前々からですが、アリスとコハルの地の文の差分化が出来てなさすぎてまずいですね。
Side コハル
小さな頃、白馬の王子様に憧れていた。
切欠は、読んでいた絵本だった。お姫様が、紆余曲折あって王子様と結ばれる良くある童話だ。
私もいつか、王子様と結婚したい。そんな願いを抱いたのはきっと私だけじゃないんじゃないかな。
けれどそれは小さな頃の夢であって、中学生になる頃には「ありえない」と現実を見るようになっていた。
それでも恋愛ごとというのは女子にとっては切っても切り離せない大事な要素だ。当然私も「サッカー部の誰某君がかっこいい」だの「誰々ちゃんに彼氏が出来た」といった話に盛り上がった事もある。
その頃には私の思い描いていた白馬の王子様は既におぼろげで、私もいつか好きな人が出来て、普通に恋愛して、結婚するのだろうと思っていた。
けど、私は出会ってしまった。
デスゲームに絶望する私を救ってくれた、白馬の王子様に。
私が直ぐに恋に落ちたのも、もはや運命だったとすら思える。
その後は、紆余曲折と簡単に纏める事が出来ない程大変な事が沢山あって、私はその王子様と結ばれる事が出来たのだった。
「んぅ……」
私はすやすやと胸の中で寝息を立てる件の王子様――アリスのふわふわとした髪にそっと手を通した。
唯一つ、想像と違ったのは、出会った王子様が「女の子」という事だ。
ふわふわの赤茶色をした髪に、華奢な体(小さいって言ったらものすごく怒るのだ)と目を引く程の大きな胸。
アリスは自分を「地味」だなんて言うけれどとんでもない。今のあどけない寝顔は天使そのものだし、普段のとろんとした表情もとっても可愛い。それでいて、戦闘になるときりりと引き締まり、トッププレイヤーの名に恥じない戦いぶりを披露する。
そんな彼女と私は昨夜、結ばれた。
SAOにおけるシステムによって、婚姻関係となったのだ。これがおとぎ話であればめでたしめでたしで終わったのだけれど、私達はむしろここからがスタート地点。これから彼女と共に沢山を過ごすんだ。
結婚したけれどどちらも女性だし、この場合は夫がどちらになるのだろう? 私としては、アリスが夫であった方が嬉しいな。まあ、旦那と呼ぶには幼いし可愛らしすぎる気もするけれど。
幼いといえば、だ。アリスが眠る前に話してくれた現実での彼女の事。内容は彼女が苛められていたというとても許せそうにはないものだったけれど、あの話を聞いてて思った。
もしかして、アリスは年下じゃないかな、と。多分、私と一つ……二つくらい離れているかもしれない。彼女の話は中学校に上がったところで終わっていたから、恐らくは、二つ下。
アリスがそれ以降の話を端折っているかもしれないし、そもそも直接聞いた訳じゃないから確実ではないのだけれど。
「アリスって、現実ではどんな子なんだろう……」
胸に抱かれ眠り続ける彼女を起こさないように、小さく呟いた。
私達は、知り合ってからずっと行動を共にしていた。離れていた半年間は抜きにしても、長い間一緒に居た事は確かだ。だというのに、私は彼女の現実での事を殆ど知らなかった。しいて言うなら妹がいるのかなぁという事くらい。
アリスは、現実では一体どんな名前で、どこに住んでいて、どんな暮らしをしているのか。夫婦とまでなった今、彼女のリアルに俄然興味が湧いてきた。
だけど、同時に「ゲームの中でリアルを持ち出すのはマナー違反」というのも良く知っている。アリスやキリトさんから散々言われたから。
でも……気になる。知りたい、彼女を。
聞いちゃおうかな? いやいや、やめておこう……。そんな、私の脳内で天使と悪魔が議論を繰り広げる。結果として、アリスに現実での事を聞くのは今は辞めておこうという結論に至った。
それを聞くのは、最後の最後。このゲームをクリアしたその時。それならば、何の気兼ねもせずに聞けるはずだ。むしろアリスと現実でも会う為に、その時には絶対に聞かなければならないだろう。
「ぅん……む……」
「――え?」
そう結論を出したその瞬間、視界がホワイトアウトした。同時に鼻腔に飛び込んでくる、ほのかな甘い香り。
「ぇへへ……」
「むぐ……!?」
顔が何か柔らかなものに包まれている。そしてこの窒息感……もしかして、アリスに抱きしめられてる!?
慌てて振りほどこうとするも、安らかに眠るアリスの安心しきった寝顔を思い出して急停止。彼女を起こすわけにはいかない。
や、柔らかい……そしていい匂いがする。そして胸に押し付けるかのように後頭部に回された手によって、その感触が強く顔中に広がった。
「……ッ!!?……ッ!!!?」
愛しい彼女の体温が、匂いが、柔らかさが。耳に届いた、規則的な彼女の鼓動とは反比例に、私の心臓はばくばくと激しくなっていく。
パニック寸前の自我を、アリスを起こすまいという理性が身体ごと押さえつける。
ああ、まずい。気が遠く――
「ふふ……コハル……」
囁かれるようにして紡がれた。私を呼ぶ彼女の声。寝言だと分かっていながらも、弛緩しきっている声を聞いた瞬間――
ああ、もうこのままでも、いいかな……。
幸福感が全身を電流のように駆け巡り、私は意識を手放した。
◇
さて、朝はあんな事があったけれど(目が覚めたらアリスは既に起きていた。もう一度彼女の寝顔を見ておきたかったので残念だ)気を取り直して行こう。
午前中はアスナとキリトさんが家にやってきて、少しだけ状況報告を行い、その後それぞれ帰っていくアスナ達を見送って、私達もクリスマスを楽しもうと街へ繰り出した。
アリスと過ごすクリスマスはこれで二度目。しかし、一度目とは大きく変わった点が一つ。
私とアリスは恋人なのだ。そして恋人と過ごすクリスマスというのは、特別なイベントになる。ここは暫定年上である私がリードして、いいところを見せなくちゃ。思い出すのは現実で読んだ少女漫画の数々。あれを参考にして、今日のデートを成功させるんだ。
そしてあわよくば、アリスには私に惚れ込んでもらおう。私の方が片想い期間が長かったんだ。アリスにはとことん私を好きになってもらわないと……なんちゃって!
あくまでも心の中で身悶えているだけで、表面にはおくびも出さない。ポーカーフェイスは既にキリトさんを見て体得している。
視界を横切ったカップルが目に入った。……手を繋いでる。それも、指と指を絡めて、恋人繋ぎ。
いいなぁ……。
ちら、とアリスの手を見る。次いで、手を繋ぎ歩いている姿を想像する。ああ、いいなぁ……素敵。
けど、今は我慢しなきゃ。最初からガツガツといって引かれたくないし。
「えっと……今日は天気がいいね!」
アリスが突然話しかけてきた。内心で作戦会議をしていたところだったからびっくりしたけど、当然表面には出さず、さらりと会話を続けてみせる。
「そうだねぇ」
って、そうだねぇじゃないでしょ私! せっかくアリスが話しかけてきてくれたのに、相槌を打つだけって! ほらアリスも「あれ? 終わり?」みたいな顔してるじゃない!
いけない。冷静にならなきゃ。心の中で深呼吸。1,2,3……よし、ばっちり。
「あ! あのお店の小物可愛いね!」
「ほんとだ。可愛いね」
もおおおおおお! 違うでしょ! もっとこう「アリスに似て可愛いね」とか気の利いたこと言えたでしょう!?
ああもう……ダメダメだ私……。
どこか気まずい雰囲気の中、私達のデートは続く。
◇
ミッション2。アリスに「可愛いね」って言う。
訪れたお洒落なカフェで、私は密かに作戦を立てた。
さっきは上手く行かなかったけれど、今度は大丈夫。そもそもアリスは注意して見なくても可愛いのだから、それを褒めるなんて《フレンジー・ボア》を倒す事よりも簡単だ。
さっきの失敗の原因。それは参考にする物が多すぎたせいだ。恋愛の数は無数に存在する。その中から参考にするものをいちいち探していては対応が遅れてしまう。
なので私は一つの少女漫画を選んだ。私が読んでいたそれは、年上の彼氏が主人公の女の子をぐいぐいと引張っていくタイプだった。今回はその漫画の中で印象的だった1シーンをピックアップして実践してみよう。
ちなみに、参考にした理由は主人公の女の子が小柄でアリスに似ていたという単純なものだ。
そんな事を企みながら、私はメニュー表からいくつか気になるものを選び、少し悩んだ末に一つを注文する。
「あれ、コハルそれにしたんだ」
アリスは私の手元を見て意外そうな声を上げた。私が今注文したのは、ホットチョコレートのBセット。私はホットチョコレートに何のケーキを付けるかで悩んだものの、アリスならショートケーキを選びそうだなということでもう一つ気になっていたチーズケーキのセットを選んだのだった。
アリスもどうやら同じ事を考えていたらしく、コハルならチーズケーキを選ぶだろうなと思ったとのこと。
あ、まずいどうしよう。キュンとしちゃった。私と同じ事を考えてたと知って、嬉しそうにはにかむアリスの顔に一撃で沈められそうになる。
「ふふ、同じ事考えてたんだ」
なんとか表情を取り繕い、内心の動揺を隠して言う。我ながら完璧なポーカーフェイスじゃないかな?
この調子で作戦を遂行しよう。どうやって言うかだけど……。
「お待たせしました。ホットチョコレートのAセットと、Bセットにでございます」
作戦会議は、注文したケーキが運ばれてきた事によって一時中断される。手元に置かれたケーキを見た瞬間、それに目を奪われた。
「「わぁ……!」」
ハート型の、可愛らしいイチゴのチーズケーキ。その見た目に、一瞬作戦の事が頭の外に出て行ってしまった。
私のケーキだけじゃなく、アリスのショートケーキもとてもいい。テレビや雑誌でしか見た事ないようなケーキに胸が弾んだ。
「「いただきます!」」
これ、そのまま食べるの勿体無いなぁ……そうだ。スクリーンショット機能っていうのがあったはず。やり方は……ええっと……。
試行錯誤してウィンドウメニューをつっつき、なんとか一枚写真に納めることができた。後でアスナにも教えてあげようかな。
「はぁ~暖まるぅ……」
「外、少し寒かったからね」
ホットチョコレートを一口飲んだアリスが、ふにゃりと表情を崩す。あー可愛い。抱きしめたい。
アリスは満開の笑顔でケーキを頬張っては幸せそうに声を漏らしている。
あれ? ひょっとして今チャンスかな?
いつ言おうか、そのタイミングを計っているとふとアリスと目がばっちり合った。
「にゃ、にゃに……」
あ、噛んだ。可愛いなぁ……。
「どうしたの……」
噛んだ事が恥ずかしかったのか、もごもごと口を動かしながら問いかけてくる。よし、今だ。
「ううん、アリスが可愛くって」
「ふぇ!?」
瞬間、ボッと火を着けた様にアリスの顔が赤く染まった。
アリスの肌は白いから、照れたりするとすぐ顔が真っ赤になる。実は紅の戦姫の「紅」にはこういう意味もあるんじゃないかとは私の談だ。
わたわたと狼狽するアリスを見て、頬が緩む。アリスが可愛いっていうのもだけれど、このやりとりは半年前も何度も繰り返した事というのもある。
アリスは自分の容姿を褒められ慣れていないのか、私やアスナが「可愛い」だの「似合ってる」だの言うとこうやってすぐ顔を赤くしてバタバタするのだ。
ああ、やっぱり戻ってきたんだなぁと。返ってきた日常に自然と笑みが零れていた。
思い出に耽っていると、アリスはぷいと視線を逸らした後に固まった。なんだろうと思う間もなく、彼女は切り分けたケーキにフォークを突き刺し、ぷるぷると震える手で、ついでに林檎みたいに顔を赤くしながら「あ……あ……」と何かを言いたそうに喘いでいた。
あってなんだろう。そう聞き返すと「なんでもない」としゅんとしながらそのままぱくりとケーキを食べてしまった。
あれ、アリスったら口の端にクリーム付けてる。それを取ろうと身体を乗り出し、指で掬い取った後に自分の口に含んだ。
ボンッと、何かが破裂する音が聞こえた。音源はアリスだった。見ると、表情を赤から青へと何度も切り替え、まるで信号みたい。
「そ、そういうのはまだ早いと思うーっ!」
「あ、ちょっとアリス!? どこに!?」
そういうのって何!?
飛び出して行ったアリスを追いかけながら、私は何がいけなかったのかを考えていた。
◇
果たしてアリスはすぐに見つかった。というか、お店の目の前で転んだのか、雪に埋もれたままぴくりとも動いていなかった。
このままだと人目が集まってしまう。それは彼女も本意じゃないだろうと助け起こしてそのまま公園へ。
ベンチに腰掛けると「うぅ……」とか「あぅぅ……」と呻いているアリスに「また何処かへ行っちゃうのかと思った」と茶化す。
さて、これ以上はもう無視できないだろう。何をか? アリスの様子に決まっていた。
私は私でリードしなきゃと夢中になっていたから気づくのが遅れてしまったけれど、やっぱり今日の……というより先程からアリスの様子がおかしかった。それを聞くと、再び「あー」だの「うー」だの唸りながら何かに苦悶している様子。
彼女の中でどれほどの葛藤があったのか分からないけれど、その様子を黙って少し見ていると、やがて語りだした。
「あのね……今日街に出てからね。コハルと一緒に居るとなんかぎくしゃくしちゃって、上手く行かなくて。なんでだろうって、ずっと思ってたんだ。前みたいにすれば、戻るかなって思ったんだけど、戻らなくて。コハルが笑ったり、話したりするたびに胸がぎゅーってなって、苦しくなるんだ。でも、苦しいんだけど、嫌じゃなくて……それで、気づいたんだ。これって、アレだよねって。私が、コハルに……こ、こ……恋しちゃって……! あ、違うの! 恋してたのは前からなんだけど、なんていうか、あの……コハルの全部が私をドキドキさせて……!」
あっぷあっぷしているアリスの話を纏めるなら「アリスが私に恋しちゃってて、無意識に意識しまくり」だったって事。
そうなんだ。
…………そうなんだぁ!
「そっかそっか。アリスは私に、恋しちゃってたんだ」
「うぅ~……っ!」
これほどの幸せな気持ちは、初めてだ。怖いくらいの多幸感に包まれて、私は表情を取り繕う事も出来ずにただただ笑みを浮かべた。
幸せ過ぎて、死んじゃいそう。再会できた時も、彼女が生き返った時も、そして想いを伝えてくれた時も、結ばれた時も。
等しく同じの、いや、回数を重ねる度にその強さは増していっている。このまま膨れ上がったら、身体が破裂してしまうんじゃないだろうか。
「ねえコハル。恋人らしくって、どうすればいいの……?」
「え゛」
そんな中、アリスから投げられた質問にピシリと固まる。
こ、恋人らしく……? どうしよう。私の知っている「恋人」像は全て恋愛漫画やドラマでの知識だ。らしくといわれても恋人の形なんてそれこそ星のようにあるし、そもそも一般的なカップルと違い私達は女の子同士だ。残念ながら女性同士の恋愛を扱った作品は読んだことが無く、何が正しいのかなんて分かる筈も無かった。
「コハル……?」
「はっ! ……あーうん! 恋人らしくだよね! 恋人らしく……らしく……」
いけない。このままでは年上としての威厳が。ここはビシッと答えなきゃ。けど……恋人らしくってなんだろう……?
発想を変えてみよう。こうするべきだ、という視点で考えるんじゃなくて、こうだったらいいなという視点で考えてみよう。
そうすると、一つ答えが見えてきた。こうあれたらいいな、という私の理想。
「えっと……そうだなぁ……。甘えて欲しい、かな?」
アリスに甘えて欲しい。そして甘やかしたい。これが私の理想……というか願望だった。SAOが始まった時から、戦闘では私がアリスに引張られる形だ。だからこそ、こういう何気ない日常ではアリスに甘えて欲しい、頼って欲しい。
恋人として、必要として欲しい。
と、いう事を多少屁理屈を捏ねながらもアリスに伝える。すると彼女は困ったように顔を伏せて悩みだした。
「ね、アリス。何かして欲しいことない?」
畳み掛けるように、逆に問いかける。アリスからのお願いなら、何だって聞いちゃいそうだ。
これまで彼女は、私にあれをして欲しいこれをして欲しいと何かをねだるような事はしてこなかった。私はいつも、彼女の後をついていくばかりで、それどころか私の我侭に付き合わせてしまったこともある。
そんなアリスが、私に対して初めてお願いをしてくる。それを思うと、どくんと胸が高鳴った。
やがて、悩んだ末に答えは出たのか。アリスは恐る恐ると口を開いた。
「えっと……その、笑わないでね? その……あの……手、手を……」
黙って続きを聞く。彼女が必死に伝えようとしているお願いを、一言一句聞き逃さないように。
「手を……繋ぎたい……です」
心臓が止まったかと思った。一瞬の静止の後、強く、速く、鼓動が激しくなっていく。
ふるふると震えながら、顔を真っ赤にして、瞳を涙で潤ませながら伝えてきたアリスの姿に、心が奪われた。
表情を取り繕うことすら困難で、かっかと火照る顔を冷やそうと手を頬に当てる。寒空の下冷えきったはずの手でさえ、私の熱を冷ますことは出来そうに無かった。
「……だめ、かな」
答えなきゃ。彼女の願いに。
震える、もう片方の空いた手を、彼女の手にそっと重ねた。
「こちらこそ、よろしくお願いします……」
やっとの思いで搾り出せた返事は、きっと震えていた。
◇
後日、少しずつ甘え方を学んだアリスは徐々にだけれどスキンシップを多く取るようになってきた。
手を繋いだり、腕を組んだりは序の口で、今では一緒にお風呂に入ったり同じベッドで寝たりと以前のように……ううん、以前よりも私とアリスの距離は縮まった。
その事をアスナに逐一報告していたら、アスナが
「現実で貴女達といたら、きっとダイエットは必要ないでしょうね……」
とぼやいていたのだけれど、何の話だろうか。
・カフェ≪アマネセル≫
≪はじまりの街≫商業区画にある小さなカフェ。小さいながらも内装は凝っており、女性プレイヤーからの人気は高い。オススメは日替わりメニューのケーキセット。ドリンクに四種類のケーキのうちどれかを付けてお値段1000コル。ケーキはその日によって数百パターンの内からランダムに代わり、これを設計したプログラマーの情熱が伺える。なおNPC経営店である