SAOIFさん五層の解放まだですか(懇願)
◇Side アリス
第二十二層は、森と水に囲まれたフロアだ。常緑樹と無数に点在する湖が大部分を占め、主街区も小さな村といった規模に収まっている。低層ということもありフロア面積自体は広大なのだけれど、フィールドにモンスターが登場せず、迷宮区もさほど難しくなかったため僅か三日でクリアされてしまい、プレイヤーの記憶にはあまり残らず、今ではアインクラッド内で最も人口の少ないフロアに落ち着いている。
しかしフィールドにモンスターがポップしないという特性、景色の良さから実は隠れた人気スポットであり、定住しないだけで上層からもたまに訪れるプレイヤーはいたりする。
それがまあ、今の私達なんだけど……
「ちょっ……! 待てアスナ! 話せば分かる!」
「問答無用っ!! 食らいなさい!」
「やっちゃえアスナ!」
少し開けた場所にある、そこそこの大きさの湖の側。そこにビーチボールを片手にわいわいと騒ぎ倒す六人の男女の集団があった。
キリトにアスナ、コハルとリズ、クラインとエギルの六人なのだけれど。
二十二層の主街区にある転移碑で私とキリトを待っていたのは、やけに笑顔なコハルとアスナ。何を企んでいるのだろうと首を傾げていると、後からリズ、クライン、エギルの三人もやってきて、数も揃ったとそのまま訳もわからず連れて来られたのだ。
湖岸で、何故かビーチバレーに興じている六人を眺めていた視線を、手元の釣竿に戻す。
(はしゃいでるなぁ……)
ここ最近、ずっと迷宮区に篭っているか、素材集めに狩りに行っているかだったから、こうして息抜きできるのは悪くない。悪くないのだけれども。
「よお、アリスは混ざらないのか?」
最初は渋々だったくせに、いざビーチバレーが始まった途端負けず嫌いの血が騒ぎ、ノリノリで遊んでたキリトじゃないか。湖に投げ込まれでもしたのだろうか、濡れた髪からポタポタと雫を垂らしている。
「うーん、混ざらないというか、混ざれないというか」
どういうことだ?と訝しがるキリトに、実は……と事の顛末を話始めた。
以前、まだ私がソロで活動していた頃。フィールドボスから防具がドロップした事があった。これ幸いと安全なところに退避して、装備フィギュアを開いて……首を傾げた。
このゲームでは、装備できない武具は文字色が灰色になるのだけど、ドロップした防具も灰色になっていた。ステータスが足りないのかな?と思い、詳細を開いてみても特に足りてないステータスは無かった。
しかし、装備詳細に見慣れない文が一つあった。
《女性専用防具》
ふと、思いついたことがあり、いやいやまさかと思いながらも低層へと赴き、片っ端からNPCの鍛冶屋を回って目当てのアイテムを探し出した。
購入したのは二つ。第四層で見つけた性別専用装備……水着。これを見つけたときは、水着とか着て遊んでる場合じゃないよねとスルーしたのだけど、今回は検証の為に必要だ。
ちなみに、男性用が《スウィムパンツ》で女性用が《スウィムビキニ》。名前のまんま、パンツタイプとビキニタイプの水着で防御力はなんと1。完全にネタ装備であり、今まで装備している人は見た事が無い。
近くの宿屋に駆け込み、鍵をしっかりとかけたのを確認してから装備フィギュアを再び開いた。そして――
「で、女性モノの水着が灰色で、逆に男性モノの水着が装備可能だった……と」
「そういうこと」
多分だけど、私がアバターを作るとき、男性で登録したのがまだ残ってたんじゃないかな。そう言うと、キリトは少し納得したように頷いた。
「なるほどな……性別を参照する際、アリスは男性として参照されてたわけだ……。だからコハルと恋人になったり結婚も受諾できたりしたんだな」
「多分なんだけどね。実際どんなプログラム組まれてるのか分からないし。けどまあ、そのお陰でコハルと結婚できたんだし、結果オーライってことで」
もう一つちなみに、このゲーム《性別専用装備》は異性の物を着れないが、《性別用装備》は別に着れたりする。私が男性アバターから元の姿に戻った時男性装備を着ていたし、あのみゆりんも女性装備を着ていた。私も今まで普通に女性用装備を着てたから、まさか自分が《女性専用装備》を着れないなんて思いもしなかったんだけどね。ああ、あと下着等のインナーは性別用装備にカテゴリされる。
「というわけで、私は水着着れないし、私服で水に濡れるのもやだからこうやって見てるよ」
「そうか……。泳ぎとか得意そうに思ったんだけどな」
ん?どういうこと?
「別に……苦手じゃないけど、得意でもないよ? 普通くらい。なんで?」
「いや、なんか……浮きそうだなぁ、と――はっ!?」
……?
キリトの視線は、私の胸に向かっていた。慌てて視線を逸らしたようだが、もう遅い。
「…………キリトのエッチ」
「ぐはっ!?」
「スケベ、変態。……セクハラ剣士」
「う……うぐ……!」
胸を抱くようにして、視線から隠す。まったく男っていうのは……!
水着が着れたとしても、こうして視線を集めるのが嫌だから着なかったかもしれない。
「邪魔なだけなのに、こんなのどこがいいんだか――ん!?」
突然、ぐいいいっ! と竿に強い手応え。これは……なんかかかった!?
「ちょ、キリト! どうしよう!」
「お、落ち着け! 竿の耐久値が0になるまでは絶対に折れないんだ! だからそれまで思いっきり引っ張れ!」
「ここに来てゴリ押し!? ああもうっ! どうなっても知らないからねーっ!」
私はレベルアップ時のボーナスの殆どを敏捷に振っている為、筋力値はそれほど高いわけじゃない。だけど、レベリングのお陰で最前線の中でもトップといっても遜色無いほどのレベルの高さを誇る私は、素の筋力値だけでも遥かに高い!
昔、とあるゲームの攻略法として名言があったらしい。たった一言の、シンプルな答え。
レベルを上げて、物理で殴ればいい!
「ふぬぬぬぬぬ…………っ!」
みしぃっ! と竿から良くない音が聞こえる。完全にくの字に曲がっており、ものすごい勢いで耐久値が減っていく。
だけど、もう少し……!
「おりゃああーーっ!」
「やったか!? ……ってうおおおおおっ!?」
突如として湖面が丸く盛り上がり、盛大な音と共に何かが湖面から飛び出してきた。大きな影は、そのまま私達の頭上を通り過ぎ、そして――地響きと共に私達の背後へと着地した。
……魚?
いやなんだろうあれは。魚が立っている。自分でもおかしい事を言っていると思うけど、そうとしか表現できない。
全高は二メートルほどで、魚類……というより、爬虫類といったほうが近いかもしれない。シーラカンスのようなその巨体から滝のように雫をしたたらせ、がっしりとした六本の足で草原を踏みしめている。
「なにこれ」
「俺に聞くなよ……なんだこれ、この湖のヌシか?」
素早くメニューを開き、装備を整える。隣ではキリトもいつのまにか片手剣を装備していた。
「あーもうキリト、やるよ!」
「よしきた! この魚もどきめ、三枚におろしてやる!」
お互い頷き合い、武器を片手にモンスターへと駆け出した。
今更二十二層のモンスターに遅れを取るはずも無く(実際、この次の層のフィールドボスより少し弱い程度だった)、私とキリトによって捌かれた魚型モンスターは、アスナとコハルによってバーベキューの素材へと成り下がったのだった。
◇
「うし、腹も脹れたところで、今日のメインイベントでも開催すっか!」
突然現れたヌシを食材にして、皆で談笑しながらのバーベキューを楽しんでいると陽も傾き始め、辺りは一面朱に染まり、湖が黄金色の光を反射している。
「メインイベント?」
お腹をぽんぽんと軽く叩きながらそう言ったクラインにどういうことかと聞き返す。今日のメインって、皆で湖で遊ぶことじゃないの?
「ん? なんだ聞いてねェのか?」
聞いてないもなにも、私とキリトは今日急に呼び出されたわけで……。キリトの方も疑問に思ったらしく首を傾げている。
「夏といえば?」
「えっと……夏祭り?」
「夏祭りか。それもいいが、ほかにもあるだろ?」
「じゃあ……海水浴、とか」
「それはもうやったじゃない。海じゃなくて湖だけどね」
私が思いついたイベントはどれも不正解らしく、次々と否定されていく。えぇ……?あと何があるっていうのさ。
「もう……さっさと答え教えてよ。こんな時間から何をするっていうの」
「じゃあアリスに特別大ヒント! この前開放された層を思い出してみて!」
コハルが仕方ないなという風に助け舟を出してくれた。この前開放されたって……六十六層……?
――まさか!
「まさかとは思うが……肝試し?」
「大正解!!」
私が答えるよりもはやく、キリトが正解を口にした。周りの皆がわっと沸き立つ。
「まあ定番イベントだよな」
「六十六層はテーマがうってつけだしね! フィールドモンスターも特定の場所にしかポップしないし、動きも遅いから簡単に倒せるし!」
つい一週間ほど前、第六十五層が攻略され、六十六層が開放された。フィールドのテーマは……ホラー。主街区は廃墟となっていてNPCの姿が全く無く、フィールドにも墓場が並び非常におどろおどろしい様相となっている。
先程リズも言ったとおり、フィールドモンスターは墓場にしかポップせず、動きも非常に遅い。体力が多く、出血や毒などの厄介な状態異常を使ってくる上に、一度に大量に出てくるのだが……。動きの遅さから、ボーっとしていて囲まれていた……等のことが無ければ簡単に包囲を突破できるためフィールドの危険度はかなり低い。
その代わりに、迷宮区は狭い上に厄介なモンスターが大量に徘徊しているので難易度が高く、攻略速度は芳しくないのだけれど。
不気味な層ということで、攻略以外に訪れるようなプレイヤーは余程の酔狂……なのだけど、確かに肝試しには適しているフィールドなのかもしれない。
しかし
「や、やだ! 私は帰る!」
私はなんとしても、このイベントだけは避けなければいけない理由があった……!
◇Side コハル
私とアスナで立てた作戦は二段階に分けられていた。
まず一段階目。皆で遊ぶことで私達とアリス、キリトさんの距離を縮めやすくすること。これはアリスが参加できなかったことで達成できないかと思われたけど、偶然釣り上げた魚モンスターのお陰でバーベキューを開くことができ、なんとか二人の雰囲気を柔らかくすることができた。上々の成果と言えるんじゃないかな。
そして第二段階。肝試しでアリスと私、アスナとキリトさんのペアに別れ、それぞれお化け(に扮したクラインさんたち)に脅える振りをしてお互いのペアにくっつき、急接近するという作戦。
クラインさんたちに頭を下げて頼み込み(お礼は私とアスナの手料理を振舞うことになっている)、協力を取り付けることに成功。アスナはキリトさんに抱きつくのは恥ずかしいと言っていたけど、形振り構っていられないと悟ったのか少し悩んだ後決心したようだ。
後は各自スタンバイし、特定のポイントで飛び出すサクラに驚きそれぞれペアに抱きつくだけ……だったのだが。
「うぅぅ……もうやだぁ……」
なんということでしょう。アリスは怖いものが大の苦手だったのです。
第六十六層に転移してからずっと、私に必死にしがみついてあたりをしきりに見回しては、影が視界を過ぎったり、乾いた枝を踏み折る音が聞こえる度に「ひっ!」可愛らしい悲鳴を上げるアリス。
これには私もアスナも困惑してしまい、キリトさんも最初は不安そうにしていたものの、今ではアリスの怖がりっぷりをニヤニヤと見守っている。
まさかこんなことになるなんて。
アリスはどんな恐ろしい見た目のモンスターにも臆する事無く立ち向かっていて、怖いもの知らずの強い女の子だと思っていたけど……。
そういえば、この層が開放されてからずっと武器の強化をするからという理由でこうしてまともに訪れた事は無かった気がする。
「わあっ!」
「ひゃあああああああああっ!」
「くくっ……はははは! アリスにも苦手なものあったんだな。こんなに怖がるなんてさ」
「もうキリト君! ごめんね、大丈夫だから、怖くないからね?」
アリスに苦手な物があったことがおかしかったのか、キリトさんはこうして時折アリスをからかう。その度にアリスは強く私に抱きついてきて、よしよしと頭を撫でてあやす。
「うぅぅ……キリトぉ……後でぶっとばす……」
恨めしそうにキリトさんを睨むけれど、その声は弱弱しくいつもの快活な彼女からは想像しがたい姿だった。
肝試しのルールでは、この先森を抜けたところに古びた神社があり(基本的に洋風の世界観でこの層だけやけに和風テイストの物が多い。墓地しかり、神社しかり)そこにある赤い糸を持ってきてペアで結び、スタート地点に戻ればクリア……なのだけど。
「アリス、頑張ろう? もうちょっとだから」
「ほんと……?」
震えしがみつく彼女を撫でながらそう言うと、アリスは潤んだ瞳で私を見上げ……
「コハル……お願い……手、放さないでね……?」
――やばい、鼻血出そう。
なんだこの可愛い生き物は。本当にアリスだろうか? いや、この可愛さはアリスに違いない。
どうしよう今すぐ押し倒してしまいたい。けどアスナやキリトさんが側にいるし、怖がってるアリスを更に怖がらせちゃいそうだし……でもでも!
「コハル……どうするのよ。なんか見ててすごい可哀想になってきたんだけど……」
トリップしかけていた私をアスナが現実に引き戻した。あ、危なかったぁ……。
「うん……私の方は作戦変更。私がアリスを守るよ。……そっちは手はず通りに」
「わかった」
少し予定は狂ってしまったけれど、これはこれでものすごく可愛いアリスが見れたから良し……いや、最終的にはアリスに好きと言ってもらうのが目標だからまだだけど。作戦に支障はなし。
アリス怖がる→私助ける→コハル素敵! 好き!
うん完璧だ。これでいこう。
◇
道中は特に問題なく進み、サクラを頼んだ愛すべき友人達もいい働きをしてくれて、アリスは私に、アスナはキリトさんにくっつくことで急速に距離を縮めていくことが出来た。
クラインさんたちの迫真の演技は恐ろしく、私もアリスがこうなっていなければ普通に怖くて悲鳴を上げていたかもしれない。アスナも途中から本気で怖がり始め、つり橋効果なのか二人の雰囲気はいい感じだ。
神社にたどり着き、賽銭箱の前に置かれていた赤い紐を手に取り私とアリスの小指に結びつける。これで後は帰るだけ――なのだが
「ぎゃああああああああああっ!!」
「「きゃああああああああああああああっ!?!?」
突然後ろから上がった悲鳴に身が竦む。何事!?
「ちょ……クライン!? 何でモンスター引き連れて来てるんだよ!」
「茂みに隠れてたらポップしたんだよ!! くそったれ!」
振り返ると、クラインさんとリズさん、エギルさん、それに風林火山のメンバーの皆さんが大量のゾンビ系モンスターを引き連れこちらへと走ってくるのが見えた。
「ったく……アスナ! 数はそう多くない、迎え撃つぞ!」
「わかった!」
剣を構え、臨戦態勢を取ったキリトさんとアスナは、弾丸のようにモンスターの群れへと飛び込むと他のメンバーと共に戦闘を始めた。
私も参戦しなきゃ……!
ぐっ、と手を引張られる感覚。繋いだ手の先では、アリスが呆然とした表情でへたり込んでいた。
「あ、あはは……腰が抜けちゃった……」
そんな……! どうしようと逡巡している私に、アリスは震える声で
「コハル、私の事はいいから、みんなのところに行って」
そう、言ってきた。
「でも、アリスを置いていけないよ……!」
「大丈夫だから。今の私は、悔しいけど足手纏い。コハルまでここに縛ってる訳にはいかないよ。だから、早く」
アリスの言葉に目をつぶり考える。迷いは一瞬。繋いだ手を優しく解いて、声を掛ける。
「分かった。……絶対に、一体も後ろに通さないから。安心して待ってて」
返事を待たずに、私は短剣を構え戦闘地帯へと飛び込んだ。
アリスの元へはアリ一匹だって通さない。絶対に守ってみせる!!
「やあああああああっ!」
短剣ソードスキル奥義技《エターナル・サイクロン》
腰を低く落とし、全身のバネを使ってモンスターを巻き上げる。黄金色のライトエフェクトを纏った剣身から風が生まれ、極小規模の竜巻が巻き起こった。
「……一体目!」
技を命中させたモンスターがポリゴン片へと変わるのを横目で確認しながら、私は次の目標へと踊りかかった。
そして――
「ふぅ……やったか?」
戦闘開始から数分後、大量にいたモンスターを殲滅し終え、私たちは一息ついた。
元々、攻略組である私やアスナ、キリトさんに、ギルド《風林火山》のメンバー。私達ほどではないにせよ、ボス攻略に何度も参加しているエギルさん等、数が多くても大した脅威ではなかった。
連携も上手くはまり、宣言通りアリスの元へは一体たりとも抜けさせることが無く殲滅する事が出来たので安心する。
「ふぃー、一時はどうなることかと思ったが、ま、こんだけの戦力がいればどうでもなかったな」
「ちょっと、私一応中層プレイヤーなんですけど!? どうして誰も助けに来てくれないわけ?」
一人、中層プレイヤーであるリズさんが怒ったようにクラインさんに文句をつける。リズさんは中層プレイヤーだから少し心配ではあったんだけど、戦闘スキルも上げているし、鍛冶屋という事もあって装備も一級品。悲鳴を上げて逃げ回るリズさんを見ても誰も助けに行くことは無かった。
体力が高いのと状態異常が厄介なだけでリズさんでも全然倒せるモンスターだからなぁ……。きっと、皆もそういう判断を下したんだと思う。本当に危なくなったら直ぐに助けに行っただろうけど。
「まあ、リズベットはマスターメイサーなんだろ? 装備も良かったし、放っておいてもまだ平気かな……と」
「なんですってー!」
憤慨するリズさんに一同が声を上げて笑いだす。
皆、戦闘が終わって少し気を抜いていた。だから、気づくのが一瞬遅れてしまった。
キリトさんに掴みかかりがくがくと揺らしているリズさんの後ろに、ゆらりと立ち上がったモンスターの姿に。
「リズさん! あぶ――「やぁっ!」」
慌てて声を上げようとする前に、立ち上がったモンスターがビクン! と一瞬硬直した後で爆散した。
無数のポリゴン片が舞い散る中、剣を振り切った形で小柄な姿が――先程まで、腰を抜かしていたはずのアリスが……あ、またへたり込んだ。
「アリス!」
「コハル……油断大敵だよ。でも……あはは、もう駄目、もう無理」
◇
あの後、結局アリスが腰を抜かして動けなくなってしまい(状態異常とかではなくて、一時的なFNCという事らしい)肝試しはそこで終了となった。
後日、今日のお礼にアスナと二人で手料理を振舞う事を約束し、皆と別れ私達は帰路についた。
アスナとキリトさん、一緒に帰っていったみたいだけど、上手く行ってるかな。
「あのさ、コハル」
「ん?なぁに?」
別の場所で頑張っているであろう親友にエールを送っていると、背負われたままのアリスが声を掛けてきた。
「今日は、どうしたの?」
「どうって……?」
「急にこんなイベント用意してさ。途中から、キリトとアスナをくっつける為の作戦かなーなんて思ってたんだけど、それだけじゃないんでしょ?」
ああ、やっぱりバレちゃったか。
「もう大丈夫」と言うアリスを地面に降ろし、どう説明しようかなと言葉を選んでいると、アリスは少し不安そうに
「えっと……私の事かな。何か、しちゃったとか」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……!」
ああもう、直球で言ってしまおう。
「その……アリスってさ、私にプロポーズしてくれて以来『好き』って言ってくれないじゃない。別に不安に思ったとかそういうんじゃないんだけど……えっと、私はやっぱり、好きな人に『好き』って言われたくて……」
「そ、そう……」
今回の目的(私の分は、だけど)を包み隠さずに答えると、アリスは少し顔を赤らめたまま、うーんと唸りはじめた。
「ごめんね……なんか、私こういう風になるの初めてで、どうしたらいいのか分からなくて……コハルが毎日『好きだ』って言ってくれるから、それで嬉しくて満足しちゃってた。これからは私も、出来るだけ言うようにするね?」
ああ、私の言葉で喜んでくれていたんだ……。たったそれだけで、私は幸せな気持ちで一杯になってしまった。だから、これ以上は望み過ぎというものだろう。
「ううん、いいの。アリスがそう思ってくれてたってだけで、私も幸せだから。アリスが言いたくなったときに『好き』って言ってくれれば、私はそれで」
今回の目的は果たせなかったけど、それでも、私はこうして幸せな気持ちになれた。
恋愛なんて初めての事で、分からない事だらけだけど、一つ一つ、小さなことや新しい発見で満たされていく。
初めて好きになった人が、アリスでよかった。
どちらからともなく手を繋ぎ、歩いていると――ポーンという軽い効果音と共に、メッセージが届いたというウィンドウが表示された。
宛名は……アスナから。内容は――
「ふふっ」
件名は無し、本文はたった四文字。
《作戦成功》
その四文字で、彼女に何があったのか全て知ることが出来た。
(やったね、アスナ)
誰から? と首を傾げるアリスに内容を伝えると「そっか……よかったね」と彼女も嬉しそうに微笑み、アスナたちの事を心から喜んでいた。
と――。
ドーン! という大きな音と共に、夜空に大きな花が咲いた。
夏になってNPCの商店に追加された《打ち上げ花火》のアイテムを、誰かが使ったのだろう。一つ、二つ、とその数を増していき、小さな花火大会のようになっている。
「綺麗だね……」
自然と足が止まり、二人で夜空に咲く大輪の花々を眺める。
――いつか、現実に戻ったらアリスとこうしてまた、花火を観にいきたいな。
「ねえ、コハル」
ちょいちょい、とアリスは自分の口元に私を手招きした。
なんだろう?とその口元に耳を寄せる。
「――大好きだよ」
――ああもう、六十六層では折角我慢出来たのに。
アリスが悪いんだからね――!
キリトとコハルの性格の変わりっぷりがやばいレベルにまでなってきている……。
原作のどこか達観したような、斜に構えたキリトの性格はSAO内での別れを経験して生れたものだと私は思ってるので、ディアベルや黒猫団等が生存している影響で年相応の少年といった感じになってます。
また、キリトとアスナはまだ結婚してません。恋人止まりです。それでも大きな変化ではありますが……
次回からやっと本編に戻ります。