SAOif 紅の戦姫と蒼の聖女   作:百合好きの獣

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実はひっそりとSAOIFの中でギルド作りました。

まだ団員は私だけですが……


私達のウォーゲーム 4

 ALOにて行われた、ギルドイベント《フェアリーズ・ウォー》。

 わたしとコハルはキリト達を巻き込み、ギルド《七人の妖精(セプテム・メディオクリス)》を結成し、そのイベントへと参加した。

 

 イベントはトーナメント形式の四ギルド一組のバトルロワイヤル。

 初戦を見事突破したわたし達は、続く二回戦、三回戦と破竹の勢いで勝ち進んでいった。

 

 そして日付が変わって、準決勝。

 一チームの強襲班を防いでいる内に、もう一つのチームが便乗してきて四体十という劣勢に一時陥ったものの、コハルの機転とディアベルの堅牢な防御、アイとわたしのコンビネーションで凌いでいるうちにキリト達が一チームを落とし、形勢逆転。そのまま敵を押し返し、三チーム目はわたし達を最初に攻めてきたところが既に落としていたようで、結果、辛くも勝利を収めることが出来た。

 

 ついに訪れた、決勝戦。

 残ったのは千を超えるギルドの内、ここまで勝ち残ることの出来た強者ばかり。

 更にどのチームと戦うのかというのも、残りは四ギルドのみなので事前に対策が練れるそうだ。

 

 その上で、コハルはこう言っていた。

 自分達が初戦からやってきた電撃戦が、そのまま返ってくるかもしれないと。

 それほどまでに、わたしたちのギルドは狙われる確率が高いのだという。

 

 稀少な氷属性魔法使いを持ち、更にメンバー一人一人が高い戦闘能力を有するが、上限人数よりも少ない人数。このようなもの、事前に打ち合わせせずとも三チーム合同で最初に潰そうと袋叩きにされる可能性があると。

 

 それを踏まえた上で、コハル、アスナ、ディアベルの三名によって立てられた作戦は実に単純だった。

 

 ゴリゴリの、力押しである。

 

 《七人の妖精》中最高戦力であるわたしとキリトがコンビを組み、敵本陣に突貫。暴れまわる。

 そしてその間残る五人が気合で凌ぎきるという根性作戦だ。

 コハル達には防衛時に使う策がいくつかあるようだけれど、それもいつまで持つかは分からない。

 

 わたしとキリトが敵チームを落とすのが早いか、自陣が落とされるのが早いか。

 

 決勝戦は、四ギルドによるバトルロワイヤルというよりも、わたしたち対残りの三ギルドという構図になりそうだ。

 

 それにしても……

 

「なんでわたし達がラスボスみたいな扱いに……!」

「小悪魔に、魔女に、ブラッキーに、魔王。ラスボス扱いされてもおかしくないメンバーだよ俺達は……っ!」

 

 決勝戦のフィールドは、赤く焼けひび割れた大地がどこまでも広がる荒野だった。

 

 障害物となるものは何も無い為、わたしとキリトは全速力で砂煙を撒き散らしながら疾駆している。

 

 遮蔽物も何も無い為、敵の集団と遭遇してしまった場合避ける事は出来ないだろう。

 

 だが、その心配ももう必要はなさそうだった。

 

「コハル! そっちはあとどれ位持ちそう!?」

『人数は減ったけど、一番手強い所が残ってる! 作戦も殆ど看破されて……後五分くらい!』

「分かった!! キリト、急ぐよ!」

「応!」

 

 大地を踏み割る蹴り足に、更に力を篭めスピードを上げる。

 

 三つのチームの内、二つは落とした。残るは一つ。だが、その残った一つが他の二つとは比べ物にならない程強いという。

 

「九人で攻めてきたって事は、本陣に残ってるのは一人か……」

「随分と、残したメンバーの強さに自信があるみたいだね」

 

 もし、他のギルドがわたしたちではなく自分達を狙ってきたらどうしようとかは考えなかったのだろうか。

 それは無いと読みきっていたのか、それとももしそうなっても凌ぐ自信があったのか……。

 

 ついにたどり着いた、残る最後のチームの本陣を見つけたとき、わたしはその両方だったのだと察した。

 

 風にはためく紅蓮のフラッグ。中央には鱗を持つ獰猛な、炎そのものの様なサラマンドラのイラスト。

 

 ギルド名《炎帝》

 

 サラマンダー領主、モーティマーの率いるALO最大にして最強のギルド。

 

 そして、そのギルドが有する、最強の戦士――

 

「ユージーン将軍……」

 

 炎の揺らめくような短髪に、浅黒い肌、猛禽のような顔立ち。

 赤銅色のアーマーに包まれた、エギルに勝るとも劣らない巨躯の背には、わたしの身長を遥かに超える大きさの大剣があった。

 

 ユージーンは、睨みつけるだけで大抵の人間が腰を抜かしてしまいそうな表情を、待っていたと言わんばかりににやりと歪めた。

 

「ほう……兄貴が言うにはここで待っていれば《ブラッキー》と再び戦えると聞いていたが……これは僥倖。《紅の小悪魔》貴様も来るとはな――」

 

 楽しそうに前口上を述べているところ悪いけれど、こちらは時間がないんだ。

 

 わたしはだん! と強く大地を蹴り砕き、ユージーンへと瞬時に肉薄し斬りかかった。

 

 激突。

 

 わたしでもやっと見えるというほどの速さで抜刀された、ユージーンの持つ、サーバーに一振りしかないと言われる大剣――魔剣《グラム》によって初撃は防がれ、鍔迫り合いになる。

 

「せっかちな奴だ」

「こっちは時間がないの……ッ! スイッチ!!」

「おおおおおッ!!!」

 

 グラムとわたしの剣が触れ合っている部分を支点に、ユージーンの頭上で一回点し背後に回りこむ。

 

 すかさずキリトが突撃し、それに合わせ挟撃するように背後から同時に斬り込む。

 

「ぬうんッ!」

「ぐはッ!?」

「わぁッ!?」

 

 だが、わたしの剣が背後からユージーンの胴を凪ぐその刹那。ユージーンが取った行動は一つ。

 

 百八十度、剣を振り抜く。ただそれだけ。

 

 サラマンダーらしく、すさまじい膂力で振りぬかれた剛剣は、キリトの剣を弾き飛ばして尚、わたしの剣を押さえ込んだ。

 

 弾き飛ばされたキリトは紙くずのように吹き飛ばされ轟音と共に付近の岩に着弾する。

 

「キリト!?」

「くっそ……なんつーパワーしてるんだよ……流石は、サラマンダーってことか……」

 

 もうもうと立ち込める土煙の中から、頭を振りながら立ち上がるキリトの姿を確認したわたしは重心をずらして剣を引くと、そのまま数歩飛んで距離を開け、キリトの隣へと戻った。

 

「どうするキリト……魔剣グラムって確か……」

「ああ、《エセリアルシフト》っていう、武器透過の能力を持ってる」

 

 ユージーンに剣を向け睨みつつ、キリトと小声で会話をする。

 

 下手な連携は力尽くでねじ伏せられる。そして武器をすり抜けてくる攻撃も攻略しなくてはならない。

 

 さすがALO最強。二体一という有利な状況なのにも関わらず、わたしたちの方が攻めあぐねている。

 

「キリトは一度勝ったんでしょ? どうやって勝ったの?」

「……あの時はリーファの剣を借りて……って、そうか! ……おいアリス、ちょっと耳かせ」

 

 キリトは何か閃いたらしく、わたしの耳に顔を近づけるとごにょごにょと耳打ちをしてきた。

 

 ……なるほど、なるほどね。

 

 上手く行けば、相手に硬直を強いた上でこちらが一方的に攻撃を加えることが出来るかもしれない。

 

 だが、その分リスクは大きい。

 

「チャンスは一度、防がれたら不利になる。それでもたもたしてる内にアウトだ。……やれるか?」

 

 あくまでも試すようなキリトの口調。

 

 わたしは即答する。

 

「任せて」

 

 わたしは口角をにぃと吊り上げると、改めて剣を構え直した。

 

 重心を下げ、足を上から見るとノの形に見えるように広げる。

 

 腰を捻り、肩を前へ。剣は左腰の上に置くように。

 

「作戦会議は終わりか?」

 

 強者の余裕か、ユージーンは不敵な笑みを浮かべ様子を伺っている。

 

 剣をだらりと下げた自然な構えだというのに、隙が一切見当たらない。

 

 久しぶりに味わう、自身と同等またはそれ以上の強さを持つ強敵との戦闘に、ぞくぞくと背筋が震えるのを感じた。

 

 カチッ、とスイッチの入る音がした。

 

 脳の奥で、青白い火花がスパークする。

 

 ぐんと視界が引き伸ばされ、世界が――わたしの目に映る全てが、時間が止まったかのように静止する。

 

 否、止まっているように見えるほど、スローモーションな動きになる。

 

「行く、よ――ッ!」

 

 足元で大量の火薬が爆発したかのような破裂音と共に、わたしは風となり地を駆ける。

 

 立ち上げたソードスキルは片手剣上段突進技《ソニックリープ》

 

 対して、ユージーンも両手剣短発重突進技《アバランシュ》を立ち上げ迎撃してくる。

 

 グラムは恐らくソードスキル使用中もエセリアルシフトを使えるのだろう。

 

 ばぢっと、わたしとユージーンの視線がかち合った。

 

 左下方からわたしの剣が黄緑色の光芒を纏い昇り

 

 右上段からユージーンのグラムがオレンジ色の光と共に降りてくる。

 

 剣が接触する――その瞬間僅かにグラムの刀身が霞むようにぶれた。

 

(今だ!)

 

 わたしはエセリアルシフトでグラムが非実体化したその瞬間、わざとシステムアシストの動きに逆らい身体をずらし、剣を思い切り引き戻した。

 

「何!? 血迷ったか!?」

 

 当然、システムアシストにそぐわない行動を取った為ソードスキルは不発し、硬直のペナルティが課せられる。

 

 だけど、これでいい。

 

 魔剣グラムのエセリアルシフトの効果時間は一瞬だ。一瞬だけ非実体化し、そして瞬時に実体化する。

 

 一度わたしの剣を通り抜けようと非実体化したグラムが、実体を取り戻す。そしてそのまま軌道上に置かれたままのわたしの剣へと迫り――

 

「っ!!」

 

 弾かれる。

 

 ユージーンの剣がじゃない。わたしが身体ごと、だ。

 

 グラムが振り下ろされるその威力に逆らわず、ぐるりと身体が反転する。

 

 そしてわたしはユージーンに背を向けた状態で剣から手を離し……放り投げた。

 

「ナイスパス! アリス!」

 

 わたしの背後から迫っていた、キリトが空中でわたしの剣をキャッチし、そのまま飛び込んでくる。

 

「らあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 《アバランシュ》は大剣ソードスキルの中でも上位に位置する技だ。技後硬直は単発技と言えど一秒程動けなくなる。そしてその秒は既に攻撃態勢に入っているキリトにとっては、十分過ぎてお釣りが来るほどの隙だった。

 

「がっはぁ……ッ!?」

 

 キリトの両剣から放たれる、流星群のような剣舞の嵐。

 

 瞬く間にユージーンのHPが削られていく。

 

 わたしの目に映ったユージーンのHPバーの色が緑から黄色、そして赤色に突入するぎりぎりまで削り取った。

 

「ぬおおぉ……はぁッ!」

 

 だがユージーンも只やられるだけではない。身に着けたいずれかの防具の効果だろうか、爆炎がユージーンの身体の前面から放射状に放たれ、キリトを数歩ノックバックさせる。

 

 そしてそのまま反撃に移ろうと剣を振り上げた。

 

 だけどユージーン。一人、忘れてない?

 

「せぇッ!」

「ぐっ!?」

 

 ユージーンの硬直時間が解けたように、わたしも既に動けるようになっている。

 

 跳躍し、上空で身体を数回転させながら遠心力を乗せたつま先蹴りを放つ。

 

 体術スキル《襲月》

 

 わたしの筋力ステータスでは、頭という弱点部位に当てたとはいえユージーンの防御力の間では子犬に噛まれた程度のダメージしか入らないだろう。

 

 だけど衝撃は伝わる。がつんとこめかみを蹴られたユージーンがたたらを踏んだ。

 

 キリトがこの好機を逃すはずが無く、止めの一撃を放つ。

 

「これで終い、だぁッ!!!」

 

 キリトが二刀をユージーンの胴に突き刺し、切り開く。

 

 ユージーンの身体が、切り口から綺麗に分かたれると同時に巨大なエンドフレイムがごうと燃え上がった。

 

 倒した……けどまだ終わりじゃない。

 

 わたしは倒した証であるリメインライトには目もくれずにフラッグへ向かって駆け出す。

 

 背後でキリトが叫ぶ声がした。

 

「アリス! 受け取れ!!」

 

 走りながら、背後から投げられたそれ――わたしの愛剣を掴み取り、身体を捻りつつ一閃。

 

 瞬くように、火花が散った。

 

 ずるりと、太い支柱は斜めに引かれた赤い筋に沿うようにしてずれ……大きな音を響かせ地に落ちた。

 

「アリス、やったな」

 

 再び後ろから聞こえた声に振り向くと、満面の笑みをたたえたキリトが片手を挙げこちらに向かってきていた。

 

 わたしも、自分に出来る最高の笑みで片手を挙げ、応える。

 

「うん!!」

 

 パァン! と打ち付けあった手のひらが気持ちの良い乾いた音を響かせた。

 

 瞬間、わたしの目前に『Win!』という虹色の文字が出現した――

 

 

 

 

 

 

 同日、世界樹の根元に栄える央都《アルン》にて。

 

 二日かけて開催された大型ギルドイベント《フェアリーズ・ウォー》。その表彰式と祝賀会が盛大に行われていた。

 

 《アルン》は円錐形に盛り上がった超巨大な積層構造だ。幾重にも層が重なり合うその様はどこかアインクラッドを彷彿とさせる。

 

 祝賀会は、豪勢にもその一層を丸々使って行われた。

 ギルドイベントを開催する為のメンテナンス直後からその層は立ち入り禁止エリアになっていたのだが、その理由がこの瞬間になってようやく分かったと、この街を拠点にしているエギルは苦笑していた。

 

 初の大型ギルドイベントということもあり、その注目度は凄まじく、ゲーム内外から様々なゲーム雑誌やらサイトの記者達が押しかけているし、イベント中の試合も動画サイトを通して生中継されており、表彰式の様子も同じく外部に発信されている。

 

 色物ばかりが集まった俺達のギルドが一体世間でどういう見られ方をしているのか。現実に戻ったときにそれを見るのが楽しみであり、少し怖くもある。

 

 表彰式は多少緊張してしまった感はあるものの恙無く終え、慣れない人混みと記者会見のようなスクリーンショットの焚くフラッシュに精神が参ってしまった俺は、少し離れて休もうとアスナ達に告げてから一人景色を見渡せるテラスへと赴いた。

 

 祝賀会への参加はイベントに出場したギルドのみだが、それでも大小合わせて千を超えるギルドが参加していた為、広大な一層を丸々使用しているにも関わらず、ところかしこで人影を見る。

 俺がたどり着いたテラスにも既に数組がグラスを手に談笑しているところだったが――その中に、見知った顔を見つけた。

 

「ディアベル。見ないと思ったらこんなところに居たのか」

 

 テラスの柵にもたれ掛かり、鼻歌でも歌いそうに上機嫌な表情で外を眺めている、魔王のような容姿の男。

 

 ディアベルは俺の声に気がつくと、やあと手を上げ応えた。

 

「やあキリトさん。主賓がこんな所にいていいのかい?」

 

 それはあんたも同じだろうと呆れ混じりに苦笑をし、隣へと背を預ける。

 

「随分と人に揉まれて疲れたからな……休憩だよ」

「ああ……君は向こうではソロプレイヤーだったからね」

「意外と、イベント毎には参加してたんだけどな。それでもこれだけ多くの人間に囲まれるのは慣れないよ」

 

 向こう――SAOではソロプレイヤーとして活動していたが、たまにアリスや他のプレイヤーと集まってイベントに参加したりもした。

 こういう打ち上げも経験はあるが、やはり規模が違いすぎる。人に酔うというのだろうか、見渡す限り、360度種族も性別もばらばらな(圧倒的に男が多いのだが)人間に囲まれ、膨大な量の視覚情報に耐えられないのか……そういえば、以前偶然開いたサイトで「人酔い」というのは正式な病気ではなく、ストレス等で引き起こされる自律神経の乱れなのだったか。

 

「俺はともかく、ディアベルはなんでまた一人でいるんだ? 俺はまだしも、あんたはこういうのに慣れてそうなイメージなんだが」

 

 ディアベルはSAO時代、攻略組の先駆けとなる集団のリーダーを務めていた。その後は紆余曲折あったものの、最終的に千人以上もの集団を率いるまでになっていた。

 現実では大学生ということだったが、あれほどのカリスマ性を持っている男の事だ。こういった催し物には慣れているどころか幹事を務めるくらいの事はやってのけそうだ。

 俺の指摘に、ディアベルは苦笑いを浮かべ肩を竦めた。

 

「まあ、慣れていないといえば嘘になる。だけどこの世界では騎士ディアベルではなく魔王であろうと思っててね。魔王が和やかに歓談なんてしていたら興ざめだろう?」

 

 確かに、今のディアベルの恐ろしい容姿でこの祝賀会に紛れ込んでいたら、それはもうシュールな絵になりそうだ。

 今でも魔王の事を伺うような視線があちらこちらから飛んできている。

 

 自分に向けられたものではないので、俺は意識からその視線をシャットアウトし、以前から気になっていた事をこの機会に訪ねてみることにした。

 

「なあ、そういえば何だってそんな格好になったんだ? 戦い方も騎士だったあの時とは正反対のスタイルに変わって……」

 

 騎士ディアベルは剣と盾を用い、巧みな技術と洗練された剣技による防御を主とした戦闘スタイルだった。だが今の魔王ディアベルは粗野というか乱暴というか。剣技に関しては当時のように流麗なものの、敵に突撃し剣を振るう姿は荒々しく、攻撃的になっている。

 

 見た目に関してはひとまず置いておくとしても、その戦い方の違いがどうにも気になったのだ。

 

 ディアベルは顎に手をやり、端整だった顔を子供のように無邪気なものに変化させ、懐かしむように語り出した。

 

「実は、この容姿はSAOのベータ時代に使ってたアバターに似せてあるんだ。あの時のオレは今みたいな戦闘スタイルだったんだよ。それが正式サービスと同時に現実の姿に戻されて……後は君の知っている通り、騎士として皆を解放しようとしていた。それが、SAOが解放されて元に戻っただけだよ」

「あ、ああ、なるほどな。だけどなんで今更ベータの時の見た目や戦い方に……いや、それが悪いって訳じゃないんだけどさ」

 

 過去にそういうプレイスタイルだったというのは分かったが、元に戻った理由が思い当たらない。

 元に戻っただけだと、ディアベルは簡単に言ってのけたが、そんなあっさりと変えられるものなのだろうか。

 ボタン一つで変えられる、ゲームの職業とは訳が違う。SAO内で、生き残る為に研鑽された戦い方は、命を預けてきた相棒のようなものだ。故に、それを変えるというのは生半可な意思や覚悟では出来ない……少なくとも、俺はそう思った。

 

 俺がその理由を問うと、ディアベルはそうだなぁと物思いにふけるかのように目を閉じた。自分の中で理由を言語化しているのだろうか。

 やがて、ゆっくりと目を開ける。

 

「最初は、VRMMOをもう一度始める気は無かったんだ。それがALO事件を終え、アリスさんが帰ってきて、この世界にもアインクラッドが出現して……あの世界が恋しくなってしまったんだ。二度とやるまいと思っていたんだけどな……」

 

 憂いを帯びた表情で、自嘲気味にディアベルは語る。

 その感覚は、俺にも理解できる。

 仮想世界に閉じ込められ、恐ろしい目に遭い、大切な人を失いかけた。

 それにも関わらず、気づけばこうしてこの世界に降り立っている。

 理屈ではなく、ゲーマーとしての本能が求めている。0と1で作られたこの世界を、愛してやまないのだ。

 ディアベルも俺と同じゲーマーなのだと思うと、彼との距離が少し縮んだような気がした。

 

「ALOでアバターを作るとき、コンバートするか聞かれたんだ。だけど……なんていうのかな、あの”騎士”ディアベルは役割を終えたんじゃないか……って。燃え尽きたというか、やりきったというか……もう一度、騎士になろうっていう気持ちにならなかったんだ。だから、ベータの時の格好で、スタイルでプレイしようと思ったんだ。元々、これでSAOを始めるくらいには性に合っていたしね」

 

 驚いた。

 何がって、彼の言っている役割を終えたという事。それはまさしく俺がSAOのキリトをコンバートせずに1からキャラクターを作ったのも、SAOを解放し、アスナを救い出した事でその役目を終えた気がしたからという理由だったからだ。

 

 案外、俺達は似たもの同士なのかもしれない。

 

「……あと、約束をしたから、かな」

「約束?」

 

 ぽつりと呟やかれたワードの真意をそのまま鸚鵡返しに聞くと、彼の視線が正面を捉えた。

 追って、俺も視線を移すと、多くの人に囲まれ楽しそうにしているアリスの姿があった。

 

「第一層のボス攻略前に、オレは自分がベータテスターであることを彼女に話したんだ」

「それは……なんでだ?」

「わからないが……なんとなく、彼女には話しておきたかったんだ。彼女がベータテスターであるという確信はあったからね。彼女と話して、自分の気持ちの整理をつけたかったんだと思う。オレが皆を率いて、第百層を攻略して解放するリーダーになるっていう、大それた目標をね。それを聞いて、彼女はなんて言ったと思う?」

 

 宝物を自慢する子供のように、魔王の容姿でキラキラとした瞳を俺に向けてくるディアベルに苦笑しつつも、考える。

 その状況であいつが言いそうな事というと……

 

「『わたしも手伝うよ』、とかか?」

「残念。正解は『もし全部終わったらどうする?』だよ」

 

 くくっと思い出し笑いをし始めたディアベルにつられ、俺もこみ上げてきた笑いが抑えられずくつくつと漏らす。

 

「ははっ、終わったら? まだ始まって間もない頃に?」

「ああ。あれはオレも驚いたね。だが、そのお陰でオレは、目標を達成した後の楽しみを見出せたんだ。ゲームをクリアしたら、『ディアベル』の名に相応しいキャラを作って、一緒に大暴れしようってね」

「それが、あいつとの約束だったんだな」

 

 ディアベルとはたしか、イタリア語で悪魔という意味だったか。

 今のディアベルは、悪魔の名の通り恐ろしく、そして見るものを魅了する美しい容姿をしている。なるほどディアベルにぴったりだと今更に思った。

 だとすると、だ。

 

「あいつとの約束は、今回果たせたわけだけど……次は、どうするんだ?」

「次か……はは、次を考えだすと切りがないな。今は彼女達と一緒に、この世界で遊んでいたいと思うよ」

 

 俺達の視線の先では、我等が団長がユージーンやモーティマー。サクヤ、アリシャ等の各種族のトップ達と何事かを話している。

 ゲーム内政治的な話をしているようで、彼女は難しそうな顔をしているが……あの場にはコハルやアスナが居る。それにあいつもお人好しなだけでバカじゃない。任せていても大丈夫だろう。

 

「そういうキリトさんはどうなんだい? ソロが信条だった君が、こうして彼女のギルドに入ったりなんかして」

「向こうでも一応、少しの間だけ所属はしたことあったんだけどな……。俺も同じだよ。今はあいつらとゲームを遊ぶ。それが目的かな」

 

 ゲームの目的なんて人それぞれだ。特に、膨大な時間を費やしても遊びきれないMMORPGに至っては尚の事。

 SAOやALOでの過酷な冒険を乗り越えて、あの時出来なかった体験を、大切な仲間と過ごしたい。それが今の俺の、このゲームを続ける目的だ。

 

 どちらからともなく、笑い合う。

 まさか、ディアベルとこんな風に仲間になって語り合う日が来るとは思いもしなかった。

 これもゲームの……あいつの運んできてくれた縁ってことなのかもしれない。

 ふと思いついたことがあって、そのまま口に出す。

 

「なあディアベル。俺の事未だにさん付けで呼んでるけどさ。そろそろ呼び捨てで呼んでくれないか?」

「え……?」

「だってその……俺達は同じギルドの仲間な訳だし、あのギルドで男は俺達二人だけだろ? だからさ」

 

 言ってて気恥ずかしくなってしまい、照れを隠す為に頬を掻く。

 他人との距離感を図りかねていた、あの頃の俺だったならばこんな台詞は出てこないだろう。

 だが、あの世界に閉じ込められ、あいつと出会い、アスナと結ばれ、俺は変わったのだ。 

 

 ディアベルは一瞬ぽかんと呆気に取られていたものの、端整な顔を子供のように破顔した。

 

「ああ……そうだな。確かに。それじゃあ――キリト」

 

 ディアベルは俺をそう呼ぶと、手にした杯を持ち上げた。

 俺もそれに合わせるように杯を掲げる。

 

「オレ達の友人と――」

「我等が《七人の妖精》に――」

 

「「乾杯」」

 

 二人で打ち鳴らした杯は、ただ静かに、星々の瞬く濃紺の夜空へと、溶けるように消えていった――




長くなってしまいましたが、これにてギルドイベント編は完結です。

一応の補足として、ギルド戦はFF14のザ・フィーストのようにこの後もALO内で恒常コンテンツとしてあり続けます。
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