食べましょ~」

 「ああ、手伝えなくてすまないな…」

 「気にしないでくださいよ~。私、料理大好きだし、美味しく食べてくれるだけで嬉しいです」

 

 シチューをよそった銅製のお椀を手渡しながら、エルリーンは優しく微笑む。もうホント、最高です。食べなくても分かる、それ絶対美味しいやつ。

 ちなみに、焚き火はエルリーンがナイフの背とそこらの石を使って何故か割りと簡単そうに種火を作り火を起こしていた。うーん、さすがやな…完璧美少女エルフやで君。

 

 俺は木のスプーンでシチューを一口、少しピリッとした辛味の中に濃厚な甘みが絡み日本の食卓のシチューとは全く違うが、美味いとしか言えない味だった。

 

 「これ、美味いよ。エルリーンは、何でも出来てしまうな…うん、美味い…」

 「…良かったです。ふふ、おかわりありますからね?たくさん食べて下さい、トールさん」

 

 シチューのお椀を受け取った後に差し出された少し固めのバケットに似たパンは、バターを練り込まれているのか甘みが強めでこのシチューとの相性は抜群でどんどんと胃に収めていける。

 黙々と食を進める俺を眺めていたエルリーンが、ふと、クスクスと笑い出す。俺は視線だけを彼女に向け、首を傾げた。

 

 「あ、ふふふ、ごめんなさい急に…思い出し笑いしちゃいました。トールさんって蜘蛛が苦手なんですね…あの時の『助けて、エルリーン』って涙声がすっごく可愛くて、ぎゅーってしたくなったんですよ?」

 「…う、わ、忘れてくれ。失態だった」

 「あ、いえ!別にその馬鹿にしてるわけじゃないですからね!?気に障ったなら謝りますけど、本当に可愛かったな~って思って…えへへ…それに…」

 

 恥ずかしさに頬が熱を持つのを感じ俯いた俺に、エルリーンは言葉を重ねていく。

 

 「少し、安心したんです」

 「…安心?」

 「私思うんです、怖いってことは嫌なことで…そう感じるってことは、心はそうじゃないことを望んでるって。死ぬのは怖い、生きたいって…怖いのは嫌なこと、じゃあきっと、それは、幸せになりたいって望んでるって…」

 

 彼女の瞳は真っ直ぐで、俺の心そのものさえ見つめているかのように不思議な色を持っている。

 恐怖というのは防御的で生存本能的な感情だとか、特定の刺激に対する反応だとか、名前さえ知らない心理学者や生理学者の研究の真実よりもエルリーンの語る想いのほうが余程、本物だと思えた。

 

 「…トールさんがあの時、助けてって言ってくれて。私、助けたいって心から思った。…怖いって感じたから…。トールさんと比べたら本当にどうしようもないくらい弱くて、一人じゃきっと何にも出来なくて…そんな私が何を言ってるんだって、思うかもですけど、でも、それでも…私」

 

 夜風がゆるりと焚き火の灯を揺らす。彼女を照らす灯は不安定に光と影を作り出す。

 彼女の髪をふわりと靡かせた風は、確かにその声音を届けた。

 

 

 ――――――――貴方を、幸せにしたい。

 

 

 

 

 OH、そいつぁ…プロポーズですやん。一生言われることのない台詞第一位的なものを言われてしまったのだが、どうしたらいい?あー何だろうもう混乱を通り越して、感情が迷子だわ…。

 ………はぁ、あかんなぁ。歳を取ると涙脆くなるって言うよね?そこまで歳じゃねぇけどさ…。

 

 俺は何とかおちゃらけたことを思うが、つぅっと伝った雫は隠しきれず、咄嗟に腕で拭い去る。

 全く、本当に、年甲斐もなく恥ずかしいったらない。きっとこれは夢で、醒めてしまうただの泡沫のはずで…こんな少女に大の大人が、その言葉に泣かされるなんて、全く、全くなんて様。

 

 エルリーンは静かに立ち上がり、俺の後ろにそっと歩いた。背中合わせにぴたりと寄り添う彼女の体温はとても温かかった。きっと、それは俺の涙を見ないという彼女なりの配慮だ。

 

 「…涙は、悲しみを流してくれます。また、笑えるように―――私はずっと傍にいますから」

 

 だから、今は―――と、彼女は言った。それは、彼女の勘違いのはずだ。俺にはそんな壮絶な過去も抱えきれない悲しみなどもないはずだ。…そうだろう?…なのに、何で、俺は嗚咽を繰り返しているんだろう…。

 

 こんなの、笑えない黒歴史だ。思い出すことすら恥ずかしい。

 

 でも、それは…絶対に忘れたくない、宝物(きおく)。きっと、夢から醒めようと、忘れてしまおうと、絶対に失われない俺の中に確かに手に入れたモノ。

 

 ただ、そう、許されるなら、これが夢ではなく――――、本当だったなら…。

 

 俺は―――――。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 静かな夜でした。とても、静かで、穏やかな…。

 私の背中に伝わる彼女の体温は、とても、心地の良い温もりです。

 

 彼女の内に秘めた想いは、きっと、私がどうにか出来るものじゃないのかも知れません。

 それでも、と私は望んでしまいます。傲慢にも、私は彼女の居場所になりたいと…。

 

 彼女は神秘的で不思議な人。人知を超えた力を持って、なお、触れればすぐにも崩折れそうなほど繊細な心を抱いている。お話するのは苦手なのに、私を気遣って頑張ってくれる優しい心根。

 

 森とエルフの母は仰いました。人間とは愛しい存在だと…。今ならそのお言葉が分かります。

 何故なら、私は、人間の彼女にきっと、恋をしたのでしょうから。

 

 本当は、嗚咽を上げる彼女を思い切り抱きしめたい、でも、私は、何も聞いていないのだから、出来ません。聞こえるのは、パチ、パチ、と火に焼べられた木々の爆ぜる音と、リーンと奏でる虫の音だけです…。

 

 本当に―――――静かな、夜でした。

 

 

 

 

 

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