親愛なる兄、アーネスト・フェルモード殿。
拝啓、お元気でしょうか。こちらでは散り行くライノが見事な景色を彩っております。
レドガンではもうそろそろ夏摘みに向けての準備をしている頃でしょうか。出立の際にフロラドさんが持たせてくれた春摘み茶も例年に漏れず素晴らしい出来でしたので、バレッタ君も張り切っていることでしょう。今年から収穫に参加出来ないというのがこの学院に入って1番悲しいことですね。ですが、今年の収穫も滞りなく終えることをトリスタの地より心から祈っております。
学院でのクラス分けは・・・あなたなら既にご存知かも知れませんが別紙に一応記載しておきます。我々の立場からしたら、これ程までに厄介で理想的な技術はないのではと考えていますが・・・まだ現段階ではなんとも判断し難い状況です。それに、このクラスの生徒から察するに帝国内の様々な考えがあるようですね。俺としてはあなたとそのご友人が主催なのではと考えているのですが、もし機会があれば考えをお聞きしたいところです。
それと、流石に《妖精》と《紫電》がいるのは想定外でした。まぁ今現在は級友、教師として問題なく過ごしておりますのでそちらも様子を見ようかと考えております。
それと、これは現時点での俺の気持ちなのですが・・・ここでなら、俺なりの答えが見つかる気がします。必ず卒業してレドガンに戻る際答えを出す、そう改めて決意したということを、どうか父上とハグナードさんにお伝えください。
最後に、まだまだお忙しい日々が続いていると思います。どうか兄上もお身体に気をつけてお過ごしください。
シオン・フェルモード。
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トールズに入学して2週間ほどが過ぎた。リィンとあの金髪女子・・・アリサは相変わらずギクシャクしてるし、ユーシスとマキアスは同じ空間にいるだけで空気が殺伐としてくる。まぁ、ユーシスはともかくあの眼鏡は俺も敵視してるから人の事言えないが。
そんなことを考えながらぼんやりとサラ教官の話を聞いてると、なんとも嫌な単語が聞こえてきた。自由行動日はいい、実技テストなんて絶対やな予感しかしねぇだろ。そう思ったのは俺だけなのかクラスの奴らはかなり張り切っている様子、熱いねぇ。
「そういえばシオンは部活には入るのか?」
ふと疑問に思ったのか首を傾げて聞くリィン。どうでもいいがその表情中々あざといぞ、年上キラーはエリオットがもういるだろ。
「あー・・・俺は入らねぇかな、ちょっと事情があってね」
「それってこの前、マキアスが言ってた・・・?」
「おっとストップだ、そこから先はもうちょっと互いを知ってから、な。んじゃ、お先に〜!」
慌てて呼び止める声を華麗に無視して、話を適当に切り上げさっさと教室から退散する。エリオットは特に、気にしてるみたいだしな。
まぁ無理もないか、ろくに説明もしないでいるし。
(にしたってあの眼鏡、確証もないくせに余計な情報をペラペラ喋りやがって・・・)
あの夜、俺が部屋に戻った後どうもマキアスは俺の実家・・・レドガンに纏わる噂をリィン達に話したらしい。(らしいというのはお優しいリィン君がこっそり教えてくれたからだ、お人よしめ。)ため息と共にガシガシと頭をかいて常に身につけているバングルを見やると、ムクゲの花を象った装飾が夕日に反射して美しく輝いた。
レドガンの人間の殆どが持っている・・・《俺達》の証。
「ムクゲ・・・花言葉は信念、か・・・」
俺の、俺なりの信念をこの槿に誓うことが出来るのか。その日が一体いつなのか俺にはまだ分かりそうもない。
『シオン、今少しいいか?渡したいものがあるんだ』
「おお、入っていいぞー」
リィンが部屋に訪ねてきたのはその日の夜だった。聞くとⅦ組の生徒手帳を配って回ってたらしい、ご苦労なことだ。机に置いといてくれと言うと苦笑いして言われた通り机に手帳を置いてくれた。本来なら自分で受け取るべきだろうが、生憎俺の手は絶賛活動中なので触るわけにはいかなかった。大切な相棒を疎かにはできまい。
「サンキュ、他の奴らはもう配り終わったのか?」
「ああ、あとはシオンだけだったんだ。整備中に邪魔してすまない」
「いや、別に平気だよ。取り立てて神経使うわけでもねーし」
銃部分の整備を終えて丁寧に拭き、刃こぼれがないか確かめていると興味深そうなリィンの顔が得物を挟んだ向こう側にあった。近いな、おい。
「オリエンテーリングの時も思ったが・・・不思議な造りだな。フィーの武器と似通った点もあるが扱いはこちらの方が難しそうだ」
「ガンスラッシュって言ってな、あいつと同様に銃と剣が両立した武器さ。こっちはあの双銃剣より大振りで威力が高い分反動がデカい。まぁ、あのレベルの反動を片手で受けるあいつも尋常じゃねーがな」
ほれ、とリィンに持ち手を向けて持たせてみるとなんとも引きつった顔になった。まぁ無理もないか、こいつの太刀とは違い普通のブレード部分にプラスで銃の重量も加算されている。小さい頃からこいつと共にいた俺も初めはまともに構えれすらしなかった。
「恐ろしい武器だな・・・いつからこれを?」
「いつからだったかな・・・それこそ、ガキの頃からずっと使ってたから10年以上経ってんじゃね?」
「そ、そんな前から・・・」
驚いたようすのリィンの中には少し思いつめた表情も混ざっている。疑問なんだろうな、立派な伯爵家の次男坊がこんな明らかにカタギが使うもんじゃない武器を子供の頃から使ってたってことが。
だが、それ以降は何も聞かずにリィンは礼を言って部屋を後にした。
「・・・ったく、お人好しというかなんというか・・・」
思わずため息をついて机に置いたままだった実家へ送る手紙と、古びたロケットを見る。手帳が置かれた時に置きっぱなしだったと気づいたが、それについてもあいつは何も言わなかった。
普通気になるだろうに。
手を拭いて得物を仕舞い、ロケットを手に取ると中には1つの家族の写真が写っている。どこか農園のようなところでガンスラッシュを片手に笑う男、その隣で幸せそうに微笑む女、そして彼らの間で悪戯な笑みを浮かべている・・・幼い少年。彼等3人の装いはとても貴族には見えず、普通に考えて俺との関係性は全く見えてこないだろう。
たとえ“少年に俺の面影があった”としても。
「変な奴だよ・・・なぁ、“親父”」
手に取ったロケットは、どこか温かく感じた。