ただ、燕を斬るために   作:白黒パーカー

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無事に次の話も書けました。
まだ慣れてないのですごい時間がかかって大変です。






第2話 彼女たちとの昼食

「へぇ、俺が寝ている間にそんなことがあったんだ」

 

 昼休みの食堂。

 授業中に睡眠をたっぷりととった俺は二人の少女と食事をしていた。

 

「あんた、また寝てたのね……」

 

 テーブルを挟んで向かい側。椅子に腰かけた少女、フィーベルは呆れながらこちらを見てくる。彼女の目の前にはレッドベリージャムを薄く塗ったスコーンが二つだけ置かれていた。

 

「仕方ないさ、まだ眠かったんだし」

 

 俺は彼女にそう言うと、頼んでいた肉料理を口にする。うん、やっぱりうまい。ここの料理は美味しい上に値段も安いから学生の味方だよね。フィーベルももっと食べればいいのに。

 

「あ、はは……、ジロウ君はいつも通りマイペースだね」

 

 そんな俺を見てもうひとりの少女、ティンジェルは困ったように笑って、声を掛けてくる。最近の彼女はずっとこんな表情しか見ていいない気がする。俺のせいですね、これは。

 

 ちなみに彼女が食べている料理はフィーベルと比べて量もそれなりにあり、バランスがいい。おそらくこれが胸囲という格差を作る原因じゃあないだろうか。

 

「ジロウ、アンタ今、失礼なこと考えてなかったでしょうね?」

「いや、別に何も考えてないぞ。たださ……目の前にある絶望的な格差問題について考えていただけだよ」

 

 そう言ってフィーベルのことを、特に胸の部分を静かに眺める。だがどれだけ見ても変わらない。本当に小さいころから何も変わっていない。ドンマイ、フィーベル。だが女の魅力はそこだけじゃない。人によっちゃ、脚だったり、お尻だったり、もしくは手首に魅力を感じる人だっているのだから。

 ちなみに俺はすらりとした脚の方が好きだ。脚フェチ派である。

 俺の慈悲に満ちた視線を訝しんだフィーベルは、それがどこを指しているのかを知ると、顔を赤くして両腕で胸を隠した。

 

「なっ! あんたどこ見て言ってんのよっ!」

「胸だな」

「あんたもアイツと同じでぶっ飛ばされたいわけ?」

 

 今朝のときよりも鋭い目つきで睨んでくるフィーベル。その隣では言葉には出さないもののティンジェルも顔を赤く染めて、胸を隠していた。だがしかしティンジェル、その行為は自分の巨大なものをさらに強調する悪手でしかない。

 

 だがこれ以上弄るのはダメだな。やり過ぎは身を滅ぼすって言うし。今更な気もするが、2人をなだめようと言葉を紡ぐ。

 

「いや、冗談だから。……おい、フィーベル。その手に持っているフォークを下ろせ」

「嫌よ。これを使って私はあんたを串刺しにしなくちゃいけないの」

 

 どんな使命だよそれは。

 胸を隠していた片方の手でフォークを掴んんだフィーベルを制しながら、先程聞いた話を思い出す。

 話を聞いた限りだとグレン先生は最初の授業でまさかの自主学習をした。その理由はただ眠いから。それからフィーベルのお叱りを受けたらしいが、その後も授業はテキトーに済まされた。さらにダメ押しとばかりに着替え中の女子がいる更衣室に入るという失態。これはまだ学校の構造を知らなかったからこそのトラブルではあるが、そんなこと覗かれた女子にとっては関係のないこと。即刻ギルティ。報いとして女子たちからは制裁を受けて授業は休みになったんだとか。ちなみにその間、俺は寝ていたけど。

 

 そして今、俺はグレン先生の二の舞を踏もうとしていた。ここはなんとかして、制裁を阻止しなくは。

 

「まぁ、落ち着けよフィーベル。確かに俺はお前の胸を見ていたが、そこまで興味はないんだよ」

「…………へー。あんたにとって私は、眼中にないほど女としての魅力がないと? そっかぁ、ジロウ。そんなこと思ってたのね……」

 

 あれ、落ち着かせようとしたのにむしろ逆効果? 

 フィーベルの雰囲気が変わったというか、凍える空気がフィーベルから流れてくる。目もなんか死んだように静かに笑ってるし。隣にいるティンジェルも珍しく、怯えてるのか声も出さない。俺の方を見てどうにかしろ、と目が訴えている。

 これは確実にやばい。もっと違うこと言わないと命にかかわるとオレの心眼(マジ)がささやいている。

 

「い、いや勘違いだぜ。俺は胸よりも……そう、スラリとした脚が好きなんだよ。そう。だから、フィーベルは細い脚で魅力的というか、触ってみたいというか、顔をスリスリしたいというか」

 

 いや、何言ってんだろ、俺。これじゃあただの変態じゃないか。

 やらかしたと感じながらも、表情を変えないようにフィーベルを見ると、顔を俯けてボソボソと何かつぶやいていた。

 

「…………ど、どうしよう。ジロウが私のこと魅力的って言ってた。昔に言われたきり1回も言ってくれなかったのに。というか、私に触れたいなんてそんな破廉恥なこと。……でも、私もジロウのこと触りたいし、なんなら私の身体の隅々までもうめちゃくちゃに……」

「シ、システィ……? 大丈夫?」

「ひゃっ!? ルミア、な、なにっ!」

 

 返事がないからどうしようかと悩んでいると、意を決したのかティンジェルが声を震わせて声をかけると、正気に戻ったらしいフィーベルが可愛い声をあげて飛び跳ねた。

 何があったのか理解していないのか、フィーベルはぼーっとしてたが、しばらくすると顔を赤くしてわちゃわちゃと慌てていた。

 

「ジロウ、もしかして私が言ってたこと、……聞こえた?」

 

 どこか不安そうな顔で俺の顔を覗いてくる。

 

「いや、何も聞こえてないさ。それと悪かったな、変なこと言っちまって」

「別にいいわよ。でも、次言ったらただじゃおかないから」

「ははー、ありがとうございます」

 

 女王様に忠実な臣下のように首を垂れる。その態度に少しは気を許してくれたのか鼻を鳴らしながら、腕を組む。残念ながら胸は全く強調されていなかった。もう言わないけど。とにもかくにももとのフィーベルに戻ってくれたみたいだ。これでティンジェルも一安心。

 

「アンタは普段からそうやって素直にしていれば、少しはマシなのに」

「……お前も人のこと言えないじゃないか、いつもツンツンしてさ」

「なんですってっ!」

「言葉通りの意味だよ」

 

 そしてまたも挑発してしまう。他の奴ならさっきの下りで終わるけど、コイツだと結局喧嘩というか、言い争いになってしまう。いつも通りの日常だ。

 

「ふふっ」

 

 俺とフィーベルで喧嘩が始まるかどうかの直後、突然の笑い声で俺たちは停止する。鷲静かに笑い始めたのはティンジェルである。彼女は赤くしていた顔はすでに落ち着いて、口に手をあてて上品に笑っていた。その行為は単純なのに彼女がやれば気品あるお嬢様のように様になっていた。

 お怒りだったフィーベルもそんな親友の反応に気分ががそがれたのか不思議がっている。先程までの怒りもどこかに消えていた。

 そんなフィーベルと顔を見合わせて頭を傾げると同時にティンジェルに目を向ける。

 視線に気がついた少女は母が子に向けるような優しい微笑みで口を開いた。

 

「二人は仲良しだなぁ、と思っちゃって」

「「それはない(わ)」」

「ほんと仲良しだね。息ぴったり」

 

 彼女は先ほどの暖かい視線に加えて、今度はニヤリとしたような笑みを含ませる。

どこか子どもらしいそのしぐさは彼女にしては珍しく、俺は珍しいと思った。フィーベルもきっと同じことを考えているだろう。ほんと、今日は不思議な日だ。変な教師が来たと思えば、二人の知らない顔も見れた気がする。なんだかもう疲れた。

 そして、落ち着いたと思われたこのスペースに、新たな来客が訪れた。

 

 

「邪魔するぜー」

 

 そんな気だるそうなだが少しばかり喜びがまじった声が聞こえた。横を向けば変人グレン先生がそこにいた。そしてまだ返事をしていないのにもかかわらず、俺の隣に山盛りにのせた料理を置いて椅子に腰かける。

 

 にしてもその料理を全部食べる気でいるのか? フィーベルとは真逆にたくさんの料理があった。

 

「――っ!? あ……あ、貴方は――!」

「違います、人違いです」

 

 フィーベルの言葉に華麗にスルーを決め込むグレン先生。よくもまぁ下着を見てしまった生徒の前に平然と出ることができるのか。そのメンタル、少し見習いたいかも。

 

 これまでの態度を考えると最低な人にしか見えないはずだ。実際その通りでしかない行動ばかり。ただそこまで悪い人には見えないんだよな、この人。まぁ、これは俺の勘なんだけど。

 

 三人の会話をBGM替わりに頭の中で思考していると、今度はこちらに矛先が向けられたのか視線が俺に集中した。

 

「おい、確かお前ジロウだったよな? さっきも見てたんがこいつと仲いいんだなぁ」

 

 フィーベルを指さしてそう言ってくるグレン先生。その顔はニヤニヤしていてムカつく。

 

「別に仲がいいわけじゃないですよ。ただぶつかることが多いだけだし」

 

 向こうでは、なんですって! と息を荒げるフィーベルとそれをなだめるティンジェル。だがそんなことよりも俺は目の前で、俺はわかってるよ、と言いたげな顔でこちらを見てくるコイツがムカつく。よし言い返してやる。

 

「そんなことよりグレン先生。女子更衣室を覗いたうえボコボコにされてましたけど、もう体は大丈夫なんですか?」

「おい! それはもう言うなよ!」

 

 それはもう俺の最高に綺麗な笑顔で毒を吐いていく。

 

 

「なるほど、自分よりも歳が低い女の子に、痛めつけられるのが大好きな変態マゾ大先生なんですね?」

「もう勘弁してください、ごめんなさい」

 

 グレン先生はそんな俺の言葉に耐えられなかったのか、見事に綺麗な土下座をしてくれた。にしても大の大人の先生が生徒に向けて土下座をしているのは端から見たらとてもシュールな光景なんだろうな。しかも片方が学園唯一の問題児、もう片方がロクでなし教師。やばいわ、また変な噂がたっちまう。

 

「なにやってんのよアンタたち……」

 

「えっと。な、仲がいいですね……」

 

 彼女たちは俺とグレン先生の一連のやり取りを眺めていたようで、少しいやかなり引きながら声を掛けてきた。フィーベルはいつも通りだが、まさかティンジェルすらも引かせるとは。

 

「…………あんたがそんな表情をするなんて知らなかったわ」

 

 何故かフィーベルは少し機嫌がわるくなったのか、口をリスのように膨らまして俺に視線を向けてくる。なにそれ、フィーベルのくせにかわいい。

 

「ねぇねぇシスティ」

 

「――っ!? な、な、なにをっ!」

 

 ティンジェルがフィーベルに耳打ちをする。すると衝撃的だったのかフィーベルは両手を慌ただしくわちゃわちゃさせて目を彷徨わせていた。フィーベルのやつ何言われたんだろう。

 そんな珍しい反応をした彼女を面白いと放置しながら、影が薄くなっていたグレン先生によろしくの意味を込めて声を掛ける。

 

「いろいろあったけど、これからよろしくお願いしますね。グレン先生」

「お、おうっ、よろしくな」

 

 その時のグレン先生の顔は軽く顔を引きつらせ、はははと笑っていたのだった。

 本当、今日は不思議な日だ。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 あれから昼食を終え、午後の授業も消化していった。途中でまたフィーベルがグレン先生の授業態度に文句を言い、それをテキトーにあしらう光景を何度か見たきもするが俺はほとんどを睡眠にあてていたので時間が進むのは早かった。

 

 今は町の端にある家に帰ってきた。

 

「ただいま……ってまだ爺さんは帰ってきていないのか」

 

 木造で作られたこじんまりとした建物。この家には俺と捨て子だった俺を拾ってくれた爺さんの二人で暮らしている。町の端にあるだけに周りには家がなく森が生い茂っていた。町の住人も中々訪れない場所だ。

 

「さてと。……やるか」

 

 荷物を片付けて、動きやすい格好に着替えてから家を出る。周りを一度見回し人がいないかを一応確認する。これからすることはあまり見られたくないことだから。

 

「……よし」

 

 誰もいないみたいだから、立ったまま目を閉じる。深呼吸をしながら心を落ち着かせていく。至るのは無心。初めは中々出来なかったが、今では少し時間を使えばなれるものだ。これも記憶の影響のおかげか。弟が兄の姿を見て、成長するかのような感じだ。記憶から俺は無心に至る方法を学んだ。

 

 無心になれたら次は自分の中にある物を引っ張り出すというイメージをする。夢で何度も見たそれは自然と俺の右手に現れた。そっと目を開けて、視線を向けると手の中には一つの長刀が静かに現れる。

 

 これはこの世界に来るときに無理やり渡されたもの。

 

 それにしてもこれを渡した神はひどいことをする。俺が目指しているものを知っていながら、これを渡してくるなんて。ゼロから努力して手に入れるという楽しみがあるはずなのに。まぁ、これはこれで効率がいい。あの男は、一生涯を掛けて身につけたが、俺はさらにその先に行けるはずだから。さらに向こうへ行けるようになったのだから。

 心が揺れる。

 

「いけないいけない、無心無心っと」

 

 心が乱れてしまったのでもう一度さっきの工程を繰り返す。そうすることでまた落ち着きを取り戻すことができる。

 

 そして今度こそは切らさないように注意しながら、その刀をそっと両手でつかみあげ、上から下へと振り下ろす。ただこれだけの動作。振り終えたならまた刀を持ち上げ同じ動作を繰り返す。ただ何度も何度も同じことを反復させる。これはもう昔からずっと継続してきた習慣である。

 

 あの男と同じで教えを乞う人はいなかった。だが幸福なことに夢として、記憶として見本があったのでその光景を思い出し見よう見まねでやっている。まさに模倣。まさに物真似。我流もくそもないことだ。

 だがしかし、この想いだけは負けていない。むしろそれ以上あると自負している。

 

 これは俺のとてもバカげた夢である。

 これは俺の変えることのできない人生である。

 起源という名の形に刻まれたように、俺の進む道は決まっている。

 これは俺の止めることができない、漆黒よりもどす黒く、しかしただまっすぐに純粋な執念であるのだから。

 

 数えきれない程振り下ろした後、今度は斜めになるように振り下ろす。新たな構えを1つずつ確かめていく。

 俺の目指す男に型などある一つを除いて他はない。ゆえに無数とも言えるほどの振り方が、本人すらも辿り着けなかった領域があるはずだから。

 だから俺はその先を目指す。この身で限りなく魔法に近づいた秘剣に辿り着こう。

 

 

 

 たとえその道に幸せな未来がなかろうと。

 たとえその選択が身近にいる親しい者を傷つけるのだとしても。

 大切な人が涙を流そうと、俺は絶対にこの(願い)をあきらめない。

 

 

 

 

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