レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。 作:とらこさん
「皆さんがお揃いで助かりましたよ。出勤直後で手隙きの者があまりいなかったものですから」
「フッ、我は闇に導かれただけ…これが我らの運命だ」
「ふふふ、アイナちゃんったら、いつも大袈裟なんですから~♪」
俺達三人はギルド職員のミトラに先導されるように冒険者ギルドへと向かっている。
アイナが買ってきてくれたパンを朝食に、食事を終えた俺達は宿屋のロビーでまったりと食休みを取っていたのだが、そこへ少し息を切らせたミトラが飛び込んできたのだった。
彼女が俺達のギルド招集を伝えに来た理由は、どうやら他所のギルドからのヘルプのようなクエストらしい。詳しい説明はギラン支部から派遣された職員とリースリッドが行うとのことで、俺達は準備もそこそこに冒険者ギルドへと向かうことになったのだった。
冒険者ギルド内、受付け奥の少しだけ豪奢な扉をミトラがノックをすると、直ぐ様にリースリッドの応じる声が聞こえた。この応接間はBランク昇格の際に一度通された限りで、それ以来は全くと言っていいほどこの部屋自体使われている感じはしなかった。…どうやら今回の話は少し特別な案件なのだろうか。
ミトラは扉を開くと俺達に道を譲るようにそのまま隅に立ったまま少し頭を下げた。
「どうぞ、お入り下さい。…お待ちしておりました。トールさん、エルリーンさん、アイナさん。こちらにお掛け下さい。この度貴方方を招集させて頂いたクエスト案件についてご説明させて頂きます。ご質問があればその都度お申し出ください。それでは―――――」
「わぁ~貴方様がトール様なのですね~。あぁとってもお美しく素敵なお姿ですぅ~。ユニス~、すっごく光栄です。トール様のお噂は予予耳にしてましたが、あぁ、ユニスは一目そのお姿を拝見しただけで心を奪われてしまいましたわ~」
俺達がテーブルを挟んで用意されていた椅子に腰掛けて話に耳を傾けようとしたその時、リースリッドの隣りに座っていた赤毛の女性が興奮した面持ちで席を立ちテーブルに両手を突き、身を乗り出すかのようにして声を上げた。
び、びっくりしたー。何、いや、だ、誰この人!?り、リースリッド助けてー!
俺が助けを求めるようにリースリッドに視線を遣ると、彼女は分かっていると言いたげにこちらの視線に頷きを返す。わぁお、さすができる女!リースリッドさんかっけー!
「今回のクエスト案件は準緊急性のものです。無駄話をしている暇はないと思いますが?」
「そうですねぇ~。準、緊急性ですよね~。でしたら、自己紹介程度の時間をとってもよろしんじゃないですかぁー?たかが数分で事態が急転する可能性が低いから準なんですよ~?あぁ、ここではこのようなクエスト自体がこないでしょうからー、心配するのも仕方無いですよねぇ~?」
リースリッドの無駄話を咎める視線と言葉を物ともせず、赤毛の女性はそれに対して嫌味を盛り込んだ切り返しをしつつも表情は一切崩れそうにない笑顔だった。
ナニコレ怖い…。
「ええ、ここは田舎支部なものですから、こういう案件には不得手、ということです。そんな所にそういうものを持ち込む都会の支部にはお分かりにならないのでしょうけれど、我々は冒険者のリスクを最小限に補助することを矜持としておりますので、必要のない無駄な時間を使わせるよりも必要な準備時間を十分に確保して頂くことの方に重きを置きたいと思う次第ですね?」
「…そうですねぇ~、でも、私は~こういう案件に慣れていますからー?そんなに心配なのでしたら私に任せて頂いてもぉ~全然構わないんですよー?ねぇ?」
お互いに一歩も引かない鍔迫り合いを繰り広げる二人の会話は、横合いから殴りつけるような声に唐突に終わりを告げる。
「貴様等いい加減にしてもらおうか。我らは貴様等のよく分からん口論を聞きに来たわけではないのだ。その腹の探り合いは我らが帰ってから存分にやれ。それこそくだらん無駄な時間だ」
おーーーー!?アイナー!!アイナちょーかっけー!?マジリスペクトだわー!あ、こっち見てフフンって顔してる。可愛いね~アイナはー!なでなでしてあげよう。
「こ、こらやめよトール!こ、子供扱いするでにゃいわ!…ッ!?エルリーン!指を咥えて羨ましそうにするな!!嬉しくないんだー!こっちは!!」
「す、すまない」
確かに友達にするようなことじゃないよね!?ごめんねアイナ。でも結構満更でもない表情してるからまたやってしまいそうだよ…。え?エルリーン…?何でそんな物欲しそうな顔してこっちを見てるの?一体どうしたんだ!?
「…んん!確かに、アイナさんの言う通りですね。申し訳ありませんでした。…ではご説明の前に自己紹介をどうぞ?ユニスさん」
「はぁ~い。冒険者ギルドギラン支部所属のギルド職員をしておりますユニスと申しますぅ。この度はトール様のパーティーへAランク案件クエストをお持ちいたしました。どうかご検討頂ければ幸いですぅ~」
ユニスと名乗った赤毛の女性は、均整の取れた顔立ちで魅力的な人だがどうにも俺は苦手なタイプだった。俺の視線に恥ずかしそうに頬を赤らめて微笑む姿は愛らしいが…失礼な言い方になるけれど、何か嘘くささを感じてしまう。いかんなぁ、苦手なタイプだからって先入観で人を判断するのはやめとこう…。
しかし、Aランク案件…?確か、冒険者ギルドはランク以上のクエストは受けられないと定められているんじゃないのか?それとも、何か特例でもあるのだろうか…?
「リースリッド、ユニスが言ったAランク案件とは…Bランクの俺達に受けることが可能なのか?確かランク以上のクエストは…」
「いえ、私の説明不足で正しく伝わっていなかったようですね、申し訳ありません。Cランクの冒険者はランク以上のクエストは受けられません、それには特例もなにもありません。ですが、Bランクは言わば信用を得た、相応の評価を受けたという冒険者です。ですので指名された場合や、緊急性のあるAランク案件であれば受けることが可能となります」
「そうか、いや、確かにリースリッドはBランク冒険者については触れていない。俺が思い込んでいただけだ…謝ることは、ない…すまない」
「いえいえいえ~。それはこちらの不手際でございますよ~。トール様がお謝りになる必要などございませんよぉ~。ねぇ?リースリッドさん」
「…ええ、その通りです。本当に申し訳ありませんでした」
ユニスが俺の言葉に続けて大袈裟に口に出した言葉に、リースリッドは表情には出さなかったが、目を伏せて頭を下げる。ユニスの満足気な笑顔に俺はズンと胃が重くなる感覚を感じる。
あぁー、気になったからって何も考えずに指摘しちゃったよ…。何も今聞かなくても良いことだったよな…これじゃ他の人の前でリースリッドの揚げ足取ったような形になっちゃったよ。
何やってんだよ俺、本当に、あぁ、散々世話になってるリースリッドに対して恩を仇で返すような真似しちゃったじゃん…くそー、何で俺はこんななんだよー。はぁ、自己嫌悪だなぁ…。
膝の上で握り締めた手をそっと、優しく包むように重ねる掌。その温かい温度に重ねた人物に顔を上げて視線を向ける。少しだけ眉根を下げた笑顔、何も紡ぐことはない弧を描いた桜色の唇。まるで本当に天使のようなその人は、俺の気持ちを透かしているかのようで―――。
ただ、小さく頭を左右に振る。たったそれだけで、彼女が何を言いたいのか分かってしまう。
たったそれだけで、どれだけ彼女が俺のことを見ていてくれているのかがか分かってしまう。
あぁ、まるで後光が差しているようだよエルリーン!そうか、貴方が神か!?…うん、大丈夫。ありがとうエルリーン。
「ふふ、リースリッドも失敗することがあるんだな。いつも完璧な君のそういう所を見られて得をした気分だ。本当に気にすることはない、君がいたから無事に冒険者を続けられてるのだから」
「―――――。全く、貴方は…いえ、それではこれ以上トールさんに好意を抱かれても困りますのでこれからは完璧に徹しさせて頂きます」
「ははは、手厳しいなリースリッドは」
いつもの彼女の表情に戻ったリースリッドはいつもよりもほんの少しだけ柔らかく、その表情は俺の心を軽くしてくれた。
一度の咳払いの後、彼女は眼鏡の縁をくっと持ち上げるような仕草をして居住まいを正す。
「それでは、今回トールさんのパーティーへ依頼されたクエスト内容の説明をさせて頂きます。お受けになるか、拒否されるかの判断にして頂ければ幸いです。まず、このクエストに先行したAクラスパーティーが三組、這々の体で敗走しており、その危険度は言わずもがなということを念頭に置いて下さい。場所はケント南の橋を渡った先の荒地…先行したパーティーの報告では通常の強さを遥かに超えるスケルトンガードが50体以上確認されています」
スケルトンガードて…えらい弱っころいのが来たなぁ…えー?それでAクラスパーティーが敗走したの!?どんだけ強いスケガ―なのさ…。というかこの世界でもモンスターの強さって結構一律ぽかったんだけど強さが変わることってあるのかなぁ?
というか、悪いけどそれ多分メテオ一発で終わりそうなんだけど…。あぁーやだなぁまた活躍出来なかったってアイナとエルリーンにチクチクされるのやだなぁ~…。
「…その程度の敵にAクラスパーティーが敗走するものなのか?」
「そのパーティは何れも通常のスケルトンガードなど相手にもならない程の強さがあります。あのバジリスクをも討伐したパーティーですら、たったの一体すら倒せなかった…それが今現在の状況ですね」
あのバジリスクって言われてもなぁ…あいつサンバ3発で死んじゃうから、それ凄いの?って思っちゃうんだよなぁ…もっとこうレベルで言って欲しいって思っちゃうよね!
「それから…そのスケルトンガードを操っていると思わしき影があるとの情報もあり、我々はそれをネクロマンサーと便宜上名付け、スケルトンガードと共に討伐、または可能であればネクロマンサーの捕縛がクエスト達成項目に定められています」
は…?ネクロ?それって…どっちのやつかによって超やばいんだけど!?いや、落ち着け、今そんな強いモンスターに出会ったことないし、言ったら相当昔のリネージュのモンスターしか出現していない…リニューアル後のネクロマンサーじゃないと思いたい…勝てなくはないけど、アイナやエルリーンに何かあったら俺の心が死んじゃう!!
俺一人で行くと言っても、絶対に聞いてくれないだろうしなぁ、二人共…。
「――――トールさん、如何なさいますか。このクエスト」
「あらあら~?大事なことをお伝えしておりませんねぇ?リースリッドさん?…トール様、このクエスト達成の暁にはAランク冒険者への昇格が決定しておりますぅ。これはぁ既にギルド本部にも正式に許可された決定事項なんですよ~」
ん?さっきの今でリースリッドが伝え忘れるなんてことはないだろうし、なるほどーリースリッドはこのクエストを俺達に受けて欲しくないと思ってるのかな?あぁ、こういう人の優しさって何でこうぐっと来ちゃうんだろうね~。ちょっと泣きそうになっちゃった…。
「Aランク昇格には、興味はない。が、クエストは受けよう。ネクロマンサーの目的も分からないが、ケントに近すぎる…。もしこの街が襲われることになれば、住人が危険に晒されるだろう」
「さすがでございますぅ~~。ユニス、トール様のその御心に胸を打たれました!あぁ、何て素晴らしい御方なのでしょう~ユニスはトール様に心酔してしまいそうですー」
ユニスは両手を組んで頬に当てるような仕草でクネクネと身体をもどかしげに揺らしていた。
というか何でこの人俺のことそんなに持ち上げるんだろ?クエスト受けて欲しいっていうのは分かるんだけど…それはAクラス昇格の餌だけで良いと思うんだよね…。
「そう、ですか。分かりました。では、準緊急性Aランククエストースケルトンガードの殲滅、及び、ネクロマンサーの討伐または捕縛の受諾を確認致しました。…こちらがクエストスクロールとなります。――――どうか、どうかお気をつけてください…」
「ああ、ありがとう。リースリッド…無事に戻ると約束、しよう」
ユニスと対照的にリースリッドには珍しく残念そうな表情を見せつつ、彼女はクエストスクロールをテーブルにそっと置いた。それを手に取りながら、真剣味を帯びたリースリッドの声音に俺は身を引き締めてそう返すのだった。
➤➤➤
俺は特に準備という準備は無いが、アイナとエルリーンがポーションや矢を十二分に用意するため街の道具屋と武器屋を回るのに付き合い、ケントを出発したのは昼前となった。
ケント南東の石橋を渡り、暫くすると草木も生えないような荒地へと到達する。所々に人かモンスターのものかも分からない骨が散らばっていたりと、まさに戦地跡といった有様だった。
「とりゃああああ!!我が闇の刃で灰燼に帰せ!!――――うにゃぁー!?痛ッいたああああ!」
アイナが雄叫び?と共に赤いふんどしを着けた真っ白なでかい豚、バグベアーに斬りかかる。
バグベアーを何とか倒したものの、棍棒で強かに打ちつけられたアイナは涙目で俺の所に駆け寄ってくる。なんだかほっこりする戦闘風景だった。
「トールぅ~、い、痛いのだー!か、回復を頼むぞー!?は、早くするのだ…ッ」
「はいはい。ヒール、ヒール、ヒール。もういいか?」
「おぉう!?良いぞ!!…なぁ、トール…我は少し疑問があるのだが…いいか?」
双剣を腰に納めつつ、ジト目でこちらを見るアイナに首を傾げながらも続きを促す。
「エルリーンにはこう、もっと強力な回復を使うではないか!?何で我にはこう、ぞんざいな扱いっぽいのだ!?我のことが嫌いなのか!?なぁ!?トールよ!!」
「あぁ、それか。うーん、何と説明すればいいか…MP効率って分かるか?アイナ」
「えむぴー効率?ふむ…?」
小首を傾げるアイナだが、彼女は相当に頭のキレが良い方できちんと説明すれば多分納得するだろう。俺はアイナに続けて口を開く。
「俺の魔力では普通のウィザードよりも魔法の効果が高い。ヒール3回分はグレーターヒールの回復量を上回るほどだ。そうするとヒール3回分の魔法力消費がグレーターヒール一回の消費よりも少なくすむこともあって、効率がいい、そういうことなんだが…分かるか?」
「そういうことか、概ね理解したぞ、トールよ。なるほど、効率がよくなればそれだけ魔法使用回数も増やせる、そういうことだろう?」
「さすがだ、アイナ。納得出来ただろうか?」
「勿論だ。ま、まぁトールが我のことを嫌うはずはないしな!ってこらぁ!?頭を撫でるにゃぁ!うーっ!!子供扱いは好きではないぞ!トールよ!…ま、まぁトールがどうしてもというなら、仕方が無いということで…か、構わんがな…」
ちなみに今のでは何故エルリーンには上級回復を使うのかの説明にはなっていないのだが、納得しちゃうアイナは本当に可愛い子なのだった…。なでなで…。
「わ、私も理解しました!!え、えへへ…そ、その、トールさん…!」
隣に寄り添うように歩いているエルリーンが上目遣いでこちらを物欲しそうな表情で見つめながら唐突に声を上げる。驚いて思わずビクリと震えてしまった。
と、突然どうしたの?エルリーン…今の話のこと?う、うん。理解してくれて嬉しいよ?どうしてそんな何かをせがんでいるような雰囲気なの?
「そ、そう?よ、良かった…よ?」
「………はいぃ」
俺の言葉に何故か残念そうにしゅんとする姿は可愛らしいのだが、一体何だったのだろう。
そんな俺の疑問に答えるようにアイナが面倒くさそうに溜息を吐きながら理由を口にする。
「そやつは我にしたように頭を撫でて欲しいのだろうよ。全く素直に言えばよかろう」
「あぁ、エルリーンそうなの?えっと、じゃあ…はい」
「ふぁぁぁぁ~っえへへへへ~…」
うわぁ…超可愛いなぁ…。なでなで…。
そんな今から激戦に向かうとは思えない程ほっこりした雰囲気で、俺達は目的地へと向かうのだった。
―――――吹き荒ぶ風に土埃が舞い、寂寥漂う地に整然と並び立つ白骨の槍兵の群れ…。
命なきその亡骸の果ては、まるで標本かと思わせる程に隊列を乱すこと無く微動だにせず。
その黒き穴の双眸には果たして何を映しているのだろうか。
俺達は例のスケルトンガードの群れを発見し、荒地の窪みに身を潜め様子を窺っていた。
白骨槍兵の群れの奥には小さくカオティックテンプルが見てとれた。
その巨大な骨をむき出しにしたようなカオティックテンプルは粗末な布で覆われ、簡易的なテントのようなものを作っているようだった。件のネクロマンサーはどうやらあそこにいると見て間違いなさそうだ。
ちなみにカオティックテンプルは、確か悪神グランカインへの祈りを捧げる寺院という認識でよかったと思う。リネージュでは魔法にロウフル、ニュートラル、カオティックという魔法自体の性向が存在する。
…俺もあまり詳しくは無いんだが、ロウフルは善神アインハザードの奇跡とされる力でカオティックはグランカインの破壊の力、ニュートラルは両方が齎す奇跡…とかそんな感じだったかな?
まぁ取り敢えずカオティックテンプルはカオティック系の魔法書を使って魔法を覚える場所といった認識しか持っていなかったからなぁ…。
「トール、どうする?我が様子を見てくるか?」
「ブラインドハイディングでか?やめておけ、気配に気づくモンスターもいる。それは万能じゃないだろう?」
「…何故我が秘術をトールがそこまで詳しいのかは聞かないでおくが、ならばどうするのだ?このまま様子見し続けても何も変わらないどころかネクロマンサーとやらが動き出せばもっと厄介なことになるのは目に見えているぞ…?」
「私が遠くから攻撃してみましょうか?」
「…いや、それも止めよう。情報通りならあれらは通常のスケルトンガードの比較にならない程の強さらしいからな…一気に動き出されたら対処に困る」
ごめんね、二人共…俺も普通のモンスター相手とかなら二人を頼って戦いたいんだけど…。
今回だけは初手から全力でぶっ潰すことにするよ。後で文句言われても二人が危ないことになるようなことだけは避けたいんだ…。
「…全力で行く。二人はそのまま伏せていてくれ」
「ふむ…トールの全力…か、いいだろう。その力どれ程のものか見せてもらおうか」
「え!?と、トールさん…本当に全力でやっちゃうんですか…?えぇ~…」
アイナには俺の範囲魔法を見せたことがまだ無いが、前に俺の範囲魔法を目の当たりにしているエルリーンは今回はやること無く終わってしまうんだなぁという表情をしていた。
しかも今回はまだ一度も使ったことが無いメテオのお披露目だー。いやっふー!リネ内最高威力の範囲魔法。そして長距離範囲という使い勝手の良さも申し分ない、ウィザード憧れの魔法だったもんね。
俺は軽く息を吐いてから、窪みから身を晒し、杖を掲げた。装備はもちろん+6デーモンスタッフ。これで沈まない敵などいない!!さぁ行くぞー!
「メテオストライク」
劈くような異音、身体を揺さぶる大気の震え、その一瞬の後、巨大な焼けた岩がスケルトンガードの群れの中心目掛けて墜ちた。凄まじい轟音と吹き上げる土煙で視界も聴覚も持っていかれる。
魔法で作られたその岩は光の粒子となって消え行く、だが、それが作った爪痕はまざまざとその痕跡を地面に刻んだ。
「ちょ、え!?は!?と、ととととトール!!!!にゃ、なんだそれはぁあぁぁ!?え!?やば!超カッコイイ…超カッコイイではないかーーーーーーーー!?は!?うわ凄いな!!なぁ!!エルリーン今のみたか!?やばいだろうあれ!!超、超カッコイイよな!?な!?」
「う、うん。そ、そうですねー!うんうん!超カッコイイ!ね!あ、アイナちゃん!?身体を揺さぶるの止めてください~!」
俺の後ろでは興奮冷めやらぬといった感じでアイナがガクガクとエルリーンの肩を揺さぶっていた。かく言う俺も自分が使ったメテオストライクの威力にさすがにポカーンとしてしまったくらいだ。やばいなコレ…普通に大量殺戮兵器レベルやないかーい。
巨大なクレーターからもうもうと立ち上る土煙が晴れていく…。
そこにはスケルトンガードの残骸が―――。
――――一つたりとも存在せず、それどころか、傷一つ見当たらないスケルトンガードの群れが整然と存在していた。幻影や何かでもない、作られたクレーターから浮き上がって見えるようなこともなく、きちんとその巨大な爪痕の中に真っ白い骨の足をつけて立っている。
「…な、んだと…」
「と、トール…あれほどの威力の魔法で傷一つ付かないなどあり得るのか!?い、一体あいつらは何なのだ!?」
「う、嘘…トールさんの魔法が効いてないんですか…?そんな…」
俺は正直この状況に混乱した。まさに驚愕だ。いくら魔法抵抗値が高いモンスターだとしても無傷なんてあり得ない。地形さえ変えてしまう程の威力をどうやって回避するというのだ。それに、回避どころか直撃して尚、一切のダメージを受けない?そんな馬鹿な話があるか!?
メテオ自体がバグっている?いや、それならあの地形の変化した惨状はどう説明する?威力は折り紙付きの最大級の魔法はきちんと機能している。だったら、何故、あいつらは平気な姿で突っ立ってるんだ!?くそっ、どうなってる…!?どうする…どうする、これからどうする!?
「…やるだけ、やってみるしかない」
「トール?一体どうする気だ…?」
属性抵抗?火に強いのか?いや、アンデッドだぞ、あいつらは火に強いなんてこと…。
まぁ、何故か知らんが範囲魔法をぶちかましたはずなのにあいつらはこちらを全く見向きもしない…だったら、その隙を利用させてもらうしかない。
「ライトニングストーム、ブリザード」
雷撃の嵐も吹き荒れる吹雪も、その一切を受付けないかのように骨の槍兵は微動だにもしない。
俺は、焦りにじりじりとした追い立てられるような気持ちの悪さにスケルトンガードに向かって走り出す。
「トールさん!?な、何をするんですかーっ!?」
「トール!?おい!!どうしたんだ!!」
俺を制止するような二人の声を聞きながらも、全ての範囲魔法使用可能距離へと直走った。
俺が近づこうともスケルトンガードは一切動きはない、俺は好都合とそのまま魔法を唱えていく。
「ファイアーストーム、アースクエイク、トルネード、―――――っ、くっそ…ッ!!」
何故、効かない?魔法が通用しない?何だそれは…俺にとってそれは、もう無理ゲーじゃねーか。
そんな、はず、ないだろ!?俺が死ぬ思いで育て上げた『トール』が、歯牙にも掛けられないままに…?そんなはず、そんなはずあるわけない!!!
「ファイアーストーム!ファイアーストーム!!ファイアーストーム!!ファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストームファイアーストーム――――――」
何発撃った…何十発撃った…?轟々と燃え盛る炎の竜巻、『トール』の一番の得意魔法とも言えるだろう、使用回数は他の魔法の追随を許さない程に使い続けた魔法―――――。
それは、一切通用しなかった――――。
強烈な虚脱感、ガンガンと頭の内側を叩きつけられているかのような頭痛。その感覚はまさに急激に身体を襲ってきた。
「――――は?…うぐ、うっぇぇぇ、な、何だこれ…は、?立っていられ、ない…」
「トールさん!!」
「トール!!」
俺を追ってきていた二人がぐらりと倒れる俺の身体を抱きとめた。
二人に支えられるように地面に座り込んだ俺は、この感覚の原因は何かを探ろうと考える。
そして、何かを考える事すらも億劫になる頭を叱咤しながらもそれに思い当たる。
まさか、MP切れ…この感覚がMPが切れた感覚なのか?さ、最悪だぞそれ…。
俺はゲームでMPが切れようと動き回れるキャラクターを見ていて、MPが切れてもデメリットはないと思い込んでしまっていたのだ。HPが減れば痛みに慣れていない現代人にすれば死ぬほど痛いと感じる痛覚を伝えてきたはずなのに、俺は何でMPは大丈夫だなんて思い込んでしまった?くそ、最悪、何だよこの状況、俺は…何してんだよ…。
一人で勝手に暴走して、二人を危ない目に合わせたくないなんて嘯いて、その実、二人の力を当てにしていなかっただけじゃないのか?自分勝手に振る舞って、その結果がこれかよ!!何て様だよ!!馬鹿が!馬鹿野郎が!!くそ、だめだ、絶対に…二人だけは逃がすんだ!それだけは――。
「うるさあああああああああああああああああい!!!さっきからドッカンバッカン!バリバリドンドン!!ゴーゴーゴーゴーと!!!!人んちの前でアホみたいな騒音鳴らしやがって!!」
カオティックテンプルの仮設テントから肩を怒らせて怒鳴りながら向かってくるそれに俺は目を見開いてしまう。あれが…ネクロマンサー!?どうなって…どういうことだ!?
「どんな嫌がらせだよ!?馬鹿なの!?近所迷惑考えなさいよ!!!私は、疲れてるの!!寝てたの!!分かる?ねぇ分かる!?こんな寂れた荒地でさ普通騒ぐ奴なんていないよ!?それが何?ぎゃーぎゃー騒ぐならま・だ・し・も・よ!どんなことすりゃあんな騒音出せるのよ!?私はどんだけアンタ達に恨み買ったのよ!?私はアンタ達何か知らないわよ!!!というか文句があるなら口で言いなさいよ!!初手からアホみたいなことして嫌がらせて!人として終わってるわよ!」
まるきり俺達を警戒すること無く距離を詰めるその姿はあまりにモンスターとはかけ離れている。
何の禍々しさも無く、その声音さえも甲高く愛らしさすら感じるほどに。
「もうね、こないだから昼夜問わずにちょっかいかけてくるアホ共の相手をしててこちとらストレスがマッハなのよ!!胃に穴が空いたかと思ったわよ!?その挙げ句の果てがこれなの!!?あーそう!そうなの!?これが嫌がらせなら大成功よ!!はいはいおめでとう!アンタ達の作戦は大成功!パチパチパチ!!それじゃさっさと帰れーーーーーー!!!…はぁ~~~~~~」
アイナと然程変わらない背丈、セミロングの黒髪は少しだけ紫がかっていて俺と似ている。少しそばかすの目立つ少女らしい愛嬌のある顔を真っ赤に怒らせて、口早に責め立てる。
黒いとんがり帽子に、真っ黒なマント、まさに魔女といった出で立ちの少女はその表情すらもはっきりと確認できる距離まで近付いて、これみよがしに大きな溜息を漏らした。
「…一体、お前は、いや…君は何者なんだ…?」
「はぁ~~~~!?いやいや、いやいやいやいや、ねぇ?ちょっと待ってね、あまりの憤りで涙が出てきそう。うん、ちょっとごめんなさいねー?…どぅるるるるるるるるるる…どぅん!!!」
「―――――アンタら全員!!ギルティ!!!!!」
俺の質問に少女は何故か突然ドラムロールを口遊み、睨みつけながらそう叫んだ。
俺はMP切れの朦朧とする意識を何とか保ちながら、本当に何が何だか分からない状況に振り回されて、混乱を極めているのだった。
一体、どうなってるの…?ね、ネクロマンサーは…どこ?
俺の思考の疑問を解決出来そうな判断材料は、どうやら一切見当たることはないのだった…。
用語やらアイテムやら魔法やら説明するとこ
リニューアル後ーMMORPGなどでアップデートによりその能力を変えてしまうことがあるよ!上方修正、下方修正様々!過去のダークエルフプレイヤーはこのアップデートという言葉がトラウマだよ!!ゲームバランスを崩壊させるほどに最強だったダークエルフは度重なるアップデートという名のダウングレートによりその力を失ったのだった…。嫌な事件だったね。
ブリザードーごーごーびゅーびゅー水属性範囲魔法!範囲内のモンスターを氷漬けにしちゃうこともあるよ!夏に欲しい魔法!
アースクエイクー地震!?というよりも地割れ!?範囲はそこまで広くない土属性範囲魔法!名前負けしてるような威力かもね!
トルネードー自身を中心に発生する風属性範囲魔法だよ!意外とファイアーストームよりも効果範囲が広くて使い勝手が良い魔法だよ!威力はちょっと弱めだけどね?沢山のモンスターを巻き込みたい人向け!