SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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まさかの三分割

そしてまだ続くという。


私達のウォーゲーム 3

◇Point B

 

 

 

 キリト達がギルド《千夜一夜物語》の拠点にアタックをかけた時より約五分前。

 

 アスナとリーファはキリト達とは別方向へと進み、薄暗い森の中を静かに、かつ素早く移動している最中だった。

 シルフは……というよりも、風属性の魔法の中には闇属性魔法程ではないものの、隠密向けの魔法が存在する。

 効果は、付与されたプレイヤーの発する足音等をほぼ無音にするというもので、こうして森の中を早足で進んでいてもざくざくと落ち葉や枝を踏み潰すような音は聞こえない。

 

「何も、見えてきませんね……」

 

 リーファがひそひそと耳打ちするような小さな声で呟いた。アスナも、遮音魔法が解けないように声を押し殺し返答する。

 

「フィールドは直径三キロくらいの円形らしいから……まだ一キロも歩いてない筈よ」

 

 三キロというと東京駅から浜松町駅が大体それくらいの距離だったはずだ。完全な直線距離ではないから一概にはそうとは言えないが、電車に乗って大体5、6分の距離がある。

 更に森の中と言う事で歩きにくく、スピードに特化しているリーファは元より、アスナですら全力で走ればものの数分で走破する事が出来る距離であったが、歩きにくさや隠密行動中という事もあり、中々先に進むことが出来ない。

 いつ敵と鉢合わせするか分からない状況で、息を殺しながら進む緊張感に、アスナは額にじっとりと汗が浮かぶように感じた。

 

「……ところでアスナさん。お兄ちゃんとは上手く行ってるんですか?」

「えぇっ!?」

 

 急に投げつけられた話題に、アスナは素っ頓狂な声を上げてからしまったと口を手で塞いだ。どうやら遮音魔法は解除されていないらしいとそっと胸を撫で下ろす。

 そしてその話を振ってきた張本人に、責めるような視線を向け、小声で応える。

 

「ちょっとリーファちゃん。隠密行動中よ?」

「大丈夫ですって。この魔法が掛かってる間はパーティメンバー以外には声が届きませんから」

 

 悪びれもせずに笑みを浮かべたリーファに、これ以上文句を言う気も起きず、緊張を解すのに丁度良いかと、周囲への警戒はそのままで、アスナは更に声のボリュームを絞って会話を続ける事にした。

 

「別に、キリト君とは普通よ……。特に話すようなことは……」

「ちゅーとかしたんですか?」

 

 会話を続けようとは思ったものの、話題がアスナにとってあまりよろしくない為、挿げ替えようと試みる前に爆弾が投下された。

 思わず大きな声を上げなかった自分を褒めてあげたいくらいだ。

 

「私とキリト君は健全なお付き合いをさせていただいてます!」

 

 頬に熱が集まるのを感じながら、アスナは小声で叫び、首を振った。

 リーファはにやにやとしたからかいの表情を浮かべている。

 

「本当ですかー? 手を繋ぐくらいはしましたよね?」

「そ、それは……ええ、まあ……」

 

 みるみると頬が熱を持っていく。緊張を解す目的だった会話が、別の意味でどきどきと緊張をしてしまう。

 

「わー……照れてるアスナさん可愛いなぁ。なんだか新鮮な反応です」

「も、もう。からかわないでよ。それに、そういう話ならアリスとよくしてるんじゃないの?」

 

 リーファとアリスはリアルでもかなり仲が良く、一緒にはしゃいでいる姿をよく見かける。

 アスナにとってのコハルのようなもので、当然そういう話題に発展しているんじゃないかと、彼女には申し訳ないがアスナは矛先をずらすことにした。

 

「うーん……深紅ちゃ――アリスはあんまりそういう話をしたがらなくて。アスナさん以上に照れるっていうか、すぐテンパっちゃうんです」

 

 くすくすと、リーファはおかしそうに笑った。

 

「そういえば、貴女とアリスは随分と仲が良いけど……中学に上がってからの出会いだったんでしょ? どうしてそこまで仲良くなったの?」

 

 ここぞとばかりに、アスナはリーファを質問攻めにする事にした。

 聞きながらも、周辺警戒は怠らない。日常会話をしながら周囲へ気を配ることは、向こうの世界で研鑽を積んだことにより息をするように出来る。

 

 リーファは視線を右上に持っていき、記憶を辿るようにゆっくりと話し始めた。

 

「えーっと、多分今みたいになったのはアリスが帰って来てからだと思います。折角仲良くなったのに、長いこと会えなかったから……」

「ご、ごめんなさい。無神経だったわ……」

 

 少し辛そうに表情を沈ませる彼女に、アスナは慌てて謝罪する。

 自身もあの世界に囚われていたにも関わらず、配慮に欠ける話題だった。

 しかしリーファは気にしないでと苦笑し、続けた。

 

「いいんです。アリスは帰ってきてくれたし、そのお陰で前よりずっと仲良くなれたので。けど、そうだなぁ……転校初日に友達になって、それからは毎日一緒に過ごしましたよ。最初の方は凄く大人しくて、あんまり自分から喋らない子だったんですけど、段々活発になってきて……」

 

 リーファの口から語られる、アリスの意外な一面にアスナは目を丸くした。

 アスナの知る彼女は、確かに少し陰があるような感じだが基本的に明るく、活発な少女という印象だったからだ。

 

「たぶんアスナさんの知る、今のアリスが本来のあの子の性格なんだと思いますよ。ただ、前の学校で嫌な事があったみたいで……その辺りは、ごめんなさい。あたしからは話せないです」

 

 アリスにも、辛い過去があったのだろうか。それも、正確が内向的に変わってしまう、トラウマのような過去が。

 だが、今の彼女を見ている限りではきっと大丈夫なのだろう。乗り越えたのかもしれないし、飲み込んだのかもしれない。

 そしてその切欠になったのは恐らく、目の前の彼女だ。

 

「いいお友達なのね」

「え?」

「アリスが今の明るい彼女に戻れたのは、きっと貴女のお陰でしょう? 私にはそういう人がいなかったら、少し羨ましいわ」

 

 アスナはSAOに囚われるまで、進学校に通っていた。

 そこに通うクラスメイトは友人と呼べる存在ではなく、互いに研磨しあうライバルだった。

 もし、自分にもそういう親友と呼べるような友人が居たら――

 

 アスナは数日前に交わされた、実家での会話を思い出し気分を沈ませた。

 

「大丈夫ですよ」

 

 リーファの励ますような声に、アスナは顔を上げる。

 

「アスナさんにはコハルさんが居ますし、お兄ちゃんだって居る。もちろんアリスや、あたしだってもうお友達です」

 

 その言葉に、はっと気づかされる。

 昔は、一人だったかもしれない。けど今は――こんなにも、味方が居る。

 

「ふふ、ありがとうリーファちゃん。今度ゆっくりお話しましょう?」

「そうですね……さぁ」

 

 見つけた。

 開けた広場のような場所に、敵チームのフラッグ。

 敵陣だ。

 

 敵影は6。まだこちらは発見されていないとはいえ、戦力差は三倍。

 そこに、今から突撃する。

 けれど恐れる事は無い。

 何故なら、私達には――

 

「「作戦、開始!」」

 

 頼れる仲間が、居るのだから。

 

 

 

 

 

 

『こちらキリト。トラトラトラ』

『もうキリト君。それじゃあ伝わらないでしょう? あ、私達も上手く行ったよ』

 

 通信アイテムのイヤホン越しに聞こえた二人のやりとりに、コハルはくすりと笑みを浮かべた。

 

「お疲れ様。それじゃあ四人とも一旦集まろう。キリトさん達は北西に、アスナ達は真っ直ぐ東に向かえば落ち合えると思う。合流したら、そのまま北進して探索を進めて、作戦通りに」

『『了解』』

 

 ザッと一瞬ノイズが走り、通信が終わった。

 どうやら二組とも上手くやってくれたみたいだ。

 

 コハルの立てた作戦は実にシンプルだ。

 端から拠点を確保することを捨て、最初から敵本陣を強襲することによる電撃作戦だ。

 この作戦はキリトやアスナ、リーファにアイなど一騎当千の傑物が複数揃っているからこそ使えるもので、さらにいくらキリト達といえど数的不利はどうしても避けられないので、それなりにリスクのある作戦でもあった。

 

 だが、イベントの告知からして『拠点を制圧しつつ、敵チームを倒せ!』というものだった為、他のチームはほぼ確実にスタート同時に拠点確保に向かうだろう。チームが十人居るとして、それに割く人数は四人か、多くて五人。拠点を確保すればさらに人数を割く可能性があるので、不意を突くことは十分に可能なはずだ。

 

 狙いは上手く行き、全部で三チームある敵チームの内、二チームを落とすことが出来た。残るは後一チームだが、キリト達とアスナ達が合流し、その本陣を発見することが出来れば落とすのはそう難しく無いだろう。

 作戦成功の報せを聞き、アリスはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜びを表していた。

 

「皆すごい! すごいよ!」

「ああ、アイさんの氷魔法による状態異常やリーファさんのスピードを活かした奇襲。彼らもまさか、拠点確保を捨てていきなり本陣を攻めてくるとは思わないんじゃないかな。いい作戦だ」

 

 自分が立てた作戦をディアベルに褒められ、コハルは嬉しさから少し浮つきそうになるが、まだだと心を自制する。

 

「ありがとう。けどまだ一チーム残ってるから。それを倒さないと勝ちにはならないもの」

 

 このイベントの、一試合における勝者は一チームのみ。コハル達は拠点を一つも確保しておらず、戦闘もフラッグ破壊に重点を置いていたため倒したプレイヤーも少ない。このまま時間切れになってしまえば、コハル達が負けてしまう可能性は高いだろう。

 そして何より――

 

「ん、コハル。来たね……結構いる……五人、かな?」

 

 コハル達のフラッグが壊されてしまっても、負けなのだ。

 アリスがその超能力じみたシステム外スキル《超感覚》により、複数の敵影の襲来を感知した。

 自陣防衛にこの二人を残した理由は単純で、アリスのシステムに頼らない気配察知の能力と、ディアベルの防衛能力を買っての事だったが、どうやら正着だったらしい。

 

「ディアベルさん、アリス。任せていい? 私はキリトさん達をサポートしなくちゃならないから、戦闘には参加できないかも。キリトさん達が敵本陣を見つけて落とすまで、時間稼ぎをお願い」

 

 コハルは二人の背に向けて声を掛ける。

 それを聞いたディアベルが愉快そうに笑った。

 

「任せてくれ。別に、倒してしまってもいいんだろ?」

 

 全く気負いの無い魔王の台詞に、コハルは笑みを深くした。

 その台詞は、負けるキャラクターが立てたフラグとしてインターネットで有名になっていたが、今の彼が言うと本当に倒してしまいそうで、謎の安心感があった。

 

 コハルは素早く通信を立ち上げると、キリト達に状況を伝えた。

 彼らはこちらを信頼し、敵陣への攻撃に専念してくれるらしい。

 であるならば、コハルも全力で彼らのサポートをするまでだ。

 

 ――と

 

 突然、火球が五つ、コハル達に目掛け放物線を描き飛来してきた。

 

「|Ek brennandi logi, Verða múr, frá ógn verndaðu !《燃え盛る炎よ、迫る脅威から我を守る壁となれ!》」

 

 アリスが流暢な詠唱を唱えると、ゴウッと赤々と燃える炎が立ち上り壁となった。

 

 直後、着弾。爆音が五つ鳴り響き、全てを防ぎきった後に炎の壁は霞のように掻き消えた。

 

「外からの魔法攻撃は威力半減ってホントだったね。わたしの低い魔法熟練度でも防ぎきれた」

 

 ふぅと汗を拭うような動作をアリスは取った。

 やがてがさりと茂みが揺れる音がすると、次々とプレイヤー達が姿を現す。

 

「くっそ……やっぱり効かねぇか……」

 

 全員が赤い髪と目をしている。種族はサラマンダーのみで構成されているようだ。持っている武器こそ様々だが、見た限り前衛が大剣、大槌、両手槍の三人。残りは恐らくメイジだろう。

 五人の内、最も大柄な大剣を担いだ男が、苦々しそうだった表情を一変、嘲るような笑いながら言った。

 

「それにしても、あんたらはリスクを犯しすぎだぜ。たった三人で陣地を守ろうなんてよぉ」

 

 カッカッカと愉快そうに笑い声を上げながら、男達は武器を構えた。このまま数で圧殺するつもりなのだろう。

 そんな彼らを、高らかな哄笑が遮った。

 

「くくく……くっくっく……はーっはっはっはっはっはっ!!!!!」

「……何がおかしい」

 

 前髪をかき上げるように頭に手を置き、笑い続けるディアベルに男は怪訝に顔を歪めた。

 

「ああ愉快愉快。たかが五人程度で我らに勝った気で居るとは……片腹が痛いわ!」

「ァんだと……? レベルやステータスが均されてる今、数的不利は覆せねーだろうが!」

 

 大柄な男が吼える。周りのサラマンダー達も、そうだそうだと野次を飛ばしている。

 だが、ディアベルの哄笑は止まらない。その威圧的な野次すらも、風に柳と歯牙にもかけない。

 

「数で勝っているからといって、強者足りえると思うとは所詮小物よ。まずはその長く伸びた鼻柱を叩き折ってやろう」

 

 ディアベルはにぃと口角を吊り上げ、腰に下げた赤黒い柄の長剣を音高く抜き放った。

 

 そのまま、ソードスキルを立ち上げ大柄な男に切りかかった。

 

 片手直剣突進技《レイジ・スパイク》

 

 水色の光芒を引きながら、魔王ディアベルは風を切り裂き集団へと突貫する。

 

 がぁん! と質量のある物体が激しくぶつかり合う大きな音が鳴り響き、それに驚いた鳥が森から数羽慌てて飛び去った。

 

 どうやら大柄の男は上手く防いだようだ。

 

 しかしディアベルは止まらない。ソードスキル発動後の硬直時間を、体術スキル《旋脚》を発動しキャンセルする。

 

 唸りを上げながら放たれた渾身の回し蹴りは、剣で受けたはずの大柄な男を二メートルほどノックバックさせる。

 

「ははははははっ! どうしたどうした!! そんな攻撃、オレには通用しないぞ!」

「くっ……コイツ……!」

 

 大剣の男の大振りな攻撃を盾でいなし、剣で反撃をする。

 

 他のプレイヤーがフォローに入ろうとすると、睨み、地を鳴らし、巧みに怯ませ割り込ませない。

 

 打ち合うこと、数合。

 

 突如として始まった戦闘は、同じく唐突に終わりを迎えた。

 

「ふん、つまらん。我が相手をするまでもない」

 

 ディアベルが突然ぷいとそっぽを向くと、そのままスタスタとこちらへと歩き、帰ってきたのだ。

 コハルを含め、その場に居る全員が呆気に取られ、微動だにできない。

 

 ディアベルはそのまま魔王の如く悠然とこちらに戻ってくると、呆然としているアリスの肩を叩き、言った。

 

「我が最強の僕、アリスよ。やつらを蹴散らせ」

 

 アリスはえっ、という顔をして振り向いたが、彼女にディアベルはこっそりと耳打ちをしていた。

 

「二倍近い数的有利がありながら、最初に遠くから魔法を撃ってきた。不利なはずのオレ達が余裕の態度を崩さず、切り込んでいったら動揺して動きが止まっていた。オレの大仰な演技にも随分呑まれてくれているようだし、彼らは結構臆病な性格だね。少し脅かせば直ぐに無力化できると思うよ」

 

 ぼそりと囁かれたその言葉は、近くに居たコハルにも届いていた。

 

 あの魔王のようなロールプレイの裏で、そこまで考えていたとは。

 あれは、相手の精神的優位を崩す為の演技だったということに、コハルはディアベルの審美眼の鋭さと反応、対応策を練る速さに瞠目する。

 

「……脅かせばいいの?」

「ああ、君のあの武器と戦闘技術があれば容易いだろう」

 

 アリスは静かに頷くと、持っていた片手用直剣を右手に持ち替え、左手でメニューを開いた。

 そして一つのボタンをタップすると、剣は消え、代わりに不吉な雰囲気を持つ、血の様な色合いの大きな鎌が現われた。

 

 まるで死神の持つようなそれに、サラマンダー達が「う……」とたじろぐ。

 

 そのまま戦闘に突入するかと思いきや、アリスは敵の反応を見て何かを閃いたらしく、ぽんと手を叩くとにやりと笑った。

 

「|Þeír hræða nótt dýpt, Veiða sálina scythe 《魂を刈り取る死神の鎌に脅え、彼の者らひた走る》」

 

 アリスの足元から、闇が巻き起こった。

 それは彼女の小さな身体を包み込むと、瞬く間にその体積を増やしていく。

 

 コハルは、かすかに聞き取れた数個の単語から、彼女が唱えた呪文を幻属性の幻影魔法だと推測した。

 効果は、プレイヤーの攻撃スキル値に応じて、術者の姿をモンスターへと変化させるというもの。

 攻撃スキル――《片手用直剣》や《大剣》といった攻撃用スキルの合計値が低ければ、スライムのように雑魚モンスターにしか変化することは出来ない。

 だが、レベルやステータスが均されているとはいえ、アリスは数多くの武器スキルを習熟している。参照されるのがそういったものの合計値であるあるのであれば、彼女が変身する姿は――

 

 闇が晴れた。

 

 現われたのは、死神。

 

 体躯はおおよそ二メートル程。ボロボロのフードを被り、暗がりからはぎょろぎょろと血走った眼が紅く輝いている。

 手にした大鎌は凶悪に歪んでおり、刃の先端からぽたりぽたりと血の雫が滴り落ちている。

 

「ひぃっ……!?」

 

 サラマンダー達が、今度は明確に脅え始めた。

 

 死神は、怨嗟の咆哮を上げる。

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!!」

 

 びりびりと大気が震えるようなその声に、守られているコハルですら身が竦むような思いだった。

 その敵意をもろに受けているサラマンダー達はたまったものじゃないだろう。顔は青ざめる事を通り過ぎ、もはや白く血色を完全に失っていた。

 

 死神の姿が、ぶれた様に消えた。

 

 瞬きをする間もなく、瞬間移動をしたかのように大柄なサラマンダーの目前に現われると、そのまま無造作に掴みあげた。

 

「ひぃぃぃっ!! お前ら! 何してる!! 助けろ!!!!」

 

 大柄な男が叫ぶが、その声は虚しく森に消えていく。

 

 他の四人はたじろぎ、腰を抜かし動くことは出来ていなかった。

 

「Gruuuu.....」

 

 死神は低く唸ると、子供が遊び飽きた玩具を投げるように男を放り捨てた。

 

 そして一閃。

 

 音も無く振られた大鎌に、サラマンダーの男は悲鳴を上げることすら出来ずに切り捨てられ、分かたれたアバターが一瞬激しく燃え上がるとリメインライトへと変貌する。

 

「「「「ひっ……」」」」

 

 死神の目が、次の標的を探しぎょろりと動いた。

 

 蛇に睨まれた蛙のように、地に足が縫い付けられている。

 

 死神は無言のまま、鎌を振り上げた。

 

 そこでようやく彼らも呪縛から解け、引け腰ながら武器を構え直すが、遅い。

 

 振り上げた鎌を振り下ろす。たったそれだけの行動で、暴力的なまでの突風が吹いた。

 

 その余波はコハルの居る場所にまで届き、腕を翳し顔を守る。

 

 風が止むと、そこに残っていたのはゆらゆらと揺らめく五つのリメインライトのみ。

 

 あまりにも呆気なく、嵐のように防衛戦が終わってしまったのだった。

 

「アリス、アリス。もう戻っていいよ……!」

 

 流石にコハルも恐ろしく、懇願するように声を掛けるとぼふんと気の抜けるようなサウンドエフェクトと共にシルエットが縮んだ。

 やがて元の小ささまで戻った彼女は、んーっと身体を伸ばし気持ち良さそうに声を上げる。

 

「はーっ! 楽しかった! 上から人を見下ろすのって気持ち良いねぇ……!」

 

 間延びした声で、ぽわぽわと表情を崩す彼女を見ていると、先程の幻影魔法の効力がどれほど高かったのか思い知る。

 ちょっとだけ怖い思いもしたので、その分癒されようとコハルはアリスをぎゅっと抱きすくめた。

 

「はっはっは! 爽快だったよ、アリスさん。ちょっと驚かしてやってくれとは言ったけど、まさかあんな手段を取るとは」

「スペル一覧見てて、面白そうだって思ってたんだよね。上手く行ってよかったよ」

 

 からからと愉快そうにディアベルとアリスは笑い合う。そして少し遅れて、コハルも安堵から笑い声を漏らした。

 さて、結構時間は稼げたはずだ。キリト達の首尾はどうなってるだろう。

 

 コハルがマップを確認するまえに、ザーッと通信アイテムが起動する音が聞こえた。

 

 そして、頼りになる仲間達の声も届く。

 

『よし、行くぞ……せーのっ』

『『『とらとらとらーっ!』』』

 

 コハルの視界に、青いウィンドウが出現した。

 その中央には《Win!!》という金色の文字が彼女達を祝福するかのように輝いていた――




四人で一組ではなく、二人を二組にしたのは時間を掛けることによって他チームに拠点を取られ、有利になられることを嫌ったからです
その為リスクを飲み込んで即潰しにかかっています。
キリト、アスナ、リーファ、アイという戦力が居たからこそ取れる手段であり、他の試合ではスプラトゥーンよろしく激しい陣取り合戦が行われています。

尚、フィールドの直径三キロはBoBのフィールドが十キロだったこととトーナメントの為複数試合をすることを加味して設定しました。

狭そうで、結構距離があります。
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