ここの一夏君はしっかりと分厚い参考書を読みました。
「ふんふ~ん。コアもしっかり馴染んだみたいだねっ。な~んかよくわからない有象無象がいっくんにちょっかいをかけてたけど、これさえあれば何が来たってだいじょうぶいぶいっだねぇ」
ウサギの耳を揺らしながら、その女性は独り言をこぼす。確認している機体の状態は彼女の期待通りのようだ。楽しげな声をこぼしているその姿は、とても国際指名手配中の天才科学者には見えない。
◆◇◆◇
放課後、千冬姉に呼ばれたので職員室に行く。千冬姉の席は意外と偉そうなあたりだった。
「で、お前には専用機をやる。国からも早くデータを取れとせっつかれてな。ちょうどよくあてもあったから早速渡すことにした」
勧められたいすに座った途端にこれだ。自分の高待遇に驚いた。データ取りなんて訓練機でもできると思うが、貴重なISコアをこっちに回す余裕があるのか。
「まあ、束が作ったと連絡してきたのだがな。あいつめ、コアを新造してまで専用機をお前に渡したいらしい」
「っ―――!!」
絶句するほかない。467個のコアから捻出するのではなく、新造したコアで、しかも行方不明のIS発明者が一から作ったISなんて物が世にしれたら、それを持つ俺を巡って戦争になりかねないぞ。
「んと、なんか受け取りたくないと言うか受け取るとやっかいごとに巻き込まれるというか、そんな気がするんだけど」
「まあ、その通りだな」
やっぱりか…。はぁ。歩いてるところを襲撃される予感がある。もしなにかの陰謀に巻き込まれたとして、人識兄や舞織姉に助けを求めようにも、今はまだ二人ともアメリカから帰ってきていない。
「と言うわけで、起らないとも限らない襲撃などの問題からお前を守るために、寮入りは今日からになった。荷物はすでに用意してある。この鍵の部屋だ。生憎とそこしか空いてなかったのでな。同室の生徒と問題を起こすなよ?」
1025室のルームキーを渡された。という訳でじゃねぇよ。女子生徒と同室とかそれでいいのかIS学園?
「よくはないが、政府の密命でな。それ、ISを受け取りにいくぞ」
◆◇◆◇
アリーナに備え付けられたメンテナンスルームの一つにそのISは置いてあった。取りあえず白い。白くないところがない。もう真っ白な装甲と二つのスラスターユニットが特徴的なISで、名を"白式"と言うらしい。
「はろはろー、ちーちゃん、いっくん、久しぶりっ」
後、かなりメカニカルにデフォルメされた二足歩行の兎がいた。その喋るでっかい兎は、面影だけは不思議の国のあいつだ。なんかモノクルと腕時計を装備して、タキシードの上着だけを着ている。眼の位置についた光学センサーと思しき赤いガラスに照明の光が反射して、まるで生きているかのような表情を作り出している。
「束さんですか?」
「そーだよいっくん。この兎は束さんの開発した遠隔操作型情報処理デバイス、その名も"ラボット"だよ」
「不思議の国に連れ込まれそうですね」
楽しげな表情?をしているウサギを見て、千冬姉は頭を抱えている。本人が出てこなかったのはよかったが、学園のセキュリティをすり抜けられたからもう一度それらの配置を考え直さなくてはならない、といったところか。
「束、御託はいいからっさっさと始めてくれ」
「わかったよちーちゃん。じゃあいっくん、"白式"を装着してね」
「はい」
とりあえず山田君に任せよう。そんなつぶやきが聞こえた気がする。山田先生、ご愁傷様です。まあ、その後は早かった。流石束さんである。ものの三分で一時移行まで済ませてしまった。
「じゃあちょっと動かしてみようか。取りあえず全部オートに設定してあるからアリーナまで出よう」
普通に歩くのと同じようにするだけで"白式"はスルスルとアリーナまで移動した。束さんの兎も後をついてくる。兎と人の立場が逆だ。
「武装は、近接ブレードの"雪片弐型"だね。取りあえず出してみて」
束さんの言うとおりに"雪片弐型"を出す。千冬姉の使っていたのと比べると一回り大きい気がする。
「雪片は"零落白夜"が使えるからね。使ってみて」
さらりと、束さんが恐ろしいことを言う。ハイパーセンサーに映る管制室に入ってきた千冬姉もそこで完全に固まっていた。
「ふっふーん。束さんに不可能はないのだー」
「いや、言ってる場合ですか?まあいいですけど」
"零落白夜"を発動させる。シールドエネルギーの数値がゆっくりと減っていく。
「使ってる間はシールドエネルギーが減っていくから気をつけてね。これでも"暮桜"よりは燃費がいいんだよ。」
千冬姉と同じ、一撃必殺を体現した刀。自然と、握る手に力が入る。
「今からミサイルがいくから"雪片弐型"で切ってみて?」
と、言い終わった後、"ラボット"の周囲にミサイルポッドが現れ、ミサイルを放ってきた。それに意識を向け、空を滑るように飛び、すれ違いざまに切り裂くイメージと共に体を動かす。切り裂かれ、背後で誘爆したミサイルの炎があたりを照らし、白式の影が一段と濃くなった。初めて動かした白式は、大方イメージ通りに動いた。
「大丈夫みたいだね。後はいっくんの使い方次第だよ。がんばってね」
そういい残して"ラボット"は走り去っていった。どうでもいいがすごく速い。すぐに千冬姉から通信が入る。
「まあなんだ、寮まで案内するからピットに戻ってISを待機状態にしろ」
◆◇◆◇
寮まで案内されて、寮長室の前で分かれた。そこが千冬姉の部屋らしい。そして今、俺は1025室の前にいる。いやな予感がする。俺の感が今扉を開けるとやばいといっている。まあ開けるが。
「ああ、同室の者か。こんな格好ですまんっな゛ぁっ!?」
「え?」
箒がいた。それもシャワーを浴びた後らしいバスタオル一枚の格好で。眼福とかいってる場合じゃないけど、成長した幼なじみは綺麗になっていた。
「―――はっ!!いっ、いつまで見ているつもりだっ。出ていけっ!!」
箒が木刀で切りかかってきたので扉を閉める。そう、殴りかかるではなく切りかかる。そういう気迫があった。うん、一瞬遅れてたら死んでたな。扉に背を預け、安堵のため息を付いたその瞬間、顔の横に木刀の切っ先が突き出した。……マジか。この扉、厚さ四センチはある木製だぞ。
「あぶねえっ。やめろっ、箒!悪かったからやめてくれっ」
鍵をかける音がした。なかで何かを漁る音がする。騒ぎを聞きつけて現れた女子に囲まれたまま三分ほど待っていると、急に開いた扉の中に引きずり込まれた。
「すまない、取り乱した」
「ああ、俺も悪かったよ。ノックしてから入ればよかった」
見れば荷物はすでに部屋に運び込まれていた。箒に謝りながらそれを確認する。千冬姉め、適当に詰め込みやがったな。なぜか入っていた十万円貯金箱(空)とギロチン時計を見ながらそう思う。ふむ、初めての休日は荷物運びでつぶれそうだな。
「その手甲はどうしたのだ」
「ん、ああ、待機状態のISだ」
箒が左手にはまったガントレットを見ながら言う。
「―――IS!?どうしてお前がそんな物を持っているんだっ?」
「なんか束さんがくれた」
箒の顔が驚愕にゆがむ。
「姉さんが!?姉さんがこの学園にいたのかっ?」
「いや、いなかったぞ。ウサギのかたちをした何とかいうロボットが持ってきたらしい」
「”ラボット”だよ、いっくん」
そうそう、”ラボット”とか言ってたな。思いだして箒の顔を見ると、また驚いたような顔をしている。
「なあ一夏、そのISを持ってきロボットとやらは、ウサギの姿をしていたのだよな、それは不思議の国のあれか?」
「ん?そうだぞ。よくわかったな」
「だから”ラボット”だよ。ほーきちゃん」
さっきから外野がうるさいな。ここは寮の私室だぞ。静かにしろよ。
「って、へ?」
「やっと気が付いてくれたね、いっくん。ほーきちゃんも久しぶりっ!!」
「……姉さん、なのか?」
振り向くとそこにはさっきの”ラボット”がいた。どうやって入った!?鍵はかけたはずだぞ。
「あの、どうやって鍵を開けたんですか?」
「ふっふ~ん。シリンダー錠なんて束さんの前では蝶々結びと同じなのだ~」
「鍵をかけるのにはコツがいるけど、あけるのは簡単ってことですか?」
「その通りだよ。私は賢い生徒が大好きです」
ウサギの手で、頭をなでられた。意外と気持ちいい。
「それより姉さんっ!今どこにいるんですかっ?」
箒がいつになく真剣な顔をしていった。確かにそれは俺も気になる。
「秘密だよ」
「じゃあなんでまた来たんですか、束さん」
ISのことで何か忘れていたことでもあったのだろうか。束さんのことだ、箒に会い来るつもりだったのなら生身で来ているだろう。
「んん~。いっくんに言い忘れていたことがあったからね。ほーきちゃんと同じ部屋にいたのは予想外だったけど」
「言い忘れたことですか?」
「うん。白式のメンテナンスの事なんだけどね、基本的なことは白式のライブラリーの中に取扱説明書と一緒に入れておいたから頑張ってね。それと、ないとは思うけどもし白式を大破させちゃったりして一人じゃどうしようもなくなったときは、”ラボット”に
どうやって現れるんだろうか。束さんの事だからワープしてきても驚かないけど。
「そうですか。覚えておきます」
「うん。それとほーきちゃん、たまには電話してくれるとお姉ちゃんはうれしいよっ」
「わっわかりました、姉さん」
「うんうん。じゃあねっ、二人とも。そろそろ帰らないとちーちゃんに怒られちゃうから帰るよっ」
バイバイ、と手を振りながら”ラボット”は部屋を出て行った。
「本当に姉さんに渡されたのだな。うらやましいものだ」
箒が独り言のようにこぼした。そんなに良いもんでもないけどな。箒に声をかけようと思い、振り向こうとした瞬間に行きおいよく扉が開いた。
「ここに束が来なかったかっ!?」
千冬姉だった。走ってきたのだろうか、少し息が乱れている。
「束さんならさっき出て行ったよ。そろそろ千冬姉に怒られるからって」
「む、そうか。邪魔したな」
なんでここだと分かったんだろうか。俺はそんなことを思いながら開けっ放しになっている扉を閉じた。
誤字脱字には気を使っていますが、発見した方は感想にお願いします。