Kanmusu has Gone to the Rapture -幸福な消失-   作:焼き鳥タレ派

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大和

桟橋を渡って陸に戻ると、光の球が迷うことなく白い邸宅を目指して飛び立った。

立ち並ぶ庭石を縫い、芝生を撫でながらそこを目指す。

邸宅の玄関に行き着くと、そこで止まった。

なんだか寂しそうに、ただそこに浮かんでいる。今、開けてやるから。

やはり立派なドアを開けると、見覚えのある玄関ホール。すいっと中に入る光の球。

 

中に入ると、光の球が階段の上を進んで2階へ上がったので、ついていこうとしたら、

奇妙な現象が起きた。

ホール隅に並んだ公衆電話の一つが、ジリリリと呼び出し音を鳴らしている。

公衆電話に電話がかかってくることがあるのだろうか。少し迷ったが、受話器を上げた。

まさか電話が爆発するわけでもないだろう。二人の人物の会話が聞こえてきた。

 

 

──でもどうしてそこにいるの?なぜ家から電話しないの?

 

──説明しづらい、「それ」を追って移動してるんだ。

  「それ」は宿主を見つけて増殖を……

  すまない、混乱していて……

 

──インフルエンザと隔離のことはラジオで聞いたけどこんなことは……

  あなたは医者でもないのに、なんだかすごく気味が悪いわ。

 

──まだなんなのかは分からないけど、この前の晩に関係があるはずだ。

 

──スティーブン、その顔の痕、もしかして感染しているの?

 

──病気じゃないんだ、リジー。別のものだよ。

  ケイトがパターンについて何か言ってたが、まだ正確に把握できていない。

 

──ねえ、うちに来てお昼を食べてちゃんと話をしましょう。ケイトとは話したの?

 

──観測所に閉じこもっている。データに埋もれているよ。

  でも「それ」はすでにここにいるんだ 適応方法を明かさないと。

 

──何のこと適応って?スティーブン、ちゃんと説明……(ノイズ)

 

──時間だ!リジー、いいか。準備しておくんだ。行かなきゃ。また移動してる。

  あとで電話するよ。

 

 

リジーとスティーブンという人物の会話だった。

情報が断片的で、正確なことはわからないが、

恐らくスティーブンが口にしている「それ」が世界に広まった伝染病、

らしいものと考えて間違いないだろう。

そして、「それ」は生物のように生物に寄生して増殖する性質を持っているようだ。

この基地の住人を飲み込んでいった存在が、「それ」なのだろう。

しかし、その正体については何もわからない。もっと情報が必要だ。

今は心の断片を追おう。

 

階段を上ると、光の球は提督の部屋の前で待ってくれていた。ドアを開く。

すると、部屋の中央に断片が。さっそく触れてみよう。

教えてください。あなたは誰ですか。

断片が収束すると、デスクに座る提督と思われる人物、

そして両脇に大きな何かを背負った背の高い人影が現れた。

 

『提督、お願いがあって参りました』

 

『大和君じゃないか。改まって、何かね?』

 

『お願いします、大和に完成した新型三式弾をください』

 

『……今更そんなものを、何に使う気だい』

 

『大和の、本懐を成し遂げる為です!』

 

『君のやろうとしていることは、大体察しが付く。そんな事を認めるわけには行かない。

先の戦争で何も学ばなかったのか!』

 

『違います!これは決して特攻などではありません!

しかし、大和はこうして生きています。身体も動きます!

なのに、やるべき事をやり残したまま、残された日々をただ安穏と貪っていては、

かつてわたくしに乗って死んでいった方々に申し訳が立たないのです!』

 

『だからと言って、航空機の援護もなく、たった一人で、

艦娘すら消滅させる正体不明の病原菌とどう戦うつもりなのだ!』

 

『46cm砲の対空砲火で少しでも熱消毒できるはずです。

大和が時間を稼ぎますので、後のことは、提督の采配にお任せします……』

 

『それが特攻なのだと言っている!そんな無謀な作戦、私は承服しない!』

 

『提督は、大和に皆を守るなと仰るのですか!?

戦う術があるのに、指をくわえて見ていろと!』

 

『もう手遅れなんだよ……行方不明者が現れ始めている。

我々に時間など、もうないんだ』

 

『それでも、大和は諦めません。それが、大和の存在理由なんです!

お願いします、もう一度大和を、生きさせてください!』

 

『……』

 

その時、デスクに着いていた人影がため息をついてゆっくり立ち上がり、窓際に立った。

 

『……明石君には、連絡を入れておく。工廠に行くといい』

 

『ありがとうございます!』

 

すると、大きな人影が一礼して急ぎ足で退室していった。

同時に、窓際にいた提督も、その姿を形作っていた光の線がほどけ、粒子が舞い散り、

消え去った。提督の姿は何度も見た。

今度の物語は、大和という女性のものだろう。

一度調べたことのある部屋を出ていこうとすると、また電話が鳴った。

デスクの上に置いてある。受話器を上げると、

先程聞いたスティーブンという人物の声が聞こえてきた。

 

 

──僕は、事態を正そうとしている。自分を隔離して変電所の古い貯蔵庫にいる。

  生きているならこの回線に……繋げておいてくれ。1時間おきに確認するよ。

  ガスを使うよう説得した。それ以外道がなかったんだ。みんなを守れなかった。

  「それ」は僕達の中にもいるんだ。僕は……攻撃が終わった後の用意を済ませた。

  役目を果たしてからのね。君も考えておいて。すまなかった。何もかもすまない。

 

 

やはり、いつか聞いた通り、「それ」の駆除に毒ガスが使われたのは事実のようだ。

スティーブンが言うには、病原菌とみなされていた存在は、

寄生虫のように人間の体内に侵入するらしい。

そして、彼らは「それ」ごと毒ガスで焼かれてしまった。

 

それでも世界を侵食し、日本にまで到達したということは、

作戦は失敗したということになる。

悲劇的な事実を耳にしても、やはりただの観察者にできることはなにもなかった。

もう行こう。心の断片を追うんだ。

 

彼女は工廠に行くと言っていた。つまり工場のようなところ。あそこしかない。

光の球と一緒に階段を下りて外に出る。コンクリートの道を少し南に歩き、

船体や砲身が吊られている工場に入る。すると、作業台のそばに心の断片。

 

そう言えば、光の球の案内なしで断片にたどり着いたのは初めてだな。

大分ここに慣れてきたということなのかな。

どうでもいいことを考えつつ、断片に秘められた記憶を開放する。

まばゆい光の後に残ったのは2人の姿。さっきの大きな人影と、成人の姿。

 

『明石さん。新型三式弾を受け取りに来ました』

 

『うん、今提督から電話があったよ。でもさ……やめようよ、やっぱり』

 

しかし、大きな姿は首を振る。

 

『例え状況がどうあろうと、大和には成すべきことが残されているんです。

それには明石さんの武器が必要。お願いです。あなたの力を、大和にください』

 

『絶対……絶対帰って来てね!』

 

成人の人影が、大きな姿に何かを手渡す動きをした。

その時、いくつもの人影が工場に入って来た。

 

『少し待て。その三式弾だが、私にもくれないか』

『あ、日向だけじゃなくて、私らもね~』

 

『伊勢さん、日向さんまで……』

 

『うむ。当鎮守府所属の戦艦は、全て揃っている。大和一人で行かせはいない』

 

『長門さん。……駄目です、こんな無謀な作戦に付き合うなんて!』

 

『お前は勝算の無い戦いに命を投げ出すつもりだったのか?

それは提督に対する裏切りだぞ。

彼が教えてくれなければ、お前の暴走を見過ごすところだった。

まったく、このじゃじゃ馬め。大和撫子が聞いて呆れる』

 

『皆さん……本当にすみません!』

 

『そうじゃなくてさ~こういう時は、

“すみません”じゃなくて、“ありがとう”、でしょ?』

 

『ぐすっ…そうですね。皆さん、本当に、ありがとうございます!』

 

『そうそう、それでいいの。それじゃあ、明石。三式弾よろしく~』

 

『はい、喜んで!

作ったはいいけど、使う機会なんてなかったんで、無駄に数はありますから!』

 

明石と思われる人物が奥に走り、光の箱を見えない何かに乗せて引っ張ってきた。

そして、蓋を開けて中身を全員に配り始めた。

何かが皆に行き渡ると、全員がお互いに目線を合わせた。

 

『さあ、大和。お前が狼煙を上げろ!必ず勝つための戦いに相応しい開戦の合図だ』

 

『はい!……では、第二次決号作戦、ここに発動します!

各艦、総力を上げて国土を防衛し、侵略者を駆逐せよ!』

 

“応!!”

 

全員が拳を振り上げ、勇ましい声を上げると、同時にその姿が消えてなくなった。

皆、姿すらわからない敵との戦いに赴いたのだ。

彼女達の勇気に敬意を表しながら、工場から立ち去ろうとした。

その時、壁掛け式の電話が呼び出し音を立てた。

ひょっとして、提督からの連絡だろうか。確認する必要がある。

受話器を上げると、言い争う二人の声が聞こえてきた。

知らない声の男性とスティーブンだ。

 

 

──電話は禁止されているだろう!

 

──今更知ったことか。

  通信遮断を迂回する方法をみつけたみたいだ。

 

──何?

 

──想定外だよ。ケイトは「それ」の適応能力の高さも賢さも知ってた。

 

──おいおい、まるで生きているみたいに話すなよ。

 

──ここにいる全員が感染していると考えるべきだ。

 

──それはわからないだろ……

 

──感染しているんだよ!

  鳥を全部殺して人間に感染し、なんとかこの谷を出ようとしている。

  隔離だけじゃ足りない。キャリアを排除しなきゃだめなんだ。

  エネルギー源を排除するんだよ。

 

──その話はしただろ。空爆を要請するつもりは……

 

──するんだ。僕らが気づいたと知って全速力で広がりつづけるぞ。

 

──隔離と通信遮断で食い止められるだろう。

  電話回線も遮断したから、外部と連絡が取れるのはお前だけだ。

 

──聞こえてたのか?回避方法を見つけたんだよ!ラジオの電波か何かだ……

  すべての回線を遮断したはずなのに電話は生きている。

  ……正しい対策は取ったが、十分じゃなかった。また適応する前に止めなければ。

 

──スティーブン。私の……私の家族が、妻と子供が……

 

──何をすべきかわかっているだろう。

 

──無理だ、そんなことできない!

  お前は死刑執行をくだせといっているんだぞ、自分の家族に。

 

──そんなこと僕だってわかっているさ!

  僕だって爆撃のときはここにいるつもりだ!

  自己犠牲について僕に説教するつもりか、この意気地なしが!

  お前に考えがあるっていうならここに来てなんとかしてくれ!

  もう僕らに……選択肢はないと伝えるんだ。

  やれと言え。今すぐに伝えるんだ。

 

 

きっとガス攻撃前の会話だと思われるが、一体どういうことなのだろう。

病原菌は生物だけでなく、電話回線やラジオの電波まで媒介して感染するというのか。

そもそも、「それ」は本当にウィルスだったのだろうか。

 

噂だけが独り歩きした結果で、山本大将が述べていたように、

人智を超えた何かだったのではないか。空恐ろしい気配が心を支配する。

出発しよう。恐怖から逃げるように工場を後にした。

 

光の球と工場から出ると、コンクリートの道を南へ。この分だと行き先は。

予想通り、光の球は海に沿って飛び続ける。

やがて表面のゴツゴツした海岸沿いの堤防にたどり着く。

堤防から砂浜を眺めると、真ん中に心の断片。

 

もしかしたら、これが最後の断片になるかもしれない。

一歩ずつ階段を下り、断片のそばに近づく。

光の線と粒子が収束し、日の沈みかけた薄暗い海岸を一瞬明るく照らす。

光が止むと、そこには多くの人影が。皆、大和のように大きな何かを背負っている。

 

『ウォースパイトさんと鳳翔さんが消息を絶ったのはここです!

きっとこの辺りから病原菌が流れ込んでいるんです!』

 

『ああ。これだけの人数で三式弾を放てば、

せめて空気感染を遅らせることくらいはできるだろう』

 

『そうね。ありったけの弾ぶっ放してやりましょう!』

 

『うむ。今こそ戦艦たる我々の矜持が試されている。頼んだぞ、大和』

 

『それじゃあ、皆さん。始めましょう。

その前に、危険を感じたら即時撤退すると約束してください。

これは、特攻作戦ではないのですから』

 

『そんなのわかってるって。もっとさ、パーッと盛り上がるような号令掛けてよ』

 

『そうですね……では。各員、全砲門開け!目標、敵性生物兵器!』

 

全ての人影が背負った大きな何かを空に向ける。

 

『撃ちー方始めー!!』

 

同時に、何も聞こえないのに、猛烈な波動が絶え間なく押し寄せてきた。

それは止まることなく、ずっとずっと続いていく。空を撃っているのだろう。

だとすると、皆が背負っているのは大砲か何かだということになる。

あいにく、輪郭が大きくぼやける心の断片から、その形を判別することはできないが。

それでも彼女達は戦い続ける。

 

『撃ち続けて!空を焼いて侵攻を食い止めるの!』

 

『こんなに激しい砲撃戦は久しぶりだな!』

 

『事務仕事ばかりで身体が鈍っていないか心配だったが、

私も41cm砲も捨てたものではないな!』

 

『絶対病原菌を押し返して、提督から指輪をもらうデース!』

 

そして、時が訪れる。

炸裂する数トンに及ぶ三式弾をものともせず、光の波が空の彼方からやってきた。

 

『来たわ!みんな、絶対ここを守りきりましょう!』

 

『あれが病原菌?なんだか想像してたのと違うんだけど!』

 

『構うな!あれが皆を消し去ったのだ!総員で焼き払うぞ!』

 

尚も攻撃を止めない彼女達だが、

やがて、一人そしてまた一人と異変を訴える者が現れる。

 

『ねえ……あれって、本当に私達を殺しに来たの?』

 

『聞こえる。みんな、あの中にいる。あれは、私達を迎えに来たのよ……』

 

『何を言っているのだ!攻撃の手を緩めるな!』

 

『だって、あの中に、みんなが……』

 

『駄目だ、お前は撤退しろ!敵に惑わされて……待て、確かに、呼びかけているぞ』

 

『皆さん下がってください!光の影響を受けているんです!ここは私が引き受けます!』

 

大和が叫ぶ。最前列の彼女は「それ」の影響を強く受けているはずだが、

やはり攻撃をやめようとしない。

しかし皆は既にその場に立ち尽くし、ただ光の奔流を見つめるだけだ。

 

『帰ってください!みんなを、返してください!

私達は、まだ一緒になりたくなんかないんです!』

 

彼女の叫びとともに、意識に響いてくる波動。大和は戦い続ける。

 

『みんな、まだまだ別個の存在で居たいんです!

お互いに触れ合ったり、言葉を交わしたり、手を取り合って生きていたいんです!

ひとつになったら何も出来なくなるじゃないですか!』

 

迫り来る「それ」に訴え続ける大和。だが、彼女も何かに気づいたらしい。

 

『えっ……みんなも、いるの?声が聞こえる!来てくれたの!?

また、巡り会えるなんて……!そうよ、大和よ!みんなが生きた証!

生まれ変わることができたのよ!』

 

ついに大和も攻撃をやめ、胸の前で両手を握り、「それ」に身を委ねる。

 

『温かい。みんな、おかえり。ただいま……』

 

そして、光の線が構成する波が彼女達を飲み込むと、砂浜には誰もいなくなった。

戦いの後に残る静けさ。

ただの心の断片でさえ、その激しさを垣間見ることができたのだから、

当時の彼女達の戦いは熾烈を極めたことだろう。自らの使命を全うし、

最後に真実を掴んだあなたの燃えるような魂には敬服するばかりです。

 

もう日が沈んだ。太陽は水平線に隠れてしまった。

彼方で照らされる空の色が、わずかな光をもたらすだけだ。戻らなければ。

おや、光の球がいない。どこに行ってしまったのだろう。出てきておくれ。

お前がいなければ、どこに行けばいいのかわからない。一旦邸宅の前に戻ろう。

階段を上ると、暗がりで見えなかったが、段差に何かが置かれている。ラジオだ。

スイッチを押してみる。

 

 

──私はキャサリン・コリンズ。

  これを後世に残します。

  すべて終わった。

  私も直にいなくなるだろうか。

  あの飛行機が落としたもののせいで肺が焼け付きそう。

  多分神経ガスだろう。

  パターンに接触したことでここまで生き残れたに違いない。

  これから6号塔に向かい、光学アレイからの信号を融合させようと思う。

  たどり着けるならば……

 

 

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