SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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操作ミスでコボルトの王を上書きしてしまいました 申し訳ございませんでした


閑話 黒と紅の決闘

 ……どうしてこんなことに

 

「頑張れー! キリト君!」

「アリス! 頑張って!」

 

 第八層主街区≪フリーベン≫。その街の中心で、二つの色が対峙していた。

 

(……どうしてこうなった?)

 

 片や、黒を纏った中性的な顔立ちの少年。

 

(私に聞かないでよ……)

 

 片や、紅を纏った小柄な少女。

 

 同じような装備の二人は、同じような表情で、そして同じように困惑していた。

 

 なにがどうして、こうなったのか、と

 

 

 

◇Side アリス

 

 

 

 きっかけは些細な、本当に些細な一言だった。

 

「そういえばアリスもキリトさんも、ベータ時代最前線にいたんだよね? どっちが強いのかな」

 

「「え?」」

 

 私とコハル。そしてキリトとアスナ。最近良くパーティーを組む四人で狩りをしていて、一段楽したところで昼食を食べていた時のこと。

「それ私も気になってた。一緒に戦ってて思ったけど、アリスすごい強いし。キリトくんも……悔しいけど、強いし」

 

 私とキリトのどっちが強いか?そんなの分かりきってる事でしょ。

 

「そんなの――」

「もちろん――」

 

 私とキリトは目を合わせ、ほぼ同時に口を開いた。

 

「キリト」

「アリス」

 

……あれ?

 

「いやいや、キリト。謙遜が過ぎるって。私なんかよりキリトの方が十倍くらい強いって」

「それはアリスの方だろう。正直、このゲームがPVEの協力ゲーMMOでよかったと思ってるよ」

「いやいやいや」

「いやいやいやいや……」

 

 全くもう、褒めても何も出ないって言うのに。

 

「ベータの時もソロで最前線。私よりも上層に到達してたし正式サービス開始後でもそれは変わらず。今も他の追随を許さぬトッププレイヤーのキリトの方が強いよね?」

「ベータの時ソロだったのは同じだろうが。ついでに言うと、変幻自在の剣とかなんとか言われてた、当時対人戦最強って噂の初期アバターの男、アリスって名前だって聞いたぞ。あれ、お前だろ」

 

 なぬ、ベータの時の私そんな二つ名ついてたのか。あの時は他のプレイヤーとの会話なんて殆どしたことなかったから聞いたことなかった。

 

 そして自分の事を低く見すぎだよキリト。といっても、このままじゃ平行線だ。ここは周りの人に聞いてみようじゃあないか。

 

「コハル。どっちのほうが強いと思う?」

「うーん、アリスには悪いんだけど、ベータ最終日の事があったからなぁ……。キリトさんかな」

 

「アスナ。どっちだと思う?」

「アリスでしょ。キリトくんが勝ってるところ想像できないわ」

 

 おや、これで意見は2対2で引き分けだ。むむむ。

 

 この時は、まだ日常だった。ごく普通の、狩りの途中の、なんでもないお昼休憩だったはずなんだ。

 

「じゃあさ、二人で決闘してみたら?」

 

 それが、あんなことになるなんて。きっと、私もキリトも想像だにしてなかった。

 

 

 

◇Side キリト

 

 

 

 どうしてこうなった……。

 

 第八層主街区《フリーベン》。その中心で俺とアリスは剣を向け対峙している。ここまでは、まだいい。アリスとは一度戦ってみたかったこともある。しかし……

 

「キリトー!! 負けんじゃねえぞー!」

「アリスちゃーん! ビーターなんかに負けないでー!!」

 

 現在俺たちの回りには大勢の野次馬でごった返していた。

 

 決闘しようか、と装備を整え準備していると、たまたま通りがかったプレイヤーの一人が

「黒の剣士と紅の戦姫が決闘……? ビックニュースだ!」

 

 とかなんとか叫んであれよあれよという間に人だかりの完成。余計なことを……。

 

 まあ、いい。今は目の前に集中だ。

 

 俺としてはアリスの方が俺よりも一枚上手だと思っていた。何度かパーティを組んでお互いの手の内は殆どさらけ出しているのだが、あいつの剣は底が知れない。何をしてくるのかが本当に分からないのだ。

 

 しかし、俺も男だ。簡単に負けるつもりはないし、戦いようによっては勝てる……とも思っている。

 

「なんでこうなっちゃったのかなぁ……けど、負けないからね。キリト」

「こっちだって、負けるつもりなんてサラサラないさ」

 

 そう言い終えないうちに、視界の端に半透明のウィンドウメッセージが表示された。

 

『アリス から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?』

 

 相変わらず、あいつはよく見もしないでメニューを操作できるよ。誤操作が怖くて俺には出来ない。

 

 俺はYESボタンをタップし、オプションから初撃決着モードを選択。メッセージが『アリスからの1vs1デュエルを承諾しました』というものに変わり、その下に60秒のカウントダウンが始まる。

 

 アリスは……自然体だ。肩の力を抜き、剣先をまっすぐに俺に向けている、正眼の構え。対する俺は剣を引き、目線の高さまで持ってくる。俺もアリスも片手直剣使いだ。この構えから何の技が放たれるかなんて、アイツには筒抜けだろうが構わない。

 

 アリス相手に長期戦はまずい。だから俺は端から防御を捨て、最初の一撃で決着をつけようと考えていた。

 

 カウントは残り10。戦い前の高揚感で、ぞくぞくと背筋が震えるような感覚。これが武者震いって奴か、なんて考えが一瞬脳裏を過ぎる。

 

 カウントが0になる直前、アリスがにやり、と笑った気がした。

 

――ぞくり

 

 感じた悪寒に攻撃を中断。全力で、目の前に迫る剣(・・・・・・・)を迎撃する。

 

 あっぶねぇ!! あいつ、いきなり剣を投げてきやがった!!

 

 剣で打ち払った結果、一瞬、あいつが視界から切れてしまった。ただの一瞬。だけどあいつにはその一瞬で充分だった。

 

 ゴウッという風切り音。慌てて視線を戻すと既にアリスの姿はどこにも無い。一体どこに――下か!!

 

 アリスはその低い身長をさらに低くするように、地面スレスレまで上体を倒しながら一瞬で間合いを詰めて来ていた。体術スキル移動技《縮地》。だけどあいつは剣を俺に投擲した直後で、今は両手に何も持っていない。それなら攻撃手段は何も……

 

 って、馬鹿野郎!! 今体術スキル使ったって事は、無手でも攻撃できるだろうが!!

 

 案の定、放たれたのは体術スキルの技の一つである《弦月》。三日月の弧を描くようなサマーソルトを、頬を掠らせながらかろうじてよけることに成功する。

 

 危ないところだったが、今がチャンスだ! 《弦月》は技に勢いがあり、空中へと飛び上がってしまう。そして滞空時間が若干存在するため、そこに大きな隙が出来る。

 

――体術スキルは俺だって取ってるんだよ!

 

 俺は空中で隙だらけのアリスに反撃をしようとして、目を見開いた。

 

 ()()()()()()()()姿()のアリスが、俺の脳天をカチ割らんとまさにその肉厚の刃を体重ごと振り下ろそうとしていたからだ。

 

「う、うおおおおおおっ!?」

 

 俺は全運動神経を総動員し、全力で横っ飛びを慣行。一瞬後に俺の立っていた地面を両手斧が派手な衝突音と共に大きく抉った。

 

「まじ? ……今のも避けるの? 一体どんな反射神経してるのさ!!」

「お前こそ……手品みたいに武器をぽんぽん出し入れしやがって……実際に相対するとこんなに恐ろしいもんだとはね。痛感したよ」

 

 斧の一撃で仕留めるつもりだったんだろう。呆気に取られた顔のアリス。

 

 

 

 アリスの戦闘スタイルを言葉で表すなら《多刀流》

 

 簡単に説明すると、《クイック・チェンジ》という装備を変更できるショートカットを使用して、次々と武器を切り替えているだけなのだが。そもそも戦闘中に目まぐるしく動いている状況で、視界の端に展開されるメニューウィンドウを操作し、目的の箇所をタップするなんて離れ業が、他に何人出来るだろうか。

 

 以前アリスに、見ないでやってるのかと聞いたところ、本人はちゃんと見て操作しているとかいうふざけた答えが返ってきた。俺がとんでも反射神経だと言うなら、お前はどんな動体視力してるんだという話だ。

 

 あれば便利だなレベルの《クイック・チェンジ》が、アリスが使うことによって戦闘中にコロコロ得物が変わる凶悪なスキルへと変貌する。対人戦最強の由来はこの、どのタイミングで何の武器が来るか分からない、変幻自在の攻撃から来ているのだろう。

 

 しかし、最初の不意打ち気味の一撃から始まった連続攻撃はなんとか捌ききったぞ……。さあ、反撃開始だ!

 

「せやぁああああっ!」

「くぅっ……」

 

 アリスの、一見掴みどころの見えない武器チェンジにも弱点はある。

 一つ目、ソードスキルまではあらかじめセットしてある武器スキルのものしか使えないから最初に持っていた武器以外のソードスキルは警戒しなくてもいいこと(なお、後日あらかじめ別の武器スキルを装備していたアリスに痛い目にあわされたのは秘密だ)

 二つ目、傍から見れば手品のように武器が瞬時に変わるように見えても、実際はメニューを操作しているため(それでもアリスのメニュー操作速度はとてつもなく早く、注視しないと見逃してしまうレベルなのだが)装備が変更されるには一瞬のタイムラグがあるということ。その弱点を突くことが出来れば、決して攻略できないわけじゃない。

 

 一合、二合、三合。縦横無尽に剣を走らせ、アリスと剣を打ち合う。俺は取り回しやすい片手直剣で、あいつは今、身の丈以上もの大きさの両手斧を装備している。こうして至近距離での打ち合いでは、どちらが有利かは明らかだった。

 

 不利なのはアリスも承知のはず、つまり、どこかで俺が隙を見せればこの距離で対応の出来る武器に取り替えるだろう。

 

「っ!」

 

 それを承知で、一度強く打ち合ったあと、俺はわざと隙を作った。そしてアリスはさすがというか、そのわずかな隙を見逃さずに装備を変更しようと右手を縦に振りメニューを開こうとした。

 

(もらった!!)

 

 俺はこのために、いつでも動かせる位置にあった左手を閃かせ、アリスのメニューを操作しようとしている左腕を掴もうと――

 

 

 

 それは、不幸な事故だった。

 

 いくつもの要因が重なりあい、起きてしまった、不幸な事故。

 

 一つ目、俺がアリスの右手を押さえようと、自分の左手を使ったこと。

 

 二つ目、俺とアリスの身長差。

 

 三つ目、アリスは外套こそコートだが、インナーは俺と同じく布製の防具を纏っていたこと

 

 四つ目、お互いに高速で動いていたこと。

 

 以上全てが複合して起こってしまった、事故。このうちの一つでも違っていたら、きっと違う結末になっていただろう。

 

 ではどんな事故が起きたのか?

 

「あ……」

 

 むにゅん、と。柔らかで弾力に富んだ何かの感触が、俺の左手の触覚情報からナーヴギアを解して俺の脳へと伝わる。

 

――時が、止まった。

 

「……?」

 

 呆然と、何をされたのか分からないといった顔で、アリスは視線を下げ……そしてそこで起こっていた事実に気づき、固まった。

 

 一体何が――と俺も自らの手の先へと視線を巡らせ……戦慄する。

 

 俺の左手は、アリスの身長にしては豊満な胸を鷲掴みにし、その形を大きく変化させていたからだ。

 

「――ごめ「いっ……いやあああああああああっ!!」

 

 瞬間、頬に感じたのは強い衝撃。 ――そこで俺の意識は途切れた。

 

 尚、俺はそれから一週間の間女性陣からゴミを見るかのような目で見られ(あの穏やかなコハルですら怒りの形相だった)アリスにいたってはしばらく口も聞いてもらえなかったことを追記しておく。

 

 幸いな事に、周囲の野次馬には件の事件は丁度見えなかったらしく、《セクハラ剣士》等と言う不名誉な称号を、事実とはいえ得なかった事だけは俺を安堵させた。




◇強さについて

キリトとアリスはお互い謙遜していますが大体同じくらいの強さです。対人戦ではアリスに軍配が、MOB戦ではキリトに軍配が上がりますが僅かな差で時と場合によって簡単にひっくり返ります。
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