とある問題児の母も来るそうですよ?   作:地獄花

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――第四話――

 

 

 

―――場所は箱庭二一○五三八○外門

 

 

「ジン〜ジン〜ジン!黒ウサのお姉ちゃんまだ箱庭に戻ってこないの〜?」

 

 

「もう二時間近く待ちぼうけでわたし疲れたー」

 

 

口々に不満を吐き出す友人たちに苦笑しながら

 

 

「・・・・そうだね。皆は先に帰っていいよ、僕は新しい仲間を待っているから。」

 

 

ダボダボのローブに跳ねた髪が特徴てきな少年

――ジンと呼ばれた少年は取り巻きの子供たちに帰るように促す

 

 

「じゃあ先に帰るぞー。ジンもリーダーで大変だろうけど、頑張ってなー」

 

 

「もう、帰っていいなら早く言ってよ!わたしの足なんてもう棒みたいだよ!」

 

 

「おなかへったー。ご飯先食べてていい?」

 

 

「うん、僕等の帰りが遅くても夜更かししたら駄目だよ?」

 

 

ワイワイ騒ぎながら帰路につく少年たちと別れる。ジンは石造りの階段に座り込むと、暇を持て余したのか、外門を通る人々をぼんやりと眺めていた。

 

(箱庭の外に作られた国が最近活発になってきたって聞いたけど、ペリベッド通りは〝世界の果て〟と向かい合っているから閑散としているなあ………)

 

箱庭の世界に於ける〝国〟の定義とは、超巨大コミュニティの俗称である。明確な〝世界の果て〟が存在する箱庭の世界だが、その表面積は恒星に匹敵するとまで云われている。それだけ膨大な資源と豊かな土地が野晒しにされていて開拓しない手はない。才ある者は人を集めて国を作り、逆に能ない者は天幕に覆われた箱庭都市から離れて暮らしを始める者も多い。

龍種、鬼種、幻獣、精霊などの国は箱庭外にも大規模の都市を設けている。ギフトを失った人間は箱庭から一歩離れた国で力を付け、再度箱庭で『ギフトゲーム』に参戦するのだ。

 

(もしも外界から来た人達が使えない人達だったら………僕らも箱庭を捨てて外に移住するしかないのかな)

 

ジンは新たな同士に期待を込めて想いを馳せる。力の無いコミュニティはゲームホストになって主催をすることも出来なければ、ゲームに参加してクリアすることも出来ないからだ。

集団を維持出来ない程の衰退。それは即ち、コミュニティの消滅を意味する。

ジンのコミュニティは現在、とある事情で黒ウサギを除きジンよりも幼い者達ばかりだ。そんな彼らが生まれ育った土地を手放し、宛ての無い旅をするのは何としても避けたい。

 

 

「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れて来ましたよー!」

 

 

ジンは、ハッと顔を上げると、外門前の街道から黒ウサギと女性三人が歩いて来た。

 

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

 

「はいな、此方の御四人様が―――」

 

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

 

「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目付きが悪くて、かなり口が悪くて、全身から〝俺問題児!〟ってオーラを放っている殿方と無口な子供のような見た目をしているのに何処か大人っぽいミステリアスな方が」

 

 

「ああ、十六夜君達のこと?彼等なら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 

そう言って飛鳥は上空4000メートルから見た断崖絶壁を指差す。

街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて問いただす。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

 

「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」

 

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

 

「〝黒ウサギには言うなよ〟と言われたから」

 

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒臭かっただけでしょう御二人さん!」

 

 

「「うん」」

 

 

ガクリ、と前のめりに倒れる黒ウサギ。新たな人材に胸を躍らせていた数時間前の自分が妬ましい。

まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。

そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

 

 

「た、大変です!〝世界の果て〟にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣が」

 

 

「幻獣?」

 

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?」

 

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、飛鳥と耀は叱られても肩を竦めるだけである。

黒ウサギは溜め息を吐きつつ立ち上がった。

 

 

「はあ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

 

「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 

驚きから一転、怒りのオーラを全身から噴出させ黒ウサギは艶のある青い髪を淡い緋色に染めていく。

外門めがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、

 

 

「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 

 

黒ウサギは淡い緋色の髪を戦慄かせ踏み締めた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に二人の視界から消え去っていった。

巻き上がる風から髪の毛を庇うように押さえていた飛鳥が呟く。

 

 

「………箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

 

「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」

 

 

そう、と空返事をした飛鳥は心配そうにしているジンに向き直り、

 

 

「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、御言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」

 

 

「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になったばかりの若輩ですがよろしくお願いします」

 

 

「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」

 

 

「春日部耀。」

 

 

ジンが礼儀正しく自己紹介する。飛鳥と耀はそれに倣って一礼した。

 

 

「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずはそうね。軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」

 

 

飛鳥はジンの手を取ると、胸を躍らせるような笑顔で箱庭の外門を潜るのだった。

 

 

 

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