※この話は小説説明欄にあるとおり、女性同士の恋愛及びそれに近い描写があります。苦手な方はご容赦ください。
◇ Side コハル
デスゲームが始まってから、年をまたいで4月8日。第一層を攻略してからというもの、フロアの攻略は順調に進んでおり、最初の停滞はなんだったのかというスピードで次々と上層への道が開放されていった。
今日私たちは偶然ドロップした、前の層のボスのレアドロップ品である武器を強化するため、下の層へと強化素材を集めに降りていた。
「……おっ! 集まった!」
「こっちもだよ。お疲れ様」
朝方から狩りをはじめ、太陽が真上に来る辺りまで狩り続け、ようやく目的の数が揃った。
「あーっ! つっかれたー!! コハル! お腹空いた!!!」
「ふふふ。了解。じゃあ、家に帰ろっか」
もうお腹ぺこぺこだよー、とお腹をさすりながら快活に笑うアリスを横目に、今日の献立を考える。お昼だから、あんまり重たくないほうがいいよね。そういえば、魚系モンスターから食材がドロップしていた事を思い出す。じゃあお昼はそれを使ってパスタにでもしようかな。うん、お昼はパスタに決定。
◇
第二十層を攻略した辺りから、こつこつと貯めてきたコルでついにマイホームを手に入れた。郊外にある少し大きめの洋風な一軒家で、2LDK。もちろんお風呂もある。
アリスは別々に家を買おうとしていたのだけど、別々に買うより二人で一つの家を買ったほうがいい物件が買えるし、ここまでずっと一緒に寝泊りしてきたのだ。今更離れ離れで暮らすのもと私が提案し、じゃあ、ということで結局一緒に暮らすことになった。
マイホームを手に入れた後、キリトさんとアスナさんを家に呼んだのだけど
「へぇ、同棲してるのか」
「ど、同棲!?」
「なんか、新婚さんみたいね」
「ししし、新婚!?」
などとからかわれてしまった。
「そっ、そんなんじゃ! ぜんぜん! ないですから!! も、もう。アリスもなんとか言ってよ」
「え? 私は別に満更でもないけど?」
「んなっ……!」
けろっとした顔でそんな事を言うアリスに、頬が熱くなる。キリトさんは「ひゅぅ」なんて口笛吹いてるし、アスナさんも「アリスって意外と大胆よね……」と呆れ半分だ。
なんということを言うのだアリスは――あっ!にやにやしてる!……もう!
「そういえば、ふと思ったんだけどさ……《恋人》とか《結婚》システムって同性でも可能なのかな」
「どういうこと?」
「このゲーム、《結婚》とか《恋人》とかもシステムで実装されてるんだよ。デュエルと同じで、申請して、受諾すれば成立する」
へえ、そんなシステムが……システムメニューを開き、フレンドリストを開く。その中からアリスの名前を探しタップするとさらにメニューが開いた。項目はトレード、告白する、プロポーズする、フレンドを解除するの四項目。
多分、告白するというのが恋人になりませんかという申請を送るメニューなんだろうね。で、プロポーズは結婚と。
試しに、告白するを選んでみると≪プレイヤー名:Aliceに告白します。よろしいですか? Yes/No≫というメッセージが表示された。
Yesをタップする。すると≪プレイヤー名:Aliceに告白しました≫というメッセージが表示された。
「あ、送れた」
「へ? 何がだ?」
「アリスに恋人申請」
「へぇ、やっぱり同性でも――ん!? 申請したのか!?」
え、何かまずかったかな。……あ、ウィンドウが≪プレイヤー名Aliceと恋人になりました≫に変化してる。
――うん? ………………うん!?!?
「ありゃ……システムに弾かれると思ったんだけど、通っちゃった」
「受諾したの!?」
「え、申請来たから……つい……」
ついって!! こ、これって……つまり、アリスと恋人になっちゃったってこと!?
「ど、どうしよう……!!」
慌ててアリスを見ると、アリスはぱちくりと目をしばたたかせたあと、ややあってこちらを見つめ返してきた。
そして少し目を潤ませながら私を見上げ――
「……いや?」
「……え?」
「コハルは私とじゃ……いや?」
――どくん。
心臓が高鳴る。べ、別に嫌ってわけじゃ……むしろアリスとだったら全然……でもでも! 知り合ってから間もないし、そもそも私とアリスは女の子同士だし……!!
「ねえ……コハル……」
「ひゃいっ!!?」
「目……つぶって……?」
いつの間にか近くまで来ていたアリスが、私の頬に手を添える。そしてそのまま顔を私に近づけ――
ぎゅっと目をつぶる。……が、いつまでたっても想像していた感触は訪れなくて……
「ぷっ……ふふっ……」
「……え?」
「ふふ……ふっ……コハル、顔真っ赤にしちゃってかわいい……!!」
目を開けると、そこにはアリスがお腹を抱え必死に笑いを堪えている姿が飛び込んできた。
「あーっ! もう! あ、アリス!!」
「あはははは!! あーおっかしぃ! あははははは!」
「もう!! もう!!!」
堪えきれなくなったのか、ゲラゲラと笑い始めたアリスを震える手でぽかぽかと叩く。が、残念ながらここは圏内指定の家の中。叩いても《Immortal Object》というシステムメッセージがむなしく表示されるだけで彼女は痛くも痒くもないだろう。
「はは……まあ、システム的な繋がりだし、いつでも破棄できるしな。お互いのストレージの他に恋人用のストレージも追加されるっていういい事もあるし」
「び、びっくりしたぁ……」
キリトさんとアスナさんも顔を赤くしながら笑っている。というかアスナさん。手で目を覆ってるけど、指の間が開きすぎてて全く意味ないですからねそれ。
ばくばくとまだ心臓が早鐘を打っている。もう、心臓に悪すぎるよ……
結局、ストレージが増えるからという理由で破棄はせずそのままにすることにした。まあ、キリトさんの言ったとおり、システム的な繋がりだけなので私とアリスの関係は別段変わったりはしなかった。
……その後少しだけ、アリスを意識してしまってぎこちなくなってしまったのは内緒の話。
◇
「ねえ、アリス」
「……うん、コハルも気づいた?」
狩りもひと段落し、家に帰ろうかとしていたとき、《索敵》スキルに反応があった。光点はおおよそ15。モンスターを表す赤い10の光が、プレイヤーを表す青い光を追いかけている。
誰かがモンスターに追われてる。プレイヤーの光が止まることなく一方向に動いてることから、そう推測し、アリスと頷き合ったあと私たちは放たれた矢のように現場へと急行した。
「くそっ! まだ追ってくる!!」
「このままじゃ追い付かれる……こうなったらやるしか……」
「でも回復アイテムはもうないんだよ!?」
間に合った……!
現場へ到着すると、5人のプレイヤーが一目散にモンスターから逃げ出しているところだった。
「下がってください!」
彼らを庇うようにモンスターとの間に割り込み、腰から抜き放った短剣を閃かせる。短剣用突進技《ラピッドバイト》。
青いエフェクトを纏い、システムにアシストされ加速しながら敵を貫く。
「アリスは右をお願い!」
「よし来た!」
アリスと背中合わせになりながら敵と対峙する。残り9体。私たちのレベルからかなり下のモンスターだから、二人でも全く問題なく戦える。
「いくよっ!」
《ファッドエッジ》を発動し、赤い閃光と共に私とアリスは二人同時にモンスターの群れへと踊りかかった。
◇
「我ら、月夜の黒猫団に……乾杯!!」
「「「「乾杯!」」」」
第十一層主街区《タフト》。レンガと石で作られた統一感のある綺麗な外観の街は、とっぷりと陽が暮れ、その外観を夜の街へと変貌させていた。
「んでもって、命の恩人、コハルさんとアリスさんに、乾杯!!」
「「「「乾杯!!!」」」」
「「……か、乾杯」」
街中のとある一角。NPC経営の酒場にて小さな宴会が開かれていた。
あの後、助けた相手がサチさんとその友人達であることを知り、再会を喜ぶと助けてもらったお礼と、友人達を紹介したいとのことで酒場へとやってきていた。
「それにしても、びっくりしたよ。まさか追われてるのがサチさんだったなんて」
「私も。助けてくれて、本当にありがとう」
そう言ってサチさんは深々と頭を下げ、続けて「紹介するね」と友人達を紹介してくれた。
「リーダーの、ケイタ」
「こうして会うのは始めましてになるのかな。よろしく」
「それで、こっちがテツオ、ササマル、ダッカー」
紹介された彼女の友人達がよろしく、と握手を求めてきたのでこちらもよろしくと返しながら答えていく。
「えっと、私はコハル。こっちがアリスで……サチさんとは《はじまりの街》からの知り合いです」
「アリスだよ。よろしくね」
改めて私たちも自己紹介をすると、サチさんを除いたメンバーが「あれが噂の……」「美少女二人で絵になるな……」と口々につぶやく。
ちょっと待って欲しい。今聞き捨てならない台詞が聞こえたような……。
「う、噂って?」
「えっとね……私たち中層プレイヤーの間では、最前線で戦ってる二人の事が噂になってるの。変幻自在の剣技で対人戦最強の《紅の戦姫》と、戦場に舞い降りた可憐な短剣使い《蒼の聖女》のコンビのこと……」
な、な、な……
いつのまにそんな噂が……!
隣ではアリスが「た、対人戦最強……?」と困惑してる。まあ、ハプニングがあったとはいえ、トッププレイヤーのキリトさんとのデュエルで勝ったのだ。その後色んな人からデュエルを申し込まれてたけど全部勝ってるし、多少尾ひれがついているかもしれないけど、妥当じゃないかな。
でも私のそれはなんだ。戦場に舞い降りた? 可憐な? は、恥ずかしい……!
「や、やめてよ……私たちは別に、そんなんじゃ……」
「けど、最前線で戦う女の子ってだけですごいよ。きっと、沢山のプレイヤー……特に女の子のプレイヤーは勇気付けられてるんじゃないかな」
私もそうだし……とはにかみながらサチさんはそういった。
どうやら、真しやかに私たちの事がうわさになっているらしい。恥ずかしいけど……すっごく恥ずかしいけど!私たちが最前線で戦うことが誰かを勇気付けられているのなら、それはとても嬉しいかな。
「あの……大変失礼だと思うんですけど……お二人ってレベルいくつ位なんですか?」
と、ケイタが飲み物を片手にささやくように聞いて来た。
「えっと……二人とも40になったばかりだよ」
「よ、40!! さすが最前線で戦う人たちだ……俺たちの倍以上もある」
私が自分たちのレベルを正直に告げると、ざわっと場が色めき立った。
そしてケイタがなにやらメンバーとひそひそと相談したかと思うとこちらに向き直り
「その……こんなことを頼むのは不躾で厚かましい事かとは思いますが……俺たちに指導をお願いします!!」
「「「お願いします!!!」」」
バッ!と勢いよく頭を下げた。それに習うかのように他のメンバーも頭を下げる。サチさんも「お、お願いします……」と少し恥ずかしそうに頭を下げていた。
「えっと……どうする?」
「まあ、知らない仲じゃないし……いいんじゃないかな」
ポリポリと頬を掻き、少し困ったような顔をするアリス。今最前線では迷宮の攻略がまだなので、次のボス攻略戦までは時間があるし、私たちは少しの間、彼らの戦闘を指導する事になったのだった。
◇
第二十層《ひだまりの森》
昆虫系のモンスターが多いこのフィールドは、上層にしては敵がそこまで強くなく、油断をしなければレベル上げをするのに適した環境だ。
今も、カマキリ型のモンスター《キラーマンティス》を相手に戦闘指南をしている所だ。
「――よっ、と!」
「今! テツオさん! スイッチ!」
「はいっ! っどりゃあああ!」
アリスが《キラーマンティス》の鎌を跳ね上げ、隙だらけのモンスターの懐にすかさずテツオが飛び込み、《アッパースゥイング》を首に叩き込む。
甲殻ごと叩き割る鈍い音と共に《キラーマンティス》がポリゴン片となって消滅した。
「ぃょっしゃあ!」
今のでレベルが上がったらしいテツオがガッツポーズと共に雄たけびを上げる。それを聞いたメンバーがやったな!とテツオの肩を叩き喜びを分かち合っていた。
本当に、仲がいいんだなぁ。
彼ら――ギルド《月夜の黒猫団》は、現実でも同じ学校で一緒の部活だったらしくとても仲がいい。強い絆で結ばれていることが見て取れるほどに彼らの結束は固かった。
《はじまりの街》でも、一人戦えないサチのために長槍を装備させようと全員で稼ぎに出ていたようだし、サチはその間、他の皆が安全に戦えるように情報を集めようとしていた。一人は皆の為に、皆は一人の為に。その言葉を体言したかのようなギルドだ。
「レベルアップおめでとう。じゃあ、今の戦闘の反省なんだけど――」
私は今も興奮冷めやらぬ彼らに近づき、今回の反省点を伝える。
彼らの得意武器は見事にばらばらで、パーティ構成も前衛が一人で、あとは中、遠距離とバランスが取れているわけではない。まずはそこから見直さなければならない。
ということで現在のパーティ構成は、前衛が棍使いテツオと、盾持ち片手剣使いのダッカーの二人。その後ろに長槍使いのサチとササマル。そして指令塔として両手棍使いのケイタの三人で勤める。基本、敵の攻撃はテツオとダッカーの二人で捌き、その後方からサチとササマルが槍で攻撃を加える。ケイタは前衛と後裔を状況を見て入れ替わるという戦法を取らせた。
「――そんな感じで戦えば安定すると思うよ。今のは敵が一体の時の戦闘だったから、今度は敵が複数体居るときの戦闘を見直してみようか」
「「「「「はい!」」」」」
元気良く頷いた黒猫団の皆を連れ、集団戦の練習の為に歩き出す。
なんだか、夢でも見てるみたい。ゲームなんてやったことが無い私が、こうして誰かにゲームの戦い方を教えてるなんて。
私も、始まったばかりの頃、アリスに戦い方を教えてもらったっけ。なんだか懐かしいなぁ……
そんな風に、昔を懐かしんでいた私は気づくことは出来なかった。
隣を歩くアリスの表情に、暗い影が落ちてた事に――
原作だと、サチや黒猫団の皆が死んだことによってキリトにトラウマが芽生えたわけですが、SAOIFだとどうなるんでしょうか。第一層ですでにサチと会ってるわけだから、主人公達の知らないところで黒猫団が全滅するってことは無さそうですし……
また、コハルが装備を変えています。SAOIFのタイトルだと、短剣持ってるんですよね。ゲームでは短剣実装されてないし初期装備が細剣だったのでコハルに最初細剣持たせてましたが、アスナと被るし……ということで武器チェンジです。
コハルの二つ名の蒼ですが、グリーンの意味で使っています。コハルの目の色であるエメラルドグリーンは漢字にすると翠玉ですが、語感が悪かったので蒼としています。