ただ、燕を斬るために   作:白黒パーカー

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三日坊主になりかけて焦りました。
たぶん、まだセーフ? です。







第4話 日常は終わりを告げる

 今、俺は目の前でありえないものを見ている。

 

 なんとグレン先生がフィーベルにわずかに頭を下げて謝っているのだ。

 

 あのロクでなしの先生が。昨日の授業ではフィーベルと口喧嘩をしてそのまま帰ってこなかったあの先生が、だ。

 

 ただそれで謝っているのか?

 

 周りにいるやつらも俺と同じ考えているのか口をぽかんと開けて先生の様子を伺っていた。

 

 「…………はぁ?」

 

 何より一番驚いていたのはフィーベル自身であった。最初は突然の白猫呼びで机を叩きながら立ち上がるほど憤慨していたものだが、昨日のことで謝罪された瞬間魔の抜けた声を出してしまうほどだった。

 

そしてしどろもどろになりながらなんとか謝罪の形を保った言葉を紡いでいた。

 

俺はそんな先生を見て、恥ずかしいんだなぁ、と的外れな考えを頭に浮かべる。

 

 視界を先生から外して先程から黙っているフィーベルの親友切り替えてみると、二人を交互に見て、天使の微笑みのような優しい表情を見せていた。

 

昨日の一件でも彼女はフィーベルのことをしっかりと考えていたのだ。無事に仲直りできそうで安心しているのだろう。

 

「なんだよ……? 何が起きてるんだよ……」

 

誰かの疑問の声が聞こえたかと思うとクラス中が先程よりも大きな声で、なんだなんだと騒ぎ出した。

 

何事かと視界を広げると、なんとグレン先生が教壇の方に向かっていった。

 

今の時刻はまだ授業開始の前だ。それなのにグレン先生がいるのは異常なのだ。最初はフィーベルに謝りたくて来たんだと思っていたんだがそれだけではなかったようだ。

 

そして予冷が鳴り響く。

 

「じゃ、授業を始める」

 

 グレン先生のその一言により、一旦静まり返り、しばらく経つと三度目のざわめきが教室中を震わせた。

 なんと言うことだろうか。あの先生が授業をすると言い出したのか? これは明日の天気は【ショック・ボルト】が降ってくるか?

 これは言い過ぎか。

 

 そんな生徒たちを無視してこの時間に使う教科書をペラペラと捲っているり、やめる。

 そのまま窓の方へ歩き出してそれを開けてそのままーー

 

 「そぉい!」

 

 投げ捨てた。

 

 「ん?」

 

 ダメだ。天才と呼ばれた俺でもグレン先生の行動が予測できなくなってきた。

 いや、別に天才とか呼ばれるどころか、バカにされているのだが。

 クラスの連中も、やっぱりいつものグレン先生と言いたげにため息をついていた。

 

 「さて、授業を始める前にお前らに一言言っておくことがある」

 

 そんな俺たちの様子を見ていた先生は口をニヤつかせながらこう告げてきた。

 

――お前らってバカだよな。

 

 ここでまさかの暴言だった。

 

俺はもともとたくさんのやつからバカにされてきたし、自分でも魔術についてはわかっていなかったので特に思うことはないが、他の奴は別だった。

 

 クラスメイトの連中は久しぶりの先生からの暴言で大なり小なりイラつきを見せていた。

 

 どうしてこうもあっけらかんと宣言できるのだろうか? 俺はとにかく気になって仕方がなかった。先生のメンタルは半端ない。

 

 「【ショック・ボルト】程度の一説詠唱もできない三流魔術師に言われたくない」

 

 誰かがそう言った。しん、と静まり返る教室。

 

 「ま、正直、それを言われると耳が痛い」

 

 だがグレン先生は特に気にした様子もなく、むしろ【ショック・ボルト】『程度』とバカにしたことをバカだと言い返し先生の教師としての本領を発揮していくのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 「グレン先生の授業すごかったね」

 

 「そうだな、今まで聞いた授業の中で一番すごかったな」

 

 「あんたがグレン先生以外の授業で起きてるの、一度も見たことないじゃない」

 

 グレン先生が珍しくやる気を見せた授業がいくつか終わり、現在は食堂にいる。メンバーはまたもや珍しくフィーベルとティンジェルという美少女二人とである。そのせいで周りの男子の視線は今日もすごかった。天子様と一緒に食事をするからだろうなぁ。

 そして先ほどの授業は一言で言うと、面白かった。

 

初歩魔術である【ショック・ボルト】を極めたといわんばかりに披露していった。四節詠唱にすれば宣言通り右に曲がり、呪文の一部を消せば出力を低下させるなどなど。

 極めきったクラスメイトもこれらを目の当たりにすれば最初は不満たらたらであったが、後半は興味が勝っていたのか真面目に授業を聞き出していた。

 

 途中に先生は、興味のない奴は寝てな、と注意を喚起していたがそのころにはすでに誰も自習を行おうとはしていなかった。

 

 俺も先生の授業は今までに何度か起きていたが自習だとわかるとすぐに寝ていたのだが、今回は面白すぎて一度も眠れなかった。おかげで現在寝不足が進行中だ。

 

「なんでお前がそんなことまで知ってんだよ」

 

 「なっ! べ、別に、毎回起きているか確認していたわけじゃないんだからっ!」

 

 「毎回確認してたのかよ……」

 

 「システィはもう少し、素直になればいいんだけどなぁ」

 

 「……っ!?」

 

 フィーベルは整っているきれいな顔をトマトのように真っ赤に染めた。

 なんで自分で言ったことで赤くなってるんだよ。ティンジェルも、仕方ないなぁ、って顔で見てるぞ。

 

 「……ジロウのバカ」

 

 「なんで俺が罵倒されてるんだよ……」

 

 理不尽すぎる。何も

 

彼女がそう一言呟き、顔を下に向けてしまった。

 

 頭を掻いて、どうすればいいか考えているが良い案が思い浮かばない。

 

 そう言った意味を込めて、ティンジェルに視線を向ける。

 

 すると、その視線に気づいたようで、隣の彼女を復活させようと奮起し始めた。

 

 俺はその二人を見ながら、これからもこんな平穏な毎日を過ごしたいなと考えた。

 

 年より臭いなと苦笑しながら、自分の頼んだ料理に手を付けるのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 「……遅い!」

 

 私は懐中時計を握りしめる手を震わせながらそう言った。

 

 本日の授業の開始時刻は十時三十分。そして現在の時刻は十時五十五分。すでに三十分も過ぎているのだ。

 

 最近は真面目に授業をしていたのに、また遅刻をするとか、アイツは……

 

 「アイツったら、最近は凄く良い授業をしてくれるから、少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

 

 「でも珍しいよね? 最近のグレン先生、ずっと遅刻しないで頑張っていたのに」

 

 私の独り言に反応を示したのは、私の家族であり親友であるルミアだ。彼女も先生が来ていないことを不思議に思っているようだ。

 

 そこで私は一つの可能性に気づいてしまった。

 

 「アイツ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」

 

 「そんな……流石にグレン先生でもそんなこと……ない、よね?」

 

 なんだかこの考えがあたっていそうな気がしてきたわ。

 

 どんな人にでも甘いルミアでも今回に限ってはフォローできなさそうね。最後に関しては揺らいじゃってるし。

 

 「ジロウでさえ忘れずに来たのに……。アイツには今日こそ一言言ってやるんだから」

 

 「ふふ、システィはほんとジロウ君が好きなんだから」

 

 「はぁ!? 今はコイツのことなんて関係ないじゃない!」

 

 私が一人愚痴をこぼしていると、ルミアは何を的外れなことを言っているのか、笑いながらに爆弾を落としてきた。

 

 私は突然のことに慌てながらも、その意見を否定するため私の後ろでいつも通り寝ているバカを指さしながら、言い返す。

 

 「あれ? 好きなことは否定しないんだ」

 

 「なっ!? そ、それも違うのっ!」

 

 

 私の顔が急激に熱くなるのを感じる。

 

 ルミアは微笑みながら、今度は私が言ったことの揚げ足をとってきた。

 

 最近の彼女はどこかあの憎たらしい教師に似てきて将来は心配になってきた。

 

 「でもジロウ君。授業は寝てるのにいつも一番最初に席に座っているよね」

 

 私の心配をよそに今度は後ろのバカについて話し出した。確かにコイツは授業中に眠るなんてことをしでかすバカだ。それのせいで他のクラスの生徒や先生からは悪口を言われている。

 

 まぁ、コイツのことだから特に気にもしてないんだろうけど。

 

 でも、何故かコイツはこのクラスで誰よりも早く来ていつも私が座る席の後ろで寝ているのだ。この学院では特に席は決められていない。ゆえに早い者勝ちなのだ。特に真ん中の前側なんて席はすぐにとられてしまう。それこそ授業開始の何十分も前に来ていないとだ。

 

 もしかしたら、あの時に言ったこと。まだ忘れてないのかな?

 

 「……そうね。」

 

 「システィ、何か知ってそうな顔してるね」

 

 「別に何も知らないわよ! そんなことよりもアイツはまだこないのかしら!」

 

 「そうだね。この話はまた今度ね」

 

 ルミアの疑うような視線から逃れるため、別の話題を出す。

 

 仕方なくといった感じで納得した彼女に安心しながらため息をつく。

 

 なんで私がこんな思いをしなくちゃいけないのよ! これも遅刻しているあのロクでなしと後ろで寝ているバカたちのせいね。後で文句言ってやるんだから!

 

 突然、ドアの開けられる音がする。

 

「遅い! やっときた、わね……え?」

 

入ってきたのは憎たらしい顔で私たちをバカにするグレン先生ではない。そこには二人の見知らぬ男たちが立っていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 私は今、とてつもなく戸惑っている。

 

 突然教室に現れた謎の男二組。どちらの男も学院関係者ではなかった。

 私はとっさに嫌な気持ちになり、魔術を行使してまで捕まえようとしたが叶わなかった。

 

私の顔の横を通り過ぎるように飛んでいった光。軍用の攻性魔術(アサルト・スペル)である【ライトニング・ピアス】。

それを一人の男が指をこちらに向けて発動したのだ。

その瞬間確信してしまった。

 

ーー私では勝てない、と。

 

 それが頭に浮かんだ瞬間、立っていることが不思議な程体が震えてしまった。

 

 クラスのみんなも今起こったことが何かを理解すると教室を震わせるほど悲鳴をあげた。

 

 そんな私たちを見て満足したのか、顔を醜悪なまでにニヤつけていた。そして再度魔術を放ち、教室を静寂に変えてしまった。

 

 彼らの目的はどうやらルミアを手に入れることだった。

 

 なぜルミアを? 彼女と彼らにどんな関係があるのか? たくさんの疑問が頭に浮かんでは消えていった。でも、一つだけわかることがあった。彼らについて行ってはダメだということを。

 

 でも、声がでない。体を動かすことさえできない。大切な家族が今どこかへ連れていかれそうなのに。

 

 そしてルミアは一人の男に連れていかれた。

 

 「おら、てめぇら! 余計なことするんじゃねーぞ? 腕を後ろで組んで座ってな」

 

 そしてルミアを連れていかれてすぐ、教室に残っているのはルミア以外の生徒とさっき私に魔術を撃ってきた男のみ。

 

 でも、私たちは何もできず男の言う通りにしていた。

 

 男は生徒一人ずつに【マジックロープ】と呼ばれる特殊なロープで縛りあげていく。

 

 抵抗することができなくて悔しい。でも、次逆らったら、今度こそ殺されるのがわかる。死ぬのは怖い。だから私たちはこの男に従う。

 

 ふと、気になって顔を上げ辺りを見回す。アイツがいない。

 どこを見ても目に入るのはおびえるクラスメイトたち。でも、私が探している男は見つからない。私がルミアと同じくらいに心から信頼している男。

 

 だがどれだけその動作を繰り返しても一向に姿を現さない。

 

もしかしてーー

 

 「……にげ、た?」

 

 小さな声がか細くでてしまった。

 

でもこの状況なら仕方ないのかもしれない。なんせ目の前で起こったのは明らかにテロ。逃げられるのなら逃げるものだ。しかも命がかかっているのならなおさらだろう。

 

でも、でもそんなこと信じることができない。いつも私の後ろで眠たげなそれでもどんなことがあろうと絶対にいてくれたアイツがいなくなるなんて。

 

あの時約束したのに。絶対に私からは逃げないって言ったのに……。

 

 私の心にぽっかりと大きな穴が開いたような喪失感を感じる。

 

 いや、いやよ。いかないでよ。

 

 テロリストに連れていかれた親友(ルミア)。ようやくやる気になってくれたロクデナシ(グレン先生)

 

 そして私が今一番信用していたアイツ(ジロウ)

 

 まだ二人だけならなんとか耐えられた。でも、アイツまでもいなくなってしまうのはダメだ。これ以上は限界だ。開いた穴からどす黒い何かが溢れそうになる。

 

 心が軋むように痛みだす。心が今にも壊れそうになる。

 

 息が苦しい。自分の胸を抑えていないと何かが零れ落ちてしまいそうになる。

 

いやだ、いやだいやだ。こんなのイヤダ。

 

助けてよ。守ってよ。

 

どこかへ消えてしまったアイツに心の中で声をかけるが、それに反応する声はない。

 そして今日の私はどこまでもとことんツイていなかったのだろう。

 

 「おいお前、聞いてんのかぁ?」

 

 「へ?」

 

 私を呼ぶ声で意識が戻る。顔を上げると目の前にはあの男がいて、その後ろには縛り上げられて呪文の起動を封じる【スペル・シール】を掛けられている。

 

 「お前にはちょーっとお話があるから来てもらうぜ?」

 

 そう言ってへたり込んでいた私を無理やり起き上がらせた。その顔は先ほどより顔を歪め、粘つくような嫌な視線を向けてきた。

 

 「…………あ。い、いや」

 

 その視線が意味することを理解してしまった。コイツは私の体を……。

 

壊れかけの心をなんとか形に止め、抵抗にすらならない小さな声で否定する。でも、この男はむしろそんな私の反応に喜びを感じているように口の端を上げている。

 

 「いやぁ、お前みたいなやつがこの後どうなるか。……楽しみだぜぇ」

 

 「いやぁぁぁ!」

 

 あの男は無理やり私を引っ張っていく。それに対して私は最後のほんとの残り香のようななけなしの力を込めて悲鳴を張り上げた。

 

 いやだ! 助けてよ、ジロウ!!

 

 「もう大丈夫だ」

 

 「へ?」

 

 先ほどまで私を強引に引っ張っていた男の腕の力が緩まった。そして目の前の男の首から上がなくなっていた。それは明らかに滑らかで血すら噴き出すことを忘れていたように一時停止をしていた。

 

 それはいつなくなったのか気づかないほどの速さだったのだろう。()()()()()()()()()()()()()()

 

 私のことを気遣うように優しい声の方に顔を向ける。するとそこには私がずっと心の中で呼んでいた、消えてしまった男が立っていた。

 

 私は視界に収めた瞬間、彼の正面から抱き着くように飛び込んだ。

 

 彼は突然のことに驚いたが、すぐに私を落ち着かせるように片手で抱きしめてくれた。

 

 彼の手の中には赤色の液体をぽたりと垂らし続ける、細長い剣のようなものを持っていた。

 

 おそらく彼があの男を殺したんだろう。本当は恐れるべきなのかもしれない。人殺しについて糾弾するべきなのかもしれない。

 

 だけど今の私にはそんなことを考えるほどの余裕はないのかもしれない。

 

 今は空いていた穴がふさがる、彼の体に包まれていると先程の喪失感が嘘のように暖かい、幸せな何かに包まれたような安心感を感じる。

 

 そして頭に浮かんだことはただ一つ。

 

――彼がいてくれてよかった、と。

 

 このときの私はもう、すでにどこかが壊れていたのかもしれない。

 

 

 

 

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