チェロとお味噌汁と剣のための三重奏曲   作:おかぴ1129

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3. あなたのためにがんばりたくて

 店舗対抗剣術大会に、鳳翔さんの食堂の代表として出場することになった僕は、当日までチェロの練習時間を半分にし、その分、剣道部で稽古をさせてもらった。

 

「おい普賢院! お前、あの清掃員とやるつもりか!?」

「そうだけど……?」

「ならば我々剣道部、お前への助力はおしまんッ!!」

「へ?」

「あの清掃員に飲まされた煮え湯……我々剣道部員全員がいともたやすく沈められた、あの日の屈辱は忘れん……ッ!!」

 

 とこんな具合で、剣道部員全員が、僕の稽古にやけに協力的だったのが印象的だ。そんなにくやしかったのか……僕なんかは現役時代、負けても『あら負けた』以上の感想なんてなかったけれど。

 

「だが今回の試合は負けられんから稽古に来ているのだろう!?」

「まぁ、そうだけど……」

「つまり、負けられぬ戦いということだろう!?」

 

 負けられないというよりは、鳳翔さんの前で無様な姿を晒したくないから……なんだけどね。そんなこと言ったら、なんだか剣道部員のみんなに怒られそうだ……。

 

 そんなわけで、剣道部全面協力の元、僕は随分と久々に竹刀を握った。おかげさまで、全盛期の半分ぐらいの腕は取り戻せたのではないだろうか……それでも弱いんだけど。からっきしだけど。

 

 ……ぁあそうそう。大会前日、練習室に向かう途中、清掃中のロドニーさんが僕の練習室到着を待ち構えていて……。

 

「貴公ッ! ついに明日、決着の時だな!!」

「はぁ……」

「明日、東海道鎮守府の稽古場で待っているぞ!!」

 

 と啖呵をきられ、軍手を投げつけられた。これはあとで知ったことなのだが、貴族同士では、この『相手に手袋をなげつける』という行為は、相手への決闘の申し込みの意味合いがあるらしい。英国人のロドニーさんらしい僕への宣戦布告なのだが……そもそもなんでそんなに僕にこだわる? ……ああそういやバトルジャンキーだって言ってたっけ。

 

 

 そして運動会当日。久々に防具袋をかつぎ竹刀を持って、僕は東海道鎮守府の門をくぐった。

 

「……普賢院智久さんですか?」

 

 門の前にいた守衛さんが、僕の姿を見るなり声をかける。少々強面の人のため、小心者の僕の心に、少し緊張が走った。

 

「はい」

「……鳳翔さんからお話は聞いています。剣術大会、頑張って下さい」

「……ありがとうございますっ」

 

 ほっ……別に不審人物として止められたわけではなく、身分の確認と激励のためだったか……。守衛さんは強面のまま、僕に向かってサムズアップをしてくれた。

 

「キラーン!」

「うっ……」

「どうされました?」

 

 ニッと笑う守衛さんの白い歯が、お日様の光を反射して眩しかった……。

 

 鎮守府の敷地はとても賑やかだ。ところどころに万国旗が飾られて、艦娘さんたちや深海棲艦さんたち……たくさんの人たちがいたるところで見受けられた。屋台なんかも出てるみたいだ。やきそばのソースが焦げたいい匂いが、僕の鼻に漂ってきた。

 

 そういえば、鎮守府の稽古場なんて行ったことないな……どうしよう。場所が分からない……。案内板みたいなものはないかなと思い、周囲をキョロキョロと見回した時だった。

 

「……ん?」

「……」

 

 ……いつの間にか僕の足元で、僕の足の膝ぐらいまでの背しかない、魚のサメみたいな顔をした深海棲艦さんが立ち尽くしていて、僕のことをじっと見ていた。僕は詳しくないからよくわからないけど、確かこの子は、PT子鬼とかいう子だったような……よく見たら眼帯をしている。ファッションでつけるタイプのものみたいだから、怪我をしているわけではないようだ。

 

「えーと……」

「……」

「こんにちは。僕は普賢院智久っていいます」

「コワイカー」

 

 とりあえず目が合ってるし、この小さい友達に、しゃがんで挨拶をしてみる。するとその子は、『コワイカー』と言いながら両手を上げてバンザイしてくれた。よかった。顔は少々キモいけど、悪い子ではないみたいだ。キモいけど。うん。キモいけど。

 

「ちょっと聞きたいんですけど、稽古場の場所はわかりますか?」

「コワイカ……」

 

 うーん……この子はひょっとしたら、『コワイカ』としか話せなかったりするのかなぁ……だとしたら、案内してもらうのが一番いい気がする。

 

「もしわかるなら、案内してもらっていいですか?」

「コワイカっ!」

 

 僕の提案を飲んでくれたらしい彼は(彼女か?)、元気よくバンザイをしたあと、僕の肩にぴょんと飛び乗り、ちょこんと座った。うん。この子がほんとに稽古場の場所を知ってるかどうかはわからないけれど、とりあえず仲良くはなれたみたい。

 

「コワイカー」

「あっちですか?」

 

 僕の肩の上で、ちっちゃい手でまっすぐ前を指差す彼に従い、僕は稽古場を目指す。途中、今度はこのPT子鬼さんよりもさらにちっちゃい子に出会った。その子は、昔の戦闘機のパイロットみたいな格好をした子で、PT子鬼さんよりも人間らしい、かわいらしい背格好。この子、話に聞く妖精さんかな?

 

「やあこんにちは」

「コワイカー!」

 

 この子たちは友達だったらしく、僕の方に乗ってバンザイするPT子鬼さんの姿を見るなり、僕の身体をよじ登って、僕の頭の上に飛び乗った。うーん……乗ってくるのは構わないんだけど、一言断りが欲しかったかなぁ……まぁいいか。この子も子鬼さんと一緒で、しゃべれないのかもしれないし。

 

「あなたも子鬼さんと一緒に案内してくれるんですか? ありがとう」

「コワイカー」

 

 不思議な友達が二人も出来たことはとてもうれしいけれど、今はそれよりも稽古場だ。PT子鬼さんが指差す方へと、歩を進める。5分ほど歩いたところで、稽古場らしい建物が見えてきた。かなり大きな二階建ての建物で、二階は観客席になってるみたいだ。稽古場というよりは、学校の体育館みたいだね。

 

「あ、天龍2世!! 迷子になったと思って心配したじゃねーかッ!!」

「コワイカー!!」

 

 その入口前。黒のスーツを羽織り、下はスカートを履いた、なんだかガラが悪そうな女の人がいた。その人は僕達三人の姿を見るなりそう声を上げ、僕達に走り寄ってくる。正対して分かったんだけど、この人、子鬼さんと同じ眼帯してる。

 

「まったく……心配かけんなよなー」

「コワイカー」

「わりい。天龍2世と妖精をここまで連れてきてくれてサンキュー」

「いえいえ。僕がお願いして、二人にここまで連れてきてもらったんです。……僕は普賢院智久です」

「おー! お前があの普賢院智久かー! ロドニーと鳳翔さんから話は聞いてるぜ!!」

 

 う……ロドニーさんめ……また何か余計なことを話してるんじゃないだろうな……そして鳳翔さんが僕のことをなんて言っているのか、非常に気になる……

 

「俺の名は天龍……」

「ああ。よろしくです」

「フフ……怖いか?」

「はぁ……」

「コワイカー!」

 

 うん。この天龍さんて人、子鬼さんそっくりだ。なんかよくわかんないけど、そんな気がする。一件強面だけど、妙に可愛らしいところが。

 

 その後は、天龍さんが稽古場の控室まで案内してくれた。なんでも……

 

「鳳翔に、お前の稽古場までの案内を頼まれてたんだ。でもお前の方から来てくれて助かったよ」

「へー……鳳翔さんはお忙しいんですか?」

「アクシデントがあったらしくてさ。みんなへの弁当がまだ出来てないそうだ。お前に『頑張ってください』って言ってたな」

 

 とのことで。鳳翔さんは今、食堂でがんばってお弁当を作っているそうな。鳳翔さんのお弁当……ゴクリ……。

 

 天龍さんに案内された控室で剣道着に着替え、稽古場に入る。

 

「……失礼いたします」

 

 入る前に、頭を下げることは忘れずに。剣道を離れた僕だけど、礼節はキチンとしておかないと。

 

 稽古場では、すでにトーナメント大会の準備は完了しているようで。たくさんの人で賑わっていた。二階の観客席は4つの区画に分かれていて、それぞれ『磨け! ビッグセブンクリーン・一航戦!!』『焼きつくせ! Pizza集積地!!』『太陽のように輝け! 大淀パソコンスクール!!』『今日の夕飯は食堂だ!!』といった、応援の横断幕が掲げられている。わいわいがやがやと賑わっているが、大淀パソコンスクールの一角だけ、妙に年齢層が高いのはどうしてだろう? 「やせぇええん」と騒ぎ立てるえらくキレイな女の子もいるが、その大半はおじいちゃんおばあちゃんだ。

 

 周囲を見回した。見知った後ろ姿を見つけ、僕は声をかける。

 

「赤城さん!」

 

 僕に背中を向けていた赤城さんが振り返った。今日の赤城さんは、いつかの清掃服ではなくて、真っ赤な袴と、同じく赤い胸当てをつけていた。その姿が、とても凛々しい。

 

「ああ、普賢院さん。到着しましたね。場所はすぐわかりましたか?」

「いえ、でもPT子鬼さんと妖精さんに道案内してもらいました」

 

 以前に食堂で合った時と比べ、幾分目が鋭い赤城さん。稽古場の準備はすでに整っているようだ。赤城さんの気迫のせいもあるだろうけれど、心持ち、空気がビリビリと痛い。

 

「赤城さんは出るんですか?」

「私は主審をやりますから試合には出ません。でも代わりにロドニーさんがすさまじく燃えてます。あなたと剣を交えることがよほどうれしいみたいですね」

「うう……」

 

 すみません鳳翔さん……試合に入る前から意気消沈しそうです……。赤城さんにつれられ、貼りだされたトーナメント表の前にきた。

 

「……もしロドニーさんとあたるとすれば、決勝戦ですか」

「『私と戦う前に破れたら、次に大学で会った時に張り倒す!!』って鼻の穴を広げてましたよ?」

「うう……命の危険が……」

 

 ということは、少なくとも一回戦を突破しなければ、僕の命が危ないということか……しかし、僕の一回戦のこの相手、どんな人なんだろう。剣に相当な自信がある人らしいけれど……

 

 

一回戦 ソラール(大淀パソコンスクール) vs 普賢院智久(食堂)

 

二回戦 ロドニー(ビッグセブンクリーン) vs 集積地棲姫(Pizza集積地)

 

決勝戦 一回戦の勝者 vs 二回戦の勝者

 

 

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