Kanmusu has Gone to the Rapture -幸福な消失-   作:焼き鳥タレ派

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その地に降り立つ

 

──私はキャサリン・コリンズ博士。これを聞く人はいるのだろうか。

  何もかも終わり。残されたのは私だけ。

 

大英帝国からの最後の通信より

 

 

 

 

 

──エンコードと保存に送受信が追いつかない。

  もう2つもプロセッサがオーバーヒートしたわ。

 

──ケイト、愛してる。そこは危険だ、外に出るんだ。

 

──手伝ってスティーブン、助けが必要なの。ゲートは手動で開けられるわ。

 

──危険なんだよ、外で何が起きているかわかっているのか。

 

──わかっていないのはあなたよ!なんとかなるわ、絶対に上手くいく。

 

──ケイト、人が姿を消しているんだよ。今すぐやめるんだ!

 

──いやよ!手伝ってくれないなら……ひとりでやるわ。

 

──全て僕達の責任だ。君と僕の。

 

──今更“君と僕”なんて言わないで。

 

 

 

 

 

その、大きなゲートの前にたどり着いた。

照りつける夏の日差しを、両脇の広葉樹が遮ってくれる。一歩前に踏み出す。

すると、輝く光の球体が尾を引きながら、導くように視界を飛び回る。

どのみち目的など無い。その光の珠に付いていくようにゲートをくぐる。

眼前に広がるは巨大な軍港。あまりに広くてどこに行けば良いのかわからない。

ちょうどよかった。光の球を追いながら、皆の痕跡を辿るとしよう。

時間はいくらでもあるのだから。

 

まずは光の帯に沿って、西へ進んでみる。子供がいたのだろうか。

小さな敷地にブランコや滑り台といった遊具が設置されている。

その中の、円錐のように、円形の椅子をワイヤーで釣った乗り物に目を引かれた。

少し揺らして乗ってみる。

……そして、少しの間童心に帰って気が済んだら、遊具から降りた。

おや、これはなんだろう。勲章だろうか。

いつの間にか、子供が描いたようなイラストが施されたバッジが手に収まっていた。

 

使い道のわからないそれをしまうと、今度は目の前の大きなホールに向かった。

両開きの扉を開くと、広い廊下が奥まで続き、いくつもの会議室らしき部屋がある。

ドアのひとつに手をかけてみる。ガチャガチャと音を立てるだけで、開かない。

たくさん部屋はあるのに、どれも鍵が掛かっていて、入れない。

最後のドアを試してみると、ノブを回り、今度は開いた。

やはり会議室のようで、楕円形のテーブルに10個ほどの椅子が並べられている。

 

一歩部屋に入った。そこで不思議なものを見る。

光の糸が、内部の粒子を守るように渦を巻いているのだ。渦は二つ。

ちょうどテーブルの両端で向かい合うように存在している。

そのひとつに近づこうとすると、渦と光が収束し、やがて一瞬強く光り、

粒子がまるで人の形のような集まりになった。

すると、粒子のかたまりが、記録を再生するように語り始めた。

 

『山本御大将自らがお越しになるとは光栄です。本日は一体どのようなご用件で?』

 

『大本営の決定を伝えに来た。

君も、大英帝国、フランス、同盟国独逸、ソ連、中国との交信が途絶えたことは

知っていると思う』

 

『はっ。新型の伝染病によって大量の死者が出ていると』

 

『違うのだよ。これは伝染病なのではない。何一つ確証はないのだが、

私は、人智を超えた何かが迫っているのではないかと考えている。

人が触れてはいけない、何かに触れてしまったのだと』

 

『と、おっしゃいますと?』

 

『……いや、すまない。私の勘でしかないのだ。本題に入ろう。

大本営は、“伝染病”らしきものの侵攻を食い止めるため、近畿地方以西の主要都市に、

絨毯爆撃を敢行することを決定した』

 

『なんですって!?正気なのですか!

病原菌を駆除するために、日本の半分を焼き払えと、そうおっしゃるのですか!』

 

『馬鹿げた作戦でしか無いことは私も承知している。

しかし、もう決まってしまったことなのだ。私ひとりの権限で覆せるものではない。

天皇皇后両陛下には、既に北海道に避難して頂いている』

 

『それでは一時しのぎです!米国と一時的に停戦協定を結び、亡命して頂くべきです!』

 

『私も、そのように奏上した。

しかし陛下は、日本国を見捨てて自分だけ逃げることは出来ないと仰られた』

 

『何か、何かできることは無いのですか!?感染者の血液を調べ、血清の製造を……』

 

『残念だが、感染者と呼べる者は皆、消えてしまった。文字通り跡形もなく。

そして、もう一つ伝えるべきことがある』

 

『消えた……?あ、いえ、それは、なんなのでしょう』

 

『深海棲艦が和平を申し出てきた』

 

そして、光の粒子は消えていった。

後には誰も座っていない椅子、テーブル、書類。

そして表紙に鳥のマークが描かれた本だけが。光も、気配も、全てが消えた。

何の気なしにしばらく部屋を眺めていると、光の球が急かすようにぐるぐると回る。

会議室から出る。“多目的ホール”というプレートの張られたドアがあったが、

やはり入ることができなかった。ここでできることはもうないだろう。

廊下を後戻りして、外に出る。

 

ドアを開けて屋外に出ると、景色が一変していた。

あちこちに先程見た光の渦が点在している。ここに生きた者たちの欠片に違いない。

皆は何を想い、去っていったのか。心の断片らしきものを集めてみよう。

そう決めると、ホールから足を踏み出した。それが、短く永い旅の始まりだった。

 

 

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