ひたむきチョコレートのコハルが欲しかった……!
そしてイベントで手に入るチョコがコハルのだけ【愛情チョコレート】でうわあああああああ!
何が言いたいかっていうと
遅くなってすみませんでしたあああ!!!
※今回の話はちょっとポエムってます。苦手な方はご容赦を。
◇Side コハル
私にとってアリスという少女は、最愛のパートナーであり、守りたい存在であり――この世界での生きる意味である。
初めて出会ったあの日から今までの二年間。彼女に対する思いは、漠然と抱いていた憧れから恋心へといつのまにか形を変えて強く、強く胸に刻まれた。
一度別れてしまった後、焦がれた想いは日々を過ぎる度に募っていった。胸を占める彼女の割合は、再び出会えたことでそれは足し算ではなく乗算で、瞬く間にその体積を膨らませていった。
目の前で輝くポリゴン片となってしまった時は、自身の存在がガラガラと音を立てて崩れ去っていくかのような感覚に囚われ、もしあのまま彼女が死んでしまっていたら、私はきっと後を追って自殺していただろう。
だから奇跡的に彼女が助かり、更に私の事を好きだと伝えてくれて、両想いだと分かった時には、パンパンに膨れ上がった気持ちが爆発した。その結果皆の目の前だというのに思わずキスをしてしまった事は致し方がないと思うのだ。
半年間と聞くと、その離れていた期間を短いと思うかもしれない。けれどその半年間は、常に死別の可能性が色濃くあった半年間だったのだ。いつ、彼女が死んでしまうか。フレンド欄の名前がグレーに染まり、黒鉄宮の生命の碑に横線が刻まれるか、不安で不安で仕方が無く、焦りと恐怖で気が狂いそうだった。
蘇生アイテムがドロップするというクリスマスボスの噂を、半信半疑ながら捜索したのは、彼女が死んでしまうかもしれないという恐怖を少しでも和らげる可能性があったからに他ならない。
その結果、彼女を見つける事が出来たのは、望外の僥倖だった。彼女は私を見て「何故ここに」と疑問を口にしたけれど、それは私の台詞だった。イベント限定とはいえ、フラグボスを一人で討伐しようとするなど、無茶にも程がある。
ともかく、あの日、恋焦がれた彼女と再会し、そして結ばれた時から、彼女は私の生きる理由の一つとなった。
二度と失いはしない。もう二度と、彼女と離れたくない。
生き延びるだけじゃない。彼女を守る。そして共にゲームをクリアして、この閉じられた世界から脱出する。
私が探していた、生き延びること以外の、その先のこと。
やっとの思いで見つけた答えは、ずいぶんと身勝手な、そして単純な答えだった。
◇
「んぅ……」
ピピピピ、という機械音めいたアラームの音で、眠りの底に落ちていた意識が浮上する。
SAO内でのアラームは個別に設定することができ、音の種類は弦楽器や鳥の囀り等様々あるのだけれど、私はこの規則的な機械音を好んで設定していた。
設定時刻は七時ちょうど。この時刻に設定しているのは訳がある。その理由とは――
「すぅ……すぅ……」
アリスは八時ぴったりに目を覚ます。きっと彼女はその時刻にアラームを設定しているのだろう。私がまどろみから目を覚ました後もぐっすりと眠っている。
「ふふ……」
むぎゅ、と彼女の豊かな双丘に顔をうずめる。やわらかな感触に顔全体が包まれ、少し息苦しさを感じるが、これでいい。
「うーん……」
彼女は一度眠ると、ちょっとやそっとじゃ目を覚ますことはない。だからこうして私が抱き枕のように彼女に絡みついていても少し寝苦しそうにするだけですぐにすやすやと寝息を立て始める。
とくん、とくん。
彼女の鼓動を聞き、再び訪れたまどろみに身を任せる。
心地よい、その規則的な音を聞きながら、二度寝をする事が私の朝の楽しみなのだ――。
◇Side アリス
「うみゅ……」
涼しげな川のせせらぎと、鳥の囀る声の効果音で目を覚ます。寝返りを打とうとして――身じろぎ一つ出来ない事に気が付いた。
「んふふ……アリス……」
ああ、またか。
コハルは寝相が悪い。一緒に寝るといつも私を抱き枕のようにして幸せそうに眠っているのだ。別に嫌なわけではなく、好きな人とこうして触れ合っているだけで暖かい気持ちで満たされる。だけどもこの金縛りもかくやという拘束具合は如何ともし難いものがある。
幸せそうに胸に顔を擦り付けるコハルを起こさないように、ゆっくりと右手を拘束から解き、サラサラとしたコハルの髪を手櫛で梳くように撫でる。
デスゲームが始まってから、ずっと隣に居続けてくれたコハル。辛いときも、楽しいときも一緒に居てくれた。自分勝手な、それも勘違いで一方的に別れを告げた自分を想い続け、そして受け入れてくれた。
彼女の顔も、声も、こうして私に抱きついて緩みきったその表情も。彼女の全てが愛おしく、一番の大切。
――もう、絶対に逃げない。一度は別れてしまったけれど、今度こそ。二度とは離さない。無くさない。
「ん……」
パチリ、とコハルが目を覚ました。どうやら起こしてしまったようだ。未だに眠りから覚醒していないのか、とろんとした目で私を認めると「おはよ、アリス」と嬉しそうにはにかんだ。
「おはよう、コハル」
私の、私達の朝はこうして始まった。
◇Side コハル
「ねえ、《はじまりの街》に行ってみない?」
SAOが発売されてから丁度二年が経過した。秋も深まり、紅く色づいた木々の葉が連綿と街を彩り飾り付ける。
鮮やかなまでの紅は、彼女の瞳をどうしても連想させるせいで去年はあまり好きな季節とは言えなかったのだけれど、こうして彼女が隣に居る今は一番好きな季節だなんて、自分でも調子がいいなぁとは思う。
窓から見える紅葉を眺め、上機嫌に鼻歌を奏でながら朝食を作っていると、アリスがそんな風に声を掛けてきた。
「《はじまりの街》? どうしたの、急に」
最初の方こそ大きな都市ということでプレイヤー商人達が多く集まるので、ちょくちょくと訪れていたのだけれど、攻略が進んでからは中層に拠点を移すプレイヤーが殆どだったのでわざわざ《はじまりの街》にまで転移することも無くなっていった。
「うーん、なんとなくなんだけど、さ。もう直ぐ二年になるじゃん? だからコハルと初めて会った場所に行きたくなった……っていうか、その……」
照れくさそうに、頬を掻きながらふいと横を向いた彼女があまりにも可愛らしく、少し意地悪をしてみたくなった。
「ていうか……なぁに?」
「も、もう!」
私がわざと聞き返したと分かったのか、彼女は羞恥に染まった頬で一度怒ると、顔を真っ赤にしたまま続きを口にした。
「コハルとの思い出の場所を一緒に回ってみたかったの! ……良い思い出ばっかりじゃなかったけど、それでも、もう一度」
あの街は私達がデスゲームに閉じ込められた切欠でもあり、確かに嫌な思い出もあるけれど、それよりももっと沢山の素敵な思い出がある。プレゼント集めに奔走して、最後は皆と空を飛ぶだなんて体験をする事が出来た初めてのクリスマスイベント。おせちを食べるため、狼型のモンスターを討伐したお正月。バレンタインのイベントでは皆でチョコも作ったっけ。
もう一年以上前のことだというのに、色あせる事無く今も鮮明に思い出せる楽しかった日々。こうして振り返ってみると、やっぱり色々な事があったんだなぁ……。
「そうだね、私ももう一度アリスとあの街を回ってみたいな」
最近ずっと迷宮区に篭っていたから、この辺で一回初心に戻るのもアリだよね。
言い訳じみた事を考えながら、私は久しぶりにのんびりアリスと出かけられると上機嫌で支度を始めた。
◇
「……やっぱり、こうしてこの場所で空を見上げてると思い出しちゃうね」
第一層《はじまりの街》、その転移門広場。主街区の名前の通り、私達が始まった場所であり、そして日常が終わった場所。あの真紅の市松模様が空を染め上げたあの時のことはあまりにも衝撃的で、忘れたくても忘れられそうにない。
「まだ、怖い?」
転移門を潜る前から繋いでいた左手。その先からアリスが紅玉色の瞳を不安に揺らめかせながら見上げてきた。
「ううん、平気だよ。私にはアリスが居るから」
不安でつぶれそうになったって、私にはアリスが居る。大好きな人が、愛する人が側にいるから、私は何度だって立ち上がれる、闘える。
「大好きだよ、アリス」
繋いだ手を、指を一本一本絡めるような繋ぎ方……いわゆる恋人繋ぎへと変える。
「私も。……大好き」
以前は私が好きだよなんて言うと、顔を真っ赤にしてわたわたとしていたものだけれど、最近のアリスはこうして真っ直ぐに見つめ返してくるものだから私の方が赤面してしまう。
その時。
「いや……っ! 誰か……!」
耳が微かに捕らえた、小さな悲鳴。
「……アリス」
「うん。……こっち!」
◇
市街地を抜け裏通りに入り、しばらく進むと丁度突き当たりに入る直前、通路を塞ぐようにしてスクラムを組んでいる一団が目に入った。一人、二人……十人位だろうか。灰がかった緑と、黒い鉄の冷たいギルドカラーは……《アインクラッド解放軍》のもの。
男達に遮られていて、その先を見ることはかなわないのだけれど、さっきの声からして、きっと……。
「何をしているんですか」
集団に掛けた声が自然と固く、厳しいものになる。
「……あん? なんだあんたらは。こっちは税の徴収で忙しいんだ、あっちいけよ」
「税の徴収……?」
アインクラッドに税金システムなんてあっただろうか。ちらと隣のアリスを見やると「ううん、そんなもの無いはず」と未知のシステムを否定した。……ということは税金だなんだっていうのはこの人たちが勝手に言っているだけ?
「見ない顔だから知らないのか? 我々《軍》はここ《はじまりの街》におけるプレイヤーへの物資の提供から安全の確保までを一手に担ってるんだ。その対価として税を払ってもらうのは当然だよなぁ?」
にたにたとした嫌らしい笑みを浮かべながらさも当然と言い放つ男に、苛立ちが募る。
「こいつらはずいぶんと税金を滞納してるからなぁ……金だけじゃ足りないよなぁ」
「そうそう、装備も置いていってもらわないとなァー……何から何までをな」
男達の下卑た笑いに、この路地の奥で何が行われようとしているのかを理解した。集団の隙間から辛うじて見えたのは、十代前半と思しき一人の少女と二人の少年達が防具を除装した姿で身を寄せ合い恐怖に震えている。
――許せない。
苛立ちは明確な憤りへと昇華し、目の前が真っ赤に染まる。アリスも同じようで、ワナワナと振るえ拳をきつく握り締めていた。
「アリス」
「うん」
短いやり取りでお互い何をするのかを伝え合うと、そのまま無造作に地面を蹴った。
圏内では《犯罪防止コード》が働いており、他のプレイヤーへダメージを与えることはもちろん、無理矢理に移動させることも出来ない。だからこそ私たちは、道をふさぐ彼らを一息に
「んなっ!」
「なんだと!?」
男達の声が驚愕に彩られるが、そんな事はどうでも良い。片隅で震え固まっている彼女達に歩み寄り、出来るだけ柔らかな表情を作ることに努めながら声を掛ける。
「もう大丈夫だよ。さ、防具を元に戻して」
少しの間きょとんと目を丸くしていた少女達だったけれど、すぐにハッとなり地面に転がっていた各々の防具を拾い集めウィンドウを操作し始めた。
「おい……オイオイオイオイ!」
ようやく我に返ったのか、固まっていた集団の内の一人が声を荒げ詰め寄ってきた。
「なんだお前らは!! 《軍》の任務を妨害すんのか!?」
「まあ、待て」
すると、集団の中心――恐らく、リーダー格なのだろう――がその男を押しとどめ前に出た。
「あんたら見ない顔だけど、《軍》に楯突く意味が分かってんだろうな?」
腰から抜いた、大振りのブロードソードをぺたぺたとわざとらしく手に打ちつけながらこちらへとゆっくりと歩み寄って来る。そのまま恫喝してくるかと思ったけれど、彼は私達の姿を認めると、じろじろと不躾な、粘つくような視線で眺め、いやらしく口元を歪めた。
「へえ……あんたら、結構可愛いじゃないか。今なら、特別に許してやってもいいんだぞ? ……その代わり、後で
ぷっつん。
頭の中で、張り詰めていた糸が切れる音がした。それは理性を繋ぎとめていた一本の糸。身を焦がすほどの激しい怒りが、私の頭から《穏便に済ませる》という選択肢を焼き払った。
「アリス、左お願い」
「りょーかい、やりすぎないでね?」
アリスには悪いけれど、その約束は守れないかもしれない。
この男達は、年端も行かない子供達を恫喝するだけじゃなく、私のアリスを――一番大切な彼女を、手にかけようとしたのだ。許せるはずもない。
素早くウィンドウを操作し、お出掛け仕様だった私服をクイックチェンジで戦闘用へと変化させる。
「……へ?」
私の突然の行動に驚いたのか、リーダー格の男が目を白黒させながら戸惑っている。……そんな隙だらけじゃあ、最前線のモンスターに五回はHPを全損させられているだろう。
短剣を順手に握り直し、唖然とする男へ容赦なく《アーマーピアース》を叩き込む。このスキルは鎧の隙間を縫って弱点部位へと当てることでダメージが上がる技なのだけれど、私はわざと男の鎧の中心へと短剣を突き立てた。
炸裂する紫色の閃光が、爆発音とまごう大きさの効果音と共に周囲を眩く照らしだす。
「……次」
「ひ、ひぃっ!」
吹き飛び尻餅をついた状態のリーダー格を一瞥もせずに捨て置き、次の標的へと目を走らせる。じり、と後ずさりした集団の内の一人を、《ラピッド・バイト》で距離を一瞬にして詰め弾き飛ばす。
「こ、こいつ……いくつ武器を扱えるん――うわあぁぁっ!?」
すぐそばでアリスも《軍》連中を蹴散らしている最中らしく、男達の悲鳴が路地裏に木霊する。
程なくして、這う這うの体で《軍》は路地から逃げ出していく。
「……やりすぎないでね、って言ったのに」
「アリスだって。見てたんだからね? ぴったり半分相手にして全員のしてたの」
彼女も腹に据えかねていたのだろう、軍を相手に一切の容赦なくスキルを打ち込んでいたのだ。私よりもレベルが高く、中衛で支援戦闘に特化した私と違って前線で暴れまわるアリス相手に敵うはずも無く、ろくに抵抗も出来ず吹き飛ばされていくのを横目で確認していた。
「っと……そうだ! ごめんね、怖かったよね。もう怖い人達は――」
振り返り、守った少年達に声を掛けるも……そこには、絶句したまま呆けたように座り込む子供達の姿。
――しまった。怒りに任せて暴れていた姿は、むしろこの子達を更に怖がらせる結果になって……。
「何があった!!」
突然、路地裏に新たに割り込む声があった。先程の戦闘音を聞きつけたのだろう、切迫したその声の持ち主は――
「え……キリト?」
「おま……アリス? と、コハルか? なんでここに……それにさっきの戦闘音は……」
訳が分からないといった表情で立ちすくむのは、数週間前、アスナと結婚して最前線を離れたはずのキリトさんだった。彼がここにいるってことは……
「キリト君! さっきのは……って、コハル?」
「アスナ……」
やはりというか、キリトさんの後を追いやってきたのは愛すべき親友であるアスナ。見慣れた血盟騎士団の制服ではなく、いつだったか彼女が見せてくれた私服のうちの一つを纏っている。……そして。
「パパ……ママ……」
そんな彼女が手を繋ぎ連れてきたのは……彼らをパパ、ママと呼ぶ幼い少女だった。
目の前の話がまとまらないのに、ずっと先の話のイメージだけが湧いてくるのはいったいどうしてなの。