SAOIFのキバオウはプログレッシブのキバオウですよね。原作一巻二巻のどんどん墜ちて行くキバオウじゃなくて、どこか憎めない感じの。
キリトはビーターっていうのがあるからつっけんどんでしたけど、主人公とコハルに関しては割りと素直ですし。
Side コハル
「おおっ! ありがとう! 本当に助かるよ」
「報酬を受け取ってくるから、ちょっとだけ待っててね!」
そういって駆け出した二人を見送って、私とアリスは同時にため息をついた。
「ねえ……」
「うん……。アリスも?」
「私も。……やっぱ見ててキツイなって」
「失礼だけど……だよね……」
話は数時間前まで遡る。
アルゴさんに頼まれた素材を渡し、もらったコルでアリスと一緒に武器と防具を買い(アリスは直剣、私は悩んだ結果、短剣を選んだ)、アルゴさんが譲ってくれた強化素材で武器を鍛え、さあ出発しようといったところで声を掛けられた。
「あいや待たれよ!! そこなご両人、装備をみるにかなりのつわものと見た!」
どこか時代錯誤の、それでいて芝居がかった口調でいきなり声を掛けられ、何事かと振り返る。
「っ!?」
悲鳴を上げなかった私を誰か褒めてほしい。隣を見るとアリスも同じようで、何か信じられないモノを見るかのような表情をしていた。
「え、えっと……なにかご用ですか?」
少し周りを見回して、話しかけられたのが本当に私達であるという事を再確認し、戦慄を覚えつつ件の人物達に返事をする。
男性プレイヤーの二人組。それはまだいい。すわナンパかと思ったけど、一番の問題は、その格好だ。
(この人、なんで男の人なのに女性用防具……しかもスカートを履いてるの!?)
やせぎすの男性と、少し小太りの男性。そのうち、痩せぎすの男性はピンクのインナーにそれより少し薄い桃色の胸当て、さらに同色のミニスカートを履いていた。男性なのに。
あの装備、見たことある。確かアバターを作るときに初期設定で着れるインナーにあんな感じのデザインのものがあったはずだ。それをなぜ……
(コハル、これ、あれだ。この人、女性アバターで始めてたんだ。で、手鏡で本当の姿に……)
(そういうこと……)
アリスと小声で会話しながら、確信する。インターネットでこのゲームの事を調べていたときに目にしたことがある。男性なのに女性アバターでゲームをプレイする、いわゆる『ネカマ』と呼ばれる人達。
茅場が最後に渡したプレゼントは、その一部のプレイヤーにとってかなり残酷なプレゼントとなってしまったようだ。
まあ、私の隣のアリスも男性アバターで始めてたけれど。そのせいか初期装備はぴったりとしたズボンになっていて、小柄でかわいらしい彼女に全く似合っていなかった(彼女自身もお尻のラインが浮き出てしまい嫌だったようで、今はちゃんとスカートの防具を買って装備している)
「あたし……じゃなくて、オレはみゆりん。見ての通りの一般市民よ」
その格好のどこが一般市民なの!? と叫びたい気持ちをぐっとこらえた。
「俺はウルリック。みっちゃんの相棒ってとこかな。よろしく」
「「よ、よろしく……」」
正直あまりよろしくしたくなかったけれど、うなずく。みゆりん……完全に女性としてこのゲームをプレイするつもりだったんだろうなぁ……かわいそうに。
「実は――」
◇
彼らの用件は単純だった。クエストで必要なアイテムがあるけど、それを集めに行くには装備も心元ないし自分達では出来ない。だからいい装備を着てるプレイヤーに手当たり次第に声を掛けていたらしい。
しかし彼らの――特にみゆりんの格好を見て逃げ出されたり、初期の街で進められるクエストの手伝いなんかしたくないという事で全て断られたそうだ。
で、私達にも声を掛けてきた……との事。
なりゆきで引き受けちゃったのだけど、私は悪くないと思ってる。少なくとも目標があるんだもの。ただ、百層をめざせって言われたって、先が見えなくて潰れちゃいそうだから。少しずつでも……前に進めるって思いたい……そんな事を道中アリスに話したら、少しぽかんとした後
「一緒に行こ」
にかっと。気持ちのいい笑みを浮かべながら、アリスはそう言ってくれた。良かった。アリスが一緒なら、きっと前に進められるもの。
素材集めに関しては、幸いというか、私達は強化した装備があるし、ベータで多少の経験もあったしで(アリスだけだけど……)問題なく集める事が出来た。レベルもスキル熟練度も少しずつ上がって、更に良かったし。
そして現在へと戻る。
素材を受け取って小走りにクエストを報告しに行った二人を見て、私達はため息をついた。どうでもいいけど、みゆりん、なんで走り方が女の子走りなの……。
「いや、私もアバターは男だったから、何も言えないんだけど……。なんで装備変えないんだろう……」
「アリスはいいのよ。中身は可愛い女の子だったんだし」
さらりとそう言うとアリスは、「かっ、かわっ……!?」と顔を赤くした後
「コハルの方が可愛いよ!」
「アリスには負けるよ……」
「いやいやいや、コハルの方が……」
やいのやいのと、どちらが可愛いだの綺麗だの、益体の無い話延々とを繰り広げていると(途中からお互いのいいところを褒めあう合戦に変わり、二人とも顔が真っ赤になった)やがて、報酬を受け取ったみゆりんさんとウルリックさんが戻ってきた。
「お待たせ! これが報酬でーす! みゆりんとっても大感激!」
「「ぶっ!!」」
きゃるんっ。そんな効果音が付きそうな。イケイケの女の子のポーズをしながらみゆりんは私達に報酬を渡す。はしたなくも噴出してしまった私達を許してほしい。
「みっちゃん……ネカマが出てるぞ」
「うっ……すまない、みんな。オレに絡みついた運命の鎖は……もとい、ネカマの習性は簡単には抜けないのよね」
「あ、あはは……」
絡みつく程、習性となるほどネカマが染み付いてしまっているらしいみゆりんに驚愕しながらも、ウィンドウを開いて報酬を受け取った。
「こほん。オレのことはともかく、ホント感謝してる! おおげさだって思うかもしんないけど、前に踏み出す勇気がついたわ」
「俺らはさ、他のゲームもけっこうやり込んでて、こういう状況でならヒーローになれる! なんて思わなくも無かったんだよ」
そう言うと、ウルリックさんは少し恥ずかしそうに頭をかきながら。
「甘かったよな。本当に死ぬかもしれないって思うと、足がすくんで、どうしようもなくてさ。街のすぐ近くで出来るだけ安全に戦って、ちょっとでもHPが減ったらすぐ戻ってきて……」
その言葉に私は何もいえなかった。私はキリトさんが走り出して、クラインさんとアルゴさんが後押ししてくれて、そして何よりも――隣にアリスが居たから、前に進むことが出来た。きっと、私1人だったらこの人たちと同じ……いや、そもそも《はじまりの街》からも出られなかったかもしれない。
「本当は探求の草原にだって、行けなくはなかったはずなのよ。でも……いざとなるとやっぱり怖いのよね。……けど、あんた達はすごいよ。オレ達の頼みなんて断ることもできたのに、まっすぐ出て行って、ちゃんと戻ってきた」
「俺らも、これからがんばってみるよ。……死なない程度にね」
そう言って二人は去って行った。私達の行動で、誰かを勇気付けることが出来たのかもしれない。
「私達も、帰ろっか? コハル」
「……うん!」
少しの満足感と共に私は、アリスと手を繋ぎながら街の宿屋へと戻っていった。明日からも、頑張ろう。
◇Side アリス
あれから数日が経った。その間私達は、クエストを受けつつ、レベルを上げるため街を奔走していた。さすがに《はじまりの街》では物足りなくなってきたので、そろそろ違う街へと向かおうか……と相談していたところに、見知った顔が声を掛けてきた。
「こないだはどうもね。お二人さんはこれからどうするの?」
みゆりんだ。それにしてもまだ女性装備のままだ。
というか、このゲーム、別に異性用の装備も普通に着れるんだ。まあ、そのシステムのお陰で私は手鏡で元の性別に戻った瞬間に装備が外れて下着姿になるなんて事は無かったのだし、良かったというか……。もしそうなっていたらしばらく立ち直れなかったどころかそのまま外周から飛び降りていたかもしれない。周りに約一万人も居たのだし。
「もし、なにも決めていないなら、俺らと一緒に――」
「アカン! ジブンら、腰抜けチキンどもとつるんどったら、一生この町から出られへんぞ!」
ウルリックの言葉を遮るようにして、1人の男性が話に割り込んできた。
……えーっと?ドリアンが喋ってる?? そんなMOB居たかな……。
「失礼なヤツだな。オレ達だってここを出る覚悟を固めたっつうの!」
急に割り込まれてムッとした様子のみゆりんが言う。ああ…でも、怒る仕草は女の子だ……。
「覚悟だけなら誰でもできるわ! とっとと実行せんかい!!」
「「ひぃっ……」」
人型ドリアンのMOBに恫喝され、みゆりん達は萎縮してしまった。それにしても一体なぜMOBがここに……?敵意は無いみたいだけど、圏内にはモンスターは入れないはず……。
「腰抜けどもはどうでもええわ。ワイはキバオウっちゅうもんや。ジブンらに聞いて欲しい話がある」
◇
ドリアン型モンスターの名前はキバオウというらしい。あれでもれっきとしたプレイヤーの1人で(つまり、あのトゲトゲした髪型はリアルでも同じなのだろう)、私達に自分達の仕事を手伝え、と言って来た。
その目的とは――フロアボスの討伐。
その為、有望そうなプレイヤーに声を掛けて回り、集めたプレイヤーで効率の良いクエストを分担して行い、戦力の底上げを図っていると言う。
そんなキバオウの熱弁に負け……というより強引に押し切られ、その仕事を手伝う事になった。やり方は乱暴だけど、ゲームの攻略を彼なりに真剣に考えていての事だし、私達が集める素材もそうレベルの高いモンスターの素材ではなかったからだ。
さほど苦労も無く集め、巻き込まれる形で荷受人となったみゆりん達に素材を渡すと、彼らは少し安堵した表情で私達を迎えてくれた。
「おかえり! 無事に戻ってきてほっとしたよ」
「俺らも、君たちがいない間にちょっとだけ強くなったんだ。……ちょっとだけだけどね」
どうやら彼らも彼らで街の近くでレベリングしていたらしい。キバオウに言いたい放題言われ、彼らも何か思うところがあったのだろう。……しかし
「それはめでたい話やな」
当のキバオウ本人が現れると
「「げぇ! 出た!!」」
まるで強力なモンスターに遭遇してしまったかのように悲鳴を上げていた。……情けない。
「ワイをモンスター扱いすな。ちょうどひとつ、用を済ませてきたとこや。ナイスタイミングやったな」
……すみません。私も最初ドリアンのモンスターだと思ってました。なんて言えないよね。
みゆりん達から受け取った、私達の集めてきたドロップ品を確認すると、キバオウは満足そうに頷き
「ほな、約束の報酬や。領収書は出せへんが、不正はしとらんぞ」
と、しっかりと私達に報酬としていくつかのアイテムとコルを渡してくれた。こういうところしっかりしてる辺り、リアルではどこかの商人さんだったのかもしれないね。
「すごい金額だ……本当に、効率よくやってるんだな」
「他人事みたいに言うとらんで、戦力になる程度にレベルを上げてこんかい。したらメンバーの隅っこにでも入れたるわ」
腰抜けチキン、とか言ってた割には、強くなれば攻略メンバーに入れてくれるらしい。強さで人を選んでいるのだけど、そのあたりは懐が深いのかな。
「ノルマがあるんだよね? 遠慮しておくよ。先を急ぎすぎるのも、どうかと思うし」
そう言ってふるふると首を振ったウルリックたちに、「腰抜けには、期待するだけ無駄か」と、呆れたようにため息を吐いたキバオウはこちらを振り向き
「ジブンらはどうや。ワイらと組んで、ボス攻略を目指す腹は決まったか?」
と問いかけて来た。
「わたしは……決められません。キバオウさんの考え方は、たぶん間違ってない。こんな状況だから、みんなで力を合わせるのはいい事だと思います。でも……他の、もっと弱い人達を切り捨てるようなことはしたくないんです」
「……ジブンはどうや。アリスとかいったか」
「私も、コハルとおんなじだよ。ヒーローを気取るつもりはないけど、前に進めなくて困ってる人を放ってはおけない」
私とコハルの答えを聞くと、キバオウはため息を吐く――が、先ほどとは違い、失望の色は含まれてなかった。
「ぬるい奴らやな。まあ、ええわ。ジブンだけ強うなりたいって奴らよりは上等や」
「1人だけが強うなってもあかん。覚悟のない奴が足をひっぱってもあかん。どっちも、百層に辿り着く前に潰れてまうわ。ほんなら、キモの据わったプレイヤー達が協力しあうんが一番や。……ワイはそう思う」
そう言うと、キバオウはニヒルに笑いながら
「ほな、覚悟が決まったら、また会おうや。できれば……フロアボス攻略ん時に顔を合わせたいもんやな」
またな、と言って背を向けて去って行った。
「トゲトゲくんは、トゲトゲくんなりに考えてんのね……」
「じゃあやれるかって言われると、別問題だけどね。たぶんキバオウの仲間だと思うけど、狩場を独占して荒らしてる連中、評判悪いしさぁ……そういうのって、俺は好きじゃないよ」
このゲームはMMORPG、つまり、沢山のプレイヤーが同一フィールドに存在する。そして、リポップするとはいえ、リソースは有限で、はじまりの街周辺はその限られたリソースを奪い合うかのようにして多くのプレイヤーでひしめいている。
だから、ある程度時間が経ったり、ドロップ品を集め終わったり目的が終わったプレイヤーは次のプレイヤーに順番を譲るという暗黙のマナーがあったりするのだけど……一部のマナーの悪いプレイヤー達が狩場を独占している、という噂は残念ながら私の耳にも届いていた。
「って、本人がいるときに言えたらいいんだけどね~。オレ達は、端っこで自分らしくがんばるわ……」
またね、と言ってこれからレベル上げをしにいくのだろう、街の外へ向かって行った二人を見送って
「自分らしく……か。誰かに流されるんじゃなくて、ちゃんと自分の考えで……」
私達は、目の前しか見ていなかった。第百層のクリアという重圧から目を背けるようにして、今やることばかりに注視して、本当の目的の事をしっかりと考えられていなかったのかもしれない。
「アリス、私も、今できること以外にも、もっと先のことも考えてみるね。生き延びることに精一杯で、すぐ答えなんか出せないと思うけど……きっと、私に必要なことだから」
コハルは、何かを決心したかのような表情で
「だから……その時までは、一緒にいさせてくれると嬉しいな。あらためてよろしくね」
まるで春を連想させる暖かな笑顔で、そう言ってきた。
「……こちらこそ。よろしくね。コハル」
いつかコハルは強くなって、私なんか必要無くなって、1人で、もしかしたら他の人と攻略をするようになるのかもしれない。キリトとか、クラインとか。私と違って本物の強い人と一緒に。
そう思うと、ちくり、と胸が痛んだ。
キャラクターの視点が切り替わったとき、Side○○と記載するようにしました。それに伴い前話も修正しています。
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