かなり小柄な先輩と少々ふくよかな先輩に指示されて講堂に足を踏み入れると、既に多くの同級生らしき奴らが座っていた。でも、やっぱり俺と同じ赤い制服の生徒は数人しかいない。この様子だと、まだ来ていない生徒の中に何人いることやら・・・。すでに漂う嫌な予感を振り払うように頭を振り、俺も早々に自信の指定された席に着くことにした。・・・右の貴族に睨まれたが左の緑の生徒は良い奴だった。
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「――若者よ、世の礎たれ。
”世”という言葉をどう捉えるのか、何をもって”礎”たる資格を持つのか。これからの2年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにしてほしい。
――ワシの方からは以上である」
学院長・・・ヴァンダイクの挨拶はそう言って締めくくられた。
「礎、ねぇ・・・」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、なんでもないさ」
こんな腐りきった世の中じゃ軍人なんざ捨石だろ・・そう思う俺は余程性根が曲がってるんだろうな。少なくとも隣に座るこいつ、アランは何も思わなかったようだし。やっとのことで式が終わると白と緑の生徒は指示に従って各自さっさと移動し始める。アランも心配そうにこっちを見つつ行動を出て行った。
そして俺は、いや俺達はクラス編成について何も聞かされていない。説明書にも一文字も書いてなかった。まぁそういうわけで、必然的に残されたのは俺を含めた赤い制服を着た10人の生徒、そして教官陣だけになる。
・・・俺の見間違いじゃなければここにいる面子の半分は確実に大物なんだが・・・偶然、な訳ないよなぁ。
それに・・・
「はいはーい、赤い制服の子たちは注目~!」
戸惑ってる俺達を見て明らかに楽しんでるあの女。
目が合ったのに気づいて一瞬あの憎たらしい笑みを向けられた。
「君たちにはこれから【特別オリエンテーリング】に参加してもらいます!
全員あたしについてきてね~♪」
おれは、あの女を嫌になるほど知っている。早くもこれからが不安になってきたのは仕方がないと思う。
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人間は脳が目の前の出来事を拒絶すると現実逃避に陥る。
(ほー、こりゃなかなか調査のし甲斐がありそうな建築だな。この奥行きとあの緑眼鏡の馬鹿声の反響の仕方から考えて普通の素材で作ったわけではなさそうだし・・・父上の文献の中に何か参考になる資料あったっけなぁ)
生前の影響か昔から家業の他にも建築技術についてよく勉強していたからここの構造や材質に興味があるのは確かだが、まぁこんな思考に行ってるのは目の前の女のせいだ、十中八九。
元々何かあるとは思ってたが、《特科クラスⅦ組》・・・こりゃ貴族嫌いの知事子息が荒れるのも無理ねーよな。それに四大名門の次男坊もいるし。
「はーいそこまでー。色々あるとは思うけど文句は後で聞かせてもらうわ、そろそろオリエンテーリングを始めないといけないしねー」
あ、これやばいやつ。
にこにこ、つーかにやにや笑う女…サラ・バレスタインに果てしなく嫌な予感がしてじりじりと下がる。と、その瞬間今の今まで踏みしめていた感触が一気に傾き、俺は思わず懐に忍ばせた物を放り投げていた。周囲の生徒が驚きの声と共に下へと落ちていくのを横目に“手元”を手繰り寄せてしっかりと着地する。
目の前の光景には最早呆れしかない。
「…いやいやいや、何で床抜けんだよ」
「フーン、流石《懺刃》だね」
「はっ、《西風の妖精》に褒められるたぁ光栄だな」
感情のあまり読めない声に皮肉交じりに返すとサラからため息が聞こえる。ちなみにこれ、床と天井で会話してるから…まぁこの反応は無理もないか。
「こらあんたたち、さぼるんじゃないわよ。オリエンテーリングにならないでしょーが」
ナイフでワイヤーを切られて落ちていく存在に苦笑いしつつこちらに近づいてくるサラに目を向ける。呆れたように、でも《俺》に向けるには些か優しすぎる視線に少し居心地が悪い。
…仮にも、俺はこいつにとって敵だった筈なんだがなぁ。
「…ヤバい面子だとは思ったが、まさか《妖精》にあんたまでここに居るとはな。明らかに意図がありすぎて笑えねーよ」
「ま、否定はしないわね。でも、ここでは今までのあたしたちじゃなくて、教師と生徒として…あたしは、あんたの敵にはならないから安心しなさい」
ふっと柔らかく笑んだサラにはまだまだ敵わないらしい。
負けを認めるように小さく苦笑がこぼれた俺は、しっかりと初めて彼女に向き合った。
「んじゃ、これからよろしく頼んますわ…サラきょーかん」