SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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剣の世界3

Side アリス

 

 

 

「終わった……の?」

「うん……そうみたい、だね」

 

 死闘は一時間にも及んだ。

 視界を埋め尽くしていたモンスター達が、一斉にその身をポリゴンエフェクトへと変貌させ、目の前から消え去ったことで私はボス攻略の終了を悟った。

 

 終わりを知った事で身体に途方も無い疲労感が訪れ、たまらず膝をつくと、慌てて支えようとしたコハルも一緒になって倒れこんできた。

 

 良かった……二人とも生きてる。

 

 触れた身体の温かさに、無事に生き延びれた事を遅まきながら実感する。

 けれど、手放しで喜べそうには無かった。

 

「……何人――やられた?」

 

 声に視線を向けると、がっくりとしゃがみこんでいるクラインが顔を上げ憔悴した表情で誰にでもなく聞いた。

 視線を巡らせると、他のプレイヤーは皆、床に座り込み、あるいは倒れこんでいるのが見えた。キリトやアスナですら例外ではなく、その背中を預けるようにして座り込んでいる。

 

 少ない、と思った。

 マップを呼び出し、表示された光点を数えきる前に、クラインの問いに答える人物が居た。

 

「10人。……10人が、死んだ」

 

 ディアベルだ。私やコハルが増援を引き受け、キリトやアスナ、ヒースクリフが鎌の攻撃を防ぎ続けている間、ただ一人、声を張り続け、味方を鼓舞し、指揮を取り続けた彼は苦々しい表情を隠そうとしないまま、そう答えた。

 

「……うそだろ……」

 

 エギルが、思わずといった風に声を上げた。その声にいつもの張りは微塵も無く、生き残った私達の上に暗鬱な空気が厚く垂れ込めた。

 これで、ようやく四分の三。まだこの上に二十五層もある。それを踏破するまでに、後何人の犠牲を出せばいいの……?

 

 このボス戦に集まったプレイヤー達は、全員が歴戦の剣士だった。それは散って行った10人にも言えることで、幾度も死線を乗り越えてきた仲間だったんだ。

 

「くそっ……! 俺がもっとしっかりしてれば、こんな事には……!」

 

 ディアベルが、振り上げた拳を床に叩きつけ吐き捨てる。皆、そんな事はないと思っていても、それを口にする気力すらもう残っていないようだった。

 

 これから先、一体どうなってしまうのか。

 最前線で真剣に攻略を考えているプレイヤーは、生き残ったプレイヤーの内の数パーセント。数百人といったところだろう。

 一層ごとにこれだけの犠牲を出してしまえば、最上階にたどり着く頃にはボスと対面できるのはたった一人……ということになりかねない。

 

 多分、その一人はあいつだろうなぁ……。

 

 他の者が全員床に伏す中、毅然と立つ紅衣の姿を目に留める。

 

――《神聖剣》ヒースクリフ

 

 HPゲージを見ると、他のプレイヤーは全員がイエロー、またはレッドにまで落ち込んでいるのに対し、ヒースクリフのHPは未だグリーンを保っていた。

 あれだけの攻撃を受け続けて、HPが半分も減らないなんて……。

 

 ――ん?

 なんだろう、今、違和感がした。

 それはとても小さな、普段であれば気にかけるほどでもない微かなものだったけれど、どうしてだろう、私はその違和感の正体が気になった。

 

 視線を下げる。ヒースクリフの表情が目に映る。

 彼は、床に倒れ伏す団員や他のプレイヤーを見下ろしている。暖かい、慈しむような視線。

 あの表情、どこかで見た事がある。一体どこで――

 

 刹那、私の全身を戦慄が貫いた。

 

 思い出した、あの表情。あの視線。

 私がいじめを受けていたとき、加害者以外のクラスメイトの視線、表情に似ている。

 絶対的な安全圏から、まるで見世物を見ているかのような、当事者でない者達が浮かべる表情。

 

 それに気づいた瞬間、ボス戦前にキリトと交わした会話を思い出す。

 

『……茅場がこの世界に居る?』

『ああ。それが誰かはまだ分からない。けど、絶対にこの世界に居る。根拠は――』

『……確かに、じゃあ……誰が?』

『恐らく、今回のボス攻略メンバーの内の誰か。これは根拠が無くて、只の勘なんだけどな……。少なくとも、俺が茅場なら、どこぞのギルドに入るか、立ち上げるかして最前線で世界を監視すると思う』

 

 点と点が繋がる。今まで抱いてきた、小さな疑問が氷解していくように繋がり、確証へと変化していく。

 でも、証明する手段が無い。確認する術も、何一つ。

 

 いや、違う。一つだけある。

 今、この瞬間だけ可能な手段が、一つだけ。

 

 もし、私の予想が合っていたのなら……。

 

「アリス……?」

 

 背を預けてきていたコハルをそっと退かし、剣を取る。

 私の行動に疑問を持ったのか、コハルは不思議そうに私を見つめてきた。

 

 もし見当違いなら、私は一気に犯罪者だ。その時は……ごめんね。

 口の中でそう呟き、ヒースクリフとの距離十数メートルを一息に駆け抜け、手にした剣を振り抜いた。

 

 コハルが声を上げたことで私に視線を向けたヒースクリフが、突然の襲撃に目を見開き驚愕の表情を浮かべたが、さすがの反射神経で盾を掲げ右側面から迫る剣尖を防いだ。

 

 防がれた……けど、これでいい。

 私と同時に駆け出していたキリトが、その剣を背後からヒースクリフに突き立てていたからだ。

 いや、厳密には、突き立てようとして目に見えぬ障壁に阻まれていた。

 

 ヒースクリフの頭上には《Immortal Object》――不死存在を示すシステムメッセージが表示されている。

 

「キリト君、何を――」

「アリス、一体――」

 

 私達の突然の攻撃に驚きの声を上げて駆け寄ってきたアスナとコハルがメッセージを目にしてぴたりと動きを止めた。

 私も、キリトも、ヒースクリフも。この場に居る全ての人物が動きを止める中、ゆっくりとメッセージが消えていった。

 

「システム的不死……? なんで、ヒースクリフさんが……?」

「どういうことですか……団長……?」

 

 戸惑ったような声で疑問を口にするコハルやアスナに、ヒースクリフは黙したまま答えず、ただ厳しい表情で私を見、そして背後のキリトを見た。

 

「これが、伝説の正体って訳だね……」

 

 キリトが、剣を退き、数歩軽く跳んで私の隣に並び立ち、言った。

 

「ああ、HPバーがイエローに落ちたところを見た事がないのは当然だよな。そうシステムに保護されてるんだから。不死属性を持ちえる可能性があるのはNPCか……管理者だけだ。この世界に管理者は一人しかいない」

 

 そうだろう? ヒースクリフ。いや、茅場晶彦。

 異口同音に発せられた私達の言葉に、ヒースクリフはやはり無表情のまま私達を見ていた。

 

「団長……本当、なんですか……?」

 

 乾いたかすれ声のアスナの問いには答えず、ヒースクリフはゆっくりと口を開いた。

 

「……何故、それに気づいたのか参考までに教えてもらえるかな……?」

「最初に疑問に思ったのは、あんたとのデュエルでの事だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速過ぎたよ」

「それに次の私との勝負。コハルとキリト、アスナしか知りえないはずの私のスキルを知ってたのは、熟練度を上げてる最中に目撃されたかとも思ったけど……けど、一番最後に出したソードスキル。あれはあの時初めて使ったんだ。熟練度上げに付き合ってくれた事もあるキリトですら知らない技を、あなたは初見で見切った上でカウンターを仕掛けてきた。あれは見切ってたんじゃない。最初から知ってたんでしょ? 私がどんなソードスキルを使えるのか」

「やはりそうか。あれは私の中でも痛恨事だった。キリト君の動きに圧倒され、ついシステムのオーバーアシストを使用してしまった。それに加え、アリス君との勝負でも疑問を抱かせてしまうとはね」

 

 ヒースクリフはそこで初めて表情を見せた。唇の片端をゆがめ、苦笑する。

 

「しかし、それだけでは根拠が薄いようにも見えるが?」

「もちろんそれだけじゃないさ。俺達はある事情で《はじまりの街》に出現した地下ダンジョンで不死属性のあるフィールドボスと戦闘した」

「それが守ってたのは、宝箱でもなんでもない――GMコンソールだったよ。でも、おかしいよね? 何でそんなものがこの世界に存在するのか。そしてそれを隠すように、絶対に倒せない敵を配置してるのか」

「答えは簡単だ。このゲームを管理するためだ。外からSAOのシステムに干渉したら、今頃必死になって監視や調査してる連中につけいる隙を与えかねないから。だから外部からの干渉の一切を遮断して、内部から管理出来る様に作り変えたんだ」

 

 私達の推理を披露するたびに、ヒースクリフはなるほどと頷く。これだけの糾弾を受けてなお平静で居られるその姿に、薄ら寒いものを感じた。

 

「この世界に茅場がいると確証を得たのは……なるほどそういう事情があったのならば頷ける。だが、それがイコール私の正体に繋がったのは何故かな?」

「それはさっき話したデュエルでの一件と、あんたの伝説――HPバーがイエローになったところを見た事がないっていうのが、不死属性を付与されたプレイヤーという可能性があったからだ。GMコンソールを隠そうなんていう目的で不死属性を付与されたモンスターが居るのなら、管理者自身にもそれがあってもおかしくないからな」

「後は、あなたの日頃の態度。最強ギルドの団長でありながら、万事を部下に委ねてるのは、普通のプレイヤーなら知りえない情報を知ってたから自制してたんじゃない? さっきのあなたの周りを見る目、檻の外から動物を眺める観客の目にそっくりだったよ」

 

 そこまで聞くと、ヒースクリフはふっと一つ笑い、観念したように頭を振った。

 

「予定では攻略が九十五層に到達するまで明かさないつもりだったのだがな――確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君達を待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

 ゆっくりとプレイヤーたちを見回し、笑みの色合いを超然としたものに変え、紅衣の聖騎士は堂々と、そう、宣言した。

 

「趣味が悪いよ……最強のプレイヤーが一転して、最悪のラスボスだなんて」

「なかなかいいシナリオだろう? 盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君達はこの世界で最大の不確定因子だと思っていたが、ここまでとは」

 

 ヒースクリフ――茅場は、見覚えのある薄い笑みを浮かべた。

 雑誌やテレビ等で見た事のある、茅場の現実での姿と、ヒースクリフとしての今の姿はかけ離れているが、その無機質、金属質な気配は2年前私達の上に現れ、デスゲームを宣言したあのアバターと共通していた。

 

「最終的に私の前に立つのは、キリト君、君かアリス君のどちらかだと予想していた。全十種類存在するユニークスキルには役割が与えられ、《二刀流》を持つ者は魔王に対する勇者を、そして《英雄之剣》は何らかの要因で勇者の役割が失われた場合、そのバックアップとしての役割が設定されていた。本来であれば、九十層攻略時点で≪二刀流≫を保持しているプレイヤーが死亡、又はそのレベル次第で、解放条件を満たしたプレイヤーに与えられるはずだった《英雄之剣》スキルがアンロックされているのを知ったときは本当に驚いたものだよ……」

 

 だからこそ、あの場で君をこちらに引き入れたかったのだがね。

 茅場はそう告げると、左手を振り出現したウィンドウを素早く操作した。

 

「うぁっ……」

 

 振り向くと、コハルが地に膝を着いていた。

 その隣ではアスナも同様に――いや、アスナだけじゃない。私とキリト以外の全員が、その場からピクリとも動かなくなってしまった。

 全員、HPバーにグリーンの枠が点滅している。麻痺状態だ。

 

 私はコハルに駆け寄ると、その背を起こし、手を握った。茅場に向けて視線を上げる。

 

「どういうつもり……? 正体がばれたから、ここで全員を始末しようっていうの……?」

「まさか、そんな理不尽な真似はしないさ」

 

 茅場は微笑を浮かべたまま首を左右に振り、続けた。

 

「こうなっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。九十層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっと辿りつけるさ。だが……その前に……」

 

 茅場はそこで言葉を区切ると、私と、そしてキリトをひたと見据えてきた。右手の長剣を床に突き刺し、甲高い澄んだ音と共に、言った。

 

「君たち二人には私の正体を看破した報奨を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」

 

 報奨だって……? それも、私とキリト二人で、茅場一人に挑む……?

 あまりにも見下されたその提案に、内心ぐつぐつとした怒りが湧き上がってきた。

 

「二対一だと……? 茅場、俺たちとあんたのレベル差はそう離れてないんだ。それがどういう事か分かってるのか?」

「無論、承知の上だとも。君たちは二人で私の正体を看破せしめた。それに対する報奨が、どちらか一方との決闘では不公平だろう? 君たちはどちらかのHPが全損した時点で敗北。その場合私は即座に《紅玉宮》へと転移させてもらう。そして私のHPが全損した場合は君達の勝利だ。ラスボスが倒されたことにより、ゲームはクリアされるだろう。こんな条件でどうかな?」

 

 私とキリト、茅場ではレベル差が殆ど無いといって言い。私が二人よりも少しだけ上で、キリトと茅場のレベルは同じ。

 更に言えば、一度決闘したとき、私は茅場と引き分け、キリトは負けはしたものの、それは茅場がオーバーアシストとかいうシステムを使用したから。あれがなければ、恐らくあの勝負キリトが勝っていただろう。

 そんな私達と、二対一。だというのに、この男からは何の気負いも感じず、むしろ笑みを浮かべ誘っているかのようだ。

 

「アリス……なんか変だよ……。今は、今は引こうよ……!」

 

 腕の中で、コハルは麻痺によって自由を奪われた身体を必死に動かし、首を振った。

 分かってる。これは罠だ。一見有利な条件を突きつけておいて、こいつは何か別の事を企んでいる。

 それが単なる自分の力量への自信なのか、それとも別の理由があるのかは分からない。けど……。

 

「ふざけないで……」

 

 こいつは何て言った? 血盟騎士団を育ててきた? きっと辿り着ける?

 こいつは、茅場は自分の創造した世界に一万人の精神を閉じ込め、半数近い人達の意識を電磁波によって焼却しただけに留まらず、自らが描いたシナリオ通りにプレイヤーたちが愚かしくも哀れにもがく様を間近で眺めていたという訳か。ゲームマスターとしてはたまらない快感だったことだろう。

 

 私は覚えてる。全てが始まったあの日、もう帰れないと知ったコハルの絶望した顔を。流した涙を。ここに来るまでに経験してきた、思い出すことも辛い別れも。何もかも。

 世界を創り、観賞したいがためにコハルの心を何度も何度も傷つけ、血を流させたこの男を目の前に、ただ退く? そんなこと、出来る筈が無かった。

 

「分かった。決着をつけよう」

 

 ゆっくりと、頷く。コハルが、悲鳴のような声を上げた。

 

「アリスッ……!」

「ごめん。けど、私はこいつを許せない。ここで、退くわけにはいかないんだ……」

「死ぬつもりじゃあ……ないよね……?」

「もちろん。……もう、コハルを残してどこかに行ったりしないよ」

 

 コハルをそっと床に横たえ、立ち上がる。すぐ隣では、キリトも同様に立ち上がり剣を抜いていた。

 

「キリト、いいよね?」

「当たり前だろ。ここで、ケリをつける。この世界を終わらせてやる」

 

 床に突き立てていた剣を引き抜き、無言でこちらを見ている茅場にゆっくりと歩み寄る。

 

「駄目だアリスさん!!」

「アリス! キリト! やめろ……っ!!」

「キリト――ッ!」

 

 声の方向を見ると、ディアベルとエギル、クラインが必死にもがきながら叫んでいた。私は三人に向き直ると、ディアベルに対して微笑みかけた。

 

「ディアベル、生きていてくれて――本当によかった。あの時助けてもらった恩は、一生忘れないから」

 

 目を見開く青髪の騎士にもう一度笑みを見せてから、視線を少しずらした。浅黒い肌をした巨漢の男は、そのいかめしい顔をさらにくしゃくしゃに歪め、何か必死に言葉を探そうと呼吸を繰り返していた。

 

「エギル……ずっと、言えなかったけど……。あの時、私が街で気絶してたとき、助けてくれて……ありがとう。その後も、何も理由を聞かないで店に置いてくれて、私の事を誰にも喋らないでいてくれて……私、本当に嬉しかったんだ。コハルと再会した後も、何も言わずにいつも通り接してくれて、ありがとう」

 

 エギルは、その双眸を徐々に潤ませていくとたちまち滂沱と涙を溢れさせた。激しくもがきながら、必死の形相で絶叫する。

 

「ば、馬鹿野郎……ッ! あん時お前を泊めてた宿賃、まだ回収してないんだぞ!! ちゃんと全額……向こうで耳揃えて支払いやがれ!!」

 

 こんな時までお金の事を持ち出すエギルに、くすりと笑みが零れた。

 

「わかった。次は向こうでね?」

 

 次いで、この世界で私の生きる理由である少女を――瞳に涙を溜め、今にも零れさせそうな、けれど決して泣こうとしないコハルを見た。

 彼女を見るだけで、勇気が湧いてくる。顔も、声も、匂いも、何もかもが愛おしい。

 

「コハル――大好き」

「っ! ……馬鹿ッ! こんな時に、そんなの卑怯だよ……!」

 

 私の一言でついに我慢の限界を迎えたのか、涙を溢れさせたコハルから視線を切り、茅場へと向き直る。

 

 守り抜いてやる。この手で――

 決意を胸に、剣を強く握り締めた。

 

「アリス……」

 

 隣でクラインに声を掛けていたキリトがこちらを向いて名前を呼んできた。その次の言葉が発せられる前に、私は遮るようにして口を開く。

 

「自分に何かあったら、アスナを頼む――だなんて言わないでね。キリトが死んだら、死んでも許さないから。アスナも、私も」

「……ぁ……。ははっ、そうだな。――勝つぞ」

「うん!」

 

 左足を引き、上体を捻るようにして剣を左腰上に構える。

 茅場が左手でウィンドウを操作すると、私達と茅場のHPバーが同じ長さに調節された。レッドゾーンのぎりぎり手前程で、この三人ならソードスキルの一つでもクリーンヒットすれば消し飛ぶ位の長さだ。

 次いで、あいつの頭上に【changed into mortal object】――不死属性を解除したという旨のウィンドウが表示される。ウィンドウを消去すると、床に突き立てた長剣を引き抜き、盾の後ろに構えた。

 

 目を瞑り、息を吸う。限界まで吸ったところで止め、ゆっくりと吐き出す。

 目を開けた時にはもう、意識は戦闘へと切り替えられていた。

 

 勝算は、一対一であるならばどちらとも言えなかった――が、今はキリトという頼れる味方がいるため、勝算は十分にある。

 ただ、相手はこのゲームの設計者であり、こちらの使用する単純な連撃ソードスキルは全て読まれると考えたほうがいい。それに、以前手の内は見せ合ったのだ。持久戦になればなるほど、こちらの選択肢は潰されていき、不利になる。

 

 なら、ソードスキルを用いない戦闘かつ、短期決着。これが最善の方法だと結論付けた。

 

 三人の間の緊張感が高まっていく。ぴりぴりと空気が震えているような気さえした。

 今から行われるのは、システムやルールに守られたデュエルなんかじゃない。人と人の、単純な殺し合い。

 そうだ――私はあの男を――

 

「殺す……ッ!!」

 

 鋭い呼気と共に殺意を吐き出しながら、私は地を蹴り弾丸のように駆け出した――




・ヒースクリフの正体看破
 なんで第一層地下に90層クラスボスがうろうろしてたりGMコンソールが配置されてるのかに関する自分なりの理由付けです。こじつけとも言います。

・アリスが気絶してた件
 コハルと別れ、無理なレベル上げでぶっ倒れた時です。目を覚ますとそこはエギルの店の二階にある個室でした……。数日間宿泊した後、迷惑になるからと口止めだけして去りましたがエギルはその理由について何も聞かず、また誰にも言いませんでした。
 ちなみに、アルゴにもアリスの居所が分からなかったのは、アルゴには少なくないコルを渡して口止めしてたからです。

・《英雄之剣》の役割
 九十層で解放された後、《二刀流》が生存しているのであればそれを守る騎士としての役割を、死亡及びレベルが低い場合は勇者としての役割が与えられる予定でした。それが五十層時点で既に所持者がいると知ったときの茅場は驚いたなんてものじゃないでしょう。
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