ただ、燕を斬るために   作:白黒パーカー

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投稿が遅くなりました。
まだ大丈夫です。







第5話 もう一つの視点

 どうしてこうなったんだろうな。

 

 いつも使っている教室。だがそこにはいつも見れるものとは違う別の景色が映っていた。

 

俺の後ろで怯える友達(クラスメイト)に、顔を俺の胸元にぎゅうっと押し付け、静かだが絶対にもう離さないとばかりに力強く抱きしめてくる彼女(フィーベル)。そして俺の目の前で首から上をなくして赤い液体をドクドクと流す、横たわっている肉塊(テロリスト)

 

 そこにあるはずの日常は、本来なら存在しないはずの非日常へと豹変したのだ。

 

 そもそもの原因は、そこで物言わぬ塊になった男と今はいない男がここに来たことから始まったのである。

 

 俺はいつも通りの特等席で寝不足の体を癒していた。

今日は本来休日なのだがうちのクラスは特別に受けさせられたという最悪極まりない事案である。

 

 そしてそれは何の前ぶりもなく唐突に起きた。

 突如、自分の心臓が誰かに鷲掴みにされたような、そんな痛みに似た何かが起こった。だが俺はこれがナニカを知っている。

 これは俺の特典の一部である【心眼(偽)】と呼ばれるものである。またの名を第六感とも呼ばれるものだ。これは俺の意思に関係なく発動するものである。これが起動したということはこれから何かが起こるのだろう。それも良くないことがーー

 

 「……っ!?」

 

 俺は体を一瞬で起こし、同時に俺の中の特典を意識的に発動させる。これにより俺は周りから視認することはできなくなった。これはスキル【気配遮断】というものである。これはランクが低いものの人間程度では気づくことさえできないだろう。声を出したり、攻撃をすれば別だが。

 そしてドアから謎の男二人組が入ってきたのだった。

 

 そこからは怒涛の展開の連続だった。

 

 突然の訪問にフィーベルがキレていたら、男が軍用の攻性魔術を彼女の体ギリギリに放っていたことか。それを見て一瞬で心が黒く染まり飛び出しそうになるのを抑えたり、ルミアが指名されて片割れの男に連れていかれたとか、グレン先生はすでに始末した宣言されるとか。正直言って頭がパンクしそうなほどだ。

 

 「……さて、どうするか」

 

 周りに聞こえないように言葉をこぼす。

 いまだ姿が認識されていない俺は、これからどうするべきかを目の前で次々と拘束されていくクラスメイトたちを見ながら考えを巡らす。

 

 現状わかっていることは、やつらは三人以上の規模でテロを行い、目的がティンジェルだということ。生徒たちに関しては今すぐに始末するわけではないから大丈夫だろう。そしてグレン先生はやられてしまって今回の件を対処できるのが俺しかいないということだ。

 

 テロリストに関しては俺でも倒せるから問題ない。

 なんせ俺の身に宿る力は、ある世界で一騎当千と言わしめるほどに強力で強大な力を持った存在であるのだから。

 

 英霊――聖杯戦争に際して召喚される特殊な使い魔なる存在。神話や伝説の中で為した功績が信仰を生み、その信仰をもって人間例である彼らを精霊の領域にまで押し上げたもの。その者たちは人間ではかなわないほどで、対抗できるのは同じ存在だけだ。

 

 対峙する相手からしたら絶対に相手をしたくないだろう

 

 だが俺の中にあるものは本来の英霊とは違うもので、亡霊のようなものをある世界で無理矢理アサシンというクラスに収められた存在だ。ほんと魔女(メディア)さんはすごい。

 

何よりも俺はこの男(亡霊)を尊敬しているのだ。そして自分もそこに至りたいと憧れているのだ。剣技だけでサーヴァントたちを苦しめたというあの存在をーー

 

 思考するのを一度やめる。いま考えるべきことではない。

 そう思いながら様子を見ることに意思を向ける。

 

 「なっ!?」

 

 俺はありえないことが目の前で起こり、つい声をだしてしまった。大声を出さなかっただけマシなほうだろう。それに今ので反応する者たちはいなかったみたいだし。

 

――どういうことだ?

 

 なんと、フィーベルと目があったのだ。しかもスキルを使用しているのにも関わらず。

 

 【気配遮断】のランクが低いのはわかっていた。そもそもこの男(英霊)の本領はアサシン特有の隠密ではないのだから。だがそれでも魔術が少し使えるだけの人間、それも子どもである彼女に俺が見えるはずがないのだ。

 

 「ふぅ……」

 

 心を落ち着かせるために気息を整える。そして再度、彼女が本当に俺に気づいていたのか、様子を見てみるがやはりそんなことはなかったと結論つける。

 

――彼女には俺が見えていない。

 

 彼女は見るというよりも、何かを探すように周りを見渡していた。その顔は少し、いやかなり青ざめていてぼそぼそと何かをつぶやいていた。こんな弱々しい彼女を見るのは初めてだ。

 俺は今すぐにでも飛び出したかった。だがーー

 

 「今は耐えなくちゃ」

 

 今いけば男を無力化する機会がなくなってしまう。なら男の方に向かいたいが、すぐ近くには拘束されていくクラスメイトたちが。どっちにしろ男が離れてからではないと手がだせないのだ。

 

 はやく教室からでてけよ、と思いながら俺は謎の焦燥感に駆られる。

 

そんな俺を見てあざ笑うかのように、その願いを打ち砕いて行った。

 

 男は俺以外の全員を拘束し終えると、今度はなぜかフィーベルの方に近づいた。

 なぜ近づくのか疑問に思ったが、そいつの顔を見た瞬間に理解してしまった。

 

 その顔は下衆という表現が相応しいほどに、イヤらしくにやけた顔を彼女に向け声を掛けた。

 それに対して彼女は数秒をかけてゆっくりと顔を上げた。その顔を見た瞬間、俺は呼吸ができなくなるほどに驚いた。彼女の顔は先ほどよりも青白く、綺麗だった翠玉色の瞳もドロドロと濁らせていた。

 彼女はすでに限界だった。

 

 そしてこれを見た瞬間、俺はもう限界だった!

 

 俺は動きやすいように机の上に飛び乗る。いまだあの男は気づいていないようで彼女を引っ張り教室から出ようとしていた。

 

 「いやぁぁぁ!」

 

 そんな彼女の心からの叫びを聞きながら手元に意識を向ける。もちろん俺の体の中にある武器を取り出すためにだ。

数舜で右手に長刀、物干し竿を鞘から抜き出した状態で無理矢理に手繰り寄せる。そしてそれと同時に意識的に抑えていた体のリミッターを外した。

 

フィーベルを傷つけないように細心の注意を払い、体を弾丸のように高速で飛ばした。

 

 「もう大丈夫だ」

 

 

 刹那。あの男の首を落とすために振るった刀は、狙い通りの軌道を描き、切り落としたのだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 とまぁこんな感じで冒頭に至るというわけだ。

 にしてもほんとにこれからどうしようか?

 

 こんなショッキングなものを見せてしまったせいでクラスメイトたちからは完全に怯えられていた。これじゃあ今まで通りに話すことはできないだろうな。

 

 少しだけそれを寂しく思った俺は、そういえばフィーベルもどうにかしないとな、と思いながら片手で抱き着いて動かない彼女の頭を優しく撫でる。

 サラサラとした銀色の髪を触りながら、コイツも女の子なんだな、と場違いなことを考えてしまった。

 

 教室は混沌と化していた。

 

――誰かこの状況を変えてくれる人、来てくれないかなぁ。

 

 その考えがフラグとして機能したのか、ドアを開ける音が聞こえる。

フィーベルを除いた俺たちはさっきの男が戻ってきたのかもしれないとそちらに視線を向け警戒をする。

 

 「大丈夫かお前ら! って、なんだよ。この状況は……」

 

 このタイミングでお前かよ。つーか死んだんじゃなかったのか?

 

 「なんで生きてんだよ……」

 

 「てめぇっ! 勝手に俺を殺してんじゃねぇよ!」

 

 「そうですよね。グレン先生はゴキブリ並みの生命力ですもんね」

 

 「なんだ喧嘩売ってんのかぁ? 売り切れるまで買ってやんぞ!」

 

 どうやらグレン先生は無事に生きていたみたいだ。ということは先生の方に向かったやつらは倒してきたんだろうか? 倒したんだろうなぁ。

そんな茶番に付き合ってくれた先生は憤慨しながらも、視覚から現状を理解しようとしていたのがわかる。

それを終えると茶番は終わりだと言わんばかりに表情を変え、鋭い目つきで俺を見てくる。

 

 「……言いたいことはわかりますよ。でも、話は後にしてください」

 

 当然俺のことを警戒しているんだろう。俺の右手には血がべっとりと付いた長刀を持ち、前には首から上がなくなったテロリスト。どう見ても俺がやったとしか見えないし、その通りだ。

 だが今は時間がないのだ。話なら後で言えることだけ話そう。

 

 「……はぁ、わかったよ。終わったらきっちり話してもらうぞ?」

 

 先生は警戒を解き、ため息を吐きながらそう言ってきた。

 俺はその答えに苦笑しながら頷き、先生が来るまでにあったことを伝えたのだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 とりあえず、とグレン先生はまず死体に魔術を掛けて生徒たちが認知できないようにした。さすがにそのままにしておくのは精神衛生上よろしくない。そのあとお互いに知った情報を共有してこれからどうするかを相談した。

 

 俺は見た感じだといつも通りだが、内心は焦っている。

 

 当然だ。

 

 ティンジェルがさらわれているのだ。たとえすぐに殺されないのだとしても、それが確証されたわけではないのだ。

 

 そして結果としては俺とグレン先生の二人で助けに行くことに決まった。

最初は渋っていたグレン先生も、俺の梃子でも動かい重い意思を伝えたら、またもやため息を吐きながら了承してくれた。

 

 その表情には生徒を危険なところに連れて行くからか苦い表情をしていた。やはり根はいい人なんだろうな、と思ってしまったのは仕方がないだろう。

 

 これからの手順も決まった。

 流石に他のクラスメイトたちはここに残らせることにした俺たちはティンジェルを救うべく敵を追いかけようとしたのだが、今度は別の問題が発生したのだ。

 

 フィーベルが離れてくれないのだ。

 

 確かに怖い思いをしたのだからこうなるのも仕方ない。それでもこれは困る。

 グレン先生は仕返しとばかりにからかってくるので倍返しにした。満足だ。

 

 「……なぁ、フィーベル。落ち着いたのならもう離れてもらってもいいか?」

 

 慎重に言葉を紡いでいく。彼女は先ほどまで壊れそうになるほど怯えていたのだ。細心の注意を払うのが妥当であろう。

 

 「っ!? ……わかった」

 

 彼女は一度びくっ、と体を反応させると少しずつ見えなかった顔を俺に向けた。その表情は幾分か落ち着きを取り戻したようでいつも通りとまではいかないがだいぶマシになっていた。それと何故か顔が少し赤くなっていた。まるで恥ずかしさに悶えているかのようにーー

 

 「なっ!?」

 

 気づいてしまった。彼女が無事なことに安心したせいか今の姿勢がどんなものか忘れていた。

俺と彼女では身長差があるので必然的に上目使いになってしまう。そして互いに抱き寄せている姿は、いままさに口づけをするカップルのようだ。

 

 それを意識したとたん顔が沸騰するかのように熱くなる。フィーベルも同じことを考えているようで抱き合う姿勢をやめた。

 

 少しあのぬくもりが消えたことに残念に思いながらも、それを気にせずに目的を果たすために扉に向かって歩き出す。

 

 そして後ろから引っ張られてつんのめる。

今度はなんだと後ろを見ると彼女がこちらを真っ直ぐに見ていた。そして一言。

 

 「……私も、一緒に行く」

 

 まだ本調子ではないようで声がか細かったが、それははっきりと俺の耳に届いた。

 

 「……は?」

 

 俺はその言葉に驚き疑問の声を上げてしまった。

 さっきまであんなに怯えていたのに、どんな心境の変化があったのだろうか?

 

 顔をいまだに種に染めている彼女は、さきほどのことを少し恥ずかしながらもだがしっかりと俺の目を見てそう告げた。

 彼女の瞳はいつも通りの翠玉色のように綺麗な瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのせいだろうか。

 

 

 

 彼女のその瞳に、一瞬、()()()()()が混じっていることに気づくことができなかったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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