レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。 作:とらこさん
原作リネージュです。魔法名、アイテム名、地名、など使用しますが、ストーリーやキャラクターなどはほとんどオリジナルとなります。
というか、作者はリネージュのストーリー背景などほぼ知らないままゲームプレイしていましたので知識はありません。
それでもいいと仰る方はそのまま読み進め下さい。
あとがきには、小説内に出てくるMMO用語や、魔法やアイテムのちょっとした説明をさせていただきますので、必要な方は読んで下さいませ。
お早う御座います…。朝です…。リネージュの朝です…。
新しいあーさがきた…はぁ…絶望の朝だ…。目が醒めたら自室のPCの前で頬にキーボードの後を付けてたという感じになると思っていました。まぁ少し切ないけれども、恥ずかしさを自己完結出来るという唯一無二の道は閉ざされてしまったようですよ、皆さん。
はぁ~~~~~…。言い訳していいですか?…ほら俺ってずっとボッチだったんですよね…だから、こう、ああいうハートにダイレクトアタック的な言葉には弱い人種なわけですよ…。優しくされたら?すぐ勘違いしちゃったり?そういう人間なんですよ?皆もボッチに掛ける言葉には気をつけてね?
あー死にたい!昨日の俺を殺したい!!頭を抱えてゴロンゴロンと転がり回りたい!嬉死恥ずか死が俺の死因です!!どうもありがとうございました!
目が醒めたらエルリーンがいなかったのがせめてもの救いではあったものの、多分朝食の調達でもしているのだろうし?絶対にすぐに顔を合わせることになるわけで…。はぁ、気が重い。
湖畔が近いのもあって、エルリーンと顔を合わせる前に顔でも洗って、しゃっきりとしようと思い立ち、俺は湖へと少し重い足を向けることにした。
うーむ、現代社会とは違い、空気が澄んでいて空も高い気がする。今日も、いい天気だ。
俺は小気味良く草を踏みしめる音を聞きながら歩みを進める。早朝ということもあってか、湖が近付くと頬を撫でる風にも少し心地の良い冷たさを感じられた。
朝日を湖面に反射し、キラキラと光の星屑が輝いて…―――まるで、それは一枚の絵画、その湖面より半身を曝け出し、光を浴びて煌めく金色の絹糸は風に吹かれて踊る。その素肌は雪のように白く全てを完璧に整えられた体躯は人の域を超えていた。まさに、湖の女神と見紛う少女の後ろ姿がそこにはあった。……………全裸で!!!
……ちゃうねん。俺はただね、ちょーっと洗顔をしに来ただけでね?全然、そんな全然、覗くなんて頭にも無かったんですよ。ええ、ほんとです。…………え?違います、景色を見ているんです。現代人の疲れ目は遠目で景色を眺めるといいと聞いたのです。
パシャ、と水の弾ける音が響き、女神が、いや、エルリーンの姿がゆっくりと正面に向き直る。
―――――ピンク!!!!!!いや何がピンクだ!?いや不味い!!あ艦これ!!俺は馬鹿か!ただでさえ昨日の失態で気まずさMAXの状況下で彼女の裸なんて見てたらもう、気まずいなんてもんじゃすまねぇぞ!倍率ドン!!まともに顔さえ見れなくなるじゃねーか!!それにどういう状況だろうとも女性の裸を見たら男が悪いとなる風潮ががが!!!今俺女だけど!!いや何を言ってるんだ俺はー!?混乱混乱混乱を治す魔法はありませんか!?何でこんなアニメ中盤のテコ入れみたいなイベントが発生してんの!!?なにこれやだー!ご馳走様です!!!
「…あ、トールさーん!おはよ~ございま~す♪トールさんも水浴びですか?」
き・づ・か・れ・たーーーーー!!馬鹿!俺の馬鹿!!直ぐ様回れ右して逃走するのが正解だっただろうが!?…あ、でもエルリーン全然普通だし…ってダメダメー!?目に焼き付けようとするんじゃない俺ぇー!!この先ずっとエルリーンを見るたびに瞬間湯沸かし器ばりに顔を真っ赤にするつもりかー!?
エルリーンが水を弾きながら少しこちらへと近付くが、漸く俺は自分の中の煩悩達を抑えつけ弾かれるように後ろを向くことが出来た。
「…す、すまない。水浴びしているとは思わなかった」
「え?別に謝る必要ないですよ?トールさんも一緒に水浴びしましょうよ」
いいんですか!?じゃなくて!その提案は当方としては少しばかり受け入れ難く!!いや、受け入れたいのですが!そうはいかない問題があると言いましょうか!はい!!
「そ、その。あまり人に肌を晒すものじゃない…」
「あ…、ごめんなさい…えへへ、みっともない姿を見せちゃいましたね…」
そんなまさか!!まさに至高であらせられますぞ!
気の利いたフォローも出来ず、少し気落ちしたエルリーンの声に己の不甲斐なさを呪った。
ただ、何も言わずに去ることだけはしたくない。俺は、上擦った声を何とか抑えながらも言葉を紡ぐ。
「…昨夜は、その、すまなかった…」
「―――昨夜?何か、ありましたか?一緒に夕食をとって、お話をした。静かな夜でしたよね」
俺はまさに彼女に舌を巻いた。その思慮深い気遣いを、深い感謝と共に噛み締めた…。
「……あり、がとう」
本当に小さく囁きにも似た呟きは、何処か独白にも思える響きで―――彼女に届かないで欲しいと、伝えたいという、相反する思いが同居したものだった。
彼女からの返答がないことに俺は何処か安堵し、その場を後にするように足を踏み出す。
ただ、彼女に対する好意がそうさせるのか、俺は普段なら絶対に言えない言葉を口にすることが出来た。去り際にそっと―――――。
「…それから、みっともないなんて、絶対にない。湖の女神と見間違えたくらいだ…」
自分の顔が真っ赤に染まっていることを自覚しつつ、俺は足早にその場を後にするのだった。
◇
私は彼女の後ろ姿が遠退くのを見つめながら、何を言われたのだろうと少しきょとんとしてしまいました。ただ、その言葉が染み渡るように頭が理解すると、身体中が燃えてしまうのではないかと思う程の火照りに包まれました。頬に両手を当てると確かな熱を感じます。
「…~~~~~~ッ」
何故か嬉しさと恥ずかしさが混ざった感情がぐるぐると私の中を駆け巡り、言葉にならない声が口をついてしまいました。そして、それに合わせるようにトクントクンと鼓動が早くなります。
すぐに水浴びを終わらせて、朝食の支度をしようと思っていたのですが…どうやら、この身体の火照りが治まるまでは向かえそうにありません…。
私は少しでもそれが早まるようにと身体を少し冷たいくらいの湖に沈めることにするのでした。
➤➤➤
あれから暫くして、戻って来たエルリーンと入れ違うように俺も湖で洗顔を終え、軽くホコリを取るように彼女が用意してくれた布を濡らして身体を拭いておく。…お風呂入りたいなー。
彼女が用意した朝食は麦パンと卵スープで、簡素ながらも味がよく、幸せにお腹を満たすことが出来た。本当にエルリーンがついて来てくれてよかった…一人だとどうなっていたことやら。
野営の撤去もそこそこに、俺達は再びケントに向けて出立することに。
残りの距離を考えると日が落ちる前にはどうやら到着できそうだということらしい。
昨夜のみっともない失態は彼女の思い遣りで『無かったこと』になったこともあり、俺は気まずさを飲み干し、気楽に振る舞うことにする。殊更に気に病むなど、彼女の思いにも失礼だ。
そんなケントへの道中、俺はインベントリーの残った焚き木の材料をどうしようかと思いつつ脳内UIを開いていた。ふと、忘れ去られたかのようにエルヴンワッフル(27)という表示を目に止め、どうせならエルリーンにあげたほうがいいと判断した。
特に重くないから69F階段前範囲した後忘れ去ってたな…倉庫にぶち込んでる数も相当だし売っとけばよかったなぁ…。あ、ていうか倉庫はどうなってんだろ?あんのかな…?
―――――まて、まてまてまて…無かったら…事だぞ!?金が…倉庫に預けっぱなしじゃねーか!一円もじゃなくて1アデナも持ってねーやん!!アデナドロップするとこで狩りなんてしてなかったし…いや、倉庫が無いとは限らない、そうさ、無いとは…限らないぞ。あればエルリーンに30アデナ借りれば済む話だしな。うん、街に着いてから考えよう…。
取り敢えず、このEWはエルリーンにあげとこう。大体ウィザードじゃ持ってても意味ないし。
「エルリーン」
「はい、どうしました??」
すぐにも肩が触れそうな程近い距離にいるエルリーンがにこりとこちらに顔を向けた。近い近い!どうしたエルリーン…朝から言おうと思ってたけど、凄い距離が近いんですけど!?
俺の焦りを他所に本人はとても嬉しそうでご機嫌だ。結局、距離の近さを指摘も出来ずに本題に入ることにした。インベントリーからEWを取り出すイメージ、俺の手にスゥっとEWが現れた。
「わぁ、ワッフル!私大好きなんですよ~♪」
「そうか、良かった。何か保存できるもの持ってないか?」
「えっと、…よっと、これでいいです?」
エルリーンが腰に備えていた革袋を取り出して、俺が差し出したEWを受け取る。ワッフルの大きさは掌に収まるサイズだったが、全部渡すと袋はパンパンになってしまうだろう。俺は取り敢えず数個取り出し彼女に手渡した。
「本当に不思議な魔法を使うんですね~トールさんは」
何とも説明出来ない俺は特に何も言わずに曖昧に頷いた。いやーだって俺の頭の中にあるUIのインベントリーからアイテムを取り出せるんだって言った所でさ、もうそれ魔法でいいじゃんってなると思うよね。頭大丈夫?とか思われるのも嫌だよ…。
「あの~、トールさん?その~…えへへ、一つ食べてもいいですか?」
え?今食べるの?行動加速しちゃうけど?でも、こんな上目遣いのお願いにダメなどと言えるだろうか、否、言えるわけがない。は~、今日も可愛いなーエルリーンは。
「それは、エルリーンにあげたものだ。好きにしていい」
「わぁ、ありがとうございますトールさん♪…それじゃ、さっそく~はむっ。ん~~~~ッ♪美味し~!…あれ?この力が湧いてくる感じ…んん?ルーディエルさんのワッフルみたい…」
誰それ…。ごめん多分ワッフル作るNPC?名前は知らんかったわー。というかそれじゃ、普通の食べ物としてのワッフルもあるんだろうなぁ…。それだったら食べてみたいなー。このEWはゲーム内アイテム扱いのため、俺は謎の強制力により絶対に食べることは出来ないのだ。ゲーム上ではエルフ以外がEWを使用できないようになっている。この世界においてもそれを忠実に再現されているようだった。
「トールさんも、食べて下さいよ!ほら、あ~んしてください♪」
「い、いや…」
うわ、謎の強制力すげー。意思とは反して全く口が開かない…多分、どうにか口に入れたとしても咀嚼は出来そうにもない。うーん…何と言えば納得してくれるかなぁ…。それエルフ専用アイテムだからウィザードは食えないんだよ。とか意味不明と思われるだけやん?んー…うーん…嫌いだから?いや、エルリーンの好物を嫌いとかいえねー…。俺には言えぬぞぉ…。ぐぬぬ、と、取り敢えずファンタジー知識を総動員して何とか言い訳してみる?
「…それは穢れなき清らかなる者達の口にするものだ。人が…俺などが口にしていいものでは、ない」
どうでしょうか?こんな感じでいいでしょうか?と俺がエルリーンを見遣ると、穏やかな彼女らしからぬ激情を瞳に灯し、悲痛にも似た表情で声を荒げた―――。
「そんなこと!!トールさんが穢れてるなんてない!!!絶対に…そんな、そんなこと…ないですから…そんな、悲しいこと…い、いわないで…お願いします…」
ご、ごめんなさいー!?あれ、どうした!?びっくりしちゃったよ!?そ、そんな、ちょ、泣かないで!エルリーン!!ごめんー何か知らんけど俺が悪かったー!!でもどうやってもそれは食べられないんだよー。システム上無理なんだよー…。こんなどうでもいいようなことが切っ掛けでエルリーンの中の俺の闇がどんどん深くなっていってんだよなぁ…困ったなー…。
しかしだ、小さな嗚咽を噛み殺しながら肩を震わせる彼女を放っておけるはずもなく。何とかこう次善策は無いものか。…そうか、俺別に食べたくないわけじゃないんだよな、じゃあ食べられるほうを提示すればいいだけの話では?おーいいじゃんいいじゃん。
「エルリーンは、ワッフル…作れるか?」
「…っく、は、い。ルーディエル…さんには、劣ると、思いますけど…」
「…俺はワッフルを食べたことがない。だから、その、だな。初めては…エルリーンがいい」
「…………………は、い」
顔を上げ、俺を見つめるエルリーンは俺の言葉の後、まるで時が止まったかのように瞳を丸くしたまま微動だにせず、絞り出すかのように返事を返した。そこには涙も、悲しげな表情も無く俺は安堵しほっとした表情で笑顔を浮かべた。ただ、まるで時が動き出すように急速に彼女の顔が赤く染まっていく様は一体何事かと驚きを隠せなかった。
なんだろう…まさか、俺のためにワッフルを作ってくれ、がエルフ界隈じゃ結婚してくれ、みたいなことだったらどうしようもないぞ。そんな回避不可能な罠絶対引っかかるわ…。いや、ほんとにそうかは知らんけど…それに別に結婚出来るもんなら一向に構わん。エルリーン!俺だ―!結婚してくれ―!!
「…約束…です。忘れちゃ…やですよ?」
「忘れるわけがない」
「~~~~~~っ」
俺の手袋を摘むように軽く揺すりながら、俯き加減に甘えた声を出すエルリーン。誰か!誰か絵師殿はおらぬか―!!再現してくれー!頼む、zipでくれ!!
➤➤➤
「……」
「その、大丈夫ですか?トールさん…顔色が…」
人の往来する、外国情緒溢れる街並みの中、それを楽しむ心の余裕は既に消え去っている。
その時、俺はまるでFXで全財産を溶かした人間のような表情で絶望していた――――。
その原因はあれだ…話は少し遡る――――。
俺達は予定より2時間以上早くケントへと到着していた。
「トールさん少しだけ急いでもいいですか?私!今、すっごく走り出したい気分なんです♪」
ジブリ作品にでも出てきそうな青春まっしぐらな台詞を口に出したエルリーンに特に断る理由もなかった俺は、ヘイストも掛けてあげ、ワッフル効果で2段階加速した彼女とホーリーウォークを使いながらご機嫌よろしくケントへと疾走し続けたのだ。
大した疲労感も感じること無く走り続けられることもあり、俺とエルリーンは調子に乗って休憩を挟むこと無く黙々と走り続けたものだからまだ日が高い内に到着するのは自明の理だった。
まぁ、黙々と走っているだけなのに、時折エルリーンと目が合うと、はにかむように表情に花を咲かせるものだから無理に話題探しをすることもなかったのもあり移動が捗ってしまった…。うん、楽しそうで何より。
さて、ケントに着いた俺達。そこは、石畳で街路を整備され、立ち並ぶ街並みは石と木造の混在したクラシックな情緒が溢れ、閑散という言葉は何処にも無かった。俺はイメージと全く違う街並みに感嘆しながらも隣のエルリーンに問いかける。
「ここがケントか?ギランじゃなく?」
「え?ふふふ、トールさんったら。ギランなんてここと比べ物にならないほどの大都市じゃないですか?人混みで溢れかえってる活気のある都市だって聞いてますよ、ギランは」
まじかー。俺ギランには住めそうにないわー…無理だわー…。人混みとかボッチにとって何の利点もない害悪だよ…。リア充どもが練り歩く街なんだろうなぁ…絶対行きたくねぇな。
「ところでエルリーン。倉庫って何処にあるか分かるか?」
「……えっと?そ、倉庫?倉庫って何の倉庫ですか?」
「ドワーフ達が番をしてる倉庫のことだ。…アイテムを預かり管理している。分かるか?」
「…ドワーフ…その、モンスター…ですよね?アイテムを預かる?管理って…も、モンスターが番をしているんですか?…ごめんなさいトールさんが何を言ってるのか分からなくて」
困惑したエルリーンの可愛らしい天使のような声音は、俺を絶望の淵に誘う黙示録のラッパだったらしい。…終わった。…俺はめでたく無一文が確定したらしい。
―――――これが事の顛末である。
まぁ、嫌な予感はしていたんだ…。変なとこでリアルなもんだからこの世界。ドワーフ倉庫はゲームシステム上、何処の街で何を預けようとも引き出そうとした場所でそれら全てを引き出せる。
実際それを再現するならそれこそ俺の脳内UIなんぞ一般化され誰でも使えても不思議じゃないレベルじゃないか…。ならばこれは仕方ないと諦めるしかない。ある程度の狩り用アイテムはインベントリー内にあるわけだし…当分はどうにかなる。だが、どうにもならないこともある…。
お金が無い。何をするにも必要なものだ…このままでは宿さえ取ることも出来ない。そりゃあエルリーンは恐らく持っているだろうけど、まるでヒモのように彼女にたかるなんて俺には…出来ない。そんなことするくらいなら野宿を選ぶことも辞さないぞ!しかし、この全くお金を持っていないという凄まじい不安感は何だ…。未だかつて感じたことが無い恐怖と焦燥感だぞ…。
だが、ここに来た目的はなんだ?そう、冒険者ギルドへの加入だ。そしてそれさえ済ませればクエストをこなすことで金銭を得ることが出来るのだ。速攻でクエストをこなして宿代くらい稼がねばなるまい。絶望している場合じゃないぜ!
「エルリーン…」
「は、はい?どうしました?」
「冒険者ギルドへ行こう」
「あ、はい!それじゃあトールさん一緒に登録しに行きましょう♪」
俺は陰鬱な心を無理矢理に振り切り、気持ちを新たにエルリーンと共に一路、冒険者ギルドを目指したのだった。
➤➤➤
ケントの街の中でもかなり大きめな部類にはいる木造の建物、ここが冒険者ギルドとなっている。
入り口には所謂装飾された大きな看板が掛けられており、そこには何語か理解できない文字なのかも不明なものが描かれている。ここに至るまでにも感じていた嫌な予感が俺の胸中を過ぎっていく。
両開きの少し大きめの木戸を開き、俺達は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。
ギルド内はかなり広く、手前の受付のような場所の他に、横長に広がった室内にはテーブルと椅子がかなりの数備え付けられており、その奥にはギルド内に併設された酒場があるようだ。
俺達がギルド内に入ると、十数名程の冒険者達の視線が一斉に向けられた。俺やエルリーンの姿を舐めるような視線で眺めては口笛を吹く男達に俺の身体が強張る。
俺は重度ではないものの対人恐怖症を持っており、大人数の視線に恐怖感を感じてしまう。それが屈強な男共なら尚更に身体が緊張を覚えてしまう。俺の小さな震えにエルリーンが気付き、そっと手を握って首を傾げている。
「トールさん?どうしたんです…?気分でも…?」
「あ、す、すまない。お、俺は、ああいう男達が…苦手…ごめん、手握ってて」
「……~~~~~~~っ、トールさん…安心してください。私が絶対に近付けさせませんからね!!だから、私の傍にいてくださいね!」
「う、ん。ごめん、エルリーン…お願い、する」
「はぅ!?…ま、任せてください!!!」
何故か俺を見るエルリーンの瞳が怪しい光を灯しているが、彼女が俺の手を握り頼もしく強い語気で俺を安心させようとしてくれる。その優しさに触れ、俺の身体から強張りが抜けていくのを確かに感じていた。…カッコイイ、エルリーン、カッコカワイイよー!
「それでは、こちらに必要な項目を記入して下さい」
「はい、分かりました~。トールさんの分です、どうぞ♪」
エルリーンの背に隠されるように小さくなりながら、俺達はギルドの受付窓口で冒険者登録を行っていた。受付嬢が差し出す用紙には先程見た看板と同様の理解不能の文字が並んでいる。
先生ー。問題の文字が分かりませーん。嫌な予感ってのは全く馬鹿にできない。くくく、ハハハ、フゥーハハハ…次から次へとやってくれるじゃないかこの世界め!!何で日本語通じてるのに文字が何語かも分からん代物なんだよ!?おかしいだろ!!バッカ!どうしようもないわ!!詰んだわ!!もう最終手段しかねぇ…最終手段…ねぇおかーさん、書いてー…だ…。
「え、エルリーン…」
「ん、はい?どうしました?」
「お、お願い…俺の分も、か、書いて?」
「…………~~~~~ッ、はい♪」
あ、何か超笑顔で引き受けられた。助かりまーす…。俺、エルリーンがいなかったら生きていけない自信が付いてきたよー。しっかり、俺…しっかりしよ…。
それから、エルリーンが用紙に書かれた必要事項を口頭で伝え、それを俺が答えていく。その答えをサラサラと用紙に書き記して必要書類が完成したのだった。
「それでは、こちらが冒険者カードになります。冒険者にはランクがあり、Cスタートからランクを上げて最高ランクがSランクとなっています。ランクによって受けられるクエストの難度と報酬が異なります。これは信用の問題ですので、いくら力に自信がある方でもCランクの冒険者がBやAランク案件のクエストを受けることは出来ませんのでご了承下さい」
ツラツラと淀み無く説明を行う受付嬢から冒険者カードを受け取る。カードはまるで運転免許証のような大きさで、全く読めない文字列がごちゃごちゃと並んでいた。
「それから、こちらがクエストスクロールとなっております。クエストを受注するとお渡しすることになります。クエスト内容を達成した場合、こちらのスクロールが反応し、完了を証明する大事なものになりますので、忘れずに受け取って下さい。さて、それでは何か質問はありますか?」
まさに出来る女といった感じの受付嬢は事務的ではあるものの、懇切丁寧な説明の後、質問を受ける時間も設けてくれた。文字が読めない俺としては掲示板ではエルリーンに頼るしかなくなる。流石に先程から頼りっぱなしで精神的によろしくない。ということで俺は早速質問をすることにした。
「今、Cランク案件ですぐに取り掛かれるクエストは、ないだろうか?」
「少々お時間を頂いても?」
「ああ、頼む」
受付嬢は切れ長の目をこちらに向け、直ぐ様に立ち上がるとカツカツと小気味の良い靴音を響かせ窓口の奥へと消える。それを見届けて俺は小さく息を吐いた。
「あの、トールさん?そんなに急ぎでクエストをしなくても、今日くらいはゆっくりしたほうがいいんじゃないですか?」
「ああ、本来なら…そうしても良かったんだが、少し問題があって、な」
少し心配そうな表情でエルリーンがこちらを気遣うように問いかけた言葉に俺は苦笑しつつ応えた。いやー、ほんと今日は観光でもしたかったよー…。まさか金を預けた銀行ごと消滅するなんて誰が予想するっての…。預金保険制度もない世界なんてクソだよほんと。
「それは…ケントに着いた直後にトールさんが困ってたことが関係するんですか?」
「そうだ。…恥ずかしい話、俺が信用して預けていた金が全て消えていた」
「…そんな…。そんな…。わ、私がトールさんの―――――」
エルリーンがその先を口走る前に人差し指を彼女の唇に当てて留める。
「その気持ちは嬉しい。だが…俺は、エルリーンの後ろに付いているより…隣にいたいんだ」
「あ…。と、トール、さん…。かっこいい…」
うわー!恥ずかし!!俺は何て恥ずかしい奴なんだー!?俺は、エルリーンの後ろに付いているより…隣りにいたいんだ。ドヤ、じゃねぇーーー!!もーいい。何も考えたくないよー…疲れたよパトラッシュ…。
「お待たせしました。トールさん、エルリーンさん。緊急度はありませんが、直ぐにでも取り掛かれるクエストではありますので、ご紹介させて頂きます」
「助かる」
然程待たされることもなく、受付嬢はクエストスクロール数束を手にして戻って来た。本当に仕事の出来る人らしい。俺は信頼の置けそうな人物として覚えておくことにする。
「では、まずケント近辺の街道に出現するゴブリン及びホブゴブリンの討伐。必要討伐数はゴブリン30匹、ホブゴブリン10匹となっております。提示報酬は500アデナ―――それでは次のクエスト説明に移ります。ケント地下下水道のラットマンの討伐。必要討伐数ラットマン10匹。提示報酬は1200アデナ―――――次に…」
次々と読み上げられるクエスト内容とそれの提示報酬、些かの不備もなく説明をする姿はこちらを圧倒するほどにスピーディーだ。全てのクエストの説明を終え、静かに伺うように視線をこちらに向ける。
「どれを受注なさいますか?」
「全部だ」
「…ふむ、分かりました。こちらとしては請け負ったクエストを途中放棄されなければ何も申し上げることはございませんし、こういったクエストをこなしていただける人材は有り難いので寧ろ喜ばしい限り――――――ですが、全部と仰ると、受注クエスト数は12となりますが」
俺の答えに一瞬眉根を顰める仕草をした受付嬢だったが、何事もなかったかのように言葉を続けていく。
「本当に、お間違いはありませんね?」
「ああ、問題ない」
その言葉は暗に、出来もしない仕事を受けるつもりじゃないだろうな?という脅しも含んだ語気ではあったが、俺が力強く頷いたのを見て、表情を少しだけ和らげた。
「分かりました。…余りご無理はなさらないようお気をつけて下さい。ではご武運を」
「ありがとう。お名前を伺っても?」
「リースリッドと申します。以後、より良い関係が築けることを祈っております」
「ああ、これからよろしく頼む、リースリッド」
リースリッドと名乗った彼女は笑顔など浮かべることもなく、淡々と必要十分に手続き上の会話を終わらせて軽く頭を下げていた。クールだなぁ…。でも事務的会話は不得意じゃないし、これからもお世話になるだろうね。よーし、クエストクエスト頑張るぞい!
用語やらアイテムやら魔法やら説明するとこ
エルフの森―エルフの集落のこと。中心部には大きな木があり、エルフの母と呼ばれる人が木から生えてるよ!にょきー。
ドラゴンバレーーアンデット達が徘徊する切り立った丘。ドラゴンのお墓みたいなとこかな?とても強いボスが出るので初心者さんはいっちゃだめなとこ。
ケントー本来は村。閑散としています。ここにいる人って…あんまりいないね。本編ではトールとエルリーンのホームになるかな?
ランテレーランダムテレポートの略称。テレポートというランダムに瞬間移動する魔法か、テレポートスクロールというアイテムを使って行う行為のこと。何処に飛ぶかわからないから理不尽に死ぬこともあるよ?怖いね!
アイテムドロップ、アデナドロップーMMORPGならおなじみ、モンスターを倒すと手に入れるアイテムやお金だよ!
レベル4魔法ーリネージュはレベル3までの魔法は魔法使いのおっさんが教えてくれるよ!でも、レベル4からは魔法書が必要だよ!お値段は店売りは安定だけど、ボスドロップの魔法書はとっても高かったりとピンきりだね!
エルフの精霊魔法水晶ーエルフ専用の精霊魔法を覚える水晶だよ!無属性と火水風土の4属性があって、無属性以外の4属性はどれか一つの系統しか選択できないよ!でも属性変更は出来るから合わないなーって思ったら変更することもできちゃう!
ジャイアントスパイダーぱいせんー大昔に多くの初心者を葬って来た皆のトラウマ。今や、存在感がなくなりました。
ウサギ(お肉)ーウサギを倒すとたまにお肉を落とします。え?ほんと?
ファイアーボールー火属性範囲魔法。火の玉が当たったところを起点に敵を巻き込むよ!使い勝手は…よくないね!
ファイアーアローー火属性単体魔法。威力はそんなに強くないよ!でも知恵と魔力の数値が高いとどんな魔法も結構痛いよ!
エルヴンワッフルー略称EW。とってもカロリーメイトぽい。でも美味しそうだよ!エルフの行動速度があがるよ!エルリーンも大好き!
30アデナーアデナはリネの通貨だよ!倉庫にアデナを全額預けた人が取り敢えず知り合いに言う言葉。「30アデナかして」
69Fー今は無き傲慢の塔の階層!リニューアル後は1F~10Fになったよ!リニューアル前はウィザードの範囲狩りとして割りと人気だったよ!
倉庫ーいわゆる、アイテム預かり所だよ。ドワーフさんがきちんと管理します。本編のように突然いなくなったりしないからね!安心して預けよう!
ルーディエルさんー作者も名前知らなかったよ。とりあえずEW作る人って覚えてたよ。エルフの森在住、ちょっと調べたら192代目のエルヴンワッフル料理の優勝者だったよ。…ちょっと面白いじゃないか!
2段階加速ーヘイストとワッフルを同時に使うととっても早く動けるよ!