レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。 作:とらこさん
感想、誤字報告、本当に感謝しています。前書きにてお礼申し上げます。
というわけで、執筆速度難ありだよ!
良ければ読んで、それで楽しんでくれたらとっても嬉しいよ!
朝、リネージュの朝が来ました。
もう一月程こうしてこの世界で寝起きして、曖昧じゃないちゃんとした時間の流れを記憶していることにそろそろ慣れてきていた。まさにこれは夢ではなく…だ。まぁ長い夢を見ていたんだよ…と言われたらそらしんどいけどね。
「トールさん♪おはようございま~す!今日もいいお天気ですね!」
俺の部屋の扉をきちんとノックして入ってきたエルリーンは元気に朝の挨拶をしてくれる。
「ああ、おはよう。どうしたの?朝食にしては早いけど…」
「リリンさんがベッドシーツを洗濯するそうなので、トールさんのお部屋のと合わせて持っていこうかと思いまして…いいお天気なのでトールさん朝のお散歩などしてみたらどうですか?」
「そうだね、気持ちよさそう…まだ人もいなさそうだし近所をちょっと歩いてくるよ」
「は~い♪いってらっしゃい」
ところで皆気付いただろうか?何かエルリーンと普通な感じで話していたことに!!
さすがに一月もずっと傍で顔を合わせていたら、俺だって普通に話せるようになるよ?
…ごめん、嘘。実はエルリーンに言われたことがありました。
『トールさん。私とお話する時に無理をしないでください。私は例え何があったとしても貴方を嫌いにならない自信があります!もうそれは凄い、途轍もない確信と言ってもいいほどの自信が!だから、お願いします…私を信じてください』
そんなこと言われてしまったらね、さすがにもう…自分の中の嫌われたらどうしようとか、そういうどうしようもない緊張とかがね、吹っ飛んでいったよ。まさにエルリーンセラピーだったね。
俺は宿屋二階の奥の自室から階下へ降りると、籠いっぱいにシーツを詰め込んだリリンさんが丁度通りかかった。
「おはよう、リリンさん。朝から精が出るな…お疲れ様」
「やぁ~おはよう、トールちゃん。今日はいい天気だからねぇ~よく乾きそうでね、気持ち良く泊まっていってもらいたいじゃないさ。ところでトールちゃんはどうしたんだいこんな朝早くから。朝食は必要かい?」
「いや、大丈夫だ。少し、朝の散歩…というところだ」
「そうかいそうかい。朝飯前の運動には丁度いいさね、いってらっしゃいな」
「ああ、いってきます」
リリンさんのくしゃりと顔を歪めて笑う姿に見送られて俺は宿屋を後にした。
外の空気は朝特有の少し冷たくも爽やかなもので、胸一杯に吸い込むと残った眠気をスッキリと払ってくれた。
◆
「ふふ、今日は大量に戦利品を獲得出来たぞ…ッ。このパンは早朝にも関わらずすぐに売り切れてしまうからな!トールもエルリーンも好きだし、きっと泣いて喜ぶに違いあるまいな!ふはは」
早朝の透き通るような空気の中、少し大きめの紙袋を抱えたアイナはトールとエルリーンの滞在している宿屋に向かっていた。特に約束はしていないが、思ったよりも朝食用に買おうとしたパンが沢山残っていたこともあり、彼女はトールとエルリーンにもと思ったのだ。それから、二人と一緒に朝食を食べられるという期待もあった。その期待は彼女を笑顔にし、足取りも軽くしていく。
「でも、ちょっと早かったかな?うーん、まだ…寝てたら迷惑かも…。いやいや!!わ、我の盟友はこんなことで迷惑がったりするはずないのだ!うむうむ!よーし待っているがよい!今我が貴様達に闇よりの供物を届けようぞ!!ふぅーはははは!」
宿屋へと辿り着いたアイナは玄関口の扉を器用に足で開け放ち、中へと入った。
ふとカウンターを見ると、いつも座っている女主人の姿は無く、ガランとしたロビーがあった。
少し朝も早いこともあってそれに気にすること無く、アイナはそのままトールの部屋を目指してロビー横の階段を一つ飛ばしで駆け上がっていった。
「ふふ、まだ寝ていたら我が起こしてやろう。うむ!トールの寝顔を少し眺めてやってもいいな」
紙袋を落とさぬようしっかりと抱えて少し早歩きのアイナは小さな声で独りごちた。
突き当りの部屋に着くと、トールの部屋は少し扉が開いており、何やら声が漏れ聞こえている。
不用心だと思いつつも、少し開いている扉をそっと足で押し開く―――――――。
朝の挨拶をしようと開きかけた口はその光景に半開きのまま凍りつき、彼女はその扉の隙間の奥に覗く異様な妖しい熱をもった雰囲気に飲まれてしまう。
「はぁはぁ、ふふ、うふふふふっ。スンスン、はぁあぁぁぁぁ!トールさんの香りッ!んぅ~~~~~~~ッ!!!スンスン、スンスン、っはぁあっぁぁぁ、はぁはぁ、はぁはぁはぁはぁ…いい匂い…最っっ高です…トールさんのお髪の香りが移った枕も、シーツも、やんやんやんやあああああんっ!!私、トールさんに包まれているんですねッ!?ああああああぁぁぁぁぁぁっいいですぅぅぅ!!トールさんもっと私を強く抱きしめてくださぁぁぁぁぁい!!!ふぁぁぁぁぁ~~~~ッ!!!」
「――――――――…………………」
(…ハッ!?一瞬意識が何処かへ飛んでいってた!?い、一体何、エルリーンは何をして…無理、いくら分からないふりしようとしても無理!!!私だってさすがに分かるよ!?)
トールのベッドの中、自分にシーツを巻きつけるように身体を覆い、両手で枕を抱きしめながら顔を擦り付けては興奮の坩堝と化しているエルリーンの姿。アイナがいくら初心だと言っても、何故そんな行為をするかなど分からない程に子供でもない。
(これ―――エルリーンがトールのベッドに潜り込んで匂いを嗅ぎ回りながら身悶えてる…その、これは…変態行為!!!それくらい分かるよ!?しかも、トールは女だし、エルリーンだって女のはず…えぇぇぇぇぇ…嘘ぉ…え、エルリーンって…女が好きだったの!!?ひ、ひぇー!!)
覗いてはいけない秘密を垣間見た罪悪感と、知ってしまった故の心の葛藤にアイナの手足はじっとりと濡れていた。死んだ魚のような瞳をした彼女は音を立てないよう、片手で紙袋を身体に押さえ込み、もう一方の手でそっと扉を閉めた。
夢遊病者のようにふらふらと彼女はトールの部屋を後にし、階下へと下る。
丁度階段を上ろうとしていたリリンと鉢合わせになり、たたらを踏むようにしながらも何とかぶつかること無く踏み留まった。
「おや、アイナちゃん。こんな朝早くに…って、あぁ、そのパンの匂い。トールちゃんと一緒に朝ご飯食べたくて来たんだね?あっはっは、全くアンタは可愛いねぇ~。でもちょっとタイミングが悪かったね、トールちゃんなら朝の散歩に出てるよ。すぐ戻ると思うからロビーで待ってるかい?」
「あ、ああ。リリンか…。そうかトールは散歩か…。うむ、いや…わ、我も少し歩いてこよう」
「そうかいそうかい。トールちゃんと出会えるといいね、じゃあアタシはちょっとエルリーンちゃんを探しに――――――――」
「それはいかん!!!」
リリンがアイナを避けて階段を上ろうとするのを急に大声で制した。
彼女の今まで聞いたことのない切羽詰ったような声にリリンは目を丸くして身体をビクリと震わせた。
「…え?い、一体どうしたんだい、アイナちゃん。そんな大きな声を出して」
「すす、すまないリリン…だ、だが、その、い、今はダメだ!そう、今エルリーンはとても、凄く物凄い取り込み中でな!?何と言えばいいか、そう!自らを(性的に)高める行為に勤しんでいるのだッ!!うむ…だからだな、し、暫く一人にしてやってくれ……」
アイナはとにかくリリンを止めるようにはっきりとしない理由を口早に並べた。その必死な様子にまぁ何かあるのだろうということが理解できたリリンは仕方が無いと頬を緩めて頷いた。
「はいはい、アイナちゃん分かったよ。エルリーンちゃんが自分からくるまで待ってればいいんだね?…んー、でもエルリーンちゃんが自分からやるって言ったことほっぽり出すなんて思えないんだけどねぇ~」
「な、何か頼んでいたのか?」
「ん?頼んだというか、自分からやると申し出たというかね、大したことじゃないさ、自分の部屋のとトールちゃんの部屋のベッドシーツと枕のカバーを持ってきてくれるって、ただそれだけなんだけどね。まぁ、そこまで急いじゃいないからいいさね」
(あいつ…ッ。何という確信犯…ッ!!完全に狙ってやってたんだ…ッ!!!)
アイナは片手で顔を覆うと、疲れ切った溜息を漏らした。心配そうに覗き込むリリンに大丈夫だという身振りをし、宿を後にしたのだった。
➤➤➤
やっぱり早朝の散歩はいいなぁ。
俺は、眩しい光を掌で遮るようにしながら空を見上げてみる。
真っ青な空に、薄い白い絵の具でスッと線を引かれたような雲。見たこともない絶景ではない。
きっと、当たり前のように現実の自分の世界でも見られた空。
でも、そこでは見られなかった空。
そう、下ばかり見て歩いていた自分には気付けなかったものだった。
「ん~~~、今日は何をしようかな?そろそろクエストの掲示板でも覗きに行ってみようか」
あれからみっちりと、アイナやエルリーンにも手伝ってもらい、この世界の文字にも不自由することがない程度には読めるようになっていた。本当に二人には助けられてばかりだ。
何か俺に返せるものでもあればいいんだけどねー…。ん?あれ…アイナかな?
いつも元気な彼女らしからぬ、少し気落ちしたように大きめな紙袋を抱えた姿は肩を落としていた。ゆっくりとした歩調で近付く距離、下を向き、なかなかこちらに気付かないアイナに俺は空元気でも出せればいいかなと、中二的な言動で声を掛ける。
「深淵を覗くのはその辺にしておけ、こちらが見れば、また向こうもこちらを見ているのだと理解していないわけではないだろう?」
「…フッ、そうだったな…。我としたことが、迂闊な行動をしたものだ…。すまないなトール、忠告痛みいったぞ。…それから、その、ありがとう…だ」
顔を上げ、眉根を下げたまま笑顔を浮かべた彼女に構わないと俺は首を振る。俺はアイナに並ぶように踵を返し、今歩いてきた道に再び足を向けてゆっくりと歩を進めた。
何があったか聞いたほうがいいのかなぁ…でも、俺なんかが相談に乗れるだろうか?
…あぁ、だめだな…、そんな考えじゃ…ダメだ。大事な友達が悩みを抱えてるんだぞ!?例え何も出来ないとしても出来ることさえも探さないなんて…違うよな?
よし!言うぞ!何か悩み事があるのか?でいいかな…?うーん直球すぎ!?ど、どうやって聞けばいいんだー!?く、くそぉ…サラッといけるリア充達の魂よ今だけでいい!オラに力を…ッ。
「…な、」
「…トールよ。パン、食べるか?貴様も好きなあそこのパンだぞ」
「あ、ああ。いいのか?」
タイミングー!?ちょ、パン食べてる場合じゃなさそうな雰囲気だろー俺!?
く、くそぉ~。出鼻をくじかれた感じで再びいけそうな心が…大丈夫か俺、いけるのか!オイ!
「…ほら、どれでも好きなのを選ぶがいい。沢山あるぞ」
「そ、そうだな。じゃあ…チョコのやつを」
じゃあ、チョコのやつを、じゃねーよ!?違う違うそうじゃない。友達が悩んでるよー!?
さぁ、俺、勇気を出そう!今、しかないぞ!さぁ俺!いけ!行くんだ俺!!
「…ッ!あ、アイナ!そこのベンチに座らないか?」
「ん?あぁそうだな。そうしよう」
俺達は少し開けた広場に備え付けてあるベンチへと腰を下ろした。アイナは紙袋を俺を挟んだ間に置き、ガサガサと折り目を広げて袋の口を開く。
「チョコのやつだったな、えっと…」
「い、いや。なぁ…アイナ、そ、その…んぐ。悩んでいることがあるんにゃ…ゴホッ。悩み事があるんじゃないのか?」
もうダメだ。俺、もう田舎でひっそり暮らすよ…。何で!?何で今噛むのー!?馬鹿なの!?
「…トール…。そう、だな。確かに、だ。トールは凄いな、いつもだ…いつもそうやって我の心を察してくれる…本当に凄い、我の自慢の盟友だ…」
「…」
ありがとう。アイナ…俺が噛んだことスルーしてくれて…本当にいい子だねー。それにさ、こちらこそだ…アイナは俺の自慢の友達だぞー!
アイナは俺の無言を話の先を促すものだと捉え、訥々と語り始める。
「その、だな。我の…知り合い、いや友人というべきか。そやつの話なのだが、聞いてもらえるだろうか?」
「ああ、俺に話せることなら」
というか、馬鹿にするわけじゃなくて、寧ろ喜ばしく思ってるんだけど…。アイナ友達いたんだねー良かったー。俺なんかアイナだけだもんなぁ…。エルリーンはどうなんだろう、友達っていうか…大切な人って感じなんだよなぁ…どういう間柄になるんだろ?
「実はだな。そやつ…同性がその…恋愛対象だったのだ…」
「…ん?」
どうしよう、どうしようか俺…何か思ったより凄いヘビーじゃね?え?いける?俺。この悩みに応えられる自信ある?全然ないね?はい、どうしようもねーよ!?早まったな俺!!!
「あぁ、えーとだな。そやつは女なのだが、女が好きなのだ…友達としてとかじゃなく、せ、せせせ性的にだぞ!」
「あ、ああ。理解はしている。大丈夫だぞ?」
「そ、そうか…。そ、それでだなトール。貴様はどう思う、女が好きだということにだ」
「俺がどう思うかか…それは関係無いのではないか?」
「いいや!!寧ろそれが一番重要なのだ!!」
えー!?そうなの!?俺の意見そんなに重要視されても困るんだけど!?
うーん、所謂百合ってことだよね?俺的にはありだと思います!女子同士のにゃんにゃん的なあれはいいなーと。いや、本当はどうかしらんけどさドロドロしてなければいいと思うよ?うん。
「そうだな、俺は別にそういうことは気にしないぞ」
「そうなのか!?トールはアリなのか!?」
え!?ちょ、何かグイグイくるねアイナ!?どうしたの!?
身を乗り出すかのようにこちらに迫る勢いで聞いてくるアイナに、俺は目を白黒させながらも何とか言葉を続けてみせた。
「その、だな?その子にアイナが迫られるというか、告白でもされたのか?」
「いや、違う。それにもしそうだったとしても我はそやつの想いには応えられないだろう」
「ふむ…。なら、その子が好きな女性を偶然知ってしまった。そういう感じなのか?」
「ああそうだ。まさにその通りだ…。さすがだなトール」
そうかぁー…どういう状況で?とかは関係ないか。うーん…簡単に応援してあげれば?とか無責任なことは言えないなぁ。俺だったらと考えれば、多分…俺は応援すると思う。
俺に関係無いことだからとかそういうことでもなく、所謂マジョリティに押し潰される感じが好きじゃないからだ。個人の趣向がどうであろうと、他者に迷惑をかけないならいいのではないか。
俺自身がそうであったこともあるだろう。中二病でゲーム廃人なんて本当に社会的少数者だったからこそのボッチだったわけで…。あ、考えると鬱になりそう、今はやめよ?
だが、それでもだ。いや、それだからこそ…俺の意見の前に必要なのは、その子の友達であるアイナの思いなのだ。アイナがその子をどう思うのか、それが必要なんだ…。人の意見に左右されて決めた思いではなく、自分自身の心が、どうしたいのか。
俺は自分の長い髪をかき混ぜるように頭を乱暴に掻く。
ちゃんと伝えられるだろうか?そんな思いが口を重くさせる。
ただ、アイナがこれから先もその子と友達でいたいと思っているのなら、きっと必要だ。
俺なんかが偉そうに言うべきじゃないとか、そんなことは今は投げ捨ててやろう。
アイナが、俺の大事な友達が、後悔だけはしない選択を選べるように――――。
「アイナ…。想像、してみてくれ。その子と、その子の想い人のことを…」
「うむ…」
「その子と想い人が結ばれた姿を想像して、アイナはどう思う?受け入れられないか、それとも喜ばしく思うか…自分の心のままに、誰に言われることでもなく、自分の思いで考えてみてくれ」
「…」
彼女は静かに目を閉じると、俺の言葉を噛み締めるようにゆっくりと息を吐いた。
やがて目を開いた彼女はこちらを向くことはなく、ただ、呟くように言葉を吐く。
「トール…。不思議と…違和感がないのだ。…何なのだろうな、この感じ。…二人が幸せそうに笑う姿を、我はとても簡単に想像出来てしまうのだ…。普通ではないことを頭では分かっていて、それでも…良かったと思えてしまうくらいに、幸せそうなんだ」
「そうか」
「ああ、そうなのだ…」
再びこちらに向けた彼女の顔は、いつものように愛くるしい、元気でとてもいい笑顔だった。
「我は決めたぞ、トール。…そやつのために何をしてやるとは言わん。だが、ただ…我は、我だけは理解してやろうと思うのだ」
「…うん。そうか。…俺はアイナの友達で、本当に誇らしいよ」
茶化すことなく、本当の自分の言葉でアイナに伝える。君の友達で良かったと―――。
そんな俺の言葉にアイナはいつものような照れ隠しはせず、ただ、少女らしく微笑むのだった。
その後、俺達は言葉少なに宿に戻り、エルリーンと三人でいつもより少しだけ遅い朝食をとった。
その時間は何の憂いも無いアイナの笑顔があり、いつも以上に楽しい食事になった―――。
◆
冒険者ギルド―ケント支部。所謂田舎支部と揶揄される場所に不釣合いの報奨と、名指しの依頼が舞い込んだのはリースリッドが出勤した直後のことだった。
二日酔いでもない彼女の頭を痛めているのは、アデン本部よりも栄えていると言っても過言でもなく発言力さえも本部に匹敵するギラン支部からの依頼である。
ギルド内受付の奥に位置する応接間のテーブルの前に座した彼女は、几帳面に切り揃えられた前髪に手櫛を入れるかのように頭を抱える。栗色のセミロングの髪がふわりと揺れ、ずり落ちそうになる眼鏡の端を持って掛け直した。
(やれやれ、ですね。あそこの脂ぎった狸共が考えそうなことです。本当に、やれやれです)
グルーディオ北、荒地に突如として出現した大量のアンデッド集団及び、その元凶のネクロマンサーの討伐…それがケント支部に投げ渡された依頼内容だった。
実際には、ケント支部の冒険者が発見し、その案件は手が余ると判断し本部に伺いを立てた後、討伐に喜々として手を挙げたのがギラン支部だった。その結果、お抱えのAランク冒険者パーティーの内3組が揃って敗走。未だ死者こそ出てはいないが、ご自慢のAランク冒険者達の度重なる敗走で早々にこの案件から手を引く腹積もりになったのは明白だった。
そして、そこへ名指しされたのはトール、エルリーン、アイナの3名からなるBランク冒険者パーティー。ご丁寧にAランク昇格への餌を付けての見事な保身撤退を見せつけられたリースリッドは最早溜息さえ出ることはない。
(トールさん達がギランへ移る気が無いと知るや、Bランク昇格さえも渋っていたものを…手に入らない優秀な人材は使い潰すという考えを隠そうともしないえげつなさには、本当にある意味尊敬に値しますね。絶対に見習いたくはないものですが―――)
冒険者にとってランクとは得られる報酬に直結する得難い評価だ。請け負えるクエストの危険度は増すものの、報酬もそれに準じて跳ね上がる。
それ故にアデン全土でも十数名しかいないAランクという称号は冒険者にとって値千金。喉から手が出るほどに手に入れたいと思っても不思議ではないものだった。
Sランク冒険者などは過去に数名、英雄と呼ばれる偉業を成し遂げた人物に与えられたものだ。
だがそれは所謂評価ではなく、既に無形の王冠に匹敵するもので、冒険者として現役のものに与えられるような代物ではなかった。それ故にSランク案件クエストなどは存在しない。
つまりは、現役冒険者にとってAランクという評価は最高のステータスとなるのだった。
「あのぉ~?それでぇ?トール様はいつ来られるんですかぁ~?ギラン支部でもぉ噂は時折耳にしてましてぇ~。ユニス~お姿を拝見できるのが楽しみなんですよねぇ~?」
リースリッドの隣に座る、軽薄そうな口調で自分の爪の手入れをしながら喋り始めるギルド支部から派遣された職員に、リースリッドは思わず眉間を押さえて溜息を漏らした。
ユニスと自分の名前を一人称として使う女性職員は顔立ちも良く、ふわふわとした癖のある腰ほどまである長い赤毛に男好きする身体をしている。彼女は自身の魅力を強調するように制服をわざと着崩して着用していた。
リースリッドは超が付く程の堅物である。それ故ユニスとは水と油、決して分かり合うなどということにはならないだろうことが二人の雰囲気からも見て取れた。
(恐らく、トールさんの男嫌いという噂を曲解し、女知音とでも思ったのでしょう…。あわよくばギラン支部への転属でも唆す腹積もり…なのでしょうね。清々しいほどの下衆っぷりを見せつけてくれるではないですか)
「今現在こちらの職員がトールさん達の滞在している宿に向かっています。そう時間を待たずして会えることになるでしょう。ただ、余り失礼な振る舞いは避けて頂けると有り難いですね」
「え~?ユニス~失礼なことなんて、しませんよぉ~。た~だ~、すっごい活躍をしてる冒険者って噂のトール様に一目お会いしたいなぁ~って思ってるだけですしー?」
リースリッドの苦言にユニスは媚び諂うような上っ面に上等な甘い笑顔を貼り付けて、悪びれることもなく言い放つ。
噂とは面白おかしく無責任なものだ。リースリッドはトールに対する噂は根も葉もないものだと理解している。リースリッドがトールに抱いてる印象は朴訥、である。
妖艶な色香を持つ絶世の遊女のような容姿には似つかわしくないとさえ思える、まるで田舎の生娘のような内面。言葉少なに己の感情表現すら危うげなそれを朴訥と称することは至って正鵠を射ていた。
(彼女は不思議な人です。身体と心のバランスがまるで取れていないかのように見える儚さ。時折見せる子供のような表情は私ですら、心を奪われそうになるほどに愛らしいものです。それに男嫌いという噂は単に素気無く袖にされた男共が口々に囁いた身勝手極まりないもの…度し難いです)
トールは女性を舐めるような視線を無遠慮に送るような、自分を性的対象にしていることを理解させるような男が苦手だ。過去のトラウマはあるものの、一切男と話せないというわけではない。純朴そうな礼儀正しい男や、商店などを営んでいる男性とは事務的な会話を詰まること無くすることが出来る。
そして、誰も理解していないが決して女だったらいい、というわけではないのだ。トールという人間は人付き合いが苦手なのだ。自分を表に出すことが出来ず、殻に閉じこもるような性格の人間に女性なら話せるなどという不合理なことがあるはずもない。寧ろ逆だ。何しろ、エルリーンでさえトールは最初まともに話すことが出来なかったのだから。
従って、ギラン支部が寄越したユニスという女性職員は完全に裏目に出ることになるのだった。
ユニスが依頼に合わせて持ってきた、失敗したクエストの詳細報告書に目を通しながらも、リースリッドは何とか、トール達にクエストを断るように仕向けられないかを必死に考える。
リースリッドは彼女達がこの難関というのも生ぬるいクエストで傷付き、本当に最悪、死に至ることも考えなければならなかった。それ故に、彼女達にはこのクエストを受けて欲しくはない。
リースリッドにとって、冒険者全てを支援するのが自分のギルド職員としての矜持であり、特定の個人に対して特別の配慮を図ることなど無かった…はずだった。
(いくら、冒険者になった当初からの付き合いとは言え…彼女達に肩入れするなんて、私も落ちたものですね―――。もっと私は冷静に物事を捉え、平等に接することなど出来ないはず無いと思っていたのですが…。全くもって本当に、やれやれ、です)
彼女の詮無い考え事は応接間のノックの音により切り替えられる。
ここから彼女は職務を全うする、一介のギルド職員として彼女達に接しなければならないのだ。
「どうぞ、お入り下さい。…お待ちしておりました。トールさん、エルリーンさん、アイナさん。こちらにお掛け下さい。この度貴方方を招集させて頂いたクエスト案件についてご説明させて頂きます。ご質問があればその都度お申し出ください。それでは―――――」
それでも彼女は、何があろうとも彼女達がどうか無事でと願わずにはいられないのだった――。
用語やらアイテムやら魔法やら説明するとこ 今回全然ないっぽいよ!
アデンー大陸の首都!超おっきな街!でも、ギランのほうが人がいるよ!?死んだら経験値を復旧してくれる教会があるよ!多分、ゲーム内では世界一儲けてる教会だよ!!いいね!リアルでも経験値復旧するって張り紙したら教会儲かるのかな!?
ギランー中心部に位置する栄えたおっきな街!お店も、各種サービスも、色んなコンテンツもあるよ!だから人も沢山!とりあえずギランで!というチャットは見慣れたもの!
グルーディオー南に位置する寂れた街。でもゲームではケントよりは人がいるしコンテンツもあったりで、寂れてはいないかも!?こう考えるとケントの不遇さって一体…。