SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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アンケートで得票の多かった、お互い意識しまくり期間のお話です

※この閑話は女性同士の恋愛に関する描写が多数ございます。ご容赦ください


閑話 All I Want for Christmas Is You

side アリス

 

 

 

 夢を見ない程の深い眠りはいつぶりだろうか。

 

 深い眠りの底から、急速に意識を取り戻した私はそう自問した。

 

 つい数日前までは、宿に戻り目を瞑っては夢を見ていたはずだ。見る夢はいつも決まって彼女と過ごした日々の回想。起きる度に強烈な寂寥と後悔に自己嫌悪していた事を思い出す。

 

 夢を見ることが嫌で、数日間寝ないで過ごしたこともあったけれど、急に視界が暗転したと思えば数分間だったものの気絶していたといった事があった。あの時は圏内だったから良かったものの、それ以来いくら嫌でも睡眠は取るようにしていた。

 

 嫌々ながらに寝ていたせいか、それともあの夢のせいかは定かではないけれど、あの時の私はいくら寝ても寝不足で、霞む思考を振り払うようにレベル上げに没頭していた。

 

 それが今ではどうだ。ぼやけていた頭はスッキリとして、滲んだ視界はキラキラと輝いているように見える。

 

 人に抱かれながら眠ることで得られた充足感に、私はそこまで人恋しさに飢えていたのかと思う。

 

――いや、人じゃなくてコハルになのかな。

 

 いつの間に逆転していたのだろう。昨夜は抱かれていたはずなのに、今は私の胸の中ですやすやと寝息をたてるコハルを眺め苦笑した。

 

 自分からその道を外しておきながら、勝手にもがき苦しんでいた私を探し出して、文字通り命を救ってくれたコハル。

 

 艶やかな烏の濡れ羽色の髪をそっと撫でると、コハルはくすぐったそうに声を漏らした。

 

 美人だなぁ……

 

 眠るコハルの横顔を見て、自然とそう思った。

 

 アスナのような完成された美しさではない。だけど、顔全体が整っていて、現実でみたアイドルにも劣らないような美少女。

 

 そんな彼女が、私の恋人なのだ。

 

 その事に思い至ると、かーっと顔に熱が集まった。バクバクと心臓は鼓動を16ビートを刻み、思い出すのは深夜の事。

 

 想いを伝えた瞬間、飛び付くようにされたあの――

 

 生々しい唇の感触が呼び起こされ、鼓動はさらに加速する。

 

 ダメだ。このままじゃコハルが起きちゃう。

 

 未だに安らかに眠るコハルを起こさないように、そっと手を退かし、細心の注意を払いながら私はベッドを抜け出した。

 

 あー、もう。落ち着かなきゃ。このままじゃコハルに変な子だと思われちゃうよ。

 

 この後キリトとアスナが話を聞きにやってくるのだ。その時までに平常心を保てるように少し頭を冷やしてこなければ。

 

 ちらと窓の外を見れば、もう陽は登り始めている。

 

 頭に上った熱を冷ますために、私は一人浴室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 記憶というものは実に曖昧なものだと思う。

 

 強く焼きついた思い出というのも、時が経てばやがて薄れていきぼんやりとした輪郭しか思い出せなくなる。楽しかったとか、悲しかったとか。その時あった出来事の詳細はぼやけ、抱いた感情がより強調されて記憶されるのだ。

 

 私がコハルと過ごした最初のクリスマス。あの時はイベントがあって、キリトやアスナと一緒に冒険したんだっけ。

 

 サンタ帽を被ったモンスターを狩って、ドロップアイテムをイベントNPCに持っていった。その結果大変な事になってしまい、それを解決するために奔走したなぁ。

 

 あの時は焦った。焦ったんだけれど、やっぱり楽しかった。

 

 そしてその後、コハルとクリスマスの街をぶらついて……そういえば、あの時からかな。私とコハルが周りからカップルだのお似合いだの言われ始めたのは。顔を真っ赤にして「そんなんじゃないです!」って否定してたコハルが懐かしい。

 

 いまじゃあ本当にカップルなんだから、人生って何が起こるか分からないね。

 

 さて少し話が脱線してしまった。記憶は曖昧な物だ何だといったけど、実際のところ何が言いたいのかというと――

 

「コ……コハル」

「ん? どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 いくら記憶が薄れていくものだとは言え、今のこの状態は記憶とあまりにかけ離れすぎているということ。

 

 一体何があったのか、今朝目が覚めたときは問題なかったはずだし、その後のキリト達との会合でも違和感は無かった。でも問題はその後の事だった。

 

 今はコハルと共にクリスマスを楽しもうと街に繰り出したところなのだけれど、転移してきた直後あたりから、少しずつ記憶とのズレが始まった。前にコハルと居たとき、こんなに緊張しただろうか? 沈黙が苦しくなったりしただろうか? その原因を探そうと一から思い返してみても、何がダメだったのかが分からない。

 

 転移した後、街はあちこちがクリスマス一色に彩られていることに気づいて、コハルと「クリスマスだから人がいっぱい居るね」なんて話をした辺りからおかしくなって――うーん、だめだ。何がいけないんだろう?

 

 もしかしたら、離れていたことで距離感が上手く掴めなくなっているのかもしれない。それじゃあ、以前のような行動を取っていけば、ズレた距離感を修正できるかもしれない。

 

 頼りない記憶を辿りつつ過去を振り返る。今までの私はコハルとお出かけしていた時どうしていたかな?

 

 いつもなら、ホームから出て、転移碑から目的の街に転移してから……それからどうしたっけ? ああそうだ。ぶらぶらとおしゃべりしながら色んなお店を冷やかしたり、手を繋いで散策してみたり。

 

 ん? 手を繋いで?

 

 誰が?

 

 私が、コハルと?

 

 ちら、と視線を斜め下――隣を歩くコハルの手にやる。

 

 白い。そして細い。白魚のような手とはきっとこの事だろう。

 

 そして自分の手を見る。小さな子供のような手。

 

 この手で、コハルの手を取る?

 

 それを頭の中で想像した瞬間、急激な羞恥心が炎のように身を包んだ。

 

 ……む、無理無理無理!

 

 以前の私は何を考えていたのか。そもそも手を繋ぐのは私からだったっけ、コハルからだったっけ?

 

 少なくとも今の私には自分から手を繋ぐ事は出来そうに無かった。

 

 それならば、と以前していたように話をしよう。

 

「えっと……今日は天気いいね!」

「そうだねぇ」

 

「「…………」」

 

 あれ? 終わり?

 

 いやいや、今のは私の話の振り方が悪かった。なんだいい天気だねって。気を取り直してもう一度。

 

「あ! あのお店の小物可愛いね!」

「ほんとだ。可愛いね」

 

「「…………」」

 

 あれー?

 

 どうしよう会話が続かない。

 

 気まずい沈黙が私をコハルの間を漂う。

 

 半年前の私は一体どうやってコハルと過ごしていたのか。その後も何度か会話を試みるも盛り上がる事は無く、ぎくしゃくとした雰囲気のまま時間だけがただ無常に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 程なくして、訪れたのは《はじまりの街》商業地区にあるカフェ。

 

 少し休憩しようかと、コハルの提案で目に付いたお店へと入った。《はじめりの街》にしては珍しくログハウス風の店構えで、店先に飾られていたクリスマスリースが可愛かったのも選んだ理由の一つだったりする。

 

「「……」」

 

 SAOでは、NPCが経営している店舗はメニューから注文を決定するのが基本的なスタイルだ。その後は店によって違うのだけれど、NPCの店員さんが運んできたり、テーブルに直接それが出現する場合もある。私たちが選んだお店は前者で、今も忙しなく可愛らしいふりふりなメイド服を着たNPCが店内を走り回っている。

 

 席に着いた後、黙ってメニューを眺めること数分。二つまで絞った最終候補の内、一つを注文すると、コハルはなんともう一つを注文していた。

 

「私もどっちにするか迷って……アリスならこっち選ぶかなって」

 

 だからこっちにしたんだとにこにこしながらコハルは答えた。

 

 あー、どうしよう。すっごく嬉しい。私も、コハルは私が選ばなかった方を選びそうだなと思っていたから、まるで言葉にしなくても通じ合っていたみたいだ。

 

「ほんと? 私も……コハルなら、これにするかなって」

「ふふ、同じ事考えてたんだ」

 

 おや、これはいい雰囲気じゃない?

 

 先程までの沈黙が嘘のように、穏やかな空気が流れている。

 

 しかし、それは長くは続かなかった。

 

「「…………」」

 

 再び訪れる、静寂。

 

 どうしようと心のなかで葛藤していると、救いの手が伸ばされた。

 

「お待たせしました。ホットチョコレートのAセットと、Bセットにでございます」

 

 運ばれてきた、注文の品。Aセットはショートケーキで、Bセットはチーズケーキだ。

 

「「わぁ……!」」

 

 目の前に置かれたお皿の上に鎮座する、そのケーキに目を奪われた。

 

 ショートケーキと書かれていたから、三角形の生クリームとイチゴが特徴的なあの姿を思い浮かべていたのだけれど、見事に予想を裏切られた。

 

 Aセットとして運ばれてきたそれは円形で、見たままをそのまま表現するのなら、手のひらサイズのホールケーキ。小さくカットされたイチゴが、雪原のような滑らかなクリームの上に並べられ、中央には「Merry Christmas」と書かれた、クリスマスリースを模したチョコ板が載っている。

 

 可愛い。テレビでしか見た事がないようなケーキに、思わず顔が綻んだ。

 

 そしてコハルはと目線を上げれば、そこにはハートに象られた、イチゴソースをふんだんにつかったレアチーズケーキがお皿の上にちょこんと乗っていた。

 

「アリスのショートケーキも、すっごく可愛いね!」

 

 コハルも、運ばれてきたケーキが予想以上の見た目をしていたからか、目を輝かせながら喜んでいる。

 

 量を考えるのであれば、このちょこんとしたケーキでは物足りなく感じるかもしれない。おそらく大食漢のキリトなんかはこの量で1000コルもするセットに目を剥いて驚くことだろう。

 

 けど、私とコハルはこれでいいんだ。元々そこまで沢山食べる訳じゃないし、それにスイーツともなれば、目でも楽しめるこういった物の方が嬉しいのだ。

 

「「いただきます!」」

 

 両手をあわせて、声を揃える。

 

 フォークを手にして、あまりにも可愛い外見に、それを崩すのが勿体無くてしばらく逡巡する。そして閃いたとばかりにメニューウィンドウを開いて、スクリーンショット(目に映ったものを写真として残す機能だ)をぱしゃりと一枚。うん、綺麗に撮れた!

 

 ケーキにばかり目が行ってしまったが、ホットチョコレートにもちょっとした絵が描かれている。ラテアートになるのかな? 小さくデフォルメされたクリスマスツリーと、その上からやはり「Merry Christmas」の文字が躍っている。

 

 まずはホットチョコレートからいただきます。舌を火傷しない様にふぅふぅと熱を冷まし、一口啜る。チョコレート特有のとろりとした甘さが口いっぱいに広がった。

 

「はぁ~暖まるぅ……」

「外、少し寒かったからね」

 

 耐寒装備というものがある。装備すれば寒さに耐性がつくという名前の通りの装備なのだけれど、ごてごてしたものが多く今日は装備していない。レベルを上げることでも耐性は上がったりするけれど、今日の寒さはその耐性を貫くほどだった。

 

 ホットチョコレートは、そんな寒さで冷えてしまった体を芯から暖めてくれた。人心地ついたところでさてケーキの攻略に乗り出そう。私は、ケーキのイチゴは取っておかずに食べちゃうタイプだ。そっとイチゴごとケーキを切り分け、口へ運ぶ。

 

 その瞬間、口の中一杯に生クリームの繊細な甘さとイチゴの酸味が広がった。ふわふわのスポンジはそれらを完全に調和させており、ありていに言うと

 

「んん~っ! 美味しい!」

 

 という事だった。ここしばらく甘味を取った覚えはないからその感動も一塩だ。

 

 更にもう一口頂いて、その美味しさにうっとりとした。

 

 ん? なんだろう視線を感じる。

 

 ふと目線を上げれば、実に楽しそうににこにことこちらを眺めているコハルと目が合った。

 

「にゃ、にゃに……」

 

 噛んだ。もう一回。

 

「どうしたの……」

「ううん、アリスが可愛くって」

「ふぇ!?」

 

 か、かわっ……かわっ!?

 

 突然の可愛い宣言を身構える事が出来ずに直撃を受けてしまう。

 

 顔が沸騰しそうなくらい熱い。

 

 本当に、今日の私はおかしい。コハルの言葉一つに、ここまで赤面させられるだなんて。

 

 そのコハルといえば、未だに満面の笑みでこちらを眺めていた。

 

 視線から逃げるように、顔を横に向けると、今までは気にも留めていなかった店内の様子が目に入り、絶句した。

 

 店内は、カップルで溢れかえっていたのだ。

 

 SAOのプレイヤーは、圧倒的に男性が多い。それでも女性プレイヤーの数はそれなりには居り、ゲームを攻略する中で男女の仲になったというのはよく聞く話だった。しかし、店を埋め尽くさんばかりのこのカップル達はどういうことか。

 

 と、一部の客のアイコンがNPCのそれだということに気づいた。

 

 ああなるほど……クリスマスだからカップル系のNPCが増えてるのか……。

 

 この世界のNPCは、私達と同じように生活をしている。住人の移り変わりを表現しているのか、一定期間でNPCの種類が更新されたりしているのだけれど、今日は色んなところにカップルのNPCが出現しているようだった。

 

 そして……

 

「はい、あ~ん!」

「あ~ん!」

 

 そのカップル達の内、一組の行動に目が釘付けになった。

 

 切り分けた自分のケーキを、相手の口に運ぶ。「あーん」と呼ばれるその行為に。

 

 あれ、そういえば前はやってたよね。よし、思い立ったが吉日。即行動に移す。

 

「コ、コハル」

「なぁに?」

「えっと……あ……あ……」

「あ?」

「……なんでもない」

 

 無理だった。

 

 フォークに刺したケーキを、あーんといって差し出すだけ。ただそれだけの事が私には出来ず、ふらふらと所在無さげに彷徨っていた手はそのままぱくりと自分の口へ。美味しい。

 

 去年のクリスマスには、コハルとは既に仲良くなっていた。手を繋いだり、食べさせ合いっこだってしてたはずだ。しかしそれより以前でも、普通に仲が良かったはずだ。少なくともこんなにぎこちなくなっていた記憶は無い。

 

 離れてた半年間で、仲は良くなるどころか逆戻り。関係はこれ以上無いくらい進展してるんだけれどね。

 

「あ、ねえアリス」

「んぅ?」

 

 コハルは何かに気づいたような声を上げると、すっとテーブルから身を乗り出してきた。

 

 そしてそのまま、指で私の唇の端をすっと撫でると「口の端にクリームついてるよ」と指先についたクリームをぺロリと舐め取った。

 

 …………。

 

 ………………!?

 

「そ、そういうのはまだ早いと思うーっ!」

「あ、ちょっとアリス!? どこに!?」

 

 何をされたのか気づいた瞬間、私の羞恥心は限界を迎えた。

 

 ガタリと立ち上がるとそのまま脱兎の如く店外へと走り去った。

 

 後で気づいたのだけれど、コハルがやったような、顔についたクリームやソースを指で掬い取るというのは去年にはお互いやっていた。そして私が今逃げ出した事はコハルに長い間からかわれる事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……落ち着いた?」

「……うん」

 

 カフェから飛び出した私は、そのまま雪に足を滑らせ思いっきり転んだ。

 

 後から遅れて出てきたコハルは、地面につっぷしたまま動かない私を見て察したらしく「ほら、起きて」と助け起こしてくれた。

 

 そして落ち着ける場所にいこうと、商業地区を少し抜けた場所にある小さな公園にとぼとぼとやってきていた。

 

「もう、また急に飛び出してどっかに居なくなっちゃうのかと思った」

「……正直、どこかに消えてなくなりたい」

 

 結婚したことでお互いの位置はより詳細に分かるようになり、例えどこに行ってもメニューから現在位置が分かるようになっている。まあ、もうどこにも行くつもりはないけれど。

 

 それでも、恥ずかしすぎて消えてなくなりたいというのもまた本心だった。

 

「それで、どうしたの? なんだかさっきから様子が変だよ?」

「う……」

 

 私の様子が変なのは、その理由は分かってる。というより、さっき転んだときに自覚した。

 

 普段通りに行かないのは当たり前で、私が以前よりも強くはっきりとコハルを意識しちゃってるからだ。

 

 だからコハルの一挙手一投足にドキドキするし、その声に言葉に心が揺さぶられる。

 

 この状態は、現実で妹から借りて読んだ少女漫画で見た事があった。

 

 所謂「恋の病」というやつだ。まさか自分がそれを患ってしまうだなんて思いもしなかった。

 

 感染方法不明、治療方法不明のこの病は、発症したが最後自然治癒を待つしかない。

 

 ということを自覚したのはいいんだけれど……。

 

 これを伝えるのにいささか抵抗を感じてしまう。これを伝えるって事はつまり『私はあなたに恋してます』と大胆に告げるのと同義だからだ。

 確かに恋をしていたのは事実だ。だってそのせいで私は長い間コハルから離れる事になったのだから。

 両想いだと分かったとき、そしてプロポーズした時はもう色々とハイになっていたというか、夢中になっていたからかありのままで居られたけれど。改めて、こうして落ち着いて、二人きりの状況になってしまうと自分がどれ程恋い焦がれていたのか痛感する。恋してるどころじゃない。もうコハルにメロメロなのだ。それこそ一挙手一投足が私を取り乱させる位に。

 

 

 とはいえ、私にこの気持ちを隠すという選択肢は無かった。隠し事はもうしないと決めたばかりだから。

 

「あのね……」

 

 ぽつりぽつりと話はじめる。きっかけは、この街でクリスマスの装飾を見たときから。ちょっとずつ違和感を抱いて、それなら前やっていたことを繰り返すことで元に戻ろうと色々試したけれど、全部失敗。

 

 そしてついさっき気づいた、この違和感の理由。全部をコハルに話した。話ている間、コハルはただ黙って話を聞いてくれていた。

 

「そっかそっか。アリスは私にメロメロだったんだ」

「うぅ~……っ!」

 

 全てを話し終えたとき、コハルはそういって話を纏めた。それを唸ることで抗議の意を表明するが、コハルはただただにこにこと笑うだけで流された。

 

 気づいてしまえば簡単な話だった。クリスマスムード一色の街を見たとき、無意識に理解してしまったんだ。クリスマスというのは、それを一緒に過ごす人が友達なのか恋人なのか。その関係性一つでがらりとイベントの意味を変えてしまうという事に。

 

 でも、それならばどうすればいいのだろう? 私は恋愛経験なんて皆無だし、恋人と過ごすクリスマスなんて全く想像がつかない。

 

 そういえば、コハルは余裕があるように見えた。で、あるならばここは素直に聞いてしまおう。

 

「ねえコハル。恋人らしくって、どうすればいいの……?」

「え゛」

 

 するとコハルはどうしたのだろう。ピシリと固まってしまった。

 

「コハル……?」

「はっ! ……あーうん! 恋人らしくだよね! 恋人らしく……らしく……」

 

 正気を取り戻したコハルは、なにやらうんうんと唸り始めた。そして少しの間考え込むと、やがてぽつりと呟いた。

 

「えっと……そうだなぁ……。甘えて欲しい、かな?」

「甘える?」

 

 甘えるってどういうことだろう。それに欲しいって、それはコハルのして欲しいことじゃないの?

 

「うん。甘えて欲しいな。ほら、今までアリスって私にこれしてあれしてって甘えて来たことないじゃない? だからね、こうして恋人になった今、遠慮せずに甘えて欲しいなぁって。それに、その方が恋人らしいでしょ?」

 

 恋人らしい、かなぁ……? でも確かに、私は今までコハルに甘えたっていう記憶は無い。パートナーとしてコンビを組みながらも、私の方がSAOに限らず他のゲームにおいて先輩だからしっかりしなきゃという気持ちがあったからだ。

 

 でも今は、その……恋人同士なのだ。コハルは経験豊富そうだし(複雑な気分だけれど)私が寄りかかってしまってもいいのかな。

 

「ね、アリス。何かして欲しいことない?」

 

 早速とばかりに、コハルは私に何かないかと問いかけてきた。

 

 して欲しいこと……それは少し考えただけですぐに思いついた。

 

 思いついたんだけど……これは、いいのだろうか。こんなことをして欲しいだなんて言ってしまって、変な子だと思われないだろうか。

 

 逡巡は、一瞬。

 

「えっと……その、笑わないでね?」

「うん」

「その……あの……手、手を……」

 

 緊張で、声が震える。緊張だけじゃなく、恥ずかしさで心臓は今にも張り裂けそうだ。

 

 だけど、伝える。むず痒くて、熱くって、でも愛おしい。その鼓動の求めるままに。

 

「手を……繋ぎたい……です」

 

 上手く言えただろうか。ちゃんと伝わっただろうか。私の気持ちは、この想いは。

 

「………だめ、かな」

 

 気分はまるで、告白の返事を待つ少女の様だ。ぎゅっと目を瞑り、答えを待つ。

 

 そして、手に、暖かい何かが触れた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします……」

 

 握られた手の暖かさに、ぱぁっと心が晴れ渡る。

 

 手を繋いだまま、私達は歩き出す。今度は恋人として、クリスマスを過ごすために。

 

 パートナーとしての去年と、恋人としての今。恋愛なんて分からない事ばかりで、上手く行かないことも沢山ある。だけどこの時、この瞬間から再び始まるんだ。

 

 また1から重ねていこう。一歩ずつ、しっかりと学んで。




もうちょっとだけ、続くんじゃ


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