この話は是非やっておきたかった
Extra Edition
夏だ。
西暦2025年。7月25日。
夏も盛りを迎え、じりじりとした熱い日差しが肌を焼く。
日焼け止めを塗ったとはいえ、それがこの刺すような日差しの強さを前にどれほどの効果を持つのか私は疑問に思った。けれど塗らないとコハルが酷く悲しそうな顔をするので結局塗らないわけにはいかなかっただろうけれど。
自宅から電車を乗り継ぐこと約一時間。たどり着いたのは私達が通う学校――帰還者学校だ。
「それじゃ、私は先に行ってるね」
「うん。スグちゃんの事よろしくね、小春」
ユイちゃんのお願いで、クジラをALOで観にいこうって話になったんだけど……私の親友であるスグちゃんは泳ぐのが苦手だ。
だから皆で、リアルで特訓しようという話になった。ALOの海は現実のものよりもずっと抵抗が少なく、ウンディーネの補助魔法があれば泳ぐことは全く苦じゃない。現実で水に慣れることができれば水中ダンジョンでも問題なく動けるだろう。
一方私はといえば、臨時カウンセリングがあると呼び出されていた。
まあ、私の場合SAO事件からALO事件まで実に二年半もの間フルダイブしっぱなし。その上実験と称して時間の流れ方が違う世界でずっと戦闘させられていたのだから、日常生活に支障が無いか他のSAO生還者より綿密にカウンセリングがスケジューリングされているのも仕方の無い話だった。
あの特殊実験を経て、支障は無いけれど影響は確かにあった。けどそれはまた別の機会に。
すっかり通いなれた校舎へと入り、階段を上る。二階フロアの職員室前を通り過ぎ、目的の場所へ。
カウンセリング室の扉を開け、中へと入る。
「失礼しまぁーす」
中に入ると、いつもの美人のカウンセラーさんが――居なかった。
「え……?」
「は……?」
中に居たのは《黒の剣士》キリトこと――桐ヶ谷和人だった。
あんぐりと口を開け、驚きに目を見開いている。驚きたいのはこっちのほうだった。
「な、なんで和人お兄ちゃんが……?」
「なんで深紅が……いや、そうか、そういうことか……」
今日は学校が休みだ。カウンセリングに来るのは私しか居ないはず。
その上キリトはスグちゃんの水泳特訓に行っているはずで――
何か勘付いたらしいキリトが視線を私から外し、カウンセリング室の奥へとむけた。つられて私も覗き込むと、フォーマルなスーツを着込んだ、胡散臭そうな雰囲気の男がにやにやとした表情でこちらを見ていた。
ああ、そういうこと……。
「今日の臨時カウンセリングっていうのは嘘だったって事?」
「悪いね、そうでも言わないと君達は来てくれないと思ってね」
男の名前は菊岡誠二郎。総務省は仮想――なんだったか、ごちゃごちゃとした部署名だったが、とにかく官僚のエリート様だ。
私が目覚めた後、話を聞きに何度か病室へと来ていた。深藍によると私が眠っている間も何度か来ていたらしい。
「私とかず――キリトがここに居るって事は、SAO絡み? それともALO? どっちも話せる事は話したと思うんだけど……」
「俺もだ。それに何度も言ってるが、行動ログを辿れば一目瞭然だろう」
キリトと私の問いに、菊岡は苦笑しながら肩を竦めた。
「行動ログで分かるのは、いつ、誰がどこに向かったという表層的なものしか分からないんだよ。あの二つの事件を纏めるにあたって、当事者の生の情報を得たくてね。お菓子でも摘みながら気楽に話しておくれよ」
あの事件の事は気楽に話せる内容ではないが、この菊岡という男には多かれ少なかれ恩がある。
私はキリトの隣に用意された椅子にしぶしぶ腰を下ろすとテーブルの上からイチゴ味のチョコレート菓子を手に取った。
「はぁ……で、何の話が聞きたいんだ。言っとくが、俺達にも話したくない事の一つや二つくらいあるんだ。全部に全部答えられるわけじゃないぞ」
キリトはどっかりと背もたれに背中を預けると、ぽりぽりと細長い棒状のお菓子をかじり始めた。
「そうだなぁ……まず、二人の関係から聞こうか。さっきの呼び方からして二人はリアルでも知り合いだったんじゃないかな? それも随分と親密な」
うぐ。
驚きで咄嗟に普段の呼び方をしてしまったのを聞き逃してもらえなかった。キリトもキリトで私の事を本名で呼んでいたし、言い逃れは出来ないだろう。
「菊岡さんはSAO生還者の住所知ってるんでしょ? それならある程度推測できると思うけど」
「ああ、知っているが本人の口から直接聞きたくてね」
「……俺とアリスは同じ中学で家も隣同士。学年は違うが、俺の妹と仲良くてな。その関係で何度か遊んだ事があるってだけだよ」
キリトがぶっきらぼうに言い捨てると、菊岡はにやりと口の端を歪めた。
「それだけにしては随分と気安い呼び方だったと思うけどなぁー。和人お兄ちゃん?」
「ふぐっ……わ、私は別に……スグちゃ――キリトの妹の呼び方を真似しただけで……」
あの頃の私は、多分守ってくれる年上の人っていう存在を求めていたんだと思う。
深藍は私にとって守るべき妹だったし、スグちゃんは隣に居てくれる親友だ。
だからきっと私は、お姉ちゃんとか、お兄ちゃんという存在に憧れていた。
まあ、結局SAOの中で私を守ってくれる、隣に立ってくれる、守るべき愛する人が出来たわけだけれど。
キリト自身も、守ってくれる人というよりは負けたくないライバルで、心強い相棒っていう印象が強くなってしまったから今更お兄ちゃんという感じはしない。それでもうっかり前の呼び方で呼んでしまうから最近ではこのままでいいかとも思いはじめていた。
ぱたぱたと、熱くなってしまった顔を手で仰ぐと、菊岡は愉快そうに笑った。
「ははは……そういうことにしておこうか。それじゃあ最初からなんだけど――」
「ああ、あの時は――」
「えっと、私は――」
◇
「わぁ小春、その水着可愛いね! あの時の水着みたい!」
明日奈はぱんと手を鳴らし、小春の水着に歓声を上げた。
小春は先に来ていた明日奈達の四人に、微笑み手を上げながら近づいていった。
小春の水着は、つい先日深紅と一緒に買いに行ったものだ。
眩い白色を基調とし、空色や若葉色を差し色としたのホルターネックタイプの水着で、ボトムスにはフリルの他にリボンがあしらわれている。
その水着はSAO時代でもコハルが身につけていたもので、細部は多少違うものの、お店で見かけたときにビビッと来て購入したものだ。
サイズが合ってよかったと胸を撫で下ろしたのは内緒だ。
「ありがとう明日奈。……あれ? 和人さんは?」
先に来ていた筈の和人一行。その一行の主要人物たる和人の姿が見えず小春は首を傾げた。
その疑問に答えたのはリズベットこと里香だった。
「あいつ臨時カウンセリングとかって呼び出しくらってんのよ。今頃美人のカウンセラーさんに鼻の下のばしてるんじゃない?」
「もう、里香さん。……あれ? 深紅さんと深藍さんも居ませんね」
和人が臨時カウンセリング? ということは深紅とバッティングして――ああなるほど。
「深紅は後で来るよ。カウンセリングで――多分、後でキリトさんと一緒に来ると思う。深藍ちゃんは用事があってちょっと遅れるみたい」
「じゃあ先に私達だけで始めよう? ほら直葉ちゃん」
明日奈に呼びかけられた直葉が、びしっと直立し言った。
「はいっ! 今日はよろしくお願いします!」
背筋をピンと張り、角度は四十五度。頭の天辺から腰まで一本の棒のように一直線。恐ろしく綺麗な一礼だった。
深々とし過ぎて最敬礼となってしまっているが。
緊張でガチガチに固まっている直葉を見て、小春は微笑ましい気持ちになった。
ところで、何故直葉だけスクール水着なのだろう?
◇
臨時カウンセリングという名の聞き取り調査を終えた私とキリトはそのまま敷地内へのプールへと向かっていた。
「はぁ……つっかれた……」
「お菓子食べ過ぎちゃったかも……」
ずっと座っていて硬くなった背中を解す様に伸びをしながら玄関口を出る。
プールは校舎とは少し離れており、その途中で深藍と合流した。
「お姉ちゃーん!」
「深藍ー!」
こちらを見つけるや否やぶんぶんと嬉しそうに手を振る深藍。
私とは違う学校の制服のスカートに、私は犬のしっぽを幻視して苦笑いを浮かべた。
なんか、どんどん妹が犬っぽくなってるなぁ……。
はしゃぐ妹を宥め、更衣室前でキリトと別れた。
更衣室内にて。
「お姉ちゃんそういえば水着は? さすがに前のはサイズ合わないでしょ?」
「さすがにね。でも昨日新しい水着を買いに行ったんだー」
今日はプールで泳ぐということで、先日学校帰りに、水着を新調しにコハルとショッピングモールへと買い物をしに行った。
その際コハルはすぐに自分の水着を決めたみたいだけれど、私は迷ってしまった。
水着なんてスクール水着以外着たことなかったし、種類が沢山あってどれにすればいいのか分からなかったのだ。
スクール水着があればそれで行こうとも思っていたけど、流石に二年前のやつがサイズが合うはずは無く、さらに小春も断固として許してくれないだろう。
結局迷った私は小春に助言を求めた。……それがいけなかったのかもしれない。
私の水着ファッションショーが幕を開けてしまったのだ。
そんなもの、一体誰が喜ぶというのだ。
あれもこれもと水着をとっかえひっかえ試させられるうちに、気が付けば二時間近くも経っていた。
かなり際どい水着も試させられ、肉体的にも精神的にも疲弊した私は結局何の水着を購入したのかはよく覚えてない。
とりあえず小春がものすごくはしゃいでいたから、似合わないことは無さそうだ。
「お姉ちゃんも早く着替えなよー」
深藍は随分早く着替え終わったようだ。
「深藍早いねー着替えるの」
「下に着てきたからね」
深藍が纏っているのは濃紺のワンピースタイプの水着。つまるところスクール水着だった。
「スク水なんだ」
「うん。学校のプールだからおかしくないだろうし――多分、約一名ほどスクール水着で来そうだったから」
一人だけは可哀想だしね、と深藍は舌を出して笑った。
約一名とは一体だれだろう。
そんなことを思いながら私も着替えようと鞄から水着を取り出し――
「ふぇ?」
まずその折りたたまれた水着の小ささに面食らった。
そして恐る恐る広げ――
「な、なにこれええええええええええええええっ!!!!」
◇
更衣室から深紅の絶叫が聞こえてきて、皆何事かと構える中、小春はニコニコと笑みを深めていた。
あの水着を選んだのは小春だ。
素面であれば絶対に選ばないような水着を、擬似ファッションショーで疲れさせ選択する気力を奪い、購入させる。
さらにここまでくれば水着を着る以外にはなく、深紅はいくら恥ずかしかろうとその水着を着るしかない。
完璧な作戦だと小春は内心ガッツポーズをしていた。
「なんかすげえ声聞こえたけど……大丈夫か? アリスのやつ……」
和人が女性更衣室の方を心配そうに見ながらやってきた。そしてこちらを視界に入れ、固まった。
「お……おお……」
和人の口から漏れたのは、感嘆の声だった。その視線の先には明日奈が居る。
小春はぐいと明日奈の背を押した。
「ちょっ、小春?」
「ほらほら、和人さんに水着見せてきな?」
よたよたと和人の前に送り出された明日奈は顔を真っ赤にしながら悶えていた。
それは和人も一緒のようで、同じく茹だこのような表情で何事かを話している。
「ほほえましいわねぇ……あーっ! 私も良い人できないかしら!」
「あはは……」
里香と圭子が微笑ましげにその光景を見ていた。
里香を筆頭に、小春、サチこと
にこにこと――否、にまにまとその光景を小春達が見守っていると、女子更衣室の方から声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、諦めよう? ほら、折角着たんだから――」
「うぇぇ……でも、でもぉ……」
深藍だ。そして情けない声をあげているのは深紅だった。
やがて観念したのか、深藍に連れられとぼとぼとその姿を現した。
「えっ……」
「ちょっ……」
「すっご……」
里香、圭子、直葉の台詞だ。
和人は噴出し、明日奈は驚愕に絶句している。
「うぅ……小春ぅ……」
顔をこれでもかと赤くし、必死に手で身体を隠すその姿に小春は卒倒しそうになった。
深紅の水着は、所謂三角ビキニと呼ばれるものだ。
トップの布地が三角形をしており、バストをこれでもかと強調している。片腕で必死に隠そうとしているが、そのせいで逆に双丘が形を変えており、溢れてしまいそうな様子だった。
ボトムは可愛らしくフリルがあしらわれているが、それでも少ない布地は、人形のように白い足を大胆に露出させている。
色はパールホワイト。白は清純さを象徴しているというが、これは――
「なんていうか、これ、犯罪じゃない?」
「どーいうことーっ!!」
里香の台詞に深紅は悲鳴を上げた。
「前々から凄いとは思ってたけど、ビキニ着ると際立つね……」
「すっごい、大きいです……」
直葉はひくひくと頬を引き攣らせ、圭子はほうと感嘆のため息をついた。
小春は満足そうに頷くと、恥ずかしがる深紅の元へと歩み寄る。
「小春……なにこれ……」
「深紅、かわいいよ!」
恥ずかしがってる姿が、という台詞は隠した。
「うぅぅぅ……えーい! もう! こうなったら自棄っぱちだ!」
深紅は叫ぶとずんずんと直葉の元へと進んで行った。
「スグちゃん! 泳ごう!」
「えっ!? ちょっと深紅ちゃん!?」
そのままぐいっと直葉の手を掴むと、勢いよくプールへと飛び込んだ。
派手な水飛沫が上がり、小春たちの顔にぱたぱたと降ってきた。
そのまま水中ではしゃぎ出した二人に、皆でくすりと笑みを溢した。
「うぉっ! やったなこのやろう!」
「あはは! かかってこーい!」
深紅が和人に水を思いっきりかけ、それに怒った和人が飛び込んだことでプールの中は乱戦状態に。
「よーし、あたしたちも!」
「いきます!」
「ええ!」
里香、圭子、明日奈も続いて飛び込んだ。
「深藍ちゃん、私達も!」
「はい!」
楽しげな雰囲気に我慢出来ず、小春と深藍もプールへと参戦する。
抜けるような青空に、少年少女の楽しそうな笑い声が木霊していった――
アリスの水着初お披露目。
ロリ巨乳+ビキニ=犯罪の完成です本当にありがとうございました。
・サチの本名
原作では登場しなかったのでオリジナルです。本名は雪乃幸織《ゆきのさおり》
クリスマスや、FB追加シナリオなど何かと雪がちなんでいるのと、サチ=幸でこうなりました。ぱっと決めましたが割りとお気に入りだったりします。
・アリスのバストサイズ
直葉と同サイズです。身長の分アリスの方が大きく見えます。
二人が以前通っていた中学では、影で二大巨頭と呼ばれ尊敬と畏怖の念を送られていたというどうでもいい裏話が