SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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アンケートに回答して下さりありがとうございます。
皆の気持ち、ちゃんと伝わったぜ…!


Alice in UnderWorld 3

 

 

 

 耐久戦に突入後、隙をみつけて色んな所を斬りつけてみたけれど、一番ダメージが通る……というか一番マシな所は首だった。

 それでもソードスキル込みでようやく一ミリ程度HPが削れるぐらいだったので、やるだけ無駄なんだけど。

 ギミックがなさそうならひたすら首を狙うしか無いだろう。その場合かなりの長期戦になるだろうから、空中ダンジョンで消耗したわたしは不利どころか不可能に近いんだけども。

 

 うーん、どうしよう。

 正直一人じゃ無理そうだから、ここは一旦諦めて……でも、またここに来れる確証も無いし……。

 

 この鏡の中の世界(仮)に突入してから、結構な時間が経った。

 ここに来るまでに武器はかなり消耗したし(ピッケル代わりにしたのは大量に在庫を抱えている窯の中のやつだ)、回復アイテムもあと僅か。

 黒ドラゴンのHPバーは、未だ一本目の八割以上も残っており、起死回生となり得そうな肩に刺さっている剣も狙うことが出来ない。

 

 非常に迷う。

 どう考えたって未発見のマップで、意味ありげなモンスター。そして明らかにレアアイテムだとわかる剣。

 攻略したい。ついでに言えば剣も欲しい。いや、最悪攻略出来なくてもいいから剣だけでも取って帰れないか。

 どちらにせよ、何かしらこっちの利となるイベントが起きなければ……。

 

 と。

 不意に背後に複数の気配が現れた。

 思わず口元が歓喜に吊り上がる。

 

 いや、もしかしたらとは思っていたけれど。

 それでも、本当に――来てくれるなんて。

 

 眼前に迫る、わたしが触れたら紙くずのように切り裂かれるであろう鋭い鉤爪が、後方から飛来した複数の魔法によって弾かれた。

 

 

 

 

 

「絆の名の下に、いざ推参……なんてな」

 

 

 

 

 

 

 ああ、やっぱりわたしのギルドは最高だ!!!!!

 

 

 

 

 

 

「アリス! おまたせ!」

 

 わたしを起点に、九人の妖精が並び立った。

 

 ブラッキー キリト

 バーサクヒーラー アスナ

 スピードホリック リーファ

 データバンク コハル

 藍氷の魔女 アイ

 魔弾の狙撃者 シノン

 魔竜使い シュピーゲル

 魔王 ディアベル

 

 わたしの、最高の仲間たち。

 頼もしいったらありゃしない。

 

「で、早速なんだけどどういう状況?」

 

 わたしの横に並び立ったコハルとアスナに、簡単に概要を説明する。

 その間他のメンバーには時間稼ぎをしてもらって。

 

「あの黒ドラゴンはよくわからないけどいきなり襲いかかってきた。HPバーが十本あるからボスエネミーだと思う。ただ、攻撃が全く効かない。唯一首だけは通るけど……ソードスキル込みで一ミリぐらいしか減らないから正直普通に倒す事は出来ないと思う」

「ギミックボスか、負ける事前提のボスってことね……それにしては、HPバーの一本目が二割近く減ってるけど?」

 

 頑張りました、わたし。

 

「クラーケンみたいに勝てないイベントボスだったとしたら、そろそろ何か起きてもおかしく無いと思うから、多分攻撃が出来るようになる、あるいは戦闘が終わる条件があるんだと思う。……一番怪しいのは」

 

 ちら、と視線を黒竜の肩にやる。

 楔のように突き刺さる半透明の剣を見て、コハルとアスナが頷いた。

 

「ということは、あの剣を攻撃するか、引っこ抜けばいい……のかな」

「ただ、あの剣に近づこうとすると笑えるくらい抵抗するから、作戦は立てなきゃ行けないんだけど」

 

 そうこうしている間も、メンバー達は黒ドラゴンに対して抵抗を続けている。

 キリトとディアベルがタンクを受け持ち、シノン、アイ、リーファちゃん、シュピーゲルが各々遠距離攻撃で妨害をする。

 本来のボスモンスターよりも凶悪に仕上がっているのだから、いつ戦線が崩壊してもおかしくはない。作戦を練るための時間はそんなに無いだろう。

 

 わたしが得た情報を話し、コハルが持つ知識を総動員し、ユイちゃんがそれに補足を加え、アスナがそれをまとめる。

 作戦が出来上がったのは、時間にして一分も掛からなかっただろう。

 

「それじゃあ、作戦を伝えるね」

 

 コハルがそう言って、風魔法の一つである拡声魔法によって作戦を全員に伝達する。それを聞き終えた皆が苦笑を零すような気配がした。

 

「っとぉ――! よし、一旦戻るぞ!」

 

 キリトが振るわれた鉤爪を弾き、一瞬出来た隙に戦闘を行っていた六人が集まってくる。

 そして素早く陣形を組む。

 《魚鱗の陣》を少し崩したような陣形。盾持ちのタンクであるディアベルが先頭に立ち、その後ろにキリトとアスナ、そしてその後ろにわたしとコハルとリーファちゃん。最後列には、シノン、シュピーゲル、アイが立つ。

 

 わたし達が何かを仕掛けてくると感じたのか、黒ドラゴンが雄叫びを上げた。

 それに負けないように、大きな声でわたしは全員に対して一斉に指示を下す。

 

「全員……突撃――ッ!!」

 

 鬨の声を上げながら突撃する、たった九人の妖精。

 

 アスナが考案した作戦は至ってシンプル。

 

 全員で攻撃をしのぎながら、剣までの道を一点突破する根性作戦。

 ……作戦? 作戦ってなんだっけ。少なくともこんなゴリ押しを作戦とは呼ばない。

 でもまあ、これはこれでわたし達らしい、よね。

 

 一撃目、振り下ろされた右腕をシノンの弓ソードスキルと、シュピーゲルの召喚した飛竜のブレスで威力を減衰させ、ディアベルが盾で受け止めた。

 

「「「スイッチ!!」」」

 

 ディアベル達が作ってくれた一瞬に、アイを除く六人で横を駆け抜けた。

 続いて横薙ぎに振るわれる左腕。それはアスナとキリトが寸分の狂いもなく同時にソードスキルを起動し、弾き返した。

 

「「スイッチ!!!!」」

 

 わたしとコハルとリーファちゃんの三人が黒ドラゴンの目の前で跳躍。

 直後、やつはがぱりと大顎を開け、黒い稲妻をその口に纏い始めた。ちょちょちょちょブレスなんて聞いてない。

 

「お口にチャック!!! ――fasta svefni!」

 

 しかし、アイの氷魔法が間に合う。

 びゅおっ、と凍てつく風が通り抜け、黒雷ごと黒ドラゴンの口周りを凍結させた。

 ボスモンスターであるから完全に凍りつきはしなかったが、それでもブレスの発動を止める効力はあったようだ。

 

「いっけぇ! お姉ちゃん!」

「ありがとアイ!!」

 

 だが黒ドラゴンの抵抗を諦めない。

 今度はその尾をしならせ、槍の如くわたし達三人目掛け薙いできた。

 

「リーファちゃん!」

「はい! アリスちゃん、これに!」

 

 その攻撃は一度見ている。

 両腕の届かない空中に居る時は尻尾による攻撃がある事は、すでにアスナ達と共有済み。故に、最後にそれが来るだろうということは予測していた。

 

 リーファちゃんが水平に構えた剣の上に足を掛け、彼女の剣を発射台としてわたしは射出された。

 そのまま振るわれた剣は竜の尾にぶつかり、さらに後ろからコハルの連撃ソードスキルが叩き込まれた事で抑え込まれた。

 

「「スイッチ!!!」」

「――とぉどけぇえええええええ!!!」

 

 砲弾と化したわたしは尾の下をくぐり抜け、黒ドラゴンの背に刺さる、黒く光る剣。その柄へと手を伸ばした。

 わたしの胸ポケットに入っていたユイちゃんが声を上げる。

 

「アリスお姉ちゃん! それを引き抜いて下さい!!」

「わかった!」

 

 勢いのまま、わたしは剣の柄に手をかけ、思い切り引っ張った。

 引っ張ったんだけど……めちゃくちゃ固くない? 

 

「ふぬぬぬぬぅ……!」

「が、頑張って下さい!!」

 

 両手で柄を持ち、足を開いてぐぐぐぐっと力を込めるもびくともしない。

 手応えが無いわけじゃなくて、僅かずつ引き抜けているものの、黒竜が怯んでいる間に抜く為には時間がかかりすぎる。

 

「えぇい……! Ek……fleygja……ceann……pléascadh!」

 

 わたしの力だけで無理なら、外から勢いを付けてやればいい。

 幸い、垂直ではなく斜めに突き刺さっているからあの方法が使える。

 わたしは引き抜こうとする方向とは逆の地点を指定し、爆発魔法を唱えた。

 

 ぎゅっ、と空間が凝縮し、どかんと弾けた。

 

「ぬっ……けたぁーーーー!!!」

 

 狙い通り、ダメージは受けたもののすぽんと剣が引っこ抜けた。

 支えとなっていた剣が抜けたことで、わたしは爆風に煽られて黒ドラゴンの首付近にまで吹き飛ばされた。

 好都合!!

 

 鎌首をもたげていた黒ドラゴンの、狂気を宿した瞳とわたしの視線が交差した。

 その口は未だに霜が残っており、ブレスや噛み付き攻撃をすることはできないだろう。

 

「その首……置いてけぇ!」

「怖いですアリスお姉ちゃん!!?」

 

 まあ流石に首を落とすことは出来ないだろうけど。それでもこれみよがしに置いてあった剣を使うんだ。これまでと違ってちゃんとダメージは通るはず!!

 

 

 というわたしの目論見は、良い意味で裏切られた。

 

 まるで羽のように軽く、重さを感じない剣を振りかぶり、生物最大の弱点である首に向けて振り下ろした。

 ずぱっ、と軽快な手応え。

 

「はえ?」

 

 まるでお豆腐に包丁を入れたかのように、まるで抵抗無く首筋へと刃が通り、そのままするんっと通り抜けてしまった。

 

「っ、とと……」

 

 たたらを踏みながらも着地に成功し、数歩跳んで距離を開ける。

 他の皆も集まり、どうなったのかとわたしに視線を投げかけてきた。

 

「あれ、ユイちゃん。わたし切ったよね? 幻じゃないよね???」

「はい。アリスお姉ちゃんの攻撃は確実にエネミーへと届いていました。ですが、HPの減少は確認出来ません……」

 

 ど、どういうことだろう。

 攻撃は通ったのに、HPが減らないなんて。

 皆して疑問符を頭上に浮かべ首を傾げていると、ぷつっ、という音と共に黒ドラゴンの首に赤い線が走った。

 そして、ゆっくりと、その線から上――黒ドラゴンの首がずるりと滑ったかと思うと、地面へと落下した。

 

「く、首を狩っちゃった!?」

「倒したの……?」

 

 分からない。

 ただ、HPバーが減っていない以上、油断はしない方がいいだろう。

 もしかしたら第二形態とかあるかもしれないし。

 

 やがて、地に落ちた首の断面が、ごぽりと黒い泡をたったかと思うと、身体によくなさそうなケミカルな色の煙を吹き出しながら体積を小さくし、ついには消滅した。

 そしてそれを待っていたかのように、黒ドラゴンの身体もずずぅんと横倒しに倒れた。

 

「「「「「「「「「……………」」」」」」」」」

 

 まだ油断はしない。

 全員でそのドラゴンの様子を見守る。

 一秒、二秒、三秒。

 お、やったか? と思いかけたその瞬間、ピクリと黒ドラゴンの腕が動いた。

 ほらきた!!

 

「警戒! 復活するよ!!」

 

 わたしの言葉に、全員で武器を構えた。

 目前では、黒ドラゴンの首の断面から、先程地面に落ちた首と同じように黒い泡が出現し、あっと言う間に元に戻ってしまった。こわ。

 

「やっぱりあったか第二段階……」

「ええ……まずは防御に徹して、攻撃パターンがどう変化しているか見極めましょう」

 

 キリトのつぶやきにアスナが返し、わたし達は頷いた。

 さあこい第二形態。わたし達は負けないぞ。

 

『ふぅぅ~い……スッキリしたわい』

 

 ま、負け……

 

『ふむ。貴様らか。ワシを解放してくれた妖精は』

 

 …………

 

『ワシの名は《混沌竜ジャバウォック》。礼を言おう。小さき者共よ』

 

 しゃ、喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

《混沌竜ジャバウォック》と名乗った黒竜は、先程までの狂気に染まっていた紅い瞳に理性を宿していた。

 

『どうした、小さき妖精共よ。このワシが礼を述べたのだ。伏して受け取り感涙にむせぶがよい』

 

 めちゃくちゃ上から物を言うじゃんこの竜……。

 小さき妖精っていうのは、確かにこのジャバウォックの巨体からしてみればわたし達なんて羽虫に等しいだろう。

 スリュムの時はかちんと来た上に敵だという事が確定していたから噛み付いたけど、今は我慢。

 なんでかって、先程までは《???》となっていた相手を示すカーソルが《混沌竜ジャバウォック》と変化し、中立NPCという証明の緑色になっていたから。ついでに、あれほど頑張って削ったはずのHPゲージが全快しているし。

 

 わたしは微妙に頬を引き攣らせながら、恐る恐る口を開いた。

 

「えと、ありがとう……ございます?」

『うむ。苦しゅうない』

 

 あれぇ? ジャバウォックの言が確かなら、わたし達は彼(性別があるのかは分からないけど)を何かから解放して礼を言われていたはずなのに。あっという間に立場が逆転してしまっている。

 さて、この傲岸不遜を体現したかのような存在に対し、どう対応しようか。

 

 作戦ターイム!!

 

「……どう思う?」

「イベントが進行した……としか」

「アーカイブを参照した所、個体名《混沌竜ジャバウォック》の設定クラスは中立NPCとなっています。そして先程まで戦闘していた時よりも何故かステータスが上昇しています」

「どのくらい……?」

「具体例を上げると、《雷神トール》や《フレースヴェルグ》、《リヴァイアサン》に匹敵します」

 

 神様クラスじゃん。

 つまり勝てないってわけね。理解した。

 

 一応、態度こそ偉そうなものの、敵対するような気配はない。

 こちらが下手に出ていれば、気に入らんから潰しとこうなんて事にはならないはず。

 

『何をこそこそと話しておるのだ』

「いえ! なんでもありません!!」

 

 いきなり大ピンチ!!

 

『ふむ。まあよい。貴様らの働き、大義であった。褒めてつかわす』

「あ、ありがたきお言葉……」

 

 めちゃめちゃ上からじゃんこの竜。何様だ。

 デスペナ上等で反逆してやろうか。

 でも、もしかしたら助けた礼として何かくれるかもしれないし我慢だ我慢。耐え忍べわたし。

 

『…………』

「…………」

 

 え、あれ。

 なんでなにも言わないの。

 

『…………?』

「…………?」

 

 首をかしげるわたしと黒竜。

 視線だけ後ろに投げてみれば、他の皆も同様に疑問符を浮かべている。

 きっと今、わたしと仲間達の思いは一致しているはずだ。それだけ? って。

 

「……それだけ?」

「ばっ、おまっ」

 

 口に出てしまった。

 慌てて口を閉じるがもう遅い。

 

『ほう? ワシの礼の言葉だけでは足りぬと?』

 

 当然のように、ぎろりと黒竜の紅い目が睨みつけてくる。ひええ。

 

「いえいえ! そんなめっそ……」

 

 ちょっと待った。

 それでいいのかわたし?

 フレースヴェルグの時は、わたし達が正規ルートでなく侵入してしまったという負い目があった。だから、困難な冒険の果てが強制送還だとしても、不満はあっても納得はした。結果として伝説級武器一つをお土産にかっぱらって来ちゃったのはご愛嬌。

 それに比べ、今回は、この場に入ってしまった経緯こそ偶然だけれど、はちゃめちゃに強い黒竜と戦って、狂化の解除っていう明確な功績を残して。

 その結果が、ただのお礼の言葉だけ?

 それはちょっと、いやだなぁ。

 

「ユイちゃん。もしなんかあった時、ここからすぐに脱出出来る?」

「え? はい。後方にある鏡が出口として設定されているので、恐らくそれに触れる事でこのインスタンスダンジョンからは離脱出来ると思いますが……まさか」

 

 はい。文句を言って(喧嘩を売って)きます。

 

 後ろ手でハンドサイン。

 内容は『退却準備』。背後で苦笑するような小さな声が漏れた。

 

 わたしはまだ手に持っていた虹色の剣を地面に突き立て、覚悟を決めて声を上げる。

 

「恐れながら、今回の働きに見合わないのではないかと」

『……ほう?』

「つきましては、報酬を頂きたく」

 

 敬語これであってる? いやまあ合ってたとしても言ってることが超特大の不敬だから関係ないか。

 わたしが言った『助けてやったんだから見返り寄越せ』という台詞に対し、ジャバウォックは烈火の如く怒り出すわけでもなく、ただ興味が湧いたと片目をつい、と上げた。

 

『貴様らは不敬にも、ワシに対して褒賞を求めると?』

「はい」

『それをワシが断ると言ったら?』

 

 ジャバウォックから発せられる威圧感が増した。

 思わず一歩下がりそうになる気持ちを気合で止め、ついでにもういっちょ気合で不敵な笑みを浮かべる。

 

「ちょっとばかり、ささいな――」

 

足元から剣を引き抜き、黒竜の鼻先へ突きつける。

 

「反逆を」

 

 ジャバウォックは一瞬だけきょとんとした表情をし、そして大口を開けてゲラゲラと呵々大笑し始めた。

 

『は。は、はは! フハハハハハハ‼‼ 小さき者が! このワシに対して褒美を求め、あまつさえ断れば反逆をすると!!!』

 

 お。これはどっちだ。

 この手の傲慢な王様気質なやつは、こうやって思いもしなかった反撃に対して『そんな事を言われたのは初めてだ』と何故か機嫌が良くなるか、大笑いした後に『不敬。ぶっ殺す』とブチ切れるかのどっちかの反応をするだろう。

 前者はスグちゃんやアイに借りた少女漫画で、後者は漫画化されたネット小説なんかで見た。

 実際にそんな事したらピクリとも笑わず「死刑」と言うだろうけど……。

 さて。ジャバウォックの反応は。

 

『――気に入った』

 

 少女漫画の方きた!!!

 

『小娘。名を名乗れ』

「……アリス。ギルド《ウィンクルム》団長、アリス」

『く、くくく……よりにもよって貴様がその名を持つか。良い良い。実に運命的だ』

 

 《混沌竜ジャバウォック》は、わたしの名にカラカラと笑う。

 

   夕火あぶりの刻、粘滑らかなるトーヴ

  遥場にありて回儀い錐穿つ。

  総て弱ぼらしきはボロゴーヴ、

 かくて郷遠とおしラースのうずめき叫ばん。

 

 とある物語に登場する詩の一部だ。

 意味が全くわからない? 大丈夫。そういうものだから。

 

 ジャバウォックは物語の中の書物で触れられるだけの、登場人物(人ではないが)ですら無い存在だけれど、その知名度はなぜか高く、童話を元にしたゲームなんかだと頻繁に登場する。

 原典では人殺しの怪物という事しか分からない上に、その正体は議論の場を示すものといった意見や、『ナンセンスな詩』そのものという意見、そもそも大した意味なんてないとする意見もあり、正体が定まっていない。

 

 不可思議の権化、混沌そのもの。正体不明の怪物。

 

 それがジャバウォック。

 

 そして、ジャバウォックという存在が初めて世に出ることとなった物語、それが――

 『鏡の国のアリス』だ。

 

 お祖母ちゃんにつけてもらった、わたしのミドルネーム。

 もしかしたらと思っていた。鬱蒼とした森の中の、理解不能な鳴き声のドラゴンなんて、わたしはジャバウォックしか思い当たらないから。

 

『よかろう。では、貴様の持つその剣を褒美としてくれてやろう』

「ホント!?」

 

 なんかレアなアイテムの一つくらい寄越せとは思っていたけれど、これは望外の僥倖すぎる……! 欲しいと思ってた剣を本当にくれるなんて!

 ジャバウォックが爪先を剣に向けると、今までアクリルガラスのように透き通っていた剣がきらきらと発光し、実体を持った。

 

刀身はおよそ一四○センチ程。柄頭まで合わせるとわたしの身長を超えるくらいの長さの、両片手剣。

 鏡面のように光を反射している剣身は両刃。ガードは花弁を模した縁と、中心が窪んでおり柄頭まで伸びるナックルガードも相まってティーカップのように見える。

 

 特徴はその軽さだ。

 バスタードソード並みの長さを持ちながらも、その重量は短剣と同程度。

 試しに数度振るってみれば、ひゅんっと軽やかな風切り音が心地いい。

 

「んふ、んふふふふふ……」

「うわ、気持ち悪い笑い方」

 

 試し切りの相手はキリトにしよう。決定。

 

 いやでも、これは本気で嬉しいぞ。

 だってだって、装備メニューで確認しなくても分かる。これはきっと、伝説級武器だ。

 

『その剣は《ヴォーパルの剣》とだけ呼ばれる無名の剣。故に、今からワシが銘をつけてやろう』

 

 そう言ってジャバウォックは、わたしの手に持つ剣へと視線を向けた。

 

『うむ。今よりその剣の銘は――《幻想剣アリス・クオリア》だ』

 

 瞬間、剣から眩い閃光が迸った。

 思わず目を瞑り、数秒の後ゆっくりと開く。

 

 手にしていた剣に目を落とす。

 

黒く光る鏡面のようだった剣身は虹色に輝き、産声を上げるかのように燐光を放っている。

キラキラと目を奪われるような美しさは、まさに幻想的だ。

 

 こうしてわたし達は、《雷槌ミョルニル》や《聖剣エクスキャリバー》だけでなく、三本目の伝説級武器を手に入れたのだった。

 

 




・《幻想剣アリス・クオリア》
 混沌竜ジャバウォックにゴネた事で手に入れた、《世界樹の枝》と同じ本来手に入れる事を想定していない伝説級武器
 本来、この《鏡の国》で混沌竜ジャバウォックのクエストをこなした場合、混沌竜の竜魔法(超広範囲にランダムのバッドステータスをばら撒く悪質な魔法)を授けられ、剣は折られる想定だった。
 が、ゴネちゃった事とよりにもよってその相手が《アリス》というニックネームを使っていた事からジャバウォックのAI君が悪ノリをした。銘をわざわざつけたのは、一度は自分の首を落とした特攻武器なので、自分が名付け親となることでジャバウォックへの特攻効果を無くしたかったから。アリスは気づいてない。
 性能についてはまたどこかで。

 キャリバー編は一旦終了。最後ぶつ切りなのはユルシテ……
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