SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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次回が最終話と言ったな。あれは(ry

すみません予想外に長くなってしまったため最終話は次回です


Sword Art Online Integral Factor

 ゴーンという鐘の音のようなチャイムが午前中の授業の終了を知らせた。

 和人が言っていた事だが、この鐘の音は第一層《はじまりの街》のチャペルの音に良く似ているそうだ。

 そう言われてみるとなるほど似ている気がして、もしこれを意図していたのだとすればこの校舎を設計した人物はずいぶんとブラック・ユーモアに富んでいるとも和人は言っていた。

 まあ、実際のところはただの偶然だろうというのが小春と明日奈の結論だった。和人は変に勘繰りがちなのだ――とは明日奈の弁だ。

 

 小春は端末に刺したマウスを引き抜き、携帯端末ごとスクールバックへと放り込む。

 ちらりと視線を横に向けると、隣席ではいそいそと片付けを始めている明日奈の姿があった。

 

「明日奈、お昼は和人さんと?」

「うん。中庭で待ち合わせ。コハルはアリスと?」

「そうだよ。中庭にしようと思ってたけど……二人の邪魔しちゃ悪いし別のところにしようかな」

 

 変な気を使わなくていいのに――と明日奈は笑いながら教室を去って行った。

 実のところ、二人に気を使ったというより今日はなんとなく深紅とふたりきりで過ごしたかったという理由からなのだが、それは口にしなかった。

 

「あっ……もう、明日奈ってばまた向こうの名前で呼んでた……」

 

 明日奈は深紅の事をアリスと呼んでいた。

 

 ――小春達が今通っているこの学校はSAO生還者達の為に用意された学校で、廃校を再利用して作られている。

 通学する生徒は全員あの世界に中学、高校時代に囚われていた少年少女であり、生徒達は大まかに学年毎にクラスが分けられ、必要な単位を習得すればおよそ二年で高校卒業過程を修了できるようカリキュラムが組まれている。

 

 あの世界では、様々な事があった。

 積極的にPKや犯罪行為を行っていたオレンジプレイヤー等は一年以上に渡りカウンセリングと経過観察を義務付けられているが、自衛の為にほかのプレイヤーを手に掛けた者や、窃盗や恐喝などの犯罪行為に手を出してしまったプレイヤーは少なくはない。そういった者達は記録にも残らないためチェックの仕様も無いが、内部にいた人間はそうはいかない。

 故に、この学校では向こうでの名前を出すのはマナー違反とされている……のだが。

 

「まあ、私と明日奈にとっては今更なんだけどね……」

 

 小春と明日奈に至っては、入学と同時に身バレした。

 それも当然の事で、SAOのアバターは髪色や瞳の色は違うものの、殆ど現実での姿そのものであった上に明日奈と小春に至っては名前がそのままアバター名だ。さらに稀少な女性プレイヤーかつ最前線で活躍するトッププレイヤーの一員と名声もかなり広範囲にわたって轟いていたため登校初日はそれはもう酷い目にあった。

 その時の様子は、いつの間にか遠くから眺めていた和人と深紅によると「出待ちされたアイドルみたいだった」そうだ。

 

 小春や明日奈程ではないが、有名人であった和人もちょっとした騒ぎになっていたらしい。何せゲームをクリアに導いた《黒の英雄》様だ。

 その名声は《SAO事件記録全集》という書籍が発売されていた事によってかなり高まっており、羨望の目で、遠目から何人もの生徒に見られていてやりづらそうにしていた――らしい。

 

 もっとも、それでもまだ序の口だ。

 

 一番凄かったのは深紅だ。

 キャラメルブロンドの髪に、グリーンの瞳という人形のような見た目の少女で、その正体はSAOをクリアに導いた《紅の英雄》。

 教室に入った瞬間のそのざわつきっぷりは深紅が狼狽し逃げ出す程だったそうだ。

 最初の登校日こそ、授業が終わるや否やそそくさと退室してしまったため騒ぎにはならなかったが、翌日までの間に全校生徒に深紅が《紅の英雄》であることが知れ渡っており、深紅の元に全生徒が殺到しもみくちゃになっていたのを何事かと駆けつけた小春は目撃した。

 大勢に囲まれる事を苦手としている深紅が泣きそうになっているところを、同じクラスメイトのシリカ――綾野珪子――と小春達がストップを掛けたことでよやく騒動が落ち着いたのだ。

 

 今でも深紅と話したいという生徒は数多く存在し、一日に三人、時間を限って面会予定が組まれている。――主に珪子主導でスケージューリングされているらしい。

 小春と明日奈がアイドルならば、深紅は大女優かなにかだろうか。

 そんな深紅へと一通メッセージを送った小春は荷物を纏め始めた。

 

 教室を出た小春は食堂へと向かう生徒達とは逆方向へと歩き出す。

 元廃校を再利用したとはとても思えないほど綺麗に磨きぬかれたパネル張りの廊下を少し進み、階段を上りきると非常口とかかれた扉があった。

 ノブを回し、扉を押しあけるとざぁっと風が通り抜けた。

 暖かな日差しに目を細めながら、小春は屋上へと足を踏み入れる。

 

 特別学校は食堂が併設されているためわざわざお弁当を持ち込む生徒は少なく、その為屋上や中庭はがらんどうだ。

 小春の通っていた中学では屋上は立ち入り禁止だったが、この特別学校では普通に解放されており高いフェンスこそあるもののベンチなども置かれている。

 

 ベンチの一つに腰を下ろし、ぐっと伸びををする。

 視線を外に向けると、既に木々には若葉が芽吹いており瑞々しい新緑がそよそよと風になびいていた。

 気持ちの良い天気だと小春は目を閉じ日差しを楽しんだ。

 

 ぎぃ、と扉の開く音がした。

 

 目を開け、音のした方向――屋上への入り口を見ると一人の少女が入ってくるところだった。

 濃いグリーンを基調としたブレザーに、同色のスカート。黒いニーハイソックスの彼女はキャラメルを溶かしたような色味のブロンドヘアーをふわりと背中に流していた。

 その少女――深紅は疲れたような表情をしていたが小春を視界にいれるとぱぁっと表情を輝かせぱたぱたと駆け寄ってきた。

 

「小春! お待たせー!」

「お疲れ様、深紅」

 

 そのまま胸に飛び込んできた深紅を小春は優しく抱きとめた。

 

「疲れたよぉー……小春ー……」

 

 ふわふわとした髪に手を置きそっと撫でると深紅は気持ち良さそうに声を漏らした。

 

「疲れたのは、質問攻めに? それとも授業に?」

「両方ー……」

 

 甘えてくる深紅をなんだか子犬みたいだと思いながらも小春はよしよしと甘やかし続けた。

 

「ふふ、でも深紅も学校生活を楽しんでるみたいでよかった」

 

 深紅はSAOに囚われる前、酷い苛めを受けていたことで学校生活がトラウマになっていた。

 その事を小春はこの特別学校に通うと聞いてからも不安に思っていたが、その心配は杞憂だったようだ。

 蓋を開けてみれば、深紅は一躍話題の人で、日々沢山の友人に囲まれ戸惑いつつも笑顔を浮かべていた。

 その光景に小春はほっと胸を撫で下ろしたのだった。

 

「うん……シリカちゃんもリズもいる。キリトやアスナもいる。黒猫団の皆もいる。なにより――コハルがいる。勉強は苦手だし、なんか変に注目されてむず痒いけど……楽しいよ」

 

 顔を上げた深紅はぱっと花開くような満面の笑みを浮かべた。

 

「あ、そうだ。深紅は今日のオフ会行くよね?」

「うん。エギルのお店だよね? 行ったことないから楽しみ!」

 

 そうなのだ。

 今日の夜旧SAOプレイヤー達を集め《アインクラッド攻略記念パーティ》が企画されている。

 小春達がSAOで知り合い親交のあったプレイヤー達に声を掛け、打ち上げをするという話だ。

 企画者は和人ことキリトと、そしてエギル、理子ことリズベットの三人。エギルの店を貸しきってのパーティとなるらしい。

 手当たり次第に声を掛けまくったところ参加者はかなりの人数になるそうだ。

 

 夜のオフ会に胸を弾ませ思いを馳せていると、眼下からくぅと可愛らしい音が聞こえた。

 

「……ぁ…………」

「ふふ、お腹空いちゃった?」

 

 深紅は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔を俯かせた。

 

「そろそろお昼にしよっか」

 

 小春は深紅の背をぽんぽんと叩き隣に座らせると、スクールバッグからピンク色のお弁当包みを取り出した。

 包みを解くと、高さ10cm幅30cm程の二段のお弁当箱が現れた。

 そわそわとする深紅を微笑ましく思いながら、もったいぶるようにその蓋を開ける。

 

「じゃーん!」

「わぁ……!」

 

 メニューはシンプルにサンドイッチだ。

 しっかりと焼いたパンズに瑞々しいレタス、トマト、チーズや卵をはさみ、食べやすいよう一口サイズに切り分けられている。

 お弁当ということもあり、持ち運んでも崩れないよう爪楊枝で支えられている。

 整然と整えられた色とりどりのそれらは、嗅覚だけでなく視覚でも食欲を刺激された。

 

「「いただきます!」」

 

 深紅はトマトとチーズのサンドイッチを、小春は卵のサンドイッチを取り、ぱくりと口に放り込んだ。

 

「おいしい!」

「よかった」

 

 満面の笑みでサンドイッチを食べる深紅に釣られコハルも笑みを溢した。

 

「深紅はこの後授業は?」

「えっと……3コマ。英語と世界史と情報処理だよ」

「じゃあ一緒に帰れそうだね。私は――」

 

 お弁当をつつきながら、とりとめのない話をする。

 いつかあの世界で夢見ていた、愛する人との学園生活。

 小春は二年半越しに、青春を謳歌していた――。

 

 

 

 

 

 

 東京都台東区上野は御徒町。小春と深紅は自宅からそう離れている場所ではないので、のんびりと徒歩で指定された場所へと向かうと、木造の外観の店がひっそりと存在していた。

 そのすぐ側に、待ち合わせていた三人が談笑しており、そのうちの一人がこちらに気づき声を上げた。

 

「深紅! 小春! こっちこっち!」

 

 栗色の髪をクラウンハーフアップに纏めた見目麗しい少女がぴょんぴょんと跳ねながら手招きをしていた。

 

「こらアスナ。オフ会なんだから今度は本名で呼んじゃダメだって」

「あっごめん、つい……」

 

 明日奈の頭を軽く小突いた和人はやれやれと息を吐いた。

 その隣に居た、もう一つの影が深紅に向かってごうと風切り音を上げながら突進してきた。

 

「深紅ちゃぁーん!!」

「スグちゃんっ!!」

 

 突撃してきたリーファ――直葉を受け止めそのままくるくると回りきゃいきゃいと二人ははしゃぎ出す。

 お互い頬を触れ合わせ仲睦まじく戯れるその様子を見て小春はくすりと微笑ましげに笑った。その逆に和人と明日奈は目を丸くして驚いている。

 

「なんか凄い……仲がいいね?」

「あんなスグ俺は初めて見たぞ……」

「あはは……」

 

 小春はALOでの事件が終わった後に知った事だが、ALO内でリーファの言っていたまだ目覚めない親友というのはアリス――深紅の事だったらしい。

 なんでも出会いこそ中学に上がってからだったが、お互いすぐに意気投合し親友と呼べる間柄にまで絆を深めていた。

 その矢先に深紅はSAOに囚われてしまい、二人は引き裂かれてしまった。

 二年半も目覚めなかった深紅と再会できた事で溜まっていたものが爆発してしまったのだろう、と小春は推測していた。なにせ、自分がそうだったのだから。

 

「ほら二人とも、皆待ってるから行こう?」

「は? 待ってるって集合時間はまだ先で……」

 

 ダイシー・カフェとかかれた、サイコロの絵があしらわれた看板の掛けられている黒い扉を開け放ち、困惑する和人と深紅を押し込んだ。

 明日奈と直葉と目を見合わせ笑いながら入店する。

 

 カラン、と響いたベルの音。それに重なるようにして歓声、口笛、拍手が盛大に巻き起こった。

 広いとはいえない店内には既にぎっしりと人が集まっており、スピーカーからは大音量でアインクラッド内で楽団NPC達が奏でていたBGMが流れている。

 各々すでにグラスを手に持ち、いくつかのグループを作って談笑しており既にかなり盛り上がっていることが見て取れた。

 

「――おいおい、俺達別に遅刻してないぞ」

 

 呆気に取られたような和人がそう言うと、中から人ごみを掻き分けて制服姿の里香――リズベットが進み出てきた。

 

「主役は遅れてくるってね。あんた達にはわざと少し遅い時間を伝えてたのよ。……ちなみにアスナとコハルは共犯者」

 

 サプライズということで事前に説明を受けていた小春と明日奈はニコニコとした表情を崩さないまま困惑する深紅と和人をぐいぐいと店の奥へと押し込んでいった。

 事前に指定されていた小さなステージへと二人を押し上げると共犯者達ははそそくさと引っ込んだ。

 BGMは切られ、エギルが操作したのだろう照明が二人をスポットライトで照らすように絞られた。

 満を持して、といった感じで里香が音頭を取った。

 

「えー、それでは皆さんご唱和ください。……せーのぉ!!」

 

「「「「「キリト、アリス! SAOクリア、おめでとーーーーっ!!」」」」」

 

「……ぁ……」

「はは……」

 

 全員の唱和、拍手、クラッカーの音。

 盛大な祝福が波となり二人の英雄を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「もう、いつまで泣いてるのよアリス」

「だって……だっでぇ……」

 

 感極まってしまったのだろう、ステージで盛大に泣き出したアリスはその後の乾杯、二人からのスピーチ(アリスは泣いて上手く話すことが出来ず皆微笑ましく、にやにやと笑みを浮かべ聞いていた)が終えた後もぐずぐずとコハルに抱きつき嗚咽を漏らしていた。

 アリスの背をあやすように撫でているとグラスを掲げた一団が声を掛けてきた。

 

「やあ、コハルさん、アリスさん。久しぶり」

「あはは……まだアリスは泣いてるんだね」

「なんやだらしないなぁ《紅の戦姫》……いや《紅の英雄》様が形無しやな」

 

 珍しい組み合わせの三人だった。

 

「ディアベルさん、サチ、それにキバオウさんも。お久しぶりです」

 

 皆服装こそゲーム時代とは違うが、アバターはそのまま現実の姿だったため一目で分かった。

 ディアベルやキバオウはぴっしりとスーツを着こなし、サチはコハルたちの通う学校の制服のままだ。

 

「……珍しいね、ディアベルとキバオウはまだしもサチも一緒だなんて」

「私達黒猫団は中層帯と上層帯を行き来してたからね。えっと……《聖十字軍》の人達には何度もお世話になって、それでお礼をしてたの」

 

 流石に復活したアリスが顔を上げ言った。……目は真っ赤に泣き腫らしていたが。

 

「お、目ん玉真っ赤でまさに《紅の英雄》やっちゃな」

「むむ……。というかさっきから言ってる《紅の英雄》ってなんなのさ。そういえば学校の皆もそんな事言ってたし……」

 

 アリスの疑問に、キバオウは意外そうに目を丸くし、すぐに不満そうに唇を歪めた。

 

「なんや知らんのか。薄情なやっちゃなぁ……。これやこれ」

 

 そう言うとキバオウは懐から一冊の単行本を取り出した。黒い装丁に白く切り絵のように浮遊城アインクラッドの外観が描かれており、その横には同じく白文字で《SAO事件記録全集》と書かれている。

 

「SAO事件記録全集……?」

「そや。んでこのページに……」

 

 キバオウがパラパラといくつかページを送り、こちらへと見せてきた。

 コハルがアリスの横合いからひょいと顔を出し覗き込むとそこにはこう書かれていた。

 

「――SAOをクリアへと導いた二人の英雄、そのうちの一人《紅の戦姫》アリス。類稀なる戦闘センスと、変幻自在の剣の前に敵は無く、対人戦において無敗を誇る……?」

 

 読み上げたアリスは徐々に怪訝な表情になりながらも読み続ける。

 

「女性プレイヤーでありながら全プレイヤーの頂点に君臨し続けた彼女はその特徴的なユニークスキルからこうも呼ばれた……《紅の英雄》、と」

 

 読み進めるたび、ぷるぷると声も身体も震えだしたアリスに悪いなと思いつつも、コハルはそのページの一番最初、でかでかと書かれた一文を読み上げた。

 

「私の英雄之剣に、敵はいない――」

「なにこれええええええええええええッ!!!!」

 

 顔を真っ赤にして本をバターン! と勢いよく閉じたアリスは店内のBGMや喧騒に負けないほどの大声で叫んだ。

 その様子をキバオウはゲラゲラと、ディアベルやサチはくすくすと笑い眺めていた。

 

「え、えぇっ!? な、な、な、なん……わ、わた……」

 

 狼狽して言葉を上手く口にする事が出来ないアリスだったが、言わんとしていることはコハルには想像が付いた。

 なんでこんなこと、わたし言ってない、だ。

 

「他にもアスナとか私とか……有名だったプレイヤーは特集みたいな感じで大げさに書かれてるんだけど……。アリスとキリトさんのページは特に凄い尾ひれが付いてるっていうか……脚色されてるんだよね」

「私が変に注目されてた原因はこれかぁ……」

 

 アリスは大きなため息をついて肩を落とした。

 コハルは苦笑しながらぺらぺらとページを捲り流し見をしつつ口を開いた。

 

「それにしても、これホント正確にかかれていますよね。人物像は脚色されていますけど、実際に起こったことが詳細に記録されていて……内部の人ですよね、これを書いたのは。それもかなり大きいギルドの幹部か……ギルマス」

 

 キバオウはほうと感心したように息を漏らした。

 

「その心は?」

「記録全集と謳うだけあって、下層域から最前線まで何が起きたか書かれてます。それほどまでの規模で情報や記録を持っていたとなると、大規模なギルドの管理人くらいしか思い当たりませんから」

「コハル、随分と詳しいんだね……」

「あはは、私も持ってるから」

 

 コハルは発売日にこの本を買い、アリスに関して書かれたページは暗唱できるほどに読み込んでいたのだ。

 キバオウは愉快そうに笑うと、にぃと口の端を吊り上げた。

 

「……正解や。そん本の著者は――ワシと、ディアベルはん、シンカーはんにリンドウの四人や。監修に鼠も入れてな」

 

 その言葉にコハルはやっぱりとため息をついた。

 

「やけに脚色されてるのは、大げさに書くことでリアルバレしにくいようにっていう配慮なんですよね。多分聖十字軍の皆さんの内の誰かか……もしかしたらアルゴさん辺りかもとは思ってましたけどまさか全員だなんて……」

 

 もっともその配慮も元SAOプレイヤーからしたら無意味なものであったし、名前や姿形は知っていても実際の人となりを知らないプレイヤーにはその誇大表現がそのまま受け取られてしまっていた。その結果がアスナやコハル、ひいてはアリスやキリトの騒動に繋がったのだろう。

 

「ワシらは、あんクソゲームの事を忘れちゃあかんのや。あっこで死んでいったやつらの為にも、伝え続けていかなあかん。あいつらの生き様を、な」

「キバオウさん……」

 

 真剣な表情で語ったキバオウの目には、確固たる意思が炎のように揺らめいていた。

 

「世間はあの忌まわしい事件を忘れたがってる。その内徐々に風化していくだろう……悲しいことにね。だからその分俺達は覚えて無きゃいけないんだ。これは、あそこから生還した俺達の使命だと思ってるよ」

 

 ディアベルにも忘れたい記憶はあっただろう。一年半もの間、誰とも交流することが出来ずただ孤独に耐え続けたことなど、何度自殺をしようとしたことかと以前言っていた。

 それでも彼らは全て覚えている。記憶に残り、記録に残して。

 

 コハル達の間に沈黙が訪れた。

 皆、思うところがあるのだろう。沈んだ表情で顔を俯かせていた。

 それを破ったのはキバオウだった。

 

「あかんな、折角のお祝いムードが葬式になってもうた。ほれ、飲め飲め紅いの。今夜は無礼講や」

「あ、うん……」

 

 アリスはキバオウから手渡された、琥珀色の液体がそそがれたグラスに口をつけた。

 

「あっちょ――」

 

 コハルが止める間もなくアリスは一口、こくりと可愛らしく喉を鳴らし嚥下してしまった。

 コハルの脳裏に、SAO時代での忌まわしき事件が思い浮かんだ。

 あれは正月イベントの――

 

「んぐ、んぐ……ふう。……? コハルどうしたの。口をぱくぱくさせちゃって」

「あ、アリス……平気なの?」

 

 恐る恐る問いかけたコハルに、アリスは不思議そうにこてんと首を傾げた。

 

「平気って……何が?」

「その……お酒飲んで……」

 

 アリスはSAO内で雰囲気だけでべろんべろんに酔ってしまうほどの超がつく下戸だった。

 だが、グラス一杯を飲み干しても平気そうにしている。

 

「お酒って……これ、ウーロン茶だけど」

 

 どっと、コハルの肩の力が抜けた。

 

「流石に無礼講ゆうても未成年に酒飲ますわけあらへんやろ! がははは!」

 

 豪快に笑うキバオウにじと目を向けながら、先ほどから随分テンションが高いのは既に酔っ払っているからかとコハルは思った。

 横を見れば同じように酔っ払いの大人集団が大声で笑い騒いでいた。

 

 楽しんでいるのは大人たちだけでなく、アスナやシリカ、リズにリーファなどは固まって笑いあっている。

 キリトはカウンターでエギルやクライン。それにあれはシンカーだろうか。四人で何やら楽しげに話している。

 離れたところでは、ノーチラスとユナ。それにリンドウやユリエールなどが酒を酌み交わし談笑している。

 その他にも黒猫団のメンバーや、アルゴ。コハル達と交流のあったプレイヤー達が皆、各々のやりかたでこのオフ会を楽しんでいた。

 

 全員が楽しそうに、本当に楽しそうに笑い騒ぐ光景にコハルは自然と笑みを浮かべていた。

 

「ね、コハル。なんだかやっと実感できたよ」

「アリスも? ……実は、私も」

 

 SAO時代にも、こうして何らかの宴を開くことはあった。

 だがそのどれよりも皆このオフ会――《アインクラッド攻略記念パーティ》を楽しんでいるように見えた。

 事件終息から半年……ようやく皆の心が解放されたのだろう。あの、空を飛ぶ鋼鉄の城から。

 

 ようやく終わったのだ。全部。

 

「あははは! いちばん! ユナ! うったいまーす!」

「ゆ、ユナ! あれほど飲みすぎるなって……!」

 

 アリスとキリトがスピーチをしたステージで、ユナがマイクを片手に騒いでいる。その横ではノーチラスが慌てているが周りの人間は囃し立てるばかりでとめようとしていない。

 

 BGMが切り替わった。

 

 今までのアインクラッドのNPC楽団たちが奏でていた壮大なオーケストラ調のBGMではなく、明るくポップな、電子音をふんだんに使用した、アイドルのような曲。

 コハルはこの曲を何度も聴いたことがあった。数ヶ月前音楽界に彗星の如く現れた、歌姫のデビューシングル。

 

 曲名は《Ubiquitous dB》

 

 店に居る全員が音楽に聞き入り、時には歓声を上げ、手を振りまわし音楽に乗っている。

 サビに入ると全員が熱唱し、さながら小さなライブ会場のような有様だった。

 コハルはアリスの手を取り、言った。

 

「行こう、アリス!」

「うん!」

 

 二人は特設ライブステージ、その最前列へと飛びこんでいった――

 




・《SAO事件記録全集》
 発売時期はちょっとおぼろげですが西暦二千二十六年五月あたりの話で一ヶ月前発売と言っていたので大体クリアから一年とちょっと後に発売されているのですが、著者を四人+監修一人の五人体制にすれば早期に発売できるかなと。
 あと変に脚色されててキリトが『俺が二本目の剣を抜いた時立っていられるやつはいない(キリッ』とかなっていたのは身バレしにくいような配慮というオリジナル設定で。

・歌姫《Yuna》
 彗星のように現れたバーチャルアイドル。中の人はあの歌姫。デビューシングル《Ubiquitous dB》は発売から数日でミリオンセラーとなり一躍時の人に。ほんとは「ご存じないのですか!?」とかやりたかった。

キバオウの一人称をワイからワシに変更しました
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