SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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お待たせしました。最新の閑話です。


閑話 黒と紅の攻略法 前編

◇Side アスナ

 

 

 

「――アリスを攻略する?」

 

 2024年8月。一ヶ月前ほどから少しずつアインクラッド内の気温設定が上がり始め、蒸し蒸しとした晴れの日が続くようになった。

 

 現実とは違い暑さ等はポーション類で耐性を上げられるとはいえ、脳が夏=暑いという情報を覚えているのか普段着もついつい無意識的に薄手の物を選んでしまう。

 

 第六十一層主街区《セルムブルグ》。この街につい最近私邸を購入した私は、その家の中、リビングにある一人で使用するには大きすぎるダイニングテーブルに座り、招いた友人と談笑していた。

 

 耳に飛び込んできた言葉が上手く理解できず、口へ運びかけていた紅茶を途中でぴたりと止めて、目の前に座る翠玉色の瞳を湛えた少女――コハルがつい先程口にした台詞を反芻する。

 

「攻略って、そんな物騒な……」

 

 今日はギルド《KoB》で久しぶりの休暇を貰ったものの、何をすればいいか分からず、かといって気侭に買い物に行く気分にもなれず。迷惑かなと思いつつも親友であるコハルに会わないかというメッセージを送った。

 

 どうやら彼女の方も、今日はパートナーであり婚約者のアリスが朝から用があり出かけていて暇を持て余していたらしく、二つ返事で了承のメッセージが届き、こうして私の家に遊びに来ていた。

 

 お土産と言って渡されたお茶菓子を二人でつつき合いながら、あれこれと雑談に花を咲かせていたのだけれど、いつしか話はお互いの想い人――彼女の場合は同じく私の友人であるアリス、私の場合はあの、黒一色の黒い片手剣士の話へとシフトしていった。

 

 その中で出たまさかの「攻略」する発言である。一体アリスが何をしたというのだろうか。先程までアリスがアリスがと惚気話を聞かされていた事を考えると、喧嘩をしたわけでもなさそうだ。そもそもの話、一度くっついてから仲睦まじい事この上なく、お互いを思いやる二人の事だ、意見のすれ違い等はそうそう起こりそうに思えないのだけれど。

 

「違うの。いや、違わないのかな……あのね……」

 

 深刻そうに切り出し始めた彼女に、これはまさか本当に喧嘩が……とティーカップをソーサーへと置き身構える。

 

「アリスがね、私の事を『好き』って言ってくれないの!」

 

――ああ、やっぱり惚気話だった。

 

 置き直した紅茶を一口啜る。うん、美味しい。リズのお勧めで買ってみたけど正解だったみたい。

 

「やっぱり、女の子としては好きな相手に好きって言ってもらいたくてね! 毎日毎日私の方から「好きだよ」って言ってるんだけど、アリスったら「うん」とか「ありがとう」ってつれなくてね!」

 

 捲くし立てるようにコハルがアリスへの不満を(惚気とも言う)述べる。

 

 これが最前線で活躍する《蒼の聖女》の本当の姿だと知ったら、一体どれほどのプレイヤーが信じるだろうか。噂では、彼女を崇拝する中層プレイヤーもいるらしいから、その人達は卒倒するんじゃなかろうか。

 

「だから今回は、ちょっと気合を入れてアリスを攻略したいと思うの」

 

 ああ、そういう意味での攻略だったのね……。ギルドで以前、メンバー達が話しているのを聞いたことがある気がする。意中の女性を落とすことを『攻略』というのだとか。

 

「それにアスナも、キリトさんとの関係が進展しなくて困ってるんじゃない?」

 

――ぴしり。

 

 ティーカップを口につけた姿勢のまま、固まる。ぎぎ、ぎと壊れたブリキのおもちゃのような動きでなんとかソーサーへとカップを戻すことが出来た。

 

「な、なぜそれを」

「勘……というか、色々メッセージとかで相談されたりして、それを実践してたのは知ってるんだけど、その後の話が何も聞かないからそうなんじゃないかなって」

 

 まさか見抜かれていたなんて。

 

 確かに、彼との関係は上手くいっているとは言い難かった。関係というか、そもそも彼と私は特に男女の関係という間柄ではなく、私の片思いではあるのだけど……。

 

 去年の12月。アリスとコハルがようやく結ばれてから、次は私の番だとコハルやアリス、リズやサチさんに色々と手を焼いてもらっているのだけれど、あの朴念仁は一向に気づく気配が無くて、いくら私が狩りや、勇気を振り絞って普通の買い物――世間一般ではデートと言われる――に誘ったり、手作りのお弁当とかを食べさせても「じゃ、また」と彼は用が済むと帰ってしまうのだ。

 

 最初の方こそ悶々としていたものの、今では彼と過ごすこと自体が楽しくて、それだけで満足してしまっていたのだけれど――

 

(やっぱり、このままじゃ駄目よね)

 

 友人達にこうも応援してもらっているのだ。もし想いが叶わなかったとしても、なんらかの進展はさせるべきだ。

 

「だから一緒に攻略しよう。アリスと、キリトさんを」

 

 その言葉に力強く頷き、作戦を練り始める。頭をフル回転させ、お互いに意見をぶつけ合いながらも着々と計画を立てていく。

 

 こうして血盟騎士団副団長《閃光》のアスナと《蒼の聖女》コハルによる本気の攻略戦が、幕を開けた――

 

 

 

◇Side キリト

 

 

 

 指定した時間ぴったりに待ち合わせ場所である、第五十九層主街区《ダナク》の転移碑前に着くと、そこには既に呼び出した相手――紅のコートに身を包んだアリスが所在無さげに待っていた。

 

「よお、早いな」

「ん……やっときた。遅いよキリト。女の子を待たせるなんてどういうつもりさ」

 

 むすっとした表情で腰に手を当て半目になるアリスに悪い悪い、と形だけの謝罪を返すと彼女は「まったく……」と嘆息した。

 

「で、こんな朝早くから呼び出して、どこに狩りにいくの?」

 

 先日、メッセージで付き合ってくれと呼び出したからか、アリスはどこかへ狩りにいくものだと思っているらしい。残念ながら、今日の用事はそうじゃない。

 

「いや、今日の目的は狩りじゃない」

「……どういうこと?」

 

 訝しがる彼女に、俺は少し得意げに今回の目的を伝えた。

 

「釣りに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

「なんか目当てのアイテムがあるのかと思えば……本当にただ釣りをするだけとか……」

「そういうなって。今日はアインクラッドで最高の……って訳じゃないけど、かなり良い気候設定なんだ。こういう日はのんびり外で昼寝をするか、こうして釣りをするに限る」

 

 第二十二層には大きな湖があり、そこの桟橋に二人して腰掛ながら釣り糸をたらす。

 

 誘った手前、かっこ悪いことこの上ないが釣りの経験なんてもちろん無く、ただ呆然と釣り糸を垂らしているに等しいので釣果は全くと言っていいほど無い。坊主である。

 

「ま、たまにはいいけどね。こうして息抜きするのも」

 

 最初の方こそぶつくさと言っていたアリスも、暖かい日差しを身に浴びて心地よくなったのか、今では気持ち良さそうに目を閉じている。

 

「だろ? ここんとこ張り詰めてばっかだったからな。ガス抜きしないとパンクしちゃうって」

 

 この層はフィールドにモンスターが出現しないことから、戦闘から離れ、日光浴をするのにうってつけのスポットの一つだ。

 

 ただ釣り糸を垂らし続けること数十分。さすがに朝早すぎたのか、眠気がやってきて、くぁ……と、欠伸をかみ殺す。

 

「で、キリト。わざわざ私を誘ったのはなんで?」

 

 突然、アリスが俺と同じように欠伸をしながら問いかけて来た。

 

「そりゃあ、なんとなくで――「じゃ、ないよね。わざわざ”私”を呼び出したんだからさ。クラインとか、エギルじゃなくて」

 

 ……と。まあ、バレるか。もう少しのんびりしたかったんだけどなぁ……。

 

「いや、まあ。相談があってさ。のんびりしたいってのもあったんだけど、そっちが本命」

「相談? 私に?…… それこそ、男友達のクラインとかの方が良くない?」

 

 そうなんだけど、あいつらに相談するのは気が引けるというか、正直からかわれる未来しか見えなくてな……。

 

「ふーん? ……あ、分かった。アスナのことでしょ」

 

 思わず咽そうになったのをなんとか堪えた。

 

 さ、流石《紅の戦姫》……この少ない情報で答えを導き出すなんてな……

 

「アスナがどうしたのさ。ついに告白する決心でもついた?」

 

 咽せた。

 

「げほっ! ごほっ! ……な、なんでそうなるんだよ!」

「いや、見てれば分かるって。キリトが思いっきりアスナを意識してるのなんてさ」

 

 にひひ。と、にやにやした笑いを浮かべながらこちらを伺うアリス。

 

「まあ、そうなんだけどさ……」

 

 俺はここ数日起こった出来事を話し始めた。

 

 最初に変だな、と感じたのは年が明けてすぐのことだ。

 

 何だかやけにアスナが距離を詰めて来る気がする……。そう思ったのは。

 

 もちろん物理的な距離というわけではなく、もっとこう、精神的な距離、というか。

 

 頻繁に狩りに誘われるようになったのはまだしも、ただの買い物に付き合えだの食事に付き合えだの。まるでデートに誘われているようで、こちらとしては対応に困っているのだ。

 

「でも、別に嫌ではないんでしょ?」

「それはまあ……アスナみたいな美人に誘われて、嬉しくないとは言えないけどさ……」

 

 嬉しくないわけがない。だが――

 

 10歳の頃、偶然自分の生い立ちを知った。今まで家族だと思っていたものが、本当は自分の家族ではなくて……。

 

 その時から、急に自分の中で他人との距離感が狂いだした。目の前の人間は、一体何者なんだろうか、と。そう思えてしまってからは、人と関わることが恐ろしく思えてしまい……誰しもが自分ではない誰かを演じていることが当たり前であるネットゲームへとのめり込んでいった。

 

 SAOはただのネットゲームなんかじゃない。もう一つの現実だ。だからこのゲーム内で俺は人との距離感が上手くつかめず、友人と呼べる人間もごく少数だ。

 

 だからか、こうも急に距離を縮めてこられると、どういう意図があるのか読めず、手放しに喜ぶことが出来なかった。

 

「だけど好きなんでしょ?」

「――え」

 

 驚き、顔を上げると、アリスは優しげな表情を浮かべていた。

 

「人を好きになる気持ちに、性別は関係ないってキリトは言ってくれた。その言葉に私は、勇気を貰ったんだ」

「アリス……」

 

 だったらさ、と彼女は

 

「好きなんだったら、好きって言っちゃいなよ、ユー」

 

 なんちゃって。と舌を出して笑った。

 

「はは……流石、経験者は違うな」

「ふふん、キリトとは経験が違うのさ、経験が」

 

 好きなんだったら、好きって言っちゃいなよって。何の解決にもなってないその言葉が、何故か俺の心の蟠りをほぐしていった。

 

 ああそうか。簡単な事じゃないか。目の前の人間が何者か分からないなら、自分から理解しようと努力すればいいだけの話だ。

 

 目の前の相手が誰か分からないのは、向こうも同じ。だったら、自分の気持ちを伝えて、話して、聞いて。相手の事を知ればいい。相手から歩み寄ってくれるのを待つだけでは、いつまで経っても分からないだけだ。

 

 たったそれだけのことを理解するのに、俺はいつまでもうじうじと悩んでばかりで。

 

(くそ、また助けられちゃったな……)

 

 第一層からこいつには何度も助けてもらってばかりだ。ほんと、こいつと出会えて良かったよ。

 

 だが……

 

 目の前で得意げな顔をしているアリスを見ていると、俺の中でむくむくと反骨心が湧いてきた。

 

「まあ、好きをこじらせて公衆の面前で熱いキスシーンを披露するやつには敵わないさ」

「んなっ……!」

 

 意趣返しとばかりにあの時の事を蒸し返すと、アリスは顔を真っ赤にしながら俺に掴みかかってきた。

 

「あ、あの時のアレは……! コハルが強引に……!」

 

――と、その時。ポーン、という軽い効果音と共に、俺の視界にメッセージを受信したというログウィンドウが表示された。宛名は……アスナ?

 

「アスナからメッセージ……? なんだ……?」

「ふーっ! ふーっ! ……あ、私もコハルから来た。なんだろ」

 

 未だ興奮した様子のアリスを引き剥がし、どうどうと落ち着かせメッセージを開く。そこには彼女にしては珍しく、簡素な一文が記載されているのみ

 

 

 

 件名:キリト君へ

 

 本文:アリスと一緒に第二十二層転移碑まで来ること

 

 

 

 たったそれだけのメッセージ。どういうことだろうかと訝しがっていると、アリスも同じようなメッセージを受け取っていたらしく、「うーん?」と首を捻っていた。

 

 もう一度、ポーンという着信音が響く。またアスナからだ。

 

 

 

 件名:持ち物について

 

 本文:水着装備を持参のこと

 

 

 

「「…………は?」」

 




キリトとアリスの関係は、お互いを認めつつ負けたくないというライバルというか親友のような感じ。

作中で描写はしてませんが、キリトはこっそり《二刀流》スキルの事をアリスに教えています。《英雄之剣》スキルの熟練度上げも人目に着く所では出来ないので、二人でよく狩りをしています。

コハルはキリトさんだからとそのことに関して心配やヤキモチはあまり妬いてません。あまり。
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