【とある魔術の禁書目録】The_RED’s_“Right”   作:白滝

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この章が1章みたいなものです。
原作片手にお読み下さい。


第一二章 北極海の最後の決着 IF_Root

※二次創作作品が「原作沿い」の場合、原作本編の文章のコピーを多用するのは著作権的にも問題があると利用規約にありました。そのため、『原作「とある魔術の禁書目録(インデックス) 22」のp224の9行目~p230の終わり』までを読んで頂いてから下記の本文を読んで頂ければ幸いです。

 

 

 

 天空に浮かぶ要塞がみるみるうちに小さくなってゆく。

 そんな景色を視界の隅に捉えながら、右方のフィアンマは脱出用コンテナの床に肢体を投げ出して横になっていた。

 全てを犠牲にして作り出した自らの希望が、遠のいてゆく。

 全身を蝕むダメージのせいで、起き上がる事もできない。

 

『なら、これからたくさん確かめてみろよ』

 

 上条当麻の言葉を胸の内で反芻する。今も脱出用コンテナは上空に『ベツレヘムの星』を残したまま地上へ向けて下降している。

 

 

 一体、彼は何を望んだのだろうか?

 贖罪をさせようとしているとは思えなかった。あの純粋な笑顔が何を意味しているのか分からなかった。先程まで命をかけて敵対していた者とは思えない発想だった。

 しかし、その答えをこの場ですぐに導ける程の感情も経験もフィアンマは持ち合わせていなかった。何かもが初めてで、このような人間がこの世界にいる事すら知らなかったのだ。

(……確かに、この世界は俺様が想像していたものより広いのかもしれん)

 もはや諦めに近い何かを感じていた。

 これからの指針が見つからない。

 半ば思考を放棄し、そのままフィアンマは再び意識をまどろみに落とした。

 

 

 と、その時。

 

 突然、ガクンと脱出用コンテナが不自然に横揺れした。

 脱出用コンテナはあくまでも「『ベツレヘムの星』の一部」なので、その周囲は地上と同じ気温であり同じ気圧であり同じ風速だ。上空だからといって強風による下降進路への影響はないはずだ。

「なん―――――」

 言葉は遮られた。

 脱出用コンテナが落下したのだ。

 いや、落下中だった脱出用コンテナが、重力以外にも加速度を得たと表現した方が正しい。まるでパラシュートを失ったかのように急スピードで墜落が始まる。

 未だ上空三五○○メートル。地上に衝突したら生きて帰れない。

 地上と同じ状態を維持していた術式が解除でもされたのか、気圧差によって脱出用コンテナがギシギシと歪んで軋み、鉄の扉が変形して空いた隙間から突風が入り込んできた。

 相対速度の影響なのか、風圧に押し飛ばされてフィアンマの体が脱出用コンテナの天井に叩きつけられる。

「(ご―――、がッ――――!?)」

 思いきり背中を打ち付けてしまい、肺から空気が絞り出された。呼吸を整えようと慌てて息を吸う。

 が、直後に後悔した。脱出用コンテナの外から吹き荒ぶ風圧のせいでうまく息を吐き出す事ができなかったのだ。

(……息がッ!?)

 風圧と脱出用コンテナの天井で板挟みの如く圧迫され、身動きが取れなくなる。死へと誘う自由落下の魔の手に完全に絡め捕られてしまった。

 景色が高速で上方へ流れていき、地上の点が元の大きさを徐々に取り戻してきた。

(まずい……ッッ!?このままでは――――)

 しかし、手を打つ事はできなかった。全身に力が入らず、更なるダメージによって肉体が疲弊し切ったフィアンマには、目まぐるしく変化する状況に思考を追いつかせる余力はなかった。顔を横に向け、何とか息を吐き出す事に成功したが、それが限界だった。

 精一杯の悪足掻きだった。

 残り八○○メートル。

 それが寿命を決定するカウントダウン。

 視界の隅で捉えた景色から落下ルートを推測する。

 空を裂き地上へ墜落する脱出用コンテナは、低い山の上を着地点とする進路を取っている。

 木々が枯れ果て禿山となっており、周りには何もない。

 もはやこれまで。死を覚悟した。

 一瞬、上条当麻のあの笑顔が脳裏を掠めた。

(結局、俺様は死ぬ事になった。『ベツレヘムの星』に置き去りにされても変わらなかったじゃないか。お前の愚直な行動も、やはり無駄骨だったという事か)

 死が迫る。

 目を瞑り、瞼を下ろし、口角が緩んだ。

 着地寸前だった。

(………ああ、だが……あの笑顔を作り出す、奴の心情も理解できぬまま…終わりたくはなかったな……)

 ようやく言葉にする事ができたその感情を自覚する間もなく。

 

 次の瞬間、脱出用コンテナが地上に墜落し、木端微塵に砕け散った。

 

 

 

※ここで原作『「とある魔術の禁書目録(インデックス) 22」のp244の14列目~p248の6行目まで御読み下さい。

 

 

 

 右方のフィアンマは生きていた。怪我一つなく、五体満足にて。

 寒さに震える細腕を動かし、雪に埋もれた上体を何とか起こした。

 そのまま手で地面を触る。

 柔らかい。比喩ではなく、字義の通り。それも、尋常ではない程に。

 ゴツゴツした禿山の地面が、まるでスポンジのように衝撃を吸収する。おそらくこの現象によって禿山の礫だらけの山肌をスポンジ状のマットにし、落下の衝撃を殺し切ったのだろう。

 不自然すぎる。

 現象に、ではない。

 奇跡を扱うフィアンマにとって、この程度の非常識は驚きに値しない。例えそれが上空三五○○メートルからの落下の衝撃を殺し切る高度な魔術であったとしても、だ。

 むしろ注目すべき観点は、その意図である。

(……なぜ、俺様を助ける?)

 状況から察すれば、フィアンマを助けるために何者かが魔術を使ったのだろう。

 しかし、だ。

 フィアンマの双眸が、警戒した視線を周囲に放つ。

 「誰かが助けてくれた」なんて甘えた発想は微塵も思い浮かばなかった。

 もはやこの世界に、フィアンマに手を差し伸べる人間などいない。これだけの犠牲を払い、理想と釣り合うような相応の対価を費やした。だが、彼の敗けた世界が彼に下した評価は、『戦争を引き起こした大罪人』という汚点だ。歴史には、人類の悪意の象徴として記されるのであろう。慈悲などない。

 だからこそ、フィアンマを庇う意味がない。もし助ける人間がいるとすれば、それはきっと「助けたい」ではなく「死なれては困る」だ。自分の力を利用して、何かしらの利益に繋げようとする輩がいるはずだ。そうに違いない。

 しかし、辺りには何もなかった。遠くから未だ砲撃音が響いてくるが、人間どころか動物も植物もいない、脱出用コンテナの墜落中に見た通りの禿山だった

 

 

 

 ―――はずなのに。そう、しっかりと周囲を確認したはずなのに。

 

 

 ドッ!!と。

 唐突にフィアンマの右腕が肩から切断された。

 

「あ、ァああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

 魔術の発動を、その前兆を、全く感知できない一撃だった。フィアンマの後方から放たれた攻撃が、容赦なく彼の五体を切り離す。

 右腕。彼の力の象徴。

 それを失ったフィアンマが白い雪に赤い血を撒き散らしながら絶叫した。

 もう片方の手で傷口を押さえつけ、フィアンマは振り返る。

 異様な魔術師が存在した。

 腰まで届く、色の抜けた銀色の髪。表情を窺えぬ端整な顔。この極寒の中、緑色の手術衣だけをまとった格好。男性にも女性にも、大人にも子供にも、聖人にも罪人にも見える奇妙な雰囲気。

 知っている。

 右方のフィアンマは、この魔術師を知っている。

 だが、

「……アレイスター=クロウリー……?」

「やはりズレているな。とすると、まだ私の『プラン』に利用する術があるという事だ。いやはや、不本意ではあるが君の幸運を評価する事としよう」

「……どういう事だ?貴様、なぜ……」

「本来ならば月並みに腹でも立てるのだろうが、今回ばかりは性急でね。事情が込み入っているのだよ、説明は省くとしよう。ただ現状を伝え、私は大人しく去るべきかな」

「……何の話をしている?」

 激痛が彼の端整な顔立ちを歪ませる。しかしそれ以上に、疑問符が次々と浮かんで混乱し、その激痛さえもどうでもよくなる。

 アレイスター=クロウリー。

 かつて、二○世紀には歴史上最大の魔術師が存在した。

 守護天使エイワスと接触し、その功績として天界や魔界などの層の異なる重なった世界の新定義を見出し、それまでの魔術様式を一新した彼には、天才という表現がチープに感じる程の奇才を有していた。

 魔導書『法の書』を執筆し、「『法の書』の完成と共に十字教の時代は終わった」という言葉を残して世界に衝撃を与えた者。

 そして同時に、世界で最も優秀な魔術であったにも拘わらず、世界で最も魔術を侮辱した魔術師…………

(そんな奴が、なぜ急に、そしてこんなとこ――――――――)

 

 

 ―――――――Dtyuiklsdffe:erfogihgmree]fgkjg

 

 

 突如、ズキリ、と針で脳を刺し貫かれたような激痛がフィアンマを襲った。

 しかし、呻き声を上げる前に一瞬で痛みが引く。

(………?)

 既にどれ程の痛みがあったのかも忘れてしまい、フィアンマの表情に疑問が浮かび上がった。目の前にいるアレイスターも流石に不審に思ったのか、怪訝な表情を浮かべた。

 そして。

 ふと突然に、フィアンマの身体に異変が生じた。

 脳を熱くする痒み。

 ふつふつと想起される情景。

 まるで初めから知っていたかのように。

 体験した事のない知識が発想を押し広げる。

 まるで天啓を授かったかのように。

 その時、フィアンマは一つの真理に辿り着いていた。

 

「ふ、ははは……そうか、分かったぞ。なるほど、貴様は……いや、だとすると矛盾が――」

 

 

 ―――言葉は続かなかった。

 

 アレイスターから放たれた、音もなく光もなく衝撃すらない波動が、理屈を超えて因果を超えて、フィアンマの華奢な体躯を錐揉みするように吹き飛ばす。

 ゴロゴロと地を滑るフィアンマの右肩から……いや、腕口から噴き出る鮮血が、雪上に血痕となって彼の軌跡を描く。

「ぐゥ、ぅああああ………ハァ、ハァ、ハァ……」

「今の台詞は決定的だった。本来の君なら、そこまでの情報量ではその結論に辿り着けぬはずなのだ」

 何の話をしているのか分からない。

 が、もはやフィアンマはどうでもよかった。まるで憑き物が落ちたかのように。

 激痛で歪み、不明瞭な事態に困惑していたフィアンマの顔に、それでも笑顔が浮かんでいた。奇しくも、それは上条当麻のように。

「助けを求めないのだな。存外に肝が太い。その右手を失い、もはや凡人とさしつかえない君が何故ゆえ虚勢を張る?」

「その問いが愚問である事に気付かない時点で、貴様は憐れだよ。数分前までの俺様のようにな。誰もが見えている世界が、貴様には見えていないんだろう」

「幼稚な感情論か。それは文明の発達した今代に、老人たちが『何もなかったあの頃はよかった』と懐古する心情と同義だよ。まるでそれが真理かのように語るのだな、君は」

「そういう線引きで物事を判断している時点で、憐れだと言っている。……ああ、貴様の顔を見ていると、自分のやってきた事の虚しさを感じるよ。多分、俺様もそんな顔をしていたんだろう」

 フィアンマの瞳に決意の光が宿る。行動指針という軸を失っていた満身創痍の身体に、力強い芯が通る。生きる意志を取り戻す。

「そして、本当に世界を救う人間はそんな顔をしない。……あの時、あの場所で、あいつはきっと誰にも追い着けん所に立っていた」

 自分に足りなかったものが、理解できた気がした。

 そう思ったフィアンマは、出血を押さえるために傷口を塞いでいた左手を、自らの意志で離した。

 同時に、ボン!!という爆音が炸裂する。

 噴き出す血が、透明で巨大な腕の輪郭を浮かび上がらせた。

 『第三の腕』。

 もはや自らの意志で制御もできない力だが、今ならまだ戦える。

 フィアンマはそれを我武者羅に振り回し、アレイスターに向けて莫大な閃光を叩きつけ―――――――

 

 

 ――――――ズキリ、と。

 

 またしてもこめかみを貫く痛みが起こり、フィアンマにある光景をフラッシュバックさせる。それは記憶の想起というより、映像を網膜というフィルターに焼き付けられたかのような感覚。

 デジャブとも違う。その映像をフィアンマ自身が体験した事もない。

 それは。

 アレイスターがどこからともなく銀の杖を取り出す情景。

 自分の攻撃が為す術もなく迎撃され、無様に地を転がる光景。

 

(しま――――――ッッ!?)

 第六感が予知する危険信号。

 しかし、振りかぶった『第三の腕』は止まらない。もとより、制御などできていない。

 自らの死を予感して身を震わせたフィアンマは、次の瞬間、

 

 

 

 『聖なる右』に薙ぎ払われるアレイスターの姿を見た。

 

「………は?」

 逆に困惑した。

 が、そもそも根拠のない危機意識だ。

 それほど重要視すべき事柄ではない。……ないのだが、そもそも……

 

 そもそも、アレイスターはこんな簡単に敗けてしまうほど弱かったのか……?世紀の大魔術師と呼ばれた彼が……?

 

 輪郭が掠れ、存在が消えゆくアレイスターが呟く。

「それも一つの答えには違いないが……まあ、否定はせず今は立ち去るとしよう。急務であった、君が召喚した大天使『神の力(ガブリエル)』ことミーシャ=クロイツェフの暴走も、どうやら他人に任せるしかないようだ」

「!?…ちょ、ちょっと待て!?それは何の事だ。俺様の『ベツレヘムの星』が機能を失いつつある今、奴が現世で力を運用するのは不可能のはずだ!」

「言葉を交わせば分かるが、それほど融通の利く思考をしていないのだよ、彼ら天使という存在は。確かに君の手によって四大属性の揺らぎは修正されたが、『彼女』の目的はあくまでも自分の存在を本来あるべき『座』へと帰す事。完璧ではないのだよ、おそらくhwsrが足りていない」

 アレイスターの言葉に不自然なノイズが走った。

「おっと、ヘッダが足りないようだ。まぁ、この世界の言葉で簡単に言うとすれば、失った肉体を取り戻し、完璧な状態で天界へ帰還しようとでもしたのか。それも、特別な記号や象徴を含む莫大な氷で」

「それは、つまり―――――」

 考えなくても分かる。

 例えばそれは、惑星の極点に存在する特別な氷などで、それが存在するのは………

 アレイスターは霞ゆく身体を陽炎のように揺らめかせながら、

「まぁ、君にとってはどうという事はないだろう。もう関係のない事だ。『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の少年もその事をイギリス清教から聞きつけて、『彼女』の進路に向かっているそうだが、それもきっと、君には関係のない事なのだろう」

 ニヤリと楽しそうな笑みを浮かべたまま、アレイスターはまるで計画通りかのように不敵にその禿山の雪肌から消失した。

 

 




最初は原作の本文を4,5ページくらい引用しまくってたんですが、利用規約を知って慌てて削除しました。
無駄な労力だった……
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