ハーメルンの二次創作みたいだなーってずっと思ってました。大好きです。ああいうの。
欲を言えば、据え置きタイプのゲームでやりたかった……PS4への移植、待ってます。
プロローグ
「今日はとうとうベータテスト最終日……それなのに私は……」
第一層、《はじまりの街》。そこから程なく離れた薄暗い洞窟の中、1人の少女が途方にくれていた。
《ソードアート・オンライン》
2022年10月31日に発売される世界初のVRMMORPG。そのベータテスト最終日である今日、多くのテスター達は正式サービス前に少しでも多くの情報を集めてスタートダッシュを決めようと躍起になっている。
しかし、千人ものテスターすべてがゲームに精通しているわけではなく、ベータテスト初日から最終日である今日まで全くといっていいほどゲームを攻略することが出来ないプレイヤーもいる。
少女もその1人だ。
名前は『コハル』。蒼色の瞳と鴉の濡れ羽色の髪を肩口まで下ろしたその少女は、普段ゲーム等は全くと言っていいほど触れてこなかったものだから、奇跡的に受かったベータテストの期間全てを《はじまりの街》で過ごしていた。
このままではいけない、進まなければとは思っていたのだが、いざ外に出てみると足がすくんでしまい結局敵MOBの一匹も倒せないまま最終日を迎えてしまった。
「どうしよう……」
ようやく竦む足に活を入れ、どうにかこうにか外に出たものの、うろつく敵MOBを避けながら歩いていたところ迷ってしまい、こうして洞窟へと迷い込み今に至る。
このままでは、本当に何も出来ないままベータテストが終わってしまう。
変わりたい、そう思ったからこそこのゲームのテスターに応募し、そして奇跡的に受かったのに。
(そんなの――いやだ!)
カツン、カツン――
足音。こちらに近づいてくる。
今更この辺りのフィールドにプレイヤーが? どうする? 隠れる?
いや、隠れてどうする。ここで一歩踏み出さなきゃ。全く知らない人に何かを教わるなんて、しかもテスト最終日に戦い方を聞くなんて恥ずかしいし、冷たくされたらどうしよう……でも……!
「あ! あの!! ……えっと、こんにちは!! お話しても……いいですか?」
◇
「はじめまして、私、コハルっていいます」
ベータテスト最終日、今日までガツガツ最前線で戦ってたから、最後くらいこの世界を見納めようと《はじまりの街》近辺を散歩していたら思いがけないところに洞窟があり、何があるのかなーって軽い気持ちで探検してみたら
女の子に話しかけられた。
どうしよう……このゲーム始めてからまともに他の人と会話するのなんていつ振りだろう。ずっとソロプレイで、たまーにボス戦とか参加したけど、それもソロ参加で他のプレイヤーと会話なんて事務的なやり取り以外なかったし……うまく話せるかな。
「えっと、わた――僕は、アリス。アリスです」
「アリスさん……えっと、こんなこと言うのは恥ずかしいんですが実は私、ゲームが下手なんです。それも、ものすごく駄目なんです……」
この子はいきなり何を言っているのだろう。
「VRMMOどころか、ゲームも初めてで、一応はじめる前にネットでいろいろ調べてたんだけど、もう思ってたのとぜんぜん違っててね? 攻撃は当たらないし、逃げ足ばっかり速くなって、周りのみんなはどんどん強くなっていくのにちっともついていけなかったの」
呆気にとられる自分を無視して、目の前の女の子――コハルが捲くし立てるように話してくる。
「それでもちょっとだけうまくなった……と思うから、これからがんばろうって思ったらもう最終日……だから……思い切ってここに来たんだけど……迷子にまでなっちゃって……」
「えっと……だいじょうぶ?」
思わず遮って声を掛けてしまった。よっぽど余裕がないのか、眼は泳ぎ、機関銃のように早口で……そして、必死に何かを伝えようとしているのが分かる。
「あっ……1人でしゃべりすぎだよね、ごめんなさい……今まで心細かったからつい……」
ぺこり、と慌てたように頭を下げるコハル。少しして、頭を上げたコハルの表情には、いまだ羞恥の赤が色濃く残っているものの、先ほどとは違い何かを決心したような顔つきになっていた。
「今日で最後だけど、私、このまま終わりたくないの。……戦い方を教えてくれませんか?」
「――いいよ」
ここまで言われて、断る事なんてできっこない。見た感じ、同い年くらいかな。いやでもアバターだし、若くしてる可能性も……とそこまで考えて気づいた。
このゲームはアバターの性別を本来のものと変えられる事を自分は知っている。もしかしたら、このコハルって少女も実は……。
いや、やめておこう。どちらにせよ、失礼だ。承諾の意を伝えた瞬間から、ぱあっと輝いた彼女の顔には、嘘っぽさが全く無い。そんな人を疑うなんてどうかしてる。
「ありがとう! よろしくお願いします!」
最終日くらい、こういう事があってもいいよね?
◇
「じゃあ、僕が攻撃してターゲットを引き付けるから、コハルは自由に攻撃してみて」
そう言うや否や駆け出して、ちょうど近くに居たイノシシ型のMOB《フレンジーボア》に一撃当てる
「――ッ! わ、分かりました!」
コハルは一瞬ビクッと肩を震わせた後、すぐに自分を追いかけ、フレンジーボアに接敵した。
……いきなり呼び捨ては、まずかったかな。同年代に見えたし、つい呼んじゃったけど。
「え、えいっ!」
おっかなびっくりといった様子で、フレンジーボアに細剣で攻撃を加えるコハル。うん、当たってないね。腰が引けてるし。その間もこのイノシシは自分に向かって攻撃をせんと突進している。
ちなみにソードスキルは使ってないし使わせてない。たぶん使い方分かってないだろうし、今教えても混乱すると思うから、それは後だ。後。
ひらり、ひらり
イノシシの突進を躱しながら、ついでにイノシシにコハルの攻撃が避けられながら(イノシシとしては避けてるつもりは無いんだろうけど)時間だけが過ぎていく。
「ほら、腰が引けてるよ。後攻撃するときに目をつぶらない。それじゃあ当たるものも当たんないよ」
「は、はいっ!」
――この子、さっきちょっとは上手くなったって言ってなかったっけ……。もしかしたら自分といるから緊張しているのもあるのかもしれない。さて、どうしたもんか。
ふと、ひらめいたことがある。少し荒っぽいけど、一匹自分で倒せれば少しは自信がもてるんじゃないかな。……よし。
「それ……っ!」
丁度突っ込んできたフレンジーボアをバックステップでコハルとの距離をとりつつ、突進を受け止める。レベル差があるから、痛くもかゆくも無い。そしてそのまま――コハルへ突っ込むようにはじき返した。
「行ったよコハル!」
「――ふぇ? ……ええええええっ!」
案の定、慌てふためいてる。けどそのままじゃクリーンヒットしちゃうよ。
「落ち着いて! 腰を落として、動きを良く見て! まっすぐにしか来ないから! 無理に当てようとせず、そいつが突っ込んでくるところに剣を置くイメージで!」
「――はい!」
檄を飛ばすと、コハルの目がスッと据わり、腰を低く剣を構えた。そして――
「そこっ!」
一閃。交錯は一瞬。剣を振りぬいた体勢のコハルの後ろで、ガラスが割れるような破砕音と共に、フレンジーボアは青い結晶となって宙へ消えていった。
「……おめでとう。初討伐、なのかな?」
「……すごい……すごいよ! こんなにちゃんと戦えたの初めて!」
呆然としていたのは一瞬で、コハルは敵を倒せた喜びをぴょんぴょんと跳ねながら体全体で表している。
ちゃんと戦えてたとは決して言えないけれど……まずは第一歩かな。
「――わっ!」
「嬉しいなぁ……! ありがとうアリス!! 本当にありがとね!」
よほど嬉しかったのか、彼女はそのまま自分に抱きついてきた。データの世界だというのに、柔らかな女子特有のいい匂いが鼻腔を擽る
「……ご、ごめんなさい!」
すぐに彼女も正気に戻ったようで、慌てて自分から距離を取る。
「「……」」
き、気まずい……。初勝利に浮かれムードもどこへやら、照れくささでお互いに無言になってしまった。何か言わなきゃ……おめでとう?いやでもさっき言ったし……えっと、こういうときなんて声を掛けたら……
「あ、あの……」
意外にも、沈黙を先に破ったのはコハルだった。
「あの……アリスさえよければ……私と、友達になってほしいな」
朱に染まった頬のまま、彼女はそう、切り出してきた。……なんだ、そんなことか。そんなの、もちろん――
「グォオオオオオオオオオッ」
洞窟内を揺るがすような、耳をつんざくような雄たけびが辺りに響いた。バッとその音のした方向を振り向くと、先ほどのイノシシが可愛く思えるような醜悪なモンスターが次々とポップしているところだった。
「さっきとは違うモンスター……これって……」
――まずい、こいつはここよりもかなり上の層で出るモンスターだ。少なくとも、コハルでは到底太刀打ち出来ない強さの、敵。
今の自分の装備は最前線で戦っていたときの物とは違い、《はじまりの街》で買い揃えた初期装備だ。こんなことなら修行とかいって弱い装備にしないでいつもの装備にしてれば良かった……!
「囲まれてる!! どうしよう、このままじゃ……」
どうするどうするどうする……このままじゃ共倒れになる。ここは自分が引き受けて、コハルには隙を突いて脱出してもらって……!
「下がって」
この状況をどう打破するか思考を巡らせていた自分を、凛とした声が現実に引き戻した。いつの間にか近づかれてた!? いや、でもこの人、どこかで……
「ハァッ!」
突然現れた青年は、手にした片手用直剣を構えると、青い燐光と共にモンスターの群れへ飛び込んでいった。一閃、二閃――青年の剣が閃く度、モンスターは青いエフェクトと共に散って行く。
な、なんだこの人……めちゃくちゃ強いぞ……!
「強い……あっという間にやっつけちゃった……」
瞬く間に数を減らしていくモンスターたちは、文字通りの意味であっと言う間に一匹残らず狩りつくされていた。
「ふぅ……ここは決まった時間で強ザコがポップするんだ。自分の実力にあった場所でレベリングしたほうがいいよ」
血を払うような動作をした後、剣を背中にしまった青年は優しげな表情でこちらに歩み寄って来た。
「あ、ありがとうございます! 助かりました!」
「助かった……ありがとう」
そう礼を言い、コハルと共に頭を下げると、青年は少し困った表情で
「別に、通りかかっただけだから。……それじゃあ」
と立ち去ろうとした。な、なんだこの漫画やアニメの主人公みたいな人は!ロールプレイなのかな?
「待ってください! せめてお名前を!」
自分の隣にもアニメの登場人物みたいなこと言う人が居た。コハル……
「……は?」
呆気にとられる青年。私も呆然としてる。コハルに。
「私はコハル、こっちは、アリスです」
「リアルでそんな台詞を聞くとは……いや、ここはVRの中だけど……まあ、いいか」
名も知らぬ青年。私も同じ気持ちだよ。コハル、うすうす気づいてたけど、ちょっと天然入ってるな……
「……俺はキリト、よろしく」
キリト、キリト……やっぱりどこかで聞いた名前だ。どこだったかな……。うーん……思い出せない。
「キリトさん、ありがとうございました!」
「ありがとう」
やっぱり思い出せなかった。まあ、街で見かけた、とかそんな程度なのかもしれないし、深く考えないことにしよう。
「どういたしまして、それじゃあ、最後まで楽しもうぜ!」
キリトと名乗った青年は、片手を挙げニカっと笑うと去っていった。キリトさん、あなたも大概、物語の主人公だよ。
「いまの人、強くてカッコよかったね。……私ももっとがんばれば、あんな風に強くなれるのかな」
そうつぶやいたコハルの目は、憧れのようなものと、不安とで揺れ動いている。
「きっとなれるよ」
がんばればがんばるだけ、結果になって返ってくる。それがゲームだから。この世界でも、きっとそれは通用する。もっともっとがんばって、たくさんを知れば、きっと。だから自分は、この世界が唯のゲームでも、頑張ってきたし、きっとこれからも頑張る。決して天才とは言えないし、秀才にも程遠い凡人の私でも、最前線で戦えたんだ。コハルだって、きっと。
「そう……だよね。最初はみんな初心者だもんね。正式版でもがんばってみる!」
ぐっ、と拳を握りしめ、まっすぐに自分を見つめて来る。彼女はきっと強くなる。そう遠く無い内に、自分なんてあっという間に追い越してしまいそうだ。
「だからアリスには、また一緒に戦ってほしいな。強くなったところ、見せたいから」
「……次も手助けするよ」
だけどいまは、ちょっとだけ見栄を張らせて……。
「うぅ……嬉しいけど……もっと頼ってもらえるぐらい、がんばるね」
鐘の音が聞こえる。ベータテスト終了の合図だ。
『ソードアート・オンライン。ベータテストに参加いただき、まことにありがとうございました。本日、午後五時を持ちましてベータテストは終了いたします。ベータテスト終了にともない、全てのデータはリセットされます。正式版のご参加を心よりお待ち申し上げます』
「もう終わりかぁ……最後にアリスに会えて、本当によかった。アリス、またね!」
――私もだよ、コハル。
こうして、ソードアート・オンラインのベータテストは終了した。ログアウトした
このときの私は、あんな事件に巻き込まれるとは想像だにしていなかった。
これは始まりの始まり。あの世界で起きた出来事を、きっと私は一生忘れない――
コハルの瞳の色の表現を変更しました