レベリング中に寝落ちしたら、やけにリアルな夢から覚めない。   作:とらこさん

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明けましておめでとうございます!


七話 傍若無人のネクロマンサー 後編

 

 「はぁはぁ…。アンタ達には悪いけれど、ん?悪い?いや悪いことはないわ。人んちの周りで騒音迷惑かけといて、ん?お前誰だよ?って何・様!!?マジ怒り狂うわ!!怒りを通り越して呆れを通り越した後に『あ、やっぱりこっちで合ってたわー』的に怒りが出戻りしてきたわよ!!」

 

 顔を真っ赤にしながら怒りを露わにして捲し立てる魔女の格好をした少女。

 俺はアイナとエルリーンの二人に支えられながら座り込んだまま、少女の方に目を遣る。その視線に反応するように、少女は俺を見下ろし口元を歪めた。

 

 「ふん、アンタはウィザードか。その様子だと魔力切れってところね?私のスケルトンガードをたったの一体も倒すことも出来ないなんて、フフ、ぶ・ざ・ま!!あーっはっは。でもダメー!私手加減なんてしませーん。怒っているんですー。ブチギレてますー。さぁ!スケルトンガードよ!!この迷惑な馬鹿共を殲滅しなさい!!」

 

 そして、今の俺達にとって最悪の指示を少女はスケルトンガードに飛ばした。強烈な虚脱感の中、俺は絶望的な状況に悔しさで歯を食いしばる。だが―――。

 

 少女の指示を受けて動き出す骨の槍兵は、こちらに向かおうとその一歩を踏み出すと同時にまるで光の柱の中に消え去るかのようにその姿を次々と消していった。

 

 今のは…?まさか、まさかそんな…くそぉ…そんなのありかよー…それ、サモンなのかよ!?

 

 「ちぃッ!!…時間切れしたのね。ふふ、まあ良いわ。私は幾らでも呼び出せる力があるもの!来なさい!サモンモンスター!」

 

 少女の周りに忽然と現れる2体のスケルトンガード。彼女が魔法を唱える度にスケルトンガードの数は2体ずつ増えていく。俺はその光景に、怒りすら感じる理不尽さのこの世界のルールに握った拳で地面を叩きつけた。

 

 本来のサモンモンスターという魔法は使用者のレベルとカリスマの数値に依ってモンスターの種類と数を定め、2時間の間使役出来るモンスターを召喚する。そして、そのモンスターはプレイヤーの非対象指定型の範囲魔法、対象指定型だとしても対象を地面などにした場合、その範囲影響を全て無効化する。ただし、連続使用した場合、使用者の呼び出せる数が召喚したモンスターの数と同数であった場合、何も起こらない。だと言うのにだ、この世界では―――…。

 効果時間は百歩譲って6倍としてもだ、連続使用でその数を初期召喚数のままに無尽蔵に増やしていけるなんて、絶対に思わない。そう、リネプレイヤーであれば大量のモンスターの集団、それがサモンだと気付けるはずもなかった。

 

 何だよそれ!この世界うぜー!?ばか!ばーかばーか!分かるかそんなもん!

 ただ俺がいくら、不当だ反則だと喚こうが事態が変わるわけじゃない…。そう、この虚脱感を何とか出来れば…くそ、焦りに任せてMPを使い果たすなんてウィザード失格だぞ、俺!

 

 「だったら貴様さえ倒してしまえばいいのだろう!」

 「アイナダメだ!!召喚者を攻撃すればあいつらは一斉にお前目掛けて襲ってくる!!」

 「だ、だが!このままでは…どうしようも無いではないか!?」

 

 俺は少女へと向かおうとするアイナの手を強く握り押し留める。

 情報が正しいならば、サモンの仕様は増え続けることを除けばほぼゲームと同じなのだろう。

 Aランク冒険者ですら1体も倒せなかった。それは、ナイトやウィザードといったクラスを持ったプレイヤーと認識されたが故のダメージ減算判定。それに依ってあのスケルトンガードのHPは8倍以上と考えていい。未だ死者は出ていない―は、あちら側からのダメージも同じように減算するからだ。

 ただ、今の現状でも十数体。それ程の数に囲まれればいかに減算したダメージであろうとも死に陥る危険性があった。

 

 

 ポケット叩けばビスケットが増える的、クソゲ仕様のサモンモンスターがどんどんとその数を増やしていく。しかし、スケルトンガードの数が30を超えようとしたその時、遂に魔法を唱え続けていた少女の顔色が悪くなり、俺と同じような、いやそれ以上に辛そうな症状に陥ったことが分かった。

 それはそうだ、サモンモンスターはMPだけではなくHPも消費して扱う魔法なのだから。

 

 「ぜぇ、ぜぇ…あーじぬ…はぁはぁ、ぎづいぃ…辛いよぅ…ひ、ヒール…ヒール…うぁぁぁ」

 「だったら、もう止めればいい。…お前の目的は、何なんだ…?一体何のためにやっている」

 「ふ、ふふ。何?時間稼ぎのつもり?何の時間稼ぐのかな?もしかして魔力回復の時間でも稼ぎたいのー?べっつにぃー、いいけどー?私の目的はケントの壊滅よ。はい、次の質問は?」

 

 圧倒的有利な状況に慢心でもしているのか、少女はこちらの意図を分かっていながらも特に気にすること無く俺の質問に答えていく。向こうとしてもMP回復の時間が欲しいはず、だとしたらこちらの時間稼ぎに付き合うのも納得は出来るが、それにしても余裕がありすぎる気がした。

 

 だが向こうに何か奥の手があるとしても、恐らくMPの一割を切った状態ではまともに動けない。

 もう既に一度はMP自然回復を行われているはずなのだが、一向に状態が良くならないのだ。

 

 『トール』の最大MPは通常状態で2140。現状アドバンスドスピリットの効果で2568になっているはずだ。そして、MP自然回復量は42という数値。静止状態で回復を受けられる時間は16秒の6倍、1分36秒が必要になる。

 この状態から復帰するための一割という数値を回復させるために必要な時間は最短でも9分以上。一分一秒でもいい、少しでも時間を稼ぎたい状況だった。

 

 「何故…そんなことを?」

 「そういう契約だからよ。私がこの力を与えてもらう代わりに、私はその人の願いを叶える。簡単でしょ?あはは…いいでしょー?私は何も失わない。他人の命で私は力を得ることが出来るの」

 

 こ、こいつ最悪だー!なんて性格の悪さ…ッ。他人の命を踏み台にすることに何の罪悪感もないというのか…!?わぁすっげー…サイコパス!!!ぐぬぬ、絶対にこいつを野放しに出来ないぞ。

 過去にこんなことがーそれでーこうなっちゃいましたーとか関係ねーから!!絶対泣かす!

 

 「…随分、いい性格してるじゃないか。後悔しないといいな」

 「はぁん?ねぇねぇ、アンタさーちょっとさっきから、自分は特別だとか強いとか思っちゃってる感じ?しちゃってるんだけどー?ぷふ、あははは。私のスケルトンガードに手も足も出ないクソ雑魚ウィザードさんが、私に何言っちゃってるの?超面白いわーあー最高だわー。だって、アンタみたいな勘違い野郎をこれからボコボコにしてやれるんだもの!!!あはははは…ッ」

 

 少女は腰のポシェットからごそごそと何かを取り出し、満面の笑みを浮かべて俺に見せつけるようにソレを掲げた。

 

 「これなぁんだ?分かる?分からないわよね?じゃあ~教えてあげちゃう♪これはぁ~瞬時に魔力を補給できる秘薬。”クジャクの霊薬”…ふふ、ふふふ。もう実験は大体終わったし、スケルトンガードの召喚時間、どれくらいの強さか、そういうのもアンタ達冒険者のお陰で知ることが出来たわ。そこだけは感謝してあげてもいいのよ?だからね、アンタ達を殺して、そのままケントも破壊しに行こうと思うの。ね?いい考えでしょ?まさに完璧…じゃない?あはは」

 

 「―――――…は、はは。まじかよ…。まじか、あぁ…」

 「と、トールさん…?一体どう…し」

 

 朦朧とする思考に浮かんでは消える最悪の可能性…。だが、今はそれを考える時ではない。

 俺は、ただこの状況を変える方法を、それだけを――――

 

 ―――――クジャクの霊薬とはMPの即回復というリネ内では反則級のアイテム。

 それが、俺の頭に引っかかる。即、回復…?あ…あぁ…ああああああぁぁぁぁ…ッ!!!

 

 俺はエルリーンとアイナの顔を勢い良く振り向いて見つめた。

 

 「エルリーン、アイナ…俺を殴ってくれないか」

 

 二人はポカーンと口を半開きにし、目を丸くして俺を見つめ返している。

 あ…、そりゃそうだ…。いくら何でもこの台詞はないわー。馬鹿だわ俺。

 

 「とととトールさん!?そ、その、今はそんな場合じゃないと言いますか…そ、その、わ、私は、が、頑張ろうにも、とてもトールさんをその、ぶつなんて…うぅ、ご、ごめんなさい!逆なら私は全然構わないんですけど!!」

 

 エルリーンさんは一体何を仰っておられるのでせう。

 

 「トール!今は貴様の性癖を暴露している場合ではないだろう…っ。そ、その、混乱しているのは分かるが、気をしっかり持つのだ!!トールよ!」

 

 そうなるよねーそうなっちゃうよねー。うん、アイナは悪くないよー…。

 ちゃうねん…俺はマゾとかじゃないんだよー…。というか、例えそうでもこの状況下でそんなこと言わないよ!?びっくりだよ!!

 

 俺がそんな頭がおかしくなったと思われることを口にした理由はちゃんとあるのだ。

 

 その理由とは、ど忘れしていた常時発動しているはずの”魔力のリンドビオルの加護”。

 これはリンドビオルストームローブに付与された龍の加護。その効果は攻撃を受けると一定の確率でMPを20即時回復させるというぶっ壊れ性能の特殊能力。

 そう、伊達や酔狂で15億アデナも支払ってはいないのだ…。この世界に来て全然攻撃受けてなかったから今まですっかりと忘れてたけどね…。

 

 しかし、どう説明したものか。…あまり考える時間は――――

 いや?いやいや、そうか、詳しく説明する必要はない。そうだよ!こんなの説明した所で何言ってるの?って思われるんだから!よく分からないけどそうなんだって思わせればいい。

 

 「アイナ、俺に肩たたきをしてくれ。素早く、強めにだ」

 「は?今度はどうした!?トール!本当に貴様大丈夫なのか!?」

 「フッ、お前こそ何を戸惑っている。…俺は深淵を覗きし者。それに依って自己の魔力を肩たたきをされることで回復させることが出来るようになったのだ」

 「なん…だとっ!?そうか、さっき自分を殴れと言ったのは肩を叩けということだったのか!」

 「そうだ!」

 

 ほらー。ほら大丈夫だったー。自分でも何言ってるのって思ったけど大丈夫だったー。

 

 アイナは得心がいったという表情で、重々しく頷きを返す。

 

 「ふははは!ならば我に任せよッ!何故ならば我は郷で、肩たたきをさせたらアイナの右に出るものはいないとさえ言われた腕なのだ!!なるほど、我がこの腕を持ったのはこの運命のためだったわけか…。ふ、ふふふ!今こそ我の力を見せる時が来たようだな!!」

 「ああ、アイナ…お前の力を今こそ借りるぞ」

 「任せよ!!!行くぞ!トールよ!!」

 

 裂帛の気合を込めて、アイナは俺の肩を強く、そして速く叩き始めた。

 というか、アイナはダークエルフの郷で『肩たたきがとっても上手なアイナちゃん』って言われてたんだなぁ…とってもほっこりしたなー今。なんて可愛い肩書きなんだ…。

 

 「…ねぇ、アンタ達って本気で面白いわね。もう馬鹿馬鹿しいって気持ちが一周回って最高の見世物になったわよ…。まぁ?でもそれに付き合ってあげるほど私も暇じゃないのよねー…だから、さ。ちょっとは殺すのが惜しいとは思うけど、運がなかったと思って諦めてね?」

 

 そんな俺達の姿をジト目で見ていた少女が表情を少し和らげ、漸く口を開いた。

 

 「な゛ん゛と゛でも゛お゛も゛う゛がい゛い゛…」

 

 ちょっと声が震えてるけど、トントントントンされてるから仕方無いのでーす。

 少女は霊薬の蓋をパキりと親指で折り外すと、口をつけて飲み干そうとし――――

 

 「―――ぶぇっぷは、おぅっえ!げっほ、うぇっほげっふぉ!?まっず!?クソまっず!!」

 

 思い切り咽た。

 それ、そんなに不味いんだ…知らんかったけど、経験イベントの時しこたま飲ませてごめんなトール…まじごめん…。

 

 「…嘘でしょ、これ全部飲まなきゃいけないっての…?拷問じゃない!?」

 トントントントントントントントントントントン―――――

 「す゛こ゛し゛ずつ゛の゛め゛ばい゛い゛の゛では゛…?」

 「そ、それもそうね。そんなに量があるわけじゃないし…んく、うぇぇぇまっずぅー」

 

 何故か俺の助言に素直に従う少女。一体この状況は何なのだろうか。

 ちらりとエルリーンを見遣ると、彼女は頬に手をやり、少しとろけたような表情でこちらを見つめては吐息を吐いた。

 

 「…あぁ、トールさんが私との愛しい娘に休日、肩をたたかれて…私はそれを食事の支度をしながら微笑み見つめるの…はぁぁぁ、イイッ…凄く、いいですねぇ…ふふへ…えへ、えへへ」

 

 何だか凄く楽しそうで何より。でも俺との子って難しいと思うよ!?雌しべと雌しべでは無理があるのではないのでしょうか?

 

 

 「…トールよ…。我らは、そのだな。確か緊迫した戦闘中ではなかったか?」

 トントントントントントントントントントントン―――――――

 「そ゛う゛だぞ…」

 チビチビ…チビチビ…

 「うえぇ、はぁはぁ、んくんく、お、おうぇえぇぇ」

 

 「我の目はおかしくなったのか、どうしてもこの構図が戦闘中とは思えぬのだ…」

 

 方や座り込んだ女性の肩を叩く少女とそれをだらしないトロトロ顔で見つめる女性。

 方や向かい合う形でチビリチビリと美味しくない薬を無理矢理飲まされる少女。

 

 大丈夫だ。誰がどう見ても『何て緊迫した戦闘なんだッ』とは絶対に思わないぞ。

 俺には風邪をひいた娘が薬を飲む姿を見守りながら、少しお姉さんな娘に肩を叩かれているお母さんの図という風に見えたな…。THE和み、とでも銘打ちたい構図だよ…。

 

 

 そして、それからも皆仲良く幸せに過ごしましたとさ――――とは続かない。

 朗らかな雰囲気は、所詮内情を見ない見た目だけのものなのだから。

 

 どうにか霊薬を飲み干し、荒い息を吐きながら少女は苦渋と達成感を綯い交ぜにした表情で霊薬の容れ物を力一杯叩きつけた。

 

 「やってやったわこんちくしょう!!はぁはぁ、何なのよこのわけのわからない達成感は!!…ふん、まぁいいわ!どうやら効果は疑いようもないものね、魔力がほぼ完全に戻ってるわ…」

 

 こらー、空の瓶をポイ捨てしてはいけませーん。ほんとに躾けのなってない子だわー。

 

 トントントントントントントントントントントン―――――

 「も゛う゛い゛い゛ぞ、あ゛い゛な゛――――」

 「む!?魔力が戻ったか!?トールよ!!」

 「ああ、どうやら”魔力のリンドビオルの加護”は正常に機能しているようだ」

 「肩たたきで回復させるスキルにしては無駄にカッコイイな!!それ!!」

 

 いや、違うよー…攻撃される度に回復させるんだよー…肩たたき回復スキルじゃないからね?

 しかしどうやら先程までの虚脱感は嘘のように晴れて、身体の内に確かなMPを感じられた。大体2割手前といったところだが、これからやることには十分だ。

 

 「完全回復か!完全復活なのだな!」

 「いや、大体2割くらいだ」

 「ぷ、ぷはははは、何それ?ただの自然回復じゃない。全く、まぁ?いい見世物だったわよ」

 

 違います―。自然回復じゃまだ1割にも満たないんですー。

 

 「さてと、じゃあそろそろ終いにしましょうか。楽しかったわよ?中々ね」

 「ああ、そうだな。―――――アイナ、奴を攻撃しろ」

 

 俺の言葉、何の説明もないそれに一切の言葉もなく、何の疑いも抱かず、アイナは地を蹴った。

 

 「なっ―――、くっ!そ!!」

 

 既に後ろ手に腰の双剣を抜き去っていたアイナは少女目掛けて右の刃を振り下ろす。少女は何とかそれに反応し、杖でそれを防ぐものの返す左の刃までは即応しきれず、マントを切り裂かれ、ツゥと腕に浅い傷を受けて血を流した。

 

 刹那の間、辺り一面に立ち並んでいたスケルトンガードは時が動き出すかのように一斉にアイナへと押し寄せる。

 

 「ふふ、あははは。ばーか!アンタ知ってたんでしょ?私を攻撃すると全てのスケルトンガードがそいつに牙を剥くことを!死ぬまで…終わらないわよ?ふふ、ふふふ、あははははは」

 

 「アイナー!全速力で逃げろ!!ヘイストはまだ切れていないな!?」

 「任せよーーーーーー!!大丈夫だぞぉーーーーーーーーーーーー……」

 

 「って早ぁーーーーーーー!?何あいつ逃げ足くっそ早いんだけど!?」

 

 全速力で荒地を駆けていくアイナを追って30ものスケルトンガードが追いかけていった。

 簡単には追いつけなさそうだと確認し、俺はエルリーンに視線を向ける。

 

 「エルリーン…暫く、俺を守ってくれ」

 「―――――…お任せ下さい。命に変えても、必ず…」

 

 いや、命に変えないでね!?大丈夫な範囲で守ってね!?

 俺は二人なら大丈夫だと、信じる。とても大切な子達だけど、危険な目に合わせたくないけれど、一緒に冒険をしてきた仲間なのだから――――俺は信じなきゃ、ダメだ。

 

 「で?アンタは一体何をするっていうの?たった2割ぽっちの魔力で…私にどう立ち向かうの?分かる?私は、何時でもスケルトンガードを追加出来るんだけどー?ねぇねぇ、一体どうするつもりなのー?」

 

 「そんなに急かすなよ。お前のその圧倒的有利な時間はそんなに残ってないぞ…楽しめよ」

 

 俺は少女に軽口を叩きながらも、薄く瞳を閉じ、UIを呼び起こし、インベントリーからアイテムを取り出す。数瞬の間に俺の手には火が灯った蝋燭が乗る不思議な形の燭台が出現していた。

 

 「はぁ…?キャンドル…?ふふ、まだ夜には早いわよ?それともアンタのお先は真っ暗でキャンドルなしでは未来さえ見えないってこと?洒落がきいてるわね」

 

 いや、洒落がきいてるのはお前だけど…よくそんなこと思えたね!?意外にちょっと上手いって思ったよ!?

 

 ただ、俺は少女に何も返す言葉はなく、その”希望のロウソク”の炎を見つめた――――。

 

 

 

  ◆

 

 

 トールがロウソクの炎を見つめ始めた瞬間、トールの瞳から生気が抜け落ちたように光を失った。

 まるで物言わぬ亡骸を連想されるかのような生気のない横顔を見て、エルリーンの心臓は何かに押さえつけられ握り潰されているかのような痛みを感じて、呼吸さえも上手く出来ない様子だった。

 

 (どう、いう…こと?と、トールさん…?トールさん、トールさんトールさんトールさん!?何で何…?一体、何を…したんですか…!?う、嘘よ、そん、な。大丈夫よ…大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫ッ!!!!!!トールさんは、守ってって言ったんです!!これは、きっと、必要なことで、トールさんが…いなく、なるわけ、ない!!!!だから、私!!信じなさい!!!)

 

 「はぁ?…ねぇちょっと、もしかして…死んじゃった?こいつ…意味わかんないんだけど」

 「トールさんが死ぬわけありません!!」

 

 少女の前にロウソクを見つめたまま、本当に死んでいるようにさえ見えるトールの姿に当然とも思える疑問を口にする。その言葉に噛み付くようにエルリーンは珍しく怒気を込めて叫ぶ。

 

 「死ぬわけがない、ねぇ。そんなこと無いわよ…人は簡単に死ぬのよ?知ってた?ま、別に自分語りなんてしないけどね。…で?私はどうすればいいわけ?そのまるで死んでるような奴を攻撃すればいいの?…言ったわよね、私、そんなに暇じゃないってね…アイスダガーッ!!!」

 「――――ッ!!」

 

 少女の唱えた魔法により氷で出来た鋭い刃がトール目掛けて射出される、だが、エルリーンが番え放った矢によって目標に届く前に粉々に撃ち落とされた。

 

 「―――まじ?撃ち出された魔法を射抜くって、聞いたことも無いわよ…頭のおかしい連中ね」

 「…今の私、射抜けないものなんて無いくらい集中力が凄いんですよ」

 

 エルリーンはトールへの愛故に己の才能、能力さえも限界を超えて使用していた。ジリジリと脳が焼け付くのではないかと思うほどにエルリーンはその視界全ての動きを目で捉え、少女に向けての二の矢を番えた。

 

 「だからさー、私は…幾らでも、追加できるんだけどねー?話、聞いてた?サモンモンスター!サモンモンスター!!サモンモンスター!!」

 

 少女の周りに新たなスケルトンガードが6体、音もなく忽然と現れる。

 にんまりとした少女の表情を見据えながらもエルリーンは背中を伝う冷や汗を拭うことすら出来ない。次の行動が自分でも選択しかねる状況、どうすればいいのか、考えても考えてもどうしても最適解は出てきそうにもなかった。

 

 「ふふ、あははははは。本当に馬鹿だよねー!?アンタには勝ち目なんて最初から無いの!私を攻撃すればこいつらがアンタを襲うわよ?そしたらこいつらの相手をしながらそこのウィザードを守れる?…私はね、一言…そこのウィザードを攻撃しろって命令するだけでいい。ねぇ、この圧倒的な状況分かってる?ふふ、あはははははは―――――」

 

 

 「――――いや、そもそも前提が間違ってるぞ…」

 

 「は…?」

 「トールさん…♪」

 

 エルリーンは絶望的な状況下で耳朶を擽る愛しい人の甘い声に震える。ゾクゾクと身体を愛撫されるかのような愉悦にも似た感覚に自然とその名を呼ぶ声も甘い響きを持っていた。

 

 「エルリーンは俺が行動出来るようになるまで守りきれれば勝ちなんだよ、初めからお前を倒す必要など一切なかったわけだが?」

 「で…?じゃあ私をどうこうすることなんて――――ぇ!?何!?アンタ一体何したの!?え?ちょ、いや…めっちゃ美人になってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?いや、何!?え?アンタ自分磨きでもするアイテムでも使ったわけ!?意味わかんない!!はぁ!?え?この状況で『もっと可愛くなっちゃうぞ☆』みたいなことしてたわけ!?」

 

 

 

 ➤➤➤

 

 

 そんなわけないでしょー!?というかほんとにこの少女、色んな意味で凄いな!?

 

 ”希望のロウソク”。俺がインベントリーから取り出し使用したこのアイテムはトッピングアイテムというもので、所謂、課金アイテムだ。その効果は、キャラクターの初期ステータスボーナスポイント、レベルアップにより獲得したボーナスポイントを再振り分け出来るという代物だった。

 

 再振り分け配分は魅力に極振り。そのせいで美人に見えるのかも知れないな…。

 ただ、少女の言ってるような『もっと可愛くなっちゃうぞ☆』では決して無い。当たり前だ。

 

 そう、これはこの少女に絶対的な力の差をその脳裏に恐怖という形で刻みつけるために必要なものだった。今から俺も少女と同じ魔法を使う。だがそれは、スケルトンガードなどというモンスターなどが召喚されるわけではない。

 

 俺は、頭の中のUIを操作し、装備を変更する。

 一応必要魅力値は満たしているはずだけど…久我さん呼び出すのは久し振り過ぎて忘れてるかも知れないし、魅力装備しとこうかな…?えーっと、漆黒の水晶球、アイリスアミュレット、マンボハットとマンボコート…パイレーツクローク…んで、サモンコントロールリングっと…。

 

 インベントリー上の装備類にEマークが付くのを確認し、俺はエルリーンに振り向いた。

 

 「――――トールさ、ぶっはぁ!!!?」

 「え、エルリーン!!?」

 

 俺がエルリーンの顔を見た瞬間、エルリーンは盛大に鼻血を吹いて倒れ込んだ。

 どど、どうしたんだー!?エルリーン大丈夫なの!?

 

 「どうしたの!?大丈夫か?」

 「らいじょーうれす…と、トールさん…ま、眩しすぎます…な、何て綺麗…」

 「は!?」

 

 え…ステータスの魅力数値ってこんなことになるものなの!?というかどんな風に変わったんだよ!?すっげー気になるよ!?いや、そんなことよりもだ…。

 

 「エルリーン、アイナに伝えてくれ。もうこっちに戻っていいと」

 「はぁい…いってきまぁすぅ~…トールさまぁ…」

 

 様って何!?え、エルリーン…本当に色々と大丈夫なんだろうか…心配だ。

 ふわふわした面持ちでふらりふらりと走っていくエルリーンを見送り、俺は改めて少女へと向き直り、口角を上げて告げる。

 

 「なぁ、お前には分からないだろうけど、今までの行動は全て意味を持っているんだよ」

 「…それで?本当に、面白い連中だってことは嫌というほど理解させてもらったけど?まだこれから何か芸でも披露してくれるのかしら?もう、私はお腹いっぱいよ…そろそろ終わりにしましょう」

 

 俺は少女の呆れ果てたような表情と言葉に頷きを返す。

 

 「同感だ。そろそろ終わりにしようか。お前のその勘違いを正そう」

 「はぁ?」

 「お前は知らなかっただけだ。だからこそ、そんな脆弱な力をまるで神にでもなったかのように振るっていたんだろう?…さぁ、二度と忘れぬよう、その目に焼き付けろ。抗うことすら無意味とその脳裏に刻め。…これが本物、だ」

 

 少女が何かを言う前に、俺は魔法を唱える。少女と同じ、されど、その次元が違うものを。

 

 「サモンモンスター…モンスターセレクト、クーガー」

 

 忽然と現れたのは人の数倍はあろうかという身の丈、漆黒の毛皮に覆われたサーベルタイガーを彷彿させる巨体を持ったモンスター。ぬらりと光る赤い眼光、むき出しの大きな牙、地獄から響くような唸り声…その全てが人に恐怖を刻みつける――――傲慢の塔70階層の支配者クーガー。

 

 「な、あ、な…ぁ…」

 

 目を見開き、漏れ出る声は意味をなしてもいない。少女はただただ目の前の巨大な黒い化物に恐怖した。身体の震えを抑えられず、今にも座り込みそうになる姿の少女。それを横目に俺は静かに口を開く。

 

 「目障りな骨を薙ぎ払え、クーガー」

 

 パン。そんな軽い音と共にスケルトンガードは粉々に吹き飛んだ―――。

 例えプレイヤーの魔法だとしても、サモン同士の戦闘に於いてダメージの減算は行われない。

 故にそれはまるで、よく乾いた細い枯れ枝を踏みつける程度の労力で消し飛んでいく。

 それ程までに召喚したモンスターの格が違いすぎるのだ。

 

 ―――一歩。俺との距離が近付く。

 たったそれだけで、少女の顔色は青ざめ、ガチガチと歯を打ち鳴らす。

 

 ―――一歩。俺が歩みを進めれば、またその黒い獣も追従する。

 少女は何かを、許しを、懺悔を、必死で紡ごうと口を開こうとする。が、漏れ出るのは声にもならない荒い吐息の音だけ。

 

 ―――数歩。俺と少女の距離はもう残っていない。

 俺は少女の顔に自分の顔を付き合わせるように近付け、囁くかのように静かに言葉を吐く。

 

 「お前の魔力はまだまだ残っているんだろう?さぁ、追加注文だ。好きなだけ、呼び出せ…その悉くを喰らいつくそう」

 

 「ひっ…!い、ゃ…ゆるし、…ごめ、ごめんなさ、い…ゆるし、ゆ、るして…ころ、さないで」

 

 涙をぼろぼろと零し、鼻水もよだれも拭うことすら考えにも及ばない。ただ、己の命が目の前のウィザードの指先一つで左右される現実に…少女は絶望した。

 

 「その程度で、その程度の覚悟で、人の命を奪おうとしたのか、お前は…?殺すと口にしたなら殺される覚悟くらいしろ。――――クーガー、もういい……喰らえ」

 「――――――…ッ!!!!!」

 

 最早立っていることすら出来ず、地面に腰を抜かせて震える少女にクーガーはゆっくりと近付き、禍々しい赤い瞳をギラつかせ、その口を開いた。

 生温い獣の吐息が自分の顔を撫で、肩口にぞぶりと喰い込む牙の痛みに少女は白目を剥いて失禁し…意識を手放した――――。

 

 ―――それは、少女の心が確実に折れた証となった。

 

 

 「わぁあ!!もういいもういい久我さん!もーいいよーお疲れ!しっかし久し振りやねーっていっても、ゲームとこの世界じゃ久し振りも何も無いけどさ、あはは」

 『ぐるるるる…』

 

 少女の肩に噛み付いていた久我さんを俺はポンポンと叩いて止めさせた。ちなみに言えばクーガーもサモンであり、この少女がウィザードだと認識されていることでダメージ減算は行われている。

 その証拠に、クーガーの牙には生々しい血の後は見当たらなかった。

 

 「さすがに久我さんの噛みつきで気絶したなら…もうトラウマでしょ…。うー疲れたぁ…これでこの子も悪さしようと思えなくなるといいなぁ…。ともあれ捕縛完了!大成功!やたー!」

 

 

 

 「トーーールーーー!!」

 

 丁度いい塩梅でアイナがこちらへと走ってくる姿が見えた。未だにその後ろにはスケルトンガードをゾロゾロと引き連れていた。

 

 「って!?でっか!?怖ッ!?な、何なのだーその化物はー!?ってうわぁ!?トール!?何だその姿はーーー!?貴様本当にトールなのか!?え!?ちょっと見ないうちに何でどこぞのお姫様みたいになっているのだっ!?ちょ、ちょっと我には理解が追いつかぬぞ!!」

 「あははは、アイナお疲れ様、本当に助かったよ」

 

 俺の傍まで駆けてきたアイナは捲し立てるように困惑しながら喚く。その姿についつい笑ってしまった。そして俺はアイナに労いの言葉をかけて微笑んだ。

 

 「え、う、うむ…と、トール…なのだな?」

 「ああ、そうだ。さてと、クーガー…お掃除の時間だ。あの骨共を蹂躙しろ」

 

 俺の言葉に従い、クーガーはその巨体を揺らし、走ってくる骨の槍兵を正面に捉えて地を蹴った。それは凡そ戦闘とは言えないもので、ただ一方的な破壊行為だけがあった。

 

 「トール様ぁ~~♪」

 「だからエルリーン、様はやめて!?」

 

 アイナに遅れてこちらに駆けてくるエルリーンに、笑いながらもそう応える。

 本当に、二人共ありがとう。無事で良かった―――。

 

 

 こうして、冒険者ギルドを騒がせたネクロマンサー事件は漸く終結を迎えたのだった―――。

 

 ちなみに、ネクロマンサーはボスの名前ではなく、本来の意味の死霊使いといった意味合いで使われていたらしい…紛らわしいね!

 

 




用語やらアイテムやら魔法やら説明するとこ

サモンモンスターーHPとMPを消費してプレイヤーのレベルでモンスターの種類、魅力値でその数を決めて召喚し、2時間使役することが出来るよ!さらには高レベルと特殊条件、つまり魅力値を極振りなどの条件を満たすことで超強いモンスターも召喚可能!ボッチの人もこれで大丈夫!まるでプレイヤーとペアしているような気分になれる強さの久我さんもいるからね!!

ダメージ減算判定ーいつかのアップデートで行われることになったサモン、プレイヤー間のダメージを8分の1にまで引き下げる仕様のこと!何でそんなことが…と思うかもしれないけど色んな事件があったんです!ええ!!

クジャクの霊薬ーMP即回復!!!!!これぞ至高のお薬だー!!本当に不味いのかは不明!

魔力のリンドビオルの加護ー肩たたきスキルにしては無駄にカッコイイ名前。じゃないよー!?リンドビオルストームローブの特殊能力で小説内でも説明した通り、攻撃を受けると一定の確率でMPを20即回復しちゃう超性能!!でもお高いんでしょう…?お高いんです!!!!!!!!!笑っちゃうくらいお高いです。それから、本来は発動ダメージ数値下限があって26以下のダメージでは発動しないよ!!肩たたきじゃダメ!…うーん、26ってどれくらい?ボクサーがボディブローくらった感じのダメージなのかな?よくわかんないね!

希望のロウソクーイッツァ課金アイテム!やっふぅ!これでレベルアップ時に間違ったステータスを振り分けちゃっても安心!!ちょっと高いかもね。割引の時にいっぱい買おう!!

アイスダガーー初級水属性魔法。文字通り鋭い刃を撃ち出す魔法!普通に痛そうだね!

漆黒の水晶球ー魅力をあげるオシャレ武器!攻撃力はないよ!!だってオシャレなんだから!

アイリスアミュレットーSM女王アイリスさんの首飾り。そりゃ魅力も上がる。

マンボハットーきゃわいいマンボラビットちゃんのドロップ装備!ふわふわの帽子であったかそう!これで貴方の魅力もアップ!

マンボコートーきゃわいいマンボラビットちゃんの毛皮を剥ぎ取って作られた…ウソウソ!!多分、嘘!ふわふわ高級そうなコートだよ!高級そうなコートで魅力が上がらないなんてあり得ない!

パイレーツクロークー海賊さんのマント!きっとカッコイイんでしょう!だから魅力もあがるんだね!(見た目はダサい!)

サモンコントロールリングーサモンモンスターで召喚するモンスターを任意で選ぶことが出来るようになる指輪!サモンモンスターを使わない人には何の意味もないから気をつけて!

クーガーー通称久我さん。傲慢の塔70Fのボスモンスター!特殊条件でサモンモンスターでの召喚が可能になるよ!戦闘フィールド上で戦うと地震を起こして他のプレイヤーをびっくりさせることが多々あります!(あぁ、なんだ久我さんか…




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