SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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ルールが欠陥だらけ、その上描写不足が目立ったため一度後編として投稿したものを編集し、分割。再投稿いたします。

ご迷惑おかけいたしました。

この作品におけるALOの詠唱は、原作アニメで登場したものに関してはそのまま。オリジナルのものに関しては意訳したものをルビに振ってあります。


私達のウォーゲーム 2

 アリス率いる新生ギルド《七人の妖精》が発足してから程なく。

 ついに、ギルドイベントの詳細が発表された。

 

 ルールは以下の通り

 

 ・一つのギルドに付き、一チームが参加できる

 ・一チームの人数は、最大で十人まで

 ・四チームが一つのエリアで競う

 ・対戦相手に関する情報は、直接対峙するまで分からない

 ・飛行は禁止

 ・アイテムは持ち込み禁止。尚、チームメンバーと通信するためのアイテムは各自に配られる。

 ・レベルは中堅程度で全員固定。スキル熟練度などはそれに合わせられる。

 ・フィールドには五つの拠点があり、そこには戦闘を有利に進めることの出来るアイテムも配置されている。

 ・拠点を確保すると、その周辺の情報が全体マップに表示されるようになる。

 ・イベント中はチームが敗退していない場合、倒されても一分のリスポーン時間待機の後に自陣または確保した拠点に復帰することが出来る

 ・自陣にあるフラッグを折られると敗退。なお折る為には陣の中にプレイヤーが入り、直接武器で攻撃しなければならない。陣外から内に向けての魔法攻撃は全て効力が半減する。

 ・試合時間は30分。終了時に複数のチームが残っていた場合、確保した拠点や倒したプレイヤーの数によって勝敗が決まる。

 

 

 大まかに説明するとこのような感じになるらしい。

 他にも、フィールドは特設エリアで直径三キロ程の円形で、いくつかある種類からランダムで選ばれる。

 また、全体を見渡せるマップは自陣にしか存在せず、プレイヤーは自分の周囲に敵が居るか居ないかの簡素なものしかHUDに表示できない。そのため、自陣に一人は残り、通話アイテムを用いてオペレーター役を用意する必要があるだろう

 

 定石としては、拠点を目指しつつ他チームを倒す殲滅戦がメインになりそうだ。拠点確保は時間切れ時のポイントになり、有用なアイテムも置いてあるそうなので確保はしておくべきだろう。

 イベントに参加申請をしたチームはトーナメントが組まれているらしく、今回の参加数だと五回ほど勝ち残ることが出来れば優勝になるそうだ。

 

 そして、イベント当日。

 

 コハル達は早くからALOへとログインをし、今か今かとその時を待っている。

 先程からそわそわうろうろと落ち着きの無い様子のアリスに、キリトが呆れたように両肩を上げ嘆息した。

 

「ずいぶん緊張してるなぁ」

「だって皆で大会に出るなんて初めてで……ドキドキして、ワクワクしてるんだよ」

 

 アリスは緊張こそしているものの、それはむしろ期待が高まっての物であるようで、とても溌剌とした笑みを浮かべていた。

 じじ、じ、というノイズのような音が聞こえる。そして――

 

『プレイヤーの皆様。お待たせいたしました。ただいまの時間より、大型イベント《フェアリーズ・ウォー》を開催いたします。参加チームの方々は、順次フィールドへと転送されます』

 

 来た。

 ついに始まる。コハル達のギルド、《七人の妖精》の初陣が。

 全員で顔を見合わせ、アリスの顔を見る。皆、やる気と期待に満ちたいい表情をしている。

 

「皆! 頑張って……いや、楽しんでいこう!!」

 

 アリスがぐっと握った拳を天に突き上げ、叫んだ。

 全員、顔を見合わせ異口同音

 

「「「「「「おぉーーーーーッ!!!」」」」」」

 

 瞬間、コハル達の視界が青白い閃光に包まれた――

 

 

 

 

 

 

 転移エフェクトの光が止むと、コハル達は先程まで居た石造りの街中ではなく、鬱蒼と茂った森の中に居るということが分かった。

 前方に広がるのは、太陽の光を遮るようにして木々が乱立している森。茂みの奥は見通しが悪く、暗がりがぽっかりと口をあけているような状態の為、隠れるにはうってつけだろう。

 今コハル達が居るのは、森の中でも開けた場所だ。円形の広場のようになっており、この場所だけが太陽に照らされている。 

 

「森……だね。視界が悪そう」

「飛行も出来ませんし、隠密を警戒しなければいけませんね……」

 

 アイとリーファが少し不安そうに周囲を警戒しながら言った。

 コハルは振り返り、円形の広場の中央に何かオブジェクトがあることに気がついた。

 それは太めのポールと、その先端部にはギルドマーク――絵心のあるアイが描いた、七本の剣と、妖精の羽をモチーフにしたイラストだ――のあしらわれた布がばさりと風にはためいており、一目でそれが自陣にあるというフラッグだということが分かる。

 そしてその根元部分に、パネルのようなものが備え付けられており、コハル達はひとまずそこに集まることにした。

 

「これがフラッグで……このパネルが全体マップなんだ。ええっと……私達は今、円の南西の端辺りに居るみたい」

 

 つうとパネルを指でなぞると、その動きに従ってマップが移動した。どうやら拡大縮小も出来るらしく、その辺りの操作も慣れる必要があるだろう。

 マップの右上に、タイマーが表示されていてカウントダウンがスタートしている。

 よく見渡してみればフラッグを中心に、半径二十メートル程に半透明の膜が張られており、タイマーがゼロになると外に出られる仕組みになっているのだろう。

 残り時間は、四分と少し。素早く作戦を立てなければ。

 

「さて、どうやって攻める?」

 

 アリスは命令を待つ子犬のように、もし彼女のお尻に尻尾が付いていれば、ぶんぶんと忙しなく振っている姿が幻視できる程にわくわくとした顔でコハルに聞いてくる。

 

「えっと、私が作戦を決めちゃっていいのかな? ディアベルさんも、アスナも……キリトさんだって居るのに……」

 

 この場には、作戦立案から指揮まで出来るメンバーが沢山居る。その中で自分が指揮権を貰ってしまってもいいのだろうかとコハルは不安になって聞き返す。

 その不安を払拭させるように、ディアベル、そしてアスナが微笑んだ。

 

「ああ、君が俺達を動かしてくれ、コハルさん。この場に居る全員の事をよく知っているのは君だけだ」

「コハルなら安心して任せられるわ。何かあったら、直ぐ助けるからね」

 

 キリトも、アイも、リーファも。全員がコハルに信頼を篭めた目線を送っている。

 そこまで期待してくれているのなら、その期待に応えたいとコハルは心の中でぐっと拳を握った。

 

「分かりました。では、私が指揮官の役目を務めてみます」

 

 コハルはマップに視線を落とし、脳内で今までに得た情報を整理し作戦を組み始める。

 ステージは視界の悪い森林。相手チームの情報は無し。勝利条件は二つ。他チームの陣地のフラッグを全部折るか、時間切れまでに他チームより多く拠点を確保するか。それならば

 

「それなら、初戦は少し大胆に行ってみませんか? 何か意見があれば是非言って下さい」

 

 コハルは片手を上げると全員の視線を集め、作戦概要を説明し始めた。

 話が進む度、全員の顔がその意図を掴みかねるように不思議そうなものに、そして次第に楽しげな笑みに変わっていった。

 

「はは……そりゃいいな。上手く決まれば他のチームはきっと大慌てだぞ。それで、メンバーはどうするんだ?」

 

 キリトが愉快そうに膝を叩き笑う。そんな彼に対し、コハルはにやりと不敵な笑みを浮かべ、そのメンバーの名前を口にした――

 

 

 

◇Point A

 

 

 

 試合開始前の五分が過ぎ、移動を禁止していたエリアが解かれると同時にメンバーの内半数が散り散りに森へと侵入して行った。

 ギルド《千夜一夜物語》は総勢三十人ほどの小規模ギルドだ。その中でも精鋭のメンバーを十名選び、今回のイベントに参加している。

 指揮官を務めるのは、ギルドリーダーでもあるシェヘラザードと呼ばれるシルフの女性プレイヤーだった。

 

(まずは情報を集めなくっちゃ!)

 

 シェヘラザードは五分間マップを眺めながらある程度の方策を打ち立てていた。

 何をするにも、まずは周囲の情報を得なければ始まらない。故に少しリスクを犯してメンバーを半分にわけ、半分は自陣を守り、半分は偵察へと赴いてもらった。

 偵察班は一塊ではなく、全員が別々に行動している。確固撃破される危険はあるが、偵察班は隠蔽魔法や隠密魔法などを習得している為、こっそり隠れながら進んでもらっているのである程度は大丈夫だろう。

 もし敵影や拠点を見つけた場合には通信を入れてもらい、近くのメンバーを派遣するなどで適宜対応していく。そうして拠点を確保しつつ、見れる範囲を広げて行くのが当面の目標だ。

 

『リーダー、こちらは何もなし』

『俺もだ。くっそ結構広いなこのマップ……』

 

 試合開始から五分が経過した。メンバーの中でも敏捷のステータスが高めの五人を偵察部隊に割り振った為、随分と奥まで進んだが、連絡を入れた二人は何も見つけられていないらしい。これは随分拠点の位置が離れているのだろうか……

 

『お、こっちはビンゴだ。手付かずの拠点を見つけた』

『こっちもだ。旗が上がってないから手付かずのはず』

 

 と、思いきや自陣から南西の方向に進んでいったメンバーが拠点を見つけたらしい。

 

「ナイス! 敵は居そう?」

『いや、気配は無し。探知魔法にも引っかからないから少なくとも百メートル以内には誰も居なさそうだ』

『同じく』

 

 探知魔法は熟練度に応じた範囲にいる敵勢存在をマップに表示してくれる便利な風魔法だ。消費MPとスペルのワード数の割りにその利便性の高さから、シェヘラザードはギルドメンバー全員に習得するように指示をしていたのが今回活きた。

 レベルや熟練度が制限されているせいで、この試合ではせいぜい自身を中心に直径数百メートル程の範囲しか探知できないものの、この視界の悪い森ステージの中では重宝する。

 妨害魔法もあるため過信は禁物だが、待ち伏せの危険度はぐっと下がっただろう。

 

「それじゃあ拠点を確保して。数人そちらに送るから、そこを中心にまた索敵を開始して頂戴。あとアイテムがある筈だから、それが何か分かったら教えて」

『了解』

 

 ザッと通信を終える音が聞こえると、シェヘラザードは静かに拳を握った。

 立ち上がりは順調に進んでいる。どんなアイテムが配置されているかは分からないが、いきなり拠点を二つも手に入れることが出来た。これは幸先が良い。

 

 シェヘラザードは自陣を防衛している人数から一人をその拠点に送った。更に通信で偵察部隊からも一人拠点に向かわせる。

 

『リーダー、こいつは当たりだぜ。魔法を完全に遮断できる障壁を張れるアイテムだ。どうする? 一度拠点に持って帰るか?』

 

 拠点を見つけたメンバーから再度通信が入った。なんと魔法に対する完全防御障壁を張れるアイテムらしい。

 シェヘラザードは数秒黙考した後、指示を下す。

 

「いいえ、それはあなたが持っていて? 自陣は魔法に対する防御能力は最初からあるし、敵陣を落とすのに使いましょう」

『分かったぜ。それじゃあ探索を再開する』

 

 それから数度の通信を終えると、自陣防衛班の内の一人、大盾使いのノームの男が軽薄そうな笑みを張り付かせながら近づいてきた。

 

「リーダー、上手く行きそうっすね。このまま勝っちまうんじゃないですかい?」

「安心するのはまだ早いわ。拠点は二つ確保できたけれど、試合開始から十分も経ってないのよ。そもそも、敵チームも見つかってないし……」

 

 男を諌めるように言うものの、シェヘラザード自身、ほんの少しばかり期待はしていた。

 このまま上手く行けば――

 

 だが、劈くような男の悲鳴が、浮つきかけたその心を凍りつかせた。

 

「て、敵襲ーーッ!」

 

 がしゃがしゃと銀の全身鎧を鳴らしながら駆けて来た、短槍使いのウンディーネの少年はシェヘラザードの目前までたどり着くと、ぜいぜいと息を切らせながら膝に手を着いた。

 

「敵って、どこから!? 数は!?」

「そ、それが――」

 

 ウンディーネの彼が出てきた木立の向こうから、うわぁぁっ! という仲間の悲鳴が聞こえた。

 森の暗がりの奥に、赤色のエフェクトがすっと尾を引くように流れたのが見えた。直後にぼうと大きな炎が上がったことから、自陣防衛と付近の索敵に当てていたメンバーの一人がやられたことを悟る。

 

 一瞬、空白の時間が訪れる。

 

 ウンディーネの少年が、恐る恐ると口にした。

 

「敵は――恐ろしく強いスプリガンが、一人なんです……」

 

 がさっと、茂みを分けて出てきたのは、黒いコートを纏い、片手用のロングソードを引っさげたスプリガンの少年だった。

 そしてその姿に、シェヘラザードは見覚えがあった。

 

「うえ……《ブラッキー》が居るの……?」

 

 思わずげんなりとした感情を溢すと、《ブラッキー》と呼ばれた少年――キリトは不思議そうにん? と首を捻った。

 

「あれ、どこかで会った事あったっけか」

「会った事はないけれど……」

 

 シェヘラザードはキリトに会った事は無い。が、その噂は痛い程耳に届いていた。

 

 曰く、黒いコートの片手用直剣を携えたスプリガン

 曰く、恐ろしいほどの強さで、サラマンダーのPKパーティを一瞬で壊滅させた

 曰く、ALO最強プレイヤーのユージーンを一対一で打ち負かした

 

 どこまでが本当か分からない、半ば都市伝説のような噂ではあったが、つい先月行われた大陸横断レースでのとんでもない飛翔スピードやエアレイドの技術を見るにあながち全部が嘘とは思えなかった。

 無理、無茶、無謀を通してくるような凄腕プレイヤー。それがシェヘラザードのキリトに対する評価だった。

 

 そんな噂のブラッキーが、今敵として目の前に立っている。どこかのギルドに所属したらしいとは聞いていたが、まさか初戦で当たる事になるとは。

 順調そうに思えた試合が、一気に難しくなったとシェヘラザードは歯噛みした。

 

 だが――

 

「貴方がどれほど強くても、こっちには人数の利があるわ。それに、ステータスも全員同じ位に調整されている。いくら貴方でも、勝てるとは思わないことね」

 

 キリトは強い。恐らく一対一で戦えばシェヘラザードは到底敵わないだろう。

 だが、ステータスが同値であるならば、人数で勝っているこちらが圧倒的有利なのは明らかだ。

 

「確かに、そうかもな」

 

 だというのに、キリトは余裕の笑みを崩さず飄々としている。

 その姿に違和感を覚えたシェヘラザードは、咄嗟の判断で呪文を詠唱した。

 

「|エック・ヴィンダー・ゲエル・ミグ・アンヅニム《風よ、我に仇為す者を暴け》!」

 

 唱えたのは風属性の探知魔法。

 薄緑色の風がシェヘラザードを中心にぶわりと巻き起こり、竜巻のように渦を巻きながら徐々に広がり、空へと昇っていった。

 視界左端に表示されている、簡易MAPのHUDにはパーティメンバーを表す緑色が三つと、敵勢存在を表す赤い点が一つのみ。

 もし妨害魔法を使用されているのであれば、キリトを示す赤い点も表示される事はない。

 そして隠蔽魔法では、探知魔法を掻い潜ることは出来ない。

 

 つまり、この付近にはキリト以外の敵チームは居ないということになる。

 

「驚いた、本当に単騎で来たの……? なんて自信……」

 

 本当に敵陣に単騎で乗り込んでくるなんて、彼は趙雲か何かなのだろうか? 

 だが、噂のブラッキーであればやりかねない。畏怖が半分と、呆れが半分入り混じったため息をつくと、キリトは何が面白いのかくつくつと含み笑いをした。

 

「まあ、一騎駆けは男のロマンではあるよな。数的不利は重々承知の上だけど……やってみないと、わからないだろ?」

 

 だらりと剣をぶら下げた状態のキリトの姿が僅かにぶれた。

 

 かと思うと、ふっと煙のように消えてしまった。

 

 ぞくりと全身に悪寒が走り、脳が鳴らすまずいという警鐘に従って、腰に吊るした短杖を抜き防御姿勢を取る。

 

 がきぃん! と腕に衝撃が走ると同時、初撃を打ち込んだ後数歩バックステップをして距離を取ったキリトが、驚いたようにひゅうと口笛を吹いた。

 

「やるな。完全に不意をついたと思ったんだけどな……」

「舐めないで……っ!」

 

 シェヘラザードが片手を上げると、ノームの男とウンディーネの少年が彼女を庇うように前へと立ち塞がる。

 突然の敵襲と、その正体に呆気に取られていた二人だが、直ぐに体勢を立て直しシェヘラザードの指揮下へと復帰した。

 これで完全に三対一。先程のように不意をうって一人人数を減らすという作戦ももう使えない。

 後は、人数差で圧殺するのみ。

 

 シェヘラザードが、二人に指示を下そうと口を開きかけた時、唐突に世間話をするようにキリトが言った。

 

「なあ、ところであんた達、ちょっと肌寒いと思わないか?」

「え……?」

 

 言われてみれば、ひんやりと冬の明け方のような肌寒さを感じた。

 

 足元には、うっすらと靄のような何かが――

 

「まずっ……! 逃げ――」

 

 シェヘラザードが気づき、声を上げたが既に遅かった。

 

「―― fasta svefni !」

 

 いつのまに詠唱していたのか、茂みの奥から発せられた呪文のワードが、シェヘラザードの耳に届いたときにはもう魔法は完成していた。

 

 靄の下にぼうっと浮き上がった青藍の魔方陣。

 

 陣が一際大きく輝き、凍えるような冷たい風が立ち昇った。

 

 そして光が収まり目を開くと、周囲は一面氷漬けになっていた。

 

「びっ……くりしたぁ……まさか貴方が囮で、本命は範囲魔法による殲滅だったなんて……」

 

 してやられた、とシェヘラザードは舌を巻く思いだった。

 

 キリトという強大な戦力を囮として注目を引き、集団で固まったところを魔法で一網打尽にする作戦だったとは。

 更に、使用してきた魔法が使い手の少ない氷魔法だというのも恐れ入る。キリトが所属するギルドは相当な戦力を持っていると考えて良いだろう。

 

 まんまと相手の作戦に嵌まってしまった。先程索敵魔法に引っかからなかった事は懸念ではあるが……キリト達が恐らく勘違いによって犯したミスが、シェヘラザード達を生存させていた。

 

「けど残念。陣地の外から中に向けて撃った魔法は威力が半減するのよ。いくら撃っても私たちを削りきり事は出来ないわ」

 

 相手の作戦は見事決まったが、その根幹となる魔法の威力が足りなかった。

 陣地の外でこれをやられていたらひとたまりも無かっただろうが、未だ姿の見えない敵の魔法使いは遠くから魔法を放った為、その威力は減衰されているようだった。

 現に、シェヘラザードのHPは一割程度しか減っていない。

 シェヘラザードは手早く全体回復魔法を唱えると、即座にHPが全快する。

 

 敵の作戦を綺麗に決められてしまったが、余裕を持ってしのぐことが出来た。

 まだ打つ手を隠している可能性はあるが、陣地内に居る限り敵の魔法はあまり怖くない。

 シェヘラザードは勝利を確信しほくそ笑む。が、キリトもまた同様に勝利を確信したかのような不敵な笑みを浮かべていた。

 

「いいや、これでいいんだ。足元見てみろよ」

 

 言われるがまま、視線を落とす。そして、勝負は既に詰んでいたということを察し、絶望に声が震えた。

 

「あ……あぁ……」

「氷魔法って、使い手が少ないからかあんまり情報出回ってないんだよな。さっきの魔法は攻撃目的じゃなくて、あんた達を動けなくするのが目的だったんだよ」

 

 シェヘラザード達の足は、膝元までが厚い氷に覆われていた。

 

 氷結の状態異常だ。これでは、動くことが出来ない。

 

 完全に凍結しているわけではないので、魔法を唱えることは出来る。だが、それを許してくれるほど目の前の黒い剣士は甘くないだろう

 

「状態異常ってどのゲームでも結構曲者でさ。とりわけ行動阻害系の嫌らしさたるや……。探知魔法に引っかからなかったのは、直前まで効果範囲外に居たからだよ。うちの作戦参謀様の知識量には恐れ入るよ。魔法の効果範囲を熟練度による変化まで含めて網羅してるんだからさ」

 

 キリトは氷結状態で動けないシェヘラザード達の横を悠々と通り抜け、フラッグの元までたどり着くと剣を一閃させた。

 

 キン! と澄んだ音が響き、ポールが半ばから断ち切られる。

 

「嘘……負けちゃった……こんな、あっさり……」

 

 シェヘラザードの目の前に『LOSE!』という無味乾燥な文字が赤いウィンドウと共に浮かび、ここに彼女達《千夜一夜物語》の敗退が確定した。

 

「良い勝負だったぜ。もし探知魔法の範囲を読み違えて仲間の居場所がバレてたら詰んでたし、最初の不意打ちを防いだのも見事だった。一歩間違ったら俺達がやられてたよ」

 

 にかっと気持ちの言い笑みを浮かべ「ナイスファイト!」とサムズアップしてみせたキリトに、敗者達はがっくりと肩を落とした。

 




アリス「名前から連想してギルド名つけるのなんて恥ずかしい!」
シェヘラザード「…………」

アイが放った魔法は以前使った広範囲に凍結の状態異常を起こさせる氷属性の魔法です。レベルや熟練度が制限され、さらに威力が半減している為移動不可のデバフまでしか出来ませんでしたが、それも織り込み済みでした。

以前のルールで行くと得点がほぼ無意味な存在だったので、拠点を確保することによるメリットを増やし、勝利条件を敵チームの殲滅が主にしました。
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