SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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水遊びコハル欲しかった……

サーニャが手に入ったので、片手剣が更に強化されました。

コート系のアバターが欲しいなと思うこの頃


デート・デート・デート 後編

◇Days3 リーファの場合

 

 

 うっすらと立ち込める朝靄の中、ちっちっという小鳥の地鳴きの声だけが聞こえている。地平線から昇る朝日の眩しさも、靄にはばまれて心地良い明るさとなって街を照らしている。

 その日は朝から、それもまだ早朝と言っていい時間帯からの待ち合わせだった。

 待ち合わせ、とはいっても相手は実家の真隣に住んでいるからそれほど大げさなものでも無いのだけれど。

 

「ふわぁ……」

 

 流石に少し眠い。が、これからの事を想像するとうきうきと心は弾むもので、憂鬱とした気分はさっぱりと無かった。天気予報では、今日は一日好天が続くらしい。絶好のお出かけ日和だ。

 

「お待たせ、深紅ちゃん」

「スグちゃん。おはよぉ」

 

 今日の遊び相手はわたしの親友。桐ヶ谷直葉――スグちゃんだ。

 眉と肩のラインでカットした黒髪を揺らしながら、ぱたぱたとかけてくる彼女に片手を上げ出迎える。

 ゴールデンウィーク中とはいえ、わたし達はまだ学生なのだからと二人とも私服ではなく制服を纏っている。

 それだけでは寂しいからと、わたしは先日明日奈に買ってもらったリボンを、スグちゃんは白い花をあしらった髪留めをつけていた。

 

「ふふふ、楽しみだね!」

「うん!」

 

 開口一番、嬉しそうにそう言った彼女にわたしも釣られて笑みを溢す。

 今日は、ずっと前から約束していたテーマパークに遊びに行くのだ。

 夢の国とまで呼ばれる、世界中に知らぬ人の居ない国内有数の巨大テーマパーク。

 それを親友と二人で遊びつくそうというのだ。楽しくないはずが無い。

 

 ああ、楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 訪れたテーマパークは、その巨大な敷地がいくつかのエリアに分かれており、エリア毎にテーマが設定されている。

 そして、そのエリアにちなんだ特色のあるアトラクションやお店が設置されており、一つのテーマパークでありながら色んな時代や場所を越えたような体験が出来るのが特徴だ。

 

 ひとつめ。

 アメリカ開拓時代の西部をテーマにした、大きな河が敷地の殆どを占めるエリア。

 その中にある、鉱山列車のアトラクション。

 

「やっほーーーーーう!!」

「うわあああああああああああっ!?」

 

 ふたつめ。

 未来をイメージした、どこかSFチックな印象のエリア。

 その中にある、暗闇を高速で走り回る新型ロケットに乗るアトラクション。

 

「ひゃっほーーーーー!」

「にゃああああああああああああっ!?」

 

 みっつめ。

 西部のエリアを流れる、大きな河。その畔にある小動物たちの郷がテーマのエリア。

 その中にある、最大傾斜45度、16メートルもの滝を急降下するいかだのアトラクション

 

「いえーーーーーーい!!」

「ひゃああああああああああああっ!?」

 

 開演と同時に入園してから、連れ回され二時間ほど。

 わたしは息も絶え絶えに休憩スペースでぐったりとしていた。

 

「楽しかったぁ……!」

「そ、それは良かった……」

 

 わたしの目の前でつやつやと表情を綻ばせた親友に、げんなりとする。

 ゲームの世界でスピードホリックと呼ばれるほど速さの魅力に取り憑かれた彼女は、現実世界でも病的だった。

 

 わたしもSAOやALOでは速度特化の戦士であるし、先程まで乗っていたアトラクション以上の速度は出せる。

 が、自分で走ったり止まったりを制御できるから平気なのであって、いくらそれに慣れていたところで振り回されるとやはり怖い。

 

「ごめんね、深紅ちゃん。付き合せちゃって」

 

 わたしがふうふうと息を整えていると、スグちゃんは申し訳無さそうに眉を下げて謝って来た。

 

「んーん。怖かったけど、楽しかったよ」

 

 そんな彼女に、気にしないでと笑いかける。

 今までの3つのアトラクションはどれも人気の高いもので、ゴールデンウィーク中ということもあって混雑している中では120分待ちとか平気で並ばされるレベルだ。

 そのため、早めに優先的に乗れるチケットを取って乗ってしまおうという提案に頷いたのはわたしだ。

 そして、楽しかったという言葉に嘘は無い。

 風を切るあの感覚は、やはり気持ちがいいのだ。怖いけど。

 

「そっか。じゃあ休憩したら今度はのんびりしたのに乗りにいこっか」

「うん!」

 

 それからの時間は、掛け値なしに、夢のように楽しかった。

 

 ボートに乗って、色んな世界を回るアトラクションに乗って癒されたり

 

 売店で買った、このテーマパークのマスコットキャラを模したカチューシャをお揃いで購入して着けたり

 

 イカダにのってたどり着いた孤島で、宝の地図を頼りに冒険してみたり

 

 的を打って得点を稼ぐゲームで競ったり

 

 楽しい時間はあっという間で、気がつけばもう既に陽が傾き始めていた。

 

「あっというまだったね」

「そうだねぇ」

 

 お店で買ったはちみつ味のチュロスに舌鼓を打ちながら、ほうと身体に篭った熱を吐き出すようにため息をついた。

 夜にやるナイトパレードは見て行きたい。そしてそれが終わる頃にはもう帰らないといけない時間になる。とすると、あと乗れるアトラクションは一つか二つくらいかな……。

 

 地図を取り出して乗ってないものをピックアップしていると、スグちゃんが神妙な面持ちでこちらを見ていることに気がついた。

 どうしたのだろうと顔を上げると、彼女は緊張したように話し始めた。

 

「深紅ちゃん、ゴールデンウィーク中なのにコハルさんと一緒に過ごす時間を貰っちゃってごめんね」

「え? どうしたの、急に……」

 

 スグちゃんは突然謝りはじめた。

 確かにコハルとは最後の一日くらいしか一緒に居れないけれど、だからといって他の友人との時間をないがしろにしようとは思わない。

 だから、スグちゃんが罪悪感を感じる必要なんてないのだけれど、彼女は尚も申し訳無さそうにしゅんとした顔のままだった。

 

「実はね、コハルさんにも事前に話してあったんだ。どうしても伝えたいことがあるから、深紅ちゃんを貸してくださいって。コハルさんは『深紅は私の物じゃないから、気にしないで』って言ってくれたんだけど……やっぱり恋人とは一緒に居たいよねって思って……」

 

 そう言ってちらりと視線をずらした彼女にあわせ、その先を追うと……ああ、なるほどと納得した。

 このテーマパークは、わたし達の様に友人同士で訪れる者も居るが、それと同じくらいカップルで来る人達もいるのだ。

 恐らくスグちゃんは、カップルで仲睦まじく楽しんでいる様子を見て、わたしがコハルと来たかっただろうなと煩悶としたのだろう。

 

「えいっ」

「あいたっ!」

 

 こつり、と手を伸ばして未だにしゅんとしたままのスグちゃんの頭を小突く。

 全く。見当違いもいいところだ。

 

「勿論、コハルと来たいなって思ったのは本当だよ。だけど、スグちゃんとだって来たかったよ」

 

 わたしの言葉に、スグちゃんは驚いたように目を白黒とさせた。

 

「ずっと前から約束してたんだもの。それに、スグちゃんはわたしの大切な親友なんだから、コハルと比べてどうこうだなんてしないよ」

 

 コハルは大切な恋人だ。だけど、スグちゃんだって大切な親友なんだ。

 思いの種類は違うけど、その強さに遜色は無い。

 

「……もう、深紅ちゃんてば」

 

 やがて、スグちゃんは照れくさそうに頬を掻くと、双眸をふにゃりと崩し微笑んだ。

 

「深紅ちゃん。わたしと友達になってくれてありがとう。これからも、よろしくね」

「もちろん!」

 

 二人、微笑みながらぎゅうと手を握り合った。

 あの時、スグちゃんに声を掛けてもらえてよかった。スグちゃんと、友達になれてよかった。

 お礼を言うのは、こちらこそだよ。スグちゃん。

 

 大好きな親友と、夢の国を目一杯堪能しようとわたし達は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、深紅ちゃん最後これ行こうよ。幽霊が999体居るってマンション」

「………………え”」

 

 

 

◇Days4 アイの場合

 

 

 

 無限に広がる蒼穹に、ぽっかりと穴が開いたような巨大な影が浮いている。

 それは数多の層が幾重にも重なった巨大な浮遊城であり、名を《アインクラッド》という。

 

 ALO史上最大のアップデートでつい数日前に新マップとして追加されたかの城は、実のところ現状では十層までしか実装されていない。公式アナウンスではその後も十層ごとに段階を踏んで追加されていくそうだ。

 五月一日に日付が変わると同時に出現したアインクラッドには、当然のように津波の如くプレイヤーが殺到した。

 そこには旧SAOプレイヤーからのカムバック組や、ALOでのトッププレイヤーやギルドが分け隔てなく協力し合い……というにはお互い強固なプライドや自負心を抱えている為、流石にすんなりとは行かなかったものの、少しずつではあるが徐々に歩み寄り始め距離を縮め出しているという。

 では、そんな最古のVRMMOと、アミュスフィア最古参タイトルのプレイヤー達が協力した結果、アインクラッドの攻略がこの四日間でどこまで進んだかというと……。

 

 その歩みは、まだ第一層すら踏破すること叶わずに居た。

 

 何故か。

 その答えは単純に、アインクラッドのモンスター達がやけくそレベルで強化されていたからだ。

 

 MMORPGにおいて、大型アップデートで追加される新マップというのは基本的にその当時のエンドコンテンツとして設計されている。

 つまり、アインクラッドの第一層モンスターも相応のレベルが用意されているので、一筋縄では行かないのも当然だった。

 当時はSAOにおける一番最初に目にするモンスター《フレンジー・ボア》に、キリトが負けかけた時は本当に笑ったし戦慄した。コンバートせず新たにキャラを作り出した結果レベルやステータスが当時より遥かに低いとはいえ、《黒の英雄》が《はじまりの街》付近で躓きかけるなど何の冗談だと思ったものだ。

 各々が譲れないプライドを抱えている旧SAOプレイヤーとALOプレイヤー達が協力の姿勢を見せ始めたのも、度重なるボスアタックと全滅を繰り返した結果「そうする他にない」という結論に至ったからだった。

 

 結局、わたしたちはスタートダッシュを決めるのは早々に諦め、のんびりとアインクラッドを攻略していくことにしたのだ。

 クエストなどもそのまま同じものが使用されているため、向こうでの知識がそのまま活かせる上に、報酬が美味しいのでゆっくりクエストを消化しつつ上を目指そうということになった。

 もうわたし達は急いでこのゲームを攻略する必要は無い。思い出を振り返りながら、当時は出来なかった、壮大な美しい世界を眺めながら進むというのも、ゲームの楽しみ方の一つだろう。

 

 さて、そんな《アインクラッド》に、わたしは降り立っていた。

 

 第一層《はじまりの街》。

 当時と変わらないその姿に、何度訪れても胸を締め付けられるような……郷愁感というのだろうか、ノスタルジックな気持ちにさせられてしまう。

 地に着いた足から伝わる、石畳のごつごつした感触や、建物の間を抜けた風がそっと髪を揺らす感覚。耳朶を叩くNPC楽団の陽気なBGMの全てが懐かしい。

 

 いい思い出ばかりではなかったものの、やはりここを訪れるたびどうしても記憶が刺激されてしまうものだ。

 ふと思い立って宙で右手を振り――そういえばALOでは左手で開くのだったと少し気恥ずかしさを感じながら左手でメニューを開く。

 メニューをスクロールさせていくと、一番下にきちんと《LOG OUT》という文字を見つけなんとなく安心した気分になった。

 

「……遅いなぁ」

 

 メニューに表示された時刻を見ると、もう待ち合わせの時間から十分近く経過している。

 現実で先にログインして待っていると言って部屋に戻っていったし、フレンドリストでも既にログインしてアインクラッド内に居ることが分かる。

 どうしようか。探しに行った方がいいかな。

 だけど《はじまりの街》は只でさえ広大な上に、今も沢山の往来がある。一目見れば気づけるとはいえ、この人混みの中探そうとなると骨が折れそうだ。

 で、あるならばわたしがここから動いてすれ違うより、待ったほうが良いかなとそう結論づけたところでこちらに駆け寄ってくる影を視界に捉えた。

 

「お姉ちゃん! ごめん、お待たせ!」

 

 藍色の瞳に、同色のロングヘア。薄花桜のローブにとんがり帽子と全身青尽くめの魔女風な少女。

 ALOで《藍氷の魔女》と呼ばれている、アイこと――わたしの実の妹、名月深藍だ。

 

「迷子になったかと思ったよ」

「ごめんごめん。ちょっと情報収集してたらナンパに会っちゃって」

 

 へえ、わたしの妹がナンパにね。

 

「そのおバカさん達はどこ? なます切りにしてやる」

 

 わたしの可愛い妹に手を出そうとするとは、その勇気だけは買ってあげよう。報いは当然受けてもらうけど。

 装備セット欄からリズベット謹製の大鎌のような大剣《ソウル・リーパー》を取り出し現出させ、報復に赴こうと踏み出したところで慌てたアイに止められた。

 

「だ、大丈夫だって。きちんと”お話”して切り抜けてきたから」

「そう……? ならいいけど。困ったらお姉ちゃんに言うんだよ」

 

 わたしがしぶしぶと武器をストレージにしまい顔を上げると、アイは嬉しそうににこにこと笑みを溢しながらこちらを見ていた。

 

「……どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

 

 よく分からないが、何だか妹は機嫌が良いらしい。

 

 今更ながら、アイ――妹がわたしをALO内でも『お姉ちゃん』と呼ぶことについてはもうそのままにしている。

 最初こそリアルでの関係を公言しているようなその呼び方は慎むように言っていたが、アイ曰く「お姉ちゃんはお姉ちゃんだから」とよく分からない理由でそのままだった為諦めた。

 まあ、わたしをALO内で『お姉ちゃん』と呼ぶのはなにもアイだけではないし、ネットリテラシーという点では現実世界の姿であるSAOのアバターをそのままコンバートしている時点で今更だった。

 アイがわたしを姉と呼ぶのはいいとしても、わたしがアイをいつもの通り『深藍』と呼んでしまうのは流石に問題があるのでそこは気をつけているのだけど。

 

 閑話休題。

 

「それで、やりたいことってなぁに?」

 

 今日は事前に深藍から、ALO内でやりたいことがあると誘われていたのだった。何をしたいのかと聞いてもはぐらかされており、結局何に連れ出されるのかは分からないまま。

 エンドコンテンツとは言っても、元SAO内では序盤の街だ。受けられるクエストも単純なお使いや討伐系等特別難しいものは無かったはずだけど。

 

「お姉ちゃんと二人で倒したいモンスターがいるんだ」

「わたしと二人で? 何を倒したいの?」

 

 倒したいモンスターというと、なんだろうか。

 ああ、そもそも《はじまりの街》で受けられるクエストとは限らないのか。とすると、クリアするのが面倒くさい《森の秘薬》クエスト辺りだろうか――

 

「えっとね、このフロアのボス!」

「無理に決まってるでしょ!?」

 

 

 

 

 

 

 浮遊城《アインクラッド》がALOに実装された時、それはもう津波のように、怒涛の勢いで大勢のトッププレイヤーが迷宮区へとなだれ込んだ。

 SAO時代と同様に、フロアボスは一度倒すとそれきりであり、討伐をして《はじまりの街》黒鉄宮にある《剣士の碑》に名前を刻まれるチャンスは一度きり。

 その栄光を手にしようと、回線がパンクするのではないかという程のプレイヤーが殺到し、そしてたった一つの集団もボスがカタナを抜くところまでたどり着くことすら出来なかった。

 わたしとキリトも一度攻略集団に混ぜてもらって挑戦し、結局ボスのHPがレッドゾーンに入るぎりぎりのところでタンクとヒーラーが全滅し撤退という結果に終わっている。

 

「勝てるわけないでしょ……」

「だから勝てなくてもいいの。お姉ちゃんと二人で強い敵に挑みたかったの」

 

 結局押し切られ、こうしてのこのこと迷宮区にまでやってきてしまった。

 正直瞬殺される未来しか見えないが、妹がここまで強くやりたいとおねだりしてきたのは久しぶりなため、お姉ちゃんとしては手を抜くわけには行かず、使ってる余裕などないだろうがありったけの回復アイテムを持ち込んである。

 あの時挑んだメンバーは急造だったため、最終的には連携が上手く取れず失敗してしまった節があるので、妹とであれば二人でも多少は善戦出切るかも知れない……と思いたい。

  

 今は、ボス攻略の順番待ちで部屋の前で待機している。後1パーティーが中に入れば、次はわたしたちの番だ。

 装備とアイテムの最終チェックを行いながら暇を潰していると、不意に背後から声を掛けられた。

 

「なあ、あんた達もしかして二人で挑むのか?」

 

 振り向き声の主を確認すると、何度か目にした事のあるサラマンダーをメインに据えたレイド部隊のリーダーだった。

 

「そうだけど……」

「やめとけって。いくら《魔性の姉妹(マギ・シスターズ)》だからってむざむざデスペナ受けに行くようなもんだぞ」

 

 彼はわたしたちが無茶をしようとしてるのを諌めようと声を掛けてきたらしい。

 だけど待って。今、彼はなんと言っただろう?

 

「ちょっと待って、マギ……なんだって?」

「あれ、違ったか。あんた《紅の小悪魔》だろう? で、そっちが《藍氷の魔女》」

 

 わたし、そしてアイと順に指を向けて口にしたのは、不本意ながらわたしとアイがこのゲーム内で呼ばれている二つ名だった。

 だけど先程彼が言ったマギなんとかというのは初耳だ。

 

「二人とも見た目が姉妹みたいにそっくりだろ? で、コンビを組んでる姿を見ることが多かったみたいでな。"小悪魔"と"魔女"で《魔性の姉妹》って呼ばれてるんだよ

「なんて安直な……」

 

 あまりにもそのままなネーミングに、げんなりとした気分になる。このちんちくりんが誰を悩殺しようというのだ。

 姉妹みたいにそっくり、ということは現実でも姉妹だとはばれてはいないようだ。ばれたところで痛い腹はないのだけれど。アイもわたしをお姉ちゃんと呼び続けている事だし、その二つ名の意味が少し変わるのはそう遠くないだろう。

 

「あんた達がとんでもなく強いのは知ってるけどさ、それでもこのボスには勝てるとは思えないよ。俺達のレイド、丁度二人空いてるんだ。良かったら一緒にいかないか?」

 

 彼の言う事はもっともで、わたしたちの実力を認めた上で誘ってくれるのは正直嬉しくも感じる。

 だけど

 

「うーん、ごめん。今日はアイと二人で挑戦したいんだ。もし次があったらその時にまた誘って欲しいな」

 

 無理は承知の上だ。だとしても、妹のお願いを姉として叶えてあげたい。

 

「そうか。それじゃあ俺達は少しでもボスの情報をあんたらが持ってきてくれるのを祈ってるよ。まだボスが使うって言うカタナスキルすら見た事ないからな」

 

 わたし達の意志を硬いものと受け取ったのか。彼はやれやれと肩を竦め、最後に「それじゃあ頑張って」と片手を上げ集団へと戻っていった。

 

 気がつけば、わたし達の前のパーティは既に突入し終え、扉は閉まっていた。

 いよいよ次が、わたし達の番だ。

 

「……どうしたの、アイ。なんか大人しかったけど」

 

 わたしがサラマンダーレイドのリーダーが話している間、アイは一言も喋らなかった。

 その事を指摘すると、アイはすこし緊張したように顔を強張らせこちらを向いた。

 

「……なんか少し、緊張しちゃって」

 

 ボス戦を前に、さすがのアイといえど緊張をしてしまっているようだ。

 それもそうだ。アイはフロアボスは初挑戦だという。情報を集めていたらしいが、実際に相対するとなるとやはりプレッシャーは相当なものだろう。

 かつては、わたしもそうだったな……

 

 だからこそ、わたしは先輩として――姉として、妹を安心させるように手を握った。

 

「大丈夫。お姉ちゃんが絶対守ってあげるから。……だから、楽しもう?」

「お姉ちゃん……」

 

 繋いだ手の先、アイはぱちぱちと目をしばたたかせると、面食らったような顔に笑顔が浮かんだ。

 

「うん!」

 

 ぎぃぃぃと、重々しい音と共に目前の扉が開いた。

 

 さあ、行こう――

 

 わたしは妹の手を引いて、ボス部屋の中へと足を踏み入れた。

 

 

 




アインクラッド実装アプデをなんか四月ごろだと勝手に勘違いしてました。
八巻読んだら五月って書いてあった……ので、ゴールデンウィーク初日の零時にアプデがあったということに。

テーマパークのシーン、固有名詞一個も使ってないから大丈夫だよね……??
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