Kanmusu has Gone to the Rapture -幸福な消失-   作:焼き鳥タレ派

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由良

気高き女性の旅立ちを見届けた後、

また光の球が次の断片へ向けてふわふわと飛び立った。ただそれに付いていく。

堤防から邸宅前に向けて歩いていくと、

例によって広場の真ん中で光の球が動きを止めた。見つけた。心の断片。

ゆっくりと前進を続けて歩み寄ると、断片は収束して光を放ち、

一瞬視界を白で埋めた後、多くの人影を形作った。

一人の大人を大勢の子供らしき人の型が取り巻いている格好だ。その様子をただ見守る。

 

『由良さん、戦艦の人たちが、どこにもいないんです!

みなさんどこにいったんですか?』

 

『大丈夫よ、みんな。皆さんは、少し長い遠征に出ているんです。心配いらないわ』

 

『本当でちよね!?変な病気にかかっちゃったんじゃないでちよね?』

 

『落ち着いて。病原菌はまだずっと遠くにいるわ。だから、落ち着いてね。ね?』

 

『由良さん、怖いよー』

 

『何も怖がらなくていいの。由良が一緒にいるから』

 

『本当に?リベたちきっと助かるよね?』

 

『もちろんじゃない。そのために提督方も頑張ってくださってるんだから』

 

『なら、安心……です』

 

『さぁ、みんな持ち場に戻って。

皆さんがお戻りになるまで由良達が鎮守府を守らなきゃ』

 

『わかった!由良さんの言葉で少し元気が出た。みんな行こう!』

 

そして、大人の人の型を囲んでいた小さな姿が三々五々散っていく。

大人はそれを見送るようにしばらくその場に留まり、

皆の姿が見えなくなってから、そっと呟いた。

 

『……ごめんなさい。もう、だめなの』

 

心の断片はそこで終わった。

大人の姿を形成していた光の糸と粒子が空に舞い、散っていく。

どうやら、由良という女性は、正体のわからない現象が迫っていることに、

気づいていたらしい。

あなたは子供たちにどのような結末をもたらしたのでしょうか。

光の球が次の断片に導く。

 

あまり遠くはなかった。というより、目と鼻の先。

邸宅のドアの前で光の球がふらふらと漂っている。たった十数歩の距離。

あっという間に邸宅に戻ると、ドアを開いて中に入る。

光の球は廊下を進んで、鉄製の扉の前で、ここだよと言いたげに左右に揺れる。

 

その冷たい感覚を覚えさせるドアを開けると、そこは倉庫らしき部屋だった。

雑多な荷物が積まれ、棚には文房具、非常食、救急箱という、

統一感のない物資が置かれていた。その積み上げられた荷物のそばに断片を見つける。

ゆっくり歩いて近づくと、心の断片が物語の続きを見せてくれた。

 

『確かこのあたりにあったはずなんだけど……あ、あったわ!』

 

『ええと、提督からお借りした鍵で、と』

 

『うん、ちょっと古いけど、問題ないわ。みんな気に入ってくれるといいんだけど』

 

『下読みして、少し練習しなきゃ。あ、あ、ええと。まず一枚目はどんな感じ?』

 

ここで断片がほどけて、小さな光の粒となって薄暗い部屋に消えていった。

由良は一体何を見ていたのだろう。ロッカーの中を見ようとしたが、開かない。

少々もどかしい気持ちになるが、きっといつか明らかになるだろう。

彼女の心として残るくらいなのだから。次の断片を追おうかと思ったが……

せっかく入れた部屋なのだ、この部屋を少し見て回ろう。中をうろつく。

 

壁には色あせたカレンダーや、

やはり何と書いてあるのかわからない注意書きらしきもの。

あとは、はじめに見た通りの各種物資。最後に残ったのは……隅の小さな本棚。

読めはしないが、色とりどりの背表紙を見ているだけで楽しい。

 

倒れている本の中に、またいつもの表紙に鳥のマークが描かれた本を見つけた。

やはり作者もタイトルもわからない。

興味は尽きないが、読むことはおろか、触れることもできない。

その代わりなのかどうか、また手の中にバッジ。この鳥の本が描かれたもの。

これで我慢してね、ということなのだろうか。

 

世界が見せてくれないなら、できることは何もない。

仕方なく、それを他のバッジの仲間に入れると、心の断片を探しに戻った。

さあ、光の球。彼女は何をしようとしているのかな。案内を頼むよ。

 

光の球は部屋から出て、邸宅の出口に向かった。後を追い、ドアを開けてやると、

そいつ自身も楽しみにしているかのように、断片を求めてまっすぐに飛び続ける。

今度の心の断片も近くだった。場所は一つ目と同じ広場の中央。わかってるよ、今行く。

断片に近づくと、それが光を放ち、見慣れた光景が広がった。

 

『由良さん、本当!?』

 

『ええ、みんなに楽しいものを見せてあげる。

最近は変な噂ばかりで、気分も良くないでしょう?たまには楽しいこともなくちゃね』

 

最初の断片と同じく、大人の姿を大勢の子供と思しき姿が囲んでいる。

 

『ねえ、いつやるの?楽しみでち!』

 

『あの、電も……早く見たいです』

 

『私は!そんな子供みたいなもの興味ないけど……

みんなが見たいって言うなら付き合う、わよ?』

 

『早く見たいなあ!日本のストーリーテリング!』

 

『じゃあ、みんな。30分後に第六倉庫にある防空壕に集合ね』

 

『防空壕?どうしてそんなところでやるんですか?』

 

『う~ん、なんていうか、ここにいるみんなだけでこっそり開く、

秘密のパーティーって感じにした方が面白いと思わない?』

 

『あっ、それ楽しそう!なんだかワクワクする!』

 

『決まりね。じゃあ、私は準備があるから一度解散しましょう。防空壕で、またね』

 

『はーい!』

 

そして、子供の姿は去っていく。

皆がいなくなり、一人残された由良が遠い目で海を眺めながら独り言をこぼした。

 

『……間に合うと、いいのだけど』

 

そこで彼女を形作る光の線と粒子が散り散りになり、消え去った。

由良は何をしようとしているのだろう。きっと次の心の断片はその防空壕にある。

そうだよ。光の球がそう告げるように倉庫区画へ移動する。

 

赤レンガの倉庫へと飛び去るが、ただ一歩ずつ歩くだけだ。

走らない、急がない、ただそれだけを旅の決まりにしている。

別に世界にそうしろと告げられたわけじゃない。

ただ、がっつくように続きを求めることに意味を感じないだけだ。

 

確か6番目の倉庫にある防空壕で何かをするらしい。

幸い倉庫には番号がペイントされていて探すのに苦労はしなかった。

数字なら読める。読むことを許してもらっている、というべきかもしれないが。

とにかく、光の球と共に6番の倉庫に入った。

やはり木製のパレットに積まれた資材が整列されている。防空壕はどこだろう。

すると、光の球が倉庫の奥でぐるぐると回りだした。

 

そこには、地下に通じるハッチがあった。少し重いコンクリート製の蓋を開ける。

すると、中に入るための鉄製のハシゴがあった。

ハシゴを下りると、これまた四方をコンクリートで固められた、

丈夫そうな防空壕が広がっていた。

内部はかなり広く、子供たちが集まってもまだ余裕がある。

その隅に心の断片が浮かんでいた。由良の心に歩み寄ると、断片は収束を起こし、

ひとつの点になると、パッと光を放って景色を一変させた。

 

由良と思われる大人の姿の前に、大勢の子供たちが座っている。

彼女が用意した何かを待ちきれないように、ガヤガヤと声を立てる。

そして、彼女が倉庫で見つけた何かと思われる物を背の低い棚に立てた。

残念ながら、粒子の固まりでしかないそれがなんなのか、やはりわからない。

由良が皆に呼びかけた。

 

『さあ、皆さんお待ちかね。紙芝居がはじまります。みんな揃いましたか?』

 

『はーい!』

 

『それでは』

 

由良はオホンとひとつ咳払いをすると、声色を変えて語り始めた。

 

『黄金バット“悪魔が狙うは無限の力”。はじまりはじまり~』

 

子供たちがパチパチと小さな手で拍手する。

彼女がやろうとしているのは紙芝居というのか。芝居がかった口調で彼女は続ける。

 

『天才科学者のオノデラ博士が、

ついに無限にエネルギーを生み出すエンジンを発明した!』

 

『やった、これで人類は地球から石油がなくなることに怯えなくて済むぞ』

 

『喜ぶ博士。しかし、そんな彼に邪悪な影が忍び寄る!』

 

『ロンブロゾ~……オノデラ博士、新型エンジンの設計図は渡してもらうぞ!』

 

『誰だね君は!このエンジンは平和利用するために作ったのだ!

君のようなものに渡すわけにはいかない!』

 

『渡さないというなら力ずくで奪うまで!見よ、俺の開発した超巨大戦車を!』

 

『なんと恐ろしい姿!大砲を40門備えた巨大戦車が窓の外からこちらを狙っている!』

 

紙芝居というものは、ナレーションと登場人物の台詞を全て一人で語る劇なのか。

彼女の演技にも熱が入る。しかし。

 

『なんだあれは!あれで一体何をする気だ!』

 

『博士が設計図を渡さないなら、あれで東京を火の海にしてやる!さあ、どうする!』

 

『くそ、私は一体どうすればいいのだ!』

 

『窮地に陥るオノデラ博士。だがその時!不敵な笑い声が夜空に響く!』

 

子供向けとは言え面白い。次の展開が気になって聴き入ってしまった。

だが気がつくと、防空壕一杯にいた観客の固まりに隙間ができている。

 

『フハハハハハ……』

 

『むっ、その声は!』

 

『そこに現れたのは、黄金色に輝く身体を赤いマントに包んだ謎の影!』

 

『怪人ナゾー!お前の思い通りには行かないぞ!博士も設計図もお前には渡さない!』

 

『おのれまたしても黄金バット!超戦車ジャガーノートよ、奴を粉々にしてしまえ!』

 

正義の味方と怪人ロボットの激しい戦いが始まった。

子供たちが笑顔を浮かべて盛り上がる。

だが、その目に浮かぶ涙を抑えられない者が現れ始めた。皆、気づき始めたのだろう。

 

『戦車の40門砲が火を噴いた!

しかし黄金バットはマントの力で空を飛び、ヒラリと避ける』

 

『くらえ、シルバーバトン!』

 

『黄金バットは自慢の武器を振り下ろす!戦車の大砲が次々と叩き壊されていく!』

 

『おのれ、大砲が全て壊されてしまったではないか!

ジャガーノート、かくなる上は奴を道連れに自爆するのだ!』

 

『黄金バット、絶体絶命の大ピンチ。戦車は動きを止めて秒読みを開始した!

どうするどうなる、黄金バット!』

 

皆、すすり泣きながら紙芝居を見つめている。もう、子供たちの姿もまばらだ。

黄金バット、せめて、どうか最後まで皆のヒーローでいておくれ。

 

『なんの!こんなもので私は倒せない!』

 

『すると黄金バットは、爆発寸前の戦車を持ち上げ、再び空を飛んで、

マッハの力で彼方の海へあっという間にすっ飛んだ。

そして戦車を深い海へと投げ捨てた!』

 

『ドゴオオン!すると、海の中で戦車が大爆発し、再び地球に平和が戻った』

 

『今に見ておれ黄金バット!俺は必ず宇宙を支配する!』

 

『ナゾーは逃げていく。

危ないところを助けられたオノデラ博士は、黄金バットにお礼を言った』

 

『ありがとうございます。おかげで私も新型エンジンも助かりました。あなたは一体?』

 

『私の名は黄金バット。地球の平和は私が守る!では、さらばだ!フハハハハハ!』

 

『彼は高笑いを上げて何処かへ飛び去っていった。

頑張れ黄金バット、ぼくらの地球を守ってくれ!……おしまい』

 

パチパチ……

 

残っていたのは、たったひとりだった。

由良は物語の終わりを告げると、涙を拭い続けるその子に近づき、そっと抱きしめた。

 

『由良さん……みんな、行っちゃったよぅ……』

 

『大丈夫、みんな、先に遠征に出ただけなのよ。とても素敵なところへ、ね。ね?』

 

『僕、消えたくないよ……』

 

『泣かないで。由良たち、きっとまた逢える。心配しないで。

ずっとこうしててあげるから』

 

『由良さん……』

 

抱きしめ合う二人の姿が薄くなっていく。

光の糸が一本、また一本と舞い上がり、光の粒子が分裂と消失を繰り返す。

 

『ずっと、こうしてて』

 

『大丈夫、ずっと一緒だから。少しの間、お昼寝しましょう』

 

由良の姿が間もなく消え行く。ひとり残った子供の頭をなでながら。

 

『ね?……ね……』

 

次の瞬間には、二人の姿は消えてなくなっていた。

子供たちを、捉えようのない不安から救おうと、

最後まで母のような愛を注ぎ続けた由良。

自らも脅威に晒されながら、子供たちのために恐怖と戦い続けた、

勇気と愛に敬意を表します。決してあなたの物語を忘れることはありません。

ひんやりとした空気に満たされた防空壕にはもうなにもない。

鉄のハシゴを上ると、次の断片を求める旅に戻った。

 

 

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